津屋川水系清水池ハリヨ生息地 保存管理計画(案) 海津市教育委員会

津屋川水系清水池ハリヨ生息地
保存管理計画(案)
海津市教育委員会
表紙写真:伊藤潜水企画撮影
はじめに
ハリヨは現在、岐阜県の西濃地方と滋賀県にのみ生息している希少魚で、海
津市にはかつて、津屋川水系と山除川水系に生息していました。残念ながら生
息環境の悪化等により山除川水系ではハリヨを見ることができなくなりました。
しかし、指定対象区域の津屋川水系の生息地は、最も自然な状態で生活してい
る国内でも最大級の水域で、地域住民の方々を中心に大切に保全されています。
ハリヨが生息しているということは「自然の美しさ、豊かさ」がある証です。
ハリヨを守るということは、湧水を守ること、そして郷土の文化を守ることに
もなります。
今後は、本計画に基づき、ハリヨ生息環境の保全、ハリヨの保護のための指
針として、適切に保全管理していきたいと考えております。また、市民との協
働により後世へと残し伝えていくことが、今を生きる私たちの務めでもありま
す。
最後に、本管理計画の策定にあたり、多大なるご指導を賜りました文化庁文
化財部記念物課及び岐阜県教育委員会社会教育文化課をはじめ、保存管理計画
策定委員会の委員の皆様、また、本計画策定に伴う事前調査にご協力をいただ
きました岐阜県立大垣東高等学校理数科ハリヨ班の顧問の先生方並びに生徒の
皆様、その他関係各位に心より感謝申し上げます。
平成 27 年3月
海津市教育委員会
教育長
横井
信雄
例
言
1.本書は、天然記念物津屋川水系清水池ハリヨ生息地の保存管理計画の策
定報告書である。
2.本書は、天然記念物津屋川水系清水池ハリヨ生息地保存管理計画策定委
員会にて検討した。
3.本書は、用語を次のように整理した。
「湧水地」と「湧水池」の表記について
一般的に、周囲の環境を含める場合は「地」、魚の住む場所や水域を示
す場合は「池」を用いる。本書では、
「湧水地」で統一したが、文献の引
用文(文化庁指定説明文)では、
「池」が使われていたため、原文の表記
のまま「湧水池」にしている。
「古代美濃国」における諸郡の漢字表記について
本書では、『和名類聚抄』の漢字表記を基本として用いた。また、「山
崎郷」の「崎」については、
『角川日本地名大辞典
に従った。
21・岐阜県』の表記
目
次
はじめに
例言
第1章 保存管理計画策定の目的と経過
1.計画策定の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.計画の対象範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
3.検討の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(1)委員会の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(2)委員会の審議経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第2章 天然記念物ハリヨ生息地の概要
1.指定の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.指定地の位置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3.自然環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(1)気象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)地形・地質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
4.社会的環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(1)人口の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(2)土地利用の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(3)津屋川流域の工事歴
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(4)歴史的変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(5)清水池の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(6)文化財 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(7)法規制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(8)上位計画との関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
5.他地域のハリヨ生息状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
第3章 調査と保全の取組みの経過
1.生物調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
2.水環境調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
3.保全と管理の取組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
第4章 天然記念物ハリヨ生息地の現状と課題
1.指定地及び周辺地域の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
(1)清水池及び水路の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
(2)周辺のハリヨが確認されている湧水地の現状
・・・・・・・・・・・・・39
(3)周辺地域の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
2.指定地及び周辺地域の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
第5章 保存管理計画
1.保存管理の理念と方針
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
2.津屋川水系清水池ハリヨ生息地を構成する要素
・・・・・・・・・・・・・41
3.地区区分の設定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
4.各地区の保存管理方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
5.現状変更等の基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
(1)現状変更等の基準に関する共通事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・47
(2)許可を要しない現状変更等の範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
(3)指定地内の現状変更基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
(4)指定地外の保存に影響を及ぼす行為について
・・・・・・・・・・・・・50
6.保存管理上の留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
第6章 整備活用の流れ
1.整備活用の基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
2.環境整備の基本方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
3.環境整備の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
第7章 運営及び体制整備
1.基本方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
2.管理運営の体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
3.ハリヨ保護に向けた事業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
第8章 今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
第1章 保存管理計画策定の目的と経過
1.計画策定の目的
ハリヨは、滋賀県北東部と岐阜県南西部にのみ生息する日本固有亜種の淡水魚である。
その希少性から昭和 56 年に南濃町の天然記念物に指定され、平成 17 年の市町村合併によ
り海津市天然記念物となった。その後、津屋川水系のハリヨ生息地は、ハリヨを含むトゲ
ウオ科魚類の世界的な分布南限の一つで、また、国内最大級のハリヨ生息地であり、地域
における保護意識も高いことから、平成 24 年9月 19 日に「津屋川水系清水池ハリヨ生息
地」として国の天然記念物に指定された。
本計画は、ハリヨ生息地を適切に保全し後世に引き継ぐこと、ハリヨ生息環境を保全す
ることで地域の魅力を高め、地域活性化に寄与することを目的とする。そこで本書では、
ハリヨ生息地の保存管理の方針や現状変更の取扱い基準、保存管理の方法や体制、環境整
備の基本方針などを整理し、今後の方向性を示すものとする。
2.計画の対象範囲
保存管理の具体的な対象範囲は、天然記念物として指定された清水池周辺である。しか
し、ハリヨ生息環境を保全するためには、ハリヨ生息の第一条件である湧水の保全が必要
不可欠となる。津屋川流域の湧水は、養老山地からの伏流水であるため、地下水の通り道
となる養老山地の東側山麓一帯の保全が望ましい。将来的には津屋川流域を擁する隣接自
治体と連携して、ハリヨ生息環境の保全に取り組んで行く必要があるが、本計画では、海
津市域内の津屋川水系丘陵流域(今熊谷~志津北谷)の約 490 ヘクタールを保存管理計画
の対象範囲とする。
第1図 津屋川流域(国土地理院 標準地図 20 万より作成)
-1-
第2図 計画対象地(国土地理院 標準地図 25000 より作成)
-2-
3.検討の経緯
(1)委員会の構成
本計画策定に当たっては、専門的な見地からの指導・助言を受けるために、「津屋川水系
清水池ハリヨ生息地保存管理計画策定委員会」を設置し、計画策定を行った。委員会の構
成は、以下の通りである。
構 成
氏 名
役 職
会 長
安藤 盾
下多度地区自治連合会理事
副会長
森 誠一
岐阜経済大学教授
委 員
鷲見 哲也
大同大学准教授
委 員
栗田 武
町北自治会長
委 員
右田 一眞
四東自治会長
委 員
藤田 敏幸
志津新田自治会長
委 員
伊藤五百里
南濃町ハリヨを守る会 会長
委 員
森 敏雄
海津市ハリヨ保存会 会長
委 員
石川 敏子
地権者
委 員
福井 敏夫
中日本氷糖株式会社 取締役会長
委 員
山村奈美子
岐阜県立大垣東高等学校教諭(理数科ハリヨ班顧問)
委 員
杉浦 正佳
海津市立下多度小学校長
委 員
石川敬一郎
海津市観光協会副会長
オブザーバー
江戸 謙顕
文化庁 文化財部 記念物課 文化財調査官
オブザーバー
高田 剛
岐阜県教育委員会 社会教育文化課 学芸主事
行政関係
横井 信雄
海津市教育長
行政関係
服部 尚美
海津市教育委員会事務局長
行政関係
菱田 昭
海津市教育委員会事務局次長
行政関係
志智 正美
海津市建設課長
行政関係
松岡 一則
海津市商工観光課長
事務局
コンサルタント
海津市教育委員会 社会教育課
株式会社イビソク
(2)委員会の審議経過
【第1回委員会】
平成 26 年 10 月6日(月)10:00~12:00 海津市役所南濃庁舎新館4階 大会議室
・委員委嘱、保存管理計画(案)の検討
【第2回委員会】
平成 26 年 12 月 19 日(金)14:00~16:00 海津市役所南濃庁舎新館4階 大会議室
・保存管理計画(案)の検討
【第3回委員会】
平成 27 年3月 10 日(火)10:00~12:00 海津市役所 東館4階 災害対策本部室
・保存管理計画(案)の検討
-3-
第2章 天然記念物ハリヨ生息地の概要
1.指定の概要
名称:津屋川水系清水池ハリヨ生息地
種別:天然記念物
面積:1,181.00 ㎡
告示番号:文部科学省告示第 148 号
指定年月日:平成 24 年9月 19 日
指定基準:
(一)日本特有の動物で著名なもの及びその棲息地
管理団体:海津市(平成 25 年1月 30 日指定)
所在地:岐阜県海津市南濃町津屋字清水 2040 番、2040 番4、2044 番1、2048 番
詳細解説:ハリヨはトゲウオ科イトヨ属に属する淡水魚である。体長約5センチメートル
で成魚となり、背部に3本、腹部に左右一対2本、臀鰭の直前に1本の計6本の棘を持つ。
鱗はなく、胸鰭付近の体前部に5~7枚一列の鱗板が並ぶ。繁殖期のオスは婚姻色を呈し、
頭部下部から鰓蓋にかけては鮮やかな赤色、体側は光沢のある青色を帯びる。トゲウオ科
魚類は巣をつくることで有名であり、ハリヨも水底に水草等の繊維質を用いてトンネル状
の巣をつくる。オスはなわばり内に作った巣にメスを誘い入れて産卵させ、その後 10 数日
間、水煽りや転卵、巣から離れた仔魚を巣に戻す等の育児行動を単独で行う。繁殖は3~
5月をピークとしてほぼ周年に渡り行われ、繁殖後多くの個体は死亡し、寿命は1~2年
である。
ハリヨは日本固有亜種で、岐阜県南西部と滋賀県北東部にのみ生息している。かつては
三重県北部にも生息していたが、1950 年代に絶滅した。近年も生息環境の悪化等により個
体数は減少しており、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来における野生
での絶滅の危険性が極めて高いもの)、岐阜県レッドリストで絶滅危惧Ⅰ類(岐阜県内にお
いて絶滅の危機に瀕している種)
、滋賀県レッドリストで絶滅危惧種(滋賀県内において絶
滅の危機に瀕している種)に選定されている。
ハリヨは系統的に元来北方系の魚類であり、水温が 20 度を超える場所では生息できない。
指定対象区域にハリヨが生息できるのは、夏季でも 20 度を超えない湧水域(周年ほぼ 15
度)があることによる。指定対象区域は、岐阜県海津市南西部で養老山地の東山麓に位置
する、湧水池とそれを源流とする細流である。湧水池の面積は約 234 平方メートル、最大
水深約 60 センチメートル、湧出水量は季節により変化はあるものの毎分約 30 リットルで
ある。当該細流は幅 0.6~3メートル程度で、150 メートルほど続いて揖斐川水系支流津屋
川に注ぐ。指定対象区域を含む津屋川水系右岸側の湿地帯は、養老山地の扇状地を伏流し
て湧出する湧水に恵まれており、国内最大級のハリヨの生息地となっている。
特に、指定対象区域内の湧水池はこれまでに一度も涸れた記録がなく、安定して湧水を
供給しており、常にハリヨが生息可能な水量を維持している。これまでの岐阜経済大学、
大垣東高校等による調査の結果から、当該湧水池及びこれを源流とする細流では、数 100
~2000 個体のハリヨが生息していると推定され、比較的安定して個体群が維持されている
ことが確認されている。
ハリヨを含むトゲウオ科魚類は、行動学、進化学、生態学、形態学、生理学などさまざ
-4-
まな学問分野において世界中で研究されており、特に、オランダ出身のN・ティンバーゲ
ンがその行動研究により 1973 年にノーベル医学生理学賞を受賞したことは有名である。現
在もトゲウオ科魚類に関する学術研究は数多く行われており、学問の進展に寄与している。
特に、ハリヨは遡河型イトヨ類から分化したと考えられており、系統進化的研究に貴重な
資料を提供している。また、北緯 35 度線上に位置する指定対象区域を含むハリヨの生息地
は、ハリヨを含むトゲウオ科魚類の世界的な分布南限の一つであり、生物地理学的にも貴
重である。
なお、指定対象区域においては、海津市教育委員会により四阿や観察路の整備、解説板
の設置等が行われているほか、地元の保全グループが周辺の清掃活動や見回り、草刈り等
を定期的に実施している。さらに、岐阜経済大学及び大垣東高校により、ハリヨの生息状
況等に関する調査研究が継続して実施されており、地域における指定対象区域とそこに生
息するハリヨに対する保護意識は高い。
指定対象区域は、ハリヨを含む学術上貴重なトゲウオ科魚類の世界的な分布南限の一つ
で、豊富な湧水によりハリヨが安定的に生息する重要な生息地であり、地域における保護
意識も高いことから、天然記念物に指定して、その保護を図るものである。
(詳細解説は、
『月刊文化財』588 号(平成 24 年9月1日発行)より引用)
※文献からの引用のため、原文にある「湧水池」の表記
第3図 指定地範囲(用地実測図、公図転写連続図を合成)
-5-
写真1 指定地の航空写真[撮影日:平成 23 年(2011)、撮影:海津市]
2.指定地の位置
津屋川水系清水池ハリヨ生息地は、岐阜県海津市南濃町津屋に所在する。海津市は岐阜
県の最南端に位置し、西部・南部を三重県に、東部を木曽川・長良川によって愛知県に隣
接している。北部は養老郡・安八郡に、北東部は羽島市に接しており、東西方向は約 13km、
南北方向は約 17km であり、総面積は 112.31 ㎢となっている。
その中でも南濃町
は、本州の中で最も
くびれた伊勢湾-若
狭湾線上に位置する。
北は養老郡養老町に、
東は揖斐川を挟んで
海津市海津町に、南
は三重県桑名市に、
西は養老山地の分水
嶺で三重県いなべ市
に接している。
第4図 広域位置図(国土地理院 50 万分1地方図 中部近畿より作成)
-6-
3.自然環境
(1)気象
海津市は冬季に伊吹おろ
しと呼ばれる北西風が強い
ものの、伊勢湾などの海洋性
気候の影響を受けて概して
温暖な地域である。
平成 24 年の年間平均気温
は 15.2℃であり、最暖月平均
気温は8月の 28.1℃、最寒月
平均気温は2月の 3.8℃であ
った。
第5図 気象状況(平成 24 年海津市消防署調べ)
一方、年間の総降水量は 2026.5mm で、月別最高降水量は9月の 436.5mm、最低降水量は
1月の 31.5mm である。この結果から、海津市は冬季に降水量が低下する典型的な表日本型
の降水であることがわかる。
(2)地形・地質
海津市には東海地方の代表的河川である木曽川・長良川が東境を、揖斐川が中央部を流
れている。市域内には北端を流れる大榑川、内水排水路としての役割も持つ大江川、中江
川、養老山地の水を集める津屋川がある。市西部には、標高 500~800m の小高い山々が連
なる養老山地があり、山体は主として砂岩、チャート、粘板岩から構成される。山地を流
れる河川は勾配が急で、狭い谷底を流れるため、水深は大きく、多量の土砂を浸蝕して下
流へ運搬し、扇状地を形成する。扇状地形成の際に堆積される岩屑は比較的大きい砂礫で
構成されるため、透水性が大きく、表面を流れる河川は扇頂部で水が地下へ浸透して伏流
したり地下水になったりするので水無川となる。地下水は湧水となり扇端部で地表に湧き
出し、湧水地帯となる。これらの湧水地の一部でハリヨの生息が確認されている。
第6図 表層地質図(県域統合型 GIS「岐阜県の表層地質と地層断層」より)
-7-
津屋川は養老山地の東側山麓を、山地と並行して流れ、揖斐川に注ぐ。津屋川は流路長
16km ほどの小河川で、川幅は駒野新田より上流の多くは数m前後で、それより下流ではか
なり広くなり 100m を超える。津屋川右岸には最上流から最下流に至るまで所々に湧水地が
あり、湿地帯を形成している。特に津屋~志津新田の湿地は大きく、幅 100m にわたり 700m
ほど右岸を占める。
第7図 津屋川水系(
『わき水の魚ハリヨの生活史』p29、『トゲウオのいる川』p37 より)
-8-
4.社会的環境
(1)人口の変遷
昭和 40 年から平成 22 年までの国勢調査の人口推移をみると、海津市の人口は昭和 45 年
から平成7年までは増加傾向にあったが、その後は減少に転じている。一方、世帯数は年々
増加傾向にあり、平成 22 年は 11,645 世帯となっている。1世帯あたりの人数は 3.3 人と
減少傾向で、核家族化が進んでいることがうかがえる。
平成 25 年の海津市による統計では、海津市の人口は 37,740 人、世帯数は 12,068 世帯と
なっている。
第8図 人口・世帯の推移(
『海津市総合開発計画(後期基本計画)』p10 より)
(2)土地利用の変遷
海津市南濃町地域の昭和 40 年から平成 15 年までの地目別土地面積の変遷をみると、農
地と森林は徐々に減少し、道路と宅地は概して増加していることが分かる。海津市南濃町
地域の土地利用の特徴としては、宅地化が進んで来たことがうかがえる。
第1表 地目別土地面積(
『南濃町史 通史編』p3、『海津市環境基本計画』p26 より)
総土地
面積
昭和40年(1965年) 52.94
昭和45年(1970年) 52.94
昭和50年(1975年) 52.94
平成15年(2003年)
51.81
11.90
11.60
10.90
31.87
31.72
30.54
水面、河川
水路
0.22
2.29
0.22
2.29
0.00
2.31
9.06
30.36
0.03
農地
森林
原野
-
道路
宅地
1.10
1.46
1.74
1.28
1.42
1.92
1.65
4.04
その他
4.28
4.23
5.53
-
(単位:㎢)
一方、養老山地の植生についてみると、古来より建築用材や薪炭材などの供給の場とし
て重要な位置を占めてきたため、原始のままの自然林は極めて少なく、1980 年時点で、そ
のほとんどがスギ・ヒノキの人工林ないしコジイ・シラカシ・アラカシを主とした常緑広葉
樹二次林に置き代っている。その後、化石燃料への転換により薪炭材の需要が減少し、二
次林の価値が低下したため、手入れが行き届かず、荒れた林が広がってきていると推測さ
れる。
-9-
第9図 昭和の土地利用状況(5000 国土基本図、昭和 39 年(1964)、国土地理院)
第 10 図 平成の土地利用状況(1/2500 海津市都市計画図、平成 17 年(2005)、海津市)
- 10 -
第 11 図 植生図(
『南濃町史 通史編』別紙付図より)
(3)津屋川流域の工事歴
(
『南濃町史』図表 3-44・治水工事関係一覧表、
『わき水の魚ハリヨの生活史』、
『トゲウオのいる川 淡水の生態系を守る』より)
1656 年:堤防強化により現在の津屋川流路となる
1662 年:津屋川堀替
1705 年:宝永の取払(美濃の諸河川、障害物の一掃)
1754 年:宝暦治水(津屋川ほか、築流堤・堤上置・堤腹付・洲浚)
1766~1767 年:明和の御手伝普請(津屋川ほか、堤丈夫付・洲浚・堤腹付上置・門樋掛替)
1853 年:駒野村掛廻し堤丈夫付普請
1953~1959 年:津屋川水門の新設(揖斐川合流点の上流、逆水防止の水門)
1983 年頃:清水池水路のコンクリート護岸工事(土手から三面張りの水路へ)
1991 年:津屋川水門の改修
1993 年:
「ハリヨ橋」の新設
1995 年頃:下水道整備による湿地・湧水地の埋め立て
2007 年 11 月:清水池水路の浚渫工事(大水路に数 10cm 堆積した土砂を除去)
2009 年 11 月~:津屋川堤防の築堤工事(南濃町戸田地内)
2011 年8月~2012 年3月:津屋川堤防の築堤工事(南濃町戸田地内、志津新田地内)
2012 年9月~2013 年3月:津屋川堤防の築堤工事(南濃町志津新田地内)
2013 年3月~2014 年2月:津屋川の堆積土撤去(南濃町津屋ほか)
2014 年3月~2015 年3月:津屋川堤防の築堤工事(南濃町津屋地内)
- 11 -
(4)歴史的変遷
養老山地の麓には貝塚や多くの古墳が残っており、縄文時代より人が住みつき早くから
開けていた地域である。平地部は、木曽三川が蛇行して流れ、洪水のたびに流れを変え伊
勢湾に注ぐ湿地帯となっていた。人々は、河川が造った自然堤防を活用して集落を形成し、
水田を開くとともに、河川を利用して漁業を営んでいた。木曽三川や湧水に恵まれた水環
境を背景に、人々の生活が支えられ、淡水に縁の深い文化が発展してきた。
縄文時代の遺跡としては、扇状地に営まれた庭田貝塚や羽沢貝塚がある。弥生時代の遺
跡は発見されていないが、弥生土器の採集事例はあるので、地中に埋もれているものと思
われる。古墳時代については、円満寺山古墳をはじめ、行基寺古墳、東天神古墳など 100
基を超える古墳が養老山系東側丘陵に点在している。
8世紀初めごろ、美濃地方には多芸、不破、安八、大野、本巣、方県、厚見、各務、山
県、武芸、賀茂、可児、土岐、恵奈の諸郡が成立していた。斉衡2年(855)には多芸郡の
南部すなわち南濃地方を割いて石津郡が建置され、そこには桜樹郷、山崎郷、大庭郷、建
部郷の四郷が置かれた。ハリヨ生息地が所在する南濃町は山崎郷に相当し、山崎の地は山
崎北谷と山崎南谷の間の扇状地に存在する農村地域であったとされる。これらの農村は、
のちの大荘園の成立に繋がり、平安貴族文化の経済的基盤となった。南濃町庭田に存在す
る円満寺には平安時代中期・後期の優麗な仏像が幾体もあるため、円満寺周辺に多くの堂
宇が存在したと考えられる。そのような僧堂を建立することのできる富と権勢がこの地方
にあったことがうかがえる。
ごおるど
中世には石津郡に摂関家領である郡戸荘という荘園が存在していた。その荘域は、現在
の海津市一帯にわたるとみられている。南北朝時代終り頃になると郡戸荘内脇田郷が東濃
の地方豪族であった土岐氏一族の所領となった。応仁の乱以後には美濃全域に勢力を持っ
ていた土岐氏に代わり、家臣の斎藤氏が美濃の覇権を掌握した。戦国時代末期には、駒野
城を拠点とする高木氏が南濃地方に勢力を持つこととなった。
関ヶ原合戦直後、南濃町域は高木氏に代わり徳永氏の所領となったが、寛永5年(1628)
に徳永氏の所領は没収され幕府直轄となった。その後、寛永 12 年(1635)に大垣城へ戸田
氏が入部すると、南濃町域の大部分(津屋・志津・徳田・庭田・奥条・羽根・馬沢・大里・
安江・中嶋・松ヶ平・下一色)は大垣藩領となった。一方、河川に関して、農業を主軸に
した近世社会においては、治水が持つ意味は極めて大きい。特に、ハリヨ生息地が所在す
る津屋川流域では、川の氾濫に絶えず悩まされてきた。津屋川は昔、多芸郡の有尾・大野
新田・鍋鶴・大場新田の地内を経過して下池に灌流していたが、堤防強化の河川工事が進
められ、明暦2年(1656)に現在の津屋川流路となった。
近代に入り美濃国内は、明治4年(1871)の廃藩置県により大垣県や笠松県等の複数の
県に一時分かれたが、その後、岐阜県に統一された。明治 22 年の町村制の施行、明治 30
年の新郡制の実施、昭和 29 年(1954)の町制施行を経て南濃町が誕生した。そして平成 17
年(2005)3月 28 日に海津町・平田町・南濃町が合併し、現在の海津市となった。
- 12 -
第 12 図 遺跡等分布図(国土地理院 標準地図 25000、海津市遺跡地図より作成)
- 13 -
(5)清水池の変遷
清水池は、ハリヨ生息地として平成 24 年に国の天然記念物に指定されたが、古くから湧
水と一体となった生活文化が営まれてきた場所でもある。野菜の洗い場としてよく利用さ
れており、洗い滓などをハリヨが食べる光景が見られ、ハリヨと人々とが共存している貴
重な風景である。
昭和 40 年代からの森誠一氏によるハリヨの生態調査や分布調査の成果を受けて、昭和 56
年には、ハリヨが南濃町の天然記念物に指定された。その後、昭和 63 年に南濃町教育委員
会によって、ハリヨ保護の看板が清水池の脇に立てられた。平成5年には、地元住民によ
る『南濃町ハリヨを守る会』が発足し、池の清掃活動などが継続して行われている。
平成 15 年には、岐阜県希少野生生物保護条例の『指定希少野生生物』
、及び『保護区』
に指定され、ハリヨの保全が図られ、平成 18 年度からは、大垣東高校によるハリヨの生態
調査が継続されており、保護意識が高い地域となっている。
写真2・3 清水池の利用風景
- 14 -
(6)文化財
海津市は平成 25 年4月1日現在、国指定文化財2件、登録有形文化財4件、県指定文化
財 13 件、市指定文化財 53 件を有している。詳細は以下の通りである。
第2表 指定・登録文化財一覧
区分
国
県
市
種別
史跡
天然記念物
登録有形文化財
登録有形文化財
登録有形文化財
登録有形文化財
重要文化財
重要文化財
重要文化財
重要無形民俗文化財
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
天然記念物
天然記念物
天然記念物
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形文化財
有形民俗文化財
有形民俗文化財
有形民俗文化財
有形民俗文化財
無形民俗文化財
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
史跡
名勝
天然記念物
天然記念物
天然記念物
天然記念物
天然記念物
天然記念物
天然記念物
種目
建造物
建造物
建造物
建造物
建造物
絵画
建造物
彫刻
彫刻
絵画
工芸品
工芸品
建造物
彫刻
彫刻
彫刻
古文書
建造物
工芸品
工芸品
建造物
工芸品
彫刻
彫刻
工芸品
古文書
彫刻
彫刻
彫刻
彫刻
彫刻
彫刻
彫刻
彫刻
名称
油島千本松締切堤
津屋川水系清水池ハリヨ生息地
羽根谷砂防堰堤(第1堰堤)
羽根谷砂防堰堤
伊藤家住宅 主屋
伊藤家住宅 収蔵庫
板碑
一光三尊弥陀仏
蛇池宝篋印塔
今尾左義長
高須藩主歴代墓
石津薩摩工事義歿者墓
羽沢貝塚
庭田貝塚
春岱今尾窯跡
今尾常榮寺薩摩工事義歿者墓
松山諏訪神社の大クス
梶屋八幡神社社叢
杉生神社のケヤキ
木彫観音立像
木彫観音立像
山越弥陀三尊仏
古馨
時計コレクション
七重塔
武装半跏像
釈迦如来立像
阿弥陀如来(頭部)
御墨印
西願寺山門
四方織部釉小菊印花文大香炉
黄瀬戸釉狛犬
早川邸
円成寺の大提灯
八手観世音菩薩像
円空仏
高須別院梵鐘
徳永寿昌・昌重連署状
釈迦如来坐像
薬師如来坐像
大日如来坐像
十一面観世音菩薩立像
聖観世音菩薩立像
阿弥陀如来坐像
木造天部像
地蔵菩薩坐像
本町ダシ(※車山)
末広町ダシ(※車山)
山車・恵比須神
本阿弥新田助命壇
高田の甘酒まつり
駒野城跡
氏家卜全の墓
東天神古墳
行基寺古墳
志津三郎兼氏住居跡
今尾渡し道標
津屋城跡
円満寺山古墳
狐平古墳
七つ墓
柑橘翁伊藤東太夫碑
出来山三号墳
徳永寿昌墓碑
臥龍山行基寺
志津の養老ナシ
出来山の千本桜
ハリヨ
駒野のイヌマキ
諏訪神社のマキ
杉生神社のヒトツバタゴ
八幡神社のイチョウ
- 15 -
所在地
海津町油島
南濃町津屋
南濃町奥条
南濃町奥条
南濃町吉田
南濃町吉田
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
平田町蛇池
平田町今尾
南濃町上野河戸
南濃町太田
南濃町羽沢
南濃町庭田
平田町今尾
平田町今尾
南濃町松山
海津町稲山
南濃町太田
海津町油島
海津町日原
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
南濃町上野河戸
平田町今尾
平田町今尾
平田町今尾
平田町三郷
南濃町太田
海津町日原
海津町瀬古
海津町高須町
海津町萓野
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
南濃町庭田
海津町萓野
海津町高須町
平田町今尾
海津町本阿弥新田
平田町高田
南濃町駒野
南濃町安江(碑)
南濃町太田(塚)
南濃町駒野
南濃町上野河戸
南濃町志津
平田町今尾
南濃町津屋
南濃町庭田
南濃町境
南濃町志津
南濃町太田
南濃町吉田
海津町高須町
南濃町上野河戸
南濃町志津
南濃町吉田
南濃町全域
南濃町駒野
南濃町松山
南濃町太田
南濃町山崎
所有者・管理者
国土交通省
海津市および個人
国土交通省
国土交通省
個人
個人
行基寺
行基寺
宝延寺
今尾左義長保存会
行基寺
円成寺
海津市
海津市
海津市
常榮市
海津市
梶屋八幡神社
杉生神社
宝暦治水史蹟保存会
日原自治会
行基寺
行基寺
行基寺
行基寺
寒窓寺
寒窓寺
寒窓寺
寒窓寺
個人
今尾神社
今尾神社
個人
太田区長
日原自治会
個人
高須別院二恩寺
歴史民俗資料館
圓満寺
圓満寺
圓満寺
圓満寺
圓満寺
圓満寺
圓満寺
圓満寺
海津市
末広町自治会
本町自治会
個人
高田自治会
海津市
指定日
S15.7.12
H24.9.19
H9.9.3
H10.1.16
H20.3.7
H20.3.7
S32.7.9
S32.12.19
S52.11.18
S55.1.18
S32.7.9
S32.7.9
S32.7.9
S32.7.9
S51.12.21
S56.5.19
S32.7.9
S58.2.25
H8.7.9
S30.9.27
S30.9.27
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S31.10.25
S54.9.5
S60.10.26
S60.10.26
H15.10.15
H15.12.15
H17.2.22
H17.2.22
H17.2.22
H17.2.22
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H21.4.9
H4.10.1
H4.10.1
H6.11.16
H9.12.12
S54.9.5
S31.8.20
個人
S31.8.20
東天神社
行基寺
善教寺
今尾区連合自治会
本慶寺
圓満寺
山神神社
個人
杉生神社
吉田区長
広徳寺
行基寺
海津市
吉田区
S31.8.20
S31.10.25
S31.10.25
S51.6.15
S56.12.16
S56.12.16
H6.2.23
H13.9.5
H13.9.5
H15.12.15
H17.2.22
S31.10.25
S31.8.20
S34.2.6
S56.12.16
S63.12.9
H2.7.24
H6.2.23
H6.2.23
個人
諏訪神社
杉生神社
八幡神社
(7)法規制
津屋川水系清水池ハリヨ生息地は、文化財保護法や岐阜県希少野生生物保護条例などに
よって、一定の行為が規制されている。また、指定地周辺においても、保存に影響を及ぼ
す行為が規制されている。ハリヨ生息地周辺は都市計画区域に定められているが、市街化
区域や用途指定などはなされていない。一方、津屋川流域一帯は農業振興地域の整備に関
する法律により農業振興地域に指定されている。
平成 26 年7月に施行された水循環基本法は、水を国民共有の貴重な財産と位置づけ、地
表水または地下水として河川流域を中心に循環する水について、
「健全な水循環」を維持す
ることを目的とした、新しい法律である。基本的施策の中には、
「貯留・涵養機能の維持及
び向上」や「健全な水循環に関する教育の推進」、
「水循環施策の策定に必要な調査の実施」
等が挙げられており、国や地方公共団体の責務について示している。
指定地に直接関わっていない自然公園法や河川法なども含め、指定地周辺の関連法規を
以下にまとめる
(対象地域の範囲については巻末掲載の参考資料 01~04 の法規制図を参照)
。
第3表 関連法規一覧
関連法規
対象
指定の概要・具体的な規制
国指定天然記念物に指定され、現状変更
天然記念物「津屋川水系清
や保存に影響のある各種行為が規制され
水池ハリヨ生息地」
ている
文化財保護法
津屋城跡や養老山地採石場跡が遺跡地図
周知の埋蔵文化財包蔵地
に掲載され、開発行為等の際には事前協
(津屋城跡など)
議や発掘調査が必要
指定地周辺は建築形態規制区域「4」に
都市計画区域
都市計画法
分類され、建ぺい率や容積率等が定めら
(建築形態規制区域)
れている
自然公園特別地域、自然公園普通地域
自然公園法
揖斐関ヶ原養老国定公園
に指定され、工作物の新築や水面の埋め
立て等の行為が規制されている
一級河川に指定され、流水の占有や土地
河川法
津屋川
の掘削、土砂の採取等の行為が規制され
ている
養老山地、風呂谷、かっこ 砂防指定地、砂防設備渓流に指定され、
砂防法
う谷、志津北谷、志津南谷 竹木の伐採や土石・砂れきの採取等が規
など
制されている
土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区
風呂谷、かっこう谷、志津
土砂災害防止法
域に指定され、建築物の構造規制や移転
北谷、志津南谷など
支援等の措置が定められている
津屋川流域の平野一帯
農業振興地域に指定
農業振興地域の
農用地区域に指定され、農業以外の用途
整備に関する法律
津屋川左岸など
への転用が厳しく制限される
森林簿に掲載、保安林に指定され、立木
森林法
養老山地
の伐採や開墾、土地の形質変更等が規制
されている
水量の増減、水質の悪化等、水循環に対
地表水または地下水として
する影響を及ぼす水の利用等について、
水循環基本法
河川流域を中心に循環する
国や地方公共団体が規制その他の措置を
水
講ずるものとしている
生きている個体は、捕獲、採取、殺傷又
指定希少野生生物
は損傷を禁止している
「ハリヨ(指定種)」
違法に捕獲等した個体の譲渡し、譲受け
岐阜県
又は引渡し、引取りを禁止している
希少野生生物保護条例
指定希少野生生物保護区
保護区の区域内においては保護に支障を
「津屋ハリヨ指定希少
及ぼす各種行為を規制している(各種行
野生生物保護区」 為を実施する場合は知事の許可が必要)
禁止地域
風致地区など良好な景観を保持する必要
岐阜県
「史跡名勝天然記念物に
のある地域は、原則として広告物の掲出
屋外広告物条例
指定された地域(津屋川水 ができない(基準を満たした案内広告物
系清水池ハリヨ生息地)」 等は設置可能)
天然記念物「ハリヨ(南濃 市天然記念物に指定され、捕獲等が制限
海津市文化財保護条例
町全域)」
されている
- 16 -
指定日・施行日 担当窓口
H24.9.19指定
海津市教育委員会
社会教育課
海津市教育委員会
社会教育課
H16.4.1指定
海津市建設課
(変更H24.8.24)
S45.12.28指定
海津市建設課
S40.4.1施行
海津市建設課
S22.5.3施行
海津市建設課
H13.4.1施行
海津市建設課
海津市農林振興課
S44.9.27施行
海津市農林振興課
S26.8.1施行
海津市農林振興課
H26.7.1施行
海津市建設課
H15.11.11指定
海津市環境課
(西濃振興局環境課)
H24.9.19指定
(S40.1.1施行)
海津市建設課
S56.12.16
海津市教育委員会
社会教育課
(8)上位計画との関係
海津市総合開発計画
・基本構想
「海津市総合開発計画」
指定地
は、旧海津郡3町の合併に
伴い、市の基本構想として
平成 18 年度に策定された。
計画期間は、平成 19 年度を
初年度とし、平成 28 年度を
目標年度とする 10 年間と
なっている。この計画では、
まちの将来像を「協働が生
みだす
魅力あふれるまち
海津」と定め、
「心のオアシ
ス都市」を副題としている。
協働とは、
「市民と行政とが
対等な立場で責任を共有し
ながら目標の達成に向けて
連携するもの」と位置付け
られており、また、
「防災、
防犯、交通安全、介護、福
祉、健康、環境、リサイク
ル、教育分野などの公共的
な領域において、市民と市
第 13 図 土地利用構想図
(行政)が立場の違いを乗 (
『海津市総合開発計画(後期基本計画)
』より)
り越えて協力・連携し、主
体的、自律的に取り組む活動こそが、魅力あふれるまちを生みだす」とも位置付けられて
いる。また、副題の「心のオアシス都市」については、海津市が「大都市近郊にあって、
美しく豊かな自然や潤いある環境と調和し、憩いと安らぎの場を市民等に提供する田園都
市である」ことを示している。
・前期基本計画
平成 19~23 年の5年間を計画期間とした前期基本計画では、自然環境や文化財に関して
以下のように述べている。
「政策Ⅲ
美しい自然を守り、ともに生きるまちづくり」の「施策①
自然とともに生
きる地域づくりの推進」の項目では、「自然保護の意識を高め、市民参画による自然環境の
保全、再生を図るとともに自然との共生に努める」を基本方針としている。施策の方向で
は、
「ハリヨなど貴重な動植物については、市民との協働のもとで保護活動を進める」を挙
げている。また「政策Ⅳ
魅力ある教育・文化のまちづくり」の「施策④
文化の振興」
の項目では、
「文化財の掘り起こしと適切な保存・管理・活用に努める」を基本方針として
いる。
- 17 -
・後期基本計画
平成 24~28 年の5年間を計画期間とした後期基本計画は、これまでの進捗状況を踏まえ
基本構想の趣旨を再認識するとともに、前期基本計画の内容を点検・評価し、社会情勢の
変化に対応できる計画として策定された。自然環境や文化財に関して、前期基本計画から
追加・変更があったのは以下の箇所である。
政策Ⅲの施策①では、基本方針を「木曽三川や大江川、中江川、大榑川、津屋川、山除
川、長除川などの河川や池沼について、国・県と協力して自然生態系に配慮した治水事業
を進めるとともに、河川敷、河川沿岸を活用したビオトープとして自然環境の保全・再生
に努める。また、養老山地の森林、緑地の保全に努める」としている。政策Ⅳの施策④で
は、施策の方向として「①文化事業の推進、②文化団体の育成・支援、③文化財の調査・
保全・活用の推進、④歴史民俗資料館の活性化」を挙げている。
海津都市計画区域マスタープラン
「海津都市計画
都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(海津都市計画区域マスタ
ープラン)
」は、
「海津市総合開発計画」の基本構想の理念をもとに、平成 23 年に策定され
た。自然環境に関するまちづくりのテーマとして、
「地域の魅力を活かし、活力を育む土地
利用の推進」を挙げており、都市計画の目標では、
「河川・池沼等の良好な自然環境を活か
し、水と緑のネットワークによる快
適な居住空間を創造する」としてい
る。良好な景観の保全・形成に関し
ても、「親水性豊かな自然環境やう
るおいある水辺景観、一面に広がる
のどかな農村景観等、優れた自然環
境・景観が今後も損なわれることが
ないよう保全する」や、「輪中・貝
塚・神社仏閣等の歴史的・文化的資
源についてもその保全を図り、ゆと
りやうるおいを醸成する要素とし
てこれらを取り込んだ個性的で文
化性豊かな景観の形成に取り組む」
などの目標を挙げている。また、自
然環境の整備に関する都市計画の
決定の方針は、「大江川周辺の池沼
周辺区域及び津屋川等良好な自然
環境を有する地域については、風致
公園、風致地区、緑地保全地域、特
別緑地保全地区等としての指定を
検討し、環境の保全に配慮した整備
を推進する」となっている。
第 14 図 海津都市計画区域総括図
(『海津都市計画区域マスタープラン』を一部改変)
- 18 -
海津市環境基本計画
「海津市環境基本計画」は、海津市の豊かな自然を守ることを目的として、平成 19 年に
策定された計画である。自然環境の保全に関しては、「第2章 第1節 自然環境を保全す
る」の中で、
「ハリヨ・メダカなどの希少生物が生息する豊かな水辺の保全を図り、自然環
境を次代へと引き継いでいく」という将来像を示し、市民・事業者・行政が一体となった
取り組みを推進するとしている。
海津市教育振興基本計画
「海津市教育振興基本計画」は、平成 18 年の教育基本法の改正に伴い、教育の振興に関
する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために定められた計画である。本計画は「海津
市総合開発計画」に基づき教育関連の重点施策を策定し、平成 26~30 年度を計画期間とし
ている。
「4 文化の振興」では、文化の継承と発展に関する基本施策として「①指定文化
財の保存・保護、後継者の育成、②文化財や伝統芸能の資料収集及び調査研究、③文化資
源の活用」を挙げている。文化財の普及啓発に関しては「①文化財の情報発信と周知、②
自然・歴史資源の発見と活用」を基本施策としている。
以上の諸計画では、ハリヨは市民協働のもとで保護活動を進めること、ハリヨ生息地を
守り、次世代へ引き継いでいくためにも自然生態系に配慮した治水事業を進め、養老山地
の森林緑地の保全に努めることなどが述べられている。本計画では、これら上位計画の方
針を考慮しつつ、国指定の天然記念物として必要な措置を講じるために保存管理計画を策
定し、ハリヨの保全を図ることとする。
5.他地域のハリヨ生息状況
ハリヨは、岐阜県南西部と滋賀県北東部にのみ生息している希少種であり、各地で保護
活動が行われている。海津
市を含め、ハリヨの生息が
確認されている地域を以下
にまとめる。天然記念物指
定の有無や、岐阜県希少野
生生物保護条例の指定、絶
滅してしまった地域、環境
整備状況などについても簡
単に触れる。
第 15 図 ハリヨ生息地域
(国土地理院 50 万分1地方図 中部近畿より作成)
- 19 -
- 20 -
※網掛けは、元々の生息地
生息状況・整備状況
安定的に個体数を維持しているが、
海津市
近年は藻の大量発生などで営巣数が
南濃町
減少している。
「西之川ハリヨ池広場」を設け、ガ
大垣市
マが再び自噴し、生息条件が良くな
西之川町
る。
湧水池の枯渇や汚染で絶滅状態。水
揖斐郡
中ポンプや排水分離工事などの環境
池田町八幡
整備で個体数回復。
ブラックバスの侵入で一時絶滅状
大垣市
態。華渓寺の自噴水による新たな池
曽根町
を整備し保全。
湧水池の枯渇や汚染で絶滅状態。
大垣市
「矢道ハリヨの池広場」を設け、ハ
矢道町
リヨの復活を目指す。
水量は豊富だが、ハリヨの生息は減
垂井町
岐
少。保護区を設置して生息環境整備
表佐
阜
が進む。
県 瑞穂市
「ハリヨ公園」で池の保全を図って
十八条
いるが、絶滅状態。
「加賀野八幡神社・自噴水井戸」の
大垣市
豊富な湧水により、大垣市内で一番
加賀野
の個体数。
本巣市
「湯ノ古公園」を整備し、ハリヨを
外山
保全。
安八郡
小学校内に「ハリヨ池」を整備し、
神戸町
保護飼育。
養老郡
「なかよしコート」公園近くのガマ
養老町鷲巣
でハリヨが確認される。
養老郡
小学校内に「ひょうたん池」を整備
養老町口ケ島 し、保護飼育。
山県市
「ハリヨ公園」を整備し、ハリヨを
伊自良
復活させた。
各務原市
「木曽川水園ふれあい池」に加賀野
川島笠田町
から譲り受けたハリヨを放流。
イトヨとの交雑で純粋なハリヨが絶
米原市
滅状態。小学校のビオトープや水槽
醒井
などで保護・飼育。
犬上川の河口整備では、湧水に配慮
滋 彦根市
した川づくり。
賀
一旦枯渇した湧水を「ハリヨの里あ
県 東近江市
れぢ」として整備し、個体数回復を
宮荘町
図る。
東近江市
「湧水公園」を整備し、ハリヨを保
垣見町
護。
桑名市
三
1950年代に絶滅。
多度町
重
いなべ市
大垣市西之川町のハリヨを湧水池に
県
藤原町
移して保護増殖。
所在地
曽根ハリヨを守る会、
曽根町ハリヨ・ホタル保
存会
池の監視や周辺の環境整備
など(H23)。
S56.5.11
ハリヨと
その生息地
市
未指定
甘呂町ハリヨの会
『はりんこネットワーク20周年記念誌ふるさとの魚ハリヨ』(平成23年発行)の資料をもとに作成
未指定
未指定
未指定
地蔵川とハリヨを守る会
未指定
未指定
未指定
未指定
未指定
未指定
S60.2.9
表佐ハリヨ生息地
湯壺池
町
S40.7.8
S41.12.13
S40.9.7
S49.12.26
ハリヨ生息地
池田町八幡の
ハリヨ繁殖地
ハリヨ生息地
H24.9.19
指定日
ハリヨ生息地
市
市
県
県
上流域に残る原種の保護活
動(H23)。
H17.3.4
H15.11.11
H15.11.11
H15.11.11
国
未指定
明谷ハリヨ
指定希少野生生物保護区
加賀野ハリヨ
指定希少野生生物保護区
八幡ハリヨ
指定希少野生生物保護区
西之川ハリヨ
指定希少野生生物保護区
H15.11.11
天然記念物
津屋川水系清水池
ハリヨ生息地
指定区分 名称
観察ツアーを実施し、市民
への啓発活動(H22)。
神戸町ハリヨを守る会
本巣町ハリヨ保存会
加賀野地区の役員を中心に
加賀野名水保存会
川藻除去などの活動(H23)。
表佐ハリヨを守る会
池田町ハリヨを守る会
ハリヨ生息調査や清掃活動
など(H23)。
矢道川にいるハリヨを池に
移せないか、検討中(H26現
在)。
垂井町の文化財事業の一つ
として、環境整備を継続
(H26現在)。
紡績工場閉鎖後、保護活動
が途絶える(H23)。
西之川ハリヨ保存会
津屋ハリヨ
指定希少野生生物保護区
南濃町ハリヨを守る会
海津市ハリヨ保存会
岐阜県希少野生生物保護条例
指定日
名称
地元保全団体
保存会や子供会による除草
作業など(H23)。
保 全 状 況
活動状況
清水池では、大垣東高校の
生徒による生態調査が継続
中(H26現在)。
第4表 主なハリヨ生息地の保全状況
第3章 調査と保全の取組みの経過
1.生物調査(これまでの調査研究で得られた知見)
ハリヨは、滋賀県北東部と岐阜県南西部にのみ分布している希少魚であり、ハリヨを含
むトゲウオ科に関する調査・研究は、進化学、形態学、生理学、生態学、行動学などの様々
な分野において世界中で行われている。
海津市を含む西美濃地方のハリヨについては、森誠一氏の調査・研究によって詳しく報
告されている(Mori, S. 1993. ほか)。また、指定地の清水池周辺では、岐阜県立大垣東
高等学校によってハリヨの生態調査及び環境調査が平成 18 年度から毎月実施されている。
本項では、昭和 47 年(1972)から平成3年(1991)にかけて行われたハリヨの実態調査
の報告書である『わき水の魚ハリヨの生活史』
(南濃町(現海津市)教育委員会編集)の概
要と、平成 25・26 年度の岐阜県立大垣東高等学校による「岐阜県南濃町津屋地区における
ハリヨの生態調査」の結果を以下に記載する。ただし、写真や図面については、最新のも
のを適宜使用している。
『わき水の魚ハリヨの生活史』の概要(調査実施:森誠一)
○生活史
ハリヨは淡水で一生を送る。繁殖期(3~5月ピーク)になると雄は婚姻色が現れ、そ
の頭部は赤く、体は青く光沢を帯びる。雄はナワバリを持ち、その中心に水草や根などの
繊維質のものを用いてトンネル状の巣を作る。巣には数尾の雌を誘い入れて産卵させる。
その後、十数日の間、雄は育児に終始する。繁殖後、多くの個体は死亡し寿命は1~2年
である。
(撮影:伊藤潜水企画)
写真4 雄の婚姻色
(撮影:伊藤潜水企画)
写真5 雄が雌を巣へ誘導
(撮影:伊藤潜水企画)
(撮影:伊藤潜水企画)
写真6 巣作り、もしくは卵の世話
写真7 孵化した稚魚
- 21 -
○生息環境
ハリヨは元来、北方系の魚類であるという系統的な理由から、夏期の高水温(20~25℃
以上)の水域には存続生息できない。また、巣が流されないために、緩やかな流れ(約 15cm
/秒以下)であることが必要である。豊富な湧水により年中ほぼ 15℃に保たれ、静水域で
ある津屋の湧水地は、これらの条件を満たす重要な生息地である。ハリヨは、巣材として
繊維状の植物片を使用するので、水域のある程度(20~30%内外)は水生植物に被われて
いる環境がよい。また、ハリヨは水底に巣を作るため、底質はレキ底やコンクリート底よ
り砂泥底もしくは砂地が繁殖地として絶対的に適している。ハリヨの餌の多くは動物性の
プランクトンで、水生植物のフサモ、コカナダモ、オランダガラシなどに付着しているヨ
コエビやミズムシ類などの甲殻類が多い。また、底中のユスリカ幼虫、イトミミズ類も多
く食べている。
○共存種
ハリヨの生息地する湧水域には、アブラハヤ、ホトケドジョウ、スナヤツメなどが共存
している。多くの湧水域ではアブラハヤが最も多いが、時々、ハリヨの死体に吸いついて
いるスナヤツメが見られることがある。他にもコイ、フナ、オイカワ、カワムツ、タモロ
コ、バラタナゴなどのコイ科やウキゴリ、ヨシノボリなどのハゼ科が同所的に生息するこ
ともある。しかしながら、コイやフナなどのように体長が 30 ㎝を越えるようになる大型魚
は、ハリヨの巣を、摂餌のための底つつきやその泳ぎで煽って壊してしまうため、ハリヨ
の生息に極めて害となる。魚食性のオオクチバス(ブラックバス)やブルーギルの同所的
生息も、ハリヨの生息を致命的なものにすると考えられる。
○津屋川のハリヨ
1991 年調査当時、南濃町においてハリヨは、津屋川水系と山除川水系に生息していた。
特に、津屋川水系はハリヨ生息地の中で最大級であり、最も自然の状態で生活している水
域である。津屋川を便宜上、下流(駒野新田から河口)、中流(早瀬から志津)、上流(志
津新田と津屋地区)に分けて、ハリヨの生息域について記載する。
・下流域
1991 年時点では、下流域においてハリヨは確認できなかった。1984 年頃までは、駒野地
区の駒野簡易水道水源地近くに湧水地があり、そこにはハリヨが群れて生息していた。し
かし、現在はコンクリートの三面張りの側溝になっており、ハリヨの姿はまったく見るこ
とができない。また、大桑国道(258 号線)の上流部の右岸は 1980 年代後半まで、津屋川
の西側から2本の沢筋が入り込み複雑な水系を形成し、湧水が多く湧き出ていたため、多
くのハリヨが確認されていた。しかしながら、現在この水域一帯は深くされ、沢筋を仕切
っていた土手は完全に除去されている。
・中流域
中流域では徳田地区の広域水道水源地の脇にある湧水地に、ハリヨが生息している。し
かし下流部の津屋川が大きく変化したため、年々ハリヨの個体数は減少傾向にある。戸田
地区にも湧水地が4箇所あり、これらは津屋川の流域内に位置し周囲は湿地状態だった。
1980 年頃までは、いずれの湧水地にもハリヨは生息していたが、埋め立て等の影響により、
- 22 -
ハリヨは姿を消した。戸田地区では津屋川本流部でも、1985 年頃まではハリヨの営巣が見
られたが、現在はほとんど確認できない。戸田地区から志津地区までの水域では、単調な
岸が続き、ハリヨが集団に営巣する所は観察されていない。
・上流域
志津新田から津屋地区にかけての津屋川右岸の数百 m は、ハリヨの日本最大の生息水域
である。この一帯にはいくつもよい湧水地があり、細流が東流し津屋川に注いでいる。こ
の水域ではいち早く繁殖が始まり、2月になると営巣が見られるようになる。年によって
は1月からすぐに営巣を始めている雄個体が観察される。さらに3~5月の繁殖ピークが
終了しても 12 月まで、この一帯におけるハリヨ個体群は営巣がみられる。このように、年
中繁殖を行っている事象は、世界中のトゲウオ科の仲間においても類のないことである。
清水池は、一度も涸れたことがなく、最も安定した湧水である。池と津屋川を繋ぐ水路は、
1983 年まではコンクリート護岸ではなく土手であったが、1986 年にはそのコンクリート護
岸の垂直な岸面に巣を作る雄個体が観察されるようになった。垂直営巣は、ハリヨの仲間
にとって世界初記載の現象である。また、清水池を源流とする水路では、1986 年に1尾の
雄が同時に2つの巣をつくっていることが観察され、この現象も世界初記載となった。養
老町との境界の今熊谷との合流点付近の津屋川本流では、両岸沿いにハリヨの営巣が所々
で見られる。
「岐阜県南濃町津屋地区におけるハリヨの生態調査」の結果(調査実施:大垣東高校)
調査内容は、①個体数・性成熟
度、②水温・気温、③堆積物、④
食性・底生生物・陸生昆虫、⑤行
動観察の5項目で、調査対象範囲
は、清水池とそこから津屋川へと
流れる水路である。
①個体数・性成熟度
調査は、A地点(清水池)
、B地
第 16 図 調査地点
点(小水路)
、C地点(大水路)の
3地点に分けて行った。性成熟度は、スコア化した基準により識別し、清水池周辺のハリ
ヨの繁殖期を明らかにするため、性成熟度の高い個体数の増減を調べた。
ハリヨの個体数は、2007 年 11 月の浚渫工事が行われた後に増加し、特に 2009 年、2010
年に短期間の爆発的な増加が見られた。2011 年以降は短期間の極端な増減はなくなり、以
前個体数が少なかった2月・8月・10 月にも多くの個体が確認されるなど、安定した増減
を繰り返していた。また、一年の総個体数のグラフの山の高さが年々大きくなっているこ
とから、清水池周辺では、安定した個体数の維持環境、ハリヨの生息環境が良くなりつつ
あると考えられた。しかし、2014 年の総捕獲個体数は、2009 年から 2013 年の総捕獲個体
数に比べ、わずかに減少しているのに加え、グラフの傾向も変わり、7月だけが大幅に増
加しており、全体的に大きな増減は見られなかった。
- 23 -
第 17 図 総捕獲個体数の変動
第 18 図 雌雄別性成熟度の高い個体数の変動
性成熟度の高い個体数の増減では、雌個体については、2011~2013 年の各年2月に急激
な増加があり、その後徐々に減少している。一方、雄個体については1年を通して性成熟
度の高い個体の捕獲数が少ない。これは、性成熟度の高い雄個体が、縄張りの範囲で行動
するか、巣から離れることが少ないため、捕獲されにくいためだと考えられる。性成熟度
の高い雄と雌の個体数の推移をみると、2013 年 10 月と 2014 年3月から5月にかけては、
雄と雌で性成熟度の高い個体が多い時期に、「ずれ」が生じている。この「ずれ」により、
性成熟が進んだ雄が巣をつくったときに、まだ雌の性成熟が十分でないために、卵を持っ
ている雌が少なく、例年よりも産卵回数が少なく、巣に持てる卵の数が減ってしまった可
能性がある。逆に、性成熟が進んだ雌が抱卵したときに、雄の営巣時期が終わってしまい、
巣を持っている雄を見つけることができず、産卵できなかった可能性がある。以上のよう
な要因が、2014 年の個体数の減少に関係していると推測される。
- 24 -
②水温・気温
この調査ではA・B・C地点及び津屋川で測定場所を定め、「水面下 10cm 水温」、
「水面
直下0cm 水温」
、
「水上0cm 気温」
、
「水上 10cm 気温」
、
「水上 50cm 気温」、
「水上 100cm 気温」
を正午に計測した。
「水面下 10cm 水温」と「水面直
下0cm 水温」は、A・B・C地点で
は1年を通してほぼ一定であった
が、津屋川では季節変動が大きかっ
た。A・B・C地点では、湧水によ
り水温が 15℃前後に保たれており、
湧水がハリヨ生息環境を支えてい
ることを改めて確認できた。
A・B・C地点では、5月から9
月にかけての「水上 100cm 気温」が
20℃以上となるとき、
「水上0cm 気
温」が「水上 100cm 気温」をわずか
に下回る。しかし「水上 10cm」及び
「水上 50cm 気温」は、
「水上0cm 気
温」ほどの差は認められない。これ
らのことは、A・B・C地点の「水
上0cm 気温」は水面から離れた位置
の気温と比べ、湧水の影響を受けて
いることを示している。一方、津屋
川ではA・B・C地点と比較すると
「水上0cm 気温」
「水上 100cm 気温」
、
の差はほとんどない。津屋川では水
温が気温によって変化するため、水
上の高さによる温度変化は小さい
と考えられる。
第 19 図 水温・気温の変動
③堆積物
堆積物については、B・C地点に
それぞれ3か所の調査地点を設け、
各調査地点において北側、中央、南
側の3か所で水路護岸の上縁から
堆積物上面までの距離を測定し、堆
積物の増減を調べた。C-2は、脇
の水路からの水の流れ込みがあり、
堆積物がえぐられ、計測値にばらつ
第 20 図 堆積物調査地点
きが出たため、比較対象外とした。
- 25 -
B-1、B-2、B-3の堆積物は 70cm から 90cm の差 20cm で推移し、安定している。
C-1の堆積物もB地点と同様に、60cm から 80cm の差 20cm で推移している。C-3では、
約 30cm の堆積物の増加が確認されている。堆積物の増加がほぼないB地点では、A・C地
点に比べて、営巣が多く確認できた。B-1からB-3の堆積物は下流に行くにつれて砂
から泥へと変化している。また、B地点で営巣の行われている場所は、障害物の陰となっ
ており、比較的流れの緩やかなところが多い。以上のことから、営巣できる場所の条件と
して、水底を形成する堆積物の固さと水流の速さが関係していると考えられる。また、堆
積物が増えすぎると、営巣に必要な水深が得られなかったり、池と津屋川をつなぐ水路を
ふさいでしまったりする可能性があるため、注意が必要である。2014 年の調査時には、か
なりの堆積物があり、低水時には部分的に陸地化するほどになっている。
第 21 図 堆積物の変動(3ヶ月ごとの平均)
④食性・底生生物・陸生昆虫
ハリヨが何を捕食しているのか調べるため、
stomach pump 法で胃の内容物を吐き出させ、
光学顕微鏡や実体顕微鏡で観察した。
ハリヨの胃の内容物として植物片、ユスリカの幼虫、イトミミズ、カゲロウの幼虫、ハ
リヨの卵が確認された。特にユスリカの幼虫は、ほぼ毎月の調査で確認されたことから、
- 26 -
ハリヨにとって重要な捕食対象であるといえる。底生生物の調査においても、食性調査同
様、ほぼ毎月の調査でユスリカの幼虫が見つかっている。以上の結果から、ユスリカの幼
虫は、年を通して安定供給されていることが分かった。陸生昆虫については、ユスリカの
捕獲個体数の推移と種類について調査し、ほぼ1年を通してユスリカの生息が確認できた。
このことからも、ハリヨの重要な捕食対象であるユスリカの幼虫が、安定的に供給されて
いると言える。
⑤行動観察
巣を持っている5個体の雄を観察対象とし、15 分間の行動観察を行った。初めの 10 分間
でハリヨの行動目録を付け、あとの5分間でハリヨの行動ルートを記録した。
繁殖期の雄の行動には、巣の中に酸素を送り込む「ファンニング」
、縄張りに侵入してき
たハリヨやアブラハヤなどに対する「攻撃」や「地面をつつく」
、体を震わせながら粘液を
出して「巣を固める」などがある。観察の結果、巣作り途中の雄はファンニングをせず、
行動範囲が広かった。ファンニングをしていて、行動範囲の狭い雄は、巣の中の卵を守っ
ていると考えられる。また、巣を壁際に作らなかった雄は、卵を守る行動が多くなり、フ
ァンニングの回数が少なかった。5個体の内、3個体は壁際に営巣しており、壁際に巣を
作ることが多いのは、卵を守る範囲を減らし、ファンニングを十分に行うためだと推察さ
れる。
一方で、繁殖期ではない 11・12 月にも営巣が観察され、雄の繁殖行動も年を通して行わ
れていることが明らかとなった。
さらに、
大垣東高校による調査が開始された 2006 年以降、
営巣が確認されていなかったC地点でも、2013 年の調査で初めて営巣が観察できた。これ
らの結果から、清水池周辺では繁殖期だけでなく、年を通して繁殖可能な環境になってき
ており、全体的に繁殖しやすい環境になっていると考えられる。
2.水環境調査(蓄積データ、これまでに実施した調査)
岐阜県は、川の防災情報と
して河川水位や流域の降雨状
況等をリアルタイムに公開し
ている。平成 11 年から運用し
ている「岐阜県河川情報シス
テム」では、各所の河川水位
の観測データが蓄積されてお
り、津屋川では「腰越谷樋門
(南濃町徳田北見取)
」と「ハ
リヨ橋」に観測機器が設置さ
れている。観測開始から、平
成 26 年8月までの河川水位の
変動(月平均・年平均)を、
以下のグラフに示す。
第 22 図 観測機器の設置位置図
(国土地理院 標準地図 25000 より作成)
- 27 -
第 23 図 河川水位の変動(月平均)
第 24 図 河川水位の変動(年平均)
河川水位の変動からは、2011 年以降、水位が低下してきていることが分かる。
また、上石津・大垣のアメダスデータから、年間総降水量の変動を見ると、増減を繰り
返してはいるが、全体として総量は大きく変わっていない。
第 25 図 年間総降水量の変動(気象庁データベースより作成)
- 28 -
海津市教育委員会は平成 25 年度に、養老山麓の伏流水、湧水環境及びハリヨ実態を調査
し、その結果を報告書に取りまとめた(海津市教育委員会 2014a)。報告書の中から、指定
地周辺の「水」に関する調査成果を以下に記述する。
養老山麓伏流水調査(調査実施:海津市教育委員会)
養老山麓伏流水調査では、ハリヨの生息地の湧水として供給元である養老山麓の伏流水
を把握するために「①地下水調査」及び「②表層水の挙動調査」を行った。
①地下水調査
地下水調査として既存井戸及び湧水地・津屋川の水位測定及び井戸の水質調査を行い、
地下水の流向及び湧水地への影響を調査した。地下水位測定は夏季と冬季に実施した。調
査地点は、地下水位測定可能な既存井戸から調査地域の山側(県道 56 号沿い)
、中間位置
(養老鉄道の西側)及び津屋川周辺(養老鉄道と津屋川との間)の3地区から均等に 10 地
点を選定した。冬季調査は、中間位置で2地点追加して、合計 12 地点で行った。なお、井
戸の番号、及び湧水地の記号は、平成 25 年度報告書の記載に準ずる(第 26 図参照)
。
第 26 地表面と地下水位のレベル差
○地下水位
一般的に、地下 20~30m以上の深さにある井戸を深井戸、それ以外の比較的浅いところ
に水面がある井戸を浅井戸と区分するが、調査地の井戸の地下水位をみてみると、標高 45m
の山側では井戸の天端から 40m と深井戸であるが、津屋川側の標高8m では井戸の天端から
5m の浅井戸である。地下水位の標高が6m である③以外では、地下水位は標高3~4m で
ある。季節変動をみると、冬季が夏季に比べて 33cm 高くなっている。第 25 図は、地表面
の標高と地下水位標高の差(地下水までの深さ=井戸の地下水面までの距離)を整理した
ものである。深井戸と浅井戸の境界は、地下約 24mの深さにある⑧の井戸付近となる。
井戸の地下水位及び湧水地・津屋川の水位測定から地下水位等高線を作成すると第 26 図
のようになる。等高線が湾曲する凹部を結ぶと、調査地域内の地下水は、湧水地C(清水
池)の方向と、湧水地A、Dの方向に集まる流れになっていると推測される。
- 29 -
第 27 図 地下水位等高線図
○水質調査(イオン分析)
地下水の流れを水質から把握するために水質形成の要因である陽イオン(カリウム、ナ
トリウム、カルシウム及びマグネシウム)と陰イオン(硝酸、塩化物、硫酸、炭酸水素)
の分析を湧水地及び地下水について行った。ただし、井戸⑪、⑫と湧水地Dは追加調査部
- 30 -
分のため未実施である。イオン分析結果から、水質形成を表示するヘキサダイヤグラムを
作成すると、第 27 図のようになり、基本的には全体の水質は同じとなっている。ただし、
カルシウムイオンの当量濃度に若干特徴が見られ、地下水は以下のように分類できた。
・グループⅠ:湧水地A、B、Cの3地点、井戸の①、②、⑥、⑨、⑩
・グループⅡ:井戸の③、④、⑤、⑦、⑧(カルシウムイオンが他と比べて少ない)
第 28 図 地下水のヘキサダイヤグラム
- 31 -
②表層水の挙動調査
表層水の挙動を把握するために集水区
域内の農業用水路及び地表面の形状を調
査し、表層水流入量及び伏流水量を算出し
た。調査地域は、今熊谷から志津南谷に挟
まれた地域である。
○農業用水路調査
灌漑期の8月に、清水池東側にある水田
の現地確認を行った。この水田は、西側1
箇所で隣接している湧水を利用しており、
農業用水路は設置されていなかった。
○集水区域調査
集水区域の土地利用について、航空写真
を判読し、補測として現地確認をして土地
第 29 図 集水区域範囲図
利用図を作成した。集水区域は、表層水流
出が少ない森林が全体の約 83%を占めているが、近年の宅地化により宅地と空き地が全体
の約7%である 72.2ha となっており、表層水流出量の増加に寄与していると思われる。
○表層水流入量
降水量と流出係数によって表層流出量及び地下浸透量を算出した。表層水流入量は、降
水量の 35%である 19,000 ㎥/日が表層水として流出され、蒸発散量を無視すると地下浸透
量として 65%の 35,000 ㎥/日が伏流水になると推測される。
湧水環境調査(調査実施:海津市教育委員会)
湧水環境調査では、ハリヨの生息環境を把握するために「①湧水地の湧水量及び水質調
査」
、
「②湧水口分布調査」を行った。
①湧水地の湧水量及び水質調査
湧水地の湧水調査として、湧水量及び水質調査を行った。調査は夏季、秋季、冬季に行
い、調査地点は清水池を含む湧水地4箇所(A、B、C、D)である。
○湧水量
湧水量は、せき式流量法と流速計測法によって調査した。A、B、C地点の湧水量は、
渇水期の冬季が夏季及び秋季に比べて 50%であったが、D地点では秋季と冬季で湧水量に
差が見られなかった。
第5表 湧水量観測結果
調査地点
A
B
C
D
十字路脇の湧水地
北部浄水公園
清水池
南濃梅園近くの湧水地
2013/8/23
0.12
2.18
0.46
- 32 -
流量(m3/分)
2013/8/27 2013/11/23 2013/12/20
0.09
0.05
3.35
2.83
1.21
0.98
0.36
0.16
0.20
○水質調査(採水地点は水場の中央付近)
湧水地は環境基準の河川に該当するため、河川のA類型(ヤマメ、イワナ等貧腐水性水
域の水産生物用)の環境基準と比較した。pH、BOD、SS 及び DO は、環境基準A類型に適合
していたが、大腸菌群数についてはA地点の夏季及びC地点の夏季、冬季で適合していな
かった。
COD については、湖・沼の AA 類型(ヤマメ、イワナ等貧腐水性水域の水産生物用)の環
境基準に適合していた。
全窒素及び全リンは、Ⅱ類型(ヤマメ、イワナ等貧腐水性水域の水産生物用)の環境基
準に適合していなかった。
A、C地点で大腸菌群数が高いのは、周辺住民の野菜及び衣類の生活用洗い場として利
用されているためと思われるが、ハリヨ生息には影響のない数値である。
第6表 水質調査分析結果
分析項目
A
十字路脇の湧水地
単位
B
北部浄水公園
C
清水池
環境基準
河川
湖・沼
2013/8/23 2013/12/17 2013/8/23 2013/12/17 2013/8/23 2013/12/17
pH
A類型
AA類型
6.6(20℃)
6.7(20℃)
6.6(20℃)
6.8(20℃)
6.6(20℃)
6.7(20℃)
6.5~8.5
6.5~8.5
2以下
BOD
mg/ℓ
0.5未満
0.5未満
0.5未満
0.5未満
0.5未満
0.5未満
COD
mg/ℓ
0.5未満
0.5未満
0.6
0.8
0.5未満
0.5未満
SS
mg/ℓ
1未満
1未満
1
3
1未満
1未満
DO
mg/ℓ
1以下
25以下
1以下
8.9
8.0
8.8
11
9.9
10
7.5以上
7.5以上
大腸菌数 MPM/100mℓ
2400
230
700
230
7900
1300
1,000以下
50以下
全窒素
mg/ℓ
0.92
0.96
1.5
1.4
1.8
1.9
0.2以下
全リン
mg/ℓ
0.019
0.023
0.027
0.024
0.031
0.039
0.01以下
Ⅱ類型
※ 黄色に着色した項目は、環境基準に適合している。
②湧水口分布調査
湧水口分布調査は、夏季・冬季に調査地点A、B、Cの周辺湧水状況を踏査した。主な
湧水地としては、清水池の北 350m 地点のものがあった。湧水口としては、夏季は、海津市
南濃北部多目的広場の南側の埋立地及び南濃梅園の南西側の果樹園から湧水が発生してい
た。冬季は、埋立地では湧水量が減少し、果樹園からは湧水が発生していなかった。
写真8 湧水流入部の季節変化(夏季)
写真9 湧水流入部の季節変化(冬季)
- 33 -
第 30 図 湧水口・水路分布図
- 34 -
地下水調査から得られた所見
・標高の高い山側は深井戸で、標高の低い津屋川側は浅井戸となっており、湧水地周辺は、
地表面と地下水位のレベル差が小さくなる
・第 26 図の調査地点③と湧水地Bの特異点を除くと、地下水位はなだらかなラインになる
・第5表の湧水量観測結果から、浄水公園のほうが水は出やすく、清水池は地下水位低下
の影響を受けやすい可能性がある
・養老鉄道沿いに補足で何カ所か、地下水位を測定できる井戸があると良い
・一般の人でも簡単に地下水位をモニタリングできるような装置が必要と考えられ、地下
水位の「見える化」を図り、常にモニタリングすることで、
「変動」を察知する
湧水量調査から得られた所見
・湧水量は地下水量とリンクしている
・地下水量は、養老山地での雨水の地下浸透量とリンクし、地面に吸収される水量は、森
林土壌や植生によって変化すると考えられる
・清水池から周辺の湧水地、そして地下水へと、ハリヨ生息を支える湧水の源に対して、
市民の関心を自然と向けられるような工夫が必要となる
・清水池の近くの井戸に、地下水位を気軽に測定できる装置を設置する
・津屋川流域は地下水が浅いため、地盤調査などを実施して、地下構造をより詳細に調査
する必要がある
・津屋川の下を通って、東側の農地にどれくらいの地下水が流れているかなど、津屋川東
側の水環境調査も必要となる
3.保全と管理の取組み(これまでに実施したもの)
ハリヨを含む希少生物の保全や管理に関する取り組みは、自治体や地元団体などによっ
て実施されている。
平成 19~20 年には、市民参画によるまちづくりの推進を目的とした、海津市まちづくり
委員会「希少生物保護育成分科会」が開催され、市内に生息する希少な生物の保護・保全
の在り方について検討を行った。分科会による提案事項は以下の通りである。
Ⅰ 保護対策の推進
① 保護地域の選定・保護活動の充実
② 外来種の駆除の推進
③ 各種団体・ボランティア・地域との協働の推進
Ⅱ 積極的な情報発信
① 自然体験の場の設定(企画・情報提供)
② 清掃活動等の意義付け(活動目的の意義)
③ 情報発信(啓発冊子・テキストの作成)
Ⅲ 連携・公共事業の推進
① 木曽三川公園(アクアワールド水郷パークセンター)との連携
② 公共事業(水質保全等)
③ 近隣自治体との連携
- 35 -
上記提案に関して、具体的な協議内容を、以下にまとめる。
Ⅰ-①保護地域の選定では、
「南濃町北部浄水公園」や「南濃町北部浄水公園隣接湿地」
を取り上げ、希少生物の保護を視野に入れた湧水保全活動が重要であるとしている。
Ⅰ-②外来種の駆除の推進では、住民ができる効果的な項目を以下のように提案してい
る。
(1)
「キャッチ・アンド・ノーリリース」運動(ブラックバスやブルーギルなど)
(2)ボランティアによる駆除活動の充実(オオフサモやジャンボタニシ)
Ⅰ-③地域との協働の推進では、大江小学校の「ウシモツゴ里帰り計画」を紹介してい
る。大江小学校のビオトープでは、平成 19 年からモツゴが試験放流され、モツゴの稚魚が
確認できている。今後は大江小学校だけではなく、資料館の堀田など、危険分散を視野に
入れた数カ所での試験放流を検討し、次の段階への準備を始めている。
Ⅱ-①自然体験の場の設定では、「子どもまちづくり講座」を挙げている。この講座は、
平成 18 年度から毎年実施され、海津市内の小学生を対象に河川をフィールドとした生き物
調査などの環境学習が行われている。平成 26 年度からは、講師として大垣東高校の生徒の
協力を得ている。
写真 10・11「子どもまちづくり講座」の活動風景(平成 26 年度実施報告から抜粋)
Ⅱ-②清掃活動等の意義付けでは、市民のモチベーションを高めるために、清掃活動の
目的の一つに「市内に生息する生物の生活環境維持の手助け」を位置づけることを提案し
ている。
Ⅱ-③情報発信では、ハリヨやホタルなどの生物を旗印に、自然保護・環境改善・希少
生物保護・食文化・民俗等を網羅した啓発冊子を作成して、環境学習や環境講座に活用し、
市民の意識高揚や生物の保護啓発を図るとしている。
Ⅲ-①木曽三川公園との連携では、公園と市や関係機関等との連携を図り、希少生物に
ついての講座をメニューへ導入するなど、市内・市外へ広く啓発が実施できる体制・環境
づくりを整備することを提案している。
Ⅲ-②公共事業では、人間の生活・動植物の住処・川の特性の調和がとれた公共事業の
展開が必要で、同時に河川や水路の水質改善策の検討を求めている。また、山除川は「人
間の生活環境と生態系が重なった、特に変化が大きかった場所」であり、ハリヨなどの清
- 36 -
水独特の生態系が失われた例として取り上げている。
Ⅲ-③近隣自治体との連携では、
「市民参加による河川美化運動・河川環境保全活動」や
「環境学習講座(他自治体との人の交流事業)」などを提案しており、近隣自治体相互の協
力関係や市民同士の交流、子ども達の親交が深まり、将来的に様々な形の交流へと発展し
ていくことを目指している。
平成 19 年から、岐阜県の河川事業として、津屋川のオオフサモ除去が実施されている。
岐阜県県土整備部河川課、大垣土木事務所河川砂防課河川係などが、地元と共同してオオ
フサモの除去を継続している。
写真 12・13 オオフサモ駆除活動(大垣土木事務所河川砂防課河川係撮影)
平成 24~26 年度の期間、海津市の「かいづ夢づくり協働事業」に採択された「デリシャ
ス“BB”会」では、外来魚のブラックバス・ブルーギルを駆除して、同時に美味しく食
べてしまおう、という活動を行っている。ハリヨなどの在来生物の保護に役立っており、
継続的な活動が望まれる。
地元団体による取り組みでは、「南濃町ハリヨを守る会」が清水池の掃除や除草、監視パ
トロールや子供向けガイドなどを実施している。また、
「海津市ハリヨ保存会」は、志津新
田にある湧水地の管理や捕獲等への注意喚起などを行っている。近年、浄水公園の湧水源
にあたる上流部の池において、オオフサモや赤い浮き草のアゾラ等の駆除が実施され、ハ
リヨ生息環境が格段に改善されている。
- 37 -
第4章 天然記念物ハリヨ生息地の現状と課題
1.指定地及び周辺地域の現状
(1)清水池及び水路の現状
・湧水は安定している(第5表参照)
・個体数はやや増加傾向にあるが、平成 26 年度は個体数が減少していた(第 17 図参照)
・外来生物による被害状況:オオフサモが大量に繁殖すると、水流阻害や泥の堆積を引き
起こすことから、オオフサモの駆除は、治水面からも積極的に行われている(特に、湧
水地は年間を通して水温が 15℃前後で、オオフサモが生えやすい環境にある)
・鳥獣による被害状況:清水池で鳥が見られ、ハリヨを捕食していると考えられる
写真番号①(第 29 図と対応)
写真 14 清水池
写真番号③
写真 16 観察用デッキ
写真番号②
写真 15 石段、水路
写真番号④
写真 17 東屋、解説板
第 31 図 現況写真の撮影位置、方向
- 38 -
(2)周辺のハリヨが確認されている湧水地の現状
北部浄水公園
・湧水は安定している(第5表参照)
・池にはコイなどが泳ぐ
・上流側のオオフサモが駆除され、駆除さ
れた範囲に関して、ハリヨ生息に適した
環境が整いつつある
写真 18
北部浄水公園
・水辺で鳥がよく見られる
南濃梅園近くの湧水地
・湧水は安定している(第5表参照)
・石積み囲いなど、自然の状態に近い
写真 19 南濃梅園近くの湧水地
十字路脇の湧水地
・湧水は比較的安定している(第5表参照)
・周囲のほとんどがコンクリートで
固められている
写真 20 十字路脇の湧水地
第 32 図 湧水地の詳細分布図(国土地理院 標準地図 25000 より作成)
- 39 -
(3)周辺地域の現状
・津屋川流域各所の井戸の地下水位は安定している
・津屋川東側の築堤工事が進む(平成 27 年3月まで作業中)
・東海環状自動車道の建設計画が進められている(調査設計、用地取得中)
第 33 図 東海環状自動車道事業実施区域(環境省報道発表資料を加筆修正)
2.指定地及び周辺地域の課題
平成 26 年度の調査では、指定地の清水池及び水路において、ハリヨの個体数が例年に比
べ減少していた(第 17 図参照)
。藻の大量発生や鳥による捕食、水路の堆積物などの影響
だと考えられるため、藻の除去や発生要因の究明、水路の浚渫など、ハリヨ生息地の保全
とハリヨ個体数の維持のための環境整備を至急、行う必要がある。
ハリヨ生息の第一条件である湧水の維持のためには、湧水の流れや仕組み、地質的な構
造などを十分に把握し、湧水保全の対策を講じる必要がある。現段階では広域的な調査は
未実施のため、計画的に調査を進める必要がある。
また、ハリヨの危険分散や津屋川流域のハリヨの遺伝的交流を確保する意味で、周辺の
湧水地についても、清水池と同様に調査研究を進め、ハリヨ生息に適した環境整備を図り、
追加指定を目指していくことが望ましい。
- 40 -
第5章 保存管理計画
1.保存管理の理念と方針
国指定対象区域の清水池は、養老山地からの豊富な湧水を背景に国内最大級のハリヨの
生息地となっている。岐阜経済大学及び大垣東高校による継続的な調査や、地元保全グル
ープによる定期的な維持管理など、ハリヨの保護に対する地元の意識は高い。また、清水
池周辺には、ハリヨの生息が確認されている津屋川水系の湧水地が数箇所あり、津屋川本
来の自然の姿が比較的残されている地域である。
保存管理計画の策定にあたっては、指定対象区域の保全に加え、ハリヨの生息環境を支
える湧水など、一体的な保存管理が望まれる。また、人間の生活環境と生態系との調和を
図り、津屋川本来の自然の姿を保全していくことも求められる。このような状況を踏まえ、
ハリヨ生息地の保存管理の方針を以下のように設定する。
●計画の対象範囲は、指定の有無、ハリヨの生息状況、水環境の状態などにより性格が異
なるため、その特性に合わせて地区区分をし、保存管理のあり方を定める。
●継続的なモニタリングなど各種調査を体系的に実施し、ハリヨを将来に継承していくた
めに、正確な情報の発信や啓発に努める。
●保存のための人為的な整備は限定的に留め、津屋川本来の自然な形での生態系の維持を
目指す。
●関係諸機関との連携を図り、地域住民の参画や協力を得ながら、協働して保存管理を実
施する。
2.津屋川水系清水池ハリヨ生息地を構成する要素
これまでのハリヨの継続的な生態調査では、ハリヨ独特の行動や津屋川水系のハリヨ個
体群の性質などが観察され、生物としての重要性が明らかとなった。また、ハリヨ生息に
おいて湧水の存在は欠かせないものであり、周辺地域の環境を構成する要素の柱となって
いる。加えて、地域住民と湧水との長年の関わりにより、湧水が守られ、同時にハリヨが
守られてきたことも、重要な要素である。
津屋川水系清水池ハリヨ生息地を構成する要素について、以下にまとめる。
1)本質的価値を構成する要素
ハリヨ
津屋に生息する系統
清水池
ハリヨの生息場所
水路
ハリヨの生息場所
湧水
養老山地からの伏流水
ハリヨの餌となる底生生物
ユスリカなどの底生生物
ハリヨの営巣の材料となる植物
藻や水草、木片などの繊維状の植物片
ハリヨの営巣場所となる水底
砂泥底、砂地
- 41 -
2)指定地にあって、本質的価値を構成する以外の要素
天然記念物の 保
解説板
ハリヨの生態などをイラストと共に解説
存・活用のために
標柱
国指定天然記念物であることを明示
有用な要素
東屋
観察用デッキ
舗装通路
石段
その他の改善 が
池や水路の底の堆積物
必要な要素
周辺の土手から流入する土砂や枯葉、動物の
遺骸など
魚食性の動物など
サギなどの鳥獣
オオフサモなど
清水池や水路に繁茂
3)周辺地域の環境を構成する諸要素
指定地外に生息するハリヨ
津屋に生息する系統
ハリヨが確認されている湧水地
北部浄水公園、南濃梅園近くの湧水地、十字
路脇の湧水地など
津屋川
清水池などのハリヨ生息地と繋がっており、
ハリヨが行き来
その他の湧水地
埋め立てなどにより数が減少
希少植物
ハイドジョウツナギなど
地下水
養老山地からの伏流水
養老山地~東側山麓一帯
湧水の水源
3.地区区分の設定
地区ごとの特性に合わせた保存管理方法や取扱い基準を示すため、ハリヨの生息状況や
水環境、生息環境、現在の土地利用状況などから、保存管理計画対象範囲の地区区分を以
下のように行う。
①指定地
【区域の説明】
ハリヨとその生息環境の核心的保全区域。将来にわたって津屋に生息する系統のハリヨ
が生存できるよう、周辺の環境を含め保全していく区域。
【設定基準】
国の天然記念物指定地内であり、清水池と水路においてハリヨの生息、営巣が確認され
ている区域。
【設定範囲】
国の天然記念物指定範囲(1,181 ㎡)
。
- 42 -
②緩衝帯(指定地外)
【区域の説明】
ハリヨとその生息環境の保全を図る区域。ハリヨ生息に欠かせない湧水を維持するため、
地下水の水量や水質を優先的に保全していく区域。
【設定基準】
保存管理計画対象地内で、地下水位が比較的浅い区域。また、北部浄水公園などの湧水
地においてハリヨ生息が確認されている区域。
【設定範囲】
養老鉄道の線路から東側の範囲(約 95ha)
。
③補完地区(指定地外)
【区域の説明】
ハリヨ生息環境の保全を図る区域。ハリヨ生息に欠かせない湧水を維持するため、湧水
の水源となる養老山地の保全を目指す区域。
【設定基準】
保存管理計画対象地内で、地下水位が比較的深い区域。
【設定範囲】
保存管理計画対象地内で、緩衝帯を除いた範囲(約 395ha)
。
第 34 図 地区区分図(国土地理院 標準地図 25000 より作成)
- 43 -
4.各地区の保存管理方法
ハリヨの生息には湧水の保全が不可欠であるが、湧水や地下水に対しては、直接・間接
的に影響を及ぼす様々な行為が想定される。以下に大まかな相関関係をまとめる。
地下水の汲み上げ
森林の荒廃、大規模開拓
水位低下
涵養力低下、水位低下
地下水
水の流れ遮断
涵養力低下、水位低下
地下への掘削等
地表での掘削等
土砂流入
水の流れ遮断
湧水
水の流れ遮断
水質悪化
湧水の吐出部の埋立て
生活排水の流入
周囲での薬剤等の使用
周囲からの土砂流入
個体数の減少
土砂堆積、営巣への影響
ハリヨ生息環境
個体数の減少
餌の減少、営巣への影響
外来生物や鳥獣の侵入
水生動植物の変化
第 35 図 「ハリヨの保存に影響を及ぼす行為」の相関図
- 44 -
前述した「ハリヨの保存に影響を及ぼす行為」を念頭に置きながら、各地区と構成要素
ごとに、保存管理の方法を以下に示す。
①指定地
【基本的な考え方】
この地区では、ハリヨ個体群を維持するため、ハリヨ生息に必要な湧水の水質、水量、
及び水中環境に関し現状の維持に努め、それらがき損した場合には、適切に復旧・整備す
る。
特に、水質悪化に繋がる行為や湧水に影響を与える行為については規制し、適切な保存
管理に努める必要がある。
指定地内の各種工作物に関して、それらがき損した場合には、適切に復旧・整備し、保
存・活用に必要な場合は新設を検討する。
【構成要素ごとの考え方】
構成要素
分類
ハリヨ
本質的価値を
構成する要素
清水池
水路
湧水
ハリヨの餌となる
底生生物
ハリヨの営巣の材
料となる植物
ハリヨの営巣場所
となる水底
天然記念物の
保存・活用のため
に有用な要素
その他の改善が必
要な要素
保存管理の方法
対象
解説板
標柱
東屋
観察用デッキ
舗装通路
石段
池や水路の底の堆
積物
魚食性の動物など
オオフサモなど
・個体群絶滅を回避するため、継続的な生態調査等のモニタリン
グを実施し、改善が必要な場合は調査研究に則って個体群の復元
を図る。
・水質や水量にハリヨ生息が危ぶまれるような変化がないかモニ
タリングを実施し、改善が必要な場合は調査研究に則って環境整
備に努める。
・ハリヨ個体数に合った必要な量が維持されているかモニタリン
グを実施し、改善が必要な場合は調査研究に則って環境整備に努
める。
・ハリヨ営巣に適した砂泥底や砂地が維持されているかモニタリ
ングを実施し、改善が必要な場合は調査研究に則って水底整備に
努める。
・適切な維持管理を行い、損傷の激しいものや景観にそぐわない
ものなどは取り替えや除却を検討する。
・適切な維持管理を行い、補修工事等の際に池の水質やハリヨ営
巣に影響が出ないよう注意する。
・ハリヨ営巣に必要な水深を確保するため、過剰な堆積物が確認
された場合には、対策を講じる。
・魚食性の外来魚や鳥などが池に侵入していないか監視し、改善
が必要な場合は対策を講じる。
・生態調査の障害となる草木や、水流を妨げる水草などは定期的
に刈るなど維持管理に努める。
・オオフサモなど外来水草の駆除に努める。
②緩衝帯(指定地外)
【基本的な考え方】
この地区では、①指定地と同様に、ハリヨ個体群を維持するため、ハリヨが確認されて
いる湧水地においては、ハリヨ生息に必要な湧水の水質、水量、及び水中環境に関し現状
の維持に努め、改善が必要な場合には、適切に整備する。
この地区は、地下水位が比較的浅く、地表における開発行為等が直接、湧水や地下水に
影響する可能性が高いため、水質悪化に繋がる行為や湧水に影響を与える行為については
規制し、適切な保存管理に努める必要がある。
- 45 -
津屋川については現状の維持に努め、堤防や堰等の工事、河床の浚渫等によって湧水に
影響が出ないよう配慮する。
【構成要素ごとの考え方】
構成要素
分類
対象
指定地外に生息す
るハリヨ
ハリヨが確認され
ている湧水地
周辺地域の環境を
構成する要素
津屋川
その他の湧水地
希少水草
保存管理の方法
・生態調査や遺伝子レベルの調査などを実施し、津屋川水系のハ
リヨ個体群の調査、研究を進める。
・ハリヨ個体群を維持するため、危険分散を視野に入れた湧水環
境の保全に努める。
・生態調査やハリヨ生息環境の改善を進め、天然記念物としての
価値が明らかとなれば、追加指定を目指す。
・北部浄水公園の池にいるコイなどの大型魚は、ハリヨの巣を壊
す恐れがあるため、管理者と調整の上、可能であれば別の場所に
移す。
・土砂の堆積等により、水深や水量に変化がないかモニタリング
を実施し、改善が必要な場合は対策を講じる。
・魚食性の外来魚やオオフサモ等の駆除に努める。
・生息地が分断されてしまうような堰等の河川工事については、
事前協議を必ず実施する。
・自然に配慮した河川工事となるように、事業者との事前協議や
情報収集、影響調査などを行い、ハリヨの保全を図る。
・埋め立てなどで失われることがないように、「ハリヨ生息の候
補地」としての周知を図り、土地開発関連の情報収集に努める。
・良好な水質が保たれているかどうかの指標の一つとなるため、
分布調査を検討する。
③補完地区(指定地外)
【基本的な考え方】
この地区は、地下水位が比較的深く、地表における開発行為等が直接、湧水や地下水に
影響する可能性は低いが、地下水の過剰な汲み上げ等、明らかに指定地の湧水に影響を与
えるような行為については規制し、適切な保存管理に努める必要がある。
養老山地については涵養力維持のため、大規模な面的開発等の際には海津市教育委員会
との調整を図ることとする。
【構成要素ごとの考え方】
構成要素
分類
周辺地域の環境を
構成する要素
保存管理の方法
対象
地下水
・地下水の汲み上げ量制限について検討する。
・開発行為等の計画に対しては、地下水や湧水に影響が出ないか
どうか、事前協議や影響調査を十分に行う。
養老山地
~東側山麓一帯
・山の涵養力や保水力を高めるために、森林を保全する。
- 46 -
5.現状変更等の基準
(1)現状変更等の基準に関する共通事項
指定地内において現状変更を行おうとする場合、または保存に影響を及ぼす行為をしよ
うとする場合には、文化庁長官の許可(文化財保護法第 125 条)
、もしくは海津市教育委員
会の許可(文化財保護法第 184 条)が必要となる。
天然記念物であるハリヨ及びその生息地を将来にわたって守っていくために、指定地内、
及び指定地外で予想される各種行為について、共通事項を以下のように整理する。
①指定地内の現状変更等について
・ハリヨの生息に影響を及ぼす行為は、原則として現状変更を認めない。
・地形及び景観の改変は、軽微なものを除いて現状変更を認めない。
・動植物の放流は原則として認めない。
・清掃、除草等の日常的な維持管理行為は、許可申請を要しない。
②指定地外における「保存に影響を及ぼす行為」について
・湧水や地下水に影響を及ぼす可能性のある行為は、基本的に事前協議を行う。
※津屋川流域に生息するハリヨは、市の天然記念物、及び県の指定希少野生生物に指定さ
れているため、捕獲等の各種行為は禁止されている。
(2)許可を要しない現状変更等の範囲
文化財保護法の第 125 条では、
「維持の措置」、
「非常災害のために必要な応急処置を執る
場合」、
「保存に影響を及ぼす行為については影響の軽微である場合」については、許可を
要しないと定められている。以下に、許可を要しない現状変更等についてまとめる。
①維持の措置
・天然記念物がき損し、又は衰亡している場合において、その価値に影響を及ぼすことな
く当該天然記念物をその指定当時の原状に復するとき。
・天然記念物がき損し、又は衰亡している場合において、当該き損又は衰亡の拡大を防止
するため応急の措置をするとき。
・天然記念物の一部がき損し、又は衰亡し、かつ、当該部分の復旧が明らかに不可能であ
る場合において、当該部分を除去するとき。
②非常災害のために必要な応急処置を執る場合
災害発生時もしくは災害の発生が明らかに予見される場合、あるいは二次災害の発生を
防止する場合に執る応急的な措置であり、災害復旧に係る恒常的な施設の設置は含まない。
【具体例】
・自然災害や水質事故により湧水が枯渇、または水質が悪化した場合のハ
リヨの移送
・池や水路内の枯損木、倒木の除去
・豪雨時に池や水路に流入した土砂の除去
・池や水路周辺の土手の法面崩落防止のための応急的な土のうの設置
- 47 -
・地震や豪雨等の災害により崩落した土手の土砂等の除去、倒木等の除去、
及びき損した工作物等の復旧
・水質事故による汚染水の流出防止柵や吸着マット等の設置
③保存に影響を及ぼす行為について、影響の軽微な場合
◇日常的な維持管理行為は、これに該当する。
【具体例】 ・池や水路内の監視
・池や水路内の浮遊物、及びゴミ等の除去
・草刈りや外来植物等の除去
・観察用デッキの日常的な点検、補修
・湧水の水温等の各種調査
◇池の水で野菜等を洗う行為については、昔から行われてきたものであり、ハリヨの生息
に影響を与えていないということが経験により証明されているため、許可を要しない。
- 48 -
(3)指定地内の現状変更基準
指定地内にある構成要素ごとに想定される現状変更行為を挙げ、ハリヨ及び生息地を保
全するための取扱い基準について以下にまとめる。
第7表 現状変更の取扱い基準
現状変更等の取扱方針
対象
ハリヨ
生息環境
・清水池
・水路
・湧水
・各種工作物
天然記念物の保全を第一とし、天然記念物の保存・活用を図ることを前提
に、現状変更等の適否を判断する。
行為の内容・許可基準
◆行為の内容
ハリヨの捕獲(学術調査を目的とした捕殺を含む)や飼育、移動、放流が
これにあたる。成魚に限らず卵や幼魚など、ハリヨの生活史の全ての形態
があてはまる。
遺伝的構造・多様性については、近年その保全の必要性が指摘されてお
り、個体の無秩序な移動や放流は、生態系や遺伝子レベルでの地域固有性
などに対する影響が大きいと考えられるため、その取扱いについては、最
大限の慎重さが求められる。
◆許可基準
指定地全域にわたり、原則許可しない。
ただし、ハリヨ個体群の安定的維持存続に及ぼす影響が軽微な場合はこ
の限りでない。
現状変更の際は、下記条件を全て満たすこと。
①実施主体は、原則として、教育・研究機関(大学等に所属する研究者を
含む)、行政機関、ハリヨの保護を目的とした地元の団体のいずれかであ
ること。
②学術調査・研究、増殖、その他ハリヨの保全と活用に資する目的で実施
される必要最小限のものであること。
③飼育をおこなう場合は、適切な飼育のための設備・技術・人員等が確保
されていること。
④放流する場合は、ハリヨの遺伝的構造・多様性の保全を考慮し、近隣湧
水地由来等、遺伝的により近縁と考えられる個体とする。
◆行為の内容
指定地に対して、何らかの物理的な影響を及ぼす行為。ハリヨの生息環
境に直接、大きな影響を及ぼすため、その現状変更に際しては最も慎重な
配慮が必要である。影響を及ぼす行為としては池や水路の改修・浚渫、指
定地内工作物の新設・改修・除却などがある。
◆許可基準
現状変更は原則許可しない。
ただし、ハリヨとその生息環境に及ぼす影響が軽微な場合はこの限りで
ない。
現状変更の際は、下記条件を満たすこと。
①ハリヨにとって好適な水流、水底構造水温、及び水質が維持されている
こと。
②池、湧水、既存の石積み等、ハリヨにとって好適な湧水地環境が維持さ
れていること。
③ハリヨにとって好適な産卵・孵化環境(砂泥底、砂地、巣の材料となる
植物等)が維持されていること。
④ハリヨにとって好適な餌環境(底生生物等)が維持されていること。
- 49 -
(4)指定地外の保存に影響を及ぼす行為について
ハリヨ生息に欠かせない湧水を保全するため、指定地外における一定の行為についても
規制の対象となっている。湧水や地下水に影響を及ぼす可能性のある行為は、基本的に海
津市教育委員会と事前協議を行うものとしているが、その対象範囲や具体的な行為につい
て、以下にまとめる。
第8表 保存に影響を及ぼす行為の取扱い基準
対
象
市教委との事前協議の条件
津屋川に関わる開発等の場合、
必要
②
緩
衝
帯
地下3メートル以上(地下水位
に届く距離)の掘削を伴う開発
等の場合、もしくは湧水の流れ
を変える恐れがある開発等の場
合、必要
行為の内容・許可基準
◆行為の内容
指定地を含む湧水地に対して、水量や水質に影響を及ぼす行為。以
下のような行為がそれにあたる。
・堤防工事など、湧水地と津屋川を繋ぐ水路を塞いでしまう行為。
・河床の大規模掘削など、周辺域の湧水の条件を変えてしまう行為。
◆許可基準
原則許可しない。
ただし、ハリヨとその生息環境に及ぼす影響が軽微な場合はこの限
りでない。
現状変更の際は、下記条件を全て満たすこと。
①湧水地への影響が極力小さくなるような工法であること。
②湧水地の水量や水質を維持できるような工法であること。
◆行為の内容
指定地を含む湧水地に対して、水量や水質に影響を及ぼす行為。以
下のような行為がそれにあたる。
・農業用水や工業用水として、井戸などで地下水を大量に汲み上げる
行為。
・地下に埋設物を設置して、地下水の流れを抑制してしまう行為。
・地表面を改変することで、湧水地に土砂を流入させたり湧水口を塞
いだりする行為。
◆許可基準
緩衝帯全域にわたり、原則許可しない。
ただし、ハリヨとその生息環境に及ぼす影響が軽微な場合はこの限
りでない。
現状変更の際は、下記条件を全て満たすこと。
①湧水地への影響が極力小さくなるような工法であること。
②湧水地の水量や水質を維持できるような工法であること。
◆行為の内容
指定地を含む湧水地に対して、水量や水質に影響を及ぼす行為。以
下のような行為がそれにあたる。
・農業用水や工業用水として、井戸などで地下水を大量に汲み上げる
地下30メートル以上(地下水位 行為。
に届く距離)の掘削を伴う開発 ・地下に埋設物を設置して、地下水の流れを抑制してしまう行為。
③
等の場合、
・地表面を改変することで、雨水を表流水に早く流し、地下への浸透
補
開発面積が3,000㎡以上(非線引 を抑制してしまう行為。
完
都市計画区域の開発許可適応基 ◆許可基準
地
準)の場合、
補完地区全域にわたり、原則許可しない。
区
もしくは谷及び扇状地の開発等 ただし、ハリヨとその生息環境に及ぼす影響が軽微な場合はこの限
の場合、必要
りでない。
現状変更の際は、下記条件を全て満たすこと。
①湧水地への影響が極力小さくなるような工法であること。
②湧水地の水量や水質を維持できるような工法であること。
※事前協議で「ハリヨ生息に影響なし」とされた行為については、許可申請は不要。
※事前協議で「ハリヨ生息に影響あり」とされた行為については、行為内容の確認・見直し・変更を実施した後に許可申請が
必要となる。
- 50 -
6.保存管理上の留意点
①指定地の管理
指定地は海津市が管理団体となっており、清水池以外の部分は公有地化も済んでいるた
め、開発行為等の恐れは低く、比較的良好な保存管理状況である。地域の人々に根ざした
ハリヨに対する保護の意識は、日常生活に馴染み、ハリヨ生息地の保存管理に繋がる仕組
みの一つとなっている。
②ハリヨの保護と管理
ここ数年、津屋川水系のハリヨは比較的安定して生息していたが、平成 26 年度の生態調
査では、個体数の減少や水位の低下などが確認され、危機的状況となっている。水路の堆
積物により水の流れが悪くなり、営巣条件が悪くなっていることや、鳥による捕食などが
要因と考えられるため、浚渫工事や保護ネットの設置など、必要な対策を至急講じる必要
がある。こうした異変は、継続的な調査を実施しているからこそ、早期に発見できる。今
後も、継続的な調査と地域住民による維持管理活動が続くことが望まれる。
③生息環境の保全
ハリヨの生息環境の主たる条件として、①良好な水質、②20℃以下の水温、③巣づくり
に適した水底などがある。ハリヨ生息の大前提である湧水の保全のためには、津屋川水系
及び養老山地の保全が必要不可欠である。隣接地域の養老町との連携や情報の共有が今後
の課題となる。
④水質・水量の管理
ハリヨの生息に欠かせない湧水は、養老山地からの伏流水であるため、根源的な水質・
水量の管理となると、養老山地の環境保全にまで話が及んでくる。広域的かつ長期的な視
野も必要であるが、まずは取っ掛かりとして指定地である清水池の水質・水量の継続的な
モニタリングを行い、変化を見守ることとする。
⑤植生の管理
ハリヨの生息環境に影響を及ぼす外来水草をはじめ、生息地周辺の植生は、景観上の問
題や人々の憩いの場の創出、植物に寄り付く動物や昆虫など、様々な立場からの影響が絡
んでくると思われる。ハリヨ保護を第一目的としながらも、周辺地域の人々に対して生活
の質の向上に繋がるような植生の管理を行うことが望ましい。また、広い視野で見ると、
湧水の入口である養老山地の植生も、適切に管理していく必要がある。
⑥危険分散の考え方
国指定の清水池ではハリヨは安定的に生息しているが、湧水量の減少や水質悪化などに
より、ハリヨの生息が困難になる可能性は否定できない。そうした場合に備えて、危険分
散のための湧水地確保が必要となる。ただし、ハリヨを人為的に安全な場所に移すのでは
なく、ハリヨ自身が危険を察知し、別の場所へ移動できるような水辺環境づくりを基本原
則とする。また、他の場所へ移す際には事前に遺伝子分析などを行い、交配による雑種化
- 51 -
の危険性を十分検討することが望ましい。
⑦モニタリングの実施
ハリヨの生態調査及び清水池周辺の環境調査に関しては、岐阜経済大学と大垣東高校に
よって平成 18 年度から毎年調査が行われている。過去から現在に至るまでのハリヨの面的
分布状況についても、情報が蓄積されている。水環境に関しては、海津市教育委員会が平
成 25 年度に養老山麓の伏流水や湧水環境について調査を実施した(海津市教育委員会
2014a)
。今後も継続的な調査やモニタリングを実施し、ハリヨ生息環境を見守り、保全し、
後世へ継承していくことが望まれる。
⑧緩衝帯
ハリヨが生息する池の保全だけでは、池の生態系を保全することは難しい。池周辺の植
生や土壌、空間的な広がりなど、生息地に対して間接的に影響を与えている範囲について
は、緩衝帯(バッファゾーン)として保全を図り、生活排水や排気ガスなどによる水辺環
境の悪化が起きないように配慮する。
⑨維持・拡充する要素
ハリヨの生息が確認されている湧水地の水辺環境については、地域の人々によって草刈
りや見まわりなど、日常的な維持活動が行われている。また、清水池のそばにある下多度
小学校では「総合的な学習の時間」に、ハリヨや津屋川にすむ生き物について学んでいる。
今後はこういった学校教育や生涯学習教育とも連携し、ハリヨに関する詳しい情報を提示
し、ハリヨに対する愛着や理解を促し、ハリヨが生息する環境を将来に引き継いでいくこ
とが望まれる。
⑩付加が必要な要素
「ハリヨ生息地データベース(仮称)
」を構築し、ハリヨ生息に関する最新の情報を随時
更新する。海津市教育委員会は、データベースを基に、開発を行おうとする事業者に対し
て正確な情報提供を行い、十分な意思疎通と適切な指導を行う。
⑪抑制・低減化が必要な要素
現在進行中の問題として、湧水地や津屋川周辺では外来生物による自然環境や生態系へ
の被害が確認されている。特にオオフサモなどの外来水草は水流を妨げ、泥を堆積させ、
在来生物の生息域を狭めているため、岐阜県河川課による駆除作業や大垣東高校などのボ
ランティアによる駆除活動などの対応策が取られている。
平成 26 年度に確認された問題としては、鳥獣による捕食圧がある。福井県大野市のイト
ヨ約 4000 匹が鳥に捕食されたという事例があるため、鳥が降り立ちにくい水辺環境の整備
や部分的にネットを張るなど、外敵侵入への対応策も必要となってくる。
⑫観察施設
清水池周辺には、海津市教育委員会により東屋や観察路が整備され、解説板等も設置さ
- 52 -
れている。調査や地域の人々の維持管理活動に対しては十分な機能を果たしているが、来
訪者に対する注意喚起や情報提供の面では、若干機能が不足していると思われる。
⑬制限事項
ハリヨが津屋川を通じて行き来し、個体群を維持できるようにするためには、生息地の
池だけではなく、津屋川水系一体の保全が必要となる。津屋川の水路整備や護岸整備など、
ハリヨが移動していると考えられる水路に影響を及ぼす可能性のある工事については、事
前に十分な検証を行うものとする。
ハリヨは市指定の天然記念物であるため、海津市教育委員会の許可なく捕獲することは
禁止されている。しかし、平成 19 年には密漁者が確認され、罰金刑が下されている。
(
「岐阜県希少野生生物保護条例」
の罰則規定は「1年以下の懲役又は 100 万円以下の罰金」
)
⑭管理機能
現在、ハリヨが生息する湧水地は「南濃町ハリヨを守る会」や「海津市ハリヨ保存会」
などを中心に、地域の人々による清掃や草刈りなどの日常的な維持管理が行われている。
また、岐阜県文化財保護協会による年2回の巡視や、海津市教育委員会による見まわりな
ども実施されている。災害や事故、密漁などの緊急時の連絡先は、海津市教育委員会社会
教育課が窓口となっている。
⑮情報の収集・共有・公開と啓発活動
ハリヨ生息状況に関する正確かつ最新の情報を得るために、
「既存の生息地や周辺域にお
ける生息状況の調査」、
「住民への啓発や周知を推進し、保護意識の向上」、「各教育機関と
の連携の強化」、「ハリヨが生息する他地域との情報交換」などの方法によって、継続して
情報収集等を行う。
ハリヨの保護を継続的に行うため
周辺環境の
保全・管理
には、地域住民や県民の理解と協力が
③、④、⑤
⑥、⑧
不可欠である。海津市まちづくり委員
会の「希少生物保護育成分科会」での
提案事項や、子どもまちづくり講座、
木曽三川公園での希少生物について
基礎調査
抑制・制限
④、⑥、⑦
⑪、⑬
の講座などの実績を踏まえた保護・啓
ハリヨの
発活動を引き続き推進し、これらの活
保全・管理
動をホームページや冊子などの手段
①、②
を用いて公開し、ハリヨ保護の必要性
と在り方についての周知・啓発を行っ
ていく。
情報発信・
啓発
施設等整備
(ハード面)
⑨、⑩、⑮
②、⑪、⑫
地域協働
(ソフト面)
⑨、⑭、⑮
第 36 図 保存管理上の留意点①~⑮概念図
- 53 -
第6章 整備活用の流れ
1.整備活用の基本的な考え方
津屋川水系清水池ハリヨ生息地は、指定説明文にもあるように、「岐阜経済大学及び大垣
東高校による継続的な調査」や「地域における保護意識の高さ」等が評価され、天然記念
物の指定となっている。整備活用に当たっては、ハリヨと地域住民とのこれまでの関係性
が失われないように注意する必要がある。
2.環境整備の基本方針
保存管理の方針において、
「保存のための人為的な整備は限定的に留め、津屋川本来の自
然な形での生態系の維持を目指す」を示した(第5章1.保存管理の理念と方針)。環境整
備についても、この方針を原則とする。また、地元住民と湧水地との関わりを尊重し、自
然景観や風土、地域の生活文化を妨げないような整備を図る。
3.環境整備の進め方
津屋川本来の自然な形での生態系の維持のために必要な調査や環境整備について、以下
にまとめる。
・湧水地と津屋川を繋ぐ水路調査
・ハリヨが繁殖しやすい環境調査
・池や水路の浚渫や土手の改良などの整備
(以前、湧水地の水底を整備した時に、水が地下に浸透して水位が下がったことがある。
整備工事をする場合には、事前に地下の地盤調査などを実施し、整備による影響を十分に
検討する必要がある。
)
ハリヨ生息地が危機的状況となった場合の対応について、以下に挙げる段階ごとに対策
を講じる必要がある。
①対症療法(個体の確保、生息地の確保)
②補充療法(生息域の改善)
③原因療法(流域での水質・水量保全、湧水の確保、地盤改良)
(湧水量が減少し、ハリヨ生息地としての保全が困難な場合には、大規模な土木工事によ
り地下水の流出を防ぐ対策が必要になる可能性もある:矢板整備など)
- 54 -
第7章 運営及び体制整備
1.基本方針
津屋川水系清水池ハリヨ生息地の保全のためには、生物としての個体群の維持のほかに、
湧水の維持管理が重要となってくる。津屋川や養老山地、水の通り道である谷筋や地下水
脈などの保全のためには、河川担当や土地開発担当、企業立地担当などとの情報の共有・
連携が欠かせない。また、市民協働による保護活動を進めるためには、地域住民と連携し、
持続的な活動を促す必要がある。
2.管理運営の体制
ハリヨの保護や調査研究などの情報蓄積、市内外への情報発信と保護啓発活動を実施す
るためには、教育委員会などの行政機関だけでは難しい。これまで活動してきた岐阜経済
大学や大垣東高校などの調査・研究機関、
「南濃町ハリヨを守る会」や「海津市ハリヨ保存
会」を代表とする地元保護団体や自治会の協力を得ながら、活動を維持していく必要があ
る。
岐阜県内では、ハリヨ保護やハリヨを通じたまちづくりを目指す各種団体、個人などで
組織される「はりんこネットワーク」が平成3年に設立された。行政・自治会・学校など
の協力のもとでの湧水地の復元や、広報活動などを行っている。このような組織とも連携
して、他地域との情報交換を積極的に行い、保護活動の質の向上を図ることが望ましい。
以上のような状況を踏まえ、より良い管理体制を構築していくために、海津市教育委員
会では、
「ハリヨ保護連絡協議会(仮称)」の設置を検討している。ハリヨ及び生息地のモ
ニタリングや生態調査の指導、湧水環境や地下水調査の指導、現状変更等を行う場合の行
為内容の検討などに加え、追加指定に向けた環境整備の検討や市民への情報提供など、ハ
リヨ保護のための幅広い活動について、この協議会を通じて実施していく予定である。
- 55 -
指
導
・
助
言
市文化財等に
対する諮問 指導・助言
環境整備等に
仮
称
事務局
海津市教育委員会
社会教育課
連絡・調整
海津市
建設課:河川、土地開発など
対する諮問 (
文
化
庁
・
岐
阜
県
教
育
委
員
会
ハ
リ
ヨ
保
護
連
絡
協
議
会
海
津
市
文
化
財
保
護
審
議
会
商工観光課:企業立地など
指導・助言
地域住民
協
力
・
提
言
・
連
携
・
調
整
)
(学校教育課:課外授業など)
下
多
度
地
区
自
治
会
町
北
自
治
会
四
東
自
治
会
志
津
新
田
自
治
会
南
濃
町
ハ
リ
ヨ
を
守
る
会
海
津
市
ハ
リ
ヨ
保
存
会
な
ど
(農林振興課:水田、治山など)
提言・協力
連携・協力
専門家
調査機関・学校等
生物学(ハリヨの生態など)
大垣東高校など
地質環境学(地下水の挙動など) 下多度小学校など
第 37 図 保存管理の体制概念図
3.ハリヨ保護に向けた事業計画
ハリヨを守り、将来に引き継いでいくためには、ハリヨの現状把握と経年観察、データ
の蓄積は欠かせない。第5章でも、継続的な調査とモニタリングの必要性について触れた
が、現在は、大垣東高校などの自発的な協力により、モニタリングが継続できている。今
後は、海津市と研究校(大垣東高校など)の「共同研究」という形で調査費を予算化し、
持続的な調査が出来ないか、検討中である。
また、指定地の水路においては、平成 19 年の浚渫工事以降、徐々に堆積物が増え、ハリ
ヨの営巣に影響が出てきている。定期的な水路の浚渫費用についても、予算検討中である。
- 56 -
第8章 今後の課題
①ハリヨ生息地保全のための対策
津屋川水系清水池ハリヨ生息地の保全のためには、指定地だけではなく、他の湧水地や
津屋川を含めた水辺環境の保全が必要となる。また、ハリヨを守る人脈づくりや関係機関
の協力など、ハリヨを後世へ継承していくための取り組みが求められる。以下に、保全の
ために必要な課題を整理する。
・他の湧水地の追加指定
・外来生物や国内外来種の抑制、駆除
・鳥による捕食対策(地域住民の利用を妨げない形でのネット設置など)
・危険分散のための水辺環境づくり
・密漁の監視、罰則規定など
・地域住民、調査機関、行政などの協力、連携
・子どもと、その親も巻き込んだハリヨ保全の取り組み
・市民との意見交換の場の設置(継続的な場の設置)
②調査研究に基づく天然記念物の管理運営
津屋川水系清水池ハリヨ生息地の整備を進めるに当たり、現段階では調査研究が十分に
実施されていないため、科学的根拠に基づく整備指針や数値目標などを示すことは難しい。
特に、湧水の流れや仕組み、養老山地の植生や地質的な構造などの基礎データが不足して
いる。湧水保全のための植生改善や砂防施設などの改修工事に対して、適切な整備を検討・
指導していくためには、以下に挙げるような調査研究を推進していく必要がある。
・継続的な生物調査やモニタリングの必要性
・南濃町における宅地増加と湧水の関係についての調査
・志津北谷、南谷などの土砂堆積や砂防施設と湧水の関係についての調査
・津屋川の下を通って、東側の平地に湧水がどれくらい流れているか把握するための調査
・湧水が涸れる、水質が悪化するなどした場合にハリヨが自力で避難できる水路調査
・雑種交配の危険性があるかどうかの、各湧水地のハリヨ個体の分類調査
・津屋川水系のハリヨの遺伝子調査
・津屋川水系地域の土地開発等に伴うボーリング調査データの収集と、地質状況の把握
(ボーリング位置については、
「県域統合型GISぎふ」にて、「ボーリングデータマッ
プ」が公開されている。
)
・津屋川の河川工事に伴う生態系への影響調査
・養老山麓の開発行為に伴う生態系への影響調査
・湧水と津屋川水系の土地利用、森林植生の変遷との因果関係に関する調査
・養老山麓伏流水の構造解明のための調査
- 57 -
③ハリヨと湧水の関わりについての周知
「ハリヨ」単体を見てもらうだけでは、「津屋川水系清水池ハリヨ生息地」の価値を十分
に伝えることは出来ない。周辺地域の構成要素で挙げたように、津屋川・集落・養老山地
が一体となって豊富な湧水を維持していることや、地元住民と湧水地との関わりなどを理
解してもらわなければ、ハリヨ生息地の本質的な価値を保全していくことに繋がらない。
ハリヨ生息地の歴史的背景や地形的な特質、文化的な側面などを総合的に「みせる」ため
の仕掛けを検討して、効果的な利活用を進めていく必要がある。
また、市民に広くハリヨに親しんでもらうため、定期的な勉強会やシンポジウムなどを
実施し、ハリヨとそれを取り巻く自然的環境や社会的環境等について学べる環境を整える
必要もある。
指定地の清水池の近くには、津屋1区集会所があり、乗用車が 10 台程度駐車できるスペ
ースがある。天然記念物という性質や、ハリヨと地域住民との関わりを維持し保全してい
く観点からすると、無理に来訪者のための施設を整備することは、あまり適切ではない。
地域の生活文化を変質させないことを念頭に置いて、整備活用を図る必要がある。以下に、
啓発活動に関する課題をまとめる。
・テキストや教材、副読本などの作成
(平成 27~28 年度にかけて、海津市教育委員会で自然科学系の副読本を作成予定)
・学校教育や生涯学習との連携
・市民へ周知し、協力者や援助者を増やす
・市民が日常的に湧水のモニタリングをすることが出来る仕掛け作り
・ハリヨ、湧水、津屋川、養老山地の関係を分かりやすく伝えるためのガイド養成
④関係団体や諸機関との連携
・ハリヨが生息する他地域との連携
・隣接自治体と連携した湧水保全
・湧水地の埋め立てや河川工事等との調整
・河川管理者や地権者との調整
・開発事業者との事前協議や情報収集、情報共有
- 58 -
参考文献
岐阜県 1981 『岐阜県治水史 上巻』
岐阜県海津郡南濃町 1982 『南濃町史 通史編』
岐阜県海津郡南濃町教育委員会 1991 『わき水の魚ハリヨの生活史』
文化庁文化財部記念物課監修 2005 『史跡等整備のてびき Ⅰ~Ⅳ』
海津市 2007 『海津市総合開発計画 基本構想・前期基本計画』
海津市環境衛生課 2007 『海津市環境基本計画』
海津市まちづくり委員会 2008 『希少生物保護育成分科会報告書』
中部地方環境事務所 2010 「中部地域の陸水生態系における希少種保全活動-ハリヨ」
『中部地域における生物多様性保全のための取組事例集』
はりんこネットワーク 2011『はりんこネットワーク 20 周年記念誌 ふるさとの魚ハリヨ』
海津市 2012 『海津市総合開発計画 後期基本計画』
岐阜県 2012 『海津都市計画区域マスタープラン』
海津市教育委員会 2012 『海津市遺跡地図』
文化庁文化財部監修 2012 『月刊文化財 九月号(588 号)』
岐阜県立大垣東高等学校理数科 2014 「岐阜県南濃町津屋地区におけるハリヨの生態調査」
2015 「岐阜県海津市南濃町津屋地区におけるハリヨの生態調査」
海津市教育委員会 2014a 『ハリヨ生息地伏流水調査及び水質調査委託業務調査報告書』
海津市教育委員会 2014b 『海津市教育振興基本計画』
森誠一 1982 「養老山地東麓におけるハリヨの分布と現状」
『淡水魚(淡水魚保護協会、大阪)8』149-151.
森誠一 1985 「ハリヨの分布:減少の一途」
『淡水魚 11』79-82.
森誠一 1997 『トゲウオのいる川 淡水の生態系を守る』
森誠一 2002 『トゲウオ、出会いのエソロジー 行動学から社会学へ』
後藤晃・森誠一 2003 『トゲウオの自然史 多様性の謎とその保全』
Mori, S. 1993. The breeding system of the three-spined stickleback, Gasterosteus
aculeatus (form leiurus), with reference to temporal and spatial patterns of nesting
activities. Behaviour 126: 97-124.
Mori, S. 1994. Nest site choice by the three-spined stickleback, Gasterosteus
aculeatus (form leiurus), in spring-fed waters. Journal of Fish Biology 45: 279-289.
Mori, S. 1995. Spatial and temporal variations in nesting success and the causes of
nest losses of the freshwater three-spined stickleback, Gasterosteus aculeatus.
Environmental Biology of Fishes 43: 323-328.
- 59 -
参考資料 01
海津市法規制図(農用地区域・農業振興地域)
- 60 -
参考資料 02
海津市法規制図(建築形態規制区域)
- 61 -
参考資料 03
海津市法規制図(森林法・自然公園)
- 62 -
参考資料 04
海津市法規制図(土砂災害・砂防)
- 63 -
参考資料 05
現状変更手続きフローチャート図
保存管理計画対象地に該当するか、市教育委員会へ問い合わせ
対象地内
指定地内
対象地外
市教育委員会への事前報告
事前協議が必要な案件
事前報告不要
事前協議が不要な案件
市教育委員会と事前協議
事前協議不要
ハリヨ生息に影響あり
ハリヨ生息に影響なし
申請書不要
行為内容の確認
市教育委員会と県教育委員会、文化庁協議
市教育委員会と事業者協議、行為内容の見直し・変更
市教育委員会への申請書提出
市教育委員会許可案件
文化庁許可案件
市教育委員会の審査
県教育委員会への進達
(条件を付して)許可決定
文化庁への進達
文化庁の審査
(条件を付して)許可決定
県教育委員会へ許可通知
市教育委員会へ許可通知
事業者へ許可通知
市教育委員会の指導
現状変更着手
市教育委員会の指導
市教育委員会の立会(事前連絡)
現状変更等終了報告書提出
- 64 -
参考資料 06
法令条文等
◆文化財保護法(抄)
(昭和二十五年五月三十日法律第二百十四号)
最終改正:平成二六年六月一三日法律第六九号
(現状変更等の制限及び原状回復の命令)
第 125 条1項 史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼ
す行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。ただし、現状
変更については維持の措置又は非常災害のために必要な応急措置を執る場合、保存に影響
を及ぼす行為については影響の軽微である場合は、この限りでない。
(都道府県又は市の教育委員会が処理する事務)
第 184 条1項 次に掲げる文化庁長官の権限に属する事務の全部又は一部は、政令で定め
るところにより、都道府県又は市の教育委員会が行うこととすることができる。
一
第三十五条第三項(第三十六条第三項(第八十三条、第百二十一条第二項(第百七十
二条第五項で準用する場合を含む。
)及び第百七十二条第五項で準用する場合を含む。
)
、
第三十七条第四項(第八十三条及び第百二十二条第三項で準用する場合を含む。)、第
四十六条の二第二項、第七十四条第二項、第七十七条第二項(第九十一条で準用する
場合を含む。)、第八十三条、第八十七条第二項、第百十八条、第百二十条、第百二十
九条第二項、第百七十二条第五項及び第百七十四条第三項で準用する場合を含む。)の
規定による指揮監督
二
第四十三条又は第百二十五条の規定による現状変更又は保存に影響を及ぼす行為の許
可及びその取消し並びにその停止命令(重大な現状変更又は保存に重大な影響を及ぼ
す行為の許可及びその取消しを除く。)
三
第五十一条第五項(第五十一条の二(第八十五条で準用する場合を含む。)、第八十四
条第二項及び第八十五条で準用する場合を含む。
)の規定による公開の停止命令
四
第五十三条第一項、第三項及び第四項の規定による公開の許可及びその取消し並びに
公開の停止命令
五
第五十四条(第八十六条及び第百七十二条第五項で準用する場合を含む。)、第五十五
条、第百三十条(第百七十二条第五項で準用する場合を含む。)又は第百三十一条の規
定による調査又は調査のため必要な措置の施行
六 第九十二条第一項(第九十三条第一項において準用する場合を含む。
)の規定による届
出の受理、第九十二条第二項の規定による指示及び命令、第九十三条第二項の規定に
よる指示、第九十四条第一項の規定による通知の受理、同条第二項の規定による通知、
同条第三項の規定による協議、同条第四項の規定による勧告、第九十六条第一項の規
定による届出の受理、同条第二項又は第七項の規定による命令、同条第三項の規定に
よる意見の聴取、同条第五項又は第七項の規定による期間の延長、同条第八項の規定
による指示、第九十七条第一項の規定による通知の受理、同条第二項の規定による通
知、同条第三項の規定による協議並びに同条第四項の規定による勧告
- 65 -
◆文化財保護法施行令(抄)
(昭和五十年九月九日政令第二百六十七号)
最終改正:平成二四年七月二五日政令第二〇二号
(都道府県又は市の教育委員会が処理する事務)
第5条4項
次に掲げる文化庁長官の権限に属する事務は、都道府県の教育委員会(第一
号イからトまで及びリに掲げる現状変更等が市の区域内において行われる場合、同号チに
掲げる現状変更等を行う動物園又は水族館が市の区域内に存する場合並びに同号ヌに規定
する指定区域が市の区域内に存する場合にあつては、当該市の教育委員会)が行うことと
する。
1号
次に掲げる現状変更等(イからヘまでに掲げるものにあつては、史跡名勝天然記念
物の指定に係る地域内において行われるものに限る。)に係る法第百二十五条 の規定によ
る許可及びその取消し並びに停止命令
イ
小規模建築物(階数が二以下で、かつ、地階を有しない木造又は鉄骨造の建築物であ
つて、建築面積(増築又は改築にあつては、増築又は改築後の建築面積)が百二十平
方メートル以下のものをいう。ロにおいて同じ。
)で三月以内の期間を限つて設置され
るものの新築、増築、改築又は除却
ロ
小規模建築物の新築、増築、改築又は除却(増築、改築又は除却にあつては、建築の
日から五十年を経過していない小規模建築物に係るものに限る。
)であつて、指定に係
る地域の面積が百五十ヘクタール以上である史跡名勝天然記念物に係る都市計画法
(昭和四十三年法律第百号)第八条第一項第一号 の第一種低層住居専用地域又は第二
種低層住居専用地域におけるもの
ハ 工作物(建築物を除く。以下このハにおいて同じ。
)の設置、改修若しくは除却(改修
又は除却にあつては、設置の日から五十年を経過していない工作物に係るものに限
る。
)又は道路の舗装若しくは修繕(それぞれ土地の掘削、盛土、切土その他土地の形
状の変更を伴わないものに限る。)
ニ 法第百十五条第一項 (法第百二十条 及び第百七十二条第五項 において準用する場合
を含む。
)に規定する史跡名勝天然記念物の管理に必要な施設の設置、改修又は除却
ホ 埋設されている電線、ガス管、水管又は下水道管の改修
ヘ
木竹の伐採(名勝又は天然記念物の指定に係る木竹については、危険防止のため必要
な伐採に限る。
)
ト
天然記念物に指定された動物の個体の保護若しくは生息状況の調査又は当該動物によ
る人の生命若しくは身体に対する危害の防止のため必要な捕獲及び当該捕獲した動物
の飼育又は当該捕獲した動物への標識若しくは発信機の装着
チ 天然記念物に指定された動物の動物園又は水族館相互間における譲受け又は借受け
リ
天然記念物に指定された鳥類の巣で電柱に作られたもの(現に繁殖のために使用され
ているものを除く。
)の除却
ヌ
イからリまでに掲げるもののほか、史跡名勝天然記念物の指定に係る地域のうち指定
区域(当該史跡名勝天然記念物の管理のための計画を都道府県の教育委員会(当該計
画が町村の区域を対象とする場合に限る。)又は市の教育委員会(当該計画が市の区域
- 66 -
を対象とする場合に限る。
)が定めている区域のうち当該都道府県又は市の教育委員会
の申出に係るもので、現状変更等の態様、頻度その他の状況を勘案して文化庁長官が
指定する区域をいう。
)における現状変更等
◆特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物の現状変更等の許可申請等に関する規
則(抄)
(昭和二十六年七月十三日文化財保護委員会規則第十号)
最終改正:平成一七年三月二八日文部科学省令第一一号
(維持の措置の範囲)
第4条
法第百二十五条第一項 ただし書の規定により現状変更について許可を受けるこ
とを要しない場合は、次の各号のいずれかに該当する場合とする。
一
史跡、名勝又は天然記念物がき損し、又は衰亡している場合において、その価値に影
響を及ぼすことなく当該史跡、名勝又は天然記念物をその指定当時の原状(指定後に
おいて現状変更等の許可を受けたものについては、当該現状変更等の後の原状)に復
するとき。
二
史跡、名勝又は天然記念物がき損し、又は衰亡している場合において、当該き損又は
衰亡の拡大を防止するため応急の措置をするとき。
三
史跡、名勝又は天然記念物の一部がき損し、又は衰亡し、かつ、当該部分の復旧が明
らかに不可能である場合において、当該部分を除去するとき。
◆海津市文化財保護条例(抄)
平成 17 年 3 月 28 日 条例第 88 号
(平成 17 年 3 月 28 日施行)
(届出及び現状変更等の制限)
第8条
所有者又は管理責任者は、次に掲げる場合には、速やかに、教育委員会に届け出
なければならない。
(1) 指定文化財の所有者が変更したとき。
(2) 指定文化財の管理責任者を選任し、又は解任したとき。
(3)
所有者又は管理責任者がその氏名(法人にあってはその名称商号)又は住所を変更し
たとき。
(4) 指定文化財の全部又は一部が滅失し、若しくは損傷し、又はこれを亡失し、若しくは
盗み取られたとき。
(5) 指定文化財の所在の場所を変更したとき。
2
所有者又は管理責任者は、指定文化財の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす
行為をしようとするときは、教育委員会の許可を受けなければならない。
- 67 -
- 68 -
参考資料 07
指定地詳細図
- 69 -