2012年3月発行 ~米国の大学が Facebook上で

DISCO
GLOB A L I NSIGH T
海 外 教 育 機 関 の 最 新 事 例 レ ポ ート
Vol.
3
3 回 目の 連 載となる 今 回 は 、アメリカの 大 学 が F a c e b o o k 上で 利 用して いるアプリケー ション 、
「Schools App(スクールズ・アップ)」というサービスについて、取り上げたいと思います。
1 入学予定者に特化したFacebookアプリ、
「 Schools App」とは?
「Schools App(スクールズ・アップ)」は「Facebookの中に各校専用
のFacebookを立ち上げることができる」アプリケーションです。
このソーシャルネットワークサービスを学 校 が 導入することで 、
合格者の入学率向上、中退率の減少に効果が現れています。
アメリカでは4年制の私立大学の卒業率は約57%といわれており
(ACT 2010)、4割以上の学生が中退しているという現実があります。
経済的理由、カリキュラム等アカデミックな課題の他に、入学後の
ソーシャルライフへの適応困難という要素が重要な点として指摘
されています。このような課題を解決するために、
「Schools App」が
どのような成果を出しているのか、掘り下げてみたいと思います。
イニグラル社のホームページ
http://www.inigral.com/
2007年設立のイニグラル(Inigral)社によって開発されたFacebook
アプリ「Schools App」は、Facebookの中に入学予定者(および在学生、
学 校関係 者)専用のオンライン・コミュニティをつくることを可能に
しています。大学は、入学が決まった生徒同志の交流を促進することで
スムーズなキャンパスライフのスタートをサポートしています。
最も効果を発揮するのが、生徒が合格通知をもらってから(通常2月
から5月頃)9月の入学シーズンを迎えるまでの移行期間です。多くの
生徒が生まれ育った街を離れ、新しい生活環境を迎えることになります。
そのため 、どんな友 達 ができるか 、授 業の内容についていけるか 、
スポーツやサークル活動等のキャンパスライフはどんなものか、期待
とともに、不安を持つ生徒も少なくありません。また、この時期によい
人間関係の構築や動機づけができれば、その後の充実した学生生活
につながっていきます。
今やアメリカの高校生であれば当たり前のように活用しているFacebook
ですが、通常のFacebookページでは学校からの一方的な情報発信が
「Schools App」
の画面イメージ
Copyright 2012 DISCO Inc.
多くなってしまい、入学予定者同士の交流を可能にするコミュニティを作ることには適していません。
有志で作成するFacebookページがあったとしても、同じようなコミュニティが乱立し、どこに登録していいか
わからない、という課題があります。
その点「Schools App」が提供するサービスは、イニグラル社が各学校と契約を結び、入学予定者で学校専用の
メールアドレスを付与された生徒のみが参加できる、安心して利用できる交流プラットフォームとなっている点が
特徴です。生徒数の規模などによって異なりますが、年間1万ドル(約80万円)∼5万ドル(約400万円)程度の
費用を学校が負担するしくみです。
2 「Schools App」導入後の成果
「Schools App」は現在、UCL A、UCバークレー等の名門大学を含む約70校が導入しており、2012年1月末
にはモバイル版アプリの提供も開始しました。
アプリケーションを通じて、同じ出身 地 域の進学予定者同士で 新しい友 達を見つけて交 流したり、学 校の
カリキュラムについての情報交換をしたりすることが可能です。たとえば、昨年の実績では、アリゾナ州立大学の
入学予定者1,600人がアプリを活用し、18,000もの友達関係がアプリ上で構築されたというデータがあります。
また、アプリを活用した生徒と活用しなかった生徒を比較した場合、アプリを活用した生徒のリテンション率の
ほうが、活用していない生徒よりも5%高い、という結果にもつながっています。
また、イニグラル社の最 新の調べによると、
「 S c h o o l s A p p」を活用した学生は高い 確率で 実 際に入学し
(41.8%)、活用しなかった学生の入学率(15%)に比べて3倍近い確率で入学の決断をしている、というデータも
あります。
新しく導入したばかりのモバイル・サービスには「Meetups」という機能があり、移動中でもリアルタイムで情報の
やり取りができるため、今後より多くの交流の機会を生み出すことが予想されています。たとえば、アプリ上の
やり取りがきっかけとなり「進学予定者同士で車を共同レンタルしてキャンパス訪問をしよう」というような話に
発展したケースがあったことを、イニグラル社マーケティング・マネージャーのブランドン・クローク氏はスカイプ
でのインタビューで語りました。
なお、発言内容等を監視するしくみも、できるだけ学校側の運営管理の負担が 低減されるようシステム設計
されており、学生や生徒が安心して交流出来るようなコミュニティスペースとなっています。
学校の管理担当者は、生徒がどのようにアプリケーションを活用しているかの行動履歴(ログイン数、投稿数、
友達の数等)のデータをダウンロードすることが可能です。さまざまなデータ分析を行うことで、マーケティング・
エンロールメント戦略の精度向上に活用できる点も、導入校から好評を得ています。
2012年1月にリリースしたばかりの「Schools App」のモバイルアプリサービス
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3 ゲイツ財団から民間企業向け初となる210万ドルの投資を獲得
「Schools App」の知名度を飛躍的に高める契機になったのが、2011年2月にリリースされた、ビル&メリンダ・
ゲイツ財団からの210万ドル(約1億7千万円)の出資でした。
教育問題、特に高等教育機関での中退率を低下させ、低所得層の子どもにも教育機会を提供することを目指す
同財団が実施した、民間テクノロジー企業への初めての投資でした。このことからもイニグラル社の取り組みに
対する期待の大きさ、先見性の高さが伺えます。
あわせて、
同社への主要な投資家にはFacebookの創業期に投資をしたピーター・ティエル氏が率いるファウンダーズ・
ファンドも名を連ねており、現在までの資金調達額は合計710万ドル(約5億7千万円)に達しています。
また、元教員でもある創業者がFacebook 創業メンバーと親しかったこともあり、教育分野としては数少ない
Facebookのパートナーとして深い関係を維持していることも、同社の成長に期待が集まる理由のひとつです。
そもそも大学のキャンパスで生まれたFacebookが、現在では大学生だけでなく世界中で 9億人近い会員を
持つようになったことで、学生に特化したサービスとしての色合いは減少してきています。学生たちの生活や
学問分野での成功を効果的に導くことが 難しくなってきている今、
「 S chools A pp」が元来のFac ebookの
ミッションを果たそうとしているようにも思えます。
今回は、
「 Schools App」の概要をレポートしました。入試制度やFacebookの利用率等、アメリカと日本の
現状には異なる点も多くあり、同じような取り組みをそのまま日本の広報戦略に導入できるわけではないかも
しれません。
ただ、今後の広報戦略を考える際、資料請求から出願へと導くプロセスの中でのソーシャルメディア活用、あるいは
モバイルメディアを活用した進学予定者とのコミュニケーションのあり方など、
「 Schools App」を活用した
取り組みの中にもヒントが見つけられるのではないかと思います。2012年の新しい年度を迎えるにあたり、
今後の同社の成長にぜひ注目してみてください。
※本文中に紹介しているサイトのアドレスは、執筆当時のものです。参照する際に、移動または削除されている場合が
ありますのでご了承ください。
編集
: 株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発部
ライター : 市川裕康(株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 / ソーシャルメディアコンサルタント)
ソーシャルメディア・コンサルタントとして、ツイッター、フェイスブック等を活用したビジネス・
コンサルティング、非営利団体や企業のCSR / 社会貢献活動の推進・支援に取り組んでいる。
講談社「現代ビジネス」にて「ソーシャルビジネス最前線」を連載中。
株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発部 [東京本社]〒112-8515 東京都文京区後楽2-15-1
TEL:03-5804-5568 E-mail [email protected] URL:www.disc.co.jp
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