論文要旨

様式 3
学 位 論 文 要 旨
研究題目
(注:欧文の場合は、括弧書きで和文も記入すること)
A simple scoring system based on neutrophil count in sepsis patients
(好中球数に基づいた簡単な敗血症スコアリングシステム )
兵庫医科大学大学院医学研究科
医科学 専攻
生体応答制御系
救急集中治療医学(指導教授
小谷穣治 )
氏 名 上田 敬博
研究目的:救急・集中治療分野において重症度の指標には IL-6 やプロカルシトニン、
APACHEⅡスコアや SOFA スコアが用いられており、その中で最も広く使用されている
のが APACHEⅡスコアである。しかし APACHEⅡスコアは入院直後と 24 時間後の 12
の項目を評価しなければならず、重症度が判明するのは入院 24 時間以降であり迅速に使
用できる指標ではない。好中球が敗血症の重症度の指標となりうることはいくつか報告
されていたが、重症化した際の好中球数は増加している場合もあれば減少している場合
もあり予後の直接の指標とするには難しいとされていた。そこで我々は血球数を使用し
た予後因子の新しいスコアリングシステムを考案しそれが ICU 入室患者の死亡率に相関
するかを検証した。
研究方法:2007 年 6 月から 2012 年の間に兵庫医科大学救命救急センターに搬送・入院
し、敗血症または重症敗血症/敗血症性ショックと診断した 77 症例(男性 40 例/女性 37
例)に対し、男女比の死亡率、生存群と非生存群の APACHEⅡスコア、SOFA スコア、
BMI との相関、手術と非手術の死亡率を比較検証した。本来、急性臓器不全を伴う敗血
症を重症敗血症(severe sepsis)とし敗血症性ショックと分けて分類されるが、当セン
ターに搬送された severe sepsis に該当する症例はすべて急速輸液でも低血圧が持続して
いるか、血管作動薬が投与されており、これらを重症敗血症/敗血症とまとめ分類した
入 院 時 の 好 中 球 数 を 測 定 し 、 好 中 球 数 0-4999/mm3 、 5000-9999/mm3 、 10 ,
000-19,999/mm3、20,000-29,999/mm3、30,000mm3 以上に分類し死亡率を比較検討し
た。好中球数が 5000/mm3 以上の場合は好中球数の増加とともに死亡率は上昇し、
30,000mm3 以上では 50%を示した。また 0-4999/mm3 の好中球が減少する群は死亡率
が 60%であり、
5000-19,999mm3 の群と比較し有意に死亡率の増加を認めた
(Chi-square
test)。これらの結果を用いて、新しいスコアリングとして n-score を考案した。10,
000mm3 以上の場合は 10000 で除した値を用い、
死亡率の高い 0-4999mm3 は 3 点とし、
5000-9999mm3 は 1 点とした。更に男性には 2 点、女性には 1 点を加えた合計点を死亡
率、APACHEⅡスコア、SOFA スコアと相関があるか検証した。
研究結果:男性は女性に対し有意に生存率が低かった(p<0.05 chi-square test,odds
比;4.582,95%CI;1.128-22.50)
。APACHEⅡスコアは生存群より非生存群で有意に高
値であった(p<0.05 t-test)手術症例は非手術症例に比べ有意に死亡率が高かった(p
<0.05 chi-square test,odds 比 5.368,95%CI;1.078-34.52)
。年齢や BMI は生存群・
非生存群で死亡率の有意差は認めなかった。SOFA スコアは非生存群が生存群より値が
高い有意差を認めた(p<0.01,t-test)ROC 曲線では感度が 46.2%、特異度 86.3%であ
った。
敗血症あるいは敗血症性ショックの生存群の 73%は好中球数が 5000-19,999mm3 の範囲
にあった。非生存群では同じ範囲には 42%しか該当しなかった。非生存群の 35%は好中
球数が減少している 0-4999mm3 に該当した。
n-score は敗血症・敗血症性ショック患者において、非生存群で生存群よりも有意に高値
であった(p<0.01,t-tset)
。ROC 曲線で感度は 61.5%で、特異度は 80.39%であった。
また、n-score は APACHEⅡスコアと軽度な正の相関を認め(p<0.01,R=0.378,
R2=0.143)SOFA スコアとも正の相関を認めた(p<0.01,R=0.256,R2=0.066)
考察:n-score は白血球数と分画の判別という2つパラメーターのみで簡単に計測でき
る。n-score は敗血症・敗血症性ショックの致死的危険を察知する指標となりうる。また、
APACHEⅡスコアや SOFA スコアなどの重症度の指標に近似する指標となりうる。
好中球は細菌感染や真菌感染により骨髄にある骨髄球から産生される。通常、骨髄から
好中球が末梢へ放出されると炎症の間、未熟な好中球も末梢に現れる。これは末梢での
好中球数を増やすだけなく、骨髄細胞数を抑制するという免疫抑制反応である。敗血症
時には好中球は活性化され多くが末梢血へ放出される。しかし重症例では好中球は減少
する。しかし SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断には白血球が用いられ、好中球数は
使用されていない。重症患者において炎症が過剰になると好中球数が増加するが、免疫
抑制状態になると 好中球は減少してしまう。APACHEⅡスコア、SOFA スコアや CRP
などは臨床症状の悪化とともに数値が増加するが、好中球数は重症化で減少することも
あり重症化の指標となりにくい。そこで我々は好中球の減少を臨床的重症とするスコア
化を考案した。また男性は敗血症時に女性よりも生存率が低いという報告があり、最近
の研究では男性であることが敗血症の死亡リスクの要因となるという報告もある。いく
つかの研究では性ホルモンが免疫細胞、とくに好中球に影響していると報告している、
エストロゲンが外傷時に好中球のケラチノサイト誘導ケモカインを浸透を阻害を防ぐと
いう報告やテストステロンが外傷や熱傷において好中球の活性化を誘導しているという
報告を考慮し、n-score の好中球数のスコアに男性は 2 点、女性は 1 点を加えることにし
た。
n-score は APACHEⅡスコアや SOFA スコアよりも簡単に計算でき、敗血症や敗血症時
の死亡リスクの指標となる。n-score の計算は特別な手技も器材も必要ないため、特に医
療資源や機器の乏しい発展途上国でも有用であると考える。