放射線治療におけるマウスピースが及ぼす影響 山梨大学医学部附属病院 放射線部 ○馬場貴之 佐野尚樹 吉澤和弥 芦沢和成 泉宗作 坂本肇 この研究発表の内容に関する利益相反事項は、 ☑ ありません 公益社団法人 日本放射線技術学会 第61回関東部会研究発表大会 背景 上顎洞癌等の放射線治療において、開口により口腔 内の正常組織を照射野から外すことが可能となる。 当院では開口用マウスピースとして、プラスチック製 のシリンジや、口腔外科で使用する印象材を用いて いるが、この印象材が放射線治療計画に及ぼす影響 については検討されていない。 目的 今回ファントムを作成し、開口用マウスピースとして シリンジと印象材を用い、治療計画画像と投与線量 への影響について比較検討した。 方法 頭頸部を模擬した自作ファントム 模擬口蓋とした領域 模擬舌とした領域 *材料:寒天と1.5mmアクリルを用いて作成 方法 開口用マウスピースについて シリコン印象材 アルギン酸塩印象材 シリンジ (臨床では患者個々の口腔に合わせ整形して使用) 各マウスピース 方法1. マウスピースによるアーチファクトが 治療計画CT画像に与える影響について マウスピースを含んだCT画像では、マウスピースの周辺領域にアーチファクトが発生 <マウスピースを含むAxi断面図> Axi断面 アーチファクト発生部位 <マウスピースを含まないAxi断面図> Axi断面 方法1. マウスピースによるアーチファクトが 治療計画CT画像に与える影響について ・ 治療計画CT画像の設定ROI内のCT値の比較 マウスピースからのアーチファクトがない領域をリファレンスとし、各マウスピースで設定 ROI内のCT値差を比較した。 <マウスピースを含む画像> シリコン印象材使用 アルギン酸塩印象材使用 シリンジ使用 <リファレンス画像> 設定ROI CT値差=|(マウスピース使用時の設定ROI内のCT値)-(Refの設定ROI内のCT値)| 方法.2 マウスピースが及ぼす散乱線の影響について ・模擬口蓋領域と模擬舌領域の線量比較 印象材使用時線量を、シリンジ使用時線量との相対値で比較。 マウスピースの厚さを2、4、6cmと変化させ検討した。 <ファントム模式図> X-ray X-ray Field Field <照射条件> 口蓋側の線量評価点 口蓋側の線量評価点 舌側の線量評価点 舌側の線量評価点 相対値(%)= • エネルギー:4MV • ビーム角度:対向2門(90度・270度) • 照射中心に200MUとなるよう設定 • 蛍光ガラス線量計で測定 *照射野内にマウスピースが約2cm含んだ照射野 印象材使用時の線量値(cGy)-シリンジ使用時の線量値(cGy) シリンジ使用時の線量値(cGy) ×100 方法.2 マウスピースが及ぼす散乱線の影響について ・照射野内線量分布の比較 印象材使用時線量を、シリンジ使用時線量との相対値で比較。 <ファントム模式図> X-ray Field X-ray Field 照射野内の線量評価点 (ガラス線量計を配列測定) *照射野内にマウスピースが約2cm含んだ照射野 相対値(%)= 印象材使用時の線量値(cGy)-シリンジ使用時の線量値(cGy) シリンジ使用時の線量値(cGy) ×100 使用機器 ・放射線治療装置 𝐸𝑙𝑒𝑘𝑡𝑎 𝑆𝑦𝑛𝑒𝑟𝑔𝑦 𝑅 東芝メディカルシステムズ株式会社 ・治療計画CT装置 𝐴𝑞𝑢𝑖𝑙𝑖𝑜𝑛𝑇𝑀 𝐿𝐵 東芝メディカルシステムズ株式会社 ・治療計画装置 𝑃𝑖𝑛𝑛𝑎𝑐𝑙𝑒 3 株式会社日立メディコ ・ガラス線量計小型素子システム DoseAce/FGD-1000 株式会社千代田テクノル 結果1. マウスピースによるアーチファクトが 治療計画CT画像に与える影響について ・ 治療計画CT画像の設定ROI内のCT値差の比較 <各マウスピース使用時のCT値差の比較> 設定ROI シリコン印象材使用 アルギン酸塩印象材使用 シリンジ使用 結果1. マウスピースによるアーチファクトが 治療計画CT画像に与える影響について ・ 治療計画装置のMU値とポイント線量の比較 対向2門(90度・270度)にて、アイソセンターに200cGyとなるよう計画 <各マウスピース使用時のMU値とポイント線量の比較> シリコン印象材 アルギン酸塩印象材 シリンジ ポイント線量 アイソセンター シリコン印象材使用 1門あたりのMU値 ポイント線量(cGy) 131.2 194.8 131 194.6 131 194.5 ポイント線量 アイソセンター アルギン酸塩印象材使用 ポイント線量 アイソセンター シリンジ使用 結果.2 マウスピースが及ぼす散乱線の影響について ・模擬口蓋領域と模擬舌領域の線量比較(シリンジ使用時との相対値で比較) <模擬口蓋領域の線量> <模擬舌領域の線量> 16 40 20 相対値(%) 相対値(%) 12 8 0 -20 4 -40 -60 0 2cm 4cm 6cm マウスピースの厚さ(cm) 2cm 4cm 6cm マウスピースの厚さ(cm) :シリンジ使用時を基準としたシリコン印象材使用時の相対値(%) :シリンジ使用時を基準としたアルギン酸塩印象材使用時の相対値(%) 結果.2 マウスピースが及ぼす散乱線の影響について ・照射野内線量分布の比較(シリンジ使用時との相対値で比較) <照射野内線量分布> シリコン印象材の相対値 アルギン酸塩印象材の相対値 アルギン酸塩印象材の近似曲線(𝑅2 = 0.5497) シリコン印象材の近似曲線(𝑅2 = 0.5084) *照射野内にマウスピースが約2cm含んだ照射野 X-ray Field 照射野内の線量評価点 考察 <シリコン印象材のCT値への影響について> • シリコン印象材は金属(白金化合物)が含まれていること から、比較的にアーチファクトが多く発生しCT値の差が大 きくなったと考えられる。 • 治療計画線量(MU値)への影響は0.15%以下であり大きな 問題とはならないと考えた。 <模擬口蓋領域と模擬舌領域の線量比較について> • シリコン印象材は他の比べ密度が高いことから、散乱線量 が増加したと考えられる。 • 印象材は自己吸収による遮蔽効果もあり、照射野外に印象 材が存在する場合はその外側の線量は低下する結果となっ た。正常組織の被曝線量の低減には有用であると考えた。 考察 <印象材からの散乱線と照射野内線量分布への影響について> • 相対値の3%以上の線量変化で評価すると、照射野内に印象 材が 2cm含まれた場合、シリコン印象材では約 2.5cm、アル ギン酸塩印象材では約 1cm 程度の距離まで散乱線の影響が あると考えられる。 • その割合は照射野内に印象材が多く含まれる程多くなると 考えた。 以上より、実際の臨床では周辺領域の線量影響を考慮 したマウスピースの選択が必要となる。 結論 開口用マウスピースとして、シリンジ使用時と印象材 使用時の治療計画画像と線量影響について比較した。 印象材使用時の照射野内の線量増加と、照射野外 の線量低下を確認することが出来た。 臨床で使用する際は、印象材による影響を把握した 上で使用することが必要である。
© Copyright 2024 Paperzz