米国におけるプライベート・ブランド の展開と日本への

特集
Special Feature
米国におけるプライベート・ブランド
の展開と日本への示唆
神谷 渉
公益財団法人流通経済研究所主任研究員
1 はじめに
日本の食品・日用品業界では、プライベー
2 欧州と比較した米国の
PBの現状
米 国 の 調 査 会 社 で あ る IRI が 2013 年 10
ト・ブランド(PB)の比率が高まっており、
月 に 発 表 し た「Private Label -Balancing
今後もある程度拡大が見込まれる状況にあ
quality and value」によると(図表1)、米
る。一方、欧米では日本以上に PB が普及し
国の PB 比率は点数ベースで 18.8%、金額ベ
ており、欧米における PB の展開状況をベン
ースで 16.5%となっている。一方、ヨーロッ
チマークしながら PB の開発を行っている小
パ全体では、点数ベースでの PB 比率が 47.1
売業もある 。このようなことから、今後の
%、金額ベースの PB 比率が 36.7%となって
日本の PB の展開を考える上で欧米の状況は
おり、国別にみても PB 比率の最も高い英国
参考になるものと考えられる。
を筆頭にスペイン、オランダ、フランス、ド
1)
PB に関しては、欧米の中でも PB 比率の高
イツと続く 2)。このように、欧州と比較して
い欧州が PB 先進国といわれることが多い。
米国の PB の比率は低い状況にある。なお、
ところが、歴史的には米国も古くから PB を
日本の場合は PB 比率を 10%前後とするデー
展開している。米国において PB の歴史は古
タが多い 3) ことから、日本は欧米よりも低い
いが PB 比率は欧州並みには高まっていない
PB の普及状況にあるといえる。
という点では、欧州と異なる PB の進化を遂
げていると捉えることができる。
なおこのデータの興味深い点として点数の
比率と金額の比率の差がある。金額よりも点
日本の PB の展開を考える上で、業態によ
数の比率が高いが、これは相対的に単価の安
ってあるいは長期的な視点においては、欧州
い PB 商品が売れているということを示して
のような PB 比率の高い状況下を念頭に置く
いる。国別にみると、ドイツやフランスでは
必要がある。ただし、古い歴史を持ちながら
金額と点数の比率の差が大きく単価の安い商
も PB 比率が欧州ほど高まっていない米国の
品が売れていると考えられるが、英国や米国
状況は、PB 比率が欧米に比べて低い日本に
では、ドイツやフランスほどの比率の差は見
とっては参考となる部分も多いと考えられ
られていないのが特徴である。
る。そこで、本稿では米国における PB の特
また、同じく IRI が 2015 年1月に発表した
徴や動向を整理し、今後の日本の PB の展開
「Private Label &National Brands: Dialing in
を考える上での示唆を得る。
on Core Shoppers」によると(図表2)、米
国における PB の比率はほぼ横ばいの状況で
2015.5(No.514)
32
図表1
欧米におけるPB比率
70.0%
57.6%
60.0%
50.0%
47.1%
40.0% 36.7%
48.6%
34.3%
49.6%
48.0%
40.4%
36.0%
51.3% 51.1%
42.8%
30.0%
18.8%
16.5%
20.0%
10.0%
0.0%
PB⾦額シェア(2013年)
PB点数シェア(2013年)
出所:IRI(2014)より筆者作成。ヨーロッパのデータは、IRI Infoscan 2013年6月
末から過去1年データ(ハードディスカウンダー業態除く)、米国のデータは、IRI
MarketInsight 2013年6月14日から過去1年データ
図表2
米国におけるPB比率の推移
25.00%
20.20%
20.00%
16.20%
20.20%
16.60%
20.10%
16.50%
19.80%
16.60%
15.00%
10.00%
5.00%
0.00%
2011
2012
PB金額比率
2013
2014
PB点数比率
出所:IRI(2015)より筆者作成。IRI Consumer Network 2014年9月7日から過
去52週データ。Walmartは除く。
あり、PB 比率が高いにも関わらず拡大傾向
にある欧州とは異なっている。なお、直近の
2014 年の動向を見ると、PB 金額比率はほぼ
3 なぜ米国のPB比率は
高まらないのか
横ばいであるものの、PB 点数比率は減少し
米国の PB 比率は欧州ほど高くないのが特
ていることから、高単価な PB 商品の割合が
徴であるが、その理由として、次のようなこ
高まってきている状況が窺える。
とがいわれている。
特集 ● PB はどこまで成長するか
33
まず、Quelch and Harding(1996)は、ヨ
ーロッパにおける PB 比率の高さの要因とし
て広告規制の存在と小売業の上位集中度とい
い+の影響を与えているが、その影響度は
米国の方が強い」
✓「家庭での教育(商品知識の高さ)は PB
った構造的な要因に言及している。
欧州では、
比率に+の影響を与えているが、その影響
広告規制の存在によりナショナル・ブランド
度は米国の方がかなり弱い」
(NB)の広告投下総量が米国の水準に達して
✓「知覚品質のばらつきは PB 比率に-の影
ないことが PB の拡大を促したとしている。
響を与えているが、その影響度は米国の方
また、小売業の上位5社の売上の市場に占め
が強い」
る割合を英国と米国を比較した場合に大きな
開きがあり、欧州ではメーカーに対する小売
業の発言力が大きくなっていることが PB の
拡大につながっているという指摘である。
次に、米国におけるロビンソン・パットマ
✓「PB への親しみは PB 比率に+の影響を与
えているが、
その影響度は米国の方が強い」
✓「PB へのイメージは PB 比率に+の影響を
与えているが、その影響度は米国の方が強
い」
ン法の影響を指摘するものもある。大手 NB
✓「当該店舗への来店頻度は PB 比率に+の
メーカーが PB を作ると「同グレード、同ク
影響を与えているが、その影響度は米国の
オリティの商品を販売する場合、不当な価格
方が弱い」
差を設けてはならない」という同法に抵触す
✓「小売の上位集中度は PB 比率に+の影響
る 。1966 年にボーデン社によるアイスクリ
を与えているが、その影響度は米国の方が
ームの PB 製造が小売業に対する差別的対価
弱い」
4)
であり同法に抵触するとした最高裁の判例が
✓「PB のプロモーションが PB 比率に+の影
有名である。ただし、実際には、系列子会社
響を与えているが、その影響度は米国の方
の活用などによる逃げ道や PB 専業会社の台
が弱い」
頭もあり、PB 比率への影響は限定的であっ
たと考えられる。
以上の結果から、PB 比率に対する NB と
その他、積極的な広告投下から、NB に対
PB の価格差の影響は米国の方が強く、米国
する親しみや信頼性が高いことで PB の拡大
では PB が価格対応の商品として認識されて
を妨げているといった指摘もある。
いる可能性を指摘できる。同様に、イメージ
また、米国の PB 比率の低さを直接検証し
や親近感の影響が米国では強いことも、一般
たものではないが、PB 比率に与えると考え
的な PB が NB よりも下の商品としてみなさ
られ得る様々な要因について、PB 比率に与
れている可能性を示している。さらに家庭で
える影響、米国と米国以外でのその影響の違
の教育(商品知識の高さ)は、より賢い消費
い、過去との違い等を実証論文 54 本の分析
行動をもたらすと考えられるが、米国におい
により検証を行った最近の米国の研究があ
ては非常に低かったことから、PB 商品が NB
る 5)。
商品の賢い代替案となり得ていないことが考
これによると、米国と米国以外で PB 比率
に影響を及ぼす要素の強弱について、次のよ
えられる 6)。
米国では PB が一定以上の割合となると消
うな結論が得られている。
費者の支持を失う点といった議論も、上記で
✓「NB と PB の価格差の影響は PB 比率に弱
指摘したような PB に対する消費者の知覚の
2015.5(No.514)
34
問題であると考えると一定の説明がつく。
いものの、PB の比率については、チェーン
例 え ば PB の 祖 父 と も い わ れ る A&P は、
やカテゴリーにより異なる。米国においてチ
PB により競争力を失った事例としてしばし
ェーン別の PB 比率を発表している資料は近
ば取り上げられる。1936 年には 15 - 20%で
年ほとんど見られないが、Private Brands 誌
あった PB 比率は 1940 年までに 30%を超える
に掲載された 2011 年の食品小売業 PB シェア
に至ったが、PB を強調しすぎた品揃えや販
の推計値が存在する。これと、全米小売業界
促などにより、PB の店というイメージが定
(NRF)が発表するチェーンストアランキン
着し、NB を嗜好する消費者の離反を招いた
グの売上(2013 年)を対比したものが図表
とされている。同様にシアーズにおいても
3である。
PB を強調しすぎたために、1980 年代後期に
これを見ると、企業規模と PB 比率には上
は店舗の品揃えが不完全だという非難を浴
位企業の PB 比率が高いといった特定の関係
び、来店客数が落ち込んで利益をひっ迫した
は見られない。注目したいのは、圧倒的な
という 7)。このような事例も、PB を下位互換
売上を誇るウォルマートの PB の売上比率が
商品とみており、PB のみになってしまうと
相対的に低いことである。ウォルマートは、
下位互換商品のみになってしまうと消費者が
NB 品を EDLP により低価格で販売すること
感じたから起こった現象と考えられる。
で成長を遂げてきたこともあり、PB への参
入は後発であった。ウォルマートの PB 比率
4
がそれほど高くないことがアメリカ全体とし
チェーンやカテゴリーによって
異なる米国PBの状況
て PB 比率の高低に影響を及ぼしているもの
と考えられる。
米国は欧州に比べて PB 比率は相対的に低
一 方、 近 年 で は Aldi や Trader Joe's な ど
図表3
米国食品小売業の売上とPB比率
企業名
本社所在地
2013年米国内小売
売上(千ドル)
米国内小売
売上昨対比
2013年
店舗数
店舗数昨対比
2011年
PB比率
Wal-Mart
Bentonville, Ark.
$334,302,000
1.70%
4,779
4.60%
18%
Kroger
Cincinnati, Ohio
$93,598,000
1.60%
3,519
-1.80%
25%
Costco
Issaquah, Wash.
$74,740,000
5.20%
447
2.80%
24%
Target
Minneapolis
$71,279,000
-0.90%
1,793
0.80%
30%
Safeway
Pleasanton, Calif.
$37,534,000
-3.70%
1,335
-5.30%
23%
Publix
Lakeland, Fla.
$28,917,000
5.20%
1,273
2.80%
16%
Ahold USA / Royal Ahold Carlisle, Pa.
$26,118,000
1.10%
767
-0.60%
21%
H-E-B
San Antonio
$19,683,000
8.10%
311
0.30%
20%
Albertsons
Boise, Idaho
$19,452,000
432.70%
1,024
438.90%
15%
Delhaize America
Salisbury, N.C.
$18,817,000
0.10%
1,514
-2.50%
18%
Meijer
Grand Rapids, Mich.
$16,620,000
5.30%
202
2.00%
25%
BJ's Wholesale Club
Westborough, Mass.
$12,965,000
4.90%
201
2.00%
11%
Whole Foods Market
Austin, Texas
$12,491,000
10.30%
347
7.80%
15%
Aldi
Batavia, Ill.
$10,898,000
8.50%
1,328
5.40%
95%
Trader Joe's
Monrovia, Calif.
$8,350,000
6.40%
410
3.80%
80%
出所:NRF Stores100, Private Label, vol.34, no.1, 2012
注:ウォルマートは食品・日用品に限定。Albertson’
sはSupervaluの小売部門の吸収合併により売上、店舗数が大幅
に増加している。Albertson’
sのPB比率は合併前のSupervaluの小売部門のPB比率を採用している。
特集 ● PB はどこまで成長するか
35
PB 比率が9割と高い企業の成長率が比較的
高い状況にあり、差別化の手段としての PB
図表5
米国における階層別PBの展開状況
にも注目が集まっている。
前述の「Private Label &National Brands:
Dialing in on Core Shoppers」では、カテゴ
リー別の PB 金額比率も取り上げている(図
5%
1階層:バリュー
1階層:プレミアム
22%
11%
7%
表4)
。食品・日用品においてカテゴリーの
7%
9%
23%
PB 比率の状況を見てみると、
雑貨(ゼネラル・
マーチャンダイズ)やヘルスケア、
冷凍食品、
1階層:NBE
16%
2階層:NBEとバリュー
2階層:バリューとプレミアム
2階層:NBEとプレミアム
3階層
3階層よりも多階層
出所:Store Brands 2014年3月
冷蔵食品の PB 比率が高く、日用品・化粧品
の PB 比率が低い状況にある。食品に比べて
ヤーを対象にした PB に関する調査 8 による
日用品・化粧品の PB 比率が低いといった傾
と、回答者の 35.7%がプレミアムブランドの
向は日本と変わらないが、
ヘルスケアや雑貨、
展開に焦点をあてるとしており、これまでの
冷凍食品、冷蔵食品の PB 比率が高いのが特
調査に比べても極めて高い回答率であったと
徴となっている。
いう。
通常 PB 商品の品揃えや展開の検討を行う
図表4
際に、価格帯で3階層に分類して議論を行う
米国食品小売業の部門別PB比率
のが一般的である。3階層とは、プレミアム
店舗全体
19.80%
冷蔵食品
31.10%
雑貨(ゼネラル・マーチャンダイズ)
21.50%
バリュー(低価格帯)の3つである。Store
ヘルスケア
25.30%
冷凍食品
20.50%
Brands 誌の調査結果では、この階層の中で
加工食品
19.30%
飲料
13.60%
なお、同調査では、階層別の展開状況につい
ホームケア
10.60%
ても確認しており、その回答が図表5となっ
ビューティケア
9.30%
出所:IRI「Private Label &National Brands:
Dialing in on Core Shoppers」
(高価格帯)
、NBE(NB 同等品、中価格帯)
、
プレミアムの階層の強化を図る傾向にある。
ている。これを見るともっとも多い展開は、
NBE とバリュー2階層型の展開であり 23%
であった。これを見ても、小売業側としても
PB を NB の下位互換とみなして展開をして
5 米国におけるPBのトレンド
米国では、前述のとおり PB が下位互換の
いるということが言える。また、米国ではプ
レミアム、NBE、バリューいずれか1階層
での展開が3割強を占めており3階層などの
多階層がメジャーという訳ではない。
ブランドとして位置付けられており、NB を
なお、近年上記の3階層に加えて、特定の
代替するまでに至らなかった可能性を指摘
機能やテーマを訴求したニッチブランドも台
した。近年は、米国の PB においても高付加
頭している。同調査では、ニッチブランドを
価値型のブランドを強化する動きが出てい
強化すると回答した割合が 25% であり、こ
る。米国の PB 専門誌である Store Brands 誌
れまでよりも拡大傾向にある。
が 2014 年に実施した小売業と卸売業のバイ
米国におけるニッチブランドの成功事例と
2015.5(No.514)
36
しては、クローガーの Simple Truth がある。
実績等の情報が公表されておらず、強化の意
Simple Truth は、2012 年に立ち上げた食品
向も明示されていないことから、もともと低
の PB であり、
「ヘルシーリビング」をコン
価格業態防衛用に投入したブランドと役割を
セプトとしたラインである。アセスルファム
限定して割り切っているか、あまり好調とは
K をはじめ 101 の人工物質を含まない「クリ
言えない状況にあると考えられる。いずれに
ーン」な商品であることも売りにしているの
しても、米国の全般の状況としては低価格
が特徴である。
PB による競争からニッチブランドやプレミ
Simple Truth は健康志向を意識したライ
ンではあるが、オーガニック商品以外も含
アムブランドへの競争にシフトしてきている
といえる。
まれており、USDA のオーガニック認証を
取得しているオーガニック商品については
Simple Truth Organic というサブブランド
が存在している。
6 まとめと日本への示唆
なお、クローガーは既にプレミアム PB と
米国の PB の状況について、欧州ほど PB
し て Private Selection と い う ラ イ ン を 持 っ
比率が高まっていない状況を確認するととも
ており、NBE としてのクローガーブランド、
に、米国において PB の比率が高まらない要
バリューラインと3階層に対応している。
因、その可能性について既存の文献から確認
Simple Truth は、2012 年に立ち上げ 2014
した。米国において PB の比率が高まらない
年には 12 億ドル(約 1,400 億円)を売り上げ
要因については、従来からいくつかの視点が
るに至っており、消費者の健康志向を捉えた
提起されており、小売業の上位集中化との関
ニッチブランドの成功事例としてもしばしば
係や規制の影響などが指摘されている。また、
取り上げられる。
近年の研究から、欧州とは異なり、米国では
一 方、 ウ ォ ル マ ー ト は 2014 年 か ら Price
PB が NB の下位互換のブランドとして位置
First という新しい低価格 PB を本格導入し
付けられており、NB を代替するまでに至っ
た。2013 年 に 試 験 的 に 展 開 し て い た も の
ていない可能性を指摘した。
を拡大したものである。カテゴリーにおけ
一方、近年の米国での PB のトレンドを見
る最低価格帯として位置付けられるもので
ると、従来のバリュー型の PB の展開からプ
あ り、 ウ ォ ル マ ー ト の 主 要 顧 客 で あ る 低
レミアムブランドやニッチブランドの展開を
所得者層の変化に対応した PB といわれて
模索する動きが出ており、いくつかの成功事
い る。 米 国 版 生 活 保 護 プ ロ グ ラ ム で あ る
例が見られ始めている。このような動きが一
SNAP(Supplemental Nutrition Assistance
時的・局所的なものではなく、消費者の知覚
Program)の支給額削減が低所得者層の節約
を変化させていくようなトレンドとなれば米
志向に拍車をかけていること、また、これま
国における PB の比率や位置付けが欧州に近
で低価格を訴求し成功してきたウォルマート
づいていく可能性もあるだろう。
も、他の低価格業態であるダラーストアやハ
以上の点から、現在の日本の状況を捉える
ードディスカウンターとの競争が激化してい
と、欧州的な要素と米国的な要素とを内包し
たことが低価格 PB 投入の背景であるといわ
ている状況にあると考えられる。PB 比率が低
れている。ただし、Price First は導入以降、
い要因としては、米国と同様に小売業の上位
特集 ● PB はどこまで成長するか
37
集中度が低いことや、PB が NB の下位互換の
ブランドとして位置付けられており、NB を
代替するまでに至っていないといった点が影
響していることが考えられる。その点で PB
に関する日本と米国の状況は近いといえる。
ところが、近年セブンプレミアムなど大手
メーカーの製造を明記するタイプのPBの投入
により、PBの品質が担保されると消費者が知
覚することによってPBがNBの代替となりう
る可能性も出てきた 9)。さらに、小売業の再編
なども継続的に話題となっており、上位集中
化も進展しつつある。その点では、今後PBは
米国のように拡大せずに安定した水準で展開
していくのか、あるいは欧州のように拡大し
ていくかの分岐点にあると考えられる。
今 後 小 売 業 と し て PB を 強 化 す る 場 合 に
は、PB を NB の代替ブランドとして位置付
けてもらうことが重要である。代替可能なカ
テゴリーを識別し、そのカテゴリーを増やし
ていけるかどうかが鍵となる。NB メーカー
の企業名を製造者として PB に表示するだけ
ではなく、NB ブランドそのものを利用する
ケースも見え始めており 10)、このような方策
も PB を NB の代替ブランドとして位置付け
る有力な手段となっていくだろう。
一方で NB メーカーにとって、自社の NB
が PB に代替されないためには、メディアや
店頭など消費者に対する接点を増やすことで
NB に対するイメージを強化し、PB が下位互
換のブランドであると認識してもらえるかど
うかが重要になってくるだろう。
〈注〉
1) 例えば、 イオンはアメリカの PB 開発・コンサルティ
ング会社であるデーモンワールドワイドの日本支社を
合弁で設立している。 欧米の PB 開発のノウハウの
導入を狙ったものといえよう。
2) 高い PB 比率が特徴のハードディスカウンター業態が
PB 比率算定に含まれていないことから、 ハードディ
スカウンター業態が一定のシェアを持つドイツ等にお
ける実際の PB 比率はもっと高いものと推察される。
3) 例えば、 矢作(2014)では日本の PB 比率を7.5
%としている。
4) 富永満(1993)。
5) Sethuraman and Gielens(2014)。
6) Sethuraman and Gielens(2014)。
7) Quelch and Harding(1996)。
8) 2014 年1月に実施した調査であり、 158 社からの
回答を得ている。
9) NB の代替となりうるかは、 精緻な検証が必要であり
今後の検討課題である。ただし、メーカー名を記載
するPB への消費者の支持は高く、セブンプレミアム
以外の PBにおいてもメーカー名を記載するPBが増
えている点には注目しておきたい。
10)2015 年4月3日に発表された日本コカ・コーラとセ
ブン& アイ・ホールディングスの共同企画によるセブ
ンプレミアム×ジョージア 「ジョージア プライベート
リザーブ ブレンド」 の発売などはその象徴と言える
だろう。 今後も、 廃番となった NBブランドの PB へ
の利用など、 PBによるNB 資産の活用が増えていく
ものと考えられる。
〈参考文献〉
IRI(2014)“Private Label -Balancing quality and
value”, IRI Times and Trends.
IRI (2015) “Private Label &National Brands:
Dialing in on Core Shoppers”, IRI Times and
Trends.
Quelch, J. A., and D.Harding (1996) Brand Versus Private Labels: Fighting to Win, Harvard
Business Review, Vol.74, No.1, pp.99-109.
Sethuraman, R., and K.Gielens (2014) Determinants of Store Brand Share, Journal of Retailing, Vol.90, No.2, pp.141-153.
Steenkamp, J.B.E.M., and I.Geykens (2014) Manufacturer and retailer strategies to impact
store brand share: global integration, local
adaption, and worldwide learning, Marketing
Science, Vol.33, No.1, pp.6-26.
“Special Report: 2014 State of the Industry Research Survey”, Store Brands, Vol.36, No.3,
pp.42-48,79-80.
富永満(1993)「アメリカ流通最新事情」『国際商業』
1993 年5月27日号。
長島信一、 流通経済研究所(2013)『アメリカ流通概要
資料集 2013 年版』。
矢 作 敏 行 編(2014)『 デュアル・ブランド戦 略-NB
and/or PB』有斐閣。
2015.5(No.514)
38