日本人向けアラビア語カリキュラム編纂と日本語の特徴 サラーフ マダニー ムハンマド アブドゥッラハマーン著 あいさつ 言語の特徴は、私たちに、音声規則・語形変化・文法などのこの言語の構成規則を示してく れます。そして言語の違いや相似は、言語を構成するこれらの規則の類似あるいは相違によ るのです。この私のレポートが、日本語のこれらの特徴をすべて網羅することは不可能なこと です。ましてや、私は日本語の専門化ではありませんし、日本語を話せないのですから。しか し私は敢えてこのテーマを選び、実行しました。アラブの言語学者たちはその道の険しさと日 本語の複雑さ、そしてアラビア語による参考文献の少なさを恐れてこのテーマに与えられるべ き関心に背を向けてきたのだと私は思います。 このレポートは、短い日本滞在を通じて著者が知った、日本語の特徴を、現場で使用される 語学学習教材を用いて簡単に説明したものです。 前書き このレポートは日本語の特徴と東京のアラビア語学習カリキュラム作成において、日本語の 特徴をどのように考慮したかという側面を明らかにしようとしたものです。 ご存知のように、第2言語あるいは外国語を学ぶ者はそれを意識して行うにしろ無意識に 行うにしろ、学習する言語と母国語を比較するものです。 同様に、それら二つの言語の言語規則が同じであることは学ぼうとする言語の学習を容易 にすることを私たちは知っています。 アラビア語を学ぶ日本人はアラビア語の音声の学習において、日本語には存在しない音や タフヒーム(音を太く発音すること)・タルキーク(音を細く発音すること)などの、アラビア語の 幾つかの音声的性質というごくわずかな領域を除いて問題に直面することはないと想定され ます。 そして文法に関する日本語の規則はアラビア語のそれとは大きく異なりますが、これは二つ の言語に共通する文法テーマから始め、日本語にはない文法テーマで終えるという順序を戦 略的に置くことで問題を解決することができるため、私たちを困らせることはないと想定されま す。 また、アラビア語学習者は書くことにおいていかなる問題にも直面しないだろうことが予想さ れます。というのも日本語の書き方の規則の困難さや複雑さを考慮すれば、アラビア語の機 械的な書き方を学ぶことは簡単だからです。 対話や社会的な面に関することについては、日本語のこの面に関する多様さと複雑さは、私 たちがアラビア語を教えるにあたって、それを容易くしてくれています。 日本語の紹介 言語学者たちの日本語の源泉における意見は異なり、日本語の源泉がウラル・アルタイ語 に帰するとする者たち、タミール語だとする者たち、と幾つかの派に分かれました。しかし、日 本語が日本国内にいる者たち、ハワイ諸島にいる者たち、南北アメリカにいるものたち、日本 軍に占領された地域にあたる中国の幾つかの土地にいる1億2千万人の人々に話されてい ることから体現されるように、日本語の重要性はすべての派の者たちが確定さ認めていま す。 日本語は中国語や古代アイルランド語の学習よりも難しくはないと定着したヨーロッパ語を 話す人々の見方にもかかわらず、日本人の間には彼らの言葉が難しいという根強い信仰が 広まっています。 言語学者たちの何人かは諸言語を3つに分類しました: 1、 無声言語 2、 付着言語 3、 分析言語 無声言語とは単語の前後に付属するものを受け入れない諸言語で、その言語の文字は象 形を表わしています。中国語がこれを体現しています。この種の言語の学習は話し手がこの しるしを暗記する数に頼ります。 付着言語に関しては、この言語は単語の前後に一文字か二文字加えることが出来る言語 で、この付加がその単語の意味を変えることをもたらします。英語やトルコ語がこれにあたり ます。 三つめは分析言語です。この言語は単語の格・文法・人称を決定する方法における規則を 含むことで他と区別されます。アラビア語がこれにあたります。 私たちはアラビア語が単語において語形変化の秤に律された変化する語形変化する言語 であることを見つけます。 ですから、もし私たちが「アラファ(彼は知った)」という単語の意味を知っていれば「ヤアリフ (彼は知る)、アアリフ(私は知る)、イウリフ(知りなさい)、アーリフ(知る者)、マアルーフ(知ら れている)、マアリファ(知ること)・・・etc.」という言葉の意味を、それぞれの単語の意味を覚え ることなく知ることができるのです。 その規則と詳細さが置かれた文法に関して言えば、それはアラビア語を包括的に知る鍵で あり、対話においてその文章に隠された意味や意味の深さを知らせる修辞学(バヤーン・マア ーニー・バディーウ)の規則を知る鍵となっています。 さて、この三つのグループの中にアラビア語を当てはめることを終えましたが、それでは日 本語はこの分類においてどこに位置することになるのでしょうか? 日本語が他の言語とは区別される状態は、この言語を第1のグループと第2のグループに 同時に位置付けさせます。というのは日本語を「漢字」において象形文字に頼る無声言語と すれば、付着言語である「ひらがな」と「カタカナ」を位置付けられなくなってしまうからです。 日本語規則の特徴づけ 音声規則 日本語の音声規則は音を無声音(子音)と有声音(母音)に分類しています。これはアラビア 語や他の言語と同じです。 日本語の母音は A I U E O です。 子音は K S T N H M Y R W です。 日本語は音節を組み合わせてできる言語です。つまり、すべての音節は母音でおわらなけ ればなりません。殆どの音節は子音が来てその後に母音が続きます。これは日本語とアラビ ア語の類似点で、読み方とアラビア語音声教育のカリキュラムは、無声音プラス有声音といっ た音節を含む幾つかの音節という形でこれに基づいて編纂されています。 単語 日本語の単語は三つのグループに分類することができます。 1、 元来の日本の単語、日本語の単語の多くがこれに含まれる。 2、 中国語から伝わった単語、これは第2段階です。 3、 ヨーロッパあるいはアジアの諸言語から伝わった単語、この種類は最も多く成長し広まっ ています。 日本語民族専門学校が行った研究によると、これら三つのグループの単語の繰り返しはテ ーマによって決まってくることを明らかにしました。 例えば雑誌ではその50%が第1のグループ、40%が第2のグループ、10%が第3のグル ープとなっています。 新聞に関していえば第2のグループが最も多く単語に使われています。 文章の規則 どの言語にも文章における単語の並べ方の基本法則があります。 ですから ヤスタフディム スズキ アルハースーブ という文は動詞「ヤスタフディム」と主語「スズキ」と目的語「アルハースーブ」から成り立ってい ます。同じ文でも日本語では異なる順序をとってこのようになります。 スズキがコンピューターを使う。 スズキ アルハースーブ ヤスタフディム 日本語では動詞が文の最後にきて、主語が前にきます。そして目的語がそのあとにくること になります。 この文を見直してみると、主語の「鈴木」のあとに「が」きています。これは主語を示すしるしで 主語の後に続き、「を」は直接目的語を示しその後に続きます。また時として「に」がくることも あり、これは間接目的語でその後に間接目的語がきていることを示します。 これらの規則に基づいて日本語の文において主語・直接目的語・間接目的語の位置を変化 させることができます。以下の例に注目してください。これは文における推定順序です。 アアター スズキ アハマダ ハースーバン 鈴木がアハマドにコンピューターをあげた。 鈴木がコンピューターをアハマドにあげた。 アハマドに鈴木がコンピューターをあげた。 コンピューターを鈴木がアハマドにあげた。 アハマドにコンピューターを鈴木にあげた。 コンピューターをアハマドに鈴木があげた。 常に文の最後にくるべきである動詞の位置はかわりません。 この特徴を利用して、様々な順序でアラビア語の文を提供することが出来ます。 例)ジャーア アハマド ミン アッスーク アハマド ミン アッスーク ジャーア ミン アッスーク アハマド ジャーア ミン アッスーク ジャーア アハマド また日本語の動詞は数や性を示しません。ですから日本人は一つの形の動詞を単数・双数・ 複数・男性・女性に使います。 動詞の変化 1、現在の肯定 日本語 アラビア語 食 べ ま ヤアクル/サ ヤアクル す 日本語の現在・肯定のムルフィムは接尾辞「ます」で表わされ、それはアラビア語の「未完了 形の文字」に相当します。 2、過去の肯定 日本語 アラビア語 食べました アカラ 日本語の過去・肯定のムルフィムは接尾辞「ました」で、これはアラビア語の過去動詞の最後 に表れるファトハに相当します。 3、現在の否定 日本語 アラビア語 食 べ ま せ ラム ヤアクル ん 日本語の現在・否定のムルフィムは接尾辞「ません」で、これはアラビア語の未完了形のムル フィムに付け加えられる未完了形否定「ラム」のムルフィムに相当します。 4、過去の否定 日本語 アラビア語 食べませんでした マー アカラ 日本語の過去時制・否定のムルフィムは接尾辞「ませんでした」で、これはアラビア語の過去 のムルフィーム「ファトハ」に付け加えられた過去・否定のムルフィムに相当します。 名詞に関連するもの 1、単数形・双数形・複数形 日本語 アラビア語 子供が来た ジャーア ワラドゥン 二 人 の 子 供 が 来 ジャーア ワラダーニ た 大 勢 の 子 供 が 来 ジャーア アウラードゥン カスィールーナ た 日本語において双数と複数は、それぞれ「2」という数詞と「多い」という形容詞を用いて表現 されます。 2、形容詞 日本語 アラビア語 これは背の高い先生で ハーザー ムダッリスン タウィールン す 日本語において形容詞は形容される語よりも先にきます。これは形容される語が形容詞より も先にくるアラビア語とは異なります。 3、属格による限定構造 日本語 アラビア語 かばん売り場はどこ? アイナ キスム アットゥルーディ? 限定される語が限定する語よりも前にくるアラビア語とは異なり、日本語では限定する語が限 定される語よりも前にきます。 4、限定名詞と非限定名詞 日本語 アラビア語 これは本です ハーザー キターブン この本 ハーザルキターブ これはペンです ハーザー カラムン このペン ハーザルカラム 日本語における非限定名詞のムルフィムは「これは」に接尾辞「です」が加えられたもので、 限定名詞のムルフィムは「この」になります。 5、疑問詞 日本語 アラビア語 かばん売り場はどこですか? アイナ キスムットゥルーディ? このカメラはいくらですか? ビカム ハーズィヒルカーミーラー? 日本語の疑問詞は文章の最後にやってきて、疑問のムルフィムは「か?」です。 東京のアラビア語教育カリキュラムとは何か? それは第1回日本とアラブの対話シンポジウムの産物の一つです。そのシンポジウムで出 たアドバイスの中で、アラブ イスラーム学院は日本におけるアラビア語教育における役割を 強化し、日本における外国語教育の技術の進歩に見合ったカリキュラムの発展を行うべきだ というものがありました。 そして学院においてカリキュラム委員会が構成され、このカリキュラム編纂という義務が課 されました。 そして30回以上の会議が開かれ、レベル1のカリキュラム編纂が成し遂げられ、次いでレ ベル2の教科書の編纂が計画されました。 東京のアラビア語教育カリキュラムの目的 このカリキュラムは幾つかの能力獲得実現を目指しています。 1、 語学力:ヒアリング・会話・読み方・書き方という語学力に加え、音声・語彙・構成という言 語要素を包括している。 2、 伝達力 3、 文化的能力 カリキュラムの対象 個人名や場所名などのカリキュラムの内容の幾つかの変更をともなって、アラブ イスラー ム学院の初級の学生たち向けに作られました。 イマーム大学付属の在外学校のすべての学生たちに適するものとなっています。 カリキュラムの教育に費やされる時間 1学期4ヶ月で週20時間、つまりそれぞれのレベルで320時間の授業でこの教科書が終了 されます。 カリキュラムの文化レベル このカリキュラムは礼儀作法・挨拶表現・ふさわしいお世辞などイスラーム文化の様相を学 生たちに提供し、学生にアラブとイスラームについての考えを与えます。 またレベル4においては何人かのイスラームの歴史的人物やアラブ・イスラーム世界の地 理に関連するテーマを提供します。 東京におけるアラビア教育カリキュラムで計画されたもの このカリキュラムは次のものから成り立っています。 1、 レベル1 -会話とヒアリングの教科書 -書き方の教科書 -読み方と文法の教科書 2、 レベル2 -会話とヒアリングの教科書 -書き方の教科書 -読み方と文法の教科書 3、 レベル3 -会話とヒアリングの教科書 -書き方の教科書 -読み方と文法の教科書 4、 レベル4 -会話とヒアリングの教科書 -書き方の教科書 -読み方と文法の教科書 5、 付属教材・施設 -カセットテープ -語学練習問題と遊びの CD の製作 -写真と音声付の辞書(CD) -ビデオテープ -写真・絵・カード -インターネット上の学生サイト -学院内のコンピュータールーム また全レベルの教科書は学生用と教師用の2冊を含んでいます。 アドバイス 1、アラビア語と日本語間の比較研究重視に重点が置かれ、日本とサウジの双方によるアラ ブ イスラーム学院監督下の科学委員の結成。そしてその委員会がアラビア語・日本語 語学研究雑誌の発行を強化すること。 2、相応しい予算付与による情報センターと学院における翻訳作業の統一の活性化。
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