新聞作りを通して、時代の特色を理解する歴史学習のあり方 指定校1年次 小諸市立芦原中学校 山科亮太 Ⅰ 本校の新聞活用(NIE)の現状 本校では、NIEに関わる取り組みとして、生徒会の広報委員会がクラス新聞を発行した り、 文化祭においてクラス新聞展をコンクール形式で行ったりと新聞作成を主に行ってきた。 しかしながら、日々の授業等において新聞を活用した取り組みは、学校体制としては十分に 行われていなかった。 今年度、指定校となったことを機に、新聞を取り入れた活動を行った。一つは、信濃毎日 新聞の斜面の書きとりである。毎週 1 回のペースで週末の課題としている。目的として、 ・家庭学習の習慣をつける。 ・文章表現力を付ける。 各社の ・時事的な出来事を知る。 コラム ・実際に文章中に使用された形で漢字の読み書き していく良さを感じる。 などが挙げられる。これらを生徒にも伝えながら目 的意識を持って取り組めるようにしている。また、 継続して行うことで斜面の書きとりが、学校教育の 中に位置付けられてきている。 二つ目は、生徒や教員が手軽に新聞にふれること 各社の 新聞 ができるように、図書館の先生と連携をとり、図書 館前のスペースにNIEコーナーを設置した。2 学 期以降、各新聞社の新聞を展示している。斜面の書 きとりの実践との関連で、各新聞のコラムのみを集 めた展示も行っている。 これらの活動を通し、生徒自身も新聞に次第に興味を持つようになり、NIEコーナーに 展示されている新聞を手に取る姿や、授業時において新聞記事の話題を話してくれる生徒の 姿も見られるようになった。 Ⅱ 実践のねらい(育てたい力) 授業を行うにあたり、社会科でつけたい力を、新聞を活用しながら実践できないだろうか と教科会を中心に議論された。 まずは、新聞活用の良さについて考えた。新聞は、様々な情報を人に伝えるためのもので ある。したがって、読む人のことを考えて内容がより相手に伝わるよう様々な工夫がされて いる。 「見出し」には短い言葉の中に、記事に何が書いてあるのかを一目でイメージできるよ うになっていたり、読み手に「読みたい」という意欲を引き出したりする役割がある。また、 「新聞記事」には相手に情報がより伝わるよう、 「5W1H」を基本とし、膨大な情報を必要な ところのみ、整理してまとめ上げられている。これらの点を授業において生かしたいと考え た。 今年度より施行された社会科の新学習指導要領では、 歴史的分野の改訂のポイントとして、 「学習した内容を活用してその時代を大観し表現する活動を通して、各時代の特色をとらえ させる。」(内容(1)ウ)とあり、この学習は「我が国の歴史の大きな流れ」を「各時代 の特色を踏まえて理解する」という歴史的分野の学習の各時代のまとめの段階で実施するよ う新たな項目として設置されたものである。この目標を達成するために、 「新聞作り」は、歴 史的分野の各単元等のまとめとして有効な教材といえる。なぜなら、 「見出し」は、読み手に 情報を伝えるために各時代のキーワードを簡潔に表現しなくてはならない。 「新聞記事」の作 成に関わっては、読み手に内容を伝えるためには、各時代の特色を理解し、整理していかな ければならないし、文字数も限定されてくるため、より情報を思考・判断しながら簡潔にま とめていく必要がある。これらの点を踏まえ、 「新聞作り」を取り入れた実践を試みた。 Ⅲ 研究の概要(公開授業の実践から) 1 単元名 「古代国家の成立と東アジア」 2 単元設定の理由 本単元として位置づけた時代(原始・古代)は、狩猟や採集が行われていた時代から稲 作が伝来されることにより、財産や私有地という概念が生まれ、それが貧富の差を生み、 身分や「ムラ」から「クニ」へと大きく社会が変化していく時代である。この単元を学習 するにあたって、「我が国の歴史の大きな流れ」を「各時代の特色を踏まえて理解する」 には、あまりに長い年月と出来事が多く存在するため、生徒が理解に苦しんだり、歴史学 習を苦手に感じてしまったりしてしまうのではないかと考えた。 そこで、原始・古代という大きな時代区分ではなく、さらに細分化された時代区分(縄 文時代・弥生時代・古墳時代)にわけ、それぞれの時代ごとに学習したことを新聞記事に 表現していくことで、時代が混同することなく各時代の特色を踏まえて理解できるのでは ないかと考えた。また、その時代をあらわす見出しの根拠を問い返しながら、明確にする ことで、より時代の特色をつかむことにつながると考える。単元のまとめでは、今まで作 ってきた時代ごとの記事をレイアウトし、「原始・古代新聞」という一枚の新聞を作る。 その中で、これまで学習してきた時代の流れや特色を整理したり共通点や相違点を比較し たりしながら原始・古代という時代を大観することができるだろう。さらに、友達の新聞 を読んだり、意見交換したりしていくことで、歴史的事象の見方・考え方を広げることに もつながり、友と関わりを持つことで読み手を意識し、自分にとっても相手にとっても理 解できる表現を追究していくこともできると考えた。このように、「原始・古代」の特色 をつかむために、新聞作りを用いることで、「各時代の特色を踏まえて理解する」という 社会科の目標を達成できると考え、本単元を設定した。 3 単元の目標 (1)主目標 日本において狩猟や採集の時代から稲作の広まりによる人々の生活の変化に気づき、東 アジアとの関わりを通しながら国家が形成されていく過程のあらましを、新聞に表現して、 時代の特色をつかむことができる。 (2) 単元の流れ ○学習活動 全 7 時間 (第 2 時 公開授業) 学習問題 T:教師の様子 S:生徒の様子 時間 縄文時代はどんな時代だったのだろう。 ○縄文時代の人々の生活の様子を調べ発表する。 生徒が調べた縄文時代の生活の様子。 ①縄文土器の利用 ②たて穴住居に定住する ④磨製石器を使った ⑤土偶を作った ③貝塚にゴミを捨てた 1 ○上記の内容から、2 ~3つのキーワード を挙げ、そのキーワ ードの説明を原稿用 紙(右図)に記入す る。 ○リード文を考える。 5W1H を意識しながら生徒が考えたリード文 だれ 縄文人 は いつ 紀元前 3 世紀以前 に どこ 日本列島 で なに 狩りや漁や採集をしていた。 ☆本時の主眼 縄文時代の人々の生活の特色を取材してきた生徒が、その内容を手掛かりに新聞記事 や見出しを作成し、見出しを付けた根拠を問い返しながら明確にしていくことを通して、 縄文時代の特色をつかむことができる。 ○前時・学習問題を確認する。 縄文時代はどんな時代だったの だろう。 ○学習課題を設定する。 縄文時代を見出しや新聞記事に まとめよう。 1 ○「新聞記事の書き方」を意識しながら学習カードに新聞記事を作成する。 (生徒は前時に作成した原稿用紙の内容を参考に記事にまとめ上げていく。) 生徒に提示した新聞の書き方。 新聞記事の書き方 (1)情報を収集する。 ・特色を3つくらい短い言葉で書きだす。 ・挙げた項目について情報を収集する。 だれが (2)記事を書く。 いつ ・リード文を書く。 どこで ・本文を書く。 なにを (生活の様子を なぜ 詳しく書く。) どのように 縄文時代の生活の様子 ①~⑤の中から 2~3 つ 選択して記入する。 (3)見出しを考える。 ・短い文章で、記事に何が書いてあるかを一目で分かるものにする。 ・学習カードの「感想・理由」を参考にする。 本時の学習 カード ○付けた見出しのタイトルを発表し合う。また、どうしてその見出しを付けたのか問い 返しながら根拠を明確にしていく。 <授業の様子から> S1 「行ってみたいな縄文時代」とつけました。 T 何で行ってみたいの? S1 平和そうだし、今ないようなもの、例えばたてあな住居とかがたくさんあるか ら。 S2 「縄文人の知恵袋」です。 T なぜその見出しを付けたのかな。 S2 たてあな住居は夏涼しくて冬暖かいので快適に生活ができる。この時代に今で も難しいことをやっているから。 S3 「工夫がつまった縄文時代」 T その理由は? S3 文を書いている時に、自分たちが住みやすいような工夫が詰まっていたのでそ う付けました。 ○縄文時代の特色を示すキーワードを考える。 (下の文章に入る語句を考える。) ○キーワードを発表する。 <授業の様子から> S4 縄文時代とは、自然のもので人が住みやすいように工夫されている時代。 S5 縄文時代とは自然のものを生かし、自分たちが暮らしやすいよう工夫した時代。 S6 平和で色々工夫されていた時代。 稲作が伝わったことで日本はどのように変 化したのだろう。 ○弥生時代の人々の生活について調べ、その特色をまとめるとともに、ムラからクニに 発展していった様子を考える。 1 ○稲作や青銅器、鉄器など大陸から伝わることで、日本列島が変化していく様子に気付 くことができる。 弥生時代はどんな時代だったのだろう。 ○中国の歴史書は倭の様子や変化をどのように伝えているかを資料や本文から読み取 る。 1 ○縄文時代の記事作りを想起させながら弥生時代の特色を見出しや新聞記事にまとめ る。 古墳時代はどんな時代だったのだろう。 ○鉄と前方後円墳はなぜ各地に広まったのかを考える。 1 ○古墳時代の特色を見出しや新聞記事にまとめる。 原始・古代の特色を考えよう。 ○それぞれの時代の記事をレイアウトしながら「原始・古代新聞」を作る。 ○最後に原始・古代の特色を表すキーワード(大見出し)を考える。 ○友達同士で「原始・古代新聞」を読みあう。 2 <生徒が作った作品> Ⅳ 研究のまとめ 単元の流れの 2 時間目を公開させていただいた。その後の研究会の中で出された意見は以 下の通りである。 <本時の様子から> ・字数や形式という制限の中で分かりやすい表現を工夫していくことは有効であった。 ・新聞記事の作成を通して生徒が、縄文時代の特色をつかみ、見出しやキーワードに端的に 表現することができていた。 ・見出しの根拠を明確にしていくことで、その時代の特色をより理解することができ、ほと んどの生徒が自分なりの答えを出すことができた。 <新聞活用について> ・書き手、読み手、両方の視点に立てることがおもしろさにつながってくる。授業にいかし ていきたい。 ・本時は下調べをしたうえで、記事を作る作業だったため、スムーズに書くことができてい たが、限られた時間の中でやるには工夫が必要である。 ・ 「なぜ新聞にするのか。 」といった指導者側の意図が必要である。 ・書く力、まとめる力、表現する力など継続しながら取り組んでいく必要がある。 Ⅴ 今後の課題 どんな力を付けるか、そのために新聞をどう活用していくのかを明確にしていく必要があ る。また、新聞作成に当たっては、新聞の作成方法や文章能力等、事前指導を適切に行いな がら、時数配分を無理のないよう組んでいく必要性がある。そのため、見通しを持った単元 展開が必要である。
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