第 26 回健康医科学研究助成論文集 平成 21 年度 pp.24∼31(2011.3) 医療用弾性ストッキングによる下肢圧迫が運動時の心肺機能に 及ぼす影響 伊 藤 守 弘* 尾 方 寿 好* 上 田 ゆみ子* 西 垣 景 太* 田 島 織 絵* EFFECTS OF MEDICAL ELASTIC STOCKINGS ON CARDIORESPIRATORY RESPONSES DURING EXERCISE Morihiro Ito, Hisayoshi Ogata, Keita Nishigaki, Yumiko Ueda, and Orie Tajima SUMMARY In spite of an increasing use of elastic stockings in the field of sports, there has been little information on physiological and morphological responses to wearing elastic stockings. The purpose of the present study was to determine the effects of wearing elastic stockings on the calf on thigh venous blood flow and morphology of the calf at rest and on cardiorespiratory responses to leg cycling exercise in seven young healthy male volunteers. Each subject performed 6-min leg cycling at intensities of 80% and 120% of ventilatory threshold(VT80 and VT120, respectively). Both VT80 and VT120 were preceded by a 4-min warming-up exercise at 10 watts. There was no significant difference in thigh venous blood flow or morphology of the calf at rest with or without elastic stockings. On the other hand, the magnitudes of increases in minute ventilation(VE)and oxygen uptake(VO2)during the VT120 without elastic stockings from the level at warming-up exercise were 44 12 l・min1 and 1549 372 ml・min1, respectively, while those during the VT120 with elastic stockings from the level at warmingup exercise were 47 13 l・min1 and 1596 385 ml・min1, respectively. The magnitudes of the increases during the VT120 with elastic stockings were significantly higher than those during the VT120 without elastic stockings (VE: P<0.05, VO2: P<0.01). On the other hand, cardiorespiratory response during the VT80 was not influenced by wearing elastic stockings. It is concluded that wearing elastic stockings on the calf have an effect on respiratory responses to exercise at heavy intensity in healthy young people. The effects of wearing elastic stockings may be fully elucidated by examining other population(children and elderly)and by altering the extent of compression. ● ● ● Key words: elastic stockings, compression, cardiorespiratory responses, sports fields. * 中部大学生命健康科学部 College of Life and Health Sciences, Chubu University, Aichi, Japan. ● (25) 究において、12km/h のスピードのランニング時 緒 言 にのみ弾性ストッキング着用の効果が表れたこと 近年、スポーツ界において運動中に弾性ストッ から、本研究においても弾性ストッキング着用の キングやタイツを着用する場面が急速に増大して 効果は運動強度によって異なる可能性があると考 いる。村瀬ら 9) は、ランプ運動負荷で得られた えられたためである。また、本研究では医療用 最大仕事率の 20、40 および 60%に相当する一定 弾性ストッキングを用いた。このストッキング 負荷自転車運動を、下肢全体を覆う弾性ストッキ は、下肢静脈瘤やリンパ浮腫の治療や静脈血栓塞 ングを着用した条件と非着用条件の 2 条件で行 栓症予防用に開発されている。スポーツ現場で用 ● い、心拍数(HR)、酸素摂取量(VO2) 、二酸化炭 ● いられるものよりも圧迫圧が高いので、静脈血液 ● 素排出量(VCO2)および換気量(VE)の応答を比 量のうっ滞を抑制する効果がより高くなり、呼 較した。その結果、両条件間の呼吸・循環応答に 吸・循環応答にも大きな変化が起こると考えられ 有意な差は認められなかった。一方、Bringard et た。本研究では、臨床的に下肢静脈瘤やリンパ浮 al.2) は、10、12、14、16km/h のランニングにお 腫が頻発することが知られている下腿部のみの圧 いて弾性ストッキングを着用した条件と、標準的 迫を行った。深部静脈血栓症予防において静脈 ● なショーツを着用した条件で VO2 応答を比較し 血貯留を抑制する目的で、随意的な筋活動を有す ● た。その結果、12km/h のランニング時には VO2 る場合には下肢全体を圧迫せず、膝下のタイプで が低下したこと、すなわち、より少ないエネル 十分であるとのこれまでの報告から、今回膝下ま ギー消費量で運動が遂行できるという積極的効果 でのハイソックスタイプを用いた 1,4)。医療用ス があったことを報告している。以上のように、先 トッキングによる圧迫が下肢静脈血管径へ及ぼす 行研究では弾性ストッキングの着用が呼吸・循環 効果を明らかにするために、本研究では安静状 応答に及ぼす影響についての見解が一致しておら 態での下肢静脈エコー検査と MRI 検査も行った。 ず、弾性ストッキング着用の効果はいまだ不明で 研 究 方 法 ある。 静脈疾患患者を対象とした研究では、運動中 A.被験者 に下肢全体を覆う弾性ストッキングを着用する 対象は健康な成人男性 7 名であり、年齢、身長、 ことの効果として、静脈血液量のうっ滞が抑制 体重はそれぞれ 20 2 歳、171.9 1.9cm、65 5 kg 8) されることが明らかにされている 。弾性ストッ (平均値 標準偏差)であった。本研究は、中部 キングと同様に下肢血液量を減少させる方法に 大学倫理委員会の承認を得て行われており、被験 下半身陽圧負荷がある 10)。Nishiyasu et al.10) は、 者には実験に際し、書面および口頭にて研究の目 健常者において、中等度強度の仰臥位自転車運動 的、内容、危険性などを十分に説明し同意を得た。 (HR: 120∼130bpm, work rate: 100 3 watts) に お B.弾性ストッキング圧迫圧の検証 いて、下半身陽圧負荷を加えた場合と加えない場 圧力測定器(AMI3037-10, エイエムアイ・テク 合の 2 条件を比較し、前者は後者に比べて下肢血 ノ)を用いて、弾性ストッキングが外部から脚部 液量が低下するのみならず、平均血圧(MAP)と に与える圧力(着圧)を測定した。直径約 3 cm の ● VO2 が高くなり、HR は低くなることを明らかに 円形のエアパックを腓腹筋上に固定し、エアパッ している。もし、弾性ストッキングの着用によっ クから押し出される空気圧を測定し、本研究にて て運動中の下肢血液量が減少するならば、呼吸・ 用いる弾性ストッキングが適切な圧迫圧で圧迫を 循環応答にも何らかの変化が生じる可能性がある。 行っているかを検討した。弾性ストッキングはハ そこで、本研究では健常者を対象として、弾性 イソックスタイプの Comprinet® pro(JP-P77026SK, ストッキングの着用が自転車運動時の呼吸・循環 テルモ)を用いた。被験者の測定順序および種類 応答へ及ぼす影響について検討することを目的と は、無作為に実施した。 した。自転車運動の強度には中強度と高強度の 2) 2 種類を設定した。これは、Bringard et al. の研 C.下肢静脈エコー検査 深部静脈血流促進効果を評価するために、大腿 (26) 静脈径および大腿静脈ピーク血流速度を測定し 荷は疲労困憊まで継続し、運動中のペダルの回転 た。下肢静脈エコー検査では、被験者は仰臥位を 数は、60rpm に維持させた。疲労困憊の判定は、 とり、7.5MHz linear probe(Xalio, 東芝メディカ 高負荷時に回転数の維持が困難になり 50rpm 以 ルシステムズ社)を用いて評価した。B モード法 下に低下したことを基準とした。 により長軸像を描出し、総大腿静脈径を 3 回測定 2 .一定運動負荷テスト し、その平均値を総大腿静脈径とした。また、パ ランプ運動負荷テスト終了後、別の日に一定運 ルスドプラ法により大腿静脈血流波形を記録し、 動負荷テストを行った。運動中のペダル回転数は 60rpm で、各被験者のサドルの高さはランプ負 血流速度のピーク値を測定した。 荷テストと同一にした。一定運動負荷テストのプ D.下肢圧迫時の形態評価 圧迫による下腿の状態を形態的に評価するた ロトコールを図 1 に示した。初めに、被験者に自 め、MRI にてイメージングした。本研究で使用し 転車エルゴメータ上で 6 分間の安静を保たせた。 た MRI 装置は 0.3T 日立 AIRIS 2 COMFORT、コ その後、10watts の負荷強度の運動を 4 分間行わ イルは膝用 QD コイルである。撮像条件は TR: せたのち、6 分間の主運動を行わせた。このとき 4000ms、TE:80ms、スライス厚 5 mm とした。 の負荷強度は、ランプ運動負荷で得られた換気性 膝蓋骨下端より 10cm の部位を中心にスキャンし、 作業閾値(VT)の 80%(VT80)であった。主運動 終了後は、10watts の負荷強度で 6 分間のクーリ 評価した。 E.運動負荷プロトコール ングダウンを行い、その後、自転車エルゴメータ 1 .ランプ運動負荷テスト から被験者を降ろし、椅子上で約 10 分間の安静 各被験者は、安静、4 分間の一定運動負荷、そ を保たせた。安静終了後、上記と同一の手順で の直後のランプ運動負荷からなるランプ運動負荷 再び被験者に運動負荷を課した。ただし、主運 テストを行った。運動負荷には自転車エルゴメー 動の負荷強度は VT の 120%(VT120)であった。 タ(75XL Ⅱ, コンビウェルネス社)を用いた。エ すべての被験者は初めに VT80 を行い、その後に ルゴメータのサドルの高さは、ペダルが最下端に VT120 を行った。これは、VT 以下強度の短時間 あるときに膝関節がわずかに曲がるように調節し 運動の場合、その後の運動の生理応答への影響は た。安静時には、被験者を自転車エルゴメータの 小さいと考えられたためである。 サドル上に座らせ、5 分間の安静を保たせた。そ 一定運動負荷テストは弾性ストッキング非着用 の後、10watts の負荷強度で 4 分間の一定運動負 条件(control: C 条件)と着用条件(elastic stocking: 荷を行わせた後、直ちに 20watts・min-1 ずつ負荷 ES 条件)の 2 条件を設定し、それぞれ別の日に を漸増させるランプ運動負荷を行わせた。この負 行った。2 試技の順序は不同で行った。ES 条件 120%VT 80%VT W-up Rest on the chair C-down Rest 0 C-down W-up Rest 6 10 16 22 32 38 42 48 Time(min) 図 1 .一定運動負荷テストのプロトコール Fig.1.Schematic of the experimental protocol for constant-work-load exercise. VT; ventilatory thoreshold, W-up; warm-up exercise at 10 watts, C-down; cooling-down exercise at 10 watts. 54 (27) Without elastic stocking With elastic stocking 図 2 .弾性ストッキング着用条件および非着用条件での自転車運動 Fig.2.Leg cycling exercise with and without elastic stocking. Pressure sensor is attached on the skin over the gastrocnemius muscle. では、VT80 の運動前安静測定開始時点から約 30 DP=SAP × HR 分前に弾性ストッキングを装着した。図 2 は C VT は、ランプ運動負荷中の呼気ガスより侵襲 条件および ES 条件での自転車運動の様子を示し 的に決定した。本研究では、VT を次の基準に ている。弾性ストッキングは両下腿部に装着し 基づいて決定した。すなわち、 (i)VO2 に対して た。弾性ストッキングによって加えられる圧力を VE が上昇し始めた点、 (ii)VO2 に対して VCO2 腓腹筋上にて、圧力測定器により運動中に測定し が上昇し始めた点、(iii)PETCO2 の下降を伴わず た(図 2) 。 に PETO2 が上昇し始めた点、(iv)VE VCO2 の ● ● ● ● ● ● 3 .測定項目 ● ● ● 上昇を伴わずに VE VO2 および PETO2 が上昇し ● VO2、VCO2、終末呼気酸素分圧(PETO2) 、終 始めた点とした 11)。一定運動負荷で得られた各 ● 末呼気二酸化炭素分圧(PETCO2) 、VE、呼吸数 呼吸・循環指標については、安静時、ウォーミン (RR)、および 1 回換気量(TV) 、は、呼気ガス グアップ時、および主運動時の最後 2 分間の平均 分析器(AE-300S, ミナト医科学)を用いて breath- 値を算出し統計解析に用いた。C 条件および ES ● by-breath により決定した。VE は被験者のガスマ 条件間による呼吸・循環指標の値の比較には、対 スクに取り付けられた hot-wire flow meter により 測定した。flow meter は、2.0 l のシリンジを用い 応のある Student の t 検定を用いた。P 値が 5 % て校正した。O2 および CO2 濃度は、ジルコニア 未満の場合を有意とした。測定値はすべて平均値 標準偏差で表した。 式 O2 センサーおよび赤外線 CO2 センサーを用い 結 果 て測定した。呼気ガス分析器は、既知濃度の標準 ガス(O2: 14.93% , CO2: 4.92%)を用いて校正した。 A.弾性ストッキング圧迫圧の検証 収縮期血圧(SAP)および拡張期血圧(DAP) 安静時において弾性ストッキング着用時に測定 は、運動負荷用自動血圧計(EBP-300, ミナト医 した圧迫圧は 25.5 8.7hPa であった。 科学)を用いて測定した。血圧測定は一定運動負 また、弾性ストッキングを装着した運動中では 荷テスト中に 1 分間隔で行った。HR は、テレメ 体動に伴い、弾性ストッキングにより加えられる トリー式心電送信機(ZS-930 P, 日本光電)と専用 圧力が変動した。この運動中に測定した圧迫圧の モニタ(BSM-2401, 日本光電)を用いて測定した。 変動幅は、安静時に比べ 1 ∼ 11hPa の範囲であっ 血圧と HR のデータは呼気ガスデータとともに専 た。 用ソフトを用いてコンピュータに保存された。 4 .データ解析 B.下肢静脈エコー検査 下肢静脈エコー検査で得られた大腿静脈径は、 MAP および心筋酸素消費量の指標としての二 非着用時で 5.5 0.6mm、着用時で 5.7 0.5mm で 重積(DP)は、以下の式によって求めた。 あった。また、大腿静脈ピーク血流速度は非着用 MAP=(SAP−DAP)3 + DAP 時で 20.3 5.8cm/s、着用時で 23.5 8.0cm/s であっ (28) 件および ES 条件について記してある。安静時、 た。 ウォーミングアップ時、および主運動時において、 C.下肢圧迫時の形態評価 弾性ストッキングの非着用時と着用時における C 条件と ES 条件間ですべての呼吸・循環指標の 下腿部の MRI 画像を図 3 に示す。2 名の整形外 値に有意差は認められなかった。表 2 は、VT120 科医が血管を中心に視覚評価したが、明らかな差 時の呼吸・循環指標の値を C 条件および ES 条件 を指摘することはできなかった。 の場合について記してある。安静時、ウォーミ ングアップ時、および主運動時において、C 条件 D.ランプ運動負荷 ランプ運動負荷で得られた最高仕事率、最高 酸素摂取量は 256 45watts と 2.86 0.58 l・min-1 で と ES 条件間でほとんどの指標で有意差は認めら れなかったが、ウォーミングアップ時の TV のみ ● あった。また、VT における仕事率および VO2 は 115 25watts と 1.51 0.30 l・min-1 であった。 ES 条件のほうが有意に低い値(P<0.05)を示した。 主運動開始前のベースラインであるウォーミン グアップ時の値について C 条件および ES 条件間 E.一定運動負荷 表 1 は、VT80 時の呼吸・循環指標の値を C 条 に絶対値の差がある指標があったことを考慮し、 Without elastic stocking With elastic stocking 図 3 .下肢圧迫時の形態変化 Fig.3.Morphological analysis with wearing elastic stockings on MRI. 表 1 .弾性ストッキングの着用が安静時、10watts のウォーミングアップ時、および換気性作業閾値の 80%強度の一定運 動負荷時における呼吸・循環応答に及ぼす影響 Table 1.Cardiorespiratory responses during rest, warm-up exercise at an intensity of 10 watts, and subsequent main exercise at an intensity of 80% of the ventilatory threshold with and without elastic stocking on the calf. Without elastic stocking Rest Warm-up Main exercise With elastic stocking Rest Warm-up Main exercise ● VO2(ml・min-1) HR(bpm) SAP(mmHg) DAP(mmHg) MAP(mmHg) RR(times・min-1) TV(ml・min-1) VE(l・min-1) DP(mmHg・bpm) VE/VO2(ml・min-1/ml・min-1) VE/MAP(ml・min-1/mmHg) ● ● ● ● 277(41) 512(61) 1349(261) 288(39) 504(32) 1342(219) 78(7) 81(9) 127(17) 82(8) 85(9) 132(23) 117(8) 139(10) 172(13) 123(12) 140(17) 171(16) 74(10) 81(10) 77(9) 80(9) 81(9) 82(17) 91(8) 100(9) 111(9) 96(15) 96(8) 111(11) 17(3) 20(3) 28(9) 16(4) 20(5) 29(9) 607(141) 761(107) 1364(339) 635(124) 752(120) 1306(244) 10(1) 15(1) 37(7) 10(1) 15(2) 37(6) 9172(1240) 11251(1179) 21728(3457) 10142(1758) 11979(2468) 22788(5444) 36(3) 29(2) 27(4) 34(3) 29(4) 28(4) 109(18) 152(23) 331(64) 104(21) 157(33) 334(53) ● Values are shown as mean(standard deviation). VO2; oxygen uptake, HR; heart rate, SAP; systolic arterial blood pressure, DAP; diastolic arterial blood pressuer, MAP; mean arterial blood pressure, RR; respiratory rate, TV; tidal volume, VE; minute ventilation, DP; double product. ● (29) 本研究ではウォーミングアップから主運動に至る 標の変化量に有意差は認められなかった。一方、 呼吸・循環指標の変化量(⊿)を算出し比較した。 、 VT120 時では ES 条件のほうが⊿VO2(P<0.01) その結果を示したものが表 3 である。VT80 時で ⊿RR(P<0.05) 、および⊿VE(P<0.05)が有意に は、C 条件と ES 条件間ですべての呼吸・循環指 高い値を示した。 ● ● 表 2 .弾性ストッキングの着用が安静時、10watts のウォーミングアップ時、および換気性作業閾値の 120%強度の一定運 動負荷時における呼吸・循環応答に及ぼす影響 Table 2.Cardiorespiratory responses during rest, warm-up exercise at an intensity of 10 watts, and subsequent main exercise at an intensity of 120% of the ventilatory threshold with and without elastic stocking on the calf. Without elastic stocking Rest Warm-up Main exercise With elastic stocking Rest Warm-up Main exercise ● VO2(ml・min-1) HR(bpm) SAP(mmHg) DAP(mmHg) MAP(mmHg) RR(times・min-1) TV(ml・min-1) VE(l・min-1) DP(mmHg・bpm) VE/VO2(ml・min-1/ml・min-1) VE/MAP(ml・min-1/mmHg) ● ● ● ● 294(56) 516(24) 2065(389) 297(13) 499(36) 2096(401) 83(8) 89(13) 163(14) 85(10) 89(11) 165(14) 118(7) 142(10) 197(12) 119(13) 133(15) 193(17) 79(10) 94(8) 79(12) 79(9) 90(10) 75(15) 92(9) 100(5) 126(6) 90(13) 97(11) 127(8) 18(4) 22(5) 36(12) 17(3) 21(5) 38(13) * 589(143) 737(90) 1744(367) 590(93) 687(113) 1719(340) 10(2) 16(2) 60(13) 10(1) 14(2) 62(13) 9811(1297) 12568(1645) 32084(3379) 10110(1592) 11799(1967) 31855(4211) 34(3) 31(4) 29(5) 33(4) 29(3) 30(5) 111(31) 161(23) 478(84) 113(23) 150(27) 493(120) ● Values are shown as mean(standard deviation) . VO2; oxygen uptake, HR; heart rate, SAP; systolic arterial blood pressure, DAP; diastolic arterial blood pressure, MAP; mean arterial blood pressure, RR; respiratory rate, TV; tidal volume, VE; minute ventilation, DP; double product. * P<0.05 : compared to the values during exercise test without elastic stocking. ● 表 3 .弾性ストッキングの着用が運動時の呼吸・循環諸変量の増加量(⊿)に及ぼす影響 Table 3.Magnitude of changes(⊿)in cardiorespiratory parameters during exercise with and without elastic stocking on the calf. VT80 VT120 Without elastic stocking mean With elastic stocking mean Without elastic stocking mean With elastic stocking mean 837(234) 45(17) 33(8) 0(5) 11(5) 8(7) 604(236) 22(7) 10477(3192) 26(6) 3187(4175) 837(215) 47(18) 31(21) 6(8) 15(7) 9(7) 554(200) 22(6) 10810(4158) 27(6) 3468(5498) 1549(372) 74(14) 55(15) 11(10) 26(6) 14(10) 1007(331) 44(12) 19516(3609) 29(5) 1736(292) ** 1596(385) 76(12) 60(11) 15(13) 30(8) * 16(11) 1032(288) * 47(13) 20056(3454) 30(7) 1691(611) ● ⊿VO2(ml・min-1) ⊿HR(bpm) ⊿SAP(mmHg) ⊿DAP(mmHg) ⊿MAP(mmHg) ⊿RR(times・min-1) ⊿TV(ml・min-1) ⊿VE(l・min-1) ⊿DP(mmHg・bpm) ⊿VE/⊿VO2(ml・min-1/ml・min-1) ⊿VE/⊿MAP(ml・min-1/mmHg) ● ● ● ● Values are shown as mean(standard deviation). VT80 and VT 120; constant work-rate exercise test at intensities of 80% and 120% of the ventilator threshold, respectively. VO2; oxygen uptake, HR; heart rate, SAP; systolic arterial blood pressure, DAP; diastolic arterial blood pressure, MAP; mean arterial blood pressure, RR; respiratory rate, TV; tidal volume, VE; minute ventilation, DP; double product. * P<0.05, ** P<0.01 : : compared to the values during exercise test without elastic stocking. ⊿ is calculated by subtracting the values during warm-up exercise from the values during main exercise. ● ● (30) 呼吸・循環応答が生じると考えられた。先行研究 考 察 では、静脈疾患患者において歩行中に弾性ストッ 本研究は、弾性ストッキングの着用が運動時の キングを着用すると、静脈のうっ滞が抑制される 呼吸・循環応答に及ぼす影響を明らかにすること ことが報告されている 8)。一方、本研究では健常 を目的に行われ、次の結果を得た。すなわち、 者を対象とした。安静時下肢静脈エコー検査およ VT120 の自転車運動時において、弾性ストッキ び下腿部 MRI 検査によって明らかなように、弾 ● ングを下腿部に装着した場合には⊿VE、⊿RR お 性ストッキングを装着しても静脈血管に対する顕 ● よび⊿VO2 が高くなった。本研究では、医療用の 著な影響はなかった。健常者の運動中では、筋ポ 弾性ストッキングの装着によって運動時の下腿部 ンプ作用が十分に高いため、そもそも弾性ストッ 静脈血液量が減少する結果、何らかの呼吸応答が キングを用いなくても十分に静脈から血液を押し 生じるものと想定した。しかしながら、弾性スト 出すことができる可能性もある。また、静脈疾患 ッキングの装着による効果は、静脈エコー検査や 患者を対象とした先行研究 8) では下肢全体を弾 MRI 検査からは明確にはならなかった。したが 性ストッキングで圧迫しているのに対し、本研究 って、本研究で生じた呼吸・循環応答の変化は、 では下腿部のみに限定されていた。以上を考慮す 下腿部静脈血液量の変化とは別の要因によって生 ると、弾性ストッキングが運動時の呼吸・循環応 じている可能性が考えられる。 答へ及ぼす影響は、被験者特性や圧迫領域の広さ ● VT120 時における⊿VO2 の増大は、⊿RR の増 などの条件がかかわってくる可能性が考えられる。 ● 大と、これに起因した⊿VE の増大を伴っていた。 ● 現在、医療現場において静脈血栓塞栓症の予防 ● したがって、VO2 の増大は単に VE の増大によっ として弾性ストッキングが用いられている。弾性 ● て生じたことが示唆される。VE の増大は、血圧 ストッキングの静脈血栓塞栓症予防効果は多くの の低下に伴う頚動脈洞内圧低下によって生じるこ 臨床試験で立証されており 6,7,12)、安全かつ有効な 3) とが動物実験から示唆されている 。しかしなが 理学的予防法として使用頻度も急速に増加してい ら、本研究では C 条件と ES 条件で血圧に有意な る。今後、更にスポーツにおける弾性ストッキン 差は認められなかった。 グの効果を明らかにするためには、これらの知見 VT120 時のみで呼吸応答が亢進したことから、 と対象者、圧迫を行う範囲等について、考慮して 運動強度に関連した要因が、弾性ストッキング 検討を加える必要があろう。 着用の効果に影響していることが示唆される。 Duranti et al.5) は、ヒトにおいて皮膚への侵害性 総 括 電気刺激で呼吸数が増大することを報告してい 本研究では、弾性ストッキング着用による下腿 る。更に、彼らは運動によって引き起こされた虚 圧迫が呼吸・循環応答に及ぼす影響について検討 ● 血性の痛みによって、RR と VE が増大すること した。下肢静脈エコー検査および下腿部 MRI 検 も報告している。本研究では、弾性ストッキング 査において、機能および形態的に明らかな差を認 の装着によって、皮膚への侵害刺激が加わったか めることはできなかった。一方、心肺運動負荷試 否か、また虚血性の痛みが加わっていたか否かに 験においては、高強度運動時に VE、VO2 の亢進 ついて被験者からの回答は得ていない。しかしな が認められた。しかしながら、この要因について がら、VT120 時では負荷強度が高いために筋収 はわからなかった。今回は、健常者を対象として 縮時の筋内圧上昇による血流遮断の程度が高く、 下腿部のみの弾性ストッキング装着の効果を検討 筋弛緩期においても弾性ストッキング着用による したが、今後は、対象者、圧迫を行う範囲等につ 圧迫圧の影響で血流が十分に確保されずに、虚血 いて条件を変えて検討することが望まれる。 ● が進行しやすい状況であった可能性が考えられよ う。 ● 謝 辞 本研究では、下腿部の弾性ストッキング装着に 本研究を進めるにあたり、財団法人明治安田厚生事業団 より静脈血液量が減少する結果、これに起因した から研究助成を賜りました。ここに深く感謝申し上げます。 (31) また、データ収集にご協力いただいた宮田聖子博士、水野 華子氏、中村達也氏に御礼申し上げます。 参 考 文 献 1)Belcaro G, Geroulakos G, Nicolaides AN, Myers KA, Winford M(2001) : Venous thromboembolism from air travel: the LONFLIT study. 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