神経細胞の発火をリアルタイムで観察する

平成 23 年 3 月 4 日
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
本件の取り扱いについては、下記のとおりです。
新聞(紙面掲載)
:
日本時間 平成 23 年 3 月 8 日(火)朝刊
テレビ・ラジオ・インターネット: 日本時間 平成 23 年 3 月 8 日(火)午前 5 時
神経細胞の発火をリアルタイムで観察する
カルシウムイメージングで神経活動を可視化する新たな研究方法を開発
神経細胞は、体中にネットワークをはりめぐらし、
「歩く」というような運動から、
「考える」というような
高度な活動までを司る、動物の生存にとってなくてはならない役割を果たしています。このような脳や脊髄、
抹消における神経のはたらきを理解するためには、神経細胞一つ一つの活動の様子を実際に目で見えるように
することがとても重要です。
今回、国立遺伝学研究所 武藤 彩(むとう あきら)研究員、川上 浩一(かわかみ こういち)教授らは、
脊椎動物のモデルであるゼブラフィッシュ(注1)を用いて神経細胞の活動の様子をリアルタイムで観察する
ことに成功しました。神経細胞では、電気活動に伴って細胞内カルシウムイオン濃度が上昇します。今回の研
究では、ゼブラフィッシュが左右交互に筋肉を収縮させる運動における運動神経の活動を、カルシウム濃度の
変化を GCaMP(注2)という人工蛋白質を利用して検出することにより、リアルタイムで観察しました。こ
の成功により、動物の様々な行動や脳内における記憶・学習といった複雑な現象を、実際に一つ一つの神経細
胞の活動として観察する道が切り開かれました。
本件は、国立遺伝学研究所、埼玉大学と岡崎統合バイオサイエンスセンターとの共同研究の成果です。
<研究成果のポイント>
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神経細胞の活動を検出できる高感度 GCaMP の開発に成功しました。
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モデル脊椎動物ゼブラフィッシュにおいて運動神経で特異的に GCaMP を発現することに成功しました。
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高感度カメラを用いて、カルシウム濃度の変化に応じた GCaMP の明るさの変化を検出することに成功
しました。

今まで動物のひとつひとつの神経活動をリアルタイムで観察する良い方法はありませんでした。
今回の研究は、これを可能にしました。
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これまでも神経細胞のカルシウム濃度の変化を、特殊な色素を用いることによって観察する研究は行われ
ていました。けれども、この方法では特定の神経細胞の活動を観察することは容易ではありませんでした。
今回の研究は、これを可能にしました。
米国科学誌 PNAS(2011 年 3 月 8 日 日本時間)に先行オンライン掲載
論文: Genetic visualization with an improved GCaMP calcium indicator reveals
spatiotemporal activation of the spinal motor neurons in zebrafish
a
b
a,1
c
b
著者: Akira Muto , Masamichi Ohkura , Tomoya Kotani , Shin-ichi Higashijima , Junichi Nakai ,
and Koichi Kawakamia,d
a: 国立遺伝学研究所 初期発生研究部門
b: 埼玉大学総合研究機構 脳科学融合研究センター
c: 岡崎統合バイオサイエンスセンター
d: 総合研究大学院大学 遺伝学専攻
1: 現所属 北海道大学
本資料の写真を無断で転載することを禁止します。必ず事前にお問合せください。
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平成 23 年 3 月 4 日
<図表>
図1: ゼブラフィッシュの脊髄を背中側から見て
います。脊髄の両側に縦に一列に並んだ運動神経
の活動を経時的にカルシウムイメージングにより
視覚化しています。カラーはあとからつけたもの
です。一番左側のパネルでは脊髄の左側の縦一列
の運動神経が強く発火(明るいオレンジ色)して
います。次に右側、左側、右側と交互に神経が活
動している様子が見られます。この神経の活動が、
人間が歩く際に起こっている左右交互の筋肉の活
動に似た、ゼブラフィッシュの体幹の筋肉を左右
交互に収縮させる運動を引き起こします。
<補足説明>
注1:ゼブラフィッシュ(学名 Danio rerio)は、体長 5cm ほどの
小型熱帯魚です。シマウマ(ゼブラ)のような、きれいな縞模様が
特徴です。繁殖と飼育が容易であること、体外受精し胚が透明であ
るため初期発生過程の観察・操作が容易であることから、脊椎動物
の形態・器官形成や行動などの生命現象を遺伝学的に研究するため
のモデル動物として、世界中の研究室で用いられています。
注2:GCaMP(ジ―キャンプ)は、埼玉大学の中井淳一教授が発明した GFP を改造した人工蛋白質
です。GCaMP にカルシウムが結合すると、蛍光強度が増加します。
<問い合わせ先>
国立遺伝学研究所 知的財産室(広報担当)
室長
鈴木 睦昭
連絡先 055-981-5831
携帯:090-1861-6800
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