法学既修者認定試験

法学既修者認定試験
B 日程入試(平成 17 年 3 月 13 日実施)
※ 貸与の六法のみ参照可
民法 ······························ 2 頁
憲法 ······························ 3 頁
行政法 ··························· 4 頁
商法 ······························ 5 頁
民事訴訟法 ····················· 6 頁
刑法 ······························ 7 頁
刑事訴訟法 ····················· 8∼9 頁
民法
B 日程
【第1問】
Aは、Bとの間で1000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約を締結した。その際、Cが、
Bの連帯保証人となった。ところで、この連帯保証契約は、Cの息子Y1の無権代理行為に基づ
くものであった。その後、Xが、AからAのBに対する債権を譲り受けた。ところが、Cが死亡
したので、Y1とCの妻Y2が、Cの相続人としてCの財産を各々2分の1の割合で相続した。
Xは、Y1・Y2に対して、連帯保証債務の各2分の1について支払いを求め、予備的に無権代
理人としての責任を追及した。Xの請求は認められるか? Y1に対する請求とY2に対する請
求とにわけて、それぞれについて論じなさい。
【第2問】
2004 年 12 月 1 日、改正民法が公布された。2005 年 4 月 1 日施行の予定である。
ところで改正前の民法 162 条 2 項は、
「十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産
ヲ占有シタル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス」と
規定していた。現代語化された改正民法では、162 条 2 項は、
「十年間、所有の意思をもって、
平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、
過失がなかったときは、その所有権を取得する。」となっている。
すなわち、改正前の「不動産」となっていたところが「物」という言葉に置き換えられてい
る。これは、改正民法では 162 条 2 項の適用対象が動産にも広げられたことを意味する。
しかし、改正前の民法の同条同項の解釈にあたっては、動産にも 162 条 2 項が類推適用さ
れるべきだとする解釈が定着していた。改正民法はこの確立された学説に基づいて、動産にも
162 条 2 項の適用があることを明確にするために「不動産」を「物」に改めたわけである。
ではなぜ、改正前の民法解釈において、文言上「不動産」のみを対象にしているように見え
る条文が、動産についても類推適用されるという解釈が定着していたのだろうか。そのように
解さないとどんな不都合があったのだろうか。それを説明しなさい。
2
憲法
B日程
問題 次の事例を読み、以下の問に答えなさい。
(事例)
X地方裁判所判事補Yは、裁判官が発令する令状により、警察の捜査の一環として行
う電話の傍受を可能とする、法案の策定作業が、政府部内で行われている際、A新聞にその身分
を明らかにして、裁判官がほとんど検察官、警察官の言いなりに令状を発布している実状からす
れば、人権侵害が発生する恐れが強いことを指摘する投書を行い、それがA紙に掲載された。ま
た、Yは、同法案に反対する団体が主催する集会に、パネリストとして参加することを要請され
て応諾したが、これを知ったX地裁所長により、そのような集会に参加すれば懲戒処分もあり得
ることを警告された。そこで、Yは、パネリストとしての集会参加は見合わせたが、会場のフロ
アから発言し、所長から警告されたため、パネリストとしての発言を辞退する旨を述べた。
X地裁は、裁判官会議を開き、Yの行為が裁判所法第 52 条が禁止する「政治運動」に該当する
ため、Yに対する分限裁判を申し立てることを相当として、Z高等裁判所に申立てを行い、Z高
裁は、Yに対し戒告処分を行った。
問
この事例に関し、憲法上の論点を整理するとともに、当該戒告処分の憲法適合性について論
じなさい。
参考:裁判所法第 52 条
「裁判官は、在任中、左の行為をすることができない。
一
国会若しくは地方公共団体の議会の議員となり、又は積極的に政治運動をすること。
二
最高裁判所の許可のある場合を除いて、報酬のある他の職務に従事すること。
三
商業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。
」
3
行政法
B 日程
政府は、1953年来「公務員に関する当然の法理として、公権力の行使又は国家
(その後、公の)意思の形成に参画する職務に関しては、日本国籍を必要」とすると
の行政解釈をとっている。
以下の問いに答えなさい。
(1) 行政法学上の「公権力の行使」概念について述べなさい。
(2) 問題文にいう「公権力の行使」の範囲について説明しなさい。
4
商法
B日程
定款による株式の譲渡制限に関して次の問いに答えなさい。
問1
甲会社の定款には、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の規定がある。株主Aは20
04年6月25日に甲会社に対して、株式をBに譲渡することの承認と、これを承認しないとき
は他に譲渡の相手方を指定すべき旨とを請求した。甲会社の取締役会は、Bへの株式譲渡を承認
せず、先買権者としてCを指定し、同年7月5日にその旨をAに通知した。しかしAは、甲会社
およびCに対して、同年7月10日到達の書面により、譲渡承認請求および相手方指定請求を撤
回する旨を通知した。
他方でCは、同年7月12日に商法204条の3第3項所定の金銭を供託し、またAに対して、
7月13日到達の書面で株式売渡請求をした。さらにCは、株式の売買価格につき協議が調わな
いとして、商法204条の4第1項により、裁判所に売買価格の決定を請求した。しかしAは、
譲渡承認請求および相手方指定請求を撤回したのであるから、AC間に株式売買契約は成立して
いないと反論した。
株式譲渡承認請求および相手方指定請求をした株主がその請求を撤回することのできる時期に
関する論点を指摘し、上記設例におけるAの請求撤回の可否について論じなさい。
問2
甲会社の株主はD1名である。定款に株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある
にもかかわらず、Dは甲会社取締役会の承認を得ないままで株式をEに譲渡した。この株式譲渡
の効力について簡潔に論じなさい。Eから名義書換えの請求を受けた場合、甲会社はその請求を
拒むことができるか。
5
民事訴訟法
B日程
甲は乙から家屋の建築を代金9000万円で請負い、請負代金の一部3000万円
の支払いをうけた。甲は右家屋を完成させ、残金のうち4000万円の支払いと引換
えに右家屋を引渡した。ところが乙はその後、残りの2000万円を支払わなかった。
そこで甲は乙に対し右2000万円の支払いを求めて給付の訴えを提起した。右訴訟
の係属中甲乙間に訴訟上の和解が成立し、和解調書が作成された。その内容は「甲は
右2000万円を1000万円に減額する。乙は和解成立の翌月から毎月末各200
万円づつ5回支払う」というものであった。しかし、乙は右家屋に重大な欠陥がある
と主張して右和解上の債務を一回も支払っていない。
このケースで考えられる法律上の問題点を指摘して解説せよ。
6
刑法
B日程
AはBに対して「Cを射殺せよ」と指示し、銃弾の装填された拳銃を渡した。Bはこれによっ
てCを射殺することを決意し、明日実行する旨をAに表示して拳銃を受け取った。翌日、Bは予
定通りCを射殺する意思でCを待ち伏せ、通りかかったCの面前で至近距離からCの胸部めがけ
て当該拳銃を 3 回発射した。ところが、この拳銃は実は模造拳銃であり、装填された銃弾も全部
空砲であって、銃としての殺傷機能は全くなかったが、Cは重い心臓病を患っていて驚愕・恐怖
により心停止を起こして死亡する危険を有していたところ、眼前で突然に拳銃を突きつけられて
発砲されたことに極度の驚愕・恐怖を覚え、そのために心停止を起こして、その場で死亡した。
Bとしては、実弾の装填された真正拳銃でCを射殺する意思であって、Cの病気については全く
知らず、Cの死亡態様は予想外の事態であった。しかし、AはCの病気について熟知しており、
Bに空砲の模造拳銃を渡したのも意図的にしたことであって、Cが驚愕・恐怖による心停止のた
めに死亡する可能性が相当高いと認識しながら、そうなることを期待していた。A・Bの罪責如
何。
7
刑事訴訟法
B日程
次の 2 題のうち 1 題を選び、答えなさい。
①次の設例について、訴訟法上の問題点を指摘しなさい。
警察官Aは、街頭犯罪予防のため自転車でパトロール中に、ある時計店の店頭で口論をしてい
る男女を発見した。Aが「どうしたのですか」と尋ねたところ、店主らしき女性Bがもう一方の
男性の袖口をつかんだまま「この人、万引きしたんです」と答えたので、Aはもう一方の男性C
に事情を聞こうとした。ところがCは、Bの手を振りほどいて何も答えないうちに逃げ出し、A
はやむなくCを追跡した。ところが、Cが巧みに路地に逃げ込んでしまったため、Aはすぐに追
跡をあきらめ、Bのところに戻って被害品や犯行状況を確かめることにした。Bによれば、Cは
商店街でも目を付けられている万引き常習者であり、この日もふらりと店頭に現れ、商品を手に
取ったりするので、警戒していたところ、Cが商品棚からコートのポケットに腕時計を素早く入
れたように見えたので、駆け寄って「ポケットの中身を出しなさい」と言い、万引きを否定する
Cと口論になったとのことであった。ただし、Bは盗られたという腕時計のメーカー名や型番を
特定することはできず、
「Cの住居は分かっているから連れてきてほしい。盗ったものはCに直接
確かめればわかる」というので、AはBから教えられたCのアパート(B方からは約 500 メート
ルの距離であった)に赴いた。
C方に赴いたAがドアをノックしたところ、返答はなく、ドアは施錠もされていなかったので、
Aは室内でCを待ち受けることにし、ドアの内部に潜んでいたところ、約 5 分後(Aが追跡を始
めたときからは約 10 分後)にCが戻ってきた。AはCがドアを開けたところをいきなり押さえつ
け、片腕を後ろ手にねじりあげた姿勢のままCの所持品を着衣の上から確かめようとした。しか
しBのいう腕時計らしい堅いものはポケットには入っておらず、そのかわりにコートの側面のポ
ケットに何か袋状のかさばるものが入っていることがわかったので、AはCの承諾を得ることな
くポケットに手を差し込んで中身を取り出した。するとそれは透明のビニール袋に入った褐色の
塊で、一見大麻のように思われたので、AはCに「これは大麻だろう、確かめる必要があるから
一緒に署まで来てもらう」と申し向け、パトカーの応援を頼んでCをパトカーに乗せ、所轄の警
察署に同行した。警察署についてすぐにCの所持していた袋の内容物を試薬検査したところ、大
麻であることが確認されたので、AはCを大麻所持の現行犯人として逮捕した。
②次の設例について、当番弁護士制度の意義を述べたうえで、訴訟法上の問題点を指摘しなさい。
弁護士であるAは、B県弁護士会の刑事弁護委員会に所属し、刑事弁護に携わることが社会的正
義にかなうやりがいのある仕事であるという信念を持っていた。B県弁護士会では、当番弁護士
制度の運用にあたって、刑事弁護委員会が早期の弁護人の援助が必要と判断した重大事件や少年
8
事件などについては、弁護士選任権者の依頼がなくとも当番弁護士を接見に赴かせる制度(委員
会派遣制度)をとっていた。
Aが当番に当たっていた平成 16 年 4 月 3 日に、B県内で発生した殺人事件について被疑者が
逮捕され、C警察署に留置されていること、被疑者が犯行を否認しており、捜査本部が厳しく被
疑者を追及中であることが新聞で報道された。この報道を知ったB県弁護士会刑事弁護委員会は、
直ちに当番弁護士の派遣を決定し、それを受けてAはC警察署に接見に赴いた。ところが、Aに
応対した警察官は、「被疑者は弁護士選任を希望していない」「弁護士選任権者の依頼もなく接見
に来ても、接見させるわけにはいかない」などと述べて接見を拒否した。この警察官の対応に立
腹したAは、「接見できるまで俺はここを動かない」「あくまで接見を拒否するなら弁護士会から
しかるべき対応をとるぞ」と大声を張り上げ、それを聞きつけてやって来たC警察署の副署長と
交渉して、
「弁護士選任の意思を確認する限度で」接見するという条件で認めさせた。そして、被
疑者Xと接見したAは、殺人被疑事件についてXの依頼により弁護人になることとなり、警察官
に弁護人選任届を提出してC警察署を退出した。
ところが、その直後、Xは取調室に呼び出され、Aとの接見の内容について詳しく事情を聴取
された。それに対し、XはAから受けたアドバイスの内容に正直に答えたが、取調べにあたった
警察官からは、
「Aは弁護人選任の意思の確認という約束で接見したのだから、事件についてアド
バイスするのは約束違反だ、約束を守らないような弁護人を頼りにしているとおまえ自身が痛い
目にあうぞ」と言われた。警察官のこの言葉に不安を覚えたXは、別の弁護人を頼んだ方がよい
のではないか、という気になり、警察官に別の弁護人を頼んで欲しいと依頼した。
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