サッカーと国際関係に関する研究 ―日韓関係に着目して― The study of soccer and international relations -Focusing on the relations between Japan and Korea1K11C510 村田大地 主査 間野義之 先生 副査 松岡宏高 先生 【研究背景と目的】 2020年にオリンピック・パラリンピックが東京で 【結果】 インタビューイーから得られた回答をコード化し、カ 開催されることが決定した。そのオリンピックに向けて、 テゴリー化した結果、①共催意識、②スポーツ的ナショ 日本国内での大会への期待は徐々に高まってきている。 ナリズム、③政治的アピール、の3つに大別することが オリンピックの目的や役割の1つには世界平和運動が定 できた。 められおり、スポーツによる平和への貢献が重視されて ①2002年日韓ワールドカップについて、日本人の いる。その一方で、大会用施設に伴う環境破壊や、スポ 2人の回答からは共催したという意識が見られなかった ーツの場を狙ったテロの危険性などから否定論も多く存 が、韓国人の3人からは共催意識が見られた。 在する(内海 2012)。こうした状況のなかでスポーツの ②日本人の回答からはナショナリズムがあまり感じら 価値について確認することは2020年のオリンピック れなかったが、韓国人の回答にはナショナリズムが色濃 開催国である日本にとって重要な事であると考える。ま く出ており、国民としての自覚が強かった。 た日本は近隣諸国との間に多くの問題を抱えている。特 ③インタビューイーは基本的に日韓戦における政治的 に韓国との間には竹島をめぐる問題や慰安婦に関する問 アピールに反対する考えを持っていた。政治的アピール 題など、政治的、歴史的な問題が存在し、そういった問 に対しては、日本人よりも韓国人のほうが敏感な反応を 題がスポーツの場に持ち込まれることもしばしばある。 示していた。 このような諸外国との関係性についても考える必要があ るだろう。 【考察】 本研究では、日韓で共同開催したワールドカップや日 2002年のワールドカップは史上初の共同開催で 韓戦で起きた問題が両国民へどのように影響したか、ま あり、日韓双方の当初の反応は異なっていたが、結果的 た日本と韓国がそれぞれ持つ考え方や特徴を明らかにす に日本と韓国が歩み寄る大きなきっかけとなり、以前よ ることで、サッカーの影響を検証し、また日韓関係改善 り友好な関係を築くことができた、価値のある大会であ のための課題を探る。 った。 日韓戦では政治的アピールなどの問題が見られるが、 【方法】 そういった面のマイナスな影響は大きくなく、逆にスポ 本研究では、日韓サッカーでの事例が両国民にどのよ ーツ的ナショナリズムの高まりにより国に一体感を及ぼ うな影響を与えるのか、またその事例をどのように捉え すことが分かった。以上よりサッカーは総合的にポジテ るのかなどを知ることを目的とし、半構造化インタビュ ィブな影響を国や国民に及ぼすものであると考えられる。 ーを実施した。インタビューイーは日本と韓国で共催し 日韓の相違点で目立ったものは2つある。1つ目は た2002年の日韓ワールドカップを多感な時期に経験 ナショナリズムの強さである。韓国はナショナリズムが し、サッカーまたは相手国に馴染みの深い人物を対象に 強く、一方で日本はナショナリズムが希薄であった。2 し、日本人2人、韓国人3人の合計5人に対して調査を つ目の違いは政治的関心の強さである。韓国は政治に対 行った。インタビューは、①2002年日韓ワールドカ して関心が強く、政治的な問題に敏感であった。反対に ップについて思うこと、②2002年日韓ワールドカッ 日本人の政治的関心は弱く、韓国側の政治的アピールに プが自分に与えた影響、③2002年日韓ワールドカッ 対してもさほど影響は受けなかった。今回はこうした違 プ前後の相手国のイメージ、④日韓サッカーについて思 いが日韓の友好関係を築く上での弊害になっていること うこと、⑤日韓サッカーでの各事例についての考え、⑥ が明らかになった。これらの違いは、積み上げてきた歴 現在の相手国に対するイメージ、の6つの質問を中心に 史や立場によって形成されたものであり、変えることは 進めていき、話の展開によって新たな質問を加えた。 難しい。両国民がそれらの違いを理解することが日韓関 係を好転させていくためには必要であると考える。
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