フル・ウェーブフォームを用いた弾性波探査手法高精度化に関する研究・調査および バーティカルケーブル方式反射法地震探査データへの EOM 処理適用の検討 三ケ田 均*・武川 順一**・亀井 志織*** 1. 研究の目的 反射法地震探査では、弾性波を発生させ、物性の異なる媒質の接する地層境界など弾性波反射面か らの反射波記録を取得し、地下構造を推定する。これまで,反射波振幅を利用した層序学的な構造 把握を主眼に適用されてきた手法であるが,近年では,特に資源探査分野において,得られた反射 波記録から地下の物性値を得ようとする手法に変わりつつある。この手法の代表的な例として AVO (Amplitude Versus Offset)およびアトリビュート解析などが挙げられる。こうした手法の応用と して,地下を構成する媒質物性や地層中の孔隙に含まれる流体の性質の直接推定がある。近年では, 多点のセンサーを恒常的に設置し,1 年に数回以内の反射法探査を実施し,時間とともに変化する 地下の流体分布を精度高く把握しようとするタイムラプス地震探査の試みも続けられるようになっ た(van Gestel et al., 2008)。 地震学的な探査の高精度化は機器の性能向上およびデータ量の増加を伴うことが知られている。 バーティカルケーブルを用いた探査のデータ処理は,反射法地震探査との類似性を持っており,反 射法探査同様の進化が予測される。この反射法地震探査のデータ処理において,傾斜層を扱う方法 として考案されたディップ・ムーブアウト(略称 DMO, Hale, 1984)は,さらに複雑な地下構造を 扱う手法としてタイム・バリアント DMO として発展した(Yilmaz, 2001)と同時に,等価オフセッ ト・マイグレーション(EMO: Bancroft, et al, 1998)といった手法も適用されるようになった。 両者は,ほぼ等価な結果を導く手法であるが,計算機上の負荷が異なることが知られている。本受 託研究では,EOM について,タイム・バリアント DMO の結果と比較することも目的とした。 2. 研究の方法 フル・ウェーブフォームを用いた弾性波探査手法高精度化 では,特に弾性定数のうち密度についての検討 を行った。密度推定では,複数の弾性定数を推 定することで解の次元が増大し、局所解に陥る ということ、また密度の定数が地震波形に与え る影響が小さいため、逆解析により推定するこ とが難しい定数であるとされている。そのため 密度は経験式を使って推定されるか、あるいは 一定値として扱われてきた。しかし密度は弾性 波動方程式に直接関わる定数であるため、信頼 のできる値として推定されることが望ましい。 図 1 密度異常を有するモデル。 また Gardner の経験式(Gardner et al., 1974) などでは、近年開発の進む岩塩層などでの正確なP波速度、密度構造の関係を求めることができな い。本研究の目的は、精確な密度構造の推定にはどのような弾性定数の推定方法が有効であるのか ということについて評価をおこなうことである。FWI は真の構造から得られた観測波形と、初期モ デルから得られた波形との残差を計算し、その差から各波動場における物性値の修正量を計算する 手法である。逆解析では残差が最小化するようにモデルを更新していく。順計算には 2 次元時間領 域弾性波動方程式をスタッガード格子配置を用いて計算を行った (Virieux, 1986)。逆解析にお いては時間領域 Adjoint State Method (Tarantola, 1984) を用いて計算を行った(図 1)。 * 京都大学・教授,**同・助教, *** 同・事務補佐員 次に EOM 処理について検討した。反射法地震 探査では,地下モデルが複数の散乱点(Scatter Points, 以下 SP と略記)で構成されていると仮 定する。この仮定に則り,キルヒホッフの回折 積分式を用い,等走時面(Traveltime surface) 上にある振幅値の和を推定するのが,重合前マ イグレーション処理である。重合前マイグレー ションは,ある SP において散乱された全てのエ ネルギを SP の上に再配置することと等価であ る(図 2)。 3. 得られた成果 フル・ウェーブフォームを用いた手法では,図 1の構造体の物性値を変化させ、弾性定数同士 の波形への寄与の大きさを調べた。解析を行っ 図 2 地下の散乱点(Scatterer Point)と,震源 たところ、密度は他の弾性定数と比べて波形へ の寄与がかなり小さいということが判明した。P (S)および受振点(R)の位置関係 波速度や S 波速度といったキネマティック・パ ラメータに関する感度は高いが,密度のような ダイナミック・パラメータに関し感度が低いことが推察される。 等価オフセット・マイグレーションの適用では,処理の中間段階において,共通中間点(CMP)ギャ ザーではなく,共通散乱点(CSP)ギャザーを構成する。各 CSP ギャザーでは,通常の反射法地震探 査同様に,反射面の傾斜などを気にすることなく速度解析を行うことが可能であり,より正確な地 下構造の速度分布を予測することができる。実際に数値モデルを用い,DMO による結果と比較した ところ,EOM は DMO と同等の解像力を持つ手法であるにもかかわらず,計算時間を大幅に短縮する 手法であることが明らかとなった。 4. 謝 辞 本研究は,株式会社地球科学総合研究所の委託により実施された。お世話になった淺川栄一新技術 推進室長を始めとする関係各位に厚く御礼申し上げます。 発 表 論 文 K. Teranishi, H. Mikada, T. Goto and J. Takekawa, Density Estimation in Elastic Full Waveform Tomography, Proc. 18th International Symposium on Recent Advances in Exploration Geophysics (RAEG 2014), doi: 10.3997/2352-8265.20140175, 2014. 参 考 文 献 Bancroft, J. C., Geiger, H. D., and Margrave, G. F., 1998, The equivalent offset method of prestack time migration: Geophysics, 63 (6), 2042-2053. Gardner, L. and A. Gregory, 1974, Formation velocity and density―the diagnostic basics for stratigraphic traps. Geophysics, 39, 770-780. van Gestel, J.P., Kommedal, J.H., Barkved, O.I., Mundal, I., Bakke, R., Best K. (2008): Continuous seismic surveillance of Valhall Field, The Leading Edge, 27, 1616-1621. Hale, D., 1984, Dip‐moveout by Fourier transform: Geophysics, 49(6), 741-757. doi: 10.1190/1.1441702 Tarantola, A., Inversion of seismic reflection data in the acoustic approximation, Geophysics, 49 (8), 1259-1266, 1984. Virieux, J., 1986, P-SV wave propagation in heterogeneous media, Velocity-stress finite-difference method, Geophysics, 51, 889-901. Yilmaz, O., 2001, Seismic Data Analysis: Processing, Inversion, and Interpretation of Seismic Data, Society of Exploration Geophysicists, Tulsa, Oklahoma, 2065pp., ISBN: 978-1-56080-094-1
© Copyright 2024 Paperzz