CFA 協会ブログ

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2014 年 1 月 8 日
No.168
非伝統的な考え方とオルタナティブ資産
Alternative Thinking vs. Alternative Assets
ローレン・フォスター
オルタナティブ投資に関する説明会に出席、あるいは
資産残高は 1,120 億米ドルに達していること、共同創
販売用資料に目を通した経験がある人は、ファィナン
設者兼チーフ・インベストメント・ストラテジストで
シャル・アドバイザーやポートフォリオ・マネジャー
あるジェレミー・グランサム(Jeremy Grantham)氏は、
がオルタナティブ資産をポートフォリオに組入れる
日本のバブル景気や IT バブル、米国サブプライム危
べき理由について耳にしたことでしょう。
機の最中に投資家の注意を喚起するなど、金融市場の
オルタナティブ資産をポートフォリオに組入れた場
合に期待できる効果として以下の点が挙げられます。

方向性を幾度も的確に予測したことが挙げられます。
また、GMO 社がオルタナティブ資産の有用性につい
て懐疑的であると思われないよう補足すると、ボスト
伝統的資産との相関が弱く、分散投資効果を高め
ン CAIA(公認オルタナティブ投資アナリスト)協会
る
の初代会長のチアピネリ氏は、オルタナティブ資産の

インフレヘッジ効果が高い
有用性について全く疑う余地はないとしています。た

金融市場の下落局面における資産価値の減少を
抑制

純粋なアルファ(期待収益率が高い)を提供

戦略的資産配分の「一部」を構成
だし「運用者は顧客資産の運用状況を批判的な目で細
部まで評価する必要がある」とも指摘しています。
)
以下に GMO 社がみた、5 つの論点に賛成あるいは反
対する立場の主な論拠をまとめました。
オルタナティブ資産は伝統的資産との相関が弱い。資
聞き慣れた内容ですね。でも、少し落ち着いてくださ
い、とグランサム・マヨ・バン・オッタールー社(GMO)
資産配分チームの一員であるピーター・チアピネリ
(Peter Chiappinelli)氏、CFA、CAIA は制します。こ
こで焦点を当てているのは、オルタナティブ資産自体
ではなく、非伝統的な考え方です。
産クラス間の相関の強まりは大きな問題であるとい
うのが従来の考え方です。しかし、チアピネリ氏は
GMO 社が懸念するリスク要因の中で、資産クラス間
の相関の強まりは重要性が低く、
「懸念にあたらない」
と述べています。GMO 社がポートフォリオを構築す
る際に注意するリスクは、むしろ割高な資産に投資す
チアピネリ氏は米フィラデルフィア州 CFA 協会が
ることです。「顧客に回復不能な損害を与えたいと思
2013 年 12 月に主催した富裕層・ファミリー向け資産
いますか」とチアピネリ氏は出席者に尋ねました。
「割
運用カンファレンスで行った講演にて、上記の 5 つの
高な資産に投資すればよいでしょう。これが最も確実
論点を体系的に批判し、各論点について GMO 社独自
な方法です。」
の「非伝統的な考え方」を示しました。
(GMO 社がな
ぜ投資家の注目を集めるのか不思議に思う読者のた
チアピネリ氏は、相関の強まりは問題ではないとの見
解を補強するため、2001 年 12 月 31 日時点の GMO 社
めに説明すると、同社の 2013 年 9 月 30 日時点の運用
日本 CFA 協会
1
による 10 年予測について言及しました。当時は、新
の相関の弱さが主なメリットの一つに挙げられてい
興国株式が最も割安で(したがって投資の魅力が高い) ます。しかし、相関と運用成果は関係がありません。
」
資産クラスであると考えられていました。どの程度割
安であったのでしょうか。割安感が強いことから、
GMO 社が向こう 10 年間の期待収益率は年平均 9.4%
と予測したほどでした。
オルタナティブ資産はインフレヘッジ効果が高い。中
国やインドの経済状況について耳にしたことがある
でしょう。そのひとつ、中国で中間所得層が急速に拡
大している点はどうでしょう。では、中国人の食生活
一方、当時 GMO 社が最も割高感が強いと考えた資産
が米中心から肉中心に変化するに伴い、コモディティ
クラスは S&P500(米国株式)でした。その割高感ゆ
市場全体にどのような長期的な影響を及ぼすでしょ
えに、GMO 社は向こう 10 年間の期待収益率をゼロ近
うか。肉用牛の価格、肉用牛の飼料であるトウモロコ
辺と予想しました。
シの価格、トウモロコシの生産に必要なカリウムや肥
さて、これは相関とどのような関係があるのでしょう
か。
「GMO 社が予測を行った当時、米国株式と新興国株
式の相関係数は 0.71 でした。これは無視できないほど
かなり高い水準であり、両者の連動性は高いといえま
す」
とチアピネリ氏は述べました。
「その後 10 年間で、
両者の相関はさらに強まりました。10 年後には相関係
数が 0.9 まで上昇していました。両者はほぼ同じよう
な値動きを示しているのです。これこそ投資家が警戒
感を強めている点です。ところが、これに対して GMO
社は、全く問題がないと考えます。
」
米国株式と新興国株式の相関が強まった 2001 年 12 月
31 日から 10 年間のリターンは、米国株式(S&P 500
指数を使用)の実質リターンが 0.4%であったのに対
し、新興国株式(MSCI エマージング・マーケット・
インデックス)は 11.4%であったとチアピネリ氏は指
摘しました。新興国株式は、10 年間にわたり米国株式
より年平均 11%も速いペースで上昇しました。
料の価格への波及効果について考えてみてください。
市場のトレンドを捉えて収益をあげることは簡単な
ことに思えるでしょう。
では、インドで価格が 2,000 米ドルの自動車を生産し、
利益を確保できるタタ・モーターズについてはいかが
でしょうか。「考えてみてください。鋼材価格にどの
ような影響を与えるでしょうか。原油価格にどのよう
な影響を与えるでしょうか。自動車の触媒コンバータ
ーに使用される金属の価格にどのような影響を与え
るでしょうか。これらを考慮して収益をあげることも
簡単です。これがオルタナティブ資産はインフレヘッ
ジ効果が高いと考えられている理由です」とチアピネ
リ氏は述べました。
確かにインフレヘッジ効果が高いかもしれません。
「しかし、現状の価格水準についてはいかがでしょう
か。中国やインドの経済状況は既に市場価格に織り込
まれている可能性があります」とチアピネリ氏は述べ
ました。「既に織り込まれているのであれば、良い投
資対象ではないかもしれません。市場価格は適正水準
「相関の強まりに警戒感を抱き新興国株式への投資
を上回っているかもしれません。割高感のある資産ク
を行わなかったならば、すなわちポートフォリオを構
ラスは、将来のインフレヘッジ効果が低い可能性があ
築する際に資産クラス間の相関を重視したのであれ
ります。」
ば、一生に何度あるか分からない貴重な投資機会を逸
したといえます」とチアピネリ氏は言い足しました。
「相関を投資の主な判断材料にしてはなりません。現
在もオルタナティブ投資を勧める際に、伝統的資産と
日本 CFA 協会
しかし、先物市場において先物価格が直物価格を上回
る状況が起きることにも留意する必要があります。
「現在先物市場ではこのような状況が起きています。
2
過去 5 年間にわたりこうした状況が続いています」と
を捉えることは可能でしょうか。もちろん可能であり、
チアピネリ氏は述べました。「金融業界ではこのよう
非常に簡単です。従来型のアクティブ運用を行う大型
な状況を表す専門用語があり、コンタンゴと呼ばれて
株ファンドに 100 米ドル投資すると同時に、S&P 500
います。GMO 社内では、あなたの負けと呼ばれてい
指数先物を売り建ててください。」これは純粋なアル
ます。」
(コンタンゴについては「It Takes Two to
ファを抽出する方法の一つですが、従来のミューチュ
Contango . . .」を参照ください。
)
アルファンドの枠組みの中で十分可能です。
オルタナティブ資産は純粋なアルファを提供し、期待
オルタナティブ資産は金融市場の下落局面における
収益率が高い。2008 年以降、
「『やれやれ、ベータ戦略
資産価値の減少を抑制する。
「裕福な顧客がいたとし
は大きな損失を被る可能性がある。機関投資家の顧客
て、2008 年以降彼らは何と言ったでしょうか。『全く
からそのように聞いている。ベータ戦略はもう沢山で
ひどい目にあった。私は裕福になるため一生懸命働い
ある』というようなフレーズが繰り返し使われました」 たが、2008 年の世界金融危機の影響で全てを失うとこ
とチアピネリ氏は述べました。
「『しかし、私は債務を
ろだった。もう懲り懲りだ。私は裕福でいたいだけだ。
返済する必要があり、純粋なアルファを提供し、絶対
私が裕福でいられるよう助けてもらえないか』」とチ
収益を追求するソリューションに大変興味がありま
アピネリ氏は述べました。
「ヘッジファンドは投資家
す。
』というようなフレーズです。」
の不安心理を捉えて以下のように説得しています。
アルファは運用能力を別の言葉で言い換えたにすぎ
ず、ヘッジファンド業界は、金融業界において最も優
秀で聡明な人材を採用していると人々に信じさせ、
「見事な仕事」を成し遂げたとチアピネリ氏は言い足
しました。
したがって、ヘッジファンドがよく使用する売り込み
文句は以下のようなものです。
「アルファを追求する
のであれば、金融業界で最も優秀で聡明な人材が必要
です。
」
「アルファをベータから切り離すことについては、
GMO 社ではこれを長年にわたり実践しているファン
ドがあります」とチアピネリ氏は述べました。「しか
し、それはミューチュアルファンドです。GMO 社だ
『裕福でいたいと思うのであれば、私たちは市場が低
迷しているときに資産価値の減少を抑制する方法を
知っています。独特の組織形態と必要な運用能力を有
する私たちに任せてください。
』これが売り込み文句
です。
」
2001 年の IT バブル崩壊以降、多くの投資家がヘッジ
ファンドへの投資を検討し始めました。しかし、投資
を行う前に、ヘッジファンドの 3 つの難点である流動
性、透明性および運用報酬のハードルを乗り越える必
要がありました。
流動性と透明性を伴わない「特典」のために、投資家
はヘッジファンドに対して 2%の基本報酬と 20%の成
功報酬を支払っているとチアピネリ氏は述べました。
けではありません。このようなファンドは数多く存在
「一体誰がヘッジファンドに投資したいと思うでし
します。ヘッジファンドが使っているような金融エン
ょうか」とチアピネリ氏は述べました。
「実際は数多
ジニアリングは、当社でも活用できます。」
くの投資家です。過去 10 年間に多額の資金がヘッジ
比較的簡単な方法の一つとしてポータブルアルファ
戦略が挙げられます。ポータブルアルファ戦略は非常
に簡単な質問に対する回答であるとチアピネリ氏は
ファンドに流入しました。ヘッジファンドの運用資産
残高は 2 兆米ドルに達しました。 したがって、問題
は誰が投資するかではなく、投資する理由です。
」
述べました。「私たちが欲しいと思う、良い部分だけ
日本 CFA 協会
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チアピネリ氏は、2001 年の IT バブル崩壊が「深刻で
きる私たちに運用を任せてください。」投資家は幾度
破壊的」な影響をもたらしたため、全ての投資家が同
もこのようなフレーズを聞いたことでしょう。また、
様のことが再び起きた場合に備えて損失リスクのヘ
成功報酬は投資家の利益に一致するというフレーズ
ッジを望んだと考えています。
はどうでしょうか。
実際に、投資家は長く待つ必要がありませんでした。
GMO 社ではなく、個人的な見解であることを強調し
話は 2008 年に移ります。2008 年の主要な資産クラス
た上で、チアピネリ氏は「成功報酬はこれまで考案さ
のパフォーマンスは以下のとおりです。グローバル株
れた中で最も優れたマーケティング手法の一つであ
式(MSCI AC ワールド・インデックス)は-42.2%、米
り、成功報酬に反発する人はいません。成功報酬自体
国株式(S&P 500 指数)は-37%、バランス型ファンド
について反対する理由は存在しない」との考えを示し
は-25.6%、そしてヘッジファンド(HFRX Equal
ました。落とし穴は細部にあり、ハイウォーターマー
Weighted Strategies インデックス)は-21.9%でした。
クと呼ばれているものです。
「ヘッジファンドと『単純なファンド』の下落率はほ
投資家が債券と同程度のリスクで、株式と同程度の収
ぼ同じであった」とチアピネリ氏は述べ、後者は株式
益を獲得することを望むのであれば、以下のルールを
と債券の比率を 60:40 とする従来のバランス型ファ
実践する運用会社を探す必要があるとチアピネリ氏
ンドを指します。「ヘッジファンドの天才たちは運用
は述べました。
に失敗しました。彼らにとってかなり大きな失敗でし

ルール 1:ベンチマークの制約から抜け出す

ルール 2:超過収益ではなく、絶対収益の観点か
た。2008 年にヘッジファンド指数は 22%下落しまし
た。2013 年 12 月 5 日現在も同指数はマイナス圏にあ
ら考える
ります。直近 5 年間でみると、ヘッジファンド業界は
全く収益をあげていません。5 年前に 1 米ドル投資し
た場合、現在は 85 セントに減っています。」
オルタナティブ資産は戦略的資産配分の一構成要素。

以上を要約すると

何度も耳にする議論のひとつが、チアピネリ氏いわく
「投資家が懸念すべきリスクは多数存在します。
真に重要なリスクに注意を払ってください。資産
「60/40 のバランス型ファンドで運用している資金の
クラス間の相関の強まりと運用成果は関係があ
例えば 5%をオルタナティブ資産に振り向けるだけで
りません。割高な資産や価格が不透明な資産に投
よい」というものです。
「オルタナティブ資産を少し組み入れただけで販売
ルール 3:成功報酬の落とし穴に注意する
資しないことが最も重要です。
」

「戦略的資産配分(
「運用基本方針」とも呼ばれ
用資料に記載されている通りのことが達成できるの
る)には根本的な欠陥があります。資産配分比率
であれば、なぜ 5%にこだわるのでしょうか。これが
が変化せず、価格変動が考慮されていません。」
一つ目の問題です。二つ目の問題は、配分比率が低く
ても複雑性が高い点です。投資家は運用状況を全て把
握するために必要なリスク管理システムを有してい
るでしょうか。
」
オルタナティブ投資は絶対収益を提供。
「債券と同程

「オルタナティブ資産と伝統的資産のどちらが
良いかが問題ではありません。どの資産にも傾倒
してはなりません。オルタナティブ資産に割安感
があれば投資し、割安感がなければ投資しないこ
とです。割安な資産にこそ夢中になるべきです。」
度のリスクで、株式と同程度の収益をあげることがで
日本 CFA 協会
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
「ヘッジファンドに投資する際は流動性、透明性
および運用報酬に十分注意を払ってください。」

「ヘッジファンドに投資せずに債券と同程度の
リスクで株式と同程度の収益を獲得することは
可能です。従来のミューチュアルファンドをだめ
だと決めつけないでください。ミューチュアルフ
ァンドでも面白いことができます。
」
オルタナティブ投資については、チアピネリ氏が執筆
した 2013 年 10 月の記事「An Alternative Take on
Alternatives: Not Just Adding a Slice But Rethinking the
Whole Pie.」を参照ください。また、GMO 社について
は、ジェームズ・モンティエ(James Montier)氏が執
筆した 2013 年 12 月号のレポート「There Are No Silver
Bullets in Investing, Just Old Snake Oil in New Bottles」お
よび「Jeremey Grantham’s Bullish Two-Year Outlook」を
参照ください。また、ブログ「the Research Puzzle」の
執筆者であるトム・ブラッケ(Tom Brakke)氏、CFA
は、
「Fees and Fees and Fees」と題された記事で興味深
いチャートを掲載し、「運用報酬が魅力のオルタナテ
ィブ投資が人気を集めたが、概して投資家が失望する
結果になるであろう」と述べています。
執筆者
ローレン・フォスター(Lauren Foster)
CFA 協会のコンテンツ・ディレクター
(翻訳者:森 由紀、CFA)
英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2014/01/08
/alternative-thinking-gmo-debunks-the-pitch-for
-alternative-assets/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
の内容が優先します。
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