中間土で構成された盛土斜面の細粒分含有率が崩壊メカニズムに及ぼす影響 長岡技術科学大学大学院 長岡技術科学大学 1.はじめに 非会員 正会員 ②盛土天端に亀裂発生 ② ② ②のり尻部が流出して大崩壊 ①盛土中腹部で 盛土中腹部で ① 応答加速度急増 2004 年の新潟県中越地震の際には長岡市高町団地 野島 崇,廣瀨康平 大塚 悟,磯部公一 において大規模盛土造成地が崩壊し,建物や道路に甚 大な被害を与えた.調査の結果,高町団地の盛土材料 ③地震力が亀裂を進展させ崩壊 地震力が亀裂を進展させ崩壊 ③ ① 水圧の上昇により, ①水圧の上昇により, のり尻部の有効応力低下 は砂とも粘土とも区別のつかない中間土であったこ とが分かっている1).高町団地が大規模な斜面崩壊の 盛土内の浸透水位が低い場合 被害を受けた要因として,谷埋め盛土などの地形的要 盛土内の浸透水位が高い場合 図-1 水位の違いによる崩壊機構 について検証してきた .その中で,図-1に示すよう 1: 1 . 盛土 ( Dc =65%) Case 1 Case 2 A6 P5 地山 (Dc =70% ) るのに対し,水位が高い場合ではのり尻部で過剰間隙 A1 ( 振動台) 大変形することが確認された.これらのことから本報 A4 L3 P4 A3 A2 L2 濾過層 P2 P1 P3 325 図-2 では,盛土を構成する地盤材料の細粒分含有率が変化 375 132 V1 単位: mm 計測器配置状況および浸透水位 表-1 盛土の地盤材料の物性値 することによって,盛土に引き起こす崩壊形態の違い を検証した. 3 ρ s [g/cm ] F c [%] 3 ρ dmax [ g/cm ] 3 ρ d [g/cm ] w opt [%] 2. 実験概要 実験は,盛土内の浸透水位が低い場合を想定し,盛 土材料に含まれる細粒分の混合比をパラメータとし て 2 ケース実施した. 図-2に計測器および,各Caseの浸透水位線を示す. 25 5 A5 答加速度が急増し盛土の天端部に亀裂が入り崩壊す 水圧の上昇により有効応力が大きく低下することで L4 A7 2) 100 V2 V3 加速度計 間隙水圧計 接触式変位計 レーザー変位計 マノメータ 150 L1 透水位に着目した振動台実験を行い,盛土の崩壊機構 に,盛土内の浸透水位が低い場合では盛土中腹部で応 : : : : : 給水タンク 80 これまでに地盤材料に中間土を用いて地盤内の浸 給水・ 排水 因や地震発生前の降雨の影響などが挙げられる. 1:1 2.68 45.6 1.88 1.22 13.0 3:1 2.66 22.8 1.97 1.28 11.1 盤内に浸透させ,盛土のり先の水位が基礎地盤に達し, 盛土内の浸透水位は,地盤内に設置したマノメータを 定常状態になったことを確認した後,加振を行った. 用いて算出した.盛土の地盤材料にはCase 1では東北 入力には8 Hz,36 波の正弦波を用い,最大加速度150 珪砂6号と藤森粘土を1:1の割合で混合した人工中間 Galから50 Galずつ上昇させた.なお,盛土に亀裂が生 土(以下1:1),Case 2では3:1で混合し細粒分含有 じた場合には,同加速度の繰返し加振を行うこととし 率を変化させた人工中間土(以下3:1)を使用した. た. 物性値を表-1に示す.また,地山に用いた中間土は両 3. 実験結果および考察 Caseとも1:1とした.地山の地盤材料を1:1とし各Case 図-3に盛土の崩壊状況を示す.図中には側面のメッ で変更せず実験を行ったのは,地山は変形しないとい シュから求めたすべり線(点線),盛土内の浸透水位 う仮定の基,盛土の崩壊のみを比較するためである. 線(実線)を示す.また,亀裂発生時の入力加速度は 模型地盤は地山および盛土の勾配を1:1.5,盛土高を Case 1では642 Gal,Case 2では631 Galとなった.各Case 250 mmとした.両Caseとも締固め度は地山Dc = 70 %, の崩壊形態について比較すると,亀裂の発生箇所は異 盛土Dc = 65 %とし,含水比は最適含水比の± 0.1 %で調 なりCase 1よりもCase 2では地山に近い場所で発生し 整を行い,仕上がり層圧25 mmとして密度管理を行い たことがわかる.これらの要因を,盛土に作用するせ ながら作製した.実験では,所定の注入口から水を地 ん断力に着目した応答加速度倍率分布(図-4 参照) と亀裂発生時の水圧の経時変化(図-5 参照)から考 察する.応答加速度倍率は,各計測点での加速度の最 大値をその時点の振動台の加速度で除すことで求め ている. 図-4より,Case 1は盛土中腹部の地表面で局所的に 加速度が増加しており,盛土中腹部でせん断力が大き Case 1 く作用していることがわかる.一方,Case 2は盛土全 体が同レベルの加速度で振動し,局所的なせん断はな かったと考えられる. 図-5より,Case 1では盛土中腹部のP4での水圧の上 昇が著しい.P4付近では加振開始と共にせん断力が大 きく作用し,水圧が上昇した.P3のみがマイナス方向 に増加しているが,1:1では細粒分を多く含むため, Case 2 サクションの発生が考えられるが,詳細は不明である. 図-3 盛土の崩壊時の状況 また,水圧の上昇よりも早くV2(天端)の変位が発生 Case1 (641Gal) 亀裂前 亀裂発生時 ( 642 Gal) Case2 ( 611 Gal) 亀裂前 亀裂発生時 (631Gal) している.水圧の上昇よりもクラックの進展が早く, 崩壊が進む要因となった. Case 2では盛土のり尻付近に設置してあるP3での水 圧の上昇が著しいことがわかる.また,P3が先行して 上昇しているものの,V2(天端)の変位は水圧の上昇 1 1.21.4 1.6 1 1.2 1.4 1.6 1 1.2 1.4 1.6 1 1.2 1.4 1.6 と同時刻に発生している.Case 2ではCase 1に比べ砂 加速度倍率 図-4 応答加速度倍率 分が多く,盛土内の過剰間隙水圧が上昇し,有効応力 により低下することでのり尻部が流出し,これに伴い すべり面が形成されることで上の土塊がすべり落ち 崩壊に至った. 以上より,Case 1では盛土中腹部,Case 2でのり尻 的にすべり崩壊をした.このことが亀裂を地山側で発 生させる要因となった. 0 1 2 4 5 -0.5 V2 V3 P1 P2 P3 P4 P5 0 0.0 1.0 Elapsed time [sec] 0.5 0.0 3 Case 1 1.0 Pore water pressure [kPa] Case 2ではのり尻部から盛土全体が一体となって流動 0.0 0.5 0.5 1 2 3 4 5 Case 2 -0.5 0.0 Displacement [mm] でのせん断力の低下により盛土上部から崩壊した. 0.5 V2 V3 -0.5 が変形開始地点(弱点)となった.また,Case 1では, 加速度が局所的に増幅し,水圧が上昇する盛土中腹部 1.0 P1 P2 P3 P4 P5 Displacement [mm] 生していると考えられる.のり尻付近の強度が液状化 Pore water pressuure [kPa] が失われることで,盛土内では液状化に似た現象が発 1.0 -0.5 Elapsed time [sec] 4. まとめ 図-5 亀裂発生時の間隙水圧の経時変化 今回の模型実験では,盛土を構成する地盤材料の細 粒分含有率を変化させた模型地盤に対して振動台実 参考文献 験を実施し,盛土の崩壊機構を検証した.細粒分含有 1)好井ら:中越沖地震における高町団地の盛土崩壊地の土質 率が高いCaseでは盛土中腹部での応答加速度が増加 特性,第42回地盤工学研究発表会講演集,pp.1811-1812,2007. によりそこが弱点となって崩壊し,細粒分含有率が低 2)永田ら:地下水浸透状態における中間土で構成された盛土 いCaseではのり尻部が液状化することにより流動的 の崩壊機構に関する振動台実験,第43回地盤工学研究会講演集, に崩壊することを確認した. pp.1585-1586,2008.
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