情 04-26 池上 貴也 2007 年度 卒業研究 1/2 メディアを通した言語表現~TV・広告媒体別特徴と変遷~ 情 04-26 池上貴也 指導教員 加藤雅人 1.はじめに インターネットの出現によって私たちの生活は大幅に変化した。それに伴って既存のメディ アにはどのような影響を与えたのだろうか。まず、広告の観点から、媒体別に歴史と共に特徴 をとらえ、その中でも強力なメディアである TV 放送について詳しく述べ、最後に調査を行い、 現在の状況や変化を立証していくことにする。 2.広告を通した言語表現 広告とは送り手から受け手へ刺激を与え、購買行動に結びつけるものであり、広告にとって ことばは切っても切り離せないものである。そして、広告のことばは、広告主の商品販売とい う目的達成のために使われ、 「商品名の効果」 「キャッチフレーズとスローガン」 「シズル(飲食 欲)」など、表現方法に様々な種類や効果がある。さらに、広告表現はその時代の歴史や媒体が 大きく関係している。以下に主な歴史と特徴をまとめた。 広告の歴史 時代 事柄 江戸時代 引札(ちらし)の登場 明治三年 横浜毎日新聞の創刊 明治五年 東京日々新聞の創刊(文字通り広く告げる意味での広告であり、 「読む広告」 であった。) 明治二十年 キャッチコピーの出現 大正 漫画家の絵などが広告に使われるようになる。 昭和二十六年 ラジオ民間放送開始 昭和二十八年 TV 放送開始(「ハードタイプ広告」が中心。) 昭和三十五年 カラーTV の出現(商品個々の差がなくなり「フィーリング広告」が出現す る。) 昭和四十五年 人々は自分なりの生活を楽しむ考え方となり、企業側も企業理念を広告に するようになる。(主に公害問題など) 平成 商品を売るより、企業の考え方や取り組みを売る次代へ突入する。(主に環 境問題など) 近年では、テレビ広告がインターネットの出現と、映像やタレントに頼りすぎてことばを疎 かにしたため、下降線を辿り始めている。冒頭でも述べたように、広告にとってことばとは切 り離せないものであり、新しい媒体であるインターネットも例外ではないだろう。 3.放送を通した言語表現 放送とは電波を利用したマス・コミュニケーション活動であり、放送法ではその定義を「放 送とは、公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう」と規定してい る。その特性としては「即時性」、「総合性」、「広範性」の三つで、これによって放送は 20 世 紀において、マス・コミュニケーションの主役の座を占めるに至った。さらに、放送には報道 機能、文化・教育機能、娯楽機能、広告・産業機能という社会的機能がある。「放送のことば」 の主な特徴は三つある。一つ目は、 「耳のことば」を使用するなどの「わかりやすさ」を重視し た点。二つ目は TV 放送という媒体がことばを制約してしまう三つの限界「感性的限界」、「公 共性としての限界」、「視覚による言葉の限界」の存在。三つ目は放送のことばが「話し言葉」 情 04-26 池上 2007 年度 貴也 2/2 卒業研究 である点である。これらの特徴により、いくつかの制約があるものの、TV 放送は全国に共通 語を普及させるほどの強力な媒体となった。 4.媒体別意識調査 *調査方法:1996 年に行われた先行研究(JNN データバンク調査)を参考に、インターネッ トと、言語表現に関する質問項目を増やし、選択式の媒体別意識調査を行なった。 *被験者:19 歳から 22 歳までの大学生 142(男性 78、女性 64)名。2007 年 10 月に実施。 *仮説:インターネットの出現によって、ほとんどの項目においてインターネットが優勢にな っているのではないだろうか。 *結果と考察 質問 1 質問 2 「ことばの乱れの原因を作っている」 「正しい日本語を使っている」 39% 2% 2% 「真実の情報を伝えている」 「批判精神がある」 19% 18% 59% 34% 9% 「政治や国際問題をわかりやすく伝えている」 「情報が詳しい」 8% 「情報の分野が広い」 44% 42% インターネット 52% 28% 新聞 80% 30% 「生活に楽しみや潤いを与えている」 0% 37% 30% 「新製品を知るのに役立つ」 3% 「商品のイメージがわく」 1% 「商品が覚えやすい」 2% 43% 25% 25% 49% 19% 53% 8% 13% 10% 15% 「印象に残る」 「インパクトがある」 「話題になる」 4% 10% 9% 「楽しい」 1% 「親しみやすい」 2% 0% 20% 19% 24% 55% 24% 32% 20% テレビ広告 52% 29% 10% 新聞広告 58% 27% 11% 17% 19% 「センスがよい」 インターネット広告 62% 4% 「高級な感じがする」 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 45% 39% 34% 37% 28% 14% 「きれい・美しい」 63% 21% 28% 24% 9% 「信頼できる」 45% 39% 10% 「世の中の動きを早く伝えている」 テレビ 85% 6%8% 1% 3% 「役に立つ情報が得られる」 8%10% 「情報の量が多い」 「商品を買いたい気にさせる」 「売り出しを知るのに役立つ」 30% 40% 19% 「社会の出来事を多角的にとりあげている」 「消費生活を豊かなものにしている」 83% 9% 13% 15% 9% 「ことば(キャッチフレーズ)は大切だ」 46% 30% 40% 39% 44% 40% 50% 60% 70% それぞれの質問項目の結果から、テレビは 2 章でも触れたようにその特性から未だに高い評 価を得ていることが分かった。「生活に楽しみや潤いを与えている」(質問 1)「親しみやすい」 「インパクトがある」「印象に残る」「商品が覚えやすい」「商品のイメージがわく」(質問 2) から大多数の視聴者がテレビを身近に感じ、親しみを持って接していることが示されている 。 「読む」という能動性(努力)の必要がないことも理由の一つだろう。また、広告効果に関し ては、テレビの映像技術の「派生的効果」がインターネットより優れているため、それに関連 する項目が高い数値を示している。 インターネットは「消費生活を豊かなものにしている」「情報の量が多い」「情報の分野が広 い」「情報が詳しい」(質問 1)「役に立つ情報が得られる」(質問 2)から、価格ドットコムや Yahoo!、Google などの検索エンジンで能動的に商品の情報を集めることが可能なため高い数値 を示したと思われる。 今回の調査で、一番特徴的であったのが新聞である。「真実の情報を伝えている」(質問 1) 「信頼できる」(質問 2)で一番高い数値を示した。96 年の先行研究ではこの項目は高くはな く、情報が氾濫しているインターネット、テレビのねつ造問題が起こる中、この 10 年で新聞 は信憑性を勝ち取ったということになる。 結果を見てみると、仮説とは違い、インターネットの出現によって、媒体の持つ特性がより 強まり、それぞれの役割が媒体ごとにより一層高まっていることが分かった。 参考文献 ・木村勝規「広告とことばの魔力」『言語生活』vol.233 no.2、筑波書房、1971 年、pp.46-54。 ・坂本充「放送のことばのマニュアル」 『日本語学』vol.119 no.2、明治書院、2000 年、pp.83-93。 ・西尾満「テレビ CM と新聞広告を比べると」『データによる効果的なメディア戦略 マルチ メディア時代の広告プランニング』誠文堂新光社、1997 年。 ・山口仲美「広告表現の変遷」『日本語学』vol.120 no.2、明治書院、2001 年、pp.6-18。
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