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国際公共政策
第1回 国際的人権保護
村上 正直
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授業の内容
1.基本的な用語・概念・制度( pp.42, 46, 55-58)
2.人権の保護と国際法(pp. 42-44)
3.外国人の出入国に関する国際法(pp. 44-48)
4.家族の保護を理由とする追放制限(pp. 49-52)
5.拷問などの迫害からの保護を理由とする追放
制限(pp. 52-55)
6.国際社会と日本の法制度の「ずれ」(pp. 58-63)
教科書: 高阪章編 「国際公共政策学入門」 大阪大学出版会 2008年
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1.基本的な用語・概念・制度(1)
1.人権(p.42)
人が生きていくうえで、「これは変だ」と思われることがある。自分に向けら
れた言動が変だと思ったとすれば、それは、まさに人ごとではない。そのとき
に、「それを変だと思うあなたは正しい」と言ってくれるものがあれば、それは
心強いだろう。
本章で取り扱う人権というのは、その心強い味方になってくれるものの一
つである。人権とは、簡単にいえば、「人が人である」というただそれだけの
理由によって、人が生まれながらにしてもっている基本的な権利のことであ
る。具体的にどのような権利をもっているのか? 日本では、日本国憲法の第
3章がそれを列挙している。たとえば、私は、いわれのない差別を受けたり、
話したいことも話せないならば、それは変だと思う。そういうとき、日本国憲法
は、私に対して、理不尽な差別を受けるいわれがなく、また、話したいことを
話してかまわないと言ってくれる。差別の禁止と表現の自由は憲法でそれぞ
れ保障されているからであ(憲法14条と21条)。人権は、人が、より人間らし
い、生き生きとした人生をまっとうするために、ときに必要となる道具である。
(村上 正直「女性差別撤廃条約と人権」牟田和恵編『ジェンダー・スタディー
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ズ』大阪大学出版会、2009年、204頁)
1.基本的な用語・概念・制度(2)
2.国際法
(1)法律は、人と人との関係を「権利と義務」の関係
で把握する。
(2)国際法は、国際社会の法であって、主として国
家間の関係を規律する。すなわち、国家が他の
国家に対してもつ権利や、負う義務を定めるもの
である。
(3)国際法は、主として条約と慣習国際法からなる。
条約は、簡単に言えば、国家間の約束事を紙の
上に書いたものである。
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1.基本的な用語・概念・制度(3)
3.追放
外国人を強制的に出国させること。日本の法制度では、「退去強制」
と呼ばれる。
外国人がある国を出国する場合、通常は、その国にきた目的を果たし
て、本人の自由な意思に基づいて出国する。
しかし、なかには、正規の入国手続を経ることなく入国をしたり(不法
入国)、入国した際に定められた期限を超えて滞在をしたり(不法残留・
不法滞在)、犯罪を犯すなどをして、もはや、その国にいることを認める
ことができないという場合には、本人がその国で生活をしたいと思った
としても、その人の意思に反して強制的に出国させることになる。これ
が追放である。
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1.基本的な用語・概念・制度(4)
4.日本の退去強制制度(pp. 55-58)
(1)外国人の出入国に関する基本的な法律は、「出
入国管理及び難民認定法」(入管法)である。
(2)入管法は、外国人を退去強制する理由(退去強
制事由)と退去強制のための手続を定めている。
(3)外国人の送還先は、原則としてその国籍国であ
るが、他の国・地域への送還もできる。
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1.基本的な用語・概念・制度(5)
5.人権条約と日本の国内法との関係
(1)日本が締結した条約は、国内的効力が認められる。
= 条約は日本の国内法
(2)法には上下関係がある。憲法が最高法規、その下に法
律、その下に命令(制令や省令)がくる。条約は、憲法より
も下、法律よりも上に位置する。
(3)この上下関係のもつ意味のひとつは、下位法は、上位法
に反することができないということである。もし反したとす
れば、理論上、その規定は無効となる。
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1.基本的な用語・概念・制度(5)
5.人権条約と日本の国内法との関係
日本国憲法(1)
↓
条
約
↓
法 律(1,787)
↓
命 令(5,521)
出典:法令データ適用システムの提供法令集(2008年12月5日現在)
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2.人権の保護と国際法
(1)人権保護に関する国際社会の認識の変化(pp. 42-43)
第2次大戦前: 国内における人権保障の問題は国家に委ねる
第2次大戦後:人権保障に積極的。その方法の1つが多数・多様な人
権条約の採択。
(2) 人権条約(pp. 42, 46-48)
主に、国が保障するべき人権を列挙し、その保障義務を定める部分
(実体規定)と、その義務の履行を監視する手続を定める部分(実施措
置)からなる。条約の履行を監視する機関を設置するのが通常。
【例】 自由権規約 ー 規約人権委員会
拷問等禁止条約 ー 拷問禁止委員会
欧州人権条約 ー 欧州人権裁判所
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3.外国人の出入国に関する国際法(pp. 44-48)
昭和53年10月4日最高裁判所大法廷判決(「マクリーン事件」判決)
「憲法二二条一項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定する
にとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していないもので
あり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではな
く、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受
け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができ
るものとされていることと、その考えを同じくするものと解される・・・。したがつて、憲法
上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろ
ん、・・・在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているも
のでもない」。
= 外国人の出入国及び在留について、国家は原則として自由に決定するこ
とができる。
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4.家族の保護を理由とする追放制限
(pp. 49-52)
(1)「家族の保護」の内容
• 家族の一体性(family unity)の維持
• 家族構成員の容認しがたい苦痛・障害の発生の
防止
• 平穏な家族生活の維持・発展
• 長期にわたって定着している家族生活の維持
• 家族の再統合(family reunification)
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4.家族の保護を理由とする追放制限
(2)Winata v. Australia事件
判断のポイント 「目的と手段の比例性」(p.51)
追放によって得られる利益(国家・社会)
v.
個人に生ずる不利益の種類・程度(個人)
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4.家族の保護を理由とする追放制限
(3)考慮事項の例
①追放を招いた本人の行動又は本人の存在が居住国に及ぼす影響
(犯罪の場合には、犯罪の性質や重大性、頻度など)
②被追放者の居住歴
③居住国における家族の状況
④送還先における家族の状況
⑤追放による家族関係の断絶の有無
⑥家族から分離されることによる、被追放者本人に生ずる影響
⑦被追放者と家族の依存関係
⑧家族構成員が被追放者に同行する場合に生ずる困難性
⑨児童の最善利益
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比例性審査=利益衡量=天秤!
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4.家族の保護を理由とする追放制限
(4)Winata事件における利益衡量
個人
・長期の居住歴
・社会的諸関係
・児童の最善利益◎
国家・社会
・不法滞在
(不法就労)
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5.拷問などの迫害からの保護を理由とする
追放制限
追放制限の性格:難民条約の場合
難
民
・生命・自由に対する脅威
国家・社会
・国の安全に対する危険性
・ 社会に対する危険性
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5.拷問などの迫害からの保護を理由とする
追放制限
難民条約は天秤
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5.拷問などの迫害からの保護を理由とする
追放制限
(4)追放制限の性格
拷問等禁止条約第3条・欧州人権条約第3条・自由権規約第7条
ー 絶対的禁止
「[欧州人権条約]第3条に基づく虐待の禁止は、追放事案においても
絶対的である。従って、個人が、他国に追放をされた場合に、第3条に
反する取扱いを受ける真の危険に直面すると信ずる実質的な理由があ
るときには、いつでも、締約国は、追放事案において、当該個人をかか
る危険から保護する責任がある。従って、第3条が与える保護は、難民
条約第32条及び第33条が与える保護よりもその範囲が広い。」
(Chahal v. the United Kingdom事件判決)
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6.国際社会と日本の法制度の「ずれ」
(1)迫害からの保護
・在留特別許可制度
法務大臣が、退去強制事由に該当するとの判断をしなが
ら、特別の事情があるとして日本での在留を認める制度。
・在留特別許可の性質
追放されるべき外国人に対する「恩恵的措置」
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6.国際社会と日本の法制度の「ずれ」
(2)迫害からの保護
・特別在留許可の判断における考慮事項の広範性
・入管法第53条3項の例外規定
v.
条約上の絶対的性格
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6.国際社会と日本の法制度の「ずれ」
(3)家族の保護
実質的婚姻関係・長期の居住歴・児童の保護 と
いった要素が存在したとしても、 違法状態の上に
築かれたものであり、法的保護に値しない。
v.
利益衡量・上記の要素は個人に有利な事情
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最 後 に(pp. 62-63)
(1)日本の立場が正しいか、国際社会の立場が正しいかは、
綿密な検討を要するもので、簡単に答えが出せるもので
はない。
(2) 日本を批判する際に用いられる「国際的潮流」や 「先進
諸国の常識」、逆に、日本を擁護するために用いられる
「日本の伝統文化」や「日本人の価値観」といった抽象的
な言葉を使うことは思考停止につながる。大学生として
やってはならないことである。
(3)自分の頭で考えてほしい。具体的に考えてほしい。しか
し、その結論は常に暫定的なものである。考え続けてほ
しい。
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ありがとうございました
ご縁があれば、また、お会いしましょう
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難民条約第33条(1951年)
1 締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗
教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又
は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらさ
れるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはなら
ない。
2 締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとつ
て危険であると認めるに足りる相当な理由があるもの又は
特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国
の社会にとつて危険な存在となったものは、1の規定による
利益の享受を要求することができない。
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児童の権利条約第3条1項
(児童の最善利益原則)
児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的
若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は
立法機関のいずれによって行われるものであっても、
児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
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拷問等禁止条約第3条
1 締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷
問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質
的な根拠がある他の国へ追放し、送還し又は引き
渡してはならない。
2 権限のある当局は、1の根拠の有無を決定する
に当たり、すべての関連する事情(該当する場合に
は、関係する国における一貫した形態の重大な、
明らかな又は大規模な人権侵害の存在を含む。)
を考慮する。
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入管法第50条1項(特別在留許可)
法務大臣は、前条第三項の裁決に当たって、異議の申出
が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号
のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可
することができる。
一 永住許可を受けているとき。
二 かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがある
とき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在
留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があ
ると認めるとき。
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入管法第53条(送還先)
1 退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属
する国に送還されるものとする。
2 前項の国に送還することができないときは、本人の希望
により、左に掲げる国のいずれかに送還されるものとする。
一 本邦に入国する直前に居住していた国
二 本邦に入国する前に居住していたことのある国
三 本邦に向けて船舶等に乗った港の属する国
四 出生地の属する国
五 出生時にその出生地の属していた国
六 その他の国
3 法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認め
る場合を除き、前二項の国には難民条約第三十三条第一
項に規定する領域の属する国を含まないものとする。
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