先月号では排便のコンチネンスケアとして,排便障害のアセスメントについて解 説いただいた.今月は排便のコンチネンスケアの実際についてふれていただく. 看護の現場で排便障害患者にどうケアを提供していくかを考えてみたいと思う. (編集部) 9 西村 かおる●Kaoru Nishimura 日本コンチネンス協会会長 排便のコンチネンスケアの実際 を記入します.便の性状を表現するに イプです.直腸内触診をすると便があ は,ブリストル排便スケール (図2) を り,またコロコロでも多少なりとも排 排便障害は,便秘,下痢,便失禁な 用いると視覚的にも理解しやすく,患 便があるような場合は,直腸性が考え どに分けることができます.症状によ 者が記入するときにも表現に迷いませ られます.このタイプは腸刺激性の下 ってはそれらが混合していたり,また ん.排便日誌はケアに不可欠なもので 剤を服用すると,下痢となる可能性が 頻便が加わることもありますが,今月 すから,チームで徹底して,記入もれ あります.対処は直腸にある便を出し 号では,便秘,下痢,便失禁について がないようにして活用してください. やすくすることが求められ,直腸に便 はじめに のケア方法を解説します.これらのケ アを個別に述べる前に,前号でもふれ られた排便ケアの基本として重要な排 便日誌について述べます. 便秘は,結腸性の便秘と直腸性の便 秘に分類して理解すれば,ケアがしや が降りてきたタイミングをはずさない こと,排便しやすい姿勢の保持,洗浄 便座による肛門刺激や,摘便,坐薬, 浣腸といった方法がとられます. 排便日誌 (図1) は,便の出方を確認 すくなります (表1) .結腸性の便秘と 3日間排便がなければ,下剤の服用 することで,排便障害の種類と原因を は,腸の蠕動が悪いために起こるもの といったルチーン化されたケアを実施 判別すると同時に,個々人の排便周期 で,直腸内を触診しても便はありませ するのではなく,どちらのタイプなの に合わせたケアプランを立てるために ん.そのため,坐薬や浣腸を使っても か,排便日誌と直腸内触診によって判 不可欠なものです.またケアの結果も 意味がなく,このタイプの便秘は腸の 別して,適切な対処をとります.また, 排便日誌によって評価することができ 蠕動を改善することが求められます. このときにその人の排便周期をしっか ます.排便日誌には排便時間,場所, 便の性状・量,下剤や摘便などの有無 84 便秘のケア 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 直腸性の便秘は,便が直腸までは降 りとつかみ,その周期に合わせてケア りてきても,そこから排出できないタ を行うことは,患者の負担にならない *1 便の量とは「多い,普通,少ない」などと記入し,性状は図2のブリストル排便スケールの 7段階を参考に記入するか,もしくは「硬,普,軟,下痢」などと記入してもよい 表1 便秘のタイプを知る 特徴 タイプ ● 結腸性便秘 ケアの目的 腸の蠕動が悪いために 起こる ● 直腸から便を排出でき ない ● 解消方法 腸の蠕動を促進させる ● ● 排便を促進する食品の摂取 規則正しい排便習慣 排便のタイミングをはずさない 正しい排便姿勢 ● 洗浄便座の温水による肛門刺激 ● 摘便/坐薬/浣腸 ● ● 直腸性便秘 ● 直腸内の便の排出 排便の時間や便の量,性状 *1を記入.そのほか失禁の有無や腹 痛などの症状があれば,あわせて備考欄に記録しておく 量 月/日 時 間 / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : / : : 性 状 下剤等 時 間 量 非常に遅い 約100時間 1 2 短く固まった硬い便 3 やや硬い便 水分が少なく,ひび 割れている便 4 適度な軟らかさの便 5 やや軟らかい便 水分が多く,やや軟 らかい便 6 泥状便 形のない泥のような便 7 水のような便 備 考 消化器管の 通過時間 非常に早い 約10時間 コロコロ便 硬くコロコロの便 (ウ サギの糞のような便) 硬い便 普通便 水様便 下剤や浣腸など,排便に影響を与える投薬や処置,行った時間などを記入する 図1 排便日誌(案) 図2 ブリストル排便スケール だけでなく,ケアの効率を上げること の摂取量は25gとされています.食物 中でも積極的に摂取することが勧めら もできます. 繊維には水溶性繊維と非水溶性繊維が れます.また寒天に果物やオリゴ糖な あり,どちらも重要です.腸の動きが どを加えて,おやつとすることも比較 悪い人に非水溶性繊維ばかりを多く摂 的負担なく,排便によい食品が摂取で 取させると,かえって便秘になる可能 きます. どちらの便秘においても大切なケア のポイントを以下に記します. 〈食事〉 排便を促進する食品として,表2に あるようなものがあります. 日本人に推奨される1日の食物繊維 性もあり,バランスよく摂取します. しかし,排便を促進する食品への反 納豆やヨーグルトは調理の必要がな 応は個人差があります.牛乳で促進さ く,簡単に食べられることから,入院 れる人もいれば,スパゲティで促進さ illustration:安田雅章 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 85 *2 本誌10月号p.92∼の「正常・異常の境界はなに?」も参照 *3 本誌11月号p.68∼の「排便障害のアセスメント」も参照 表2 排便を促進するといわれている食品 食品 役割 具体例 便を軟らかくする 水溶性繊維 海草類,こんにゃく,オクラ,バナ ナ,リンゴなど 便の量を増やし,形をつくる 非水溶性繊維 たけのこ,ごぼう,豆類,イモ類,き のこ類,玄米,ブランなど 腸内の善玉菌を増やす 発酵食品,乳酸菌の好む 食品 ヨーグルト,納豆,キムチ,チーズ, オリゴ糖など 唐辛子,ガーリック,オリーブオイ ル,タマネギ,サツマイモ,プルー ンなど 蠕動運動を促す 便を出しやすくする 油類 オリーブオイルなど *一般的に便秘の人には水分摂取を勧めることが行われているが,脱水していなければ,尿になってし まうので, 1日の尿量が1,500mLを超えていれば,それ以上の水分摂取を勧める必要はない れる人もいます.その人に合った食品 また,便意はがまんしていると尿意 係に関する研究でエビデンスの高いも を探すことも下剤以外で対応する幅を と異なって消失してしまい,直腸性の のは見つかりませんが,腹筋や背筋が 広げますので,よい便が出たときの食 便秘を起こします.便意がないときに 鍛えられれば,坐位姿勢のバランスが 事を日ごろからメモしておくことも勧 排便しようと 「いきみ」 をかけても,肛 保て,いきみやすくなるなど,排便が められます. 門はなかなか開かず排便は困難です. しやすくなります*2. 〈排便習慣〉 便意を催したら,すみやかに排便を促 効率よく排便する姿勢は,足がきち 排便は消化管に食物が入ったあとに します.直腸に便があっても便意を感 んと床につき,膝より中側に入ってい 反射が起こりやすくなります.とくに, じなくなってしまった場合,洗浄便座 ること,やや前傾で横隔膜を下げた力 朝食は身体を寝た姿勢から起こしたば で刺激し,人工的に便意をつくって排 が,腹部の前壁ではなく骨盤底に向か かりであることや,長時間休んでいた 便を促進していきます.できれば,同 って伝わる姿勢です.この姿勢を保持 消化管に食物が入る刺激で腸が刺激さ じ時間帯に排便することでリズムをつ するためには,便器の高さ,手すりが れ,蠕動運動が高まり,最も大きな排 くっていきます. 前方にあるなど,一人ひとりの身長, 便反射が起こるといわれます.できる 86 〈姿勢と運動〉 バランス能力,円背の有無など確認し だけ朝食後にトイレに行く習慣をつけ 身体を横にしたままの状態だと,排 るようにします.しかしこれも個人差 便反射は起こりにくくなっているた があるため,排便日誌をつけて,出や め,身体を起こすことが排便には非常 すい時間帯にトイレに行くということ に重要です.寝たきりの状態での自然 緊張していると便は出にくくなりま が現実的です.一定のリズムをつける 排便は困難です.できるだけ坐位姿勢 す.プライバシーが保て,安全なトイ と排便習慣ができていきます. をとるようにします.運動と排便の関 レ環境*3を提供すること,また日ごろ 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 ながら調整します.リハビリスタッフ の協力を得ることが求められます. 〈リラックスと排便環境〉 表3 下痢時の食事摂取の基本原則 ずその原因を確認することが不可欠で す.原因として,感染,薬物,食事, a. 脱水,電解質異常に対する補給 手術の影響,原発性 (過敏性腸症候群 など) ,消化不良,全身性の疾患 (甲状 b. 原因疾患の治療と誘因の除去 腺疾患や糖尿病など) などがあげられ ます.発症の状態,随伴症状の有無な どを確認して,必要があれば便の培養 c. 腸管の安静 を行います.下痢のケアは原因に対し て対処することが原則ですが,ここで d. 腸内細菌叢の正常化 は,下痢に関して共通するケアをあげ ます. 〈脱水の予防〉 経口摂取ができる場合は,少量ずつ 水分を補給しますが,できるだけ身体 さ ゆ を冷やさないような温かい白湯,番茶, から腹式呼吸を勧めることによって, 整腸薬や浸透圧性,膨張性下剤など, 副交感神経を優位にしていきます. 便の性状を整える薬物から検討しま 〈薬物の使用〉 野菜スープなどを摂取します. 〈食事〉 す.整腸薬は効果が出るまでに時間を 急性の下痢は絶食として,観察をし 下剤の管理は看護師に任されている 要することがありますが,効果が出る ます.状態が落ち着いてきたら,流動 ことが多いのですが,ルチーン化され までほかの薬物を重ね,効果が出てき 食から開始し,症状に合わせて摂取量 ていて,個別にアセスメントして利用 たら,ほかの薬物から減少させていき と内容を増加していきます (表3) . しているとはいいがたいようです.薬 ます.それでも便が出ないときに,腸 慢性の下痢の場合,消化のよい食品 物にはできるだけ頼らないようにする 刺激性の薬物を服用しますが,前日服 にすることは当然ですが,栄養の偏り ことは原則ですが,必要なときには 用すれば,翌日にブリストル排便スケ がないようにすること,また疾患によ 個々人に応じて,最小量で的確な効果 ールで3∼5の段階の便がすっきりと って症状を悪化させるような食事は避 が出る薬物を使用します. 出るような量に調整していきます.服 けることがポイントです.たとえば, 直腸性の便秘には,坐薬・浣腸を使 用しても排便がないときは,量,もし 過敏性腸症候群では刺激物,高繊維食 用します.坐薬は効果があるまでの時 くは周期があっていません.下痢にな を避けます. 間に個人差があるので確認し,タイミ るようであれば,量が多すぎるという 経管栄養により下痢する場合は,注 ングよくトイレに移動するようにし ことになります.排便日誌をつけなが 入する温度,速度,また内容,量を確 て,トイレに長時間座ることで褥瘡な ら,確認していきます. 認します.高カロリー,多量で吸収が ど起こさないように配慮します. 結腸性便秘も,腸刺激薬をいきなり 使うのではなく,食品の工夫と同時に 下痢のケア 下痢の原因は多岐にわたるため,ま 追いつかず下痢となっていることも多 いので,栄養剤そのものを見直すこと が必要です.それでも下痢する場合は 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 87 ステップ 項目 第1ステップ 骨盤底筋訓練の必要性と 骨盤底の位置の理解 第2ステップ 骨盤底筋の知覚確認 第3ステップ 骨盤底筋肉力の評価と体 操プログラムの立案 第4ステップ 骨盤底筋体操の強化 第5ステップ 骨盤底筋体操の効果確認 目的 骨盤底筋訓練の効果,方法の概 要を理解する ● 骨盤底筋体操への動機づけ ● ● 内容・方法例 骨盤底筋を知覚し,正しく動か すことを学ぶ ● 便失禁の原因,機構,骨盤底筋の解剖学的な位置と役割を解剖図を 示しながら口頭で説明していく ● 肛門内触診により,正しい収縮,弛緩の方法を伝える 触診ができない場合は肛門を締める感覚を自覚してもらうよう促す. 肛門圧計を使用できる場合は,正しい収縮により圧が上がる感覚を 自覚してもらう ● 肛門圧計により,収縮力,持続時間を確認する 肛門圧計を使用できない,触診ができない場合は,何秒間締めること ができるか,自覚してもらう ● 筋力のパターン, 力に合わせたプログラムを作成する ● 個別のプログラムを作成する ● 動機づける ● 動機づける 正しい体操を継続していく ● ● ● 骨盤底筋体操の評価をする ● ● ● 定期的に上記の方法で評価し,効果が出ている場合はほめる 排便日誌をつけ,漏れの軽減を自覚する 効果の自覚,排便日誌,肛門圧計などにより効果を確認し,問題が解 決できている場合はプログラムを終了する ● 効果がない場合は, 再アセスメントし,ほかの治療法も検討する ● *骨盤底筋体操のプログラムの期間については,少なくとも15∼20週間継続することが重要.また介入者との関係が非常に大切と報告されており,モチベーシ ョンを引き出せる関係性も重要である 図3 骨盤底筋訓練のプログラム 薬物を使用します. 〈薬物〉 88 を使用して調整をはかります. 〈スキントラブルの予防〉 下痢を止める薬物として,腸管運動 下痢は,排便そのものの刺激,また 抑制薬,殺菌薬,吸着薬,整腸薬とい 付着した便による化学的刺激,さらに ったものがあげられます.下痢の原因, 頻回な清拭による物理的刺激などか また合併症の有無によっても処方され ら,スキントラブルを起こしやすくな るものが変わります.経管栄養の場合, ります.あらかじめ皮膚保護材を利用 整腸薬,また便の水分を吸収する薬物 し,保湿すること,便吸収用のコット 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 ンを肛門にあてたり,水様性便専用の おむつや肛門用のパウチを使用するな どして,できるだけ便が直接肌に触れ ないようにします. 便失禁のケア 〈便秘による便失禁〉 高齢者の便失禁の原因としてあげら T O P I C ◆西村かおる氏, “AVON Awards to Women 2006”で「エイボン功績賞」を受賞 アメリカに本社をおく化粧品メーカーエイボンは,より豊かで充実した生き方を求 める女性たちへの支援事業として, “AVON Awards to Women(エイボンアワー ズ・トゥ・ウィメン) ” (1979年設立)賞を設けているが,2006年「エイボン功績賞」に, 当連載の総合指導と執筆をお願いしている西村かおる氏 (日本コンチネンス協会会長) が選ばれ,11月14日にその授賞式が行われた. “AVON Awards to Women”は,その年度において顕著な活躍をした女性,ある いは永年の地道な努力を結実させた女性,また新しい可能性を示唆する先駆的活動を している女性などが対象となる.西村氏は日本初のコンチネンス・アドバイザーであ り,1990年にコンチネンスセンターを立ち上げて,排泄ケアの普及と啓蒙の活動を 続けてきた.そうした活動が「すべての人が気持ちよく排泄のできる社会づくり」をめ ざす民間ボランティア団体“日本コンチネンス協会”の創設につながり,現在も会長と して講演会や執筆活動をとおして“人間の尊厳を守るケア”を啓発する一方,コンチネ ンス・アドバイザーとして臨床現場で患者へのケア提供を続けている.こうした活動が 今回の受賞理由となった.また,この受賞に伴い,日本コンチネンス協会に対し「指名 寄付団体」として副賞と同額が寄付される. なお,過去の「エイボン功績賞」の受賞者には,堀口雅子氏(産婦人科医師) ,山口み つ子氏(財団法人市川房枝記念会常務理事) ,落合恵子氏(作家) ,故田中澄江氏(劇作 家)などがいる. 日本コンチネンス協会のシンボルマーク http://www.jcas.or.jp れるのは,便秘です.便秘のため,下 肛門括約筋には,内肛門括約筋と外肛 えず悩んでいる患者の孤独感を和ら 剤を使用した結果,便失禁となること 門括約筋があります.内肛門括約筋は げ,治療に対して前向きになれるよう があります.また寝たきりに近い人で, 腸の一部で平滑筋であるため,内肛門 にカウンセリングをしていきます. おむつにすこしずつ泥状の便がつくと 括約筋が緩んでいる場合,随意的に筋 いう場合は,一見下痢にみえますが, 力を上げるということは困難です.し おわりに かんにゅう 実は嵌入 便がつまっており,その表 かし,外肛門括約筋は横紋筋で神経と 排便をコントロールするためには便 面が溶けて流れてきています.この場 筋力が残っていれば,ある程度随意に を観察するだけではなく,原疾患,食 合,下腹部を触診したり,腹部の単純 動かすことができます.外肛門括約筋 事,運動,心理,そして環境など幅広 撮影をしてみることで判断がつきま は骨盤底筋の一部であるため,骨盤底 くアセスメントし,ケアをする必要が す.また肛門内触診をしてみると便が 筋訓練 (図3) を実施します. あります.排便コントロールは,日常 つまっていることがわかります.便秘 〈食事と薬物〉 的にケアをしている看護師に負うとこ 便失禁の原因にもよりますが,良便 ろが非常に大きいケアです.ルチーン となるような食事内容を検討していき 化した浣腸や下剤を見直して,気持ち ます.ただし,肛門括約筋が緩い場合, のよい排便習慣をつくっていただきた 便がゆるいと当然,便失禁になりや 骨盤底筋トレーニングの効果が出るま いと願います. すくなります.下痢の治療,ケアを行 では,やや固めの便としていくことが い,便性を固めていきます. 望まれます.繊維量と薬物で調整しま が原因の便失禁は,当然ながら,便秘 に対するケアを行います. 〈下痢による便失禁〉 〈肛門括約筋不全のために起こる 便失禁〉 肛門を締める括約筋が緩むと,下痢 はもちろん,正常な便でも漏れます. す. 〈心理的ケア〉 便失禁は社会生活上,非常に困る症 状です.自己否定,不安など,人に言 月刊ナーシング Vol.26 No.14 2006.12 89
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