A/特集/東芝 99.3.29 14:14 ページ 23 CCDセンサとCMOSセンサ 株式会社 東芝 先端半導体デバイス研究所 松長 誠之 1. 固体撮像素子開発の流れ 固体撮像素子の開発の詳しい歴史は他書に譲り、 サが製品化されたが、撮像管・CCDセンサに感度 で劣ったため短命に終わった。固体センサである CCDセンサは主に家庭用ビデオカメラに応用され、 ここでは撮像管・CCDと続いてきた画像ピックア その数を真空管の時代に比べ飛躍的に伸ばした。 ップデバイスの開発の流れに沿って簡単に触れて その後もシリコン技術は進歩を続け、本来アナロ みる。 グの映像信号を安価にデジタル化・デジタル信号 図1に示すように、1970年代以前はプランビコン 処理できるようになった。1990年代以降はデジタ などの撮像管が主に放送用として用いられていた。 ル化の時代である。映像はデジタル化により映像 いわゆる真空管の時代である。この時代、撮像デ 以外の信号との融合が進み、シリコンデバイスで バイスは個人のものではなく公共のものであった。 は汎用技術であるCMOS技術を用いたCMOSセン 1980年代に入りシリコンウェハプロセス技術の飛 サがその主流になる可能性が出てきた。 躍的進歩により、電荷結合素子(CCD)を用いた 以下、新しく登場したCMOSセンサを、すでに 撮像素子CCDセンサが実用可能なレベルに達し、 撮像素子として確固たる地位を確立しているCCD 固体の時代に入った。その前に一時フォトダイオ センサと比較することにより、その可能性を検討 ードとMOSスイッチアレイで構成されたMOSセン し今後の行方を予測してみる。 2. CCDセンサとCMOSセンサ CCDセンサで現在もっとも一般的なインターラ イン転送型(IT-CCD)の構成図を図2に示す。2次 元上に配列されたフォトダイオード、垂直CCD、 水平CCDと出力アンプによって構成されている。 フォトダイオードで光電変換された信号電荷は、 垂直CCD、水平CCDを転送された後、出力アンプで 電圧に変換され電圧信号として出力される。CCD 内部では電荷はほぼ完全に転送されるため雑音が 図1 固体撮像素子開発の流れ ほとんど発生しない。そのため感度が非常に高い。 June 1998︱ 23 A/特集/東芝 99.3.29 14:14 ページ 24 要なため不利である。一方、CMOSセンサは CMOSロジックと同じ単一の低電圧で動作する。 また製造面でも、汎用のプロセスが応用できると いう点ではCMOSセンサが有利である。 3. 機 能 面 か ら 見 た C C D の 優 位 性 、 CMOSの優位性 それぞれのセンサの優位性は、構造の違いによ 図2 CCDセンサの構成 る特長で決まる。CCDセンサの特長はCCDの持つ 電荷保持機能である。すなわち、垂直CCDを1画面 次に、CMOSセンサの一般的な構成図を図3に示 分のバッファメモリとして用いることができるこ す。特長は単位セル内に増幅器(セルアンプ)を とである。これにより信号電荷の蓄積時間と読み 持っている点である。この増幅器の特性ばらつき 出し時間を分離することができる。これは1画面の に起因する雑音を抑圧するため、ノイズキャンセ 信号に蓄積時間の同時性をもたせることを意味し ル回路を持つ構成が多い。この回路の高性能化に ている。この機能をCMOS技術でセンサと同一チ より、CMOSセンサが実用化できるようになった。 ップ上に実現することは難しい。 一方、CMOSセンサの優位性は、CMOS設計技 術からもたらされる低消費電力と将来のシステム オンチップである。システムオンチップの具体例 のひとつがワンチップカメラであり、シリコンチ ップの上にカメラのもつ機能すべてを搭載したも のが実現できる2)。 機能面から見ると、CCDセンサは静止画面応用 で1フレーム分の映像信号の蓄積時間の同時性が必 須なシステム、または信号の蓄積時間と信号の読 図3 CMOSセンサの構成 み出し時間の比を大きく取りたいシステムに有利 である。CMOSセンサは低消費電力が必須なモバ イル機器、または電源IC・センサ以外の周辺LSIを 図4はそれぞれのセンサの比較表である。機能 含めた低コストをねらうシステムに有利である。 面、性能面は後ほど議論する。使用面では、CCD センサは構造上3レベルの高い駆動電圧パルスが必 4. CMOSセンサはCCDセンサを越えら るか? CCDセンサ、CMOSセンサそれぞれの優位性を 述べたが、実際は前節のような機能別の棲み分け にはならないだろう。どちらか総合的に有利な方 が生産量が多くなり低価格で広く提供されるよう になるため、それを使いこなす利点が前節の機能 の優位性を上回る。すなわち、特殊なものを除い てCCDかCMOSかという選択になる。この議論を 図4 CCD/CMOS比較 24 ︱eizojoho industrial 決着するのは、性能とプロセス開発コストである。 A/特集/東芝 99.3.29 14:15 ページ 25 4.1 性能で越えられるか? 現できるかどうかで、CMOSセンサがCCDセンサ まず、CMOSセンサが性能面でCCDセンサに劣 を感度で抜けるかどうかが決まる。いくつかの回 ると、CMOSセンサは超低電圧駆動応用などの特 路構成があるが、その中に検知限界以下(CCDと 殊応用を除いて使われることはなくなるだろう。 同等)の雑音が実現できるものがある1)。雑音抑圧 一時のブームで終わる。ところが、最近の研究で 前後の再生画像を図6に示す。 は性能(それもCCDがもっとも有利な感度)で CMOSセンサがCCDセンサを追いぬく可能性のあ ることが発表されている1)。それを図5に簡単にま とめる。 感度は、入射する光に対してどのくらいの信号 電荷が得られるかを表す量子効率と、センサ自身 が出す雑音の比で決まる。量子効率は、どちらも シリコン基板の上に作られているのでほぼ同じで ある。雑音は、フォトダイオードのリーク電流に 関わる雑音と電荷検出アンプ(CCD:出力アンプ、 図6 バラツキ雑音の抑圧 CMOS:セルアンプ)に関わる雑音を考えればい い。それ以外の雑音はCCDでは現在のシリコン技 4.2 製品で越えられるか? 術を用いると前述のようにほとんどない。CMOS CMOSセンサの感度がCCDセンサよりよくなる センサは、セルアンプより後ろで発生する雑音は とほとんどすべてのセンサがCMOSに切り替わる セルアンプの増幅率が十分高ければ問題なくなる。 ことは、図4の比較表から容易に予想される。画 フォトダイオードのリーク雑音については、次節 像ピックアップに関わる研究者・技術者の議論の で後述するように、CMOSは新たにプロセス開発 余地はないだろう。まとめると、図7のような性 すればCCDとほぼ同じものを作ることが可能であ 能による場合わけをした棲み分けになるであろう。 る。電荷検出アンプは、CCDでは通常1個、CMOS この図でのポイントは、フォトダイオードのリー センサでは複数個ある。この違いにより、時間的 ク雑音をCCD並に抑圧するプロセスを開発するか にランダムに発生する雑音については、ひとつの どうかである。図5のフォトダイオード以外の項 アンプが受け持つ信号の周波数が低いCMOSセン 目は設計技術であり開発にほとんどコストがかか サが有利である。しかし、複数のアンプの特性ば らない。設計者の腕次第というところである。 らつきが大きな雑音となる。 現在のCMOSプロセスはスイッチング速度がも この雑音を抑圧するのが、図3のノイズキャン っとも速くなるようにチューニングされているた セル回路である。この回路がCCD以下の雑音を実 め、pn接合のリーク電流が非常に大きい。センサ 図5 感度に関わる項目比較 図7 センサ市場の棲み分け June 1998︱ 25 A/特集/東芝 99.3.29 14:15 ページ 26 のフォトダイオードはpn接合で形成されており、 ここのリーク電流が大きいと、入射した光により 5. まとめ 発生した信号電荷か、リークにより発生した電荷 シリコンウェハプロセス技術の進歩により、個 か区別がつかないため、大きな雑音となり感度を 人で画像情報を自由に扱えるパーソナル映像の時 著しく低下させる。図7のケースBを実現するには、 代が到来した。この個人で持つ画像ピックアップ 新たにプロセスの開発が必要である。しかし、一 デバイスとして、CCDセンサに代わるCMOSセン 般にプロセス開発には人と金と時間がかかる。そ サが注目されており、本稿ではその可能性につい こでCMOSプロセスをベースにし、効率よく低リ て検討してきた。今後の展望としては、CMOSセ ークプロセスを開発することになる。そのひとつ ンサが現市場でCCDセンサを駆逐し、さらに新た がCCDセンサと同じ埋め込みフォトダイオードプ な市場を開拓する勢いがなければ、CMOSセンサ ロセスである。一方、プロセス開発を最小にして は生き残れない。そのためには、感度を含めた基 CMOSセンサを研究開発しているのが米国である。 本性能でCCD並、またはそれ以上のものを早期に これは図7のケースAであり、開発コストミニマム 製品レベルで実現する必要があろう。 で設計技術に特化した典型的なニッチ戦略である。 低リークプロセスを開発できるところはCCDエ リアセンサの製品化に成功した会社である。しか し、CCDエリアセンサのトップメーカはCMOSセ [参考文献] 1)松長、CMOSイメージセンサのノイズキャン ンサへの切り替えのリスクをおかしたくないので、 セル回路、映情メディア学会技術報告、 切り替えはCCDメーカの下位の会社から始まるだ vol.22、No3、Jan 1998、pp7-11 ろう。このときトップメーカのCCDの感度を追い 2)E.R. Fossum, Cmos Image Sensors : 越していると、CMOSセンサへの切り替えが一気 Electronic Camera-On-A-Chip”, IEEE Trans. に進み製品レベルでCMOSセンサがCCDセンサを on Electron Devices, 44, 10, 1997, pp.1689-98 本当に追い越したことになるだろう。それができ ないとケースAのものだけが生き残るが、これで はCCDを超えたことにならない。 ☆!東芝 研究開発センタ 先端半導体デバイス研究所 3 044-549-2312 6 044-549-2268 26 ︱eizojoho industrial
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