1 「聖書の教える幸せな夫婦」 ファミリーカウンセラー 日向陽一 1.初めに アフリカへ遣わされた宣教師であり、聖書的な家族カウンセラーの草分けでもあるウォル ター・トロビッシュは 1963 年に次のように友人にあてた手紙に書いている。 「夫婦や家族の関係において、アフリカは大きな混乱状態の中にある。生活の他のどの領 域よりも苦しみを生み出している。アフリカはこの危機を乗り越えなければならない。従 って、聖書の結婚や家族関係のメッセージは、アフリカに福音が届けられるための最も期 待のできる扉となる。 」(*1) 同じことが現在の日本の社会に関しても言うことができる。厚生労働省の発表によれば、 毎年 25 万組を超える夫婦が離婚している。 (*2)これは結婚する夫婦の約 3 分の 1 に当た る。統計に現れるそのような数字以外にも、「家庭内別居」 「仮面夫婦」など、夫婦間の問 題を表す言葉がマスメディアにも氾濫している。これは、日本人の夫婦関係の現状を反映 していると言えるだろう。また、「セックスレス」という言葉が聞かれるようになって久し い。ウィキペディアには次のようにある。 朝日新聞の調査によると、 セックスの回数が「この 1 年まったくない - 年数回程度」と 回答したカップルは世代毎に、20 代で 11%、30 代で 26%、40 代で 36%、50 代で 46% という結果になっている。しかし、実際問題、男性の生理学的な性欲自体は 80 歳くらい までは衰えず、女性は年齢が上がるほど性に積極的になるという傾向があるため、世代 が上がるほどセックスレス問題の根は深く、深刻なものになっている。(*3) 私のカウンセリングを受けられる方々は、インターネット上に私が発信している夫婦関係 の情報をもとに、メールマガジンを読んで下さったり、YouTube(ユーチューブ)に配信し ている講演の動画を見たりして、インターネットを通じて相談を申し込んでこられる見ず 知らずの方々である。夫婦関係に役立つ情報と共に、私自身の妻や子供たちとの生活の嬉 しかったことや失敗談などもブログなどに載せているので、安心して、信頼してくださる 方が多いようだ。 具体的には、妻との関係がうまくいかず「離婚したい」と言われて困っておられる 40 代の 男性がいる。また、夫から「子どもを置いて出て言って欲しい」と言われ、別の女性カウ ンセラーに相談したが、個人的な経験から「妻であるあなたがいけないのですよ。 」と責め られ意気消沈した 30 代の女性がおられる。さまざまな方々が助けを求めて私に連絡を下さ る。 Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 2 「具体的な助けが必要なのに、誰も確かな助言をくれない。 」というのが彼らの私のところ に来られる理由である。トロビッシュの言葉を借りれば、「夫婦や家族の関係において、日 本は大きな混乱状態の中にある」のに、その必要を満たしてくれる人が周りにいないのだ。 このように私に相談を求めて来られる方々に、聖書の教えをベースにした夫婦のあり方を お話しすると、皆さん一様に「こんなこと今まで聞いたことがない。 」とおっしゃる。そし て、聖書の教えを一歩一歩行動に移すとき、その方のおくさん、だんなさんとの関係が変 わりはじめる。 最近 1 年近く私のカウンセリングを受けている男性 T.Y.さんからこんな嬉しいメールをい ただいた。ご本人に了解をいただいたので、ここに記したいと思う。 「(前略)妻からのメ ール、誕生日と少しずつ進んでいる気がします。そして、真っ暗から明かりが見えてきて、 心のかべがとれた気がします。日向さんに感謝しています。ふつうに妻の機嫌をきにせず に話ができるようになったことに幸せを感じています。 」 彼は私に感謝してくださったが、このように人の心を変え、行動を変える力はカウンセラ ーである私にはない。その力は、神の言葉にあるのだ。ヘブル 4:12 には「神のことばは 生きていて、力があり」と書かれているが、その通りである。 今回は、私がカウンセリングの中でお話ししている、聖書の教える夫婦関係の原則につい て述べてみたいと思う。クリスチャン、未信者の方々を問わず夫婦関係のカウンセリング をしていて思うことは、聖書は私たち人間のあらゆる必要を満たすことのできる、力ある 神の言葉であるということである。聖書の原則は、決して動くことがない。その原則を共 に見ていくことで、一人でも多くの方の助けとなれば、望外の喜びであり、主に感謝をお 捧げする者である。 また、ここで一言前もってご了承いただきたいことがある。夫婦関係についてお話しする 時に、肉体的な側面、つまり性的な関係について触れる必要がある。結婚における肉体的、 性的な側面は、人によっては戸惑いを覚える話題であるが、神の計画された夫婦関係の祝 福の不可欠な部分である。また、現在の日本の社会では、性に関する非常に混乱し間違っ た情報が氾濫しており、夫婦関係の問題を引き起こしている。神の言葉である聖書だけが、 この性に関する混乱を取り除き、秩序と平安をもたらすことができるものであると信じる。 筆者のような聖書を信じるカウンセラーのみが、この点に関して真理を伝える役割を担わ されていることを確信して、語っていることをご理解いただきたい。できる限り配慮した 表現をしたいが、読者には心づもりをしていただければ幸いである。 Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 3 2.創世記に見る祝福の夫婦関係 では本題に入っていこう。 創世記1:27 には、このようにある。 「神は人をご自身のかたちとして創造された。神のかたちとして彼を創造し、男と女とに 彼らを創造された。」 神が人間を「男と女とに創造された。」と書かれているように、男性と女性は別々のものと して造られている。男女は最初から、根本的に全く違う存在なのである。男性と女性は、 肉体的にも、精神的にも、霊的にも異なった性質を持って造られているのだ。だから、夫 は妻について、女性について学ぶ必要がある。妻は夫が男性であって、自分とは違うのだ ということを知る必要がある。 人間は元来、自分を中心にして物事を判断する。私たちは、自然と「自分はこう感じるか ら、相手も同じように感じるはず」と思うのだ。しかし、夫婦の関係においては、 「相手は 自分とは違うのだ」ということ自らに言い聞かせ、相手の気持ちを理解し、相手の必要を 満たすことがすべての鍵となる。 旧約聖書、創世記の中には、楽園での夫婦の姿が美しい言葉で描き出されている。これは、 アダムとエバが罪を犯す前の、完全な夫婦の状態である。つまり、神の計画された夫婦の 姿がここには記されている。 「神である主は、人から取ったあばら骨をひとりの女に造り上げ、その女を人のところに 連れて来られた。 人は言った。 『これこそ、今や、私の骨からの骨、 私の肉からの肉。 これを女と名づけよう。 これは男から取られたのだから。』 それゆえ、男はその父母を離れ、妻と結びあい、ふたりは一体となるのである。 人とその妻は、ふたりとも裸であったが、互いにはずかしいと思わなかった。 」 創世記 2:22‐25 この美しい夫婦の姿は、ふたりの関係の詳細を丁寧には説明していない。ただ、①「ふた りは一体」であったこと、②「人とその妻は、ふたりとも裸であったが、互いに恥ずかし いと思わなかった。」ことが分かる。つまり、肉体的にも、精神的にも、霊的にも、あらゆ る面で結びついて一つとなった夫婦が、お互いあるがままの姿で愛し合い満たし合ってい たのである。神の計画された、豊かな祝福に満ち溢れた夫婦の関係がここにはある。 Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 4 3.エペソ書に見る、妻のニーズ、夫のニーズ 新約聖書に目を転じてみよう。エペソ書の5章は夫婦関係についてのキリスト者たちへの 教えが記されている箇所であるが、ここに、神の御心の夫婦関係の鍵となるいくつかの要 素を見いだすことができる。旧約聖書と新約聖書は同じ神の聖霊によって記されたもので あるから、アダムとエバが楽園で持っていた、祝福に満ちた夫婦関係の詳細もこの箇所か ら推察できる。 5章22節から24節までが妻に対する勧めであり、25節から29節までを夫に対する 教え、30節から33節までを夫婦両者に対してのまとめとしての勧めととらえることが できる。33節の結びで、パウロはこのように記している。 「自分の妻を自分と同様に愛しなさい。妻もまた自分の夫を敬いなさい。 」 つまり夫は妻を愛し、妻は夫を敬うようにと教えている。これが夫婦への神のみ教えの核 心である。聖書によれば、妻は夫から「愛」を必要とし、夫は妻から「尊敬」を必要とし ている。これが、今回の論文の核心であり、読者は他のことは全部忘れても、このことだ けは覚えておいていただきたい。 ただし、 「愛」や「尊敬」という言葉は、コンセプト、概念としては理解できるが、実生活 であまり使われない言葉なので、実感がわかない人が多い。実感がわかなければ私たち人 間はその概念に基づいて行動するようには動機づけられない。そのため、ここでもう少し 砕けた表現で述べてみたいと思う。 私はカウンセリングや講演では、「妻は夫からの思いやりを必要としています。夫は妻から の信頼を必要としています。」と説明している。そうすると、聞いておられる方々には実感 しやすくなる。 「愛」が具体的に現れた姿が「思いやり」であり、「敬う」ことの理解でき る形での表現が「信頼」だからだ。 4.妻は夫からの「愛」を必要としている。 まずは、妻の「愛される」必要について考えてみよう。 妻の必要に関しては、私はカウンセリングでは「彼女が6才であっても、60歳であって も、すべての女性の中には『お姫様のように大切にされたい』という願望があります。」と Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 5 説明する。すべての女の子が夢中になるお姫様の物語は、神がすべての女性の必要として 与えた「愛する男性から思いやりを持って接してもらいたい。誰よりも大切にしてもらい たい」という願いが現れているからである。 エペソ書には、 「自分の妻を自分のからだのように愛さなければなりません。 」と書かれて いる。私たちは自然と自分の体を「養い育て」る。背中がかゆければ、かくし、どこかに 痛みを感じれば、その痛みを取るために処置をする。自分の体のことは、よくわかるし、 よく手入れをしているのである。しかし、他人に関してはそうはいかない。「人の痛いのは 三年でも我慢する。」と三浦綾子氏がどこかに書かれていたが、人の痛みを同じように感じ ることは私たちにはできない。しかし、妻を愛する夫は、その不可能を「妻はどんなふう に感じているのだろうか」と常に自らに問い、その必要を満たすように努力することで可 能にしようと努める。 Ⅰペテロ 3:7 には「夫たちよ。妻が女性であって、自分よりも弱い器であるということを わきまえて妻と共に生活し」とある。 この「わきまえて」は英語の聖書の英欽定訳(King James Version)では、‘According to knowledge’「知識に基づいて」となり、新国際訳では、'Be considerate’「思いやり深くあ れ」となる。妻の気持ちを理解すること、妻がどんなふうに感じているのかを分かってあ げることが、必要なこととして教えられているのである。妻がどのように感じているか、 どのような気持ちでいるかが分かると、夫は彼女が喜べるよう、具体的な行動をとること ができるようになる。気持ちを分かってもらって、その気持ちを汲んだ具体的な行動で愛 情を表現してもらうことで初めて、妻は「愛されている」と感じるものなのだ。 妻がどのように感じているのかを理解するためには、彼女の物の見方、世界観を知る必要 がある。 我が家の例を挙げることをお許し願いたい。家内を喜ばせようと、私はなるべく皿洗いを 手伝うように心がけていた。しかし、家内は「あなたが皿洗いをした後、床に水がこぼれ ている。」と言っていた。私は、 「少しぐらい水がこぼれても放っておけばそのうち乾くか らいいじゃないか」「大切なのは皿がきれいになることだ」と思って、あまり取り合ってい なかった。しかし、何年も家内がそれを言い続けたので、「これは自分にとってはどうでも いいことだが、家内にとってはきっと大切なことなのだな」と思って、数年前から皿洗い 後に床をぞうきんでふくようになった。卑近な例で恐縮だが、家内に今回の記事について、 「僕たち夫婦の関係で何か良い例はない?」と聞いたら、数年前のことであるにもかかわ らず、この「皿洗い」の話が出てきた。こんな細かいことを理解し、必要を満たすことが 家内にとってはとても意味のあることであったと分かる。 Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 6 もう一つ具体例をあげよう、夫婦の関係のとても重要な部分である、肉体的な交わり、性 的な関係について見てみよう。男性は、視覚的に刺激を受けて、性的な興奮を感じる。妻 が着替えをしている姿を見ても、セックスをしたいという願望を持つのだ。神が男性に与 えたホルモンの影響でそのようになるのである。一方、女性である妻は、性的な関係を持 ちたいと願うのに多くの条件が満たされる必要がある。誰からも邪魔をされないリラック スできる環境や、忙しさから解放されることが必要だし、夫からの思いやりに満ちた優し い言葉や態度を必要としている。一言でいえば、感情的に満たされていないと性的な関係 を持ちたいとは思わないのである。 「夫から大切にされている。 」と感じない限り、夫とセ ックスをしたいとは思わないのである。夫は、自分が「いつでもセックスをしたい」と思 っているので、妻もそうだろうと思ってしまいやすい。だから、妻から断られると、 「妻は 自分にとってはとても魅力的なのに、自分は妻にとって魅力的ではないのだ」とひどく傷 ついてしまう。しかし、男性と女性の違いを分かっていれば、「今日は子どもたちの世話で 疲れているんだな」とか、 「最近、気持ちを聞いてあげる時間を取っていなかったな」など と、女性である妻の必要を思いやることができるようになるのだ。 5.夫は妻からの「信頼」を必要としている 次に、夫の必要である妻からの「信頼」について考えてみよう。妻から夫への「信頼」は どのように表されるのだろうか。こちらは最初に具体例をあげよう。一般的には、男性の 夫婦関係における最も大きな必要は「性的に満たされること」であると言われる。私のと ころに相談に来られる男性たちも、おくさんとの「セックスレス」で悩んでおられる。 旧約聖書ソロモンの箴言には次のような言葉がある。 あなたの泉を祝福されたものとし、 あなたの若い時の妻と喜び楽しめ。 愛らしい雌鹿、いとしいかもしかよ。 その乳房があなたを酔わせ、 いつも彼女の愛に夢中になれ。 箴言 5:18-19 聖書そのものが、夫に妻との性的な関係で「いつも彼女の愛に夢中になれ」と命じている のである。夫がその妻との性的な関係で祝福され、満たされることを神は計画し、喜んで くださることが分かる。楽園での「ふたりは一体となる」と言われたアダムとエバの関係 も、満たし合う性的な関係があったことは明らかである。 Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 7 実は、性的な関係は、夫婦の関係の本質が最も良く現れる領域なのだ。夫婦が性的な関係 で満たし合うためには、性的な関係以外のすべての領域で、良い関係を築いている必要が ある。肉体的な問題がない限り、性的な関係の質=夫婦関係の質といっても言い過ぎでは ないくらいである。 性的な関係の中では特に、妻が夫を「信頼」していることが不可欠である。妻はセックス の時、文字通り自らの体を開いて、自分の中に夫を受け入れる。夫に身をゆだねるのであ る。そのような行為によってお互いに満たしあうためには、妻は夫を精神的にも受け入れ、 夫の愛、思いやりの中に安心して、リラックスしている必要がある。つまり、ベッドでの 妻が安心して、リラックスして夫に自らを委ねている姿は「わたしはあなたを信じている わ」というメッセージを雄弁に語っているのである。このメッセージは夫に男性としての 自信と、喜びを与える。自らに身をゆだねている妻の姿を見て、夫は「この女性は僕を信 頼してくれている。このひとを大切にしたい。 」という思いを強くするのだ。 夫の必要は妻との関係で「性的に満たされること」であって「性行為」つまりセックスそ のものではない。ここのところは多くの妻にとってなかなか理解できない部分でもある。 カウンセリングで妻からよく聞かれる不満は、 「夫はセックスしか求めない。 」というもの である。しかし、夫たちが求めているのは、「セックスによって心も体も妻と親密になるこ と」なのだ。グレイ博士はこんな風に書いている。 「セックスを通して、男の心は開き、もっと多くの愛を与え、受け入れることができるに ようになるのです。満足のいくセックスをすることで、男性はフラストレーションから解 放され、あなたへの情熱と、二人の関係をますます大事にしたいという思いに燃え上がる。」 (*4) 非常に悲しいことだが、お金で性的な満足を求める男性が後を絶たない。セックスを売る、 いわゆる風俗産業の市場規模は日本では約6兆円だそうだ。家電市場の規模に迫る勢いで ある。私自身は、神に造られた尊い存在である女性を、性的な対象物としてのみ取り扱う ポルノや風俗産業には我慢ができない。この地上から完全になくなることを切に願ってい る。しかし、同時に多くの男性がお金を出してセックスを買っている現状は、男性の必要 について何かを物語っていると思う。男性の「性的に満たされたい」という思いはそれほ ど切実な、切羽つまったものなのだ。ただし、お金で買った性交渉で、男性の心が満たさ れることは決してない。神が祝福として計画し、備えてくださった、生涯を誓い合った夫 と妻の間でのみ、性的な関係での満たしは可能なものなのだ。 この夫の必要を女性である妻が完全に理解することは、残念ながらとても難しいことであ Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 8 る。妻が夫に気持ちを話して理解してもらえないとストレスを感じるのと同じように、夫 は妻との関係で性的に満たされていないとストレスを感じる。妻が夫に「気持ちを分かっ てもらえた」 「話を聞いてもらえた」を感じると、大きな幸せを感じるように、夫は妻と満 たし合うセックスをすると、他の何によっても得られない満足感、幸福感を感じるものな のだ。しかし、それを妻にうまく説明できる夫はほとんどいない。多くの場合、男性はう まく自分の必要を言葉にできないのだ。 男性であれば、妻との関係で性的に満たされることを望むのは、とても自然で健全なこと である。創造者である主ご自身によって、妻から信頼され、妻と性的に満たし合うことで 大きな満足を得るように、男性というものは造られているのだ。 6.夫婦の「好循環」 「悪循環」 さて、ここからは、夫婦関係の「好循環」と「悪循環」について述べてみたい。 夫は妻から信頼されると、妻をもっと愛したいと願うようになる。妻から信頼されている と感じる夫は、「自分を信じてついてきてくれる、その信頼に値する人になりたい。この人 を幸せにしてあげたい。」と妻をもっと愛してあげたいという動機をもらうのである。 同様に、妻は夫から愛を感じると、夫をさらに信頼できるようになる。「わたしのことを本 当に思ってくれる、この人には安心してついていくことができる。」と愛されることにより、 夫への信頼が深まるのである。 このように、夫の妻への「思いやり」と、妻の夫への「信頼」には連鎖反応があることを、 クリスチャンの夫婦関係の専門家であるエグリッジ博士は述べている。 (*5) 博士はこの 好循環を「エネルギーサイクル」と呼んで、すべての仲の良い夫婦はこのサイクルに従っ てお互いに満たし合っていると述べている。実は、多くの場合、我々が交際中に、当時恋 人であった妻や夫に惹かれて、結婚を決断したのも、このような良い循環を経験したから である。その時、 「この人となら、生涯満たしあっていける」と思ったのだ。 一方、逆もまた真なりで、妻は夫からの愛情を感じないと、夫に対して信頼することが難 しくなってしまう。女性は、自分を愛してくれない人を信頼することはできないのだ。思 いやりを感じないと、妻は夫に対して不機嫌で、批判的な態度になってしまう。そうなる と、夫は自分を信頼してくれない妻を愛おしく思うことが難しくなる。これは悪循環であ る。夫婦喧嘩の原因は大概ここにある。この悪循環がエスカレートすると、怒り、あきら め、冷えた関係となってしまい、さらには仮面夫婦、セックスレス、家庭内別居とエスカ レートし、場合によっては離婚問題へと発展してしまうこともある。交際期間中、私たち Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 9 は自然と相手の必要を満たすことを意識しているのに、結婚するとこの原則を忘れてしま いやすいのだ。 私のカウンセリングと、個人的な経験からも、これは真実であると痛感している。つまり、 「人は種を蒔けば、その刈り取りをもすることになります」 (ガラテヤ 5:7C)という聖書 の原則がここにも見られるのである。 7.おわりに ルターは言った。 「人間のたましいはたった一つの物を必要としている。それは『神のこと ば』だ。」 (*6)筆者もこの意見に 100%賛同する。イエス・キリストの十字架と復活を知ら せる福音のみことばは私たちのたましいの救いのために必要である。そして、神の計画さ れた夫婦の祝福をいただくためにも、私たちは神のことばである聖書を必要としている。 一人でも多くの方が聖書に出会い、主の備えてくださった真の幸いを見いだすことができ るよう祈る者である。そのために、この家族関係のカウンセリングの働きを私自身の神か ら与えられた使命として、これからも全力で取り組んでいきたい。 最後になるが、ご夫婦の関係、子育てなどでアドバイスや助けが必要だと感じておられる 方は、「日向陽一」と検索していただければ、インターネット上で私の提供させていただい ている無料の情報を入手することができるのでご覧いただき、役立てていただければ幸い である。 注 *1 The Complete works of Walter Trobisch InterVarsityPress *2 厚生労働省ホーム-ページ P.16 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon10/01.html *3 ウィキペディア「セックスレス」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3% 83%AC%E3%82%B9 *4 愛が深まる本 ジョン・グレイ 三笠書房 P.11 *5 Love & Respect: The Love She Most Desires; The Respect He Desperately Needs Emerson Eggerichs Thomas Nelson;(September 7, 2004) グレイ博士は本書全体を通 して、夫と妻の心の必要の違いについて述べておられる。 *6 The FREEDOM of a CHRISTIAN Martin Luther Fortress Press Ⓒビューティフルカップルカウンセリンング 2013 聖書と精神医療 Vol.31 掲載 P.39-49 P.53
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