複数の飛行体メディアによる空間のデザイン *吉本英樹 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学工学部七号館堀研究室 E-mail:[email protected] Abstract: 本稿では, 複数の飛行体メディアを用いたインスタレーションの計画を紹介し, それを通じて我々のコンセプトを論じる. インスタレーションでは, 発光装置を備えた 気球型飛行体 16 台が音楽にリアルタイムに同期して発光パターンと飛行パターンを変え, 空間を演出する. 複数の飛行体が環境化し, 個々の飛行体ではなく空間そのものがパフ ォーマンス媒体となり, 観客がそこに没入感を得るようなインタラクションを創出する ことがインスタレーションの狙いでありコンセプトである. 1. はじめに 我々はこれまで, インタラクティブな飛行船をパフォーマンスのためのメディアとして提案してき た[5, 6]. 本稿ではさらに複数の飛行体メディアを利用することで, 個々の飛行体だけでなくそれらが 浮遊する空間そのものをパフォーマンス媒体として認知させるような試みについて論じる. 我々は 2009 年 7 月に 16 台の飛行体メディアを用いたインスタレーションを計画しており, ここではそのイ ンスタレーションとプロトタイプの紹介を通じて我々のコンセプトを議論する. 2. デザイン・コンセプト 我々のインスタレーションは, フルカラーに発光する 16 台の飛行体が, 音楽にリアルタイ ムに同期しながら発光パターンや飛行パターンを変え, 空間をダイナミックに演出するという ものである. ある密度以上で, 前後左右に均一に, かつ人間の目線以上の高さに分布した飛行 体に対して, 人間は個々の物体としてそれらを認知するのではなく, それらを群によって形成 された環境として認知することが期待される. 暗闇では個々の物体の様子を詳細に観察するこ とは困難なため, 環境としての認知がより優位になる. また光と音は, 映像や絵画や造形など の表現メディアに比べてより空間に効果を広く分布し, 人間が意識を限られた点に集中する必 要がないアンビエントな, すなわち環境的なメディアである[4]. これらの効果によって, 本イ ンスタレーションでは, 従来のパフォーマンスのように観客がパフォーマーと対峙して意識を 集中するのではなく, 空間そのものがパフォーマンス媒体となって, 観客がそれに包まれ没入 感を得るようなインタラクションの創出をコンセプトとしている. 3. プロトタイプ 現在我々は, プロトタイプとして, 音楽にリアルタイムに同期する気球型の飛行体を制作している. 人間の周囲に均一に分布して環境を演出するというコンセプトに基づき, 飛行体のデザインは中心軸 対称(自然界でのクラゲやタンポポの綿毛のような形状)とした. 鉛直方向のプロペラと水平方向のプ ロペラが各一つずつ取り付けられている. 水平方向の移動は, 特定の場所に向かって移動するのでは なく, 飛行体群がランダムに拡散することを意図している. 発光装置として, 赤緑青色の発光ダイオ ードが取り付けられている. それらの一部は風船部分に取り付けられ, 風船全体が発光しているよう な効果を生む. それ以外の発光ダイオードは軸方向に点々と離散的に取り付けられ, 各々で光る点光 62 源としての効果や, 同時に光ることで線が発光しているような効果を生む. 発光ダイオードとモータ を音楽と同期するために, Musical Instrument Digital Interface (MIDI) プロトコルを利用している. コンピュータ上の音楽作成ソフトウェアで打ち込まれた音符に対応して MIDI 信号が生成され, その 信号に応じて機上で発光ダイオードとモータを駆動する. 4. 関連プロジェクト 従来から多くのパフォーマンス施設で, 音楽と同期した照明によってステージを演出する方 法が利用されている. クラブやイベント施設では, 観客の居る空間自体を演出するために音楽 と同期した照明が使われ, 没入感を体験することも期待できる. しかしそれらは舞台装置であ り, その装置自体で表現できるパフォーマンスは限られている. また幾つかのインスタレーシ ョン作品は風船あるいは飛行船を用いた表現を利用している. Atom[3]はワイヤにつながれた 64 基の発光ヘリウム風船を用いたインスタレーションで, 音楽に合わせて風船の発光パター ンや上下の動きのパターンが変化する. Sky Ear[2]では発光ヘリウム風船を束ねて作られた巨 大な雲のような造形が空に浮かび, 周囲の携帯電話の電磁波に反応して発光パターンを変える. ALAVs[1]は 生 物 の 群 れ を 模 し た 自 律 飛 行 す る 飛 行 船 群 で , 人 々 は 携 帯 電 話 で の 自 動 音 声 と の 会話や光源を近づけるなどの操作によってこれらの飛行船とインタラクションできる. これら のインスタレーション作品では, オブジェクトとしての風船あるいは飛行船による表現に焦点 が当てられている. それに対し我々のコンセプトは, オブジェクトとしての飛行体ではなく, それらが環境化し, 空間そのものがパフォーマンス媒体として機能することである. 5. おわりに 本稿では, 計画中のインスタレーションの紹介を通じて, 複数の発光する飛行体が音楽とリ アルタイムに同期することによって空間全体がパフォーマンス媒体となる, という我々のコン セ プ ト を 論 じ た . そ こ で は オ ブ ジ ェ ク ト と 人 間 が 対 峙 す る よ う な イ ン タ ラ ク シ ョ ン で は な く, 表現空間に没入するようなアンビエントなインタラクションが期待できる. 今後, インスタレ ーションの実施によってその効果を実際に検証していく. 参考文献 1. Berk, J., Mitter, N. Autonomous Light Air Vessels (ALAVs), in Proceedings of MULTIMEDIA 2006 (Santa Barbara, October 2006), ACM press, 1029-1030. 2. Haque, U. Sky Ear, http://www.haque.co.uk/skyear/ 3. Henke, R., Bauder, C. Atom, http://www.monolake.de/concerts/atom.html 4. Ishii, H., Wisneski, C., Brave, S., Dahley, A., Gorbet, M., Ullmer B., Yarin, P. ambientROOM: integrating ambient media with architectural space, in Proceesings of CHI 98 (Los Angels, April 1998), ACM Press, 173-174. 5. Yoshimoto, H., Hori, K. Design of Blimps for Interactive Media and Arts, in Proceedings of MAST Workshop (Santa Barbara, January 2009). 6. Yoshimoto, H., Jo, K., Hori, K. Design of Installation with Interactive UAVs, in Proceedings of ACE 2008 (Yokohama, December 2008), ACM Press, 424. 63
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