アジア太平洋心臓憲章 アジア太平洋心臓憲章: 要約 心疾患による死亡と罹患の負担増に効果的に対処するためすべてのアジア太 平洋諸国は以下の対策を講じるべきである。 1. 各国が包括的な心疾患に関する行動計画を策定する 2. 心疾患に関する行動計画が包括的かつ統合的な非感染症政策の枠組みで 策定・実施されることを確実にする 3. 心疾患の負担を軽減するため、明確な目標とターゲットを設定する 4. 多部門による行動を通じ、心疾患の予防の優先度を高める 5. プライマリーヘルスケア・アプローチを通じて、心疾患の予防と管理を 拡充する 6. 効果的かつタイムリーな治療、リハビリテーションおよび長期継続ケア を提供する 7. 心疾患とそのリスク要因、治療介入の影響を測定、監視、報告する 8. 適切な人員を配置する 9. 心疾患の原因の究明、予防と管理を支援する 10. 国内、域内および世界的な心疾患の効果的なネットワークおよびパート ナーシップを支援する アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 1. 課題 アジア太平洋地域は広大かつ多様で、面積の大きな国と小さい国、先進国と 新興経済国の両方を包含している。 各国がそれぞれの健康問題を抱える一方、同地域の主要な死亡原因である心 疾患の負担拡大に歯止めをかけるという共通かつ緊急の課題に直面している。 世界的にみて、心疾患はすでに 1990 年代半ば時点で先進国だけでなく、発 展途上国においても主要な死亡原因になっている。死亡原因として、心疾患 は感染性疾患や寄生虫性疾患をはるかに上回っている。 アジア太平洋地域では、年間 800 万人前後の人々が心疾患で命を落としてい る。リスク要因の高まりによって、心疾患の負担はすでに非常に大きく、人 口増加に伴い拡大する方向であり、リスク要因は広くみられるようになって いる。 特に新興経済国では、感染症疾患に代わって、慢性疾患が主な死亡原因にな っている。 経済成長や工業化、都市化によって生活様式が変化しており、心疾患のリス ク要因が高まっている。リスク要因には、喫煙や運動不足、不健康な食生活、 過体重/肥満が含まれる。 平均寿命の延びに伴い、より長い間リスク要因にさらされることになり、結 果的に心疾患の罹患率および死亡率が高まっている。 心疾患の臨床管理は高額で長期にわたるものであるが、大部分が回避可能で あるため、予防への投資拡大が非常に重要である。これにより、資金が他の 目的に使えるようになるだけでなく、人生の最も生産的な年齢に心疾患で命 を落としかねなかった多くの人々の寿命を延ばすことになる。 ______________________________________________________________ アジア太平洋地域における心疾患 心疾患が死亡原因に占める割合は、東南アジア地域で 26.2%(390 万)、 西太平洋地域で 32.1%(400 万)である(WHO 調べ、2002 年)。 アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 2 高血圧はアジアにおける最も一般的な心疾患のリスク要因である。 2005 年の罹患率は推定で 16%であり、2012 年には 17.5%を超えると 予想される。 2005 年までに年間 3,000 万人が脳卒中を患い、シンガポールとマレー シアにおける脳卒中の罹患率は 3.7%超である。 インド(77 万)と中国(170 万)では、最大の死亡原因が脳卒中である (WHO 調べ、2004 年)。 世界で約 2,300 万人が心不全を患い、アジア太平洋地域における高齢 化に呼応して罹患率は急速に上昇している。 肥満と 2 型糖尿病が大幅に増加している。 アジアにおける心疾患による直接費用は推計で年間 1,200 億米ドルを 上回り、急速に拡大している。 ______________________________________________________________ 2. 行動の要請 アジア太平洋地域の心臓財団および専門家団体は心疾患による死亡や苦痛を 減らすために取り組んでいる。 本憲章の署名者である財団や団体は、アジア太平洋地域の諸国に、予防、管 理、監視および調査の改善を通じて、心疾患の社会的・経済的影響に立ち向 かうための一層の取り組みを要請する。 心疾患の拡大はアジア太平洋地域の人々の永続的な恩恵および繁栄に向けた 協調行動を通じて抑制することが可能である。 本憲章は国家的・地域的なレベルで心疾患の拡大に対処するための包括的な アプローチを規定している。 本憲章は以下に関するアプローチの改善によって、心疾患の発症、罹患率お よび死亡率を減少させるという世界保健機構(WHO)が心疾患に関するプログ ラムで設定した優先順位に基づいている。 アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 3 1. 予防: 心疾患のリスク要因とその決定要因を効果的に低減する 2. 管理: 心疾患の管理のための費用効果的かつ公平な革新的ヘルスケアを 開発する 3. 監視:心疾患とそのリスク要因の傾向を監視する 本憲章はまた、『心疾患に関する国際的な行動: 国際的な心疾患対策に関する 宣言に基づく成功のためのプラットフォーム(2005) 』および欧州健康心臓憲 章で策定された原則を実行に移すことを求めている。 心疾患の行動計画は WHO 非感染症疾患(NCD)行動計画に依拠し、非感染症 に関する包括的かつ統合的な政策の枠組みで策定・実施されるべきである。 3. 国家的な行動計画 アジア太平洋諸国は心疾患に対処するため、各国が国家的な行動計画または 枠組みを策定すべきである。 利用可能な最善の根拠およびデータによって、関連心臓財団や専門家団体、 消費者団体の専門家の助言に基づいて策定されるべきである。 戦略は最低限のコストで最大限の恩恵をもたらすことを目指すべきである。 これは特に、資源が限られるために、低コストで十分にターゲットを絞った プログラムが不可欠となる発展途上国に該当する。 憲章の勧告 1: アジア太平洋諸国は各国が包括的な心疾患に関する行動計画 を策定すべきである 憲章の勧告 2: アジア太平洋諸国は心疾患に関する行動計画が包括的かつ統 合的な非感染症政策の枠組みで策定・実施されることを確実にすべきである アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 4 4. 目標 アジア太平洋諸国は心疾患の負担を軽減するために明確な目標を設定すべき である。心疾患に関する包括的な行動計画には以下の目標が含まれるべきで ある。 • 人口の全構成員間に心臓の健康を促進する • 喫煙を伴わない生活様式、定期的な運動と健康を促進する食生活を 促進することで心疾患を予防する • 高血圧、 血中脂質異常、肥満および糖尿病といった心疾患につな がる基礎疾患を発見・治療する • 心疾患の効果的な診断・治療と再発防止を行う • 心疾患の患者の生活の質を向上する 憲章の勧告 3: アジア太平洋諸国は心疾患の負担を軽減するため、明確な目標 とターゲットを設定すべきである 5. 予防 心疾患は大部分が回避可能である。リスク要因には、喫煙や高血圧、高い血 中コレステロール値、不健康な食生活、過度のアルコール摂取、過体重/肥 満、運動不足が含まれる。 これらのリスク要因を減らすことは、心疾患の罹患率および死亡率だけでな く、一部のがんや肺疾患、糖尿病、腎疾患および肝疾患など他の慢性疾患を 減少することになる。 リスク要因を少しでも減らすことで、心疾患の罹患率および死亡率に重大な 影響を及ぼすことが可能である。たとえば、喫煙をやめることで、心臓発作 および脳卒中のリスクを大幅に低減することができる。 アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 5 ソーシャル・マーケティング、政策や法規制の変更など複数の国家的なアプ ローチが必要である。 各種対策を通じて急速に大規模な変化をもたらすことが可能である。たとえ ば、多くのアジア太平洋諸国における高水準の塩分や飽和脂肪の摂取は、食 品会社による製法の見直しによって減らすことができる。 アジア太平洋諸国は心疾患の予防を優先すべきである。特に、アジア太平洋 諸国は以下の対策を実施すべきである。 • 予防プログラム・サービスの策定および改善 • 以下のようなより健康的な生活様式の採用を妨げるような要素に対処 する公共政策の採用 - タバコ広告、後援および販売促進の禁止 - 食品供給の改善 - 運動に積極的なコミュニティの創出と促進 - 運動のためのインフラ、プログラムおよび政策の支援 • 包括的なソーシャル・マーケティング戦略を通じた国民の啓蒙 • コミュニティによる行動およびプログラムの促進 • 『WHO タバコ規制枠組み条約』への署名・実施 憲章の勧告 4: アジア太平洋諸国は多部門による行動を通じ、心疾患の予防の 優先度を高めるべきである 憲章の勧告 5: アジア太平洋諸国はプライマリーヘルスケア・アプローチを通 じて、心疾患の予防と管理を拡充すべきである アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 6 6. 管理/臨床診療 効果的かつタイムリーな治療、リハビリテーションおよび長期継続ケアによ って、生命を救い、身体的な障害を軽減し、再入院率を最低限に抑えること が可能である。 アジア太平洋諸国は以下の対策を行うべきである。 • 予防を向上させ、心疾患およびそのリスク要因の管理のために最適な 治療を提供するため、プライマリーケア部門の能力を強化する • 心疾患の患者が組織的かつ複数の専門分野にわたるケアを受けられる よう支援する • 心臓病のリハビリテーションを受けられるよう支援する • 適切な臨床ガイドラインの策定、維持および実施を支援する • 心疾患のケアおよび費用効果的な症例管理に関する基準を設定する • 心疾患の患者または心疾患のリスクが高い人に対し、早期診断および 長期継続管理を支援する 憲章の勧告 6: アジア太平洋諸国は効果的かつタイムリーな治療、リハビリテ ーションおよび長期継続ケアを提供すべきである 7. 監視、調査および人員 心疾患の拡大を効果的に管理するには、測定と監視が非常に重要である。 さらに、心疾患の原因、心疾患の予防と治療に最も効果的な治療介入をよ り適切に特定することにつながる調査を支援すべきである。 また、予防、管理および調査を進めるための十分な教育を受けた人員の配 置は、十分にターゲットを絞った心疾患に関する行動計画の成功に不可欠 である アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 7 アジア太平洋諸国は以下の対策を講じるべきである。 • 心疾患の原因および最も効果的な治療介入、政策およびサービスに関 する知識の拡充のための調査を支援する • 知識やスキルを高めるための訓練をサポートする • 心疾患の予防と管理の促進にあたり、適切かつ十分な訓練を受けた人 員を確保する方策をサポートする • 適切な心疾患の登録を整備する • リスク要因の蔓延、発病、保健サービスの利用および健康転帰に関す るデータ収集のための効果的な調査メカニズムを実行に移す • 主要な心疾患とリスク要因のパターンと傾向を評価するとともに、予 防状況を監視し、イニシアティブを管理するための実行可能な調査手 法を開発する • 心不全および心臓病につながる感染性の心臓病など、十分に認識され ていない心臓病の原因および新たな原因を監視・特定しなければなら ない(C 型肝炎ウィルス がリスク要因の可能性がある) 憲章の勧告 7: アジア太平洋諸国は心疾患とそのリスク要因、治療介入の影響 を測定、監視、報告すべきである 憲章の勧告 8: アジア太平洋諸国は適切な人員を配置すべきである 憲章の勧告 9: アジア太平洋諸国は心疾患の原因の究明、予防と管理を支援す べきである アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 8 8. 地域的・国際的な協力 アジア太平洋諸国は心疾患に対する国際的な協調行動を起こすため、国内、 域内および国際的な効果的なネットワークおよびパートナーシップを構築す べきである。 憲章の勧告 10: アジア太平洋諸国は国内、域内および世界的な心疾患の効果 的なネットワークおよびパートナーシップを支援すべきである 9. 心疾患に関する宣言 世界的に、国際的な宣言や地域的な健康心臓憲章が合意された優先順位に焦 点を当てつつ、国家・地方レベルでの行動に関する指針を提示し、行動を促 進することを支援している。 本憲章は枠組みとして、心臓財団および専門家団体に効果的な主張の土台を 提供しつつ、各国が心疾患により良く対処することを支援するものである。 これまでに策定された国際的・地域的な心臓憲章および宣言として、以下が 挙げられる。 1992 年 心臓健康に関するビクトリア宣言 1995 年 カタロニア宣言: 心臓健康への投資 1997 年 心臓健康向上のための世界的努力: カタロニア宣言のフォローア ップ(米国) 1998 年 シンガポール宣言 2000 年 女性、心臓病および脳卒中に関するビクトリア宣言 2001 年 大阪宣言―医療経済および政治行動 2005 年 心疾患に関する国際的な行動: 国際的な心疾患対策に関する宣言 に基づく成功のためのプラットフォーム 2007 年 欧州心臓健康憲章 2008 年 心臓の健康のための湾岸憲章: 湾岸協力会議 アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 9 For further information please contact: Miki Nakamura Executive Secretary APHN [email protected] アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter 10 アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter アジア太平洋 Heart Network: Towards an アジア太平洋 Heart Charter
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