講演録[PDF版]

第14期
情報化推進懇談会
第5回例会:平成15年2月21日(金)
『日本の次世代情報産業の展望』
講師
株式会社インターネット総合研究所
代表取締役所長
藤原
洋
財団法人 社会経済生産性本部
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氏
『日本の次世代情報産業の展望』
―
株式会社
プロフィール ―
インターネット総合研究所
代表取締役所長
藤
原
洋
氏
1977年
3月
京都大学
理学部(宇宙物理学科専攻)卒業
1977年
4月
日本アイ・ビー・エム(株)入社
1977年12月
日立エンジニアリング(株)入社
1985年
2月 (株)アスキー入社
1987年
2月 (株)グラフィックス・コミュニケーション・テクノロジーズ出向
常務取締役
研究開発本部長
1988年
9月
米国ベル通信研究所(Bellcore)訪問研究員
1993年
3月(株)グラフィックス・コミュニケーション・テクノロジーズ出向
常務取締役
研究開発本部長
1993年
6月(株)アスキー取締役
1996年
1月
東京大学より工学博士号
取得
1996年
4月
慶應義塾大学
客員教授
理工学部
1996年12月(株)インターネット総合研究所
設立
代表取締役(現任)
1999年
4月
会津大学
1999年
4月
多摩美術大学
2000年
名古屋大学
客員教授(現任)
非常勤講師
非常勤講師(現任)
青山学院大学大学院
2001年11月
東京大学
兼任講師(現任)
大学院工学系研究科
2
非常勤講師(現任)
『日本の次世代情報産業の展望』
1.ブロードバンド事業の背景と対象・範囲
ブロードバンド事業が生まれた背景には、日米で大きな差がありました。もと
もとインターネット環境がアメリカは非常に早く普及し、日本は後れているとい
う時代がありましたが、その大きな要因は、日本では従量課金という通信料金制
度がとられていて、アメリカではいわゆるつなぎっぱなしの環境がダイヤルアッ
プ時代からあったという違いです。
しかし、これは過去の話で、今はアメリカで生まれたIT革命はもう終わりま
した。電話線と専用線という過去の通信インフラを流用していたIT革命は、盛
り上がったけれども結局大したことはなかったからです。これが背景の1です。
背景の2は、アメリカから波及したIT不況の余波が日本に来たということで
す。
ところが、背景の3として、インターネットはもともと自己増殖型の技術革新
を含んだ技術ですので、経済の好不況から独立して新しい技術が生まれてきてお
り、マイナス要因と技術革新というプラス要因が重なって、今のブロードバンド
という局面にあるのではないかと思います。
ブロードバンドというものを技術革新という面から見てみると、ここ 20 年ぐら
いで3つの分野の大きな技術革新があったと思います。
1つは情報交換技術、2つ目はデジタル信号処理の技術、そして3つ目は半導
体およびデバイス技術です。この3つの分野で非常に大きな技術革新があり、今
も進んでいます。特に倍々ゲームができる最大の要因は、この3つ目の要素技術
だと思います。シリコンと化合物半導体、それから光デバイス、磁気ディスク等
の技術の進化はまだまだ続いており、1年で2倍進むというようなサイクルの技
術はおそらくこの分野しかありません。
この結果、まず大きく変わったのは、ルーターという装置によるIP網の構築
です。97 年まで、日本の通信インフラはデジタル式の電話交換機の巨大市場が支
えてきました。これが一気にルーターに変わり、効率が 100 倍になってしまった
ため、日本の通信機メーカーは大きな市場がなくなり、しかもそのルーターとい
う機器はアメリカ製が中心で、日本のメーカーは技術革新にある意味では乗りお
くれたということがあると思います。
2つ目のデジタル信号処理分野での大きな技術革新は、有線・無線、あるいは
デジタルの放送波も含めて、アナログ信号をデジタル的に送るモデム技術という
ものの登場です。このところADSLのモデムが非常にポピュラーになっていま
すが、最近のモバイル技術の進化は、ひとえにこのデジタル信号処理の技術によ
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るものです。そして、音声や画像の情報圧縮技術によって、音声CODEC、画
像CODECという分野が非常に大きく伸びてきました。
あとはDWDM(光波長多重伝送技術)で、これも最近は若干スローダウンし
ていますが、大体半年に2倍ぐらいの高密度化が進んでおり、昔たくさん引いた
長距離の光ファイバーが供給過剰になっています。それから、FTTH(Fiber to
the Home)はまた違った視点ですが、家庭まで光ファイバーの装置を安く届ける
技術が出ました。ハードディスクでは、最近、ソニーがコクーンという装置を出
されましたが、今まではコンピュータ機器の周辺装置だったハードディスクが、
むしろ家電機器の中核になり始めています。このような技術革新が、今日のブロ
ードバンド時代をもたらしたといえるのではないかと思います。
その中でも特に、皆さんが直接関与されているIT産業のインフラが、IPネ
ットワークに変わってきています。そこで、お話しした技術革新の3つの本質の
うちのIPに着目すると、アメリカでは 80 年代から、日本でも 80 年代後半には、
学術分野だけではIP網がすでにできていました。そして、さまざまな運用研究
が行われたわけですが、それをアメリカ政府の方針で商用ネットに開放したのが
90 年代です。
90 年代後半には、いわゆるプロバイダーという新しい通信事業者が登場しまし
たが、このようなフェーズは大体5年ほどで終わり、90 年代後半はキャリア網が
IP化して、インターネット接続サービスそのものはキャリア網の中核事業にな
りました。ところが、通信事業者は自分でつくったIP網のために電話で収入を
得ることができなくなりつつあるということが起こっています。
21 世紀に入ってユーザー網のIP化が起こっており、特に企業のプライベート
網、あるいは家庭内のLANのIP化が進んでいる最中です。ただ、商用IP網
ができたころはダイヤルアップで、キャリア網がIP化したときは光波長多重電
送装置でバックボーンをつくり、また違った視点では、電話が携帯電話に移行し
た時期だったと思います。
例えばNTTグループの例でいうと、NTT東西の収益は急速に落ちましたが、
ドコモが急速に上がるということが起こりました。アメリカもヨーロッパも通信
事業者はほとんど壊滅状態ですが、日本の通信事業者の経営はまだまだ健全で、
その理由はひとえに携帯電話にあります。
そうはいうものの、やはり技術革新の波は大きな影響があり、ブロードバンド
のアクセスが家庭、あるいは中小企業のオフィスなど、末端まで届き始めたため
に、VoIP、音声をIP網で送るという技術基盤ができました。これが今日ま
での経過だと思います。
次に主なブロードバンドビジネスを、①キャリアISP、②ISP、③コンテ
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ンツ事業者、④コンテンツ配信事業者、⑤放送事業者、⑥ベンダーの6つに分け
てお話しします。
まず、ブロードバンドキャリアISPという分野で最初にこの事業を始めたの
はケーブルテレビ事業者です。ブロードバンドはCATV網を流用するところか
ら始まったわけですが、この分野では、幹線を光ファイバーにすることによる双
方向化と、ISP事業を行うための資金力・技術力が課題です。また、日本の旧
郵政省の政策が地域限定だったために大規模な事業者はあまりおらず、非常に少
数でスケールメリットが出しにくいということや、昨今のADSLの低価格化で
非常に競争が激化していることがあると思います。
ADSLは、NTTのドライコッパー(電話線の空いている帯域)を流用する
ため、設備自身はNTTの局社を利用しています。現在、8メガ∼12 メガが主流
で、26 メガビットのモデム機器の開発も進んでいます。このADSL事業は大き
く分けて2つあり、1つは純キャリア型で、アクセス網だけを提供し、サービス
はアクセス網とISPのものがセットになって、営業はISPがやっているとい
うタイプです。もう1つはISP融合型で、アクセス回線とISPサービスをセ
ットで提供するものです。この分野は、Yahoo! BBの登場後、非常に激しい価格
競争に突入しています。
ブロードバンドキャリアISPはFTTHの事業者ですが、これも純キャリア
型と、アクセス回線とISPをセットで提供するISP融合型があります。
このサービスは、いつADSLとケーブルテレビをリプレイスするのだという
話題もありますが、非常に高速です。e-Japan 重点計画でいう超高速インターネ
ットの中心になるサービスですが、家庭まで一本一本ケーブルを引かなければい
けないので若干時間がかかるということがあると思います。
2つ目のビジネスISPでは、かつてダイヤルアップを使ってプロバイダーサ
ービスをしていたビッグローブやニフティのようなサービスがどうなっていくか
ということですが、大きな流れとしては、コンテンツなどは共同で買い付けよう
という動きになっています。こういった動きは、インフラ負担の増加と競争激化
という2つの背景による、ISPの生き残り戦略といえるかと思います。
3つ目のコンテンツ事業者というドメインでは、いったい今ブロードバンドコ
ンテンツはだれが提供しているかということがあります。我々の会社で提供して
いる navi.rbbtoday.com というサイトを見ていただくと、日本でどのようなブロ
ードバンドコンテンツがあるかが一覧していただけます。
4つ目の事業ドメイン、コンテンツ配信事業者(CDN)の起源はアカマイと
いう会社ですが、そのほか、Jストリームという会社は日本版元祖CDNですし、
プロデュース・オンデマンド(PoD)もJストリームに似たサービスをしてい
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る会社です。
5つ目のブロードバンド事業者として、放送事業者があります。ブロードバン
ド分野に今までの放送事業はどう関係するのか、とりあえず一緒にやってみよう
ということでできた会社がトレソーラです。ここはテレビドラマのオンデマンド
による再配信のようなものの有料テストサービスをすでに始めています。そのほ
か、B−BATはコンテンツの著作権管理などを中心に技術開発をしながら、本
格的なサービスを準備しています。
最後にベンダーは何をしているのかということですが、主にブロードバンド網
がこれだけ普及してくると猛烈なトラフィックがIP網のバックボーンに出てき
ています。日本ならではの大容量のバックボーンルーターが今、非常に大きな要
素になっています。それから、イーサースイッチのようなものが発展したスイッ
チングルーター、ローエンドの中小企業のオフィス、あるいは家庭に入れるブロ
ードバンドルーターの主に3つの分野が新しい市場として出てきているので、こ
の辺が主戦場になりつつあります。
デジタル信号処理分野では、家庭用のADSLモデム、あるいは無線LAN、
VoIP電話機といったものが新しい市場です。
最後の分野では、ブロードバンド対応の家電機器(ネット家電)が必要になっ
てきていますし、ソニーのコクーンに代表される、ハードディスクを内蔵したブ
ロードバンド用のセットトップボックスなどの流れは、非常に大きな市場になっ
ていく可能性があるのではないかと思います。
では、これまでのブロードバンド事業の市場はどうなってきているのでしょう
か。まとめてみますと、第1点は一昨年夏から一気に価格破壊が進んだために、
通信事業者はあまりもうかっていませんが、利用者が急増しました。第2点はイ
ンターネットは電話をつないで接続するものだという常識がなくなりました。昨
年9月からダイヤルアップユーザーは減少に転じており、今、インターネットは
ブロードバンドがあたりまえということになりつつあります。第3点、インター
ネットバックボーンのトラフィックが急増しています。第4点は放送事業者のブ
ロードバンドサービスへの参入です。第5点はゲームコンテンツ事業者が韓国か
ら参入を開始。第6点はADSL関係のモデム、ルーター製品の出荷が急増して
います。
ブロードバンド加入者は、昨年末で大体 800 万人です。間もなく 1000 万人にな
ると大きく世の中が変わると思います。このままいくと、今年の終わりには少な
くとも 1500 万人で 2000 万人に近づくと思います。
JPIXというのは、我々が5年前にインターネット業界の方々を集めて共同
でつくったトラフィックエクスチェンジ会社です。ニフティやビッグローブとい
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う大手プロバイダーがここでトラフィック交換をしているのですが、5年前に大
体 300 メガビットだった日本の総トラフィック交換容量は、昨今では 20 ギガビッ
トになり、急速な伸びを示しています。このように世の中はブロードバンドにシ
フトしたということがいえると思います。
2.ブロードバンド事業・苦戦の実態と要因
しかし、ブロードバンド事業はビジネス的には必ずしもそれほどうまくいって
いるわけではありません。
まず、苦戦の実態ですが、1つは価格破壊が進んだために、ADSL、FTT
Hの損益分岐点がかなり遠くなっています。2つ目は、ダイヤルアップからブロ
ードバンドに移行したために、ISPにとってのインフラ更新コスト負担が出て
きました。3つ目は、トラフィックは急増していますが、バックボーンは光波長
多重伝送技術などのおかげで供給過剰状態です。4つ目は、ブロードバンドの関
連機器の価格破壊が進行しています。5つ目は、料金をなかなか取れないコンテ
ンツ市場の低迷があります。6つ目はゲームコンテンツ事業がまだ韓国ほど立ち
上がっていないということです。
苦戦の要因をもう少し違った面で見てみると、市場を無視して横並びで先行し
てしまったこと。資本・投資のミスジャッジ。コンテンツの調達、仕組みの後手。
ユーザー開拓の後手。そのほか、ブロードバンド事業を戦略なしにやったための
技術者不足、規制など、さまざまな後手要因があるかと思います。これらの要因
を見てみると、今までの広い意味のIT産業はアメリカ市場追従型のアプローチ
でしたが、ブロードバンド時代になると、このアメリカのアプローチは通用しな
いという感じがします。例えばADSL専業キャリア、ケーブルテレビのブロー
ドバンドキャリア、固定無線キャリアはほとんど壊滅状態で、ブロードバンドも
必ずしもそれほど甘くないということです。
3.ブロードバンド事業成功への方向性
勝者なき戦いの様相を呈しているブロードバンド事業ですが、では、どうすれ
ば成功していくのでしょうか。
共通課題として、アメリカ成功モデルの導入神話から脱却できていないのでは
ないか、安易に価格競争に陥っているのではないか、メディアの政策・コンテン
ツ流通のパラダイムシフトに意外と保守的なのではないかというようなことが挙
げられます。今までの通信放送政策の枠組みを変えずにブロードバンドでもうけ
ようというパターンは、たぶん難しいと思います。大胆な規制緩和、あるいは政
策の転換とセットでなければ、そう簡単にはいかないでしょう。
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では、どこかに成功の手がかりはないかということで見てみると、韓国が一つ
の成功例を見るパターンだろうと思います。
ブロードバンドという面で見てみると、まず去年の夏、家庭におけるブロード
バンド利用率は韓国はすでに半分以上、現在は約 70%で、北米、ヨーロッパ、日
本に比べて、圧倒的に高くなっています。韓国でブロードバンドビジネスが本当
に成り立ち始めたのは昨年で、1000 万人になったのが去年 10 月ですから、1000
万人というのはある意味ではマジックナンバーで、一つの産業になる指標だと思
います。
ブロードバンド効果を定量的に見てみると、ページビューを韓国、アメリカ、
日本で比較すると、大体韓国が日米の3倍ぐらいです。インターネット接続時間
も韓国は日米の2倍です。
勝者なき戦いという話をしましたが、韓国の場合、主にKT、Hanaro、Thrunet
の3つの事業者が適度に競争しており、仁義なき戦いのようなことは起こってい
ません。韓国ではコンテンツでもうけている人も出てきており、昨年約 800 億円
の市場ですが、3年で約4倍といわれています。
人口、GDPで見ても、日本は少なくともこの市場規模の3∼5倍ぐらいある
と思われますので。今年から、1000 万人を超えた時点で日本でも有料コンテンツ
市場が韓国のペースを上回って出てくる可能性が高いといえると思います。
ブロードバンド効果のもう1つの大きな特徴は、韓国ではすでに 2001 年の時点
で広告マーケットを有料コンテンツ取引が上回っており、現在約 70%が広告収入
ではなくコンテンツそのものに移ってきていることです。
オンラインゲームは、現在のところ韓国のブロードバンドアプリケーションの
1位で約 30%です。今後3年間で2倍以上成長するということで、日本の市場規
模はやはり3∼5倍あろうと思われますので、今後ゲーム市場もブロードバンド
上で開花するのではないかと思います。
ビデオオンデマンド(Vod)市場が急速に立ち上がり始めているのもブロー
ドバンド効果で、今年、大体韓国で 100 億市場、3年で3倍成長といわれていま
す。アダルトビデオオンデマンド市場はアクセスが非常に多いのですが、実態は
何ともいえません。アニメは数億円規模です。
意外と大きなマーケットが教育コンテンツで、昨年すでに 300 億円近い市場で、
あと3年で 1000 億円市場と見られており、これの約3∼5倍が日本に生まれると
いうことだと思います。韓国は非常に教育熱心で、ブロードバンドを使った教育
コンテンツは激しい競争下にある巨大市場だといえます。
ブロードバンド国家、韓国においては、圧倒的に毎日インターネットを見ると
いうライフスタイルに変わってきており、テレビを見る時間とインターネットに
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向かう時間がほぼ同じということが起こっています。
ブロードバンド事業をどのように成功に持っていくかという方向性について考
えてみると、勝者なき戦いを勝利へ導く戦略転換は、まずアメリカ成功モデルを
コピーしてやろうといううまい話はなく、認識はむしろアジアの時代で、韓国を
ゲートウェイとして、中国はある種のマーケットであるという認識をするべきで
す。そして、韓国から学ぶべきことは、インターネットをとにかく徹底的に使う
ということに重点を置くことです。
2番目に価格競争ですが、価格競争ではなく保守性、サービス性などが非常に
重要な、利益がしっかり出る企業、電子政府向けのブロードバンド市場をつくっ
ていくべきだと思います。
3番目はメディアの政策に保守的ということですが、通信・放送融合、テレビ
端末ということが重要で、今年の終わりから地上波のデジタル放送も始まります
し、ブロードバンドとどう融合していくのか、NHKが一つのキーになると思い
ます。通信・放送融合をとにかくやってみることが必要です。放送というのはあ
る種の情報通信分野の聖域でなかなか動かない分野ですが、地上デジタル放送と
いうのは、むしろユビキタスのインフラだと思います。とにかく地上波からブロ
ードバンドの基軸市場へシフトしていることは、この放送業界が直面している課
題だと思います。
モバイルは、第1世代から第2世代になりデジタル化したために一気に帯域が
増え、しかもデジタル端末で非常に安価にできるということで広く普及しました。
第3世代はデジタル化ほどのインパクトは今のところ見えません。むしろ第4世
代移動通信網がユビキタスという流れにあるのではないか。むしろ第3世代をス
キップして第4世代にいきそうな雰囲気があります。
このようなデジタル化という技術革新によって、IPという交換網との融合、
アナログからデジタルになったことによる逆転現象が起こっています。ビジネス
のパラダイムが変わり、そこにいつでも、どこでもというユビキタスというキー
ワードが最近よく登場していますが、IP over Wireless という世界をつくった
のではないかということがいえると思います。ブロードバンドというのはラスト
ワンマイルですが、まだその先の、ラスト 100 メートルという世界ができてきて、
ここは非常に大きな、可能性のある市場だと思っています。
こうなると、固定電話はVoIP、ブロードバンドの定額インフラがあるので、
そこにボイスを乗せようというのがここ数年、非常に大きな話題だと思います。
問題はだれがもうけるのかという話なのですが、少なくともVoIPのメーカー
にとっては新たな需要であることは事実です。
IP電話の進化を見てみると、第1世代はVoIPゲートウェイということで、
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ITU−T H.323 という規格でした。ITU−Tというのは国連の下部組織で、
国家間の条約に基づく標準化機関ですが、通信規格はそこでつくるものでした。
第2世代になってソフトスイッチが出て、さまざまなシグナリングプロトコル
が登場し、第3世代である現在は、SIPというプロトコルに集約しつつありま
す。これはインターネット・エンジニアリング・タスクフォース(IETF)と
いう標準化団体でできた規格です。昔はインターネット電話は品質が悪くてどう
しようもないといわれたのですが、むしろ逆転しています。ここにIP網ならで
はの音声コミュニケーションのマーケットが生まれてくるのではないかと思って
います。
あとはepというテレビ端末で、このサービス事業に民間のお金を約 400 億円
集めてやっておられますが、今ひとつうまく立ち上がっていない。おそらくep
のステーションはデジタル放送端末という放送の枠組みではなく、むしろブロー
ドバンドインターネットテレビ端末への方針転換の必要性があるのではないかと
思っています。ソニーのコクーンが放送業界にショックを与えているのは、コマ
ーシャルをスキップすることができることで、コマーシャルの代わりにむしろ直
接ブロードバンドでターゲットマーケティングを入れてしまうような世界が、放
送と通信をうまく使うとできてしまうということで、電通よりもソニーのインハ
ウスの広告代理店の方がチャンスがあるのではないかと勝手に想像したりします。
4.ブロードバンド事業成功へのアプローチ
ブロードバンドビジネス成功に向けて、まず、インターネットとテレビの視聴
時間は拮抗するという認識が必要だと思います。そして価格競争には陥らないこ
と。当面、ケーブルとADSLの競争ですが、FTTHも出てきています。企業
向けのブロードバンドソリューションには、まだまだやることがたくさんありま
すし、電子政府、電子自治体向けのブロードバンドソリューションという視点も
必要ではないかと思います。
放送とインターネットの融合は必須であり、そのかぎを握るのは放送業界だと
思います。放送業界はイノベーティブになって、せめてテレビ番組をケーブルテ
レビインターネットへということぐらいは、やっていいのではないかという感じ
がします。
そのような背景から、次なるネットワークの覇者はだれかということですが、
100 年間通信ビジネスの枠組みは変わりませんでした。電話と専用線という枠組
みが 95 年頃までありました。ところが、ここから5年ペースで世の中が変わり始
め、2000 年まで携帯電話とインターネットというサービスに変わり、そして 2005
年頃まで続くと思われる今の第3世代になると、モバイルとブロードバンドとい
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う世界、第4世代、2005 年∼2010 年ぐらいで見ると、ユビキタスという市場と通
信放送網という市場になると思います。
日本の情報産業は、この電話からユビキタスへという流れと、インフラ面では
専用線から通信放送網へという流れが複雑に絡みながら発展してきているといえ
るのではないでしょうか。
以
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上