感想文メモ 芳川敏博 「メキシコ人」”The Mexican”(1911) * テーマは、「貧困と革命」である。 * 主人公のリヴェラは18歳のボクシングは素人の少年で、相手のダニー・ウオードは2 4歳の大人でボクシングはプロである。その上、レフリーや自分のセコンド陣も含めて、 すべて敵の悪条件の中での戦いであった。 * 不利な条件のリヴェラがダニー・ウオードをノックアウトできたのでは、①貧困を解消 するために革命に対して何かしたいという強い信念、②相手の油断をつく冷静さ、であ ったと思う。その上、ボクシングの練習相手をしながらボクシングのテクニックを身に つけ、食べ物にありつけ体力をつけていった。 * 「貧困を解消するために革命に対して何かしたいという強い信念」の描写 リヴェラはひざまずいて床を洗っていたが、ブラシをぶら下げ、むき出しの腕に石けん だらけの汚れた水をまだらにつけながら、目を上げた。 「五000ドルでいけますか?」 と彼は訊いた。一同は、驚いた顔つきをした。ヴェイラはうなずき、固唾をのんだ。言 葉にはならなかったものの、彼はすぐさま大きな信念を体で感じていた。「銃を注文し てください」と、リヴェラは言った。さらに、みんながこれまで聞いたこともなかった、 もっとも長い言葉を思わず口にしてしまった。「時間はそんなにありません。三週間し たら、僕がその五000ドルを持ってきましょう。大丈夫です。天候だって、戦う者の ために暖かくなってくれるでしょう。それに、これが僕にできる最善のことなんです」 117ページ ダニー・ウオードが戦うのは、金のためであり、その金がもたらす安楽な生活のためで あった。ところが、リヴェラが戦いの目的とするものは、彼の頭脳の中で燃えていた。 それは焼けつくような恐ろしい幻影であり、大きく見開かれた目で、ただ一人リングの コーナーにすわって油断のならない相手を待ちながら、実際の体験と変わらないほどは っきりと、そうした幻影を見たのだった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 六千人の飢えた血の気のない労働者と、七、八歳の小さな子供たちとを見た。彼らは、 一日10セントで長い交代時間をあくせくと働いているのだった。・・・・・・・・・ 飢えのあまり、木の実や根や草の葉を求めて丘陵地帯へ遠征隊を送るのだが、みんなは そうしたものを食べたがために、胃をねじるほど痛めたのだった。・・・・・・・・・ 湾の鮫のえさとなる殺害された者たちの死体が、山積みされていたのだ。再び彼がその ぞっとする死体の山の上をはい、捜して見つけたのが、裸にされ、めった切りにされた 自分の父親と母親であった。 132ページ∼134ページ * 「相手の油断をつく冷静さ」の描写 リヴェラのやり方は違っていた。スペイン人ばかりかインディアンの血も流れており、 隅っこに黙って不動の状態でどっかとすわっていた。そしてその黒い目だけを顔から顔 へと移し、すべてを見届けるのだった。 124ページ そのメキシコ少年は、自分のコーナーにすわって待った。何分かが、のろのろと過ぎて いった。ダニーは、彼を待たせていたのだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ リヴェラは、まるで怒らなかった。彼は、精巧な体の調整具合といい、神経の細やかさ や張り具合といい、そうした新入りのボクサーの誰よりも優っており、そういうおく病 なところがなかったのだ。 130ページ
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