介護福祉士のためのデジタル・ストーリー

介護福祉士のためのデジタル・ストーリー
-英語力向上のためにー
共栄学園短期大学
古山 みゆき
彼の職業は紳士服の仕立てである。現在、
1. 授業実験の目的
彼は脳卒中で倒れ、介護老人保健施設にい
授業実験の対象は、社会福祉学科の社会
る。紙芝居に表されたのは、生活援助をす
福祉専攻向けの基礎英語という科目の履修
る介護福祉士の一日の7つの場面で、それ
生42名(男子7名)であり、彼らは将来
らは会話中心である。
ケアワークに携わる予定である。
また、
横山正子著の『介護のための英語』と、福
1,2年の有志の学生は隔年、海外社会福
祉英語検定協会教材委員会著の『英語で福
祉研修でスウェーデンにある高齢者と障害
祉を学ぼう』という教科書二冊を使った。
者施設を視察する。
(1 )
このような学習活動
会話の題材には、
英会話の録音、絵の制作、ストーリ
にも英語のコミュニケーション力は不可欠
ーの編集にはコンピューターを使用し、会
である。
彼らは、将来の職種にむすびつ
話の練習にはできるだけ教科書の音声教材
いた英語を学習し、彼らの身近な話題を扱
の CD を使い、学生は録音で発音演習をお
ったデジタル・ストーリーの集団製作を行
こない、自らの発音を修正した。
う。
担当教員は介護現場で有用な英語の
単語力テストを行う。
7つのグループが、分担の場面の紙芝居
このデジタル・ス
を完成させ、彼らはープ学習を体験し、障
トーリーの実験の目的は、実生活を生きる
害者や高齢者施設のような現実社会の集団
技術として英語力習得にデジタル・ストー
で協動力を身に着けることも期待された。
リーの集団製作が貢献しているか否かを知
学生に求める英語力は基礎レベル(TOEIC
ることである。
のスコア 300 点から 450 点くらい)であっ
た。
教室は CALL 教室(デスクトップ
2. 実験過程
PC40 台, Windows2000 対応)で、準備器
2.1 授業の方法
具は録音マイク付ヘッドホン 6 台、ラップ
この授業では、介護老人保健施設での介
トップ PC5 台(デジタル・ストーリー編集
護福祉士の日課を英語の紙芝居で表すデジ
ソフト付, Windows フォトストーリー3)
タル・ストーリーの集団製作をおこなった。
であった。デジタル・ストーリー編集ソフ
紙芝居の主人公のジョージは、日本に住む
トに Windows フォトストーリー3を使用
68歳のイギリス人で、日本人の花子と国
したのは、これが、フリーのソフトで容易
際結婚をした。彼には息子夫婦と孫がいて、
にダウンロードができたからからである。
2.2
授業の進め方
授業の進め方は授業計画日程表の表1に
じ単語を第4期の二回目のテストでも使っ
示した。第一期の初回の英語学力テストは
た。
介護現場で有用な英語の単語力テスト行っ
単語力の習得効果をデジタル・ストーリー
た。
製作がもたらすか否かを判定する一つの証
単語はストーリーの主人公ジョージ
と介護福祉士が交わす会話の中から選び、
この二つのテストの結果を、英語の
左にした。
介護活動において実用的なものである。同
表1
授業計画
2009 年9月17日から毎週木曜3時限と金曜1時限
日程
第一期
第二期
第三期
第四期
第五期
授業日程予定表(実施日を含む)
予定日
実施日
作業
9月
9/17.18
英語単語力テスト(初回)
9/24-10/1
1計画発表, 日課表と教員の評価表配布
2-5 回
目
10 月 8 日 11/12.13
10 月 15
日
11月
2.作業開始
完成
11/19.20
英語単語力テスト・(二回目)
12/3.4
・全体評価
表2は7つの場面のグループの分担表で
ある。
表2介護福祉士の日課とグループ分担表
Time
George's routine
8:00 Get up
Activities
of care worker
Group
Taking George's temperature and pulse
1
Change of clothes
Helping with changing of clothes
2
Toilet
Helping George use the toilet
3
Meal assistance
4
Morning wash
9:00 Breakfast
10:00 Break
10:40 Medical check
12:00 Lunch
14:00 Rehabilitation
Helping with rehabilitation
5
Helping with mobility
6
Washing George's hair
7
15:00 Tea break
16:30 Calligraphy lesson
Taking a walk
18:00 Supper
20:00 Bath
21:30 Lights-out
3. 結論
9月に行った第一回の英語単語力テストと
32 名中の 84%の学生の成績が上がってい
11月の二回目のテストの結果を比較して、
た。 15 回の授業の出席状況と英語テスト
デジタル・ストーリーの製作が英語単語力の
の得点の相関係数は 0.54 であり、強くはな
習得への効果を考えた。 平均点は 20 点
いが相関はある。 英語単語力の習得には
満点で初回テストが 11.5 点、二回目は 13.8
効果があったといえるだろう。
点と上昇しており、両方のテストを受験した
授業の実験の反省は、教員が参加人数と
表を記入した。 この評価表は、Key Teehan
それにあわせた授業計画の時間調整に失敗
の著書である Digital Storytelling で紹介され
したので、学生自身の自己評価や反省の時
ている評価表を参考に古山が作成した。 ( 2 )
間を十分にとれず、実験結果の確認や、その
最終時間で、学生の創作活動の自己評価表
検証の精度度が低いものになったことである。
をしなかったことは重大な反省事項である。
この反省を踏まえ、今後の課題が主に二点
教員は学生と、作品や授業への感想などの意
である。第一に、英語単語力テストの充実化
見交換を口頭で行うことになった。 彼らは楽
の問題である。 今回は英語の語学力の判定
し く製作に携わり、活動への積極性と協働力
にはリスニング・テストや会話のインタビュー・
は、彼ら自身が評価し、特にこの英語授業体
テストを行わなかったから、英語力の判定要
験の新鮮さが彼らの感想として目立っていた。
素の不足は否定できない。
だが、学生用の評価表を配布し、学生の授業
第二の課題は作品評価での改善であり、
作品製作に時間をかけ過ぎ、最終の、評価と
反省の時間では、学生用の作品への自己評
価表を配布できず、専ら教員が教員用の評価
への参加度や作品への評価を確認することが
重要な課題である。
参考文献
(1) 横山正子・河野淳子: ” 介護のための英語”,中央法規出版社 (2006).
医療・福祉英語検定協会教材委員会: “英語で福祉を学ぼう”,
NPO 法人医療・福祉英語検定協会(2005).
(2) Key Teehan: ”Digital Storytelling”, pp.69-72, United States: LuLu Com (2006).