プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 7 2章 資料収集 2.1. 資料とは何か プレゼンテーションのトピックが決まっても、その中身、内容がなければプレゼンテーション はできません。その中身を広く「資料」と呼ぶことにしましょう。資料というと本や論文、また は発掘などの野外調査で得た現物や実験データなどを思い浮かべるかもしれません。さらにここ では、自分の知識や経験なども含め、プレゼンテーションの内容を作り上げる中身の情報や現物 すべてを含めて考えることにします。こういったものを「データ」や「根拠」と呼ぶこともあり ます。 「地球は温暖化している」と言ったら聴衆はそのまま受け入れてくれるでしょうか。十数年前 だと、本当かなと疑われたかもしれません。現在では定説になっているようでもありますが、用 心深い聴衆なら、根拠を示してほしい、どの程度暖かくなっているか数字によって示してほしい、 と思うでしょう。 プレゼンテーションにおいて(というより、どんなコミュニケーション場面においても)自分 が何か言ったら、 「どうして?なぜ?」という疑問に答えられなければなりません。短いプレゼン テーションの時間内にすべての主張に根拠を提示することはできません。それでも、準備段階に おいては、広く根拠を準備し、根拠に基づいた主張を組み立てることは重要です。また、準備し た根拠は、「なぜ?」と問われたときに答える役にも立ちます。主張に資料を添えるというのは、 論証の根拠となるものだけではなく、具体例を示すことによって主張自体をわかりやすくする役 割もあります。感動を呼ぶ物語もまた、広い意味で資料です。 すべての主張に資料がいるのでしょうか。すべての主張には何らかの根拠がある、という意味 ではそうです。ただし、多くの場合、発表者と聴衆が共有している知識や価値観がありますから、 すべての主張に根拠を示す必要はありませんし、すべきでもありません。ここで大切になるのは、 聴衆と共有している知識は何かということです。はっきりと分かる場合は、明示すべき資料、省 略しても構わない資料というのが、すぐにわかります。多くの場合、はっきりとは分からなかっ たり、聴衆の知識が多様であったりしますから、安全策をとって、聴衆が知らない可能性を重視 したほうがいいでしょう。また、十分な資料を提示することによって、発表者が発表内容につい てよく知っている、よく調べている、という印象を与え、発表者としての信頼性も増すでしょう。 本課の各節では、プレゼンテーションで使われる可能性のある資料を、大きく 3 つ、自分の知 識経験、文献資料、独自調査資料、に分けて説明します。それぞれについて、よりよい資料を得 て提示するために、入手方法と資料の質の検証方法を解説します。資料の質の検証は、発表者が 自分の資料の質を向上させる基準になるだけではなく、聴衆にとっても、発表者の提示する内容 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 8 を鵜呑みにせずに批判する能力や態度を養う基にもなります。 「批判する」というのは、攻撃的な 否定的な意味ではなく、積極的、建設的な意味においてです。こういった批判的能力(Critical Thinking Ability)は情報が氾濫し、だれでもインターネットを通じて世界中に情報発信できる現 代社会において必須の能力です。情報の受け手としては、不確かな(もしくは全く嘘の)情報か ら自分を守るために必要ですし、情報の送り手としても、不正確な(もしくは間違った)情報を 発信(独自の発信や他の情報の受け売り)してしまわないために必要な能力です。 資料や情報の信憑性を検証するには、一般的に次のような点に注目するといいでしょう。 (1) 外的整合性。 相互に矛盾する資料があると、どちらかもしくは両方が間違っているので はないかという疑いが生じます。 (2) 内的整合性。 一つの資料や発言の中で一貫性がなかったり矛盾があると、その資料の質 を疑ったほうがいいでしょう。 (3) 出典の信頼性。 出典はわかっていますか。誰が書いたのでしょうか、どのような本や雑 誌に出版されたのでしょうか。出典は権威あるものでしょうか、新しいでしょうか、中立 でしょうか、等々。歴史的事件の記録などはその時点に近い資料のほうが良い場合もあり ます。 (4) 統計の検証。調査方法は適切だったでしょうか、標本の数は十分あったでしょうか、抽出 方法は適切だったでしょうか、質問の仕方は適切で、誘導的だったりしなかったでしょう か、等等。 (5) 専門家の検証。多くのトピックに必要な情報は、それぞれの専門分野の専門家の意見に頼 らなければならないことがしばしばあります。そういった「専門家」は本当に発言してい る事柄の権威者でしょうか、偏見はないでしょうか、意見には結論だけではなく、その理 由も述べられているでしょうか、等々に注意するといいでしょう。たとえば、原子力発電 問題についてプレゼンテーションをするときに、映画監督の発言は「専門家」としての重 みはありません。電力会社の技術者は原子力発電の専門家かもしれませんが、「原子力発 電所は安全だ」という発言は利害関係による偏見があるかもしれません。逆に「原子力発 電は危険だ」という内部告発的発言は、自分の利害に反してでも発言せざるを得ない内容 として、重視することができるかもしれません。それでもさらに、内部告発の動機が、純 粋に安全性に対する不安や社会的責任感によるものか、それとも、発電所内部でイジメに 遭っていたことへの報復ではないか、といった可能性も考慮する必要があるかもしれませ ん。 2.2. 自分の知識や経験 個人の知識や経験がプレゼンテーションの資料になるのでしょうか。場合によるでしょう。ト プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 9 ピックに関連する分野の専門家であったり、歴史的事件の当事者であったりすれば、その知識や 経験は、立派な資料になるでしょう。たとえそういった立場になくても、自己紹介や家族紹介の プレゼンテーションであれば、個人の体験を語ることが発表内容の中心となるかもしれません。 社会的問題についても、CO2 削減のために個人レベルでできることを発表する場合、自分自身が 実践している節電方法を説明することは大切です。 多くのプレゼンテーションにおいては、個人の知識や経験は、それだけでは十分な資料とは言 えません。話を分かりやすくするための例であったり、聴衆の注意を引くための手段であったり することが多く、主題を支える説明や根拠としては、一般化できない限定的なものと聴衆には感 じられるでしょう。そのほかの情報源からの資料よって十分に一般化できる説明や論証が行われ ている場合に、個人の知識や経験を例として用いることでより説得力のあるプレゼンテーション となるでしょう。 自分の知識や経験は、もちろん記憶を辿ることによって入手します。すぐに思いつかなかった ことでも、第 1 章で紹介したような、ブレーンストーミングを行ったり、マインドマップを作成 したりすることによって記憶の底から浮かんでくることもあるでしょう。 人の記憶は不確かなものです。自分の知識が勘違いや記憶違いによるものでないかを検証する ために、他の出典(文献や他の人)からの知識と整合性があるかどうか確認する必要があります。 事実関係だけではなく、意見や判断を含んだ知識については、結論部分だけではなく、その理由 や根拠も含めた知識を持っているかどうかが大切です。経験は経験談として一つの物語として提 示することになるでしょう。そうすると、その物語に現実味が必要です。場面や登場人物の詳細 はわかるか、出来事の連続(話の筋)は矛盾がなく有り得そうなものか、などが確認項目でしょ う。もちろん、世にも奇妙な体験をしました、ということもあるでしょう。その場合、場面や登 場人物や出来事の詳細を説明することによって、話の信憑性を高めるだけではなく、他の目撃者 や体験者がいることが重要です。 「私は空飛ぶ円盤で自宅の裏庭に来た火星人といっしょに宇宙旅 行をしました」と言っても、それだけでは聴衆は納得しないでしょう。 2.3. 文献資料 資料調査というと本や新聞雑誌などから情報を得ることをまず考える人が多いでしょう。もち ろん、いまや、インターネットを通じて入手できる情報が多くなり、伝統的な本や新聞雑誌の情 報も紙媒体で読むだけではなく、インターネットで検索してコンピュータの画面で読むというこ とも多いでしょう。この節では、紙媒体と電子媒体両方の広い意味での文献資料を扱います。 文献資料から得られる情報の種類としては次のようなものがあります。 (1)ニュース記事、日 誌、証言録、調査に基づく報告書、等に見られる事実の記録。個々の事実ではなくそれを数値化 した統計資料。出来事の記録もあれば、人物の紹介、場所・建物・動植物の描写もあるでしょう。 (2)料理のレシピや機器の操作マニュアルのような手順説明。法律の条文、規則、各種手続き プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 10 の説明文(たとえば携帯電話の申し込み方法)など。 (3)筆者の意見、主張、感想。一言の簡単 な感想や意見もあれば、複雑な議論が長い文章になっているものもあるでしょう。 (4)研究成果 としてのデータの分析、解釈、及びそれに基づく考察。広い実では筆者の意見ですが、 「研究論文」 として単なる意見や感想とは違った価値が置かれます。(5)物語、小説、詩歌などの文芸作品。 これらは内容とともに、表現そのものやどのように表現されているかが重要になります。 このような情報が収録されている媒体にはどんなものがあるでしょうか。書籍(本)には、そ れぞれ独立した単行本、全集のようなものがあります。通常の書籍以外にも、教科書、辞書、事 典、年鑑といった名称で呼ばれる資料もあるでしょう。新聞雑誌などの定期刊行物には、日刊、 週刊、月間、季刊、年刊、といろいろあります。単行本であれ定期刊行物であれ、通常の出版社 から発行されるものもあれば、政府機関や企業などが発行する報告書やパンフレットのようなも のもあります。そして、これらのものは現代では、すべて紙媒体以外に、Web サイトや CD-ROM、 DVD のような電子媒体で提供される可能性があります。さらに、電子媒体でしか公開されない資 料もあります。 このような資料はどうやって探せばいいでしょうか。いきなり、インターネットの検索エンジ ンにトピックに関係する単語を入れたり、書店や図書館の書棚に行って本を手にとって見る、と いう方法も全く役に立たないわけではありませんが、ここではもう尐し体系的な方法を考えて見 ましょう。 (1)トピックの概要を把握する。関連分野の教科書や事典類によって、詳細ではないが一般的 な情報を得ることができます。どこから手をつけていいかわからない場合は、百科事典が第一歩 となるでしょう。 (2)資料リストを作る。図書館のカタログ、索引誌・抄録誌、データベース、インターネット の検索エンジン、などを用いて関連する文献資料のリストを作ります。読んでいる本や記事など に出てくる文献の中からも役に立ちそうなものが出てくるでしょう。こういった芋づる式の情報 もなかなか無視できません。 さまざまなデータベースの検索方法は、ここでは省略します。図書館のホームページから利用 可能な検索方法について試してみるのもいいでしょう。また、図書館が開催する利用説明会や講 習会に参加するのもいいでしょう。グループで申し込めば、要望に応じた内容で教えてもらえる 「オンデマンド講習会」を利用するのもいいでしょう。 図書館のカタログも OPAC 等の名称で呼ばれるオンラインのデータベース化されていることが 多く、紙のカードをめくって探すということはあまりないかもしれません。Google や Google Scholar のような検索エンジンを使うといろいろな種類の資料が混在して出てきます。文献リス トを作ったり、現物を入手する(本文を読む)ためには、単行本と定期刊行物中の記事(新聞雑 誌の記事や季刊学術雑誌掲載の論文など)は、その違いを理解しておいたほうがいいでしょう。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 11 2.3.1. 本を探してみる 九州大学附属図書館の OPAC で、 「地球温暖化」について文献資料を探そうとして、書名(「詳 細検索画面」の「タイトル・ワード」欄に入力)に「地球温暖化」を含む資料を検索します。す ると 18 件ヒットしました(図 1、2010 年 3 月 17 日検索)。 図1 OPAC の詳細検索画面 検索結果は図 2 のように表示されます。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 12 図2 OPAC の検索結果画面 1 番目の資料の詳細を見てみましょう(図 3) 。 図3 OPAC 図書詳細情報の画面 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 13 図 3 の画面からこの本の書誌情報を確認してみましょう。 本の題名: 『地すべり・山火事・砂嵐』 著者・編者名: 「タイム」編集部(編) 翻訳者名: 鈴木南日子 原書名: Time: nature's extremes 出版場所: 東京 出版社名: ゆまに書房 発行時期: 2009 年 1 月 総ページ数: 28 ページ(薄い冊子であることがわかります。 ) この本が九州大学の図書館にあるかどうかは、画面の下部に表示されています。 「筑紫図書館 選 書コーナー」にあることが分かりますので、筑紫図書館に行けば図書の閲覧や貸出が可能です。 また、 九州大学の学生・教職員であれば (学生 ID または九州大学全学共通 ID (SSO-KID)が必要) 、 画面右下の「予約・取寄」ボタンで希望する図書館へ図書を取り寄せることも可能です。学内に ない場合は、相互利用制度を利用して他の図書館から取り寄せることもできます(有料)。(詳細 は図書館に問い合わせてください。 ) また出版社の Web サイト(http://www.yumani.co.jp/)から検索すると、次のような内容であ ることがわかります。 ●《地すべり》泥の激流。地すべりはいかに有能な殺し屋か 1985 年、コロンビ アの人々は恐怖の体験から学んだ。●《なだれ》白い死神。なだれは雪と重力と 急な坂さえあればおこり、恐ろしい被害をもたらすことも。●《熱帯雨林》失わ れた楽園。地球の肺であり、さまざまな生きものが暮らす温室でもある雨林が、 いま危機に直面している。●《山火事》森林火災最前線。干ばつにつきもので、 自然界でもとりわけやっかいな予測不能の災害、森林火災。●《砂嵐》砂の悪魔。 アメリカのダストボウルからサハラ砂漠の砂嵐まで、またしても表土が風と共に 去って行く。 (http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843330357 2010 年 3 月 17 日閲覧) 原著についても調べてみると、Time: Nature's Extremes というシリーズの中の 1 冊で、この 巻の題名は Inside the Great Natural Disasters That Shape Life on Earth であることがわかり ます。さらに本文の一部をネット上で無料で読める可能性として、Amazon.co.jp が提供する「な か見!検索」や「Google ブックス」のようなサービスに収録されている本であれば、本文ページ の一部を見たり、本の中を検索し該当ページを読むことができます。今回たまたま取り上げた『地 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 14 すべり・山火事・砂嵐』は本文がそういったサービスに収録されていませんので、図書館を通じ て読むか、購入するかということになります。 OPAC の検索で、書名以外の書誌情報にも「地球温暖化」が含まれるように「フリーワード」 欄に入力して検索すると、151 件ヒットしました。図 1 の画面では、 「資料区分」が「全資料」に なっていました。これを「雑誌」のみをチェックして検索すると、何もヒットしません。これは、 地球温暖化に関する雑誌記事がない、ということではありません。 2.3.2. 雑誌記事や論文を探してみる 雑誌記事を探すには、 『週刊朝日』 『中央公論』 『日経サイエンス』といった雑誌の書名ではなく、 その中にある記事や論文の題名やキーワードを検索する必要があります。そのような検索を行う データベースの代表的なものとして、日本国内では CiNii(サイニィ)(国立情報学研究所 http://ci.nii.ac.jp/)があります。「詳細検索」の画面で、「論文名」に「地球温暖化」と入れて検 索すると、7155 件がヒットしました(図 4、2010 年 3 月 17 日検索) 。 図4 CiNii の検索結果画面 図 4 の最初の記事の書誌情報を確認してみましょう。 記事(論文)の題名: 「Climategate(クライメートゲート)事件--地球温暖化説の捏造疑惑」 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 15 著者名: 掲載誌名等: 渡辺 正 『化学』 巻・号・ページ: 第 65 巻 3 号(通巻 706 号)34 ページから 39 ページにこの記事がある。 発行時期: 2010 年 3 月 出版社名: 化学同人(図 4 の画面では記載されていませんが、記事名をクリックす ると詳細情報があり、そこに記載されています。 ) 本文を読むには OPAC を用いて『化学』第 65 巻 3 号の所蔵を探します。ここからは、本を探 すのと同じような方法になり、学内複数の所蔵があり、伊都図書館にもあることがわかります。 また、この『化学』の記事は、九州大学図書館を通じてはオンラインで読むことはできませんの で、他の方法 を探してみましょ う。結局、出版社 のサイト(化学同 人 http://www.kagakudojin.co.jp/)において 1 年分の記事のうちの多くを「電子ブック」という形 態でオンラインで読むことができるようになっていて、当該の記事を読むことができました (2010 年 3 月 17 日閲覧) 。ただし、文章のコピーや PDF ファイルでのダウンロードはできませ ん。 電子媒体で読むことができる資料に限って検索するには CiNii の「詳細検索」の下の欄を「す べて」から「CiNii に本文あり、または連携サービスへのリンクあり」にチェックを変更して検 索します。すると 538 件がヒットしました(図 5、2010 年 3 月 17 日検索) 。なお、これは九州大 学の学内 LAN に接続されたコンピュータを利用するか学外から ID とパスワードで「どこでもき ゅうと」という図書館のサービスにアクセスした場合の検索結果画面です。1 このうち多くの資 料は CiNii から PDF ファイルで読むことができます。2「機関リポジトリ」のボタンは大学など が電子媒体で公開している資料にリンクされています。 「Kyushu Univ. Library LinQ」では学内 の電子媒体、紙媒体の資料の検索を行うことができます。学内でオンラインで本文を読むことが できない場合は「Full-text is NOT available online at Kyushu University. 」という表示があり ます。3 1 通常の方法で自宅のパソコンなどからアクセスした場合は、表示や利用できる本文の範囲が異なります。図書 館では通常は有料のデータベースを機関として購入することによって、学生・教職員に多数の資料を無料でアク セスできるようにしていますので、これを利用しないと「高い授業料を払っているのに、大学のサービスが悪い」 と文句を言いかねませんね。 2010 年 10 月にインターフェースの変更があり、 「CiNii PDF」のボタンはさらに、有料か無料 かなどがわかるような表示になっています。 2 3 尐しまぎらわしいですが、LinQ のページから CiNii が提供する本文にたどりつくことができます。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 16 図5 CiNii 本文閲覧可能な資料のみの検索結果 図書や論文など学術的資料に限って Web を検索するサービスに Google Scholar があります。 九州大学の LinQ と連携していますので、学内からオンラインで本文が入手可能な場合は本文へ のリンクが表示されます。 検索の範囲を一般的な Web 上の情報にまで広げる場合は通常の Google を利用するというように、使い分けるといいでしょう。どちらの場合も、1 単語だけではなく、 複数の単語やフレーズを入力すると、複数の単語が同じページのどこにあるかに関係なく検索さ れますが、フレーズをそのまま検索する場合は、引用符 “ ”(ダブルクォーテーションマーク) の中に入れます。たとえば、 「九州における地球温暖化対策」と検索すると、一致する日本語のペ ージ 約 617,000 件となりますが、 「"九州における地球温暖化対策"」と検索すると、日本語のペ ージ は 4 件に絞られます(2010 年 3 月 17 日) 。4 その他、検索の条件を指定するには、 「検索 オプション」のページを利用するといいでしょう。 4 この機能を使うと、学生のレポートや作文の中に含まれるコピーペーストによる盗用を発見することも容易に できます。引用符の中に入れず自分が書いた地の文としているもので、疑わしい部分があるとフレーズ検索によ り出所が分かることがよくあります。手書きでレポートを書いていた時代では、本のページを丸写ししても、書 き写すことによって労力もかかりますし、尐しは勉強になったかもしれませんが、 「コピペ」では労力も勉強も限 りなくゼロに近くなります。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 17 2.4. 独自調査による資料 自分の専門分野において学会発表をするような場合は、発表者独自のデータが重視されるでし ょう。外国語の授業でプレゼンテーションの練習をするような場合は、そのような独創性は求め られていません。それでも、ちょっと身の回りでミニ調査をしてみることは役に立つ経験でしょ うし、プレゼンテーションをより魅力的にする資料が得られるかもしれません。では、 どのよ うな資料を入手する可能性があるでしょうか。 観察と現物収集 まず、身の回りをよく観察し、ノートに書き留めたり、必要なら写真に撮ったりすることで資 料を得ることができます。場合によっては、現物を収集することもできるでしょう。電気の無駄 使いがないか、キャンパスで調査するとすれば、まず授業の休み時間に教室を回って消灯されて いるかを確認し、電気がつけっぱなしになっている教室を数えることもできます。ゴミ捨てのマ ナーを訴えるプレゼンテーションをするための資料として、放課後の教室に残されたゴミを拾っ てビニール袋に入れて保管し、こんなものがありましたよ、とプレゼンテーションの時に見せる こともできます。安全衛生上不安があるかもしれませんので、インパクトは減じますが写真を撮 って PowerPoint などに組み込むほうがいいかもしれません。 インタビュー 友人や家族にインタビューをして、身近な人の意見を入手することもできます。信頼性の高い 資料とはならないかもしれませんが、プレゼンテーションの中で例証としたり、聴衆が親近感を 持てる人が何をしているか、何を考えているか知り、発表内容に反映させることができます。 専門の研究者を訪問して質問することも広い意味でインタビューでしょう。また関係機関・団 体などを訪問することもできます。韓国の学校制度について紹介しようとするときに、文献資料 だけではどうしてもわからないことがあった時、韓国の教育行政などを専門とする先生の研究室 や、韓国領事館に質問に行くことも可能でしょう。もちろん、飛び込み訪問ではなく、メールや 電話で事前連絡を取りましょう。問題によっては、メールや電話で回答が得られるかもしれませ ん。また、訪問できた時は、当初予定していた質問だけではなく、関連する話や文献資料の情報 が得られるかもしれません。また、韓国領事館には学校制度を紹介したパンフレットなどがある かもしれません。 アンケート 個別事例の観察や個人の話だけではなく、尐しそういったものを数量化しようと思えば、アン ケート用紙(質問紙)を作り、データ収集をすることもできます。本格的な質問紙調査法は研究 方法論の解説書などに譲るとして、ここでは簡単な調査を考えましょう。考慮する点は、次のよ うなものがあるでしょう。 記名・無記名(その他、回答者の属性情報(男女、年齢、出身地、等々)を尋ねるか) 設問は、聞きたいことを的確に聞いているか プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 18 回答は自由記述か、選択肢か、評点か(強く賛成から強く反対までを 5 段階など) 人数は何人ぐらい集めるのか(事例を集めるのか、統計処理するのかでも異なります) 配布回収方法はどうするか(回答時間などとも関係します) 集めた回答をどのように処理して発表に組み込むのか(回答例の紹介、頻度や平均値の表や グラフを作るなど) 実験 本格的な実験はその道の専門家に委ねるとして、創意工夫で簡単な「実験」をすることは可能 でしょう。たとえば、教室のゴミ捨て問題を扱うために次のような比較実験はどうでしょうか。 教室にゴミ箱がある場合とない場合で、教室の床に捨てられるゴミの量は変わるか。同じゴミ箱 を教室の中に置いた場合と教室の入り口の外に置いた場合ではどうか。同じ大きさのゴミ箱で蓋 がある場合とない場合で異なるか。等々が考えられます。 実験によって得られた結果とその考察を資料として用いるには、実験方法、データ記録の方法、 得られた生データの記述、その分析・解釈を記録保存しておくことが大切です。実際の発表では、 簡潔で分かりやすい形で報告します。 2.5. 資料の記録 資料を入手したら、その情報を正確に記録、保存しておかなければなりません。記録がなけれ ば、個人的な知識としてその証拠価値は大きく下がってしまいます。記録のポイントは、他の人 が確認できるかどうか、つまり検証可能性です。実際に確認するかどうかは別として、確認しよ うと思えばできる、ということが大切です。確認しようがなければ、 「私は知っている」といくら 言っても、聞き手に「本当なの?」と疑われた時、 「私の言うことを信じてよ」と言う以外にどう しようもありません。 文献資料の記録 文献資料の記録は、本文の記録と出典情報の記録からなります。本文は、手書きで引用カード やノートに書いたり、パソコンにタイプ入力する場合は、正確に書き写したり入力したりするこ とです。コピーを取ったり、PDF などの電子ファイルを保存したり紙に印刷して記録することも できます。実際に発表の時に引用したり紹介するのは短い文章であったとしても、その前後の文 脈とともに記録しておく必要がありますし、定期刊行物の記事や論文は、1 件まるごと保存した りコピーしたりしておくほうがいいでしょう。特に Web にある情報は、いつ消滅してしまうかも しれません。 必ずファイルに保存したりプリントしたりしておきましょう。 消滅してしまった Web サイトの情報は、比較的最近のものは Google のキャッシュなどで見ることができる場合もありま す。もっと遡れる可能性があるのは、Internet Archive(http://www.archive.org/)という Web サイトを記録保存しているサイトです。たとえば九州大学のホームページを 1996 年 11 月 9 日ま で遡ることができます(図 6) 。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 19 図6 保存されている 1996 年の九州大学ホームページ 出典情報の記録 文献資料を提示した場合、他の人が調べようと思えば内容を確認できるように書誌情報を提供 します。引用文や参照情報が掲載されていた本、雑誌記事・論文、Web サイトを特定し、さらに ページなどを特定します。たとえば、先ほどの渡辺の記事から、図 7 のような文章を記録したと しましょう。 図7 文献資料の記録 (A) 渡辺 正. 2010. 「Climategate クライメートゲート事件――地球温暖化説の捏造疑惑」 『化学』65 巻 3 号、pp. 34-39. (B) (わたなべ・ただし。東京大学生産技術研究所教授、1976 年東京大学大学院工学系研究 科博士課程修了、<研究テーマ>光合成分子メカニズムの解析、電気化学計測の応用、環 境化学) (C) p. 34r (D) 「国連の組織 IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change; 気候変動に関する政 府間パネル)は CRU や GISS の情報を使い、第三次(2001 年)と第四次(2007 年)の 報告書で、20 世紀後半から人為起源 CO2 が世界の気温をかつてない勢いで上げた――と ほぼ断じている.もし CRU や GISS の解析に不備があるなら、国際政治を揺り動かす IPCC の主張も崩れてしまう. 」 (渡辺 2010, p. 34) (E) 注 CRU=Climate Research Unit(イギリス・イーストアングリア大学気候研究所) GISS=Goddard Institute for Space Studies(アメリカ NASA のゴダード宇宙科学研究所) プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 20 このような引用文は引用カードに 1 件ずつ記録したり、ノートに書いたり、コンピューターのフ ァイルに記録したりします。(A)は出典の書誌情報。(B)は著者名の読み、所属、資格など。5 (C) はこの引用文のあるページ(r は 1 ページ 2 段組みの右側ということです) 。(D)の「 」 内は直接引用です。引用文に続く(渡辺 2010, p. 34)というのは、通常プレゼンテーションなど で引用する際に出典を示すための、スライドや本文中での表記です。渡辺が著者の 2010 年の文 献の中の 34 ページに引用箇所が掲載されている、という意味です。対応する「渡辺 2010」の文 献は文献リストにおいて完全な書誌情報を示します。これは、社会科学系の論文などでよく用い られる方法で、理科系の論文では文献リストの各文献に番号が振られ、本文中ではその番号のみ が示される方法が多いようです。(E)は記録者の注釈で、CRU と GISS の頭文字で表された機関 名の原語表記と日本語名称をメモしています。 資料(文献)リスト 調べ物をしているうちに、多様な資料が溜まってくるかもしれません。引用カード、ノート、 複写コピー、保存したファイル、等々。それぞれに出典を明記しておくとともに、収集した資料 の一覧表を作っておくといいでしょう。文献リストを管理する専用のソフトなどもあります。ま た、九州大学の図書館では、RefWorks という Web 上で文献リストを管理したり共有したりする システムを提供しています。 リストに掲載する情報の形式は次のようなものになります。 単行本(翻訳書)の場合 「タイム」編集部(編). 鈴木南日子(訳). 2009. 『地すべり・山火事・砂嵐』東京: ゆま に 書房. 原書名:Time: nature's extremes: Inside the Great Natural Disasters That Shape Life on Earth. Time, 2006. 雑誌記事・論文(Web で閲覧)の場合 渡辺 正. 2010. 「Climategate クライメートゲート事件――地球温暖化説の捏造疑惑」『化学』 65 巻 3 号 、 pp. 34-39. オ ン ラ イ ン 版 http://www.kagakudojin.co.jp/kagaku/ 201003.html?201004&3. 閲覧日:2010 年 3 月 18 日. Web ページの場合 著作権法第 35 条ガイドライン協議会. 2004. 学校その他の教育機関における著作物の複製等に関 するガイドライン. Web ページ http://www.jbpa.or.jp/35-guideline.htm. 閲覧日:2010 年 3 月 18 日. 独自調査の記録 独自に行った調査においても、他の人が確認できる可能性を確保しましょう。観察をした場所、 時間、方法など正確に記録しておきましょう。アンケート用紙や得られた回答の保存も忘れない ようにしましょう。 5 渡辺氏は地球温暖化について発言する場合、専門家なのか、専門家である場合に中立な立場と言えるか、など 調べてみると興味深いでしょう。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 21 2.6. 実際にやってみよう プレゼンテーションのトピック:___________________________ 仮の主題文:____________________________________ __________________________________________ (1)自分の知識や体験を書き出してみましょう (2)参考資料のリスト(書籍、記事、Web ページ)を作りましょう。書式は標準的な書き方に 従うこと。このリストはとりあえずのもので、学期中を通して更新しましょう。その中から自分 のプレゼンテーションに役に立ちそうな引用文、表やグラフ、を記録しましょう。 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 22 (3)観察記録を作ってみましょう 観察計画(何をどのように観察するのか) 観察結果 分析・考察 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 23 (4)インタビュー インタビュー計画(何のために、誰に、何を尋ねるのか) 事前に準備する質問項目 得られた回答 分析・考察 プレゼン教科書第 1 部(2011 年 1 月 暫定版) p. 24 (5)周りの人にアンケートをしてみましょう アンケートの実施計画 質問紙を作ってみましょう 結果 分析・考察
© Copyright 2024 Paperzz