「労働安全衛生研究」, Vol. 4, No.2, pp.63-70, (2011) 原著論文 三次元粘弾性理論によるフランジ継手の応力緩和挙動の推定方法の 検討 -ジョイントシートガスケットの場合-† 山 口 篤 志*1 辻 裕 一*2 本 田 尚*1 従来,既存化学工業施設の設備の配管継手部には石綿ガスケットが多用されてきたが,飛散した石綿繊維を 長期間吸引すると,肺がんや悪性中皮種の発症が懸念されることから,ガスケットの急速な石綿代替化が進めら れた.継手部に使用されるガスケットは内部流体の漏えいを防止する最も重要な要素の一つであり,密封特性を 向上させるために様々な非石綿ガスケットが開発されている.密封特性に及ぼす影響の一つとして,継手部の応 力緩和挙動が挙げられる.応力緩和挙動は内部流体の漏えいを引き起こす可能性があり,内部流体の種類によっ ては大災害につながる.漏えいによる事故を防止するためにはフランジ締結体の応力緩和挙動の推定手法の確立 が重要である.応力緩和挙動を推定するには,ガスケットのクリープ挙動を粘弾性構成式で評価する必要がある. これまで,ガスケットのクリープ挙動は粘弾性モデルにより評価されてきている.しかし,単軸の粘弾性モデル は圧縮方向以外の応力を考慮した構成式を得ることができない.そこで本研究では,ガスケットのクリープ挙動 に三次元粘弾性理論を適用し,圧縮方向以外の応力を考慮できるガスケットの粘弾性構成式を得ている.得られ た粘弾性構成式を JIS R3453 の試験装置を模した有限要素モデルに適用したところ,解析結果による応力緩和 挙動と試験結果はよく一致する.三次元粘弾性理論から得られたガスケットの粘弾性構成式を有限要素解析で用 いることにより,実使用条件におけるフランジ継手の応力緩和挙動を推定できることを示している. キーワード: 非石綿ガスケット,フランジ継手,粘弾性モデル,応力緩和,労働安全衛生法,JIS R3453 1 緒 一般に,継手部の応力分布やボルト軸力の評価には, 言 石綿はその優れた特性から建築物の天井や壁等の建築 ガスケットのクリープひずみ挙動が用いられ,時間の関 3-5).これまで,ガスケットのクリー 材料をはじめ,自動車のブレーキパッドや各種絶縁体と 数として表される して幅広く使用されてきたが,飛散した石綿繊維を長期 プひずみは単軸の粘弾性モデルまたは単軸の粘弾塑性モ 間吸引すると,肺がんや悪性中皮種の発症が懸念される デルで評価されてきた ことから,石綿代替化が進められてきた.2006 年 9 月 ケットとフランジ間の摩擦により半径方向及び円周方向 1)され,代替が に拘束され,厚さ方向以外の応力が発生するため,単軸 困難な一部の石綿含有製品を除き,石綿を含有する製品 の粘弾性モデルでは厚さ方向以外の応力の影響によるガ の製造・使用等が禁止された.その後も石綿ガスケット スケットのクリープひずみを考慮できない.ここで,三 に係る労働安全衛生施行令は幾度かの改正が行なわれ, 軸応力の影響を考慮してクリープひずみを評価できる手 近況では 2009 年 12 月に労働安全衛生施行令の一部が 法として三次元粘弾性理論 8)がある.三次元粘弾性理論 には労働安全衛生法施行令の一部が改正 改正 2)され,現在に至っている. 3-7).しかし,ガスケットはガス は三軸応力を静水圧成分と偏差成分に分けて,それぞれ これまで,既存化学工業施設の設備の配管継手部にお に粘弾性モデルを定義することで三軸応力の影響を考慮 いても石綿ガスケットが多用されてきたが,世界的な石 したクリープひずみを表すことができる.継手部の応力 綿代替化を背景に多くの非石綿ガスケットが開発され, 緩和挙動を適切に評価するためには,ガスケットのクリ 使用されている.継手部に使用されるガスケットは内部 ープひずみ挙動を三次元粘弾性理論に基づいて評価する 流体の漏えいを防止する最も重要な要素の一つであり, 必要がある. 密封特性を向上させるために様々な非石綿ガスケットが そこで本研究では,既存化学工業施設において多く使 開発されている.密封特性に及ぼす影響の一つとして, 用されているフランジ継手を対象に,常温の応力緩和試 継手部の応力緩和挙動が挙げられる.応力緩和挙動は内 験及び三次元粘弾性理論から得られたガスケットのクリ 部流体の漏えいを引き起こす危険性があり,内部流体が ープひずみ挙動をフランジ継手の有限要素モデルに導入 可燃性流体や毒性の強い流体である場合,内部流体の漏 し,フランジ継手の応力緩和挙動を推定可能であるか検 えいは大災害につながる. 討したので,報告する. † 原稿受付 2011 年 01 月 20 日 † 原稿受理 2011 年 03 月 03 日 *1 労働安全衛生総合研究所 機械システム安全研究グループ *2 東京電機大学 工学部 機械工学科 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園 1-4-6 (独)労働安全衛生総合研究所 機械システム安全研究グループ 山口篤志*1 E-mail: [email protected] 2 1) 三次元粘弾性理論 三次元粘弾性モデル 図 1 はこれまでガスケットのクリープひずみの評価 で用いられている 粘弾性モデル 3)~7)Kelvin モデルを主とした単軸の 8),9)を示す.ここで,ηi :粘性係数,ki : 64 ばね定数である.単軸の粘弾性モデルは,モデルの構成 要素であるばね及びダンパの数に比例してクリープひず みをよく表現できるが,粘弾性構成式が複雑になるだけ でなく,各要素の物理的な意味が失われる.また,ガス ケットはガスケットとフランジ間の摩擦により半径方向 η1 k1 η1 k1 η2 k2 η2 k2 ηi ki ηi ki 及び円周方向に拘束されて厚さ方向以外の応力が発生す るが,単軸の粘弾性モデルでは厚さ方向以外の応力の影 響を考慮できないといった問題点も挙げられる.そこで, る三次元粘弾性モデル 8)で評価する.三次元粘弾性モデ ηi+1 ki+1 ガスケットのクリープひずみを三軸応力状態で評価でき (a) Kelvin モデルとばね 図1 ルでは,三軸応力を静水圧成分と偏差成分に分けてモデ (b) Kelvin モデルとダンパ 単軸の粘弾性モデル ルを定義する.図 2 は本研究で用いる三次元粘弾性モ デルであり,静水圧成分には弾性,偏差成分には Maxwell モデルを適用した.このモデルは弾性による Eg 体積変化のひずみと粘弾性のひずみを分けて評価できる. Kg ここで, Kg :ガスケットの体積弾性係数, Eg :ガスケ ットの縦弾性係数,ηg:ガスケットの粘性係数である. 2) ηg 三次元粘弾性構成式 10) 一般に,粘弾性モデルは Kelvin モデルと Maxwell (a) 静水圧成分 モデルを単独で与えられるだけでなく,各モデルの組合 図2 せや同種のモデルを複数使用して与えられるが,直列・ (b) 偏差成分 三次元粘弾性モデル 並列に関わらず,いかなる組合せにおいても単軸におけ る応力とひずみの関係は次の微分方程式で表せる. σθθ , εθθ ガスケット l ∑ ak k =0 n d kσ d kε b = ∑ k dt k dt k k =0 σzz , εzz σrr , εrr (1) σrr , εrr ここで,ak 及び bk は粘弾性モデルにおけるばね定数及 σθθ , εθθ σzz , εzz び粘性率から決定される係数であり,l 及び n は Kelvin モデルまたは Maxwell モデルの個数を表す. 図 3 はガスケットにおける応力及びひずみの方向を 図3 微小領域におけるガスケットの応力及びひずみ方向 示す.ここでは,ガスケットが円形であることから,各 応力の方向をσzz,σrr,σθθと示しているが,直方体の場 合は σxx , σyy , σzz で表すことが可能である.また,静 ( A B ′ − B A′)σ zz 水圧成分と偏差成分の応力とひずみの関係は,式(1)よ = 3 B B ′ε rr (5) りそれぞれ以下のようになる. ガスケットはフランジとガスケットの摩擦により半径方 Aσ m = Bε m (2) A′σ ij′ = B ′ε ij′ (3) ここで, σm :平均垂直応力, εm :平均垂直ひずみ, σ'ij:応力偏差テンソル,ε'ij:ひずみ偏差テンソル, A, B,A',B' :微分演算子である. ガスケットを等方性材料と仮定し,ガスケットが単純 向及び円周方向に拘束される.よって,ガスケットの 拘束条件は εrr=εθθ=0,σrr=σθθの2軸拘束状態である. 拘束条件を考慮したクリープ構成式は以下のように 求められる. ( AB′ + 2BA′) σ zz + 2( AB′ − BA′) σ rr = 3BB′ε zz (2 AB ′ + BA′)σ rr = (BA′ − AB ′)σ zz (6) (7) 圧縮を受けるとき,ガスケットの応力とひずみの関係と 式(6),(7)をεzz について解くことにより,三軸応力状態 して以下の式が成り立つ. を考慮したクリープひずみεg は時間 t を関数とした以下 ( AB ′ + 2 BA′)σ zz = 3BB ′ε zz (4) の式で求められる. 「労働安全衛生研究」 65 εg = ⎛ − 3K g −σ g ⎡ 2 exp⎜ ⎢1 − ⎜ K g ⎢⎣ 3K g Eg + 2 ⎝ 3K g (η g E g ) + 2ηg ⎞⎤ t ⎟⎥ (8) ⎟⎥ ⎠⎦ ダイヤルゲージ 留めねじ 3 常温における応力緩和試験及び FEA による ピン アダプタ ガスケットのクリープひずみの評価 1) ボルト ナット 図4は常温におけるガスケットのクリープひずみ挙動 ロッド ワッシャ R345311)で 平円板 試験装置及び試験ガスケット 及び応力緩和挙動を得るために用いた,JIS 規定されている応力緩和率試験装置を示す.JIS R3453 で規定される応力緩和試験は,高温における試験装置の 試験ガスケット A A' y z 応力緩和率を測定する試験であるが,本研究ではこれを x 常温で用いている.試験ガスケットには2種類の非石綿 x ジョイントシートガスケットを用いている.非石綿ジョ 図4 イントシートガスケットとは,石綿ジョイントシートガ スケットの代替品として開発され,有機繊維また無機繊 維に特殊なゴム系バインダーと少量の充填材を混和し圧 延加硫したガスケットである 12) .試験ガスケットはバ 表1 A-A'断面 応力緩和試験装置 11) 試験ガスケットの仕様及びサイズ 非石綿ジョイントシートガスケット ガスケット A ガスケット B ガスケット係数,m 2.0 2.0 最小設計締付圧,y (MPa) 11.0 11.0 る.表 1 は試験ガスケットの仕様及びサイズを示す. ガスケットの厚さ,tg (mm) 3.0 3.0 2) 推奨締付圧(気体の場合),σs (MPa) 40 35 9.5×18.5 10×19 ルカー工業社製 No.6500(以下,ガスケット A),ニチ アス社製 TOMBO #1995(以下,ガスケット B)であ 応力緩和試験 11) 4 枚の長方形に切りだした試験ガスケットを図 4 の A-A’断面に示すように平円板で挟み,推奨締付圧が与え ガスケットのサイズ (mm2) られるように,ボルトで初期締付け荷重として 26.7 kN 1 能:0.1 µm)から読み取った.なお,試験は室温大気 中で 10 日間(240 hr)行なった.ここで,応力緩和を示 すガスケットの応力比 R は以下の式から求めた. D R = t D0 (9) Gasket stressRratio 応力比 を負荷した.ボルトの変位量はダイヤルゲージ(分解 試験結果(ガスケットA) 試験結果(ガスケットB) 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 ここで,D0 :締付け完了時のダイヤルゲージの読み量, 60 図5 Dt:任意の時間におけるダイヤルゲージの読み量である. 120 Time , hour 試験時間 hour 180 240 応力緩和試験結果 図 5 は応力緩和試験結果を示す.応力比は時間ととも に減少しており,両試験ガスケットとも初期締付圧の約 65%に低下した. 3) ガスケットのクリープひずみの評価 ガスケットのクリープひずみは応力緩和試験の結果と FEA から求めた.図 6 は試験装置の応力とひずみの関 係を明らかにするために定義した試験装置の単軸モデル を示す.試験装置の単軸モデルを定義することにより, ガスケットの粘弾性成分に起因する試験装置の応力変化 ∆σとボルトの変位変化∆y の関係が得られ,また,試験 装置のみかけのばね定数を求めることができる.さらに, 試験結果及び∆σ−∆y 関係からガスケットのクリープ挙 動を表す時間-ひずみ関係を求めることができる.図 7 は試験装置の∆σ−∆y 関係を得るために用いた応力緩和 試験装置の有限要素モデル(以下,FE モデル)を示す. 解析コードは ABAQUS である.解析は対称面を考慮し Vol. 4, No.2, pp.63-70, (2011) た応力緩和試験装置の 1/8 モデルを要素数 5010,節点 数 3638 に分割した.ボルト及び平円板の縦弾性係数は 206 GPa,ポアソン比は 0.3 とした.平円板-ガスケッ ト間の静摩擦係数は 0.1 とした.試験ガスケットの縦弾 性係数は,フィッシャー・インストルメンツ製微小硬さ 試験機 HM2000 を使用して測定した.最大試験力 50 mN,負荷速度 4.41 mN/s,保持時間 200 s,除荷時間 4.41 mN/s で負荷-除荷試験を行なった.ガスケットの 負荷-除荷曲線はゴム材や樹脂などの軟質材と同様の非 線形挙動を示す 10).ここで,片山 13)はインデンテーシ ョン法によりゴムをはじめとした軟質材の負荷-除荷曲 線から縦弾性係数や硬さの評価が可能であることを述べ ている.そこで本研究では,ガスケットの縦弾性係数を インデンテーション法により求めた.試験ガスケットの 66 縦弾性係数は最大試験力の 65~95%における除荷曲線 から算出している.また,試験ガスケットは異方性材料 ボルト及び平円板 (弾性) であるが,本研究では試験ガスケットを等方性材料と仮 定し,ポアソン比νg を 0.33 とした.体積弾性係数は以 下の式から求めている. Kg = Eg 3(1 − 2ν g ) ガスケット (粘弾性) (10) y x なお,表 2 は試験ガスケットの材料特性値を示す. 図6 試験装置の粘弾性モデル 図 8 は応力緩和試験結果と FEA により得られたガス ケットのクリープひずみ εF を示す.ガスケットのクリ ープひずみは前述した∆σ−∆y 関係から求めた試験装置 のみかけのばね定数及び応力緩和試験結果から求めてい る . な お , 試 験 装 置 の み か け の ば ね 定 数 は 6110 MPa/mm であった.締付け完了後のひずみはガスケッ ト A で 0.041,ガスケット B で 0.037 である.試験終 了時のひずみはガスケット A で 0.057,ガスケット B 平円板 y で 0.052 である. 以上のように,JIS R3453 で規定される応力緩和試 図7 験を常温で行ない,試験結果及び応力緩和試験装置をモ ガスケット ボルト z x 応力緩和試験装置の FE モデル(1/8 モデル) デル化した FEA 結果からガスケットのクリープひずみ 表2 を得られることを示した. 試験ガスケットの材料特性値 非石綿ジョイントシートガスケット ガスケット A ガスケット B 4 三次元粘弾性理論によるガスケットの クリープひずみ予測 縦弾性係数,Eg (MPa) 783.2 815.3 体積弾性係数,Kg (MPa) 767.8 799.3 ガスケットのクリープひずみを予測するために,三次 1 0.1 一方で,ガスケットひずみは時間経過とともに増加する. ガスケットひずみはガスケットのクリープ挙動及び試験 装置の応力緩和挙動の複合条件下にあることから,試験 装置の応力緩和を考慮したクリープひずみを三次元粘弾 性理論により評価する必要がある.式(8)に応力緩和を 考慮した σg を代入するために,試験結果を最小二乗近 Gasket stress Rratio 応力比 うに,ガスケットの応力比は時間経過とともに減少する 0.8 σ g = 24.88 + 8.84 exp( −0.22 ⋅ t ) (11) ガスケット B: σ g = 23.62 + 7.52 exp(−0.31 ⋅ t ) (12) 式(11)(または式(12))及び Eg, Kg, ηg を式(8)に代入す る.なお,粘性率 ηg は実験結果の収束する時間から求 めており,ガスケット A で 2000 MPa・h,ガスケット B で 2500 MPa・h であった.代入された式はクリープ ひずみ挙動を得るために計算する. 図 9 は三次元粘弾性理論による応力緩和を考慮した ガスケットのクリープひずみεg を示す.試験結果に比べ て理論値のほうが小さく,収束が早い.三次元粘弾性理 0.06 0.4 0.04 FEAにより得られたひずみ, εF (ガスケットA) FEAにより得られたひずみ, εF (ガスケットB) 0.2 0 60 図8 0.1 Gasket strain εF ,εg ガスケットひずみ ガスケット A: 0.08 0.6 0 似したところ以下のようになった. 試験結果(ガスケットA) 応力比の試験結果(ガスケットA) 試験結果(ガスケットB) 応力比の試験結果(ガスケットB) 120 Time , hour 試験時間 hour 0.02 ガスケットひずみ Gasket strain εF 元粘弾性理論から求めた式(8)を用いた.図 8 に示すよ 0 240 180 ガスケットのクリープひずみ挙動 FEAにより得られたひずみ,ε F (ガスケットA) FEAにより得られたひずみ, εF (ガスケットB) 理論式によるひずみ, εg (ガスケットA) 理論式によるひずみ, εg (ガスケットB) 0.08 0.06 0.04 0.02 0 0 60 図9 120 Time , hour 試験時間 hour 180 240 εF とεg の比較 論では,平円板-ガスケット間の静摩擦係数を無限大と 「労働安全衛生研究」 67 推力 ガスケットひずみ Gasket strainεF ,ε'F 0.1 FEAにより得られたひずみ,ε F (ガスケットA) FEAにより得られたひずみ, εF (ガスケットB) ε'gを考慮したひずみ, ε'F (ガスケットA) ε'gを考慮したひずみ, ε'F (ガスケットB) 0.08 0.06 フランジ ボルト ナット 内圧 0.04 0.02 0 0 60 図 10 120 Time , hour 試験時間 hour 180 240 εF とε'F の比較 ガスケット 図 12 4-inch フランジ継手の FE モデル(1/8 モデル) 0.8 20 0.6 0.4 試験結果(ガスケットA) 試験結果(ガスケットB) 解析結果(ガスケットA) 解析結果(ガスケットB) 0.2 0 図 11 0 60 120 Time , hour 試験時間 180 240 試験結果及び解析結果における応力緩和挙動の比較 しているが,実際の試験機の表面は平坦であることから, ガスケット締付圧 MPa Gasket stress , MPa 応力比 Gasket stressRratio 1 フランジとガスケットの接触領域 0 ガスケットの外径 -20 -40 -60 締付後 内圧負荷後 応力緩和後 -80 -100 図 13 0 10 20 30 Distance from inner diameter , mm ガスケットの内径からの距離 mm 半径方向におけるガスケットの締付圧分布の変化 εg は過拘束で評価されたことにより εF より小さくなっ たと考えられる.そこで,過拘束の影響を除外し,ガス ケット単体の材料特性としてのクリープひずみ挙動を得 ガスケットのクリープひずみを予測することが可能とい るために,ガスケットが単軸圧縮を受けるときの挙動を える. 三次元粘弾性理論により評価した.ガスケットの単軸圧 縮によるひずみε'g は式(6),(7)においてσθθ=σrr=0 とす ε g′ = (E g + 6 K g + 6 K g ⋅ Eg ⋅ t µ ) σ g′ 9 K g ⋅ Eg 5 三次元粘弾性理論を導入した FE 解析による フランジ継手の応力緩和の推定 れば求められ,以下の式で表される. ガスケットのクリープひずみ挙動に起因するフランジ 継手の応力緩和を推定するために,FEA による内圧を (13) 負荷したフランジ継手の粘弾性解析を行なう.図 12 は フランジ継手の FE モデルを示す.FE モデルは 4-inch フランジ(JPI Class 150)である 14).対称面を考慮し ここで,σ'g :初期締付圧である.式(13)で得られたガ たフランジ継手の 1/8 モデルを要素数 5864,節点数 スケットの粘弾性構成式を図 7 に示した FE モデルのガ 8365 に分割している.ボルト及びナットは M14 であ スケットに適用し,粘弾性解析を行なう. り,ボルト本数は 8 本である.本解析において,ガス 図 10 はε'g を考慮したガスケットひずみε'F を示す. ケットには式(13)から得られたガスケット A の粘弾性 両試験ガスケットのε'F は試験結果から求められたひず 構成式を与えている.ボルト,ナット及びフランジの縦 みεF とよく一致している.ガスケット A の場合,初期 弾性係数は 206 GPa,ポアソン比は 0.3 としている. ひずみは 0.040,収束するガスケットひずみは 0.057 で フランジ-ガスケット間の静摩擦係数は 0.1 としている ある. 15).フランジ継手の粘弾性解析では,解析ステップを 3 図 11 は両ガスケットの応力比の挙動を示す.両ガス 段階に分けている.最初のステップは締付け荷重として ケットにおいて応力比の収束が若干早いが,収束値はよ ガスケットが推奨締付圧に到達する荷重をボルトに負荷 く一致している. する.次のステップでは,フランジに内圧及び内圧によ 以上のことから,三次元粘弾性理論を用いてガスケッ る推力を与える.最後のステップでは,ステップ開始と トの単軸圧縮におけるクリープひずみ挙動を求め,得ら 同時にボルトの変位を固定し,応力緩和挙動を解析する. れた挙動をガスケットの FE モデルに入力することで, なお,締付け荷重は 44.2 kN,内圧は 2.0 MPa である. Vol. 4, No.2, pp.63-70, (2011) 68 試験装置をモデル化した FEA により,ガスケット Axial bolt force ボルト軸力 /Initial axial bolt force /初期締付け荷重 1 のクリープひずみ挙動が得られることを示した. 0.8 2. 三次元粘弾性理論を用いてガスケットの単軸圧縮に おけるクリープひずみ挙動を求め,得られた挙動を 0.6 ガスケットの FE モデルに入力することで,ガスケ FEAにより得られた締付け荷重比 0.4 ットのクリープひずみを予測できることを示した. 3. フランジ継手ではガスケットが円周方向に拘束され, 0.2 0 圧縮方向の変形が小さくなるため,応力緩和試験装 0 図 14 60 120 Time , hour 試験時間 hour 180 置におけるボルト軸力の低下率に比べてフランジ継 240 フランジ継手におけるボルト軸力の挙動 手におけるボルト軸力の低下率が小さい. 4. 応力緩和試験及び三次元粘弾性理論から求めたガス ケットのクリープひずみ挙動を用いて,常温におけ る非石綿ジョイントシートガスケットを使用したフ 図 13 は半径方向におけるガスケットの締付圧分布の ランジ継手の応力緩和挙動を推定できる可能性を示 した. 変化を示す.締付け後の締付圧分布と内圧負荷後の締付 圧分布に大きな差はない.応力緩和後は,接触領域にお 文 ける外径近傍の締付圧が大きく低下し,内径近傍の締付 圧がわずかに増加している.締付け後における内径の締 1) 付圧は約-9 MPa であるが,応力緩和後における内径の 締付圧は約-16 MPa である.また,応力緩和挙動によ 献 厚生労働省.石綿等の全面禁止に係る適用除外製品等の 代替化等検討会報告書.2008. 2) 厚生労働省.労働安全衛生法施行令の一部を改正する政 りガスケットの締付圧は低下するが,ガスケット全面に 令の一部を改正する政令(平成 21 年 12 月 24 日政令第 おいて,内部流体の漏えいを保証する最小設計締付圧が 295 号).2009. 3) 確保されている. 図 14 はフランジ継手におけるボルト軸力の挙動を示 す.応力緩和挙動により,ボルト軸力は初期締付け後 Bouzid, A-H., Strohmeier, K.. Creep Modeling in Bolted Flange Joints. ASME PVP. 2004; 478: 49-56. 4) Kauer, R., Akli Nechache. Finite-element Simulation of 240 時間で約 88%まで低下する.図 5 及び図 11 の結果 Non-linear, Time and Temperature Dependent Effects と比べてフランジ継手のボルト軸力の低下率が小さいの of Flange Gasket Materials. ASME PVP. 2000; 414, は,フランジ継手ではガスケットが円周方向に拘束され No.2: 59-63. ることにより,圧縮方向に変形しにくいことが原因と考 5) Nechache, A., Bouzid, A-H.. CREEP EFFECT OF えられる.以上のように,応力緩和試験及び三次元粘弾 ATTACHED STRUCTURES ON BOLTED FLANGED 性理論から求めた非石綿ジョイントシートガスケットの JOINT RELAXATION. ASME PVP. 2005; High- クリープひずみ挙動を用いて,常温のフランジ継手の応 Pressure Technology: 207-215. 力緩和挙動を推定できる可能性を示した.また,上記手 6) 高木知弘,名護典寛,佐藤弘嗣,山中幸.ガスケットの 法を用いることで,漏えいしないためのボルト締付け荷 粘弾塑性挙動を考慮したボルト締結体の力学的特性の評 重の決定やガスケット最小設計締付圧に低下するまでの 価(PTFE ガスケットを用いた場合).日本機械学会論文 期間を推定できる可能性がある. 集(C 編).2007;73-728:1245-1252. 本研究では,非石綿ジョイントシートガスケットを対 7) Kobayashi, T., Hamano, K.. THE REDUCTION OF 象としたが,PTFE 系のガスケットは非石綿ジョイント BOLT LOAD IN BOLTED FLANGE JOINTS DUE TO シートガスケットに比べて粘弾性挙動が顕著に現れ,変 GASKET CREEP-RELAXATION CHARACTERISTICS. 形しやすい 16) .本研究で述べた応力緩和挙動の推定手 法は,変形の小さいジョイントシートガスケットに対し ASME PVP. 2005; 414: 97-104. 8) 9) の適用は今後の課題である. Flugge, W.. Viscoelasticity Second Edition. SpringerVerlag; 1975: 159-176. て適用しており,PTFE 系のガスケットに対する本手法 R. M. Christensen. THEORY OF VISCOELASTICITY An Introduction. Academic Press, Inc.; 1971: 16-20. 6 結 言 10) 応力緩和試験によって得られたガスケットのクリープ 非石綿ジョイントシートガスケットの高温クリープ特性 ひずみを三次元粘弾性理論及び FEA により評価し,フ の評価.圧力技術.2010;48-2:61-69. ランジ継手の応力緩和挙動を推定した.以下に得られた 11) 結果を示す. 12) 1. JIS R3453 で規定される応力緩和試験は,高温にお ける試験装置の応力緩和率を測定する試験であるが, 本研究において,常温の応力緩和試験及び応力緩和 山口篤志,辻裕一,本田尚.3 次元粘弾性モデルによる 日本工業規格.ジョイントシート.2001;JIS R3453. 日本バルカー工業株式会社.バルカーハンドブック 技術 編.2007: 169-194. 13) 片山繁雄.ナノインデンテーション試験の軟質材,軟質 皮膜への応用.材料試験技術.2009;54-2:107-114. 「労働安全衛生研究」 69 14) 15) 石油学会規格.石油工業用フランジ.2005;JPI-7S-15- 16) Tsuji, H., Terui, Y.. APPLICATION OF BOLTED 2005. FLANGE JOINT ASSEMBLY GUIDELINES HPIIS Yamaguchi, A., Tsuji, H., Honda, T.. Simulation of Z103 TR TO EPTFE SHEET GASKET. ASME PVP. Creep/relaxation Behavior in Bolted Flange Joints 2008; paper No.PVP2008-61454. Based on 3-D Viscoelasticity Model of Gasket. ASME PVP. 2009; Paper No. PVP2009-77610. Vol. 4, No.2, pp.63-70, (2011) 70 Estimation Method of Stress Relaxation Behavior in Bolted Flange Joints using Three Dimensional Viscoelasticity Theory -Case of Non-asbestos Compressed Sheet Gasket- by Atsushi YAMAGUCHI*1, Hirokazu TSUJI*2 and Takashi HONDA*1 In order to prevent an accident due to leakage of a contained fluid from the joints, it is important to establish a method for the estimation of stress relaxation behavior. It is a need to evaluate the creep strain behavior of gasket by the viscoelasticity constitutive equation in order to estimate the stress relaxation behavior. Recently, the creep behavior has been evaluated by a viscoelasticity model of single axis. However, the viscoelasticity model of single axis can not evaluate the stress in direction other than the thickness direction. In the present study, the 3-D viscoelasticity theory is applied to the creep property behavior of gasket, and it is obtained the 3-D viscoelasticity constitutive equation that is capable of including the stress in directions other than the thickness direction. The obtained constitutive equation is applied to finite element (FE) model of the test equipment based on the JIS R3453 test method, the stress relaxation behavior of analysis result agrees well with test result according to JIS R3453 test method. It is shown that the stress relaxation of the bolted flange joint under actual service conditions can be estimated by FE analysis, using the creep strain behavior of gasket by the 3-D viscoelasticity theory. Key Words: non-asbestos gaskets, flange joint, viscoelasticity model, stress relaxation, industrial safety and health law, JIS R3453 *1 Mechanical System Safety Research Group, National Institute of Occupational Safety and Health *2 Department of Mechanical Engineering, Tokyo Denki University 「労働安全衛生研究」
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