富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) Web による履修登録システムの構築と運用 −ウェブデザインから DBMS、運用体制まで− Construction and Management of a Class Registration System on the Website - Web Design, DBMS and its System Management - 吉牟田 裕 YOSHIMUTA Yutaka 1.富山国際大学の情報システムの沿革 1.1 事務系システムの概要 筆者の勤務する富山国際大学は、人文社会学部・地域学部の二学部を擁し、各学部とも 1 学年 の定員が 200 名、総定員 1600 名の人文・社会系の私立大学である。近年、私立大学の経営環境 は少子化の進行により厳しさを増しており、教育をサポートする教務事務においても、効率化が 求められている。 富山国際大学は 1990 年に人文学部 1 学部をもって開学した (2000 年に再編して人文社会学部)。 開学からしばらくは学生・卒業生数が少なかったためか、教務事務の IT 導入による効率化は遅 れ気味であった。1990 年に学校法人の給与システムが、1992 年に会計システムが導入されて稼 動している。このほかに、図書館の図書管理システムも開学当初から稼動していた。 教務事務はパーソナルコンピュータ上のスプレッドシート上に構築され、学籍・科目・成績な どが管理されていた。管理システムはスプレッドシートマクロによって構成され、教務事務員が 作成・保守にあたっていた。 2000 年に地域学部の新設と人文学部から人文社会学への再編があり、学生と卒業生の増加によ る教務事務の増大が予想されたことから、1999 年よりデータベース管理システムをベースとした パッケージソフトが導入され、今日に至っている。 1.2 学内 LAN の概要 富山国際大学は、開学当初より情報化に対応する人材の養成を謳っていたが、学内ローカルエ リアネットワーク (LAN) の整備は開学よりかなり遅れた。 1995 年、教育用のコンピュータシ ステムの更新に当たり、インターネットが導入されたことが学内 LAN 整備の端緒となり、コン ピュータ教室と研究室の一部に LAN が構築された。 - 111 - 富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) 2000 年に全学規模のネットワークが導入され、全研究室と半数以上の教室、事務室がネットワ ークで結ばれた。また、高速・大容量のファイルサービスシステムや、学内/外へのウェブサービ スシステムが構築され、事務−教員−学生間の IT 利用の基盤が整備された。 2.教務システムの現状 現行の教務システムは、DBMS サーバと 2 台のクライアントから構成されている。外部からの 侵入を避け、プライバシーを保護するために学内 LAN とは接続されない独立したネットワーク を形成している。 DBMS は業務用の SQL DBMS として定評のある 日本 Oracle の ”Oracle 8.0.5” が用いら れている。この DBMS のハンドリングを行うアプリケーションとして、日本システム技術のパ ッ ケ ー ジ ソ フ ト 学 校 事 務 支 援 統 合 シ ス テ ム “GAKUEN version 2.2” が 用 い ら れ て い る。”GAKUEN” はクライアントサイドで動作する。 富山国際大学では、”GAKUEN” の機能のうち入試システムおよび教務システムを導入してい る。入試システムについては概略を示す。入試システムは「問い合わせ管理」から「志願者受付」、 入学試験の「成績管理」および「合否判定」、「入学手続き」を経て「新入生管理」に至る機能を 有し、教務システムへと連結している。 教務システムは、学生の入学・退学・休学など「学籍管理」機能と、カリキュラム管理機能群 に大別される。カリキュラム管理機能群は、時系列順に次の各機能を有する。 z カリキュラム編成 z 時間割編成 z 履修登録 z 成績管理 z 卒業・進級判定 これらの機能のうち、履修登録においては学生が選択した授業を登録する必要がある。また、 成績管理においては各授業の採点を登録しなくてはならない。いずれも、教務システムへの登録 に際しては、量的に膨大であるだけでなく、学生の進級・卒業などに関わる重要なデータである ため、正確な入力が必要である。 2000 年以前のスプレッドシートを利用した教務システムでは、履修登録は学生の提出した履修 登録票を転記することによって行っていた。”GAKUEN” システムでは OCR または OMR から の入力が可能である。現在、採点の登録については OCR による入力を行っているが、読み取り ミスが発生し、入力後の読み合わせ確認が必須となっている。 履修登録と成績入力のうち、履修登録を Web ページから学生に行わせることにより、教務事 務のボトルネック解消を試みた。 3.Web による履修登録システム 履修登録システムは 1997 年前期より導入された。2002 年前期までは、HTML / JavaScript に よってユーザインターフェースを構成し、サーバへのデータ登録には perl による CGI プログ - 112 - 富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) ラムを用いていた。2002 年からは、ユーザインターフェースを Java アプレットに、データ登録 を CGI プログラムに変更した。各システムの概要を述べる。 3.1 1997 年前期 ∼ 2002 年前期 (1) 学生認証 学生の認証は、HTML サーバの認証機能を用いた。このため、履修登録専用のユーザ名とパス ワードのセットを必要とした。パスワードは暫定パスワードを各学生に割り当てた。このパスワ ードはとくに学生間では推測が容易なものであったため、パスワード変更機能を備えるとともに、 可及的速やかに独自のパスワードに変更するように指導した。 (2) Web デザイン Web ページはフレームによって 3 分割した。上部フレームには、フォーム機能により「パスワ ード変更」「保存」「印刷」「ヘルプ」「終了」のボタンを設けた。下左部フレームは時間割の表示 部で、表内にフォームのテキストエリアを配置した。 下右部フレームはシステムによって表示が遷移する。初期には「ヘルプメッセージ」が表示さ れ、使用方法を示す。下右部の時間割のコマをクリックすると授業選択表示になり、当該コマに 開設されている授業の一覧が表示され、チェックボックスによる選択が可能となる。パスワード 変更モードでは、現在のパスワード、新しいパスワード(とその確認)フィールドへの入力を促す表 示となる。保存モード、印刷モードでも適宜表示が切り変わる。 (3) CGI プログラム CGI プログラムは、時間割配置データと履修登録データを合成して左下部フレームを表示する 「時間割表示」プログラムと、 「パスワード変更」 「保存」 「終了」の各ボタンに対応したプログラ ムから構成される。「時間割表示プログラム」を除き、右下部フレームに実行結果が表示される。 (4) JavaScript プログラム Java Script プログラムは、「ヘルプ表示」や「印刷」機能を担う簡単なプログラムのほかに、 時間割表のコマのクリックによって右下部フレームにそのコマに開設授業一覧を表示する機能と、 その一覧のチェックボックスをクリックすることによって時間割表のコマに授業時科目・担当教 員などを表示するアクション処理に用いられている。これらのアクションを CGI として処理す ることも可能であるが、サーバ=クライアント間の通信が頻繁に発生することから、JavaScript に よるローカルな処理を採用した。 3.2 2002 年後期以降 (1) 学生認証 2002 年後期以降のシステムでは、Java アプレット化を図るとともに、サーバのデータアクセ スのプロトコルとして FTP を採用した。富山国際大学では、UNIX ベースのシステムに全学生 を登録しており、メール・ファイルサービスなどを提供している。したがって、各ユーザは FTP サービスも利用可能である。学生の認証にも FTP のユーザ認証を用いることとした。以前のシ ステムでは、UNIX ベースのサービスのパスワードと履修登録システムのパスワードが異なり、 学生に混乱が見られたが、FTP サービスを利用することによりこれらのサービスと履修登録のパ - 113 - 富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) スワードが統一された。 (2) Web/アプレット デザイン 全ユーザインターフェースを Java アプレットへ移行したため、HTML ベースの Web デザ インとしてはページのパディング・マージンを廃してアプレットが全画面を覆う単純なデザイン となっている。 アプレットのデザインは、以前のシステムを踏襲した。ただし、上部フレームはツールバーに 移行した。また、学期中に行われる通常の授業と集中講義の表示をタブを用いて別表示とした(図 1)。 (3) Java プログラム Java プログラムは、基本的に FTP クライアントであり、アプレット起動時に授業設定ファイ ルと個人設定ファイルを受信する。これらの情報を統合し、時間割および集中講義の表示を行っ ている。 図 1. 2002 年後期以降の履修登録 Web - 114 - 富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) 4. システムの問題点 4.1 セキュリティ 現在の履修登録システムは、FTP クライアントとして動作している。このため、セキュリティ のレベルは FTP サーバ/クライアントのセキュリティレベルに依存する。 履修登録に利用される FTP サーバは、富山国際大学の学内ネットワーク(イントラネット) か らのアクセスしか認めていない。このため、インターネットから侵入し、履修登録データの消去・ 改竄に対しては安全といえよう。 また、学生の個人設定ファイルは学生がオーナーとなり、本人以外のアクセスを許していない。 少なくとも FTP サーバの認証のレベルで個人情報は保護されている 4.2 インターネットからの登録 現在の履修登録システムは、FTP サーバへのイントラネットのみにアクセスを制限している。 しかしながら、とくに前期の履修登録の時期に就職活動が活発化する 4 年生を中心に、自宅など からインターネット経由で履修登録をしたいという要望が寄せられている。 富山国際大学では授業用のコンピュータ室 4 室があり、学生用のパーソナルコンピュータが全 部で 120 台設置されている (ただし、これらを授業中に履修登録に使用しないように指導してい る)。また、図書館メディアコーナーには、授業中の使用制限のない 20 台のパーソナルコンピュ ータが設置されている。履修登録期間の末には、これらのコンピュータの使用状況が混雑するこ ともあり、インターネット経由での履修登録は混雑の解消にも役に立つと予想される。 一方、FTP サーバのセキュリティレベルでは、パスワードや履修登録データがインターネット に漏洩する可能性がある。したがって、インターネットからの履修登録する場合には、使用する プロトコルを FTP から ssh/sftp などに切り替えるか、独自のプロトコルによって暗号化するこ とが必要となるだろう。 4.2 学生の登録ミスの防止 学生が履修登録したデータは、集計され教務事務の “GAKUEN” システムに入力される。学生 の入力ミスは、”GAKUEN” にデータが入力された時点で発見される。入力ミスとしては、重複 履修が最も多く、履修年次の誤りがそれに続く。これらの入力ミスは、”GAKUEN” システムに よって印刷され、学生に配布される。学生は履修修正登録期間中に、教務事務の窓口で修正を申 告するようになっている。 重複履修ミスを防ぐには、履修登録システムに取得済み単位の情報を組み込むことにより可能 である。また、履修年次の誤りは、学生の年次の情報と授業の標準履修年次の情報を組み込むこ とで可能である。標準履修年次情報はともかく、取得済み単位の情報と年次情報は学生の個人情 報であり、セキュリティに注意しつつ、学生・教務事務の利便性を兼ね備えたシステムを構築す る必要があるだろう。 5. 教務事務における Web 利用の展望 教務事務における履修登録に次ぐボトルネックは成績処理である。前述のように、成績処理は - 115 - 富山国際大学地域学部紀要 第 4 巻(2004.3) OCR によって行われているが、読み取りミスによる読み合わせが不可欠となっている。 “GAKUEN” システムでは、成績データの CSV ファイルからの入力機能があり、教員の採点段 階からオンライン化を図ることができる。 成績処理は、履修登録以上に重要な個人情報である。したがって、Web システムに組み込む場 合には、高いセキュリティが要求される。一方で、成績処理には正確さも要求されるため、Web 利 用も視野に入れた効率的で採点のしやすいシステムの構築が必要である。 富山国際大学での教務事務では、履修登録のほかに、休講情報の入力補助システムが稼動して いる。セキュリティを考慮しつつ、利便性の高いシステムの構築が期待される。 参考文献 (1) 吉牟田 裕、WWW ホームページを用いた履修登録の試み、平成 9 年度情報処理教育研究集 会講演論文集(1997)、413-416 - 116 -
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