第4回 生産リードタイムをどうとらえるか

いまさら聞けない生産管理懇談会 議事録
リードタイムについて
2011年10月27日
特定非営利活動法人 技術データ管理支援協会
教育委員会
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1.P社の事例
機密保持のため、プレゼンテーション資料や工場内の写真は記載できない。
• 2011年8月に行った工場見学の報告
– 地場産業に生産委託していたが、JIT生産方式を持つEMS企業に委託
変更。
– 月次発注方式から段階的に小ロットのJIT生産に移行
– 生産リードタイム 1ヶ月 → 0.5日
• ビジネスモデルを変えるよう、EMS企業から逆提案した。
– 在庫量 3ヶ月 → 2日
• オプション部品の調達方法に一工夫し成功(内容は機密)
– 計画ローリングの回数増加 → 部品調達を需要変動に連動させる。
• 事例の評価
– リードタイム短縮により、需要変動に即応できるようになった。
– その結果としてEMS企業は生産を平準化でき、十分な利益をあげられ
た。
– 部品メーカにローリングした計画を開示することが、JIT生産に対応する
部品供給を可能にしている。
– このようなビジネスモデルであれば、工場を海外に移す必要がない!!
• 移せば却ってコストが増え、市場変化への対応力が低下する。
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2.リードタイムをどう捉えるか
• 納期見積もりの立場
– お客様が注文して、商品がお
客様に渡るまでの期間
• 一般に短い方がお客様に
とって都合がよい。
• 売れ行きのよい商品の場合
は、待つことを楽しみにする
お客様が出てくる。
• しかし、約束は守る必要があ
る。
– 納入リードタイム
• 生産する立場
– 生産を許可/指示して、原材
料投入し、加工して製品が完
成するまでの期間
• 特急で作る場合と、普通に作
る場合では大幅にリードタイ
ムが違う。
• 無理しないで、普通に作ると
きのリードタイムは意外に変
動する。
• 納期を守るのはかなり難しい。
– 生産リードタイム
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3.固定リードタイムに関する事例:K社
• 製品仕様をお客様の注文に合
わせて調整する必要がある。
– お客様から指示が来たとき、
納期回答する必要がある。
– 困ったことに、納入直前に変
更される場合がある。
• お客様の側の工期が決まって
おり、タイムリーに納入しなけ
ればならない。
– ところが、様々な事情でお客
様側の工事の進捗が変動す
る。延期されることが多い。
– 製品納入が遅れると仕様変
更が起きやすい。
• 生産リードタイム
– 製品組立ラインに載ると1日
で完成する。
– 顧客仕様に合わせて材料を
揃えるために時間が掛かる。
– あらかじめ多様な寸法で材料
取りして、自動倉庫に保管し、
注文に合わせて出庫している。
しかし、欠品が発生する。
• K社の対応
– 営業と工場で話し合い、注文
確定から工場出荷までのリー
ドタイムを2週間にすると互い
に約束した。
– 材料取りの遅れを防ぐため、
大ロット高速の材料取り機械
を設置した。
– その結果はどうなったでしょう
か?
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どうなったか
営業部門は
• 顧客の納期変更と仕様変更は
止まらなかった。
• 営業は納期に間に合わせよう
と、仕様を推定して注文を入れ
た。
• 仕様変更になると、推定により
できた製品を営業責任で転売
することにして物流倉庫に納
めた。
• 巨大な倉庫を建て、物流管理
システムを構築した。
• 転売品は安いのでよく売れた
が、利益はあまり出ない。
工場は
• 注文に波があり、月末は忙しく
残業しても間に合わない。
• 月初は暇になるので、営業が
入れた注文を前倒しして生産
した。
• 素材が多種類あり、高価で購
入リードタイムが長い。仕様変
更に間に合わせるために、他
の仕様に合わせて材料取りし
た材料を再加工した。
• MRPシステムで材料の過不足
を計算して確認し、再材料取り
にまわしたが現場は頻繁に材
料待ちで止まった。
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K社の取るべき対策は何でしょうか?
• 材料取り工程の小ロット化
• 自動倉庫をできるだけ使わな
いようにすること
• 材料を横取りされない製番管
理方式の導入
• 負荷状況を反映する納期見
積・回答システムの構築
• 仕様未定の顧客に対する仕様
決定時期の提示
• 顧客の工事進捗把握と工場へ
の開示
• 営業は工場の負荷が偏らない
ように注文を取ること。
– 顧客の工事は一定のペース
で進む。月内では需要変動は
起きていない。
• 工場は売れる製品を作り、納
品して売上高を増やすよう努
力すること。
– 生産リードタイム短縮と
– 機動的生産
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4.生産リードタイムの構成要素
– 給油や金型摩耗と取り替えの
配慮が必要な場合がある。
• 計画サイクル
• 指示待ち時間
• 加工待ち時間
–
–
–
–
• 輸送時間
–
–
–
–
設備・機械待ち
技術・技能者待ち
治工具・金型待ち
保全、修理
• 品揃え時間
• 段取り替え
– 前段取り、外段取り
– 後段取り
• 加工時間
– 加工単位数
– サイクルタイム
– 加工数に比例
クレーン・フォークリフト待ち
台車待ち
輸送経路
輸送経路の混雑待ち
– 材料探し時間、搬出/搬入、
仕訳
• 購入時間
– 発注サイクル、発注リードタイ
ム、検査
• 材料待ち時間
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5.戦略的リードタイム設定
• 納入リードタイム
• 生産リードタイム
– 需要の性格を読む必要がある。
• 短ければよいというものではな
い。
• 顧客が個人あるいは企業
– 利便性を考慮すると値段は高く
てもよい場合がある
– 海外との取引で
• 注文のとりまとめ1か月、生産
で1か月、船便輸送で1か月
• 3か月のちに手に入る。生産だ
け縮めてもしょうがない
• リーマンショックのおりに在庫が
積みあがって客は困った
–
–
–
–
待つ楽しみ
ふつうは短いほうが良い
仕様確定から受け取るまで
客が製品を理解するのに合わ
せて仕様を決める場合がある。
– 家の建て替えでは仮住まいが月
単位。それより短くする意味が
少ない。
– モジュール化との関係
• モジュールを競合他社に渡さな
い
• コピーが出る恐れ
• 自社生産から購入へ
– ベネトン
• 生産の順番変更
• 染めて縫製 → 縫製して染め
る
– タイの缶詰生産
• 缶を自社生産してリードタイム
短縮
• ツナ缶は美味しくなるのは半年
後
– 販売への対応方法を考えて生
産リードタイム短縮を考えなけ
ればならない。
– 市場を一時的に占有するための
製品と、長期的な需要を満たす
ための製品ではリードタイムが
違う。
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続き
•
– 在庫の調整、手配を考慮して在
庫を持つ
– 短ければよいというものではない。
在庫が積み上げるとダメ。設計変
更の実行時期が遅れる。
– 在庫の調整、手配のリードタイム
を考慮して在庫を持つ
ある精密機械メーカー
– たくさん使われる部品のLTを短
縮したが、全体のLTは短くならな
かった
– オプション部品(クリティカルパス)
のLTを短縮しなかった
•
•
•
外からのものの見方を身につけないと
戦略的LTは設定できない
– トヨタは「後工程はお客さま」という
見方を現場にとり入れた。
– 顧客を見ない技術主導ではいけ
ない。
電気自動車の開発生産はどう考える
か。オープンなSCM。
– 電子制御でクルマの品質や機能
が変わる。
– クルマは変わる。社会を開発しよ
うとしている。
– レンタカービジネスもその一環
– すぐに乗ることができる使用LTを
考えるべき。
アマゾンは顧客を見据えてLTを短縮
– 電子出版のほうがLTは短い
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まとめ
•
リードタイムの概念規定が必要
– いつから、いつまでをリードタイム
と呼ぶか、実に多様である。
– 納入リードタイム、生産リードタイ
ムなどの内容を正確に概念規定
すべきである。
– たとえば、トヨタでは素材投入から
製品完成までを生産リードタイム
と考えているとのこと。生産リード
タイムを短縮すると、中間の在庫
が減り、製品仕様を素早く変更・
改良できる。それが製品の市場
対応力を高める。
•
リードタイムの戦略的設定
– リードタイムを放置してはいけな
い。生産設備の変更や、部品の
モジュール化などが様々なリード
タイムに影響を及ぼす。
– それはビジネス・モデルに影響を
及ぼし、サプライチェーンの中で
の企業の役割や地位をしかるべ
き方向に導く。
– リードタイムを戦略的に操作する
能力を持つ必要がある。
• 次回のテーマ:生産方式
– セル生産はこれでいのか(次
回)
– 国内生産と海外生産。グロー
バル化と製品の価値。
– 部品の海外調達率を日産自
動車は7割から9割にすると
いう。日本の部品メーカーをど
うするか?
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