第2節 石灰系焼却灰の一般的特性 §1 物理的特性 石灰系焼却灰を土質改良材及び路盤材として利用する場合、比重、含水比、粒度分布等の一般 的な物理的特性を把握しておくことが望ましい。 【解説】 下水汚泥焼却灰は下水の処理によって発生する汚泥を濃縮・脱水した後、800℃程度で焼却したも のである。 脱水時に添加する凝集剤の種類によって、消石灰、塩化第二鉄を添加した石灰系焼却灰、高分子凝 集剤を添加した高分子系焼却灰に分類される。 下水汚泥焼却灰の物理的特性は脱水時の凝集剤の違いのほか、焼却炉の型式及び焼却温度等によっ ても違いが生じる。 (1)比 重 比重の測定は土質試験法に準じるものとする。石灰系焼却灰の比重は図2-1に例示するように 3前後であり、炉型式の違いによる傾向はあまり見られないが、未燃物が多い場合はやや小さくな る。 (2)含水比 石灰系焼却灰の土質改良材や路盤材としての利用は、水硬性や吸水性を期待したものであり、含 水比の大きい灰は、これらの特性を失い、劣化していることが予想される。したがって、含水比の 一般値を知っておく必要がある。 含水比の測定は土質試験法に準じるものとする。 焼却直後の加湿・吸湿等の影響を受けていない灰(以下、 「乾灰」という。 )の含水比は図2-2 に例示するように、一般的に1%以下であるが、飛散防止のための加湿等により 30%前後のものが 多い(図2-3) 。 なお、保管条件 30℃、湿度 90%とした際の含水比の変化を例示すると図2-4のとおりである。 -8- 9 8 処理場数 7 6 5 4 3 2 1 0 0~0.5 0.5~1 1~1.5 1.5~2 2~2.5 2.5~3 含水比(%) 図2-2 焼却灰の含水比の例(乾灰) 4 処理場数 3 2 1 0 0~10 10~20 20~30 30~40 40~50 50~60 60~70 70~80 含水比(%) 図2-3 焼却灰の含水比の例(加湿灰) (3)粒度分布 埋戻し材や路盤材の粒度分析は締固め度や施工時のハンドリングに影響する。 したがって、焼却灰を埋戻し材や路盤材の主原料として利用する場合は、焼却灰の粒度分布の一 般値を知っておく必要がある。 -9- 粒度分布の測定は土質試験法に準じるものとする。乾灰の粒度分布の例を図2-5に示す。粒度 分布はいずれの灰も、細粒から粗粒まで多様であるが、焼却炉内の燃焼方法の違いから多段焼却炉 の焼却灰は粗粒分が多い。 (4)強熱減量 強熱減量は、焼却灰中の有機物含有の一指標となる。焼却温度が低いなどの原因で有機物を相当 量含有している場合には、水和反応性が小さく、土質改良効果や路盤材強度に影響を与える。 強熱減量の測定は、土質試験法よりも温度の低い下水試験法(600℃、1時間)に準じるものとす る。乾灰の強熱減量は図2-6に例示するように、概ね2%以下であるが、焼却温度が低い場合に は未燃物が残存し、5%前後となる場合がある。 また、石灰系焼却灰の中には吸湿により強熱減量が増加するものがある。これは、焼却灰中の酸 化カルシウムやカルシウム化合物が水と反応して水酸化カルシウムや結晶水を有する水和物を生成 するためと考えられる。 6 処理場数 5 4 3 2 1 0 0~1 1~2 2~3 3~4 4~5 強熱減量(%) 5~6 図2-6 焼却灰(乾灰)の強熱減量の例 -10- 6~7 §2 化学的特性 石灰系焼却灰を土質改良材及び路盤材として利用する場合には、その水硬性等を利用すること が多いので、その効果に影響を及ぼすカルシウムなどの化学分析を行うことが望ましい。 【解説】 石灰系焼却灰を土質改良材及び路盤材として利用する場合、成分中のカルシウムなどが土質改良効 果や路盤材強度に影響を及ぼす。また、石灰系焼却灰は脱水時の消石灰(Ca(OH)2)の添加により pH がアルカリ傾向となる。したがって、あらかじめ化学分析を行い、その成分(酸化カルシウム(CaO) 、 二酸化けい素(SiO2) 、酸化第二鉄(Fe2O3) 、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)な ど)を測定しておくことが望ましい。 成分分析の試験方法は、JIS R 5202(ポルトランドセメントの化学分析方法)、JIS R 9011(石灰 の化学分析方法)、JIS M 8815(石炭灰及びコークス灰の分析方法)等の方法に準じて行うものとす る。 (1)焼却灰の組成 石灰系焼却灰の組成の例を図2-7に示す。石灰系焼却灰の組成の特徴は次のとおりである。 ① カルシウムの含有率は、脱水時の消石灰の添加率の違いにより異なるが、一般的に、CaO と して 30~50%程度である。 ② 脱水時に塩化第二鉄(FeCl3・6H2O)を添加しているため、鉄の含有率は Fe2O3 として 10~20% 程度である。 ③ けい素の含有率は下水の排除方法によっても異なるが、SiO2 として 10~30%程度である。 なお、高分子系焼却灰のカルシウム含有率は CaO として 10%程度以下であり、けい素、アルミニ ウム、りんなどの含有率は石灰系焼却灰より高い。 A B C D E F 0% 20% 40% 60% 80% 図2-7 焼却灰の組成 -11- 100% 強熱減量 SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO MgO Na2O K2O P2O5 その他 §3 物理的、化学的特性の変動 焼却灰の物理的、化学的特性は季節や天候等の気象条件、汚泥処理施設の運転条件等により変 動することがあるので、その変動範囲を把握しておくことが望ましい。 【解説】 同一の下水道から発生する焼却灰でも、季節によってカルシウムやけい素等の含有率が変動する場 合がある。特に、下水の排除方式として合流式を採用している場合は、その変動が大きい。これらの 成分の変動は、焼却灰利用時の特性変化をもたらすので注意を要する。したがって、その変動範囲を 把握し、品質管理のデータとして利用することが望ましい。 なお、以下に焼却灰の物理的、化学的特性の変動要因を列挙する。 (1)化学的特性 ① 流入下水水質の変化(特に合流式における雨等の影響) ② 脱水時の凝集剤添加率の変化 (2)物理的特性 ① 上記①、②の各因子 ② 焼却温度 ③ 焼却炉における各種負荷条件 図2-8に京都市鳥羽下水処理場の焼却灰の組成の年間変動と月別降雨量を、図2-9に名古屋市 宝神処理場の焼却灰の組成の年間変動を示す。合流式処理場では、降雨量の多い時期にけい素含有率 が高くなる傾向がうかがえる。 -12- 含有率(%) 35 30 600 25 500 20 400 15 300 10 200 5 100 0 0 4 6 8 10 12 月(平成11年度) 月間降水量(mm) 月間降水量 (mm) 700 含有率(%) SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO 降水量 2 図2-8 焼却灰組成の年間変動の例(分流(一部合流)式処理場) 30 300 25 250 20 200 15 150 10 100 5 50 0 0 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月(平成11年度) 1 2 3 図2-9 焼却灰組成の年間変動の例(合流式処理場) -13- 含有率(%) 月間降水量(mm) 35 月間降水量 (mm) 350 含有率(%) SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO 降水量
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