茨城県におけるメタボリック症候群の現状

○ 地域貢献研究
T-5
研究課題「茨城県におけるメタボリック症候群の現状―脳卒中など
生活習慣病の地域に根ざした予防対策の研究―」
○ 研究代表者 医科学センター教授 山口直人
○ 研究分担者 放射線技術科学科講師
石森佳幸、同准教授
作業療法学科 准教授 鈴木孝治、人間科学センター教授
同准教授 大瀬寛高、医科学センター助教
門間正彦、同教授
石川演美、
岩井浩一、付属病院講師河野豊、
上野友之、同講師 山川百合子
○ 研究年度 平成 19 年度
○ (研究期間)平成 18 年度~20 年度(3 年間)
1. 研究目的
本学付属病院入院脳卒中患者の診療録を対象とし、メタボリック症候群および同関連危険因子
の現状把握、病態との関連性の解析を行い、もって脳卒中の 1 次、2 次予防の手がかりを得る。
その考察には、関連基礎医学研究の成果や文献的検索結果を活用し、地域貢献としての本学研究
諸活動の今後の研究の方向性を検討する。
2. 研究方法
1) 昨年作成したデータベース対象項目に基づいたデータ収集、解析を開始する。
2) 研究サブグループごとの研究を推進する。
3. 研究成果
1) 共通データベース作成(山口)
登録された脳卒中患者(H18 年 4 月~H19 年 10 月)は 53名(男性 33 名、女性 20 名)
。年
齢
58.4±12.0(平均±標準偏差)才、高血圧症 42 名、糖尿病(DM)22 名。
2) 研究サブグループ活動
(1) 内科・神経内科グループ(上野、河野、大瀬、山口)
①付属病院患者データベースの解析
糖尿病群(以下 DM 群)は非 DM 群に比較して、高
感度(hs)CRP 高値、中性脂肪高値の傾向が見られた。因子間の相関では、中性脂肪と早朝空
腹時血糖、中性脂肪と hs-CRP、BMI と HDL にはそれぞれ正相関(または傾向)、Hs-CRP と
HDL には逆相関傾向がみられ、炎症指標(hs-CRP)と脂質代謝異常との関連が示唆された。
また入院時収縮期血圧(最高値)と hs-CRP には逆相関(または傾向)が見られ、拡張期血圧との
間には相関関係が見られず、収縮期・拡張期の各血圧値と炎症指標との関係は異なることが示唆
された。予防策に関連して、脳卒中の臨床的再発者 4 名、画像所見上の再発者(陳旧性病変を
有する症例)18 名、降圧薬等自己判断での中止例 3 名、検診での異常値の放置 2 名(いずれも
カルテ記載より)などから、検診結果の活用や内服薬に対する住民理解の重要性も示唆された。
②動物実験の解析
全身性炎症を惹起するリポ多糖(LPS)の全身投与による多臓器障害モデ
ルラットを作成した。肝臓では好中球浸潤、細胞壊死などの肝炎所見、GPT 上昇、肝エンドセ
リン(ET)増加等を認めたが、血液凝固関連物質 PAR の拮抗薬投与にて、いずれも抑制された。
心臓細胞モデル(培養系)では、心不全をもたらすと考えられる ET 投与による心筋細胞肥大が、
ET 受容体拮抗薬、内皮細胞由来増殖因子(VEGF)中和物質などにて抑制された。
③運動、筋肉と生命予後との関係(文献検索)
臨床研究においては、運動トレーニングによ
る筋肉量増加と、臓器・生命予後改善との強い関連性を示唆する文献データが集積しつつあり、
現在普及している内臓脂肪量のみならず、筋肉量や筋肉内脂肪の指標としての有用性が示唆され
た。陸上運動との比較における水中(プール)運動などのリハビリ効果の有用性も多数報告され
ており、病院施設の一層の活用も検討課題と考えられた。
以上より、臨床、基礎の両研究において、メタボリック症候群の中心病態である血管内皮細胞
障害と、血液中の炎症指標、脂質代謝、糖代謝異常、血液凝固異常、内皮細胞由来血管作動性物
質(ET、VEGF など)等との綿密な関係が示唆されており、それらの各指標は、臓器・生命予
後と高い相関性を有することが示唆された。
(2) 精神科グループ(山川)
本年は予備的研究として糖尿病に焦点をあてて、糖尿病が心理面を含めたリハビリアウトカム
に与える影響を検討した。
【方法】2002 年 5 月から 2004 年 2 月までの 21 ヶ月間に本学付属病
院回復期リハビリ病棟へ入院した脳卒中患者の 190 例のうち、意思の疎通困難例 54 例を除外し
た 136 例を対象とした。糖尿病群 31 例と非糖尿病群 105 例について、臨床的背景やリハビリ前
後での SDS(うつ病)
、FIM(ADL)、QUIK(QOL)の変化を検討した。また退院時のリハビリ
アウトカムへの影響を与える因子をロジスティック回帰分析により解析した。【結果】糖尿病群
は非糖尿病群と比較して年齢、性、病変則、脳卒中タイプで有意差はなかった。またリハビリ前
後で糖尿病群と非糖尿病群では SDS および QUIK の変化には有意差が認められなかった。リ
ハビリアウトカムに影響を与える要因として有意なものは、入院時 FIM 運動項目(オッズ比
1.2)、糖尿病の有無(オッズ比 0.04)だった。
【総括】糖尿病の有無で SDS や QOL は変化しな
いが、回復期リハビリのアウトカムに影響することが示唆された。
(3) 放射線診断グループ(石森、門間、岩井)
現行の内臓脂肪測定の画像診断法は CT 撮影法であり、放射線被爆、CT 値の信頼性、脂肪組
織と内臓組織との混在などの問題がある。我々は既に MRI 撮影法を用いた脂肪抑制法による画
像間の信号差を利用した脂肪組織の面積測定法にて、皮下脂肪、内臓脂肪の優秀な画像に関する
データを集積中である。更に筋組織との対比、データベース化された各種血液検査所見との対比
などを進めている。
(4) 作業療法グループ(鈴木)
本学付属病院入院患者を対象として、日常医療行為の一環として、脳卒中発症後の軽度意識障
害の中核症状である注意機能障害の検査を進行させている。脳卒中発症前、入院時、および退院
時などの注意障害指標の推移と、メタボリック症候群関連の各危険因子との関連等について、研
究を継続中である。
4. 考察(結論)
メタボリック症候群の病態・合併障害は多彩であり、運動習慣、生活習慣とも密接な関係を有
するため、その早期発見、治療の開始・継続には、本学の学科横断的な協力による基礎、臨床、
社会的な各医療科学の連携が重要であることが明らかとなった。公立大学ならではの学際的研究
の継続とその成果に基づく地域への還元が重要であると考えられる。
5. 成果の発表(論文・学会)
・Shimojo N/Yamaguchi N/Hattori Y et al. Contributory role of VEGF overexpression in
endothelin-1-induced cardiomyocyte hypertrophy. American J Physiol Hear Circ Physiol
2007; 293: H474-81.
・Jesmin S, Zaedi S/Yamaguchi N/Miyauchi T. Endothelin antagonism normalizes VEGF
signaling and cardiac function in STZ-induced diabetic rat heart. American J Physiol
Endocr Metab 2007; 292: E1030-40.
・ 大瀬寛高、上野友之、河野豊/山口直人、永田博司、小国英一 筋萎縮性側索硬化症の呼吸
機能評価 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2007; 17: 76-78
・ 新井雅信、山川百合子:脳卒中後うつ病の予防の可能性.成人病と生活習慣病
2007;37:
472-476
・山川百合子、佐藤晋爾、新井雅信: 地域リハビリの課題:回復期リハビリ病棟の退院をめぐ
る脳卒中後うつ病. 第 30 回日本プライマリケア学会 (宮崎) 2007 年 5 月
・佐藤晋爾、山川百合子、朝田隆:脳卒中後うつ病(Post Stroke Depression)と脳卒中後のアパ
シーは関連性があるか?第 4 回日本うつ病学会(札幌)2007 年 6
・ Mowa CN, Jesmin S,/ Yamaguchi N, Gando S. Chronological expression of endothelin-1
and TNF-alpha in acute liver injury and its amelioration by PAR2 blockade in a septic
model. FASEB experimental biology 2007 meeting, Washington DC, USA, 2007.
・Iemitsu M, Sohel Z, Otsuki T, Yamaguchi N/ Hattori Y. VEGF signaling is disrupted in the
heart of mice lacking estrogen receptor. 第 71 回日本循環器学会総会(神戸)2007.