1 - 東京工業大学 大学院理工学研究科 数学専攻のホームページ

Almgren-Pitts theorem for minimal surface
via phase interface energy ∗
利根川吉廣(東京工業大学)
はじめに
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この講演の題目にある Almgren-Pitts の定理とは、Jon Pitts の Ph.D. 学位論文の内容で
ある [5] で示されている以下の定理である.
Theorem 1.1. 任意の滑らかなコンパクトリーマン多様体 M n+1(ただし 2 ≤ n ≤ 6) には、
滑らかに埋め込まれた極小曲面 Γn ⊂ M が存在する.
n ≥ 7 の場合も高々補次元 7 の閉特異点集合を持つ可能性があるということ以外は同様の
定理が成り立つが、簡単のため n ≤ 6 に限って話を進める.この定理は任意のコンパクト
リーマン多様体に対して成り立つという、非常に一般的な定理で、Min-Max 法を微分幾何
の問題に本格的に適用した初めての結果であるが、その後にこの定理を足場にして色々な進
展があったかといえばそうでもなかったようだ.しかし近年 Marquez と Neves が Min-Max
法を使って Willmore 予想を解いたことで、Min-Max 法の元祖ともいえるこの Almgren と
Pitts の仕事が一気に注目を浴びるようになった.他方、この定理の証明は幾何学的測度論
の一般化された曲面の概念である integral currents の空間で Min-Max 法をやらないといけ
ないこと、また(通常の意味とは異なる)局所面積最小性の性質をもつものを構成しないと
いけないことなど、技術的に難しく、理解が困難なものである.また正則性を示す重要な道
具として、Schoen-Simon-Yau[8] と Schoen-Simon[7] の安定的極小超曲面の正則性定理が本
質的に使われている.
さて講演の目的であるが、それはこの定理の別証明を近年 Guaraco[2] が全く別のやり方
で与えた、そのあらすじを解説することである.以下説明するが、私と私の共同研究者達の
研究が深く係わっていることがお分かりになるだろう.その方法とは、Modica-Mortola エ
ネルギーを曲面積のアナログとして用いて存在定理を示すことであり、Pitts の手法では困
難であった安定的な極小曲面の存在定理の見通しを良くし、一方ですべての技術的困難を正
則性定理に押し込めるような形になっている.よって必ずしも証明が単に簡単になったとい
うわけではないが、Modica-Mortola エネルギーという、汎用性が高く奇跡的に良い性質を
持つ道具を使った、明快な証明になったと思う.私が係わって徐々に整備してきたこのエネ
ルギーに関する解析的な知見が、微分幾何に対して役に立ったという意味で、私にとって喜
ばしい結果でもある.
∗
小磯深幸先生このたびはおめでとうございます.
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2
Modica-Mortola エネルギー
Ω ⊂ Rn+1 を領域、その上に定義される実数値関数 u に対して、以下の汎関数(エネル
ギー)を定める.
∫
ε|∇u|2 W (u)
Eε (u) =
+
dx.
(2.1)
2
ε
Ω
∑n+1
ここで ε > 0 は小さな数で、最終的には ε → 0 と極限をとる数であり、|∇u|2 = i=1 (uxi )2
は勾配の長さ2乗、そして W はいわゆる二重井戸型ポテンシャルといわれるもので、ここ
では例えば
(1 − u2 )2
W (u) =
4
と取る.特に何も付帯条件がなければ定数関数 u = 1 と u = −1 が自明にエネルギーが 0
の最小解となるが、それを阻む条件を付けた場合、Eε は ±1 の分離面に対する界面測度に
近い量になっていることが期待される.つまり、関数 u に対して ε を0に近づけたときに
Eε (u) = O(1) であったとすると、u は (2.1) の第二項を O(1) にするためにほとんどの場所で
±1 の値を取らざるを得ない一方、第一項目のために不連続にはなれないので、結局 O(ε) の
厚みをもつ 1 から −1 に移る遷移層ができることが期待され、また Eε (u) はその遷移層を薄
い曲面として見たときの曲面積のオーダーになることが期待される.ちなみにこの汎関数が
最初に出てきたと思われるのは、彼自身の名がついている Van der Waals(ファンデルワール
ス) の非理想気体に対する相分離に関する論文 [13] で、第一項目は相分離面表面張力の効果を
熱力学的自由エネルギーの中に取り込んだという意味で画期的なアイデアとされている(詳
しくは [10] に熱力学との関係など簡単に書いてあるので参照のこと).数学分野ではこの汎
関数は Modica-Mortola 汎関数と呼ばれているが、その他にも Van der Waals-Cahn-Hilliard
や、Ginzburg-Landau、その他の呼び方もあるようである.
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収束についての結果
この汎関数が数学で研究され始めたのは 1970 から 80 年代で、まずはエネルギー最小解に
ついてである.何も付帯条件がないと問題は自明なので、積分一定の条件下、Modica[4] や
Sternberg[9] が以下を証明した.
∫
1
Theorem 3.1. m ∈ (−1, 1) を与えたとき、X = {v ∈ H 1 (Ω) : |Ω|
v dx = m} とおく.
Ω
limi→∞ εi = 0 である正数列にたいして、uεi ∈ X は Eεi (·) を X 内での最小解とする(つま
り Eεi (uεi ) = minv∈X Eεi (v)). このときある部分列(同じインデックスで表わす)と極限関
数 u0 が存在して、以下が成り立つ.
(a) limi→∞ ∥u0 − uεi ∥L1 (Ω) = 0.
(b) u0 = ±1 almost everywhere on Ω.
1
(c) Γ = Ω ∩ ∂{u0 = 1} は同じ n + 1 次元体積を囲むあらゆる領域( |Ω|
(|{u0 = 1}| − |{u0 =
−1}|) = m)の中で面積最小曲面になる.結果として滑らかな定平均曲率曲面である.
2
(d) 測度列として、
(
εi |∇uεi |2
2
+
W (uεi )
εi
)
dx → c0 Hn ⌊Γ である.ここで c0 =
で Hn は n 次元ハウスドルフ測度である.
∫1 √
2W (s) ds
−1
この定理の示すところとは、Eε (·) の最小解は、ε → 0 のときには(付帯条件付の)面積
最小曲面を境界にもつ関数に収束し、またエネルギーは定数倍を除いてその曲面積測度に収
束する、ということである.つまり標語的に言えば以下が正しい.
Eε の最小解の界面 ≈ 面積最小曲面
一方、最小解とは限らず、一般的な停留点 (critical point) ではどうかという疑問が自然と
沸くのであるが、これに対する答えを私は Hutchinson との共同研究 [3] で以下を得た.
Theorem 3.2. limi→∞ εi = 0 なる正数列に対し、uεi は Eεi (·) の停留点であるとする.つま
W ′ (u )
り −εi ∆uεi + εi εi = 0 とする.また supi Eεi (uεi ) < ∞ とする.このときある部分列(同
じインデックスで表わす)と、Ω 上の測度 µ が存在して、
)
(
W (u )
ε |∇u |2
(a) 測度列として、 i 2 εi + εi εi dx → µ である.
(b) ある n 次元閉集合 Γ ⊂ Ω と、その上に定義される自然数値の Hn 可測関数 θ : Γ → N
が存在して、µ = c0 θHn ⌊Γ である.
(c) 極限界面である Γ(正確には µ から誘導される varifold)は極小曲面である.
ここでは正確を期さないで書いているのでご容赦願いたいが、varifold の意味でのという
のは Allard[1] にある概念で、一般化された意味で平均曲率が0になっているという意味で
ある.この結果の示すところは、Eε の停留点の界面は、ε → 0 としたときにはちゃんと(一
般化された意味での)極小曲面に収束している、ただし整数多重度を許したら、ということ
である.標語的には以下が正しい.
Eε の停留点の界面 ≈ 一般化された極小曲面
整数多重度とは、非常に大雑把に言えば、極限では界面が重なり合ってしまうかもしれな
い(それはまさに最小解ではないところに所以する)ということを許さないといけないため
である.上記の Γ は一般的には特異である可能性を排除できないし、例えば 2 枚の超平面が
交差したような Γ を極限に持つ uε の列も構成できる.ちなみに体積条件はどうなったかと
いうと、ここでは簡単のため付帯条件なしでやっているだけで、体積条件がある場合も [3]
およびその改良版である [6] では書かれている(そして Γ はその場合、一般化された意味で
の定平均曲率曲面になる).
さて、単に停留点、というのみではなく、さらに安定性を加えると、実はこの Γ は滑ら
かな安定的極小曲面になると示したのが以下の Wickramasekera との共同研究 [12] である.
Theorem 3.3. 定理 3.2 の仮定に、さらに uεi は Eεi (·) の安定的な停留点であることを加え
る.つまり第二変分 δ 2 Eεi (uεi ) ≥ 0 とする.すると極限界面の Γ は滑らかに埋め込まれた安
定的な極小曲面である.
3
この定理の意味するところは、安定的停留点の界面は、滑らかな極小曲面にちゃんと収束
するということである.ここで注意したいのは、例えば 2 枚の超平面を交差させてできる集
合は、安定的な極小曲面であるが(第一変分は0であるし、第二変分は正になる)、Eε の
安定的な停留点の界面はそのような集合には収束しない、ということを上の定理は示して
いる.つまり Eε は曲面積のアナログなのであるが、ある意味で曲面積以上に良い正則性を
もったアナログであるというようにも考えられるのである.標語的には以下が正しい.
Eε の安定的な停留点の界面 ≈ 滑らかな埋め込まれた安定的極小曲面
上の結果 [12] は我々の [3, 11] および Wickramasekera の [14] を併せてできたもので、特に
[14] についてもう少し説明しよう.すでに既出の Schoen-Simon [7] では、n 次元安定的極小
曲面 Γ の特異点集合 Sing Γ が、補次元 2、つまり Hn−2 (Sing Γ) < ∞ であると仮定すれば、
Sing Γ = ∅ であることを示している(n ≤ 6 を仮定).例えば 2 つの交差する超平面は安定
的な極小曲面であるため、少なくとも Hn−1 (Sing Γ) = 0 が埋め込みが滑らかになるための
必要条件であるが、Wickramasekera はこれが十分条件であることを [14] で示している.つ
まり安定的な極小曲面 Γ が Hn−1 (Sing Γ) = 0 であれば Sing Γ = ∅ ということで、もちろん
これは Schoen-Simon の結果を改良している.[14] は非常にハードな結果で、是非一度パラ
パラと眺めて見られることをお勧めする.
[11] より、安定的停留点界面の極限がこの Wickramasekera の十分条件を満たすことが分
かっていたので、これらを併せることにより定理 3.3 を得ることができた.上記の定理は基
本的に局所的な話であり、リーマン多様体上でも同様の結果を得ることができる.
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新しい Almgren-Pitts の定理の証明
前述したように、もともとの Pitts の証明 [5] は integral currents のクラスでの Min-Max
法であり、離散的なネットをつくり、さらに局所的な安定性までを保障した近似列を作らな
いといけないため、非常に複雑な構成法となっている.それに比べて新しい [2] の証明は以
下のようなあらすじである.まず、Eε (·) は定数関数である u = 1 と u = −1 を最低エネル
ギー解として持つ.そこで、H 1 (M ) 上でこれら2つを連続的に結ぶ曲線の全体 Y を考える.
Y := {l ∈ C([0, 1]; H 1 (M )) : l(0) = 1, l(1) = −1}.
そしてこの Y と任意の ε > 0 に対して
cε = inf
sup Eε (u)
l∈Y u∈l([0,1])
と定める.この意味するところは、1 と −1 を結ぶ関数空間内の連続曲線で、なるべく Eε の
値を低く抑えたままつなげようということである.一方で、ε が非常に小さい値であるとき、
∫
どのような連続曲線であったにしろ u の積分値 M u dx が大よそ 0 になるところは通過しな
いといけない.それはおおよそ u ≈ 1 である部分と u ≈ −1 である部分が同じ体積を持って
いるということになり、そのときは等周不等式などを使えば {u = 0} となる界面の面積はあ
る一定の下限値を持つことが示せる.つまり inf 0<ε≪1 cε ≥ ĉ > 0 となる ĉ が存在する.Eε (·)
は H 1 (M ) 上の C 1 級の汎関数であるため、スタンダードな Min-Max 法あるいは Mountain
4
Pass Theorem(峠の定理)が使え、すくなくとも cε は Eε の臨界値であり、ある非自明な停
留点 uε が存在する.またこの停留点は 1 次元の不安定方向、つまり Morse 指数 1 をもつも
のである.このことから、2 つの交わらない開集合 U1 , U2 ⊂ M を取ったときに、少なくと
も 2 つのうちどちらかでは(部分列をとった上で)uε は安定な停留点となる(もしどちら
でも不安定であれば Morse 指数は 2 以上になってしまうから).この事実を使えば、任意の
点 x ∈ M に対してある r(x) > 0 が存在して、M (x) := {y ∈ M : 0 < |x − y| < r(x)} 上では
uε が安定的であることも示せる.そこで Theorem 3.3 を使えば、uε の極限 Γ はこの M (x)
上で滑らかに埋め込まれた極小曲面となる.一点の特異点は Schoen-Simon の定理(または
もっと強力な Wickramasekera の定理で)取り除くことができるので、すべての点で Γ は滑
らかであることも分かる.これが非常に大雑把な証明のあらすじである.ポイントは、Eε
が C 1 級の汎関数であるため停留点の存在が簡潔に得られるところで、後は ε → 0 としたと
きの極限界面の正則性が問題としてあるということになり、存在と正則性の問題がはっきり
と分離している.その意味で元々の Pitts の証明より簡潔かつ見通しよくなっている.この
手法を用いて最近 Wickramasekera 達は定平均曲率曲面版の存在定理を示すことを考えてい
るようであり、従来は Pitts の手法の困難さゆえに阻まれていたと思われる Min-Max 法の
進展が今後期待されるところである.
参考文献
[1] Allard, W., On the first variation of a varifold. Ann. of Math. 95(2), (1972), 417–491.
[2] Guaraco, M., Min-max for phase transitions and the existence of embedded minimal
hypersurfaces. To appear in Journal of Differential Geometry, arXiv:1505.06698.
[3] Hutchinson, J. E.; Tonegawa, Y., Convergence of phase interfaces in the van der WaalsCahn-Hilliard theory. Calc. Var. PDE 10(1), (2000), 49–84.
[4] Modica, L., Gradient theory of phase transitions and minimal interface criteria. Arch.
Rational Mech. Anal. 98 (1987), no. 2, 123–142.
[5] Pitts, J. T., Existence and regularity of minimal surfaces on Riemannian manifolds.
Mathematical Notes, 27. Princeton University Press, Princeton, N.J.; University of
Tokyo Press, Tokyo, 1981.
[6] Röger, M.; Tonegawa, Y., Convergence of phase-field approximations to the GibbsThomson law. Calc. Var. Partial Differential Equations 32, (2008), no. 1, 111–136.
[7] Schoen, R.; Simon, L., Regularity of stable minimal hypersurfaces. Comm. Pure Appl.
Math. 34 (1981), no. 6, 741–797.
[8] Schoen, R.; Simon, L.; Yau, S. T., Curvature estimates for minimal hypersurfaces. Acta
Math. 134 (1975), no. 3-4, 275–288.
[9] Sternberg, P., The effect of a singular perturbation on nonconvex variational problems.
Arch. Rational Mech. Anal. 101 (1988), no. 3, 209–260.
5
[10] 利根川吉廣, 2 相分離問題への幾何学的測度論の応用. 数学 57 (2005), no. 2, 178–196.
[11] Tonegawa, Y., On stable critical points for a singular perturbation problem. Comm.
Anal. Geom. 13 (2005), no. 2, 439–459.
[12] Tonegawa, Y.; Wickramasekera, N., Stable phase interfaces in the van der Waals-CahnHilliard theory. J. Reine Angew. Math. 668 (2012), 191–210.
[13] Van der Waals, J.D., Z.f Phys. Chem. 13 (1894); J. Rowlinson, translation of J.D. Van
der Waals The thermodynamic theory of capillarity under the hypothesis of a continuous
variation of density. J. Stat. Phys. 20, 197 (1979).
[14] Wickramasekera, N., A general regularity theory for stable codimension 1 integral varifolds. Ann. Math. (2) 179(3), (2014), 843–1007.
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