PDFダウンロード

ライソゾーム病の主な症状
ライソゾーム病は複数の臓器・器官系に障害を与えるため、様々な症状がみられます。
ライソゾーム病に特有の以下の症状が現れた場合、より詳しい検査が必要となることがあります。
ライソゾーム病が疑われる特有の症状
ファブリー病
ゴーシェ病
ファブリー病患者の
渦巻き状角膜混濁
(提供:RL Abbott,MD)
ゴーシェ病患者の
骨髄浸潤
(Br J Radiol 2002:75
(suppl 1);A13-A24
より許可を得て転載)
ファブリー病患者臍部の
被角血管腫
ゴーシェ病の
脂質蓄積細胞
ムコ多糖症 I 型・II 型
(MPS I 型・II 型)
MPS患者の突背
(提供:米国MPS協会)
MPS患者の関節変形
(提供:米国MPS協会)
ポンペ病
(糖原病 II 型)
ライソゾーム病(LSDs)の
理解を深めるために
フロッピーインファント
を呈する乳児型ポンペ病
患者
筋力低下により起立時に
ガワーズ徴候を呈する
ポンペ病患者
ライソゾーム病の治療の進歩
近年、ライソゾーム病に関する研究が注目され、その治療法は目覚ましく進歩しています。現在で
は一部のライソゾーム病に対し、酵素補充療法による治療が可能となっており、他のライソゾーム
病についても研究が進められています。また、酵素補充療法以外の新しい治療法についても研究が
進められています。
よりよい治療のための
包括的アプローチ
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
1. Meikle PJ et al. Prevalence of Lysosomal Storage Disorders. JAMA 1999;281:249-254.
References
ます1。
ライソゾーム病全体の有病率は、新生児7700人に1人と推定されてい
と、複数の臓器系に影響を及ぼし、生命を脅かす可能性があります。
が分解されず、進行性に蓄積します。この蓄積が全身の細胞で起こる
ます。これらの酵素が欠乏すると、本来酵素によって分解される物質
(www.nanbyou.or.jp)で入手可能です。
確定診断が可能です。詳細な情報は、難病情報センター
ライソゾーム病が疑われる場合、酵素活性検査や遺伝子解析によって
の総称であり、現在では40種類を超えるライソゾーム病が知られてい
ライソゾーム病が疑われる場合
ライソゾーム病(Lysosomal Storage Disorders)は、細胞のライソ
ゾーム内にある特定の酵素が欠乏することにより発症する遺伝性疾患
ライソゾーム病 症状と有病率
ライソゾーム病
臨床症状と診断
ゴーシェ病
ファブリー病
ムコ多糖症Ⅰ型
ムコ多糖症Ⅱ型
ポンペ病(糖原病Ⅱ型)
監訳:東京慈恵会医科大学 小児科
主任教授 井田 博幸 先生
目次
1. ライソゾーム病の概要
5
2. ゴーシェ病
6
序文
6
臨床症状
6
診断
11
3. ファブリー病
12
序文
12
臨床症状
12
診断
15
4. ムコ多糖症Ⅰ型(MPS Ⅰ) 16
序文
16
臨床症状
16
診断
21
5. ムコ多糖症Ⅱ型(MPS Ⅱ) 22
序文
22
臨床症状
22
診断
25
6. ポンペ病(糖原病Ⅱ型) 26
序文
26
臨床症状
26
診断
29
7. 治療管理
30
8. 参考文献
32
1. ライソゾーム病の概要
現在では、
45 種類を超えるライソゾーム病
(Lysosomal
診断が遅れた患者や未治療の患者では、重大で非可逆的
Storage Disorders : LSD)が知られています。LSD 全
な障害や身体機能の低下、そして生命を脅かす合併症が生
体の発生率は新生児 5,000 人に約 1 人で 、臨床の現場で
じる恐れがあります。
1
遭遇する可能性のある疾患の 1 つです。
特定の症状が発症し、多臓器の障害を示す場合、原疾患
として LSD を疑う必要があります。しかしこれらの症状
LSD の発症機序はいずれも共通で、特定のライソゾー
は、初期の段階では軽度にみえ、また、より一般的な疾患
ム酵素(活性化タンパク質もしくは膜タンパク質)活性の
に類似した徴候や症状を示す疾患もあるため、適切な診断
遺伝子異常による欠損または不足です ²。
がされずに治療が遅れる場合もあります。
ライソゾームには、高分子をより小さな分子へと分解す
る複雑な代謝経路を担う酸性加水分解酵素が多く存在して
本書ではゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症Ⅰ型
います。小さく分解された分子は、細胞で再利用されるほ
(MPS Ⅰ)、ムコ多糖症Ⅱ型(MPS Ⅱ)及びポンペ病(糖
か、最終的に体外へと排出されます。
原病Ⅱ型)の臨床症状と診断について詳細に紹介します。
しかし特定のライソゾーム酵素の活性が欠損または不足
LSD のサブグループのうち、これら 5 種類の疾患とムコ
している場合、本来分解されるべき基質が進行的に蓄積す
多糖症Ⅵ型(MPS Ⅵ)については、現在、酵素補充療法
るため、正常な細胞活動が阻害され、細胞死に至ることも
が可能です。また、治療と管理についても考察します。
あります ³。
ライソゾームは 1955 年に発見され 4、1960 年代にそ
の役割が解明されました。
最初に LSD として認識された疾患はポンペ病(糖原病
Ⅱ型)です 5。1970 年代にはさらに多くの疾患が LSD と
確認され、原因となる酵素の同定と分類が開始されました。
LSD は欠損酵素や蓄積する基質に基づいてサブグループ
に分類されています 2。
LSD 患者に複雑な症状が生じることが確認されたのは古
く、1880 年代に遡ります。1900 年代初頭には、多くの
LSD に関する臨床症状が報告されています。LSD の基本
的な発症機序はいずれも共通ですが、LSD の症状をひとく
くりに説明することは困難です。これは、蓄積する基質の
種類やその蓄積によって影響を受ける細胞の種類が多様で、
その結果、障害を受ける臓器も異なることから、同じ疾患
でさえ臨床症状が多岐にわたるためです 6。一般に、LSD
の臨床症状はほぼ全ての器官でみられ進行的です。これは
分解されない基質の蓄積量が時間経過に従って増加し、二
次的な病状がさらに発生するためです。したがって、発現
している症状を早期に認識し適時に診断することが不可欠
であり、これには専門医間での密接な協力が必要です 2。
5
2. ゴーシェ病
2.1. 序文
2.2. 臨床症状
ゴーシェ病は、ライソゾーム内のグルコセレブロシドを
ゴーシェ病は、ほとんど徴候が認められない軽症な病
分解する酵素、グルコセレブロシダーゼ(酸性β - グルコ
型から重症な病型まで連続的なものとなっています。特
シダーゼ)が欠損または不足することにより、ライソゾー
にゴーシェ病Ⅰ型では、臨床症状が非常に多様です。疾患
ム内にグルコセレブロシドが進行的に蓄積することで生じ
が軽度で緩やかに進行するため受診に至らない場合もあれ
ます 。臨床症状の発現は、ゴーシェ細胞と呼ばれる脂質
ば、重度の骨損傷が生じる場合もあります。
7
蓄積細胞(図 1)が正常細胞と置き換わることに起因する
小児期にゴーシェ病と診断された場合、より重度の臨床
とされていますが、発現経路は未だ不明な点が多くありま
経過をたどることが多いとされています 10。疾患の進行は
す。脂質の蓄積は全身に認められますが、特に肝臓、脾臓、
予測困難であり、あらゆる年齢で発症する可能性がありま
骨髄(マクロファージ)で顕著です。ゴーシェ病の症状は
す(図 2A、2B)。長年にわたり、臨床管理は内臓症状と
貧血、
血小板減少、
肝脾腫大、
骨合併症などがあります。ゴー
血液学的症状に焦点が当てられてきました。身体機能に最
シェ病は多臓器性疾患であり、その徴候および症状は極め
も影響する骨合併症の程度、進行度、臨床転帰が注目され
て多岐に及びます。治療を施さない場合、一般に、回復困
るようになったのは最近のことです。表 1 にゴーシェ病で
難または不可逆的な病変を来たし、早期に死亡に至るとさ
見られる徴候および症状を示します。
れています。
2.2.1. 骨格系
骨痛
多種多様な慢性の骨痛が生じる可能性があります。消耗
性の重度の急性骨痛(骨クリーゼ)では、高熱、悪寒、白
血球増加症、赤血球沈降速度の増加を伴うことが多いとさ
れています 11。
無腐性骨壊死
過去の骨クリーゼ発症部位に無腐性骨壊死が生じること
が多いとされています。無腐性骨壊死から骨折や関節圧潰、
そして骨関節症に進行する場合があります 12。
図 1 ゴーシェ細胞の顕微鏡像:「しわくちゃの絹糸」状にみえる線維
性の細胞質が認められる。核の偏在もみられる(過ヨウ素酸シッフ
染色)(提供:J.A. Barranger 教授)。
ゴーシェ病は全ての人種でみられる常染色体劣性遺伝
性疾患です。有病率は 10 万人に 1 人と推定されています
が 7、アシュケナージ系ユダヤ人集団では有病率が高く、
450 人に 1 人であるとされています 8。しかし、そのほと
んどは神経症状を伴わない非神経型ゴーシェ病(ゴーシェ
病Ⅰ型)です。一方日本では、2009 年現在、約 100 名
の人がゴーシェ病と診断されており、その半数は神経症状
を伴う神経型(ゴーシェ病Ⅱ型およびⅢ型)です 9。
6
ゴーシェ病
図 2A 初期症状が顕著なゴーシェ病Ⅰ型の小児患者
図 2B ほとんど症状がみられないゴーシェ病Ⅰ型の成人患者
表 1 ゴーシェ病でみられる徴候および症状
臓器・器官系
徴候/症状
一般
一連の症状および骨格系症状による QOL の低下
骨格系
慢性の骨痛や急性の骨クリーゼ(高熱、悪寒、白
血球増加症、赤血球沈降速度増加を伴う)
臓器・器官系
肺
エルレンマイヤーフラスコ変形
呼吸困難(労作性)
、頻呼吸、咳嗽、再発性
呼吸器感染
肺機能検査異常を伴う間質性/拘束性肺疾患
労作時/安静時の呼吸困難、失神、チアノー
ゼ、ばち状手指を伴う肺高血圧症
骨髄浸潤
骨減少症
徴候/症状
中枢神経系
ゴーシェ病Ⅰ型は中枢神経症状を合併しませ
ん。ゴーシェ病Ⅱ型およびⅢ型の中枢神経症
状については、本文を参照してください。
心臓
拘束性心筋症および心臓弁の異常による症状
眼
角膜混濁
無腐性骨壊死
溶解性病変、骨硬化症
病的骨折
内臓系
腹痛、早期満腹、膨満感、頻回の下痢
脾腫大
肝腫大(肝硬変、門脈圧亢進、腹水、食道静脈瘤
へと進行する恐れあり)
ゴーシェ病Ⅲ型ではサッケード眼球運動の異
常(眼球運動失行症)
胆石症
血液系
貧血:蒼白、疲労、労作性呼吸困難、動悸、定期
的な輸血の必要性
代謝
体重増加不良、思春期遅発
血小板減少、血小板機能障害:外傷/手術後の特
発性出血/止血困難、分娩後出血、月経血量過多
悪性腫瘍
悪性新生物疾患リスクの増大
白血球減少症:感染のリスク増大
免疫グロブリン血症
7
溶解性病変、骨硬化症
骨髄浸潤
ゴーシェ細胞の骨髄浸潤は腰椎から始まり、大腿骨の骨
幹端、骨幹、骨端に及ぶと考えられています。脂質含量の
これらの病変は、過去の壊死や局所的な骨髄浸潤の結果
として現れる場合があります 15。
低下を判定するには磁気共鳴画像(MRI;T1・T2 強調像)
検査を用いるのが最適であると考えられています。ゴー
シェ細胞の浸潤部位は、T1 強調像で低信号を呈します(図
エルレンマイヤーフラスコ変形
疾患の重症度に関わらず、X 線像で長骨末端にエルレン
3) 。
マイヤーフラスコ変形(図 5)が認められます 13, 14。
骨減少症
成長遅延、思春期遅発
13
二重エネルギー X 線吸収測定法(DEXA)または X 線検
ゴーシェ病の小児患者では、成長遅延が認められるこ
査により、ほぼ全ての患者で骨減少症が確認されます(図
とが非常に多いとされています。また、思春期の発来時
4A、4B)
(重症例では骨折のリスクが増大します
期および終了時期も健常人に比べて遅い可能性がありま
)
。
14
す 16。
図 3 ゴーシェ細胞の骨髄浸潤像(大腿骨遠位部)左図:浸潤がみられない正常な骨髄、中左図および中右図:均一な浸潤がみられる、
右図:不均一な浸潤および顕著な骨の変形が認められる(提供:L.W. Poll 医師)。
図 4A(左図)、図 4B(右図)様々な程度の骨減少を示す上腕骨の X 線像:斑点状お
よび浸透性の骨減少が認められる(提供:L.W. Poll 医師)。
8
図 5 典型的なエルレンマイヤーフラスコ変形を示
す大腿骨遠位部の X 線像(提供:L.W. Poll 医師)。
ゴーシェ病
2.2.2. 内臓系
脾腫大
2.2.3. 血液系
重要な血液学的合併症として、貧血、血小板減少症、好
脾腫大(図 6A、6B)はゴーシェ病を疑う症状の 1 つで
中球減少症、凝血異常が挙げられます 19。これらの症状は
す。脾腫大は超音波検査、MRI による容積測定検査または
主に、造血細胞が排除されることにより生じます。腫大し
CT(コンピュータ断層撮影検査)で詳細に定量評価する
た脾臓に血液製剤が滞留すると、血液細胞および凝固因子
ことが可能です 。労作時に脇腹に刺すような痛みが生じ
が更に減少する場合があり 20、定期的な輸血が必要となる
る場合もあります。疾患が進行すると、梗塞、壊死および
可能性もあります。止血異常は、外傷後や手術後に初めて
線維化などによって、脾臓に不可逆的な損傷が生じる恐れ
明らかとなる場合が多いとされており、分娩後出血および
があります。脾臓梗塞の臨床症状としては、点限局性の圧
月経血量過多が起こる可能性があります。また、患者は感
痛を伴う軽度の腹痛や発熱を伴った「急性腹症」が認めら
染症にかかりやすくなると考えられています 21, 22。
7
れる場合があります。
2.2.4. 肺
肝腫大
肺線維症による拘束性肺疾患によって、呼吸困難、頻呼
肝腫大によって腹部膨満、不快感、早期満腹が増大す
吸、咳嗽がみられる場合があります。内臓が腫大して横隔
る場合があります。肝腫大は脾腫大より後に発症するこ
膜の可動域が狭まるため、肺の症状が認められやすくなり
とが多いうえ、脾腫大ほど顕著ではありません。肝細胞
ます 23。肺内および肺外の多様な原因によって肺高血圧症
の機能は通常維持されますが、肝機能検査値が若干上昇
が発生する場合があります 24。
する場合があります 17。肝梗塞によって、疼痛が生じるこ
とがあります。肝腫大から肝硬変、門脈圧亢進、腹水、食
道静脈瘤に進行する可能性があります。また、肝細胞癌の
発症が報告されています 18。
消化管
頻回の下痢が認められることがあります 7。
図 6A、6B ゴーシェ病患者の脾臓肉眼像
図 6A 脾臓の断面図:線維性瘢痕(白~黄色の線条)が特に顕著。新
しい浸潤部位も認められる。
図 6B 別 患 者 の 脾 臓 表 面: 多 数 の 結 節 が み ら れ る( 提 供:J.A.
Barranger 教授)。
9
2.2.5. 中枢神経系
2.2.6. 免疫グロブリン血症および悪性腫瘍
典型的な急性神経型ゴーシェ病(ゴーシェ病Ⅱ型)の特
免疫グロブリン血症および悪性腫瘍(多発性骨髄腫、リ
徴は、生後 6 ヵ月以内に発症し急速に進行する神経症状で
ンパ腫、慢性リンパ性白血病など)を伴うことも珍しくあ
す。このような患者の寿命は通常 3 歳以下です。全身症状
りません。これらの疾患は、ゴーシェ細胞によるサイトカ
のほか、痙直、頭部の反り返り、斜視、眼球運動失行、開
インの過剰分泌やグルコセレブロシドの蓄積によって免疫
口障害、嚥下障害、喉頭喘鳴、深部腱反射の亢進などの脳
系が慢性的に刺激を受けるためと考えられています 31, 32。
幹症状が顕著に認められます 25。
亜急性神経型ゴーシェ病(ゴーシェ病Ⅲ型)は、複数の
2.2.7. 代謝亢進症
疾患型に分類されます。肝腫大および骨合併症 26 を伴っ
代謝亢進症の原因は、代謝活動が過剰なゴーシェ細胞が
て小児期に発症する疾患型では、水平方向への共同性サッ
大量に存在するためと考えられます。代謝亢進症は体重増
ケード眼球運動の低下
加、成長、カロリー要求量に対して直接的ではないものの、
27
も初期に認められます。その後、
治療抵抗性の全身性強直性間代性痙攣発作、ミオクローヌ
大きな影響を与える可能性があります 7。
ス発作、認知症、進行性の痙直、運動失調を発症して、知
的機能が低下する可能性が高いとされています。神経変性
を起こすと 20 ~ 30 代で死亡に至ります。
ゴーシェ病患者 33, 34 およびその家族は、QOL が著しく
また、致命的な門脈圧亢進症や肺高血圧症を伴う疾患型
低下する可能性があります。ゴーシェ病の症状によって患
もあります 28。非定型的な神経症状が多数認められますが、
者の幸福感および機能的健康感が損なわれ、就労が困難と
なかでも重要なのが錐体外路系の症状すなわちパーキンソ
なったり、家族活動や余暇活動が減少する恐れがあります。
ン様症状(成人)です
特に骨合併症は、日常活動能力が低下する主な原因となり
。
29
ほかにも心臓弁石灰化、角膜薄濁、眼球運動失調およ
び精神発達遅滞を伴う疾患型が存在しますが、これは
D409H 変異のホモ接合体と相関性があります 30。
10
2.2.8. QOL
ます。小児患者では学習障害、自己評価の低下、精神的な
問題、行動異常が現れる可能性があります 11。
ゴーシェ病
2.3. 診断
2.3.2. 遺伝子変異解析
発症年齢、臨床症状および進行速度は患者ごとに異なりま
現在までに、300 種類を超える遺伝子変異が同定され
す。臨床症状が多様なため、ゴーシェ病を臨床的に疑うのが
ています 37。遺伝子型と臨床転帰の関係についての研究
困難な場合もあります。また、ゴーシェ病は他の疾患と類似
が実施され、ほぼ正確な結論が得られています。たとえば
した徴候や症状を示すことがあるため診断が遅れることが多
N370S 対立遺伝子が少なくとも 1 つ存在する場合はゴー
いとされています。しかし、早期診断・早期治療は患者の予
シェ病Ⅰ型との相関性が認められますが、神経症状は現れ
後を考える上で極めて重要です。ゴーシェ病との鑑別を要す
ないこと、L444P のホモ接合体はゴーシェ病Ⅲ型の予測
る主な疾患は以下の通りです。
因子であることなどが明らかになっています。遺伝子変異
の同定は、発端患者(proband)の家族に対する遺伝相談
表 2 ゴーシェ病と鑑別を要する主な症状と疾患
• 成長痛や病的骨折
• 原因不明の出血性疾患による再発性の鼻出血
• 白血病
において重要な役割を果たしています。
2.3.3. 生化学マーカー
これまでに、キトトリオシダーゼ 38、CCL18/PARC39、
• リンパ腫
アンギオテンシン変換酵素(ACE)および酸性フォスファ
• 骨髄炎
ターゼ(ACP)な ど の 数 種 類 の ゴ ー シ ェ 病 バ イ オ マ ー
• ペルテス病
カーが知られています。ゴーシェ病患者の脂質蓄積マクロ
ファージは、キチン分解酵素であるキトトリオシダーゼを
過剰分泌すると考えられ、血漿中濃度が著しく増加します。
2.3.1. 生化学検査
最も有効で信頼性の高い診断方法は、末梢血白血球または
培養線維芽細胞のグルコセレブロシダーゼ活性の測定です 35。
ゴーシェ病患者の酵素活性は、正常値の30%以下であること
が多いとされています。慢性貧血、血小板減少症または脾腫
大の評価のために実施した骨髄穿刺でゴーシェ細胞が確認さ
れて、初めてゴーシェ病が疑われる場合もあります。しかし
骨髄の形態学検査では、血液学的悪性疾患でも偽ゴーシェ細
胞がみられる場合があり注意する必要があります 36。
11
3. ファブリー病
3.1. 序文
も無症候性である場合もあります 40。
「心型」
(心合併症が
ファブリー病とは、ライソゾーム酵素であるα-ガラクトシ
単独でまたは主症状として現れる病型)が、残存酵素活性
ダーゼ Aをコードする遺伝子の変異によって生じるX 連鎖遺
が 5 ~ 10% の男性患者でみられることがあります 41, 42。
伝性のライソゾーム病です 40。この酵素が不足または欠損
ファブリー病では様々な臓器・器官系に影響が及ぶため、
すると、末端にα-ガラクトシル残基を有するスフィンゴ糖脂
総合的な診断および臨床管理が必要です。
質(主にグロボトリアオシルセラミド[GL-3]
)が代謝されず、
血管内皮細胞(図 7)
、神経細胞、心筋細胞および多種多様
3.2.1. 疾患の進行
な腎細胞に進行的に蓄積します。この蓄積によって細胞の機
ファブリー病の発症年齢、臨床症状および臨床経過は多
能障害や細胞死が起こり、肥厚、炎症、線維化、硬化など
様です。発症時期は通常、女性よりも男性の方が早いとさ
の二次的な組織反応につながります。一連の疾患は潜行的
れています 43。古典型ファブリー病は末梢神経系および自
に進行し、小児期または青年期に初期症状が現れた後、重
律神経系で疾患が進行し、小児期に発症することが多いと
度の腎、心、または脳血管合併症などに至ります。ヘミ接
されています(先端異常感覚、疼痛発作、低汗症)
。また
合体(男性)では、治療を施さないと40 ~ 50 代で死亡す
初期の症状として被角血管腫、角膜混濁、疲労、運動能低
る場合があるといわれています 。ファブリー病は X 連鎖性
下なども認められます。
40
疾患ですが、ヘテロ接合体の女性でも症状を発症し、重大
基質の蓄積が進み、臓器特異的な一連の疾患が進行すると、
な病的状態や早期の死亡に至ることが少なくありません。こ
成人期になって生命を脅かす合併症が、特に腎臓、心臓、中
れを症候性ヘテロ接合体と呼びます。
枢神経系に現れます。進行性糸球体硬化症、腎尿細管萎縮お
ファブリー病の発生率は男性 4 万人に1 人と推定されてお
り、全ての人種でみられます 。
40
3.2. 臨床症状
よび間質性線維症から進行した腎機能障害が、30 ~40代に
現れることが多くあり(女性の発現時期はこれよりも遅い場
44, 45
合があります)
、このような患者では末期腎不全へと進行
する可能性が高くなります。また心血管合併症として不整脈、
遺伝子変異を有する男性のほぼ全てがファブリー病を発
左室肥大、心不全、心筋梗塞などが認められます 46, 47。若年
症し、主に古典型ファブリー病の症状を示します(残存酵
脳卒中および一過性脳虚血発作は、ファブリー病患者の若年
素活性が 1% 未満)
。女性も男性と同様に重症となる可能
死亡の原因であると同時に、ファブリー病後期に病的状態と
性がありますが、臓器・器官系で組織学的所見がみられて
なる主要な原因でもあると考えられます 48, 49。
図 7 ファブリー病の血管内皮像
ファブリー病患者の小血管内皮の電子顕微鏡像。スフィンゴ糖脂質が分解されずに蓄積した高電子密度の小胞(ライソゾーム)で血管内皮が充満
している(提供:R.J. Desnick 医師)。
12
ファブリー病
3.2.2. 疼痛
多くの患者で、先端異常感覚(慢性でなかなか治まらな
いピリピリ感や灼熱痛)が手足に断続的に発生します。何
らかの疾患、運動、疲労、ストレス、天候の変化などによっ
て、急性で激しい疼痛が手足に発生する場合があります。
この疼痛は数分から数週間にわたって持続します 50。疼痛
発作は発熱および血沈亢進を伴うことが多いとされていま
す。これらの疼痛の原因は、後根神経節における小型の末
梢感覚ニューロンの喪失 51 および小神経線維の機能不全 52
図 8A、8B ファブリー病の被角血管腫
特徴的な暗赤色~濃青色の血管拡張病変が、主に臍部から大腿部に
かけて群発する(「海水パンツ状分布」)(提供:R.J. Desnick 医師)。
と考えられています。
3.2.3. 被角血管腫
被角血管腫として知られる皮膚の血管病変は、最も顕著
な初発症状です
3.2.4. 低汗症/無汗症
。押しても白くならない赤紫色の病変(図
発汗機能障害によって、暑さ・寒さに対する不耐性や運
8A)が、主に臀部、鼠径部、臍部(図 8B)
、大腿部に群
動能低下などがみられます。涙および唾液の分泌量も減少
発します。病変のサイズは針先大~数 mm で、平坦である
する可能性があります 54。特定の末梢神経の損傷 40, 54 お
か、わずかに隆起しています。年齢とともに、病変サイズ
よび汗腺周囲の小血管での脂質沈着 55 が、発汗機能障害の
が増大し、数が増加します。
発生原因として報告されています。
53
表 3 ファブリー病でみられる徴候および症状
臓器・器官系
徴候/症状
一般
一連の症状・予後による生活の質の低下
神経系
先端異常感覚、疼痛発作
臓器・器官系
心臓
心筋梗塞
心臓弁疾患(僧帽弁不全)
一過性脳虚血発作
被角血管腫
不整脈
左室肥大
脳梗塞
皮膚
徴候/症状
耳鼻咽喉
低汗症/無汗症
聴力低下、突発性難聴
耳鳴
回転性めまい
消化管
悪心、嘔吐
肺
咳嗽
下痢
呼吸困難、喘鳴
食後の腹部膨満、食後痛
運動能低下
早期満腹
体重増加不良
腎臓
アルブミン尿、タンパク尿
骨格系
骨減少症、骨粗鬆症
尿濃縮障害
尿中 GL-3 排泄増加
糸球体濾過量(GFR)の低下、末期腎不全
13
3.2.5. 眼
3.2.6. 消化管
角膜混濁がみられることが多いとされています。角膜混
消化管症状として悪心、嘔吐、反復性の下痢、食後の腹
濁は、かすみが広がった状態から始まり、角膜上皮に淡灰
部膨満、食後腹痛、早期満腹、体重増加不良が認められま
色~茶/黄色の渦巻き状の線条(
「渦巻き状角膜」
、図 9)
す 60。これらの症状は、腸間膜血管および自律神経節に
が認められるまでに進行します 56。この所見は、細隙灯顕
GL-3 が蓄積するためと考えられています 61。急性腹痛は、
微鏡(スリットランプ)検査でのみ確認することが可能で
虫垂炎または腎仙痛とよく似ている場合があります 40。症
す。また小動脈の狭窄、静脈の拡張、網膜血管・結膜血管
候性患者では、胃からの消化物排泄遅延が報告されていま
の過度の蛇行などの血管病変が認められることが多いとさ
す 62。
れています(図 10)
。水晶体前嚢にクリーム色のカプセル
状沈着、水晶体後嚢にスポーク状(放射状)の白色の顆粒
状沈着がみられることがありますが、後者は前者よりも発
生頻度が高いとされています
3.2.7. 腎臓
微量アルブミン尿、尿濃縮障害、GL-3 の尿排泄増加な
。ファブリー病による後
どの腎細胞疾患の徴候が青年期で報告されています 63。古
嚢白内障は、反帰光を用いて検査するのが最適だと考えら
典型ファブリー病患者の大半は、青年期後期に蛋白尿を発
れます。これらの眼疾患が視力に影響を及ぼすことは稀で
症します。尿または尿沈渣の偏光顕微鏡検査では、複屈折
すが
性の脂質顆粒がみられ、特徴的な「マルタ十字」が確認さ
56, 57
、網膜中心動脈の閉塞により突然失明する症例が報
58
告されています
。
59
れます 40。腎生検では糸球体、血管、間質細胞にびまん性
の脂質沈着が認められ、また尿細管にも病変が認められま
す(図 11)
。糸球体硬化症、腎尿細管萎縮、間質性線維症
などの二次的損傷によって、年齢とともに GFR が進行性
に低下します。古典型ファブリー病の男性患者は、治療を
行わなければ必ず末期腎不全まで進行します。
図 9 ファブリー病特有の角膜混濁
ファブリー病特有の角膜混濁は、細隙灯顕微鏡(スリットランプ)
検査でのみ確認することが可能である。車輪のスポークのように 1 点
から放射状に伸びる渦巻き状の角膜混濁が認められる。角膜混濁は
診断指標として有用である(提供:R.J. Desnick 医師)。
図 11 腎毛細血管内皮の光学顕微鏡像:スフィンゴ糖脂質が蓄積し
た腎細胞がみられる。矢印は GL-3 の沈着を示す。
図 10 ファブリー病に典型的な結膜像
ソ ー セ ー ジ 状 に 著 し く 拡 張 し た 血 管 が み ら れ る( 提 供:R.J.
Desnick 医師)。
14
ファブリー病
3.3. 診断
3.2.8. 心臓
高齢になると、不整脈、左室肥大、心不全、心筋梗塞など
の生命を脅かす可能性のある心臓の症状がみられます
。
46, 47
ファブリー病は小児期または青年期に発症することが多
いとされていますが、成人になり臓器・器官系の損傷が生
じるまで認識されないことも多く、身体を衰弱させる原因
3.2.9. 脳血管系
不明の症状に何年間も悩まされる場合があります 71。早期
報告されている脳血管系合併症は、脳画像異常、脳梗
塞、一過性脳虚血発作など様々です
48, 49
。ファブリー病
患者は、脂質の沈着によって肥厚した小血管で血栓症が発
生するため、若年発症の脳梗塞を発症しやすいと考えられ
ます 64。
診断が特に重要です。ファブリー病との鑑別を要する疾患
は以下の通りです。
表 4 ファブリー病と鑑別を要する疾患
• 関節リウマチ、若年性関節炎
• リウマチ熱
3.2.10. 耳鼻咽喉
• 線維筋痛症/慢性疲労症候群
進行性の聴力低下、突発性難聴、耳鳴、浮動性めまいと
悪心を伴う回転性めまいが頻繁に報告されています 65, 66。
• 神経症/詐病
• レイノー症候群
• 多発性硬化症
• ループス被角血管腫
3.2.11. 肺
咳嗽、呼吸困難、喘鳴、運動能低下がみられることも珍
しくありません 67。肺活量測定によって、閉塞性の換気障
害が明らかとなる場合もあります
。
3.3.1. 生化学検査
男性でのファブリー病の診断は、白血球または培養皮膚
68
線維芽細胞におけるα- ガラクトシダーゼ A 活性の低下/
3.2.12. 骨格系
欠損を確認します 72。ただしこの診断法は、症候性および
男性患者では、骨塩量異常(骨減少症、骨粗鬆症)が報
告されています
無症候性にかかわらず、ヘテロ接合体(女性)を特定でき
るとは限りません。これは、ヘテロ接合体の 3 人に 1 人は、
。
69
α- ガラクトシダーゼ A 活性が正常範囲の値を示すからで
3.2.13. 生活の質
す。
ファブリー病患者においては、身体的・機能的幸福感が
著しく低下する場合があります。疼痛、耳鳴、慢性疲労、
3.3.2. 遺伝子変異解析
運動能低下などの症状が、学業や仕事に影響を及ぼす可能
ファブリー病は X 連鎖性疾患ですが、胚発生期の無作為
性があり、社会活動やスポーツにおける患者の活躍の場が
な X 染色体不活性化によってヘテロ接合体もファブリー病
制限される恐れがあります。また、疾患のストレスや寿命
を発症する可能性があります。α- ガラクトシダーゼ遺伝
の短さから、慢性うつ病となる場合もあります
子(座位 Xq22.1)については、240 種類を超える変異が
。
70
同定されています 73。同一家族内のヘミ接合体間であって
も報告される症状が著しく異なっているため、病型と遺伝
子型の相関性を見出すことは困難です 74。ファブリー病の
患者家族は“特有の変異”を有していることが多いため 75、
ファブリー病患者/保因者の親族を同定するには、性別を
問わず、患者家族の遺伝相談(家系調査)が診断の一助と
なります。
15
4. ムコ多糖症Ⅰ型(ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、シャイエ症候群)
4.1. 序文
4.2. 臨床症状
ム コ 多 糖 症 Ⅰ 型(Mucopolysaccharidosis Ⅰ , MPS
MPS Ⅰには臨床上多様な病型があり、発症年齢、発症
Ⅰ)は、全部で 7 型あるムコ多糖症のなかでも最も頻度が
形態、進行速度および合併症に顕著な差があることが知ら
高い病型です。(訳注:本邦ではムコ多糖症Ⅱ型が最も頻
れています。MPS Ⅰは、重症型から軽症型まで、臨床症
度が高い病型です。
;折居忠夫、SRL 宝函 27(3)117-
状が連続したものと考えるのが妥当です 2。最も重症な病
126, 2003 より)
型(ハーラー症候群/重症型)にはこれまでに詳細な報告
MPS Ⅰは、ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸などのグリ
があり、正確に病状を説明することが可能でしたが、古典
コサミノグリカン(glycosaminoglycan, GAG)を分解
的な分類に基づく亜型のハーラー・シャイエ症候群(中間
するライソゾーム酵素の一種、α-L- イズロニダーゼの活
型)やシャイエ症候群(軽症型)については、明確に区別
性が低下することにより発症します
。これらの化合物
することは極めて困難です 77。また、これらの病型を明確
は、細胞膜の重要な構成成分で、結合組織や軟骨の構造お
に鑑別できる診断方法もありません。神経症状の有無や程
よび関節液においても重要な役割を果しています。細胞レ
度が、各病型により様々だからです。重度の患者では病状
ベルでは、細胞制御や細胞間情報伝達に関与しています。
の進行が速く、進行性の精神発達遅滞がみられます。この
MPS Ⅰ患者では、ほとんどすべての組織に分解されない
ような患者は一般に 5 ~ 8 年を超えて生存することはな
GAG が進行性に蓄積します。その結果、細胞や組織、臓
く、多くは進行性の神経性症状や循環呼吸不全で死亡する
器に広範な機能不全が起こり、病状がかなり進行すると不
とされています 78。これよりも病状の進行が遅い患者では、
可逆性となることもあります。臨床症状は多臓器に及び進
平均余命は 20 歳とされています。
76
行性です。その重症度は著しく多様で、いずれも生命を脅
かす合併症を起こす可能性があります。
一方、軽症型の患者は、知的障害を伴うことはないもの
の、いずれは致命的となりうる循環器系もしくは外科的合
併症のリスクを伴います。したがって、病型や疾患の進行
MPS Ⅰは全ての人種でみられる常染色体劣性遺伝性の
疾患です。全世界における MPS Ⅰの発症率は、新生児
10 万人に約 1 人と推定されています
。
76
速度にかかわらず、MPS Ⅰ患者は顕著な病的状態を呈す
るといえるでしょう。
この疾患が多臓器に影響することを踏まえると、該当
するすべての臓器に対して病状の評価を行う必要があり
ます 79。MPS Ⅰで見られる徴候や症状については、いく
つかの報告があります 76, 79。
16
ムコ多糖症Ⅰ型
表 5 ムコ多糖症Ⅰ型でみられる徴候および症状
臓器・器官系
一般
中枢神経系
徴候/症状
あらゆる臨床症状に起因する生活の質(QOL)
の低下
臓器・器官系
眼
徴候/症状
視力障害、失明
光線過敏性と中心視力の低下を伴う角膜混濁
認知機能および運動発達障害
緑内障
進行性の重度精神発達遅滞
視神経萎縮
学習障害、言語発達遅滞
周辺視力の低下と夜盲を伴う網膜色素変性
交通性水頭症、大泉門の膨隆、縫合線の離開、
頭痛、視神経乳頭浮腫、嘔吐
末梢神経系
耳鼻咽喉
脊髄圧迫(頚髄症)
再発性中耳炎
脊椎変形、環椎後頭骨不安定または脊椎すべり
症による急性の四肢麻痺
難聴
手の機能不全(屈曲拘縮、手根管症候群)
肺
弾発指
足根管症候群、脊髄根絞扼
筋骨格系
多発性骨異形成
肺高血圧症、肺性心
反応性気道疾患、喘鳴
股関節形成不全、外反膝
脊柱後弯症、側弯症、腰椎前弯
背部痛
心臓
左室肥大
心筋症、うっ血性心不全
鷲手変形
不整脈
歩行能力低下、爪先歩行
心不全
低身長
心内膜線維弾性症(乳児突然死)
胸郭異常
/皮膚
心弁膜症、大動脈弁と僧帽弁の狭窄/閉鎖不全
動脈内膜プラーク形成、冠動脈閉塞
関節痛、こわばり感および拘縮を伴う進行性の
関節障害
特異的顔貌:鼻の平坦化、鼻孔・口唇・耳朶の
肥厚、舌の肥大
息切れを伴う低換気症候群およびその進行に伴
う無気肺・再発性呼吸器感染症・ガス交換機能
障害
閉塞性睡眠時無呼吸/低呼吸症候群およびそれ
に伴う疲労・日中の傾眠
突背
頭部/顔面
上気道狭窄による重度のイビキや睡眠時無呼吸
腹部内臓
肝臓・脾臓腫大、腹部膨満
/消化管
臍/鼠径ヘルニア(再発性)
巨大な頭部、突出した前額部、短頚
腹痛、腹部不快感、早期満腹、嘔吐
皮膚の肥厚
軟便、下痢、便秘
多毛症:藁のようで粗剛な毛髪、直毛
歯牙萌出遅延:形が異常で先端が尖った歯
齲歯傾向
17
4.2.1. 中枢神経系
4.2.3. 筋骨格系
大半の重症型患者では、認知機能および運動機能の発達
成長中の骨のリモデリング障害は MPS Ⅰのいずれの病
が生後 6 ヵ月頃から遅れ始め、やがて発達が停止します。
型でもみられ、多発性骨異形成を引き起こします。長骨の
5 歳頃からは徐々に退行し、重度の学習障害が生じ言語能
変形、中手骨の先鋭化(図 12)
、大腿骨頭の形成異常、椎
力が乏しくなります。この急速な神経変性の主な原因は、
体前縁のくちばし状変形などの骨格異常がみられます。ま
GAG が神経細胞および星状膠細胞に進行的に沈着するた
た、出生時に突背変形や背腰の脊柱後弯症がみられる場合
めと考えられています
。交通性水頭症は重症型患者に
もあります。急性の骨格系合併症としては、脊椎すべり症
よく認められる所見で、頭囲拡大、大泉門の膨隆、縫合線
による脊髄損傷や歯突起形成不全による環椎後頭不安定な
の離開などの症状がみられます。進行期には、視神経乳頭
どが挙げられます。
80
浮腫や嘔吐がみられる場合もあります。MPS Ⅰ患者は、
髄膜および靭帯の肥厚によって進行性の頚髄症を発症する
ことが多く、脊髄減圧術が必要となる場合もあります。脊
髄圧迫は MPS Ⅰのいずれの病型にも生じるとされていま
す 81。
4.2.2. 末梢神経系
MPS Ⅰ患者は関節の屈曲拘縮や手根管症候群によって
手の機能不全に陥りますが、手根管症候群の典型的な症状
を示す患者は稀です 82。そのほかの絞扼性症候群として足
根管症候群や脊髄根絞扼などが認められます。屈曲腱の肥
厚によって、弾発指が発生する場合もあります。
図 12 重症型 MPS Ⅰ患者の手の X 線像による骨の変形:
中手骨の先鋭化が認められる(提供:J.E. Wraith 医師)
18
ムコ多糖症Ⅰ型
MPS Ⅰ患者では股関節脱臼の恐れがあります。成人患
者では、脊椎弯曲異常を伴う低身長が認められることが多
4.2.4. 頭部/顔面
結合組織への GAG 沈着および口腔顔面部の骨リモデリ
く、重度の背部痛が認められることも珍しくありません。
ング障害によって、特異的顔貌となります(図 14)。これ
進行性の関節障害として手足の指の伸展障害がわずか 2 歳
らの口腔顔面部の変化によって挿管・抜管が困難となるた
で認められることがあります。関節障害は左右対称に現れ
め、麻酔時のリスクが高くなります 83。軽症型患者では、
ますが、発症初期では疼痛や炎症所見を伴いません。手の
これらの臨床変化が遅れて現れるか全く現れないこともあ
繊細な運動能力が損なわれ、
「鷲手」変形となる場合があ
ります。重症型患者は、巨大な頭部および短頚を伴う場合
ります(図 13)
。そのうえ、ほぼ全ての関節にこわばり感、
が多く、舌の肥大や鼻孔・口唇・耳朶の肥厚が顕著です。
疼痛および屈曲拘縮が現れ、歩行能力が低下し、
「爪先歩行」
ほかにも多毛症、硬い毛髪、歯牙萌出の遅延、先端が尖っ
となり、最終的には、車椅子の使用を余儀なくされること
た歯、空隙歯列などが認められることがあります。
もあります。
図 13 軽症型 MPS Ⅰ患者にみられる鷲手(提供:J.E. Wraith 医師)
図 14 重症型 MPS Ⅰの男児の顔貌
(患者の両親の許可を得て掲載)
19
4.2.5. 眼
4.2.8. 心血管
角膜混濁、緑内障、網膜変性などの視力障害が発生し失
MPS Ⅰのいずれの病型にも生命を脅かす心臓疾患が発
明する可能性があります。光線過敏性を伴うびまん性の角
症する可能性があります 88。進行性の弁狭窄・弁閉鎖不全
膜混濁は、MPS Ⅰのどの病型でも認められます(図 15)
。
から、うっ血性心不全を伴う拡張型心筋症に進展する場合
軽症型患者では、角膜混濁が辺縁のみに限局し、良好な視
があります。特に重症型患者では、動脈の肥厚および狭窄
力を維持する症例も報告されています
。緑内障が発生す
によって閉塞性冠動脈疾患が起こりますが、軽症型患者で
る可能性もありますが、角膜が肥厚しているために眼圧を
も、疾患の進行とともに不整脈などの心合併症を発症する
正確に測定することが困難な場合があります。重症型の小
リスクが高くなります。
84
児患者では、視神経乳頭の浮腫が長期間続くことによって、
視神経委縮が起こる恐れがあります 85。
4.2.9. 消化管
肝臓・脾臓腫大は MPS Ⅰ患者に共通してみられますが、
軽症型患者では脾臓の大きさが正常で肝機能も正常です。
腹腔内圧の増加および結合組織の脆弱化により、再発性の
臍/鼠径ヘルニアがみられます。消化管の異常によって、
腹痛、腹部不快感、早期満腹、下痢、嘔吐を発症する可能
性があります。
4.2.10. 生活の質
重症型患者では、進行性の神経変性、機能障害の進行に
よる社会生活機能の障害によって生活の質が進行的に低下
します。睡眠時無呼吸症候群および睡眠障害により、患者
やその両親が夜間に十分な睡眠がとれなくなるため、身体
図 15 MPS Ⅰ患者におけるびまん性の角膜混濁
4.2.6. 耳鼻咽喉
GAG の蓄積により上気道の狭窄が起こるため、重度の
イビキ、睡眠時無呼吸そして再発性中耳炎を発症すること
が多く、また難聴がよく起こるとされています 86。これは
口咽頭への GAG 沈着、耳骨の変形、神経損傷、再発性の
中耳炎によると考えられます。
4.2.7. 下気道
横隔膜の可動域が狭まるため息切れを起こし、閉塞性睡
眠時無呼吸や肺感染症を起こしやすくなると考えられてい
ます 87。そのほかにも喘鳴、疲労、日中の傾眠、肺高血圧
症、肺性心などの症状がみられます。
20
を最も衰弱させる症状であるといえます。それ以外にも関
節可動性や持久力の進行的な低下により、日常的生活が制
限され苦痛となります。また、他の難聴や慢性の下痢など
も、程度によっては QOL を制限する可能性があります。
ムコ多糖症Ⅰ型
4.3. 診断
病型が重症型(ハーラー症候群)でない場合は(図 16)
4.3.1. 生化学検査
ムコ多糖症が臨床的に疑われる場合、尿中 GAG の定量
患者ごとに症状が異なるため、MPS Ⅰを臨床的に疑うこ
(および定性)検査が補助診断方法として有用です。しか
とが困難な場合もあります。患者が様々な分野の専門医を
し同検査では、ムコ多糖症であることは分かっても、ムコ
受診するため、集学的な診察が必須です。初診時に MPS
多糖症の病型までは鑑別できません。MPS Ⅰの確定診断
Ⅰとの鑑別診断を要する疾患は以下の通りです。
は、白血球、血漿または培養皮膚線維芽細胞のα-L- イズ
表 6 ムコ多糖症Ⅰ型と鑑別を要する疾患(一部のみ抜粋)
•(若年性)関節リウマチ
• 関節拘縮症
• 変性リウマチ障害
ロニダーゼ活性が低下または欠損していることを確認する
ことにより得られます 89。
4.3.2. 変異解析
現在までに、α-L- イズロニダーゼをコードする遺伝子
• 軟骨疾患
について、100 種類以上の変異が同定されています 90。
• 結合組織疾患(強皮症など)
白人では MPS Ⅰ対立遺伝子変異の半数以上が 2 種類の全
• 自己免疫疾患
欠失変異(W402X、Q70X)や P533R 変異です 76。遺
伝子型と病型に明確な相関性は確認されていないため、遺
伝子型判定で予後を推測するのは困難です。ただし例外
として、対立遺伝子が両方とも全欠失変異の場合は重症
型となります(訳注:日本人では調査した対立遺伝子変
異の 42%が軽症型を規定する R89Q と重症型を規定する
704ins5 であると報告されています;Yamagishi A, et
al: Human mutation 7:23-29, 1996)。
図 16 軽症型の患者(9 歳)
:腹部膨満、臍ヘルニア、関節の屈曲拘縮、
腰椎前弯がみられる(提供:F.A. Wijburg 教授)
21
5. ムコ多糖症Ⅱ型(ハンター症候群)
5.1. 序文
50 歳以上まで生存する場合があります。
ム コ 多 糖 症 Ⅱ 型(Mucopolysaccharidosis Ⅱ , MPS
Ⅱ)は、全部で 7 型あるムコ多糖症の中で、わが国では最
も発症頻度が高く、MPS の約 50%以上を占めています。
(折居忠夫、SRL 宝函 27(3)117-126, 2003 より)
MPS Ⅱは、ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸などのグリ
MPS Ⅱが多臓器に影響することを踏まえると、該当す
るすべての臓器に対して病状の評価を行う必要がありま
す 92。MPS Ⅱで見られる徴候や症状が過去に報告されて
います 76, 92。
コサミノグリカン(glycosaminoglycan, GAG)を分解
するライソゾーム酵素の一種、イズロン酸 -2- スルファ
ターゼ(I2S)の活性が不十分であることにより発症し
ます
。GAG は、細胞膜の重要な構成成分で、結合組織
76
5.2.1. 中枢神経系
重症型患者では、認知機能および運動機能の発達が生後2
~4歳頃から遅れ始め、徐々に発達の遅れは進行し、学習
や細胞間情報伝達に関与しています。MPS Ⅱ患者では、
障害が生じ、発語も認められなくなります。交通性水頭症
MPS Ⅰと同様に、ほとんど全ての体内組織に分解されな
はMPSⅡでは稀で、強直間代発作、頚髄症に伴う脊髄圧迫、
い GAG が進行性に蓄積します。その結果、細胞や組織、
横靭帯の肥厚がみられ、初期症状として活動低下、運動不
臓器に広範な機能不全が起こり、病状がかなり進行すると
耐性または座位からの起立困難などが出現することがあり
不可逆性となることもあります。臨床症状は多臓器に及び
ます。
進行性です。重症度は著しく多様で、いずれも生命を脅か
進行期には、視神経乳頭浮腫や嘔吐がみられる場合もあ
ります。重症の頚髄症では早期に脊髄減圧術が必要となり
す合併症を起こす可能性があります。
ます 92。
MPS Ⅱは、MPS では唯一の X 染色体劣性遺伝性の疾患
です。全ての人種に認められ、全世界における MPS Ⅱの
発症率は、新生男児 10 万人に約 1.3 人と推定されていま
す
5.2.2. 末梢神経系
MPS Ⅱ患者では、手根管症候群の症状が通常みられま
す。屈曲腱の肥厚によって、弾発指が発生する場合もあり
。
91
ます。神経伝導試験を行い、異常があれば正中神経の外科
5.2. 臨床症状
的減圧療法が有効となります 92。
MPS Ⅱは、MPS Ⅰと同様に発症年齢、発症形態、進行
速度および合併症に多様な臨床症状を示すことが知られて
います。知能障害の程度により軽症型と重症型に分類され
MPS Ⅱでは、生後直後には骨関節の障害はみられず、
ています。その臨床症状は角膜混濁が MPS Ⅱではみられ
2歳頃から関節変形に伴う可動域障害をみるようになりま
ないことを除き、MPS Ⅰのハーラー症候群(重症型)と
す。X 線写真所見では、あらゆる骨の肥厚・肥大が確認され、
類似しています。2 ~ 4 歳頃から再発性中耳炎や鼻炎、関
手・肘・肩関節の骨端核の形成異常がみられます。このよ
節拘縮、肝脾腫、骨変形、特異的顔貌、低身長、精神発達
うな多発性骨異形成を引き起こし、股関節異形成、関節症、
遅滞がみられ始めます。聴力、視力、呼吸機能、心血管機
関節痛などを伴います。
能のいずれにも影響が現れます。5 ~ 6 歳以降に症状の進
身長に関しては、4 ~ 5 歳までは比較的高身長ですが、
行が見られ、活動性が低下し、言語の退行もみられます。
その後、低身長の傾向が認められるとされています(図
10 歳以降に寝たきり状態となり、多くは循環呼吸器不全、
17)
。
股関節、
手関節を中心に、
ほぼ全ての関節にこわばり感、
呼吸器感染症で死亡することが多いとされています
疼痛および屈曲拘縮が現れます
(図18)
。歩行能力が低下し、
。
76
一方、軽症型の患者は、知的障害を伴うことはほとんど
なく、5 ~ 8 歳頃に骨変形、関節拘縮などには気がつくこ
とが多いとされています。症状は重症型より軽度であり、
22
5.2.3. 筋骨格系
最終的には、車椅子の使用を余儀なくされます 92。
ムコ多糖症Ⅱ型
表 7 ムコ多糖症Ⅱ型でみられる徴候および症状
臓器・器官系
一般
中枢神経系
徴候/症状
あらゆる臨床症状による生活の質(QOL)の
低下
臓器・器官系
眼
まれに緑内障
視神経萎縮、ぶどう膜滲出症候群
学習障害、言語発達遅滞(重症型)
筋骨格系
横靭帯の肥厚、歯状突起
難聴
肺・上気道
再発性上気道感染症
手の機能不全(屈曲拘縮、手根管症候群)
慢性再発性鼻炎、明確な感染を伴わない鼻漏
弾発指
扁桃肥大およびアデノイド
多発性骨異形成、骨格異常
気管狭窄、舌肥大
関節痛、こわばり感および拘縮を伴う進行性の
関節障害
睡眠時無呼吸およびそれに伴う疲労・日中の傾眠
鷲手変形
喘鳴(特に夜間)
、肺胸郭変形
低身長
/皮膚
上気道狭窄による重度のイビキや睡眠時無呼吸
再発性中耳炎
歩行能力低下
頭部/顔面
耳鼻咽喉
脊髄圧迫(頚髄症)、脊椎変形
頭痛、視神経乳頭浮腫、嘔吐
末梢神経系
視力障害、乳頭浮腫
周辺視力の低下と夜盲を伴う網膜変性
認知機能および運動発達障害、進行性の重度精
神発達遅滞(重症型)
強直間代発作
徴候/症状
低換気症候群、ガス交換機能障害
心臓
特異的顔貌:鼻の平坦化、鼻翼・口唇・耳朶の
肥厚、舌の肥大
左室肥大
心筋症、不整脈
巨大な頭部、突出した前額部、短頚
皮膚の肥厚、象牙色の丘疹(背部、上腕、大腿
外側部)
多毛症:藁のような粗剛な毛髪、直毛
歯牙萌出遅延:形が異常で先端が尖った歯、歯
肉の肥厚
心弁膜症、大動脈弁と僧帽弁の狭窄および閉鎖
不全
心不全、うっ血性心不全
腹部内臓
臍/鼠径ヘルニア(再発性)
/消化管
肝臓・脾臓腫大
腹部膨満感、腹部不快感、嘔吐
水様下痢
23
5.2.4. 頭部/顔面/皮膚
口腔顔面部結合組織への GAG 沈着および骨形成不全に
より特異的顔貌を示します(図 19)
。重症型では3歳頃よ
り顕著化するようになります。舌の肥大や鼻翼・口唇・耳
朶の肥厚、頭蓋冠の肥厚による巨大な頭部、突出した前額
部、短頚がみられます。皮膚では、皮膚の肥厚がみられ、
多血症による紅潮がしばしば現れます。また、肩甲骨から
上腕、大腿外側にかけて象牙色の丘疹が発現しますが、こ
れは MPS Ⅱに特徴的な症状とされています 93。ほかにも
多毛症、髪質の異常(藁のような粗剛な毛髪)、先端が尖っ
た歯、歯肉の肥厚などが現れます 92, 94。
5.2.5. 眼
MPS Ⅱでは、MPS Ⅰで特徴的とされる角膜混濁は、認
められないとされています。しかし、細隙灯顕微鏡(スリッ
トランプ)検査により、視力には影響を及ぼさない、散在
性の角膜病変が認められます。MPS Ⅱでは、眼科の症状
として頭蓋内圧の上昇を伴わない乳頭浮腫や網膜変性など
が発生する場合があります。重症型の患者では、まれに緑
内障がみられます。他にも視神経乳頭浮腫、ぶどう膜滲出
症候群などが報告されています 92。
図 17 MPS Ⅱ患者の全身像(低身長)
図 18 MPS Ⅱ患者の手関節の拘縮
24
図 19 MPS Ⅱの特異的顔貌
ムコ多糖症Ⅱ型
5.3. 診断
5.2.6. 耳鼻咽喉
MPS Ⅱでは、難聴がよく見られ、伝音障害および感音
MPS Ⅱは他の疾患と同じ兆候や症状を示すことが多い
障害の両方に起因するとされています。滲出性中耳炎なら
ため、診断が遅れることが多いとされています。患者が様々
びに鼓室と乳突洞の異常は、MPS Ⅱにおける難聴の発症
な分野の専門医を受診するため、集学的な診察が必須です。
に関連しているとされています。口咽頭への GAG 沈着な
初診時に MPS Ⅱとの鑑別診断を要する疾患は以下の通り
どによる耳管の機能不全、耳小骨の変形、鼓膜の損傷、内
です。
耳神経の損傷などが背景にあります
。
92
5.2.7. 呼吸器
MPS Ⅱでは通常、再発性上気道感染症や慢性再発性鼻
炎などを繰り返します。
扁桃やアデノイドが肥大し、声帯の肥厚や気管軟化症
表 8 ムコ多糖症Ⅱ型と鑑別を要する疾患(一部のみ抜粋)
•(若年性)関節リウマチ
• 関節拘縮症
• 特発性関節リウマチ
• 軟骨疾患
など上気道の複合病変を形成します。夜間に喘鳴が顕著
• ムコ多糖症の他の病型
になり、病状が進行すると睡眠時無呼吸がみられ、麻酔
• マルチプルスルファターゼ欠損症
時のリスクが上昇します。進行とともに肺胸郭変形が進
みます 92。
5.3.1. 生化学検査
5.2.8. 心血管
ムコ多糖症が臨床的に疑われる場合、尿中 GAG の定量
MPS Ⅱでは通常、心エコー検査によって、弁肥厚を示
(および定性)検査が補助診断方法として有用です。MPS
す所見がみられます。僧帽弁、大動脈弁の閉鎖不全および
Ⅱの確定診断は、白血球、血漿または培養皮膚線維芽細胞
狭窄がみられ、疾患の進行とともに心筋症による不整脈の
のイズロン酸 -2- スルファターゼ(I2S)活性が低下また
リスクが上昇します。弁置換術が必要となり、細菌性心内
は欠損していることを確認することにより得られます 89。
膜炎の予防にも留意が必要です 92。
5.3.2. 変異解析
5.2.9. 消化管
現在までに、イズロン酸 -2- スルファターゼ(I2S)を
再発性の臍/鼠径ヘルニアは MPS Ⅱでは通常出現する
コードする遺伝子について、330 種類以上の病原遺伝子
症状です。GAG の臓器への蓄積により肝臓・脾臓腫大が
変異が同定されています 95。MPS Ⅱの約 20% の患者で
みられます。また、腹部不快感や腹部膨満感がみられます。
遺伝子欠失、挿入、再構成が報告され 96、FMR2 などの遺
水様下痢は消化吸収不良の原因となります 92。
伝子欠損などが重症化に関連していることが報告されてい
ます 76。約 80% 前後の患者で原因遺伝子変異(W12X、
5.2.10. 生活の質
A85T、P86L、R172X、S333L、G374G、R443X、
重症型では、中枢神経機能の低下、全身機能の障害、社
R468W、R468Q)が見られています 95, 97--99。MPS Ⅱ
会的機能低下などによって QOL が進行的に低下します。
では遺伝子変異が多彩であるため、遺伝子型と病型に明確
また、睡眠時無呼吸症候群による睡眠障害、関節可動性や
な関連性を見出すことは難しいと考えられています。
持久力の進行的な低下、難聴や慢性の下痢なども QOL を
低下させます。
25
6. ポンペ病(糖原病Ⅱ型)
6.1. 序文
10,000 人と推定されます。
ポンペ病(別名:酸性マルターゼ欠損症[AMD]、糖原
病Ⅱ型[GSD- Ⅱ]
)とは、酸性α- グルコシダーゼの活
性が欠損または不足しているために生じるライソゾーム病
6.2. 臨床症状
これまでポンペ病患者は発症年齢、臓器病変の重症度、
です 100。酸性α- グルコシダーゼはライソゾーム内に存在
死亡に至るまでの進行速度に基づいて、数多くの病型に分
し、細胞内グリコーゲンの 1 ~ 3% を占めるライソゾーム
類されてきました 100, 104。しかしポンペ病の臨床症状は、
内のグリコーゲンを分解する酵素です。この酵素の欠損ま
幅のある連続的な疾患スペクトラムを示し、各病型間で重
たは不足によって体内の様々な組織のライソゾーム内にグ
複しています 100。そのため最近では、発症年齢が生後 6 ヵ
リコーゲンが蓄積し、特に心臓・呼吸器・筋骨格系の組織
月未満で重度の心筋症および筋緊張低下(フロッピーイン
で細胞機能障害や細胞死が生じます(図 20)
。その
ファント)がみられる乳児型、発症年齢が生後 6 ~ 12 ヵ
ため、ポンペ病の臨床症状は極めて多岐にわたります。最
月以降で重度の心筋症は来さないが、骨格筋が主に罹患す
も重症型である乳児型の場合、患者の多くが心肥大、呼吸
る進行性のミオパチーを特徴とする小児型、発症年齢が成
機能障害および筋緊張低下を有し、その 80% が心肺不全
人期以降で心臓の障害はまれであり、骨格筋が主に罹患す
によって生後 1 年以内に死亡するとされています。小児型・
る緩徐進行性のミオパチーを特徴とする成人型の 3 つに大
成人型であっても、筋力低下や呼吸機能障害が進行するた
別され、小児型と成人型を合わせて遅発型とする場合もあ
めに車椅子や人工呼吸器が必要となり、最終的には小児期
ります。推定では、ポンペ病患者の約 3 分の 1 は急速に進
早期~成人後期に死亡することが多いとされています。
行し死に至る乳児型で 102、3 分の 2 は進行が乳児型に比
100, 101
較すると緩やかな小児型、成人型とされています。
ポンペ病は常染色体劣性遺伝性疾患です。現在のとこ
ろ、ポンペ病の有病率は 4 万人に 1 人と推定されていま
す 102, 103。この数字から、全世界の患者数は 5,000 ~
筋原線維の間にあるライソゾーム内
グリコーゲン
筋原線維
細胞周囲に蓄積したライソゾーム内
グリコーゲン
膜が破裂したライソゾームと大
量のグリコーゲン
図 20 ポンペ病患者の筋細胞の電子顕微鏡像
26
ポンペ病
6.2.1. 乳児型ポンペ病
乳児型ポンペ病は出生時には明らかな症状がみられま
せんが、生後数ヵ月以内に急速に進行するのが一般的で
す(表 9)。報告では平均発症齢は生後約 6 週間とされて
います 105。心臓および骨格筋にグリコーゲンが大量に蓄
積することによって進行性の心筋症、全身の筋力低下、
筋緊張低下(フロッピーインファント:図 21)に至りま
す 100, 101。筋力低下が早期から進行するために、自発運動
図 21 フロッピーインファントを呈する乳児型ポンぺ病患者
の低下がみられます。また、横隔膜や他の呼吸筋の筋力低
下によって、呼吸機能障害が生じます。哺乳困難および体
重増加不良が早期から認められる場合もあります。運動発
達は完全に停滞することが多いとされています。一定の運
動能力に達しても、最終的には運動機能は消失します。臨
床検査では、一般に中等度の肝腫大が見つかり、場合によ
り巨舌症が見つかることもあります。しかし、最も特徴的
な徴候は顕著な心肥大(図 22)で、左室肥厚を伴い、流
出路閉塞が生じることもあります 100。通常、精神発達へ
の影響は認められていません。一般的に生後 1 年以内に心
肺不全により死亡するとされています 100, 104。
図 22 乳児型ポンペ病患者の胸部 X 線像:著明な心肥大が認められ
る(B. Byrne, MD の許可を得て掲載)。
表 9 乳児型ポンペ病でみられる徴候および症状
臓器・器官系
筋骨格系
徴候/症状
急速に進行する筋力低下
(筋緊張低下/頚定不良;floppy infant)
運動発達遅延
臓器・器官系
呼吸器
頻回の呼吸器感染
誤嚥性肺炎
心臓
哺乳困難
徴候/症状
心肥大/心筋症
心不全
発育不全
消化器
肝腫大
巨舌症
表 10 小児型、成人型ポンペ病でみられる徴候および症状
臓器・器官系
筋骨格系
徴候/症状
進行性の近位筋の筋力低下
(特に体幹および下肢)
臓器・器官系
呼吸器
息切れ、労作性疲労
腰痛
呼吸器感染
側弯症
Gowers 徴候
起坐呼吸
閉塞性睡眠時無呼吸
歩行異常(動揺性歩行、爪先歩行)
翼状肩甲
徴候/症状
再発性の気胸
その他
朝の頭痛
日中の傾眠
運動機能発達遅延(小児)
27
6.2.2. 小児型、成人型ポンペ病
す。一般に、換気障害を伴う呼吸筋の筋力低下は死に至る
小児型は生後 6 ~ 12 ヵ月以降、成人型は成人期以降に
可能性の高い症状です。呼吸不全の進行に伴って朝の頭痛、
発症し、その症状も多岐にわたります(表 10)
。小児型、
起坐呼吸、労作性疲労、閉塞性睡眠時無呼吸、日中の傾眠
成人型は臨床的特徴も様々で、臨床症状や進行も乳児型に
などが現れることがあります。横隔膜の筋力低下が進行す
比べて多様です 106。小児型患者では運動機能発達の遅れ
ると、臥位の肺活量が立位に比べて低下(10% 以上低下)
や筋機能の低下がみられますが、通常、知能は正常です。
するため、これも睡眠時の低酸素症の原因となります。肺
多くの場合、初発症状として歩行困難や階段の昇降困難が
活量は呼吸筋の機能と相関すると考えられています 108。
現れ、進行性の近位筋筋力低下が生じます。通常、腕より
Gowers 徴候(図 23)がみられる場合もあります。
も足の筋力低下のほうが深刻とされています。その後、体
幹筋の筋力低下症状(側弯症、腰痛)や主な呼吸筋である
小児型、成人型ポンペ病の経過は多様であるため、病
横隔膜の筋力低下症状(息切れ)が現れる場合もありま
状および寿命を予測することは困難です。早い段階(小
す
。一方、筋力低下症状の前に呼吸器系の症状が現れ
児期)で発症する場合も、遅い段階(成人期以降)で発
る患者もいます。乳児型と同様に、通常、筋緊張低下およ
症する場合もあり、5 ~ 25 年にわたり進行性の経過を
び呼吸機能障害が認められます。動揺性歩行や爪先歩行を
とることが多いとされています。症状が比較的軽い患者
示す患者もいます。また、巨舌症や肝腫大を発症する場合
では、数年にわたりほとんど障害がなく機能が維持され
もあります
る場合もあります。しかし、やがて車椅子が必要となり、
100
。
100
最終的には非侵襲的/侵襲的人工呼吸器が必要となる場
成人型患者でも進行性ミオパチーがみられ、特に体幹お
合が多いとされています 100, 109。小児型ポンぺ病患者は
よび下肢で顕著です。全ての部位に等しく影響が現れるわ
通常 30 代まで生存しますが、それ以降に発症した患者の
けではなく、遠位筋の筋力低下や翼状肩甲も報告されてい
転帰にはばらつきがみられます。死因の多くは呼吸不全
ます 107。呼吸器系の症状は、全ての患者にみられるわけ
です 100。機能状態の予測因子としては、発症年齢よりも
ではありませんが、早い段階で発現すればポンペ病を他の
罹患期間の方が関与するという結果が 1 件の大規模試験
神経・筋疾患と鑑別するための臨床的特徴として役立ちま
で報告されています 110。
6.2.3. QOL
乳児型ポンペ病は重度の機能障害に陥り、非常に早い
時期に死亡することから、患者およびその介護者の生活
の質に大きな影響を与えます 100, 109。小児型、成人型ポ
ンペ病の患者でも、QOL が身体的健康面で大きく低下し
ます 111。メンタルヘルス面は、進行期であっても維持さ
れることが多いとされています。重度の呼吸機能障害を
呈する患者では人工呼吸器や気管切開術により QOL が向
上し、生存が延長する場合もあります。
図 23 Gowers 徴候:起立する時に膝に手を当てて脚を伸ばした状態
に保ち、太腿に沿って手を上方に「這わせながら」体幹を起こす動作
28
ポンペ病
6.3. 診断
を確認します 100。現在のところ培養皮膚線維芽細胞を用
乳児型ポンペ病は稀な疾患なため、発症から診断までの
いた酵素活性検査が最も信頼できますが、実施に数週間か
。進行が
かるため、乳児型ポンペ病患者に使用するのは問題があり
緩やかな患者では、初期症状が潜行性で軽度なことが多い
ます。そのため、ろ紙血、または全血よりリンパ球を精製
ため、診断が困難な場合が多いとされています 106。ポン
し検査が行われています。他のライソゾーム病では酵素測
ペ病と類似した徴候や症状を示す疾患は表 11 の通りです。
定の際、白血球を検体として用いますがポンペ病の場合中
ポンペ病と他の疾患を鑑別するのに重要な検査としては、
性α - グルコシダーゼ活性も混在してしまうので注意が必
生化学検査(酵素活性測定)
、病理組織学的検査(筋生検)
要です。
貴重な時間が失われることが多くみられます
101
があり、その他補助的な検査として乳児型の場合、胸部 X
通常、培養皮膚線維芽細胞の酸性α - グルコシダーゼ残
線検査/心エコー検査/心電図(ECG)
、小児型、成人型
存酵素活性は病型と相関性があるとされています 101。残
の場合、呼吸機能検査/筋電図検査/筋 CT 検査などがあ
存酵素活性は、乳児型患者で正常酵素活性の 1% 未満、小
ります。
児型患者で 10% 未満、成人型患者で 40% 未満であるこ
表 11 ポンペ病と類似した徴候や症状を示す疾患
〈乳児型ポンペ病〉
• Werdnig-Hoffmann 病(脊髄性筋萎縮症Ⅰ型)
とが多いとされています。筋生検によってグリコーゲン蓄
積量に関する病理組織学的情報が得られますが、グリコー
ゲン蓄積量は筋生検の部位によって異なるため注意を要し
ます 101。クレアチンキナーゼ(CK)は、ポンペ病を比較
• 甲状腺機能低下症
的高感度に検出できるバイオマーカー(ただし非特異的)
• 心内膜線維弾性症
であるため、CK を簡易的に測定することもあります 112。
• 心筋炎
乳児型患者では著しい CK 上昇(~ 2000 IU/L)が認め
• 先天性筋ジストロフィー
られる可能性がありますが 113、成人型患者では CK が正
• その他の糖原病
常範囲内である場合もあります。また、ポンペ病は他の糖
• ミトコンドリア病
原病と異なり低血糖症を引き起こすことはないとされてい
• 特発性肥大型心筋症
• ペルオキシソーム病
〈小児、成人型ポンペ病〉
• 肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)
• ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)
• 肩甲腓骨型筋症候群
• 脊椎硬直症候群
• 重症筋無力症
• 多発筋炎/皮膚筋炎
• その他の糖原病
• Danon 病
ます。
ポンペ病は重篤な遺伝性疾患であり、ポンペ病に罹患した
子をもつ両親が次子を希望する際に、出生前診断が考慮され
ます。出生前診断での検体採取方法には羊水穿刺、絨毛穿刺
などがあり、それぞれにメリット、デメリットがあります。
検査方法には酵素活性測定、また、発端者の病因遺伝子変異
が同定されている場合は遺伝子解析が行われます 114。
6.3.2. 遺伝子解析
ポンペ病は、第 17 染色体長腕(17q)に存在する酸
• 関節リウマチ
性α - グルコシダーゼ遺伝子の変異により生じる疾患で
• ミトコンドリアミオパチー
す 100。この遺伝子では、現在までに、ポンペ病を引き起
こす 120 個以上の変異が同定されています 101。変異の種
類を臨床病型の予測因子として使用できる場合もありま
6.3.1. 生化学検査(酵素活性検査)
ポンペ病の確定診断は、培養皮膚線維芽細胞、生検筋、
精製リンパ球の酸性α - グルコシダーゼ活性の低下/欠損
す。たとえば、成人型の白人患者の半数以上が同一の遺伝
子変異を有しています。しかし、遺伝子型と病型に関連性
がみられない例も複数報告されています 100。
29
7. 治療管理
治療の選択肢は LSD ごとに異なり、患者には様々な治
IgG 抗体の産生がみられる場合もあります。IgG 抗体が陽
療法が行われています。透析、手術、理学療法などの対症
性となった患者は、過敏反応を起こすリスクが高いとの報
療法は症状の管理に有効ですが、これらの治療法は疾患の
告があります 116, 118, 120, 122。
原因そのものを治すものではないため、疾患の進行を止め
ることは不可能です 115。それに対し、疾患特異的な療法
ゴーシェ病については、国際的な専門家委員会が共同
は疾患の原因となる酵素や蓄積基質を標的とするもので、
で、小児患者 10, 11, 124 および成人患者 125, 126 に対する治
現在では数種類の LSD に実施可能です。そのような疾患
療およびモニタリングについての推奨案をまとめていま
特異的な療法として酵素補充療法、ケミカルシャペロン療
す。また、臨床データの包括的かつ専門的なレビューに
法、基質阻害療法、造血幹細胞移植(HSCT)
、遺伝子治
基づいて、ゴーシェ病の疾患管理モデルが策定されてい
療などが挙げられます 。現在、酵素補充療法についての
ます 117。そこには、患者が呈する可能性のある全ての臓
広範な臨床経験が得られています。
器における一連の症状に対し、治療を個別化するための
2
情報も含まれています。
酵素補充療法とは、欠損酵素を定期的に体内に補充する
ケミカルシャペロン療法は、タンパク質の構造上の折り
治療法です。酵素補充療法の最初の研究が開始されたのは
たたみや輸送の異常を起こす遺伝子変異をもつ患者に対す
1960 年代半ばです。1980 年代に胎盤由来の ß- グルコ
る治療法として注目されています。ケミカルシャペロンは、
セレブロシダーゼの臨床試験が実施され、ゴーシェ病の酵
折りたたみに異常があるタンパク質や不安定なタンパク質
素補充療法が可能となりました。1990 年代初頭には遺伝
の働きを正常化することにより、症状を改善することを目
子組換え技術の進歩により、CHO(Chinese Hamster
的としています 127。
Ovary)細胞由来の ß- グルコセレブロシダーゼであるイミ
グルセラーゼ 116 を大量に製造することが可能となりまし
基質阻害療法とは、酵素欠損により蓄積する基質の合
成速度を低下させることを目的とした療法です。近年、
た。
イミグルセラーゼを静脈内投与することによりライソ
欧米において軽度~中等度の非神経型ゴーシェ病で、酵
ゾーム内に取り込ませ、ライソゾーム内のグルコセレブロ
素補充療法が適さない患者の治療として基質阻害療法が適
シドを分解促進させる治療法は、ゴーシェ病の諸症状(貧
用となっています 128。
血、血小板減少症、肝脾腫および骨症状)を改善すること
が示されています。イミグルセラーゼはまた、疾患の進行
HSCT(hematopoietic stem cell transplant) は、
や不可逆的な症状の発症を抑制するうえでも有効であると
造血幹細胞(骨髄から採取するのが一般的ですが、臍帯血
されています
115
から採取することもあります)
を静脈内に投与すること
。
117
によって、それが骨髄に生着し、欠損酵素を産生すること
欠損酵素を体内に補充する酵素補充療法は、他のライ
により代謝を是正する療法です。HSCT は 1980 年代に
ソゾーム病にも有効であることが立証されており、たと
初めて実施 2 されて以来、主に重症型 MPS Ⅰ患者群に対
えば、ファブリー病(アガルシダーゼ ベータ、アガル
して実施されています。HSCT には、合致するドナーを見
シダーゼ アルファ)
つけるのが困難なこと、生着不全や拒絶のリスクがあるこ
ダーゼ)
79, 120
118, 119
、ムコ多糖症Ⅰ型(ラロニ
、ムコ多糖症Ⅱ型(イデュルスルファー
ゼ)92, 121、ポンペ病(糖原病Ⅱ型)(アルグルコシダー
課題やリスクがあります。しかし、HSCT を初期段階のハー
ゼ アルファ)
ラー症候群患者に施行したところ肯定的な結果が得られて
122, 123
ならびにムコ多糖症Ⅵ型(ガルス
ルファーゼ)などがあります。
酵素補充療法を行った場合、これらの補充酵素に対する
30
と 129、および移植前処置に身体的負担があること 115 など、
います 2。現在では、酵素補充療法と HSCT の併用療法が
試みられています。
ゴーシェ病患者では骨髄移植(および脾摘除術)によ
る、合併症と死亡との相関性が認められており、推奨さ
れていません 130。また、ポンペ病(糖原病Ⅱ型)患者
に骨髄移植を施しても、良好な結果は得られていませ
ん 131, 132。
現在行われている遺伝子治療とは、ベクターに組みこん
だ正常遺伝子を細胞に導入し、この細胞を患者に投与する、
あるいはベクターに組みこんだ正常遺伝子を患者に直接投
与することにより、酵素蛋白を産生させ代謝経路を是正す
る治療法です。遺伝子治療はまだ前臨床(動物)試験の段
階であり、特に遺伝子を運ぶベクターの選定については、
更に多くの研究が必要です 2。また遺伝子変異を直接修復
する遺伝子治療は、現在のところ実験レベルでも成功して
いません。
現在、ゴーシェ病、ファブリー病、MPS Ⅰ(ムコ多糖
症Ⅰ型)、MPS Ⅱ(ムコ多糖症Ⅱ型)およびポンペ病(糖
原病Ⅱ型)患者についてのデータを長期的に収集し体系的
なデータベースに登録する研究が推進されています。この
事業により、疾患の自然経過、治療の長期安全性および成
果についての理解が深まると期待されています。
31
8. 参考文献
Gaucher’s disease: genetic and epigenetic determinants of phenotype
1.Meikle PJ, Ranieri E, Simonsen H, et al. Newborn screening for lysosomal
and response to therapy. Mol Genet Metab 2002;77(1-2):91.
storage disorders: clinical evaluation of a two-tier strategy. Pediatrics
2004;114(4):909-16.
25.Sidransky E. New perspectives in type 2 Gaucher disease. Adv Pediatr
1997;44(73):73-107.
2.Wilcox WR. Lysosomal storage disorders: the need for better pediatric
recognition and comprehensive care. J Pediatr 2004;144:3-14.
26.Winkelman MD, Banker BQ, Victor M, et al. Non-infantile neuronopathic
Gaucher’s disease: a clinicopathologic study. Neurology 1983;33(8):994-
3.Meikle PJ, Hopwood JJ, Clague AE, et al. Prevalence of lysosomal
1008.
storage disorders. JAMA 1999;281(3):249-54.
4.de Duve C, Pressman B, Gianetto R, et al. Tissue fractionation studies.
27.Ida H, Rennert OM, Iwasawa K, et al. Clinical and genetic studies of
Japanese homozygotes for the Gaucher disease L444P mutation. Hum
Intracellular distribution patterns of enzymes in rat liver. Biochem J
Genet 1999;105(1-2):120-6.
1955;60:604.
5.Hers H. Alpha-glucosidase deficiency in generalized glycogen-storage
28.Patterson MC, Horowitz M, Abel RB, et al. Isolated horizontal supranuclear
gaze palsy as a marker of severe systemic involvement in Gaucher’s
disease (Pompe’s disease). Biochem J 1963;86:11-6.
disease. Neurology 1993;43(10):1993-7.
6.Wenger DA, Coppola S, Liu SL. Insights into the diagnosis and treatment
of lysosomal storage diseases. Arch Neurol 2003;60(3):322-8.
29.Bembi B, Marsala SZ, Sidransky E, et al. Gaucher’s disease with
7.Beutler E, Grabowski G. Gaucher disease. In: Scriver C, Beaudet A,
Parkinson’s disease - Clinical and pathological aspects. Neurology
2003;61(1):99-101.
Sly W, Valle D (eds). The metabolic and molecular bases of inherited
disease, 8th Ed. New York, New York: McGraw-Hill; 2001:3635-68.
30.Abrahamov A, Elstein D, Gross-Tsur V, et al. Gaucher’s disease variant
characterised by progressive calcification of heart valves and unique
8.Zimran A, Gelbart T, Westwood B, et al. High frequency of the Gaucher
genotype. Lancet 1995;346(8981):1000-3.
disease mutation at nucleotide 1226 among Ashkenazi Jews. Am J Hum
Genet 1991;49(4):855-9.
31.Brautbar A, Elstein D, Pines G, et al. Effect of enzyme replacement
9.ジェンザイム・ジャパン(株)社内資料
therapy on gammopathies in Gaucher disease. Blood Cells Mol Dis
2004;32(1):214-7.
10.Charrow J, Andersson HC, Kaplan P, et al. Enzyme replacement therapy
and monitoring for children with type 1 Gaucher disease: consensus
32.Shiran A, Brenner B, Laor A, et al. Increased risk of cancer in patients
with Gaucher disease. Cancer 1993;72(1):219-24.
recommendations. J Pediatr 2004;144(1):112-20.
11.Grabowski GA, Andria G, Baldellou A, et al. Pediatric non-neuronopathic
33.Damiano AM, Pastores GM, Ware JE, Jr. The health-related quality of life
of adults with Gaucher’s disease receiving enzyme replacement therapy:
Gaucher disease: presentation, diagnosis and assessment. Consensus
results from a retrospective study. Qual Life Res 1998;7(5):373-86.
statements. Eur J Pediatr 2004;163(2):58-66.
12.Katz K, Horev G, Grunebaum M, et al. The natural history of osteonecrosis
34.Masek BJ, Sims KB, Bove CM, et al. Quality of life assessment in adults
with type 1 Gaucher disease. Qual Life Res 1999;8:263-8.
of the femoral head in children and adolescents who have Gaucher
disease. J Bone Joint Surg 1996;78(1):14-9.
35.Beutler E, Kuhl W, Trinidad F, et al. Beta-glucosidase activity in fibroblasts
from homozygotes and heterozygotes for Gaucher’s disease. Am J Hum
13.Maas M, Poll LW, Terk MR. Imaging and quantifying skeletal involvement
Genet 1971;23(1):62-6.
in Gaucher disease. Br J Radiol 2002;75:13-24.
14.Mankin H, Rosenthal D, Xavier R. Current concepts review Gaucher
36.Alterini R, Rigacci L, Stefanacci S. Pseudo-Gaucher cells in the bone
marrow of a patient with centrocytic nodular non-Hodgkin’s lymphoma.
disease new approaches to an ancient disease. J Bone Joint Surg
Haematologica 1996;81(3):282-3.
2001;83(5):748-62.
15.Stowens DW, Teitelbaum SL, Kahn AJ, et al. Skeletal complications of
37.Koprivica V, Stone DL, Park JK, et al. Analysis and classification of 304
Gaucher disease. Medicine 1985;64(5):310-22.
mutant alleles in patients with type 1 and type 3 Gaucher disease. Am J
Hum Genet 2000;66(6):1777-86.
16.Kaplan P, Mazur A, Manor O, et al. Acceleration of retarded growth in
children with Gaucher disease after treatment with alglucerase. J Pediatr
38.Hollak CE, Maas M, Aerts JM. Clinically relevant therapeutic endpoints
1996;129(1):149-53.
17.Hollak CE, Levi M, Berends F, et al. Coagulation abnormalities in
in type I Gaucher disease. J Inherit Metab Dis 2001;24:97-105.
39.Boot RG, Verhoek M, de Fost M, et al. Marked elevation of the chemokine
CCL18/PARC in Gaucher disease: a novel surrogate marker for assessing
type 1 Gaucher disease are due to low- grade activation and can be
partly restored by enzyme supplementation therapy. Br J Haematol
1997;96(3):470-6.
therapeutic intervention. Blood 2004;103(1):33-9.
40.Desnick R, Ioannou Y, Eng C. alpha-Galactosidase A deficiency: Fabry
disease. In: Scriver CR BA, Sly WS, Valle D (eds). The metabolic and
18.Xu R, Mistry P, McKenna G, et al. Hepatocellular carcinoma in type 1
molecular bases of inherited disease, 8th Ed. New York, New York:
Gaucher disease: a case report with review of the literature. Semin Liver
McGraw-Hill; 2001:3733-74.
Dis 2005;25(2):226-9.
19.Zimran A, Altarescu G, Rudensky B, et al. Survey of hematological
aspects of Gaucher disease. Hematology 2005;10(2):151-6.
20.Zhang B, Lewis SM. Splenic hematocrit and the splenic plasma pool. Br
J Haematol 1987;66:97-102.
21.Aker M, Zimran A, Abrahamov A, et al. Abnormal neutrophil chemotaxis
in Gaucher disease. Br J Haematol 1993;83(2):187-91.
22.Radin NS. Infections and glycolipids. Postgrad Med J 2003;79(929):185.
23.Miller A, Brown LK, Pastores GM, et al. Pulmonary involvement in type
1 Gaucher disease: functional and exercise findings in patients with and
without clinical interstitial lung disease. Clin Genet 2003;63(5):368-76.
24.Mistry P, Sirrs S, Chan A, et al. Pulmonary hypertension in type 1
32
41.Nakao S, Takenaka T, Maeda M, et al. An atypical variant of Fabry’s
disease in men with left ventricular hypertrophy. N Engl J Med
1995;333(5):288-93.
42.Elleder M, Bradova V, Smid F, et al. Cardiocyte storage and hypertrophy
as a sole manifestation of Fabry’s disease. Report on a case simulating
hypertrophic non-obstructive cardiomyopathy. Virch Arch A Pathol Anat
Histopathol 1990;417(5):449-55.
43.Mehta A, Ricci R, Widmer U, et al. Fabry disease defined: baseline clinical
manifestations of 366 patients in the Fabry Outcome Survey. Eur J Clin
Invest 2004;34(3):236-42.
44.Branton MH, Schiffmann R, Sabnis SG, et al. Natural history of Fabry
renal disease: influence of alpha-galactosidase A activity and genetic
mutations on clinical course. Medicine 2002;81(2):122-38.
45.Desnick RJ, Brady R, Barranger J, et al. Fabry disease, an underrecognized multisystemic disorder: expert recommendations for
diagnosis, management, and enzyme replacement therapy. Ann Intern
Med 2003;138(4):338-46.
46.Kampmann C, Wiethoff CM, Perrot A, et al. The heart in Anderson Fabry
disease. Zeitsch Kardiol 2002;91(10):786-95.
47.Linhart A, Magage S, Palecek T, et al. Cardiac involvement in Fabry
disease. Acta Paediatr 2002;91(439):15-20.
48.Mitsias P, Levine SR. Cerebrovascular complications of Fabry’s disease.
Ann Neurol 1996;40(1):8-17.
49.Grewal RP. Stroke in Fabry’s disease. J Neurol 1994;241(3):153-6.
50.Morgan SH, Rudge P, Smith SJ, et al. The neurological complications
of Anderson-Fabry disease (alpha-galactosidase A deficiency)investigation of symptomatic and presymptomatic patients. Q J Med
1990;75(277):491-507.
51.Ohnishi A, Dyck PJ. Loss of small peripheral sensory neurons in Fabry
disease. Histologic and morphometric evaluation of cutaneous nerves,
spinal ganglia, and posterior columns. Arch Neurol 1974;31(2):120-7.
52.Hilz MJ, Brys M, Marthol H, et al. Enzyme replacement therapy improves
function of C-, Adelta-, and Abeta-nerve fibers in Fabry neuropathy.
Neurology 2004;62(7):1066-72.
53.Mohrenschlager M, Braun-Falco M, Ring J, et al. Fabry disease:
Recognition and management of cutaneous manifestations. Am J Clin
Dermatol 2003;4(3):189-96.
54.Cable WJ, Kolodny EH, Adams RD. Fabry disease: impaired autonomic
function. Neurology 1982;32(5):498-502.
55.Lao LM, Kumakiri M, Mima H, et al. The ultrastructural characteristics
of eccrine sweat glands in a Fabry disease patient with hypohidrosis. J
Dermatol Sci 1998;18(2):109-17.
56.Franceschetti AT. Fabry disease: ocular manifestations. Birth Defects
Orig Artic Ser 1976;12(3):195-208.
57.Sher NA, Letson RD, Desnick RJ. The ocular manifestations in Fabry’s
disease. Arch Ophthalmol 1979;97(4):671-6.
58.Okubo H. Several functional and fluorescein fundus angiographic findings
in Fabry’s disease. Ophthalmologica 1988;196(3):132-6.
59.Andersen MV, Dahl H, Fledelius H, et al. Central retinal artery occlusion
in a patient with Fabry’s disease documented by scanning laser
ophthalmoscopy. Acta Ophthalmol 1994;72(5):635-8.
60.Banikazemi M, Ullman T, Desnick RJ. Gastrointestinal manifestations of
Fabry disease: Clinical response to enzyme replacement therapy. Mol
Genet Metab 2005;85(4):255-9.
61.Sheth KJ, Werlin SL, Freeman ME, et al. Gastrointestinal structure and
function in Fabry’s disease. Am J Gastroenterol 1981;76(3):246-51.
62.Argoff CE, Barton NW, Brady RO, et al. Gastrointestinal symptoms and
delayed gastric emptying in Fabry’s disease: response to metoclopramide.
Nucl Med Commun 1998;19(9):887-91.
63.Sessa A, Meroni M, Battini G, et al. Renal pathological changes in Fabry
disease. J Inherit Metab Dis 2001;24(2):66-70.
64.DeGraba T, Azhar S, Dignat-George F, et al. Profile of endothelial and
leukocyte activation in Fabry patients. Ann Neurol 2000;47(2):229-33.
65.Germain D, Avan P, Chassaing A, et al. Patients affected with Fabry
disease have an increased incidence of progressive hearing loss and
sudden deafness: A study of twenty-two hemizygous male patients. BMC
Med Genet 2002;3(10).
66.MacDermot KD, Holmes A, Miners AH. Anderson-Fabry disease: clinical
manifestations and impact of disease in a cohort of 98 hemizygous males.
J Med Genet 2001;38(11):750-60.
67.Bierer G, Kamangar N, Galfe D, et al. Cardiopulmonary exercise testing
in Fabry disease. Respiration 2005;72(5):504-11.
68.Brown LK, Miller A, Bhuptani A, et al. Pulmonary involvement in Fabry
disease. Am J Respir Crit Care Med 1997;155(3):1004-10.
69.Germain DP, Benistan K, Boutouyrie P, et al. Osteopenia and
osteoporosis: previously unrecognized manifestations of Fabry disease.
Clin Genet 2005;68(1):93-5.
70.Grewal RP. Psychiatric disorders in patients with Fabry’s disease. Int J
Psych Med 1993;23(3):307-12.
71.Shelley ED, Shelley WB, Kurczynski TW. Painful fingers, heat intolerance,
and telangiectases of the ear: easily ignored childhood signs of Fabry
disease. Pediatr Dermatol 1995;12(3):215-9.
72.Kint JA. Fabry’s disease: alpha-galactosidase deficiency. Science
1970;167(922):1268-9.
73.Garman SC, Garboczi DN. The molecular defect leading to Fabry
disease: structure of human alpha-galactosidase. J Mol Biol
2004;337(2):319-35.
74.Knol IE, Ausems MG, Lindhout D, et al. Different phenotypic expression
in relatives with Fabry disease caused by a W226X mutation. Am J Med
Genet 1999;82(5):436-9.
75.Ashton-Prolla P, Ashley GA, Giugliani R, et al. Fabry disease:
comparison of enzymatic, linkage, and mutation analysis for carrier
detection in a family with a novel mutation (30delG). Am J Med Genet
1999;84(5):420-4.
76.Neufeld EF, Muenzer J. The Mucopolysaccharidoses. In: Scriver C,
Beaudet A, Sly W, Valle D (eds). The metabolic and molecular bases of
inherited disease, 8th Ed. New York, New York: McGraw-Hill; 2001:342152.
77.Vijay S, Wraith JE. Clinical presentation and follow-up of patients with the
attenuated phenotype of mucopolysaccharidosis type I. Acta Paediatr
2005;94(7):872-7.
78.Grewal SS, Wynn R, Abdenur JE, et al. Safety and efficacy of enzyme
replacement therapy in combination with hematopoietic stem cell
transplantation in Hurler syndrome. Genet Med 2005;7(2):143-6.
79.Wraith JE. The first 5 years of clinical experience with laronidase
enzyme replacement therapy for mucopolysaccharidosis I. Expert Opin
Pharmacother 2005;6(3):489-506.
80.Johnson MA, Desai S, Hugh-Jones K, et al. Magnetic resonance imaging
of the brain in Hurler syndrome. Am J Neuroradiol 1984;5(6):816-9.
81.Kachur E, Del Maestro R. Mucopolysaccharidoses and spinal cord
compression: case report and review of the literature with implications of
bone marrow transplantation. Neurosurgery 2000;47(1):223-8.
82.Van Meir N, De Smet L. Carpal tunnel syndrome in children. Acta Orthop
Belg 2003;69(5):387-95.
83.Shinhar S, Zablocki H, Madgy D. Airway management in
mucopolysaccharide storage disorders. Arch Otolaryngol Head Neck
Surg 2004;130(2):233-7.
84.Summers CG, Whitley CB, Holland EJ, et al. Dense peripheral corneal
clouding in Scheie syndrome. Cornea 1994;13(3):277-9.
85.Collins ML, Traboulsi EI, Maumenee IH. Optic nerve head swelling and
opticatrophy in the systemic mucopolysaccharidoses. Ophthalmology
1990;97(11):1445-9.
86.Papsin BC, Vellodi A, Bailey CM, et al. Otologic and laryngologic
manifestations of mucopolysaccharidoses after bone marrow
transplantation. Otolaryngol Head Neck Surg 1998;118(1):30-6.
87.Leighton S, Papsin B, Vellodi A, et al. Disordered breathing during sleep
in patients with mucopolysaccharidoses. Int J Pediatr Otorhinolaryngol
33
2001;58(2):127-38.
88.Mohan UR, Hay AA, Cleary MA, et al. Cardiovascular changes in children
with mucopolysaccharide disorders. Acta Paediatr 2002;91(7):799-804.
89.Hall CW, Liebaers I, Di Natale P, et al. Enzymatic diagnosis of the
genetic mucopolysaccharide storage disorders. Methods Enzymol
1978;50:439-56.
90.Terlato N, Cox G. Can mucopolysaccharidosis type I disease severity
be predicted based on a patient’s genotype? A comprehensive review
of the literature. Genet Med 2003;5(4):286-94.
91.Poorthuis BJ et al: The frequency of lysosomal storage diseases in
The Netherlands. Hum Genet. 1999 Jul-Aug;105(1-2):151-6.
92.Wraith JE, Scarpa M, et al: Mucopolysaccharidosis type II (Hunter
syndrome): a clinical review and recommendations for treatment in the
era of enzyme replacement therapy. Eur J Pediatr (2008) 167:267-77.
93.Thappa DM, Singh A, Jaisankar TJ, Rao R, Ratnakar C (1998), Pebbling
of the skin: a marker of Hunter’s syndrome. Pediatr Dermatol 15:370-73.
94.Rick Martin, Michael Beck, Christine Eng, Roberto Giugliani, Paul
Harmatz, Verónica Muñoz and Joseph Muenzer, Recognition and
Diagnosis of Mucopolysaccharidosis II (Hunter Syndrome), Pediatrics,
2008;121;e377-e386.
95.Froissart R, Da Silva IM, Maire I. Mucopolysaccharidosis type II: an
update on mutation spectrum. Acta Paediatrica 2007;96:71-7.
96.Wilson PJ, Morris CP, Anson DS et al. Hunter syndrome: isolation of
an iduronate-2-sulfatase cDNA clone and analysis of patient DNA.
Proc Natl Acad Sci U S A.1990;87:8531-5.
97.Kato T, Kato Z, Kuratsubo I et al. Mutational and structural analysis
of Japanese patients with mucopolysaccharidosis type II. Journal of
Human Genetics 2005;50:395-402.
98.Isogai K, Sukegawa K, Tomatsu S et al. Mutation analysis in
the iduronate-2-sulphatase gene in 43 Japanese patients with
mucopolysaccharidosis type II (Hunter disease). Journal of Inherited
Metabolic Disease 1998;21:60-70.
99.Sukegawa K, Tomatsu S, Fukao T et al. Mucopolysaccharidosis TypeII (Hunter-Disease) -Identi. cation and Characterization of 8-Point
Mutations in the Iduronate-2-Sulfatase Gene in Japanese Patients.
Human Mutation 1995;6:136-43.
100.Hirschhorn R, Reuser A. Glycogen storage disease type II: Acid alphaglucosidase (acid maltase) deficiency. In: Scriver CR BA, Sly WS, Valle
D (eds). The metabolic and molecular bases of inherited disease, 8th
Ed. New York, New York: McGraw-Hill 2001:3389-420.
101.Kishnani PS, Howell RR. Pompe disease in infants and children. J
Pediatr. 2004;144(5):35-43.
102.Martiniuk F, Chen A, Mack A, et al. Carrier frequency for glycogen
storage disease type II in New York and estimates of affected
individuals born with the disease. Am J Med Genet 1998;79(1):69-72.
103.Ausems MG, Verbiest J, Hermans MP, et al. Frequency of glycogen
storage disease type II in The Netherlands: implications for diagnosis
and genetic counselling. Eur J Hum Genet 1999;7(6):713-6.
104.Slonim AE, Bulone L, Ritz S, et al. Identification of two subtypes of
infantile acid maltase deficiency. J Pediatr 2000;137(2):283-5.
105.van den Hout HM, Hop W, van Diggelen OP, et al. The natural course
of infantile Pompe’s disease: 20 original cases compared with 133
cases from the literature. Pediatrics 2003;112(2):332-40.
106.Hagemans ML, Winkel LP, Van Doorn PA, et al. Clinical manifestation
and natural course of late-onset Pompe’s disease in 54 Dutch patients.
Brain 2005;128:671-7.
107.Felice KJ, Alessi AG, Grunnet ML. Clinical variability in adult-onset
acid maltase deficiency: report of affected sibs and review of the
34
literature. Medicine 1995;74(3):131-5.
108.Mellies U, Ragette R, Schwake C, et al. Sleep-disordered breathing
and respiratory failure in acid maltase deficiency. Neurology
2001;57(7):1290-5.
109.Haley SM, Fragala MA, Skrinar AM. Pompe disease and physical
disability. Dev Med Child Neurol 2003;45(9):618-23.
110.Winkel LP, Hagemans ML, van Doorn PA, et al. The natural course
of non-classic Pompe’s disease; a review of 225 published cases. J
Neurol. 2005;252(8):875-84.
111.Hagemans ML, Janssens AC, Winkel LP, et al. Late-onset Pompe
disease primarily affects quality of life in physical health domains.
Neurology 2004;63(9):1688-92.
112.Ausems MG, Lochman P, van Diggelen OP, et al. A diagnostic
protocol for adult-onset glycogen storage disease type II. Neurology
1999;52(4):851-3.
113.King F. Acid maltase deficiency myopathy. eMedicine Specialties,
available at: http://www.emedicine.com/pmr/topic2.htm.
114.Kleijer WJ, van der Kraan M, Kroos MA, et al. Prenatal diagnosis of
glycogen storage disease type II: enzyme assay or mutation analysis?
Pediatr Res. 1995;38(1):103-6.
115.Muenzer J. The mucopolysaccharidoses: a heterogeneous group
of disorders with variable pediatric presentations. J Pediatr.
2004;144(5):27-34.
116.Cerezyme® (imiglucerase) Summary of Product Characteristics
(attached to this Brochure).
117.Pastores GM, Weinreb NJ, Aerts H, et al. Therapeutic goals in the
treatment of Gaucher disease. Semin Hematol 2004;41(4 Suppl 5):4-14.
118.Fabrazyme® (agalsidase beta) Summary of Product Characteristics
(attached to this Brochure).
119.Wilcox WR, Banikazemi M, Guffon N, et al. Long-term safety and
efficacy of enzyme replacement therapy for Fabry disease. Am J Hum
Genet 2004;75(1):65-74.
120.Aldurazyme® (laronidase) Summary of Product Characteristics
(attached to this Brochure).
121.Muenzer J, Wraith E, Beck M, et al. A Phase II/III clinical study of
enzyme replacement therapy with idursulfase in mucopolysaccharidosis
type II (Hunter syndrome). Genet Med. 2006;8:465-73.
122.Myozyme™ (alglucosidase alfa) Summary of Product Characteristics
(attached to this Brochure).
123.Klinge L, Straub V, Neudorf U, et al. Safety and efficacy of recombinant
acid alpha-glucosidase (rhGAA) in patients with classical infantile
Pompe disease: results of a phase II clinical trial. Neuromuscul Disord
2005;15(1):24-31.
124.Baldellou A, Andria G, Campbell PE, et al. Paediatric non-neuronopathic
Gaucher disease: recommendations for treatment and monitoring. Eur
J Pediatr 2003;163:67-75.
125.Weinreb NJ, Aggio MC, Andersson HC, et al. Gaucher disease type
1: revised recommendations on evaluations and monitoring for adult
patients. Semin Hematol 2004;41(4 Suppl 5):15-22.
126.Andersson HC, Charrow J, Kaplan P, et al. Individualization of longterm enzyme replacement therapy for Gaucher disease. Genet Med
2005;7(2):105-10.
127.Desnick RJ. Enzyme replacement and enhancement therapies for
lysosomal diseases. J Inherit Metab Dis 2004;27(3):385-410.
128. Weinreb NJ, Barranger JA, Charrow J, et al. Guidance on the use
of miglustat for treating patients with type 1 Gaucher disease. Am J
Hematol. 2005;80(3):223-9.
129.Desnick RJ, Schuchman EH. Enzyme replacement and enhancement
therapies: lessons from lysosomal disorders. Nat Rev Genet.
2002;3(12):954-66.
130.Vellodi A, Bembi B, de Villemeur T, et al. Management of neuronopathic
Gaucher disease: A European consensus. J Inherit Metab Dis
2001;24(3):319-27.
131.Watson JG, Gardner-Medwin D, Goldfinch ME, et al. Bone marrow
transplantation for glycogen storage disease type II (Pompe’s disease).
N Engl J Med 1986;314(6):385.
132.Chen YT, Amalfitano A. Towards a molecular therapy for glycogen
storage disease type II (Pompe disease). Mol Med Today
2000;6(6):245-51.
35
2012年11月作成 T-GJM-214C
(02)
ゴーシェ病
主な徴候および症状
血液系:
• 貧血
• 血小板減少症
内臓系:
正常細胞
骨髄中のゴーシェ細胞
疾患の概要
• 肝腫大
• 脾腫大
骨格系:
ゴーシェ病はライソゾーム病の中で最も頻度が高いとされています。ライソゾー
ム内のグルコセレブロシドを分解する酵素、グルコセレブロシダーゼが欠損また
は不足することにより、肝臓・脾臓・骨髄(マクロファージ)などにグルコセレ
ブロシドが進行性に蓄積することで発症します。
臨床症状の発現は、脂質が蓄積したゴーシェ細胞が正常細胞と置き換わること
に起因します。脂質の蓄積は全身に認められますが、特に肝臓、脾臓、骨髄(マ
• 骨痛/骨クリーゼ
• 成長遅延
• 無腐性骨壊死
• 病的骨折
• 骨減少症
クロファージ)で顕著です。
ゴーシェ病の症状は貧血、血小板減少症、肝脾腫大、骨合併症などがあります。
骨合併症による不快感、疼痛、障害などによって、生活の質が大きく低下する可
能性があります。
ゴーシェ病は多臓器性疾患であり、その徴候および症状は極めて多岐に及びま
す。ゴーシェ病は進行すると回復困難または不可逆性の病変が現れる場合があり
ます。
ゴーシェ病の種類
神経症状の有無および重症度に基づき分
類されています。
I型
発 症 率
肝脾腫大がみられる成人患者
肝臓および 脾 臓の
MRI 像
II 型
4 万人~ 6 万 10 万人に 1 5 万人~ 10
人に 1 人(ア 人未満
万人に 1 人
シュケナージ
系ユダヤ人で
は 850 人 に
1 人)
不可逆性の骨損傷
神経症状
発症時期
経 過
III 型
なし
重度
あらゆる
生後
年齢
1 年以内
進行性
急速進行性
中等度
~重度
小児期
進行性
ゴーシェ病の疑いのある患者さんを診察されていましたら、難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp)をご覧になるか、弊社までご連絡ください。
ジェンザイム・ジャパン株式会社 http://www.genzyme.co.jp/ tel : 0120-255-011
ゴーシェ病
鑑別診断
ゴーシェ病の遺伝形式および症状
ゴーシェ病は他の疾患と類似した徴候
ゴーシェ病は常染色体劣性遺伝性疾患です。両親ともにゴーシェ病を引き起こ
す変異遺伝子の保因者である場合、その子供がゴーシェ病を発症する確率は 25%、
や症状を示すことがあるため診断が遅れ
保因者となる確率は 50%、保因者でない確率は 25% です。ゴーシェ病の発現頻度
ることが多いとされています。しかし、
は男女ともに等しいとされています。
早期診断・早期治療は患者の予後を考え
るうえで極めて重要です。ゴーシェ病と
の鑑別を要する主な疾患は以下の通りで
母親
(保因者)
父親
(保因者)
す。
•
•
•
•
•
•
慢性顆粒球性白血病
急性リンパ性白血病
多発性骨髄腫
ホジキン病
リンパ腫
関節炎
遺伝的特徴
子供
(正常)
子供
(保因者)
子供
(保因者)
子供
(患者)
• 常染色体劣性遺伝です。
• 全 て の 人 種 に み ら れ ま す が、ア シ ュ ケ
ナージ系ユダヤ人で発症率が高いとされ
ています。
• 200 種類を超える変異が同定されています。
詳細情報の入手先
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp
エルレンマイヤーフラスコ変形
骨盤の骨菲薄化
ゴーシェ病患者の骨髄浸潤:
大腿骨の MRI 像
(Br J Radiol 2 0 0 2:75
(suppl 1)
;A13-A24 よ り 許
可を得て転載)
診断
ゴーシェ病の確定診断は、組織または血液のグルコセレブロシダーゼ酵素活性
測定により確認します。
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
ジェンザイム・ジャパン株式会社
くすり相談室
〒163-1488
東京都新宿区西新宿三丁目20番2号
Tel:0120-255-011 Fax:03-6301-4045
http://www.genzyme.co.jp/
ファブリー病
診断
男 性 の 場 合、血 液 中 のα-ガ ラ ク ト シ
ダーゼの活性を測定することでファブ
リー病を診断することが可能です。しか
し、女性の場合、全身の臓器・器官ごと
に X 染色体不活性化パターンが異なりま
水晶体混濁
すので、症候性患者でも血液中α-ガラク
トシダーゼ活性が比較的正常であること
があります。そのため、酵素活性測定で
判断がつかない場合、遺伝子解析を実施
することがあります。
ファブリー病は全ての人種にみられま
す。ファブリー病が疑われる場合、家族
歴を調査することが重要ですが、新規の
ファブリー病でみられる被角血管腫
渦巻き状角膜混濁(提供:RL Abbott, MD)
突然変異も報告されているため、家族歴
がなくてもファブリー病と診断される可
能性があります。
疾患の概要
ファブリー病とは稀な遺伝性疾患であるライソゾーム病の一種であり、α-ガラク
トシダーゼ(α-Gal)が遺伝的に不足または欠損しています。
α-Gal が欠損することによって、全身の組織内にスフィンゴ糖脂質が進行性に
蓄積します。症状として、反復性の疼痛発作、先端異常感覚、被角血管腫、角膜・
水晶体混濁(視力に影響しないことが多い)などが現れ、30 ~ 50 代までに腎臓、
心臓、脳血管などの全身性疾患を発症します。
ファブリー病は、X 連鎖性劣性遺伝ですが、最近、これまで考えられていたより
多くのヘテロ接合体女性に、ある程度の臨床症状がみられることが報告されてい
ます。女性患者では男性患者に比し、進行速度、および症状の重症度に個人差が
みられます。
典型的なファブリー病では、小児期または青年期に発症します。ファブリー病
主な症状
の臓器障害は進行性であり、不可逆的であることや生命を脅かすことがあるため、
• 先端異常感覚、反復性の疼痛発作
早期診断・早期治療が極めて重要であると考えられています。
• 乏汗症、無汗症
• 暑さ・寒さに対する不耐性
• 被角血管腫
• 角膜・水晶体混濁
• 腎機能障害
• 心血管合併症
• 脳血管合併症
• 消化管合併症
• 精神的症状
左室肥大
被角血管腫
ファブリー病の疑いのある患者さんを診察されていましたら、難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp)をご覧になるか、弊社までご連絡ください。
ジェンザイム・ジャパン株式会社 http://www.genzyme.co.jp/ tel : 0120-255-011
ファブリー病
ファブリー病の遺伝形式および症状
鑑別診断
ファブリー病は X 連鎖性遺伝疾患です。父親がファブリー病の場合、その変異
ファブリー病は典型的には小児期に発
遺伝子は娘には必ず受け継がれますが、息子には受け継がれません。母親がファ
症し疼痛、発熱、乏汗症、疲労、運動能
ブリー病保因者または患者の場合、子の性別にかかわらず 50% の確率で子に変異
低下などを伴うことが多いとされていま
遺伝子が受け継がれます。
すが、成人期まで認識されずに基礎病変
が進行する場合も多くあります。病気が
父親
母親
(正常)
(保因者/患者)
認識されないため診断が遅れることがあ
母親
父親
(正常) (患者)
ります。またファブリー病の症状は、以
下に示す他の疾患の症状と間違いやすい
XX
XY
XY
場合があります。
XY
• 関節リウマチ、若年性関節リウマチ
• リウマチ熱
• 肢端紅痛症
• 神経症
• レイノー症候群
XX
XX
XY
XY
XX
XX
XY
XY
• 多発性硬化症
• ループス腎炎
娘
娘
(正常)
(保因者/患者)
息子
息子
(患者) (正常)
娘
娘
(保因者/患者)
(保因者/患者)
息子
息子
(正常) (正常)
• 急性虫垂炎
• 成長痛
• 膠原病
GL3 の蓄積
基質であるグロボトリアオシルセラミド
(GL-3)の血管内皮への進行性蓄積
ファブリー病末期の腎臓
(提供:E. Gilbert-Bamess, MD, L. Bamess, MD)
遺伝的特徴
• ファブリー病の遺伝形式は X 連鎖性であり、全ての人種にみられます。
• 理論的有病率は、男性 4 万人に 1 人や、新生児 11 万 7 千人に 1 人などの報告があ
ります。
• 確定診断は、男性では酵素活性測定検査、女性では遺伝子解析により行うこと
が可能です。
• 家系図を用いて家系内のファブリー病の罹患リスクを判断することが可能です。
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
詳細情報の入手先
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp
ジェンザイム・ジャパン株式会社
くすり相談室
〒163-1488
東京都新宿区西新宿三丁目20番2号
Tel:0120-255-011 Fax:03-6301-4045
http://www.genzyme.co.jp/
ムコ多糖症Ⅰ型
(MPS Ⅰ)
主な徴候および症状
• 関節拘縮
• 骨格変形
• 特異的顔貌
• 肝臓・脾臓腫大
• 角膜混濁 • 閉塞性気道疾患
• 再発性の耳・鼻感染
MPSⅠの疾患スペクトル
疾患の概要
症状
重症型
軽症型
関節拘縮
+++
++
骨格異常
+++
++
ることによって、グリコサミノグリカン(GAG)が分解されず、全身の細胞内に
手根管症候群
+++
++
進行性に蓄積します。
心臓(弁膜)疾患
+++
++
MPSⅠは従来、ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、シャイエ症候群
再発性の上気道感染
+++
+
と分類され、その重症度、症状、病変が現れる臓器・器官系は多岐に及び、多様
閉塞性気道疾患
/睡眠時無呼吸
+++
+
角膜混濁
+++
+
脊髄圧迫
+++
+
肝臓腫大/脾臓腫大
+++
+
臍/鼠径ヘルニア
+++
+
難聴
+++
+
精神発達遅滞
+++
-
特異的顔貌
+++
-
交通性水頭症
+++
-
歯の形成異常
+++
-
MPSⅠはライソゾーム病の一種であり、ライソゾーム酵素α-L-イズロニダーゼ
が欠損することによって生じる稀な遺伝性疾患です。α-L-イズロニダーゼが欠損す
に連続する疾患スペクトルを示します。臓器肥大(肝臓・脾臓腫大)、多発性骨異
形成(異常な形の骨)、特異的顔貌、重度の関節拘縮などが認められ、聴力、視力、
呼吸機能、心血管機能のいずれにも影響が現れます。また、関節可動性の大幅な
低下が一般的に多く見られます。
関節拘縮(提供:A. Rassi, MD)
診断
MPSⅠでは早期診断・早期治療が極め
て重要で、早期診断・早期治療により、
不可逆的な障害を防止できる可能性があ
ります。確定診断は、白血球、血漿また
は培養皮膚線維芽細胞のα-L-イズロニダー
ゼ活性の低下/欠損を酵素検査で確認し
ます。
MPSⅠの疑いのある患者さんを診察されていましたら、難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp)をご覧になるか、弊社までご連絡ください。
ジェンザイム・ジャパン株式会社 http://www.genzyme.co.jp/ tel : 0120-255-011
ムコ多糖症Ⅰ型
(MPS Ⅰ)
MPSⅠの遺伝形式および症状
鑑別診断
MPS I は常染色体劣性遺伝性疾患であり、発現頻度は男女ともに同等です。両
MPS I は他の疾患と同じ徴候や症状を
親がともに MPS I を引き起こす変異遺伝子の保因者である場合、子供が MPS I を
示すことがあるため診断が遅れることが
発症する確率は 25%、保因者となる確率は 50%、保因者でない確率は 25% です。
しばしばあります。しかし、早期診断・
早期治療は最良の転帰につなげるうえで
極めて重要です。MPS I との鑑別を要す
る主な疾患は以下の通りです。
母親
(保因者)
父親
(保因者)
• 若年性関節リウマチ
• 関節リウマチ
• 特発性関節リウマチ
• ムコ多糖症の他の型
• 多発性スルファターゼ欠損症
突背(提供:Emil Kakkis, MD)
子供
子供
子供
子供
(正常) (保因者) (保因者) (患者)
遺伝的特徴
• 常染色体劣性遺伝です。
• 全ての人種にみられます。
角膜混濁
(提供:Hodder/Arnold Publishers)
臓器肥大/ヘルニア(提供:米国 MPS 協会)
• 全世界における推定発症率は 10 万人に
1 人です。
詳細情報の入手先
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp
関節の変形(提供:米国 MPS 協会)
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
ジェンザイム・ジャパン株式会社
くすり相談室
〒163-1488
東京都新宿区西新宿三丁目20番2号
Tel:0120-255-011 Fax:03-6301-4045
http://www.genzyme.co.jp/
ムコ多糖症Ⅱ型
(MPS Ⅱ)
主な徴候および症状
• 関節拘縮
• 骨格変形
• 特異的顔貌
• 肝臓・脾臓腫大
• 色素性網膜変性症
• 閉塞性気道疾患
• 再発性の耳・鼻感染
MPSⅡの疾患スペクトル
症状
重症型
軽症型
疾患の概要
関節拘縮
+++
++
MPSⅡはライソゾーム病の一種であり、酵素イズロン酸-2-スルファターゼ
骨格異常
+++
++
手根管症候群
+++
++
リコサミノグリカン(GAG)が分解されず、全身の細胞内に進行性に蓄積します。
心臓(心弁膜)疾患
+++
++
MPSⅡは、精神運動発達遅滞を伴う重症型と伴わない軽症型に分類され、その
再発性の上気道感染
+++
+
閉塞性気道疾患
/睡眠時無呼吸 +++
+
特異的顔貌、重度の関節症などが認められ、聴力、視力、呼吸機能、心血管機能
色素性網膜変性症
+++
+
のいずれにも影響が現れます。また、関節可動性の大幅な低下が一般的に多く見
脊髄圧迫
+++
+
られます。多くの症状が MPSⅠに類似しますが、眼科学的所見として MPSⅠに多
肝臓腫大/脾臓腫大
+++
+
い角膜混濁ではなく、色素性網膜変性症が見られる事が特徴的です。
臍/鼠径ヘルニア
+++
+
難聴
+++
+
精神発達遅滞
+++
-
特異的顔貌
+++
-
交通性水頭症
+++
-
歯の形成異常
+++
-
皮膚障害
(丘疹および小節)
+++
-
(I2S)が欠損することによって生じる稀な遺伝性疾患です。I2S が欠損すると、グ
重症度、症状、病変が現れる臓器・器官系は多岐に及び、多様に連続する疾患ス
ペクトルを示します。臓器肥大(肝臓・脾臓腫大)、多発性骨異形成(異常な形の骨)
、
関節拘縮
診断
MPSⅡでは早期診断・早期治療が極め
て重要で、早期診断・早期治療により、
不可逆的な障害を防止できる可能性があ
ります。確定診断は、白血球、血漿また
は培養皮膚線維芽細胞のイズロン酸-2スルファターゼ活性の低下/欠損を酵素
検査で確認します。
MPSⅡの疑いのある患者さんを診察されていましたら、難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp)をご覧になるか、弊社までご連絡ください。
ジェンザイム・ジャパン株式会社 http://www.genzyme.co.jp/ tel : 0120-255-011
ムコ多糖症Ⅱ型
(MPS Ⅱ)
MPSⅡの遺伝形式および症状
鑑別診断
MPSⅡは X 連鎖性劣性遺伝疾患です。父親が患者で母親が正常の場合には出生
MPSⅡは他の疾患と同じ徴候や症状を
する男児は全て正常、女児は全員が保因者となります。父親が正常で母親が保因
示すことがあるため診断が遅れることが
者の場合、罹患する男児が 25%、正常な男児が 25% の確率で出生し、女児は 25%
多いとされています。しかし、早期診断・
の確率で保因者、25% の確率で正常となります。
早期治療は最良の転帰につなげるうえで
極めて重要です。MPSⅡとの鑑別を要す
る主な疾患は以下の通りです。
母親
父親
(保因者) (正常)
母親
父親
(正常) (患者)
• 若年性関節リウマチ
• 関節リウマチ
XX
XY
XY
XY
• 特発性関節リウマチ
• ムコ多糖症の他の型
• 多発性スルファターゼ欠損症
XX
XX
娘
娘
(保因者) (正常)
XY
XY
息子
息子
(患者) (正常)
XX
XX
娘
娘
(保因者)(保因者)
XY
XY
息子
息子
(正常) (正常)
遺伝的特徴
• X 連鎖性劣性遺伝です。
• 全ての人種にみられます。
• 全世界における推定発症率は、重症型
が 78,000 人 に 1 人、軽 症 型 が 260,000 人
に 1 人 で す。日 本 で は 出 生 男 児 60,000
人に 1 人です。
臓器肥大/ヘルニア
詳細情報の入手先
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp
低身長/特異的顔貌
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
ジェンザイム・ジャパン株式会社
くすり相談室
〒163-1488
東京都新宿区西新宿三丁目20番2号
Tel:0120-255-011 Fax:03-6301-4045
http://www.genzyme.co.jp/
ポンペ病
(糖原病Ⅱ型)
主な徴候および症状
乳児:
• 急速に進行する筋力低下
(筋緊張低下 / ヘッドラグ;floppy infant)
• 運動発達遅延
• 哺乳困難
進行 性の筋力低下によって車 椅 子が
必要となる場合があります。
• 発育不全
• 呼吸器感染回数増加
• 誤嚥性肺炎
• 巨舌症
• 肝腫大、脾腫大
• 心肥大 / 心筋症
フロッピーインファントを呈する乳児型ポンペ病患者
• 心不全
下肢近位筋の筋力低下によって
起立時にガワーズ徴候がみられます。
疾患の概要
ポンペ病(別名:酸性マルターゼ欠損症[AMD]、糖原病 II 型[GSD-II]
)とは
進行性の神経・筋疾患であり、生命が脅かされることも多い疾患です。ポンペ病
小児期早期~成人後期:
• 進行性の近位筋の筋力低下
(特に体幹および下肢)
は最も進行が急激で重篤な乳児型から比較的進行が穏やかな成人型まで幅のある
• 歩行異常
連続的な疾患スペクトラムを示すと考えられ、その進行速度は様々です。
• 腰痛
ポンペ病は、細胞内のライソゾームでグリコーゲンをグルコースに分解する酵
• 側弯症
素、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の活性低下または欠損により、ライソゾーム
内に分解されないグリコーゲンが進行性に蓄積することで発症します。
先天的に GAA 活性がほぼ完全に欠損している乳児型は未治療の場合一様に致死
• 翼状肩甲
• ガワーズ徴候
的な経過をとり、心不全または呼吸不全によって生後 1 年以内に死亡することが多
• 息切れ、労作性疲労
いとされています。
• 閉塞性睡眠時無呼吸
出生時に最低限の GAA 活性が残存している場合、疾患の進行はこれほど急激で
• 呼吸器感染
はなく、その速度は様々です。また、死亡年齢も(多くは呼吸不全による)小児
期早期~成人後期と様々です。
• 日中の傾眠
• 早朝頭痛
• 運動発達遅延(小児の場合)
膜が 破裂したライソゾームと
大量のグリコーゲン
診断
筋原線維の間にある
ライソゾーム内グリコーゲン
ポンペ病の確定診断は、組織または血
液(全血もしくは乾燥ろ紙血)のGAA酵
素活性測定により可能です。乳児では、
ポンペ病の最初の徴候として胸部X 線像
細胞周囲に蓄積した
ライソゾーム内グリコーゲン
乳児型ポンペ病患者の骨格筋の電子顕微鏡像:
基礎病変における様々な特徴
(6500倍、提供:Genzyme Pathology)
に心拡大を認めることが多いとされてい
著明な心肥大が認められる乳児型ポンペ病患者
の胸部 X 線(B. Byrne, MD の許可を得て掲載)
ます。
ポンペ病の疑いのある患者さんを診察されていましたら、難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp)をご覧になるか、弊社までご連絡ください。
ジェンザイム・ジャパン株式会社 http://www.genzyme.co.jp/ tel : 0120-255-011
ポンペ病
(糖原病Ⅱ型)
ポンペ病の遺伝形式および症状
鑑別診断
ポンペ病は常染色体劣性遺伝性疾患です。両親ともにポンペ病を引き起こす変
ポンペ病は他の疾患と類似した徴候や
異遺伝子の保因者である場合、その子供がポンペ病を発症する確率は 25%、保因
症状を示すことがあるため診断が遅れる
者となる確率は 50%、保因者でない確率は 25% です。ポンペ病の発現頻度は男女
ことが多いとされています。しかし、早
ともに等しいとされています。
期診断・早期治療は患者の予後を考える
うえで極めて重要です。ポンペ病との鑑
母親
(保因者)
子供
(正常)
父親
(保因者)
子供
(保因者)
子供
(保因者)
子供
(患者)
ポンペ病の連続性
乳児型:急速に進行し、生後1年以内に死亡
に至ることが多いとされています。
小児型・成人型:確実に進行し、死亡に至る
ことが多いとされています。
筋骨格系
• 急速に進行する筋力低下
• 進行性の近位筋の筋力低下
(筋緊張低下/ヘッドラグ;floppy infant)
• 運動発達の遅れ
•
•
•
•
•
(体幹および下肢)
歩行異常
腰痛
階段昇降困難
転倒回数の増加
翼状肩甲
呼吸器
•
•
•
•
•
•
•
• 呼吸器感染の頻発
• 呼吸不全
呼吸不全
起坐呼吸
息切れ、労作性疲労
呼吸器感染
閉塞性睡眠時無呼吸
日中の傾眠
朝の頭痛
心臓
• 症状の有無にかかわらずクレアチンキナーゼ
• 顕著な心拡大/心筋症
• 心不全
(CK)が正常~高値
• 不整脈がみられる場合あり
消化管
• 哺乳困難/発育不全
• 臓器肥大
(肝腫大/巨舌症)
2012年11月作成 T-GJM-213C
(01)
• 摂食/嚥下困難
• 体重増加不良/体重維持が困難
• 咀嚼困難、顎筋の疲労
別を要する主な疾患は以下の通りです。
(乳児型)
• Werdnig-Hoffmann病(脊髄性筋萎縮症Ⅰ型)
• 甲状腺機能低下症
• 心内膜線維弾性症
• 心筋炎
• 先天性筋ジストロフィー
• その他の糖原病
• ミトコンドリア病
• 特発性肥大型心筋症
• ペルオキシソーム病
(小児型・成人型)
• 肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)
• ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)
• 肩甲腓骨型筋症候群
• 脊椎硬直症候群
• 重症筋無力症
• 多発筋炎/皮膚筋炎
• その他の糖原病
• Danon 病
• 関節リウマチ
• ミトコンドリアミオパチー
遺伝的特徴
• 常染色体劣性遺伝です。
• 推定発症率は約 4 万人に 1 人です。
• 全世界における推定患者数は数千人です。
詳細情報の入手先
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp
ジェンザイム・ジャパン株式会社
くすり相談室
〒163-1488
東京都新宿区西新宿三丁目20番2号
Tel:0120-255-011 Fax:03-6301-4045
http://www.genzyme.co.jp/