法人税の分類と二元的所得税 ∼マーリーズレビュー「Dimensions of Tax Design」第9章、第10章と絡めて∼ 2009年5月22日 みずほ総合研究所 主任研究員 鈴木 将覚 現行法人税の問題点 ○現行の法人税 T = τ ( R − δK − rB) 変数: Tは税額、 τは法人税率、 Rは企業収益(粗利)、 δは税務上の減価償却率、 Kは資本ストック、rは安全利子率(機会費用)、Bは負債を表す。 ○現行の法人税(利潤型法人税)には、次のような問題がある。 ①投資に悪影響を及ぼす。 ②負債調達を株式調達よりも優遇する(株式投資に対する二重課税)。 ③内部留保を新株発行よりも優遇する(内部留保により課税が繰り延べられる)。 ④非法人形態を法人形態よりも優遇する。 1 現行法人税の問題点(続き) ○4つの代表的な「抜本的な」法人税改革案のうち、投資に対する中立性が確保されるのはキャッ シュフロー法人税とACE法人税(図表1)。 図表1 抜本的な法人税改革案 株式の収益全体 (正常収益+超過収益) ○現行の法人税 課税ベース 株式の超過収益 (1)キャッシュフロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 (2)ACE 制度を持つ法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 株式と負債の収益全体 (3)CBIT ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 (4)二元的所得税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態(部分的に) (資料)Devereux and Sorensen (2005)を参考に、みずほ総合研究所作成。 2 キャッシュフロー法人税の特徴 ○特徴:設備投資が即時償却される。RベースとR+Fベースがある(図表2)。 税額: T = τ ( R − I ) ○中立性 ①投資に対する中立性(○):「正常収益」ではなく「超過収益」のみに課税する。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○): Rベース:実物取引のみが課税対象となり、支払利子控除が認められない。 R+Fベース:支払利子控除が借入金の返済額とともに認められるものの、一方で借入金そのも のが課税ベースに加えられるため、実質的に支払利子控除が排除される。 図表2 キャッシュフロー法人税の課税ベース(ミード報告) キャッシュの流入 実物取引ベース 実物・金融取引ベース 資本取引ベース (R base) (R+F base) (S=R+F base) ・製品、サービスの売上。 ・製品、サービスの売上。 ・株式の買い戻し。 ・固定資産売却。 ・固定資産売却。 ・配当支払。 ・借入金の増加額。 ・受取金利。 キャッシュの流出 (マイナス項目) ・原材料費。 ・賃金。 ・固定資産購入。 ・原材料費。 ・賃金。 ・固定資産購入。 ・借入金の返済額。 ・支払金利 (資料)Auerbach et al. (2007)を参考に、みずほ総合研究所作成。 3 ・新株発行。 ・配当受取。 キャッシュフロー法人税の特徴(続き) ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):配当・キャピタルゲイン税がなければ、中立性が保 たれる。配当・キャピタルゲイン税がある場合は、キャピタルゲインの実現の遅れ(「ロックイン 効果」)には対処できない。 ④組織形態に対する中立性(○):中立性が確保される設計が可能。 ○問題点 ①課税ベースが縮小し、税率が高まる。開放経済下で問題。 ②導入当初は「古い」投資への課税が大半。資本集約的な企業に打撃。 ③リスクに対して中立的な税制にするためには、負の税負担を認めなければならない。 4 ACE法人税の特徴 ○特徴:ACE (Allowance for Corporation Equity)法人税では、株式調達にも「支払利子控除」に 相当する「株式控除」(Equity Allowance)が設けられる。 T = τ [R − δK − ρ ( K − B ) − rB] ○税額: (但し、ρは株式にかかる帰属利子率) (ρ=rのとき) T = τ [R − ( r + δ )K ] ○(a)株式控除が認められること、(b)資本減耗率と減価償却率の乖離によって生じる投資の歪み が株式控除によって排除されることで、投資に対する中立性が確保される。 図表3 株主基金と株式控除の計算 ○株主基金の価値= 資金の流入(+) ・前期の株式基金 ・前期の課税所得(株式控除を含む) ・他社からの配当受取 ・純新株発行額 資金の流出(−) ・税額 ・配当支払 ・他社の純新株取得 ○株式控除=株主基金×帰属利子率 (資料)IFS (1991)より、みずほ総合研究所作成。 5 ACE法人税の特徴(続き) ○中立性 ①投資に対する中立性(○):前述のとおり。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):「株式控除」が設けられる。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):配当・キャピタルゲイン税がなければ、中立性 が保たれる。配当・キャピタルゲイン税がある場合には、「ロックイン効果」は回避されない。 ④組織形態に対する中立性(○):中立性が確保される設計は可能。 ○問題点 ①株式にかかる帰属利子率の計算が困難。 ②課税ベースが縮小し、税率が高まる。開放経済下で問題。 6 CBITの特徴 ○特徴:CBIT(Comprehensive Business Income Tax、包括的事業所得税)は、米財務省が1992 年に提案した法人税。 「支払利子控除」が廃 止される。 ACE制度における「株式控除」の設 定と対称的。 ○税額: T = τ [R − δK ] 図表4 現行税制とCBIT 現行税制 企業 株式 課税 非課税 負債 株式保有者 課税 国内投資家 課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 投資 ○統合の特徴 ・ 基本的な考え方は、利子と配当に対する課税 を全て企業段階で済ませ、一度きりの課税を 行うこと(図表4)。 ・ 配当には、EDA (Excludable Dividend Account, EDA)が設定され、 そこから支払われる配当に は個人段階で課税されない。利払いも、EDAを 上限として個人段階では課税されない。 例:課税前収益が100、法人税率が30%のとき、 100−30=70ドルがEDA勘定に計上される。 非企業 株式 非課税 負債 CBIT 企業 株式 課税 課税 負債 負債保有者 課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 株式保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 投資 非企業 株式 課税 負債 (資料)U.S. Department of the Treasury (1992) 7 株式保有者 課税 国内投資家 課税 外国人投資家 課税 非課税主体 株式保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 負債保有者 非課税 国内投資家 非課税 外国人投資家 非課税 非課税主体 CBITの特徴(続き) ○中立性 ①投資に対する中立性(×):所得税改革であるため、「正常収益」に課税する。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):「支払利子控除」の廃止によって、企業段階で利 子が課税される。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):内部留保に対応するキャピタルゲイン税は、配 当再投資プラン(Dividend Reinvestment Plan, DRIP)によって回避される。企業はEDAを上 限とするみなし配当を宣言し、そこから再投資される分についてはキャピタルゲイン税が課 されない。 ④組織形態に対する中立性(○):法人税率を個人所得税率の最高税率と等しくすることで中 立性が確保される。 ○問題点 ①投資に対する中立性が確保されない。 ②移行期に企業の負債コストが上昇し、倒産が増加する。 8 二元的所得税の特徴 ○特徴:二元的所得税(Dual Income Tax)は、所得を勤労所得と資本所得の2つに分けて課税する 北欧型の課税方式(図表5, 6) 。 図表6 ノルウェーの二元的所得税 図表5 二元的所得税(概念図) ①課税ベース、 ・賃金や利子所得、配当所得、持家の帰属家賃等が全て 税率 合算され、そこから各種控除を差し引いて課税所得(通 常所得と呼ばれる)が計算される。 ・通常所得の計算からは、人的控除、負債利子やキャピ タルロス等が控除される。 ・通常所得に、28%の一律税率が課される。 ・一定限度を超える勤労所得に対しては、累進税率が課 される。この部分については控除が適用されない。 (資料)森信 (2002)より転載。 ②配当とキャ ピタルゲイン に対する二重 課税の排除 ・完全インピュテーション法によって、法人段階と個人 段階で行われる配当に対する二重課税が回避される。 ・RISK法によって、法人段階と個人段階で行われるキャ ピタルゲインに対する二重課税が回避される。 ③自営業者、 オーナー企業 の所得分割 ・資本ストックに帰属収益率を乗じることによって資本 の帰属収益が計算され、それを事業所得全体から引いて 帰属勤労所得が計算される。 (資料)みずほ総合研究所作成。 9 二元的所得税の特徴 ○Cnossen (2000)が考える純粋な二元的所得税には、「資本所得に対する一律の源泉課税が、企 業段階で行われる」という条件が加えられる(図表7) 。 ○税額: (CBITと同じ) T = τ [R − δK − rB ] + τrB = τ ( R − δK ) 図表7 純粋な二元的所得税 ① 【2 種類の所得】あらゆる所得が資本所得か勤労所得に分けられる。資本所得には企業収益、 配当、キャピタルゲイン、利子、家賃等が含まれ、勤労所得には賃金、フリンジベネフィット、 年金所得、社会保障給付等が含まれる。 ② 【資本所得への一律課税と勤労所得への累進税率】基本的には、全ての所得が一律に課税され、 勤労所得については付加的な累進所得税率が課される。また、租税裁定を出来るだけ防ぐため に、勤労所得への最低税率と(法人所得を含む)資本所得への一律税率が等しく設定される。 ③ 【課税ベース】資本所得と勤労所得は全く別々に課税される方法と、資本所得と勤労所得が資 本所得税率によって共同で課税され、その後勤労所得に付加的な累進税率が課される方法があ る。後者の方法では、共同の基礎控除を設けることによって、勤労所得を負の資本所得によっ て相殺することが可能である。 ④ 【配当に対する二重課税】配当に対する法人段階と家計段階における二重課税は、完全インピ ュテーション法によって回避される。 ⑤ 【キャピタルゲインに対する二重課税】キャピタルゲインに対する法人段階と家計段階におけ ⑥ 【資本所得に対する源泉課税】資本所得に対する一律課税は、企業段階か、利子やロイヤリテ る二重課税は、内部留保による株価上昇を調整する仕組みにより回避される。 ィー等を支払うその他の経済主体の段階における源泉課税によって行われる。 ⑦ 【所得分割】自営業者やオーナー企業等の課税所得は、資本所得要因と勤労所得要因に分けら れる。資本所得要因は、企業価値に対する仮想的なリターンを利用して計算される。残差が勤 労所得とみなされる。オーナー企業は、経営者の保有株式割合等によって定義される。 (資料)Cnossen (2000)より、みずほ総合研究所作成。 10 二元的所得税の特徴(続き) ○中立性 ①投資に対する中立性(×):所得税改革であるため、「正常収益」に課税する。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(○):完全インピュテーション法によって、個人段階にお ける配当が非課税。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):RISK法によって内部留保に対するキャピタルゲイ ン税が非課税。 RISK法では、個別株主に帰属する内部留保が算出され、その分だけ株主が 保有する株式の評価額がその購入額から引き上げられる。これによって、内部留保を反映した キャピタルゲインが個人段階で課税されない。「ロックイン効果」は回避されない。 ④組織形態に対する中立性(△):資本所得税率が勤労所得税率よりも低く設定されるため、経 営者が自らの所得を勤労所得ではなく資本所得として受け取る誘因が働く。 ○問題点 ①投資に対する中立性が確保されない。 ②組織形態に対する中立性が確保されない。ノルウェーでは、能動的オーナー(active owner)が 受動的オーナー (negative owner)化し、実質的に所得分割制度が回避された。所得分割法(ス プリットモデル)の適用法人の割合は、92年の55%から2000年には32%に低下。 (注)能動的オーナーとは、株式の3分の2以上保有、または配当の3分の2以上を受け取る経営者。 11 2006年以降のノルウェー:個人段階での二重課税の調整 ○2006年から株主所得税 (Shareholder Income Tax, SIT)が導入され、インピュテーション法とRISK 法が廃止された。株式投資の超過収益に対して勤労所得並みの課税(図表8)。 帰属収益控除 (Rate-of-Return Allowance, RRA)によって、個人段階で二重課税が排除される(図表9) 。 ○課税ベースは、「配当+実現キャピタルゲイン−実現キャピタルロス−RRA」。 RRA=株式価値×(税引き後の)安全利子率。 ○課税ベース:(個人段階) T = τ [(1 − τ )( R − δK − rB ) − r(1 − τ )( K − B )] = τ (1 − τ )[R − ( r + δ ) K ] (統合) ←支払利子控除がなければCBIT+ACE T = τ ( R − δK ) + τ (1 − τ )[( R − ( r + δ ) K ] 図表9 法人税とSITの組み合わせの課税ベース 図表8 SITの税率 2006 年以降の二元的所得税 資本所得 勤労所得 (法人税+SIT) (株式投資収益) 法人段階 個人段階 計 28% ○法人段階:法人税。 約 48% 約 20%(注) 約 48% 0.28+(1−0.28)×0.28=0.4816 ○法人段階:ACE 法人税。 正常収益:課税。 正常収益:非課税。 超過収益:課税。 超過収益:課税。 ○個人段階:SIT。 約 48% (注)超過収益のみに課税。 (資料)みずほ総合研究所作成。 ACE 法人税+個人資本所得税 ○個人段階:資本所得税。 正常収益:非課税。 正常収益:課税。 超過収益:課税。 超過収益:課税。 (注)完全インピュテーション法及び RISK 法による。 (資料)みずほ総合研究所作成。 12 2006年以降のノルウェー:個人段階での二重課税の調整(続) ○中立性 ①投資に対する中立性(×):法人段階では通常の法人税。 ②株式調達と負債調達に対する中立性(△):個人段階で配当の正常収益が非課税。 ③新株発行と内部留保に対する中立性(○):SITでは、ある年に未使用であったRRAが翌年に持 ち越される。ある年に配当がRRAを下回る場合には、RRAから配当を引いた余剰分が翌年に 持ち越され、翌年にはその余剰分と翌年分のRRAの合計(ステップアップされたRRA)が控除さ れる。こうした仕組みによって、「ロックイン効果」が回避される。 ④組織形態に対する中立性(○):前述のとおり。 (注)Holding Period Neutrality:Mを株式の市場価値、Sを株式のベースとすれば、 Tt = τ ( M t − St ) Tt +1 = τ [M t +1 − (1 + i ) St ] より M − Mt Tt +1 = (1 + i )Tt + τ t +1 − i M t M t The retrospective tax (Auerbach, 1991) or the generalized cash flow tax (Auerbach and Bradford, 2001) 13 2006年以降のノルウェー:個人段階での二重課税の調整 ○問題点 ①投資を促進しない。個人段階の調整は、運営コストが高い。ACEの方がベター? →RRAは居住者のみ。ACEは外国人や非課税投資家にも適用されるため、税収減が大きい。 ②政府が次のような制約を受ける。τは法人税率、mは労働所得税の最高税率を表す。 τ + (1 − τ ) × τ = m こうした制約の下で、社会保障費増加に対応して勤労所得税率を引き上げると、資本所得税率 も引き上げざるを得なくなる。二元的所得税の利点が失われる。 14 Griffith, Hines and Sorensen (2008)(第10章)の提案 ○基本は、ACE+二元的所得税。 (1)所得課税案(二元的所得税案) ①資本所得は、勤労所得に対する最高税率よりも低い税率で課税。 ②法人税率を 、勤労所得に対する最高税率を 、資本所得税率を とすれば、 tL tc tr t c + (1 − t c ) × t r = t L ③個人事業主は、所得分割制度を利用。 ④キャピタルゲインの「ロックイン効果」は、Vickrey (1939)の方法により回避。 (2)消費課税案(株主所得税案) ①株主所得税:RRAによって正常収益が非課税。 ② t + (1 − t ) × t = t ③安全利子率を超える利子所得がある場合には課税される。 ④個人事業主は、所得分割制度を利用。 c c r L ○利点:ACE、非法人の事業所得の分割、株主所得税は、既に現実に適用済み。 15 開放経済下の資本課税 ○開放経済では、正常収益に対して課税しない場合でも、企業行動に影響が生じる可能性がある。 ①超過収益に対する課税が企業の立地選択に影響する。 ・ Location-specificなレント(immobileレント)に対する課税は、歪みを生じさせない。 例:天然資源、インフラ等。 ・ Firm-specificなレント(mobileレント)に対する課税は、投資を減少させる。 例:技術、ブランド力等。 ②法定税率がグローバル企業の収益分配に影響する。 ○直接税に関する国際課税主義 ①居住地主義(Residence Principle):自国企業の国内源泉所得のみならず、海外源泉所得に対 しても課税する。 ②源泉地主義(Source Principle):国内源泉所得のみが課税され、海外源泉所得は課税されない。 ○間接税に関する国際課税主義 ①原産地主義(Origin Principle):国内で生産された全ての財・サービスが課税される。輸出品は 課税され、輸入品は課税されない。 ②仕向地主義(Destination Principle):仕向地で消費される全ての財・サービスは、仕向地で課 税される。輸出品は課税されず、輸入品は課税される。 16 経済のグローバル化に対応する資本課税 ○開放経済では、法人税が克服すべき課題として、(①∼④に加えて)⑤国際的な企業立地 に関する中立性と⑥国際的な所得配分に関する中立性が加えられる(図表10)。 図表10 国際課税主義と課税ベースの違いによる法人税の分類 国際課税 主義 源泉地主義 株式の収益全体 (正常収益+超過収益) 現行の法人税(外国源泉所得を除 く) 課税ベース 株式の超過収益 源泉キャッシュフロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ACE 制度を持つ法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 居住地主義 居住地ベースの法人税 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 居住地ベースの株主課税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 仕向地主義 VAT 型仕向地主義キャッシュ フロー法人税 ①投資 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 ⑤国際的な企業立地 ⑥国際的な所得配分 (資料)Devereux and Sorensen (2005)を参考に、みずほ総合研究所作成。 17 株式と負債の収益全体 (正常収益+超過収益) CBIT ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態 二元的所得税 ②株式調達と負債調達 ③新株発行と内部留保 ④組織形態(部分的に) 居住地主義の法人税 ○「純粋な」居住地主義の法人税は、グローバル化に対応しやすい。しかし、実務上の困難が あり、現実的ではない。 ①法人の居住国を基準とする場合 利点:自国の税務当局は多国籍企業の世界所得を把握するだけでよく、どこで生まれた所 得かを特定する必要がない。 欠点:企業は移動性が高く、国際的な租税競争が生じる。また、英国に持ち株会社を持つ多 国籍企業があるとして、その企業が世界中で利益を計上しているものの、英国では活動 しておらず、英国で商品販売もしておらず、株主も英国に住んでいないとき、英国の税務 当局がこの企業に課税する根拠は薄弱である(Auerbach, Devereux and Simpson, 2007)。 ②個人株主の居住国を基準とする場合 利点:株主の居住国さえ特定できれば、企業所得が世界のどこで発生しようと株主への課 税額には影響しない。 欠点:税務当局にとって他国は管轄外であるため、世界中の税務当局の協力が必要。 18 VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税とは何か ○開放経済では、(1)、(2)式が成り立つ。 (支出面=所得面) C=W+R−I−X+M (1) (国際収支) (X−M+Rf)+(−If)=0 (2) Cは消費、Wは賃金(労働所得)、Rは企業収益(資本所得)、Iは投資、Xは輸出、Mは輸入、Rfは 海外からの純資本所得、 Ifは海外への純資本投資を表す。 ○(1)式と(2)式より、(3)式が成り立つ。 C=W+(R−I)+ ( Rf− If) (3) (消費=賃金+国内純キャッシュフロー+海外純キャッシュフロー) ○仕向地主義キャッシュフロー法人税は、 (3)式の「(R−I)+ ( Rf− If)」に課税する。これは、VAT の課税ベースから賃金(W)を引いたものに等しい。 19 VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税の特徴 ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税は、国内販売から国内生産者からの購入と賃 金を除いたものに課税する。課税ベースから控除されるのは国内中間財のみで、輸入中 間財は控除されない。一方で、輸出から得られる収益は非課税となる。 ○VAT型仕向地主義キャッシュフロー法人税の利点と欠点。 利点 ①国内市場の売上から生じる収益のみに対して課税するため、企業の国際的な立地選択 に影響を及ぼさない。 ②輸入中間財が控除されないため、海外子会社からの中間財価格を操作することによって 損金算入を拡大するインセンティブが生じない(企業の所得分配行動に影響しない)。 欠点 ①海外の消費者に帰属する超過収益が課税されない。このため、立地特殊性から超過収益 が発生し、その多くが輸出される場合、税務当局は大きな税収減を失う可能性がある。 ②製品が本当に輸出されるかどうか、また中間財が本当に輸入品ではなく国内生産品であ るかどうかを監視する必要がある。 ③ GATT / WTO協定において、輸出補助金と認定される可能性がある。 20 Auerbach, Devereux and Simpson (2007)(第9章)の提案 ○経済レントに対する源泉地主義課税の正当性は、そのレントがどの程度location-specificで あるかに依存する。 ○居住地主義課税は、実行可能性の点で問題がある。 ○真剣に検討すべき案は、仕向地主義のキャッシュフロー法人税である(ミード報告のflowof-funds taxの拡張)。金融サービス課税を含むR+Fベースが望ましい。 21
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