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はしがき
第 43 回全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会研究集会を千葉大学がお世話させてい
ただきました。7 月 7 日(木)、8 日(金)2 日間の研究集会を無事終えることができました
のも皆様方のご協力の賜物と考え、厚く御礼を申し上げます。また、至らない点も多々あっ
たかと思いますがご容赦いただきたく存じます。ここにその報告書を作成いたしましたので
内容を顧みていただければ幸いです。
第 43 回研究集会の全体テーマは「激動の時代と健康支援」といたしました。最近の大学
生の多くは、家庭・学校で十分な庇護の下に育まれたからでしょうか、われわれには無防備
に感じてなりません。一方、社会は激しく動き、大学に入学した学生もその変化に翻弄され
ています。地に足をつけて着実に進むことより、いかに早く、いかに結果を出すかが求めら
れがちです。しかし、学習でも研究でも「こつこつと」「着実に」「地道に」といったスタイ
ルが否定されることがあってはなりません。ましてやモラルの低下は断じて食い止めねばな
りません。
地球は狭くなり、国外の大学との交流も活発になりました。学生の旅行も範囲が広くなり、
遠い異国の人々と直に触れるのは大いに結構です。お互いの文化を知り、尊重し合えばそこ
に国際化の道が見えてきます。世界中のキャンパスで未来を担う若者が競い合い・協力し合
えば世界の発展と平和が見えてきます。
このようなことを感じ、考えてこの研究集会の講演、シンポジウムを諸先生にお願いいた
しました。また、ご講演のいくつかはわれわれ保健管理に携わっているスタッフのスキル向
上のためのものでしたが、その結果は必ずや学生に裨益することになります。
ここにあらためてご講演いただいた先生方に御礼申し上げ、今後も変わらぬご支援ご指導
をお願い申し上げる次第です。
平成 17 年 12 月
第 43 回全国大学保健管理協会
関東甲信越地方部会研究集会
当番校幹事 長 尾 啓 一
(千葉大学総合安全衛生管理機構)
-1-
開会挨拶 古在 豊樹 学長
特別講演 行天 良雄 先生
シンポジウム1
うたとぴあの 宮野 モモ子 先生(右)
古田 多真美 先生(左)
シンポジウム2
目
はしがき
長尾
次
啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
〔Ⅰ〕部会長挨拶
古在 豊樹(千葉大学学長) ...................................................................................... 1119
〔Ⅱ〕学長講演
千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦
古在 豊樹(千葉大学学長) ....................................................................... 1111
〔Ⅲ〕特別講演
大学生活を大切に
行天 良雄(医事評論家) .......................................................................... 1121
〔Ⅳ〕教育講演
① 問 診 力
生坂 政臣(千葉大学医学部附属病院総合診療部教授) ................................... 1137
② 日本人留学生の旅行医学
溝尾
朗(日本旅行医学会理事) .............................................................. 1145
③ 青年期の精神障害とその治療
伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学研究院精神医学教授) .................................. 1153
〔Ⅴ〕緊急報告
中越地震での大学危機管理
三宅
仁(長岡技術科学大学体育・保健センター所長) ................................ 1163
〔Ⅵ〕シンポジウム1
テーマ:「学生の身近な感染症を巡る諸問題」
司 会:野田 公俊(千葉大学大学院医学研究院病原分子制御学教授)
長尾 啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
シンポジスト
「最近の食中毒」
澤口 邦裕(千葉市保健所食品衛生課食品監視係) ............................................ 1173
「感染症関連検査」
相原 雅典(医療法人社団徳風会高根病院検査部長) ......................................... 1179
「ウイルス感染症」
猪狩 英俊(千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部講師) ............................. 1185
総合討論 ........................................................................................................... 1189
〔Ⅶ〕シンポジウム2 保健・看護分科会シンポジウム
テーマ:「留学生への健康支援 ―現状と課題―」
司 会:岡田
純(北里大学健康管理センター長)
葛
輝子(東海大学保健管理センター、保健・看護分科会委員長)
シンポジスト
「身近な留学生相談活動」
白石 勝己(財団法人アジア学生文化協会理事) ............................................... 1197
「効果的な留学生支援をめざして ―異文化間心理学の視点から―」
新倉 涼子(千葉大学国際教育開発センター教授) ............................................ 1104
「大学における外国人留学生の健康状況」
田口 理恵(東京大学保健センター) .............................................................. 1112
総合討論 ........................................................................................................... 1119
〔Ⅷ〕資
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
⑹
⑺
⑻
⑼
⑽
料
平成 17 年度総会報告 ............................................................................................ 1127
平成 16 年度収支決算報告書 ................................................................................... 1128
平成 17 年度予算書 ............................................................................................... 1129
平成 17 年度役員名簿 ............................................................................................ 1130
関東甲信越地方部会規約 ....................................................................................... 1131
平成 17 年度保健・看護分科会運営委員名簿 .............................................................. 1133
関東甲信越地方部会 保健・看護分科会運営規約 ...................................................... 1134
第 43 回地方部会研究集会参加者名簿 ....................................................................... 1135
第 43 回研究集会参加者アンケート結果 .................................................................... 1140
胸部 X 線検診に関するアンケート調査 .................................................................... 1143
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第43回全国大学保健管理協会関東
全体テーマ:激動
第1日目
2005 年 7 月 7 日(木)
Ⅰ
開会式 9:45~10:00
開会の辞:長尾 啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
開会挨拶:古在 豊樹(千葉大学学長)
オリエンテーション:清水 富雄(千葉大学学生部学生支援課長)
Ⅱ
学長講演 10:00~11:00
題目:千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦
講師:古在
司会:宮崎
Ⅲ
豊樹(千葉大学学長)
清(千葉大学理事、教育担当)
特別講演 11:00~12:00
題目:大学生活を大切に
講師:行天 良雄(医事評論家)
司会:藤澤 武彦(千葉大学理事、医療・環境担当)
昼食・幹事会
12:00~13:20
Ⅳ
教育講演1 13:20~14:10
題目:問診力
講師:生坂 政臣(千葉大学医学部附属病院総合診療部教授)
司会:中田 暁(千葉大学総合安全衛生管理機構講師)
Ⅴ 総
会 14:10~14:25
Ⅵ「 うた と ぴあの 」14:25~14:50
宮野モモ子(千葉大学教育学部教授、学生相談専門部会長)
古田多真美(千葉大学総合安全衛生管理機構非常勤講師)
休憩 14:50~15:00
Ⅶ シンポジウム1 15:00~17:00
<テーマ> 学生の身近な感染症を巡る諸問題
司会: 野田 公俊(千葉大学大学院医学研究院病原分子制御学教授)
司会: 長尾 啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
1)最近の食中毒
澤口 邦裕(千葉市保健所食品衛生課食品監視係)
2)感染症関連検査
相原 雅典(医療法人社団徳風会高根病院検査部長)
3)ウィルス感染症
猪狩 英俊(千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部講師)
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甲信越地方部会研究集会プログラム
の時代と健康支援
第2日目
2005 年 7 月 8 日(金)
Ⅷ
教育講演2 10:00~10:50
題目:日本人留学生の旅行医学
講師:溝尾 朗(日本旅行医学会理事)
司会:中田 暁(千葉大学総合安全衛生管理機構講師)
Ⅸ
教育講演3 10:50~11:40
題目:青年期の精神障害とその治療
講師:伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学研究院精神医学教授)
司会:山田 敏久(千葉大学総合安全衛生管理機構助教授)
昼食
11:40~13:00
Ⅹ
緊急報告 13:00~13:40
題目:中越地震での大学危機管理
講師:三宅 仁(長岡技術科学大学体育・保健センター所長)
司会:長尾 啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
XI
シンポジウム2 保健・看護分科会シンポジウム 13:40~15:40
<テーマ> 留学生への健康支援-現状と課題-
司会:岡田 純(北里大学健康管理センター長)
司会:葛 輝子(東海大学保健管理センター、保健・看護分科会委員長)
1)効果的な留学生支援をめざして-異文化間心理学の視点から-
新倉 涼子(千葉大学国際教育開発センター教授)
2)身近な留学生相談活動
白石 勝己(財団法人アジア学生文化協会理事)
3)大学における外国人留学生の健康状況
田口 理恵(東京大学保健センター)
XII
閉会式 15:40~15:55
閉会の辞:長尾 啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
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〔Ⅰ〕 部 会 長 挨 拶
部会長挨拶
千葉大学 学長 古 在 豊 樹
おはようございます。本日は全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会の第43回研究集会
に、千葉大学に足をお運びいただきまして、大変嬉しく思っております。またこの研究集会
を準備して下さった方々、遠くから講師として駆けつけて下さった方、さらには関東甲信越
地方の遠くから参加して下さった方々に心から感謝申し上げます。今日は雨も降らずに、大
変幸運だったと思っております。私、この四月から学長に就任したばかりでございます。今
まではどちらかというと専門教育ということで、学生と接するといっても学部学生の三年生
の終わりから大学院生がほとんどだったのですけれども、学長になりましてから私の関心が
一、二年生のほうに移って参りまして、いわゆる教養教育の間の学生の健康管理というの
が、大学として重要な問題だということに改めて気づかされている次第でございます。大学
の第一の使命が教育であることはどなたも異論ないかと思いますけれども、メンタルヘルス
も含めた健康あるいは学生支援ということに大学が相当力を入れなければいけない状況に
なっていると感じております。また、その非常に重要な部分を担っていらっしゃるのが、大
学の保健管理に携わっている皆様方だと思っております。その先生方の部会の研究集会がも
う 43 回を数えるということで、長い歴史を持っているわけですけれども、その重要な研究
集会に皆さん方にお集りいただいて、大変喜んでおります。是非実りある研究集会を期待し
ております。簡単ですが挨拶に代えさせていただきます。どうもありがとうございました。
-9-
〔Ⅱ〕 学
長
講
演
「千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦」
古在 豊樹(千葉大学学長)
学長講演
千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦
千葉大学 学長 古 在 豊 樹
【司会(宮崎)】 皆さん、おはようございます。私、教育担当の理事を仰せつかっておりま
す宮崎と申します。これからプログラムに沿いまして、約一時間ほど学長・古在豊樹から講
演をいただくことになっております。これに先立ちまして、学長のご経歴を簡単ですけれど
もご紹介させていただきます。
古在豊樹先生は 1967 年に千葉大学園芸学部をご卒業されて、その後東京大学の大学院に
進まれて農学博士を取得され、大阪府立大学助手としてお勤めになられてから本学に戻られ
て、助教授、教授になられて、1999 年には園芸学部長、また 2003 年 3 月には今日お話いた
だくご講演の内容とも関連がございます環境健康フィールド科学センターの初代のセンター
長をお勤めになられて、本年四月から千葉大学学長に就任されました。この間様々な受賞を
されているのですけれども、数多い中から一、二ご紹介させていただきますと、日本農業気
象学会の学会賞、日本生物環境調節学会の学会賞、日本農学賞、読売農学賞、中国政府から
の国家友誼賞、そして 2002 年には紫綬褒章を授けられていらっしゃいます。ただ今ご紹介
いたしました環境フィールド科学センターでもご奮闘振りがご想像いただけるのではないか
と思います。
ご講演の題目は 「 千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦 」 ということ
でございます。それでは古在学長、よろしくお願いいたします。
【古在】 ただ今ご紹介いただきましたけれども、私の専門研究分野は園芸学、園芸環境学と
いう分野です。平たく言いますと植物の健康を管理する、という感じで、皆さん方が人間に
対してされていることを、植物に対してやってきました。ですから、私のような人間が今日
皆さん方にお話しするのは、ド素人が人間に関してお話しするようなことで、大変気後れも
するのですけど、私の考えを聞いてご批判いただけたら、と思います。
話は遡りますけど、4 年ほど前わたしが園芸学部長だった時に、当時の学長(磯野可一)
先生に国立大学の法人化が迫ってきたので、千葉大学の特長を生かした学際的な研究セン
ターについて考えて欲しい、キーワードは健康・福祉・介護だと言われました。そこでワー
キンググループをスタートさせました。一方、園芸学部には附属農場がございます。その附
属農場は柏市にありまして、今年の8月に開通するつくばエキスプレスの駅前に位置しま
す。現在は駅予定地の周りは何もない、人が住んでないところですけど、開通すると相当の
人口増が予想される。その時、附属農場を畑のままにしておくのは、社会的な説明がつかな
いんじゃないか。園芸学部としては、つくばエキスプレスの開通に備えて附属農場を衣替え
しなきゃいけない。その二つの課題を私が平行して進めてたわけです。
-11 -
当時は、私としては二つの研究センターを別々に作る予定だったのですけども、皆さん方
と協議しているうちにこれは一つにまとめたほうが良さそうだということでまとまったの
が、今日お話しする環境健康フィールド科学センターです。それがどのような理念で設置さ
れ、また何を目指しているのかを、今日皆さん方にお聞きいただいてご批判をいただければ
大変ありがたいと思います。
その前に、ごく簡単に千葉大学の概要をお話しします。千葉大学は 9 つの学部と 11 の研
究センターがありまして、キャンパスが西千葉、亥鼻、松戸、柏の葉の 4 つに分かれていま
す。教員が 1300 人、事務職員が 620 人。附属病院の医療職員が 550 人、学部学生 1 万人、
大学院生 3500 人、留学生 800 人がいます。9 つの学部がある大学は地方大学としては大規
模な方ですので、この特色を生かした研究センターを設立したいと考えたわけです。2 年前
にこの千葉大学に二つの研究センターができました。一つが環境健康フィールド科学セン
ターです。もう一つはフロンティアメディカル工学研究センターで、これは再生医療などを
目指した、最先端の研究を目指したものです。環境健康フィールド科学センターの方は、大
雑把に言いますと、心身一如のケアを目指し、心と体を一体として考えたケア、キュアより
もケアを目指すということで、生きがい創出、心と体・自然を大切にといったことをキーワー
ドにした理念作りが始まったわけです。
その背景としまして、現代の都市圏におけるたくさんの社会的なストレスがあります。例
えば少子高齢化、競争原理の強化、社会規範の崩壊、廃棄物の増大、自然喪失、資源枯渇、
医療費上昇、人間的なふれあいと自然とのふれあいの喪失、犯罪の増加、環境汚染、食の不
安、生きがい喪失、といったストレスに対して何か社会に役立つ実践的な研究ができないか、
そのためにはどのように考えたらいいかを討論したわけです。私たちは、21 世紀には物質的・
経済的側面だけではなく、真の意味での豊かさが求められ、環境の世紀であり、心の時代で
すと考えました。このような環境・心というものを大切にする社会は、いわゆる先端的技術、
情報技術とかバイオテクノロジーとか、ナノテクノロジーだけでは実現しません。私たちは
この最先端技術ではカバーできない分野をカバーしていきましょう、と考えたわけです。そ
こでは環境・健康・生きがい創出という良くあるキーワードに私たちのセンターとして特別
なキーワードを二つ付け加えました。1 つが心身一如で、東洋医学でよく言われていること
です。もう一つは機能性植物です。これはこのセンターに園芸学部の教員が深く関わってい
ることに関連します。機能性植物とは、エネルギー植物(お米とかとうもろこしなどの、主
としてエネルギーを摂取するための植物)に対する言葉でして、それは健康植物と環境植物
に分けられる。健康植物は薬用植物、野菜、果物、ハーブなどです。ビタミン、ミネラル、
薬効成分、あるいは芳香・アロマを人間に提供する植物です。環境植物は景観植物(緑を構
成する植物 )、花、環境を浄化する植物などです。この心身一如、機能性植物をキーワード
として取り入れて、先ほどの現代社会のストレスを緩和する研究ができないかと考えたわけ
です。
それは端的に申しますと、地方・田舎の良さと東洋の伝統文化技術の良さを取り入れて、
新しいタイプの環境健康都市に変えましょうという提案です。同時にそれに繋がる行政・産
-12 -
業・科学を発展成長させていこうということです。植物がなぜ健康・生きがい・環境に繋がっ
ていくのかを模式的に図 1 に示しました。薬用植物、園芸植物、景観植物に加えて植物は木
造施設などに肌触りの良
い原材料を提供します。ま
たそれらの使い古したも
のは有用微生物が分解し
て堆肥として還元される。
そこから有用物質が取り
出せる。また成長しつつあ
る植物は大気中に酸素を
提供することなどを通じ
て、植物は健康・生きがい
創出・省資源・環境保全に
大きな役割を果たしてい
ます。それならば園芸分野
の人間もこのような構想
図1 植物利用・資源循環による健康・生きがい創出と省資源・
環境保全の同時実現
の中で働けるのではない
かということです。工学的な側面から申しますと、柏の葉キャンパス(17 ヘクタール)の
運営目標として、キャンパスからごみを一切出さないようにし、それから石油、電気、プラ
スチックなどの石油化学物質の利用を最小限にすることにしました。もちろん農薬とか化学
肥料は極力使わない、できたらゼロにする。それでキャンパスから持ち出すものは、植物生
産物と植物を生産することに伴って機能的に提供される生きがい、健康、良好環境だけにい
きましょうと。そのためにも空気中のCO 2、太陽光エネルギー、水を循環させて使いましょ
うと。それから植物性の有機物も循環させて使いましょうと。このようなことは園芸学部、
工学部の研究分野なのではないかと考えています。
今申し上げたことを抽象的に箇条書きしたのが、1)高齢者・子供・弱者・次世代が健康に
なる環境を創造しましょう、2)心身一如の健康・福祉・介護・教育生産を実現する社会を
創生しましょう、3)自然治癒力・生命力を生かした健康・物質循環・省資源・環境保全・文化
創造・生物生産及びそれらを体験する喜びを実現しましょう、4)地域産業考慮にと行政に
貢献する実践的研究教育および人材を養成しましょうということです。このそれぞれの項目
の、それぞれのキーワードに関する研究者は日本にも世界的にもたくさんいます。しかし私
たちはそれを一つのキャンパスの中で、学際的な協力によって、また地域との交流によって、
その場に目で見えるように実現することを目標としているわけです。全てはできませんので
現在いるスタッフでできそうな研究課題、を幾つか挙げてみますと、東洋医学的医療・介護
への植物・自然とのふれあい効果の導入、ならびに健康予防医学、環境教育、園芸療法の実
践、それから健康機能植物の増殖・生産・育成・活用、介護・リハビリ・植物生産などの施設
のユニバーサルデザインとその利用。これは工学部の方の貢献がかなり重要になります。そ
-13 -
れから作業者の生きがい創出と健康増進を重視し、さらには植物生産システムの開発です。
大雑把に言うと一番目の課題は医学、看護学、保健学それから教育学の人たちが中心と
なって分担する。二番目と四番目は園芸の人たちが中心になって学際的に研究する。三番目
は、工学的な人たちの協力・助けを大いにお願いしましょうということです。それから植物
生産、資源循環を取り入れた環境園芸都市における省資源と環境保全の課題は園芸学部に環
境緑地学系統の専門家がいますので、その人たちに協力を得られればできそうです。それか
ら先端的技術も取り入れた省資源、環境保全、都市型環境園芸システムと植物品種の開発と
いうことです。さらに社会科学系の人たちの環境政策、福祉介護政策、環境会計などの課題
も順次取り入れていきたいと考えています。一番下に書いてあります環境生命学というのは
環境ホルモン研究などを意味します。これらの専門の方は千葉大学に何人かずついますの
で、そのうちの 15 人をここのセンターに移ってもらいました。医学部から3人、教育学部
から2人、園芸学部から 9 人、薬学部から 1 人です。あと工学部と看護学部からは専任とし
ては移ってませんけども、重点的に協力するという形でスタートしたわけです。それでここ
に書いてあるような課題に関して教育学部の人たちの助けを借りて教育プログラム化しま
す。それから東洋医学と環境ホルモンの専門の人たちを中心にして看護学、それから保健士
の皆さん方の協力、共同作業を得まして園芸療法、音楽療法、芳香療法などとして療法化し
ます。専任教員 15 人の他に協力教員が 9 つの学部から 55 人います。それから主に畑・植物
の管理をする技官の方が 10 人。その他に看護士、薬剤師の方々、事務の方などが 8 人います。
これは今年の 3 月に撮った写真です。駅前がまだ裸の土地になってますけど、今急ピッチ
で工事が進んでます。これがつくばエキスプレス柏の葉キャンパス駅です。この駅を出てか
ら 200 メートルの所に私たちの柏の葉キャンパスがあります。ここが千葉大学の環境健康
フィールド科学センターです。ここが千葉県立柏の葉公園です。東京大学の柏国際キャンパ
スがこの辺です。それからこんぶくろ池という涌水池がこの近くにある。非常に自然に近い
状態で保存されている公園です。私達のセンターはこの領域全体の街づくりと調和させてい
きましょうということで開発を進めています。この街全体を環境健康都市として実現してい
きたいし、また千葉大学の環境健康フィールド科学センターはそのために大いに貢献したい
し、さらにそれを研究課題にしたいと考えています。これは小さな 3 階建ての 1500 平方メー
トルほどの小さな建物の写真です。まだこの小さな建物では先ほどの 15 人の専任教員と共
同研究員などが入れないで、はみ出している状態です。それからその隣にありますのが工学
部の芸術院賞を取られた栗生教授が設計してくださった講義棟(シーズホール)です。これ
はフィールドの中の畑です。本当の畑、裸地もありますし、プラスチックハウス、温室もあ
ります。それでこのような植物と環境を私たちは健康資源と考えましょうということです。
園芸作業をすることで心身の機能を改善していくことを療法化しようと考えています。現在
いくつかプロジェクトが動いているのですけれど、今日はそのうちの三つだけをご紹介しま
す。
漢方治療と園芸療法の融合が一番目です。これはやっと結果が出始めたところでございま
す。それから健康・環境をキーワードとした街づくり。この課題も少しずつ進んでいまして、
-14 -
本格的な段階に入ってきたところです。それから閉鎖型システムを用いた薬用植物の省資
源、無農薬、環境保全的生産に関しても結果が出始めたところです。
まず漢方治療と園芸療法の融合ですがこの建物が当時の学長の学長裁量経費で、建てた床
面積 500 平方メーターのプレハブの建物で柏の葉診療所と呼んでいます。これは簡単に説明
しますけど、西洋医学は主に疾患に注目して治療していくのに対して、それを補完的に全体
的な不調、病態を総合的に認識するという東洋医学の視点を取り入れて心と体を統合化した
療法で、これは漢方喜多敏明先生が診療所長になっています。私たちの目指すところは、心
と体のケア、未病、まだ病気になっていない状態病気にならないように治すこと、国民の健
康増進です。このようなところに園芸療法、薬膳療法、環境健康教育、高齢者のケア、介護
予防を東洋医学と医食同源的な東洋医学の実践、従来のものより幅広い考え方で実践すると
いうことです。そのために園芸健康資源とを使いましょうと。それから園芸フィールド、環
境そのもの、園芸作業、それから健康植物としての園芸作物を使います。この写真は診療所
の玄関、この写真は玄関を入ったところの待合室。ゆったりとした待合室です。それから調
剤室です。この中に園芸療法の部屋があり、ここに園芸療法庭園を構築中です。これは今年
の 3 月のまだ草が生えているだけの写真ですけど、こういう所で来所した患者さんに園芸作
業を楽しんでもらいます。雨天の日はこの部屋の中で園芸作業してもらう、楽しんでいただ
きます。この研究を昨年から実験的にやっているのですけども、この写真は果樹園での園芸
療法、ブドウの収穫調整作業です。今写真に写っているのは、先ほどの診療所に来られた患
者さんとこの診療所の運営に協力してくださってるボランティアの方々です。その人たちに
ブドウの収穫期を楽しんでもらいました。私の専門は環境学で、心理学は分からないし、医
学はなおさら解らない人間なのですけれども、やってみて園芸側の人たちが驚いたのは、こ
の人たちの中に、私は肩が痛くて腕が肩より上に上がりませんという人がいて、それだった
ら収穫しなくて結構ですよ、見ててください、って言ったら、最後の方は自分で一生懸命ブ
ドウの房を収穫していたというようなことが実際にあるようです。話には聞いてたのですけ
ども、今までこういうことが研究されてなかったので、研究しようということです。またも
ちろん医学的なデータ、心拍数とか、フリッカー値も測定していますし、またアンケートに
よってどんな作業が一番楽しかったのか、どんな作業がどんな症状の方に向いてるのか、と
いうデータも取っています。そうしますと、聞いてみないと分からない、計ってみないと分
からないことが続々と出てきす。例えば私たちは収穫が作業の中で一番楽しいと思ってた
ら、実際にアンケートを取って見ると収穫した後、傷のついたブドウの実を取るとかの調整
作業が一番楽しいと答えられたということです。そういうことをお医者さんに聞くとそれは
身体の機能改善に非常に良いですねと仰るということです。小さな発見ですけども、色んな
発見がございます。その他、園芸療法を実践されている老人ホームに行って意見交換、情報
交換をしています。ここでも膝が痛くてしゃがめないと言ってた人が、そのうち自分でも気
がつかないうちにしゃがんで夢中になって作業をしているという実例はあるようです。
私たちは今まで述べた社会のニーズに対して千葉大学として、このセンターが治療という
実践的な活動を通じて対応し、具体的には園芸療法プログラムのケアへの応用、介護予防に
-15 -
重点化した高齢者福祉のケア、それから生活習慣病に対する東洋医学的な未病教育、環境ホ
ルモンの長期的な影響を研究します。環境ホルモンの検査はこの秋からこの診療所で行う予
定です。長期的には医療費の抑制、医療の多元化、国民の健康増進、生活の質の向上などに
貢献します。実はこの漢方治療、補完療法とも言われますけど、これはアメリカで非常な研
究投資がされています。理由は二つありまして、一つは漢方治療をすると行政的には医療費
が抑制されるということです。もう一つは調査によって、60 歳を過ぎた方々で病院に来ら
れる方は西洋合成薬よりも漢方薬を好むということです。どちらが良いですかって言うと、
6、7 割の人が漢方薬をくださいと言うということです。実際問題どこか特定の臓器が悪い
とか、特定の疾患があるというより、全体的な活力低下や生活習慣病が高齢者には多いわけ
ですから、漢方薬の出番がかなりあると考えております。
私たちはこのセンターで二つの活動をやってます。環境健康講演会と、環境健康ビジネス
フォーラムです。環境健康講演会は市民の方を対象にしたもので、月に二回くらいやってい
ます。毎回 100 人くらいの方に来てもらっています。それから環境健康ビジネスフォーラム
はこのセンターの活動を行政的、あるいは産業的に応用したい方々が集まるフォーラムで
す。そこには様々な職種の方たちが参加していますけども、私たちの話を聞いて早速セコム
という会社が園芸療法をビジネスとして取入れたいということで始めました。具体的には高
齢者施設、老人ホーム、デイサービス、提携病院への園芸療法の導入、さらにはそのコミュ
ニティーサービスとしての展開のコーディネートなどを事業化するそうです。これはその会
社の人が言ったのではなくて私の解釈ですけども、老人の方々に安心と安全を極度に提供
し、老人をケアされるばかり、ヘルプされるばかりの状態に置くと生きる希望を失ってくる。
そうじゃなくて自分がこの植物を世話しないと、この植物が困る、植物を世話していると心
身が安らぐ状況が生きがいとか、癒しに繋がってくるので、結局健康増進に園芸作業が役に
立つということではないかと思っています。考えてみますと、これは老人に限らない効果で
あって、子供でも大人でも精神的ストレスから来る心身の障害には効果があるのではない
か。そういう方々は田舎よりも都会にたくさんいらっしゃって、またそういう人たちには園
芸作業が必要とされているのではないかと考えています。それは大学にも当てはまるかもし
れません。
さ て、 街 づ く り の 方 で す け ど も、 街 づ く り の コ ン セ プ ト は LOHAS、life styles of
health and sustainability、健康と持続性を優先したライフスタイルということです。こ
のコンセプトはアメリカで広く実践されている生活スタイルで、環境に優しいライフスタイ
ル、持続可能な経済の実現を願っている、ヘルシーなライフスタイルを心掛けている、薬に
頼らず病気予防を心掛けている、自己実現に力を入れています。このようなことを生活の
モットーにしているアメリカ人が年齢を問わず平均 3 割いるということです。3 割というと
社会的に無視できないですから、行政的にも産業的にも注目されるのは当然です。つくばエ
キスプレス柏の葉キャンパス駅周辺と千葉大学の環境健康フィールドワーク科学センターの
キャンパスは LOHAS でデザインしていきましょうと栗生教授が提唱しています。これに
は工学部の都市デザイン関係の方々が大いに関わってくれまして、またそれぞれの園芸作業
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の道具、施設などはいわゆるユニバーサルデザインということで、高齢者、子供、あるは身
体障害の方々にも優しいツール、場、環境を提供していこうとしています。駅からセンター
まで 1 キロの道を八重桜の並木道にします。それから環境健康フィールド科学センター、こ
んぶくろ池、柏の葉公園、東大の柏キャンパスを緑の輪で繋ぐことを提唱しています。その
ためには広域的視野でキャンパスを位置づける、環境、健康を最優先する。ただし国立大学
法人であるので収益性も考えます。この考え方を駅の周りにも広げて、健康ハウス、エコ家
具、漢方薬局、健康食品、無農薬野菜、薬膳レストラン、健康器具、市民農園、園芸療法な
どの施設で構成していくために千葉大学のセンターが大いに連携するし、また協力しようと
いうことで、これは地元の方々、会社の方々に興味を持っていただいています(図 2)。た
だ非常に複雑な状況があ
りますので、問題を一つず
つクリアしながら少しず
つ前に進んでいます。
最後の課題は、閉鎖形植
物生産、システムによる薬
用植物の省資源、無農薬、
環 境 保 全 的 生 産 で す。
ちょっと話が飛びますけ
ど、先進国の高齢化社会そ
れからアジア社会の経済
成長及び世界的な健康志
向により、漢方薬の需要が
増加しています。漢方薬の
図2 環境と健康をテーマとした、つくばエキスプレス柏の葉
キャンパス駅前のショッピングエリアのイメージ
原料となる薬用植物の主
な供給源は中国及びベトナム、インドネシア、タイなどです。そういうところでは従来薬用
植物は自生しているものを山菜のように採取していたのですけど、それが枯渇して現存量が
減少しています。そこで自生薬用植物からの転換が必要となっています。ところが薬用植物
は、害虫に強いイメージがありますけど、実際には弱いものが多くて、農薬をかけないと薬
用植物が栽培できない。それで薬用植物から残留農薬が検出されています。供給量が不足し
て中国では一部の薬用植物に関しては輸出禁止の措置がとられている。それから供給が足り
ないだけでなくて、カンゾウとかマオウという薬用植物はあまりにも乱獲が過ぎて環境破壊
が起こっている。従来草原だった所が乱穫で砂漠化している。これは大変だということで、
中国自身が保護に乗り出してる。その結果、日本あるいは欧米の漢方薬の関係者が大変困っ
ている。というのは、そういう状態になりますと必ずまがい物とか、品質の悪いものが混入
してくるわけです。日本の場合は漢方原料の 96 パーセント位が輸入に頼っていますので、
そういうことは非常に困ります。やはり安心して使える漢方薬は自前で生産しなければなら
ない。自前でということは閉鎖型植物生産システムを用いた環境制御下での薬用植物生産の
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利点を生かすことになります。これには優良母本から栄養繁殖した苗を用いるので遺伝的性
質が均質である環境制御下で生産されるので薬効成分濃度が高くかつ安定している。それか
ら昆虫、農薬、病原菌その他の交雑物が混入していないので高品質である。面積あたり、時
間あたりの薬効成分量が高く、作業量が少なく安定生産が可能であるという利点がありま
す。図 3 は閉鎖型植物生産システムの模式図です。ここでは断熱材で囲まれた断熱倉庫状の
植物工場みたいな中に薬
用植物が栽培されていま
す。これはかなり人工的で
これで本当に大丈夫なの、
資源使いすぎのではない
のと心配するのが普通な
のですけども、実際にこの
写真のようにトマトの苗
を育成すると農薬を一切
使わなくて済む。それから
排水と一緒に出てくる肥
料分は環境汚染源になる
わけですけど、そういうも
図3 閉鎖型植物生産システム模式図
のが一切外に出ない。また
生産性が非常に高いことで、かえって省資源、環境保全に貢献する。それにランプの技術的
進歩、エアコンの技術的進歩などによって、これに使う電気代はこの苗の価格 1 本 50 円位
に対して1円以下ということが分かり始めて、実用化しつつあります。こんな感じでハーブ
を育てたり、あるいは最近ベビーリーフという名称で売られているものがありますけども、
このようなものが非常に簡単に、また省資源的に今の閉鎖型植物生産施設で生産できる。
ここからは私の専門分野になってしまうのですけども、セントジョーンズワート(セイヨ
ウオトギリソウ)という欧米では広く使われている薬用植物で、昔から抗鬱効果があり、最
近では抗癌的な効果、抗ウイルス的な効果もあるとか言われている薬用植物がある。カナダ
とかヨーロッパではこの薬効成分(ハイペリシン)を合成薬では売れず、植物から取り出し
たものでなくてはならない。ところがこれも資源が枯渇しています。枯渇している状態で供
給しようとすると成分がばらつくので、今欧米では問題になっています。それを先ほどの施
設で、ランプの色を変えたり温度を変えたりして栽培すると、薬効成分量が屋外の場合の
10 倍、20 倍になるというデータが出てきています。どの程度までこれが普及するか未だ分
かりませんけども、薬用植物の閉鎖型植物生産施設での生産ということが将来普及すると考
えています。ここに閉鎖型植物生産施設の特長をまとめました。1. 外界気象に影響されず
高品質な生産が可能、2. 水、肥料、CO2 の使用を節約できて排水量を少なくできる。特に
水の節約は極端です。今この私達の部屋は冷房されているのですけど、冷房しますと冷却板
で結露して排水(ドレーン水)が外に出てきますね。閉鎖型システムではそのドレーン水を
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集めて潅水に使っています。そうすると植物は根から水をたくさん吸収しますけど、その
98 パーセントは葉から蒸散として空気中に出てしまうのですね。その水をほぼ全部回収で
きますので畑で栽培した場合の潅水量の 30 分の 1 とか 40 分の 1 の量で済む。また先ほど言
いましたように、3. 排水が外に一切出ませんので環境保全になる。4. 害虫がつかないので
農薬が不要である。5. 苗あたりの設備は温室と同等以下である。6. 電気代は苗 1 本あたり
で 1 円程度。7. 作業面積は 10 分の 1 になる。8. 環境がいつも快適ということがあります。
ちょっと難しいので結論だけを申しますと省資源的、省力的、環境保全的に高品質な高付加
価値植物を生産するシステムであり、温室に比較して価格性能が十分に高い施設であり、普
及しつつあるということです。
現在進行中の課題を三つだけ説明しましたけれども、全体的に申しますと私たちがセン
ターで手がけてる問題は、「 微量多成分が人間の心と体に及ぼす影響 」 となります。つまり
漢方薬は一つの成分ではなくてたくさんの成分がある。薬用植物一つにしてもたくさんの成
分がある。それを調合するわけですから更にたくさんになる。それが長期に渡って人間の心
と体に多面的に効いてくる。従来の科学では非常に取り扱いにくい、近代科学では取り上げ
られ得ない研究テーマです。機能性野菜もそうです。別にビタミンだけがあるわけではない。
ビタミンにも何種類もある、それらが全体として効く。命を育む園芸作業そのもの、園芸作
業が気分を心地よくするということは、やってみればほとんどの人がそうなるのですけど
も、なぜそうなるのか。これには色んな要因が効いている。それから各種の環境ホルモンに
ついても、香り、アロマセラピー、機能性食品などもそうです。あるいは安らぎ空間。どう
して緑に人間が安らぐのかと言うことも同じです。本日の参加者の中には研究者がたくさん
おられますけども、研究者というのはなるべく論文としてまとめやすい研究課程を選ぶ。そ
れから特に学生の研究課題にするのは、1 年とか 2 年とかでまとめなければいけませんから、
その位の期間で片付く問題を与えざるを得ない。そのようなことが過去 100 年近く続けられ
てきたので、先端的技術はどんどん進んでいった。小さく切り取って問題を単純化していけ
ば、研究はどんどん進んでいく。その一方でこのような微量多変数のものが人間の心と身体
に同時に及ぼす影響という課題が残されていった。その結果が最初にお見せした現代社会の
ストレスの大きな要因になっている。ですからもうそろそろ先端技術を追うだけではなく
て、このように面倒であり、研究成果は中々出にくいけども、やらなければいけない課題が
あるのではないかと考えています。ただ本当に優れた工学者、応用数学者というのは脳の研
究みたいなことをされてるわけですから、システム論的に言うと非線形、で履歴現象があっ
て、さらに係数が可変である研究対象に対して研究をして結果を出して、解析する手法をこ
れから私達は開発していかなければいけない。それを数千年かけて経験的にやってきたのが
東洋医学です。それを近代科学、未来科学と結合させていく必要があるのではないかという
ことです。
千葉大学の多くの分野の専門家が産業、行政、地域の皆様と一緒になって、心と体の健康
と豊かな環境を創造するための環境健康総合科学と、その実践に努力します。今千葉大学の
試みをご紹介させていただきましたけれども、最後にお話しましたように、結果の出にくい、
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研究成果としては出にくいもの、皆を説得しにくい課題が多くございます。園芸療法も 2 年
間 10 人位のグループで格闘してやっと論文原稿が一つできた。その論文原稿をどこの雑誌
に投稿したらいいか分からない、採択されるかどうかも分からない。非常に厳しい状況にあ
りますけども、やる価値はあるのではないかというところで努力しています。街づくりにし
ても、この街が本当に心地良い街になるには 10 年、20 年の歳月が必要ですが、それでもや
るべきだと思います。
貴重な時間をお借りしてお話しさせていただきまして、皆様方にお役に立てたかどうか分
かりませんけれど、これで私の話しを終わらせていただきます。どうもありがとうございま
した。
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〔Ⅲ〕 特
別
講
演
「大学生活を大切に」
行天 良雄(医事評論家)
特別講演
大学生活を大切に
医事評論家 行 天 良 雄
今ご紹介いただきました行天と申します。1926 年生まれですから、長く生きますと、つ
くづく思うのは、老化とかエイジングという問題は、実は人生観に関して決定的な変化を生
むと云うことです。
ちなみに私はもうぼつぼつ終わっても良いかなと思っていたんですが、実は日野原重明先
生という方がいらっしゃいますが、ついこの間呼ばれまして、自分の今やろうとしているホ
スピスと、老人問題に関しては、まだ大分時間がかかると。今自分は 95 だけども大体あと
20 年 115 まで生きていかないと完成できない。従って君は手伝ってもらうから体に気をつ
けてくれと、こういう手厚い、しかも強圧的なご注意を受けたわけです。
この年齢になりますと今更 115 というのはちょっと酷いんじゃないかなと思いますけど、
私あと 20 年ということはですね、100 に近付くわけでございます。大変だなとお思いにな
る方もいるかもしれませんが、私的な問題でありますが、私の父が 106 歳で寿命をまっとう
しました。また母はちょっとアクシデントによって 96 歳で亡くなったんですが、黙ってい
たら、その兄弟や何かを見ますとやはり 100 を超えていると思うんです。それでその他をずっ
と見ますと、100 というのがごろごろしているわけです。特に、父が 106 といいますと、細々
とやっとこさっとこ 106 になったという感じを多くの方はおもちになると思うんですが 98
になってもゴルフを普通にやっていました。しかもハンディキャップは 8 でした。本当は
16 位でした。まあ他人はお化けと言うのですが、私は側にずっとおりまして完全同居を続
けておりました関係で、その経年変化、経時変化というのを目の当たりに見て参りました。
さすがに 100 位になって参りますと、多少動きが鈍くなったり、反応が鮮やかじゃなく
なったんですけど、代わりに非常に意地悪になりまして、かつての自分の部下の方が、どう
せボケ老人がどうだろう位でおいでになるんですけど、そういう方にはサービス精神が極め
て旺盛でございまして、ボケた振りというのを良くやっていました。反応がはっきりしない
ままいてですね、帰った後であいつはろくな奴じゃないと、まず社長にはなれっこないとい
うと、その通りなれないんですよね。あんな考えじゃ、とてもじゃないけどこれからの時代
は乗り切れないぞということを父が言ったのが、一人二人じゃなくしかも適切でした。いわ
ゆるトシの功を十二分に生かしていました。その様な環境の中でこれから先をどうみるのか
考えるのかこれは至難の技です。私今日ご紹介いただいたように医事評論家となっています
けど、いまだにまだNHKにいるような立場でうろうろしております。評論なんてやって
たって何の役にも立たない、やっぱり実践で一人でも多くの人々と接触して、その方に会っ
て良かったなということを心に刻めるような存在でありたいとずっと願っておりましたし、
106 まで生きた父の教育というのは、何が大事だといっても、俗に言われているようなお金
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だ、地位だ、名誉だということじゃなくて、友達だと。一人でも多くの人と知り合いになれ
ということをずっと言われて参りました。
そして今ですね、いわゆる評論という立場に立って世の中見て見ますと、一番当らないの
が経済評論でございます。もう日本が貧乏になるのか、豊かになるのか、こんなことは全然
分からないわけですね。それで調子がちょっと上向いた程度で、良くなった良くなったと言
うけれども、街には明らかに職を失って困る方もいらっしゃいます。特に私努めてタクシー
に乗るようにしており、タクシーの運転手さんから情報を取るということをして参りまし
た。タクシーの運転手さんに聞いていれば、世の中全部分かるわけです。特に私は今ご紹介
いただきましたように、医療の方中心でございますので、ある街に着きますと、真直ぐ行っ
て、本当に目と鼻の先の大学病院だろうが、大病院だろうが、タクシーに乗りましてぐるぐ
る乗って、大体 2、3000 円の所までうろつきましてですね、景色見てるような顔をしなが
ら何気なく運転手さんにあの病院どうだ、あなた病気になったら、あの病院行くかと言うと、
間違っても行かないとかですね、あるいはあそこはいいですよとか、あれはいいです、遠く
の方からお客さんが来るんだというような話とかですね、もう根掘り葉掘りそういう情報を
取ることを仕事として参りました。ですから結構正確な情報を、私一人だけではなくてたく
さんの仲間とか、ネットワークによって取ってる積りなんです。けれども、ここ2、3日の
動きを見ても、皆様ご存知の通り全く当らないんです。
例えば多少はニュースに興味をお持ちかも知れませんからお話しますと、昨日要するに郵
政国会、郵政のものを中心とします衆議院の本会議でですね、5票差で小泉政権の方の考え
方が一応通ってるわけです。ところが直前までの私どもの仲間の予想ではですね、衆議院楽
勝という風に言われていたんですね。それが 5 票差というのは誰も予想してなかった。これ
はわずかな時間なんですね。激しい突き上げと解散、解散といったら簡単に言ったら代議士
の三分の一ないしは半分がクビになるわけですから、これは大変なもんでございます。お前
会社辞めるかどうだ、大学辞めるかどうだと言われるのと同じ位の匕首を突きつけたもの
で、しかもやりそうだという確率が非常に高かったためにですね、大混乱が起こって腰砕け
になるだろうという風に多くの人が見ていたのですが、とんでもない。開けてみましたら 5
票差でした。この 5 票が非常に不安定 5 票でございまして、もう一押しされていたら逆転し
ていたわけでございます。もしあそこでどんでん返しが起きたら、G 7には出ないでこの問
題に決着をつけて解散総選挙にでる積りだったという風に近くにいる記者達は言っておりま
す。それ位切羽詰っていたわけです。でもこれは一応衆議院を通過しました。これからあと
猛烈な政治工作が行われて参議院を何とかして通して、郵便局の郵政民営化と称する、何だ
か良く分からない問題をどうしても通さなければですね、解散以外に何者もないわけでござ
います。私の長い人生から見ますと、どうして解散しないんだろうと、やっぱり一般の国民
の多くの人たちがどうしたら良いかな、ということを自分の問題として考える時代に移って
いるのに、なぜ一部の政党や政治家だけがこんなことやってんだろう、と本当に不思議で
しょうがないわけでございます。その前に総選挙の予想を占うということで、東京都議選が
行われました。これもまた全く予想通りでございましたんで、これは当ったんです。という
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のはある一部の宗教政党は 100%当選いたしました。この政党の動きによって全部が決まり
ます。それでその通り決まったわけです。ですから何も不思議じゃなくて、トータルで見る
とこの都議の結果は当たり前なわけです。昔は投票日当日に大雨になるか、晴れるかという
ことによって、晴れたらお終いだというのが保守党の考えだったんです。皆が楽しい自分の
生活のためにどこかに行ってしまって、選挙に来ないと。土砂降りの雨だったらどうして強
いかというと、これは信念を持った人だけが投票に行くと。あるいは締め付けで義務になっ
ている人が投票に行くから、土砂降りの雨なら絶対に強いんだということなんですが、この
頃は晴れようが雨が降ろうが知ったこっちゃないっていうんで、余り外的条件にはならな
い。ただし勿論一部の政党だけが足を運びます。従って、大分前になりますけれども、福岡
の補欠選挙なんかは、実質的な普通の人の投票率というのは 10 パーセント台です。10 人の
うち1人位しか投票しない。今度の場合でもですね、東京都議選でもそれを除いてカウント
いたしますと、やっぱり 20 何パーセント、10 人のうち2人しか投票してないんです、普通
の人は。普通というのはちょっと特別な意味ですが、ある特定政党によって全部決められて
いる割り振りではなくて、という方はですね。つまり国民全体が何のチャンスがあってもで
すね、自分たちの考え、自分の意思、あるいは自分にとってこの選挙とこれからの日本がど
うなるのが自分で一番幸せなのかという自分の問題、全くのエゴでもいいんです。自分に
とっていいのが何だっていう考えが全くなくてですね、自分にとってはどうなろうと知った
こっちゃないと、明日は明日で幸せなんだろうというような考えがどうしても強いわけで、
このような国は世界にめったにございません。自信を持って言い切れますのはですね、私非
常に長く、50 年以上に渡りましてNHKに世話になっていまして、その間各国に駐在であ
るとか、あるいは出張その他で行かされたわけですけれども、その間ずっと見ておりまして
ですね、これほど自分というものを大事にしない人々、また大事にしなくて良い国というの
は、本当に数少なく感じております。
ですから今日一つのテーマとして皆様に申し上げたいのは、皆様方が接触されている方は
若い方たちです。そして近頃の若い者はということが嫌になるくらい言われております。と
ころがここで非常に面白いことがございまして、シルクロードの第一回の取材で行った、ス
タッフが昔のペルシャですね、アレキサンダー大王だの何だのその関連のところで、もう廃
墟になっている街を掘り起こしたりして、その中に珍しいくらいきれいなプレートが出てき
たわけなんですね、石のプレートでございますけれども。言葉はもちろん読めませんし、今
の学者だったら、普通の学者だったら読めないような文字だったんですけれども、それを
10 年ほど前まで専門の方たち、もちろんこれはスイスだとかスウェーデンの専門家ですけ
れども、日本語に訳してもらったんですが、その立派な石の面に、きれいに彫り付けられて
いた言葉が「近頃の若い奴はなっとらん」と。「こんな奴らに国の将来も、我々の将来も任
せられない」ということがはっきり書いてあるわけです。かれこれ 3000 年前にですね、人
類はぐじぐじぐじぐじ言いながらですね、近頃の若い者はということを言い続けて、3000
年経った今でも近頃の若い者はということを言ってるわけですから、何のことはない愚痴の
繰り返しです。老いの繰言というのは文字通り老いの繰言でずっとくるだろうと思っており
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ます。そして、これから私ちょっとお話させていただく時にですね、もう 80 近い爺さんが色々
申し上げることは、結局は老いの繰言でしてですね、ご紹介いただいた先生のお名前を汚す
ようなことをお話するんじゃないかな、ということを危惧しております。50 年間医療のこ
とばかりで飯を食ってきた人間ですから、医療制度がどうなるか、中医協はどうなるか、一
点単価がどうなるか、医者がどうなるか、看護婦がどうなるかということに関しては、それ
なりに定見も持っておりますが、今日お話しするように、一体若い方たちにどうしたら良い
のか、というのは本当によく分からない分野が多すぎますので、はっきりしないままお話を
続けさせていただきます。
さっきのところに戻りますけども、経済も当てにならない、政治はまして当てにならない、
そしてその次にせめて数字というものの踊る人口問題の予測というのは正確だろうというの
が、人口研を中心として、相当自信を持った仕事を続けてきたのです。けれどもここのとこ
ろ大分外れております。私はその方の仕事をお手伝いして参りましたので、一番印象に残っ
ておりますのは丁度 1970 年。ここで日本が初めて高齢化社会に突入いたしました。要する
に7.1パーセントの高齢化率だったわけです。ところがその頃はオリンピック、万博、が
ずっと続いておりましたためにですね、日本ではこの高齢化問題がその次なるシチュエー
ションとしてどんなものを占めてくるかという認識があまりなかったんです。むしろ限りな
く経済も社会も発展する、素晴らしい将来があるんだという夢みたいなことをずっと考えて
きたわけでございま。このままいくと徐々に高齢化の率を高めていって、皆が、ここからが
大事なんですが、長生きできる時代に移っていくと。そして来世紀に入ったあたりで初め
て、日本は高齢社会と言われている 14 パーセントを突破できるだろうと。突破するだろう
じゃなくて、できるだろうという解釈を発表しております。しかし現実は見通しが完全に
違ったわけです。わずか 23 年後、1993 年のところでですね、日本は高齢社会に突入いたし
ました。つまり 14 パーセントを超えてしまったわけです。ここで初めて、これは大変な問
題になると、色んな意味における幸せだとか、あるいは平和だとか、あるいは経済の問題、
こういった問題に関しても先行き必ずしも一本化できないんじゃないかと。大きな問題とい
うのはこれから先どうなるんだろうかという問題であったんです。けれどもその時点でも多
くの人たちはあんまりそれには目を向けないで、他の問題ばかりが論議されておりました。
そして次なる場面であるところの、超高齢社会と言われている、高齢化率が 20 パーセント
を超えるというのは大分先だと、2010 年位だろうという風に予想をまた立てていたわけで
す。ところが高齢化の前にですね、過疎化が、つまり地域偏在が強烈なパンチを日本の全体
に与えて参りました。既に去年の世紀の終わりにですね、日本の面積から言いますと 70 パー
セント位の所が完全に超高齢社会に移行しました。しかし都市圏その他を中心とする所で人
口の安定供給と維持が続いておりましたために、トータルで言うと高齢化率というのは一般
的な高齢化社会から徐々に超高齢社会に移行するというパターンで参りましたけれども、日
本の人口格差はきわめて急速です。地方にいっており、おやと気がついた時に、まず当たり
前ですけれども、子供の学校の往復の声が聞こえない、更に驚くべきことに、方々のうちに
飼われているはずの犬だの何だのの鳴き声がない。そしてそれと同時に良く耳を澄ませてみ
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ますと、鶏のコッコッコッコとか、あるいはコケコッコという声が全く聞こえなくなってい
るわけです。これはもう恐ろしい世界ですね。もう本当に良く書かれているように、サイレ
ントスプリングどころではなくて、全く死に絶えた妙な世界だろうという感じを一晩、二晩
とそういった民宿のようなところにに宿をとって泊まらせていただいてると感じます。です
から日本の場合は今の時点に当てはめますと、広域市町村化というのが進んでいるため、何
をもって町といい、何をもって村といい、あるいは郡部とか都市とかというのは、どういう
カテゴリーでやったらいいかというのは非常にわかりにくくなっております。
例えばこの千葉市の場合で、まさかここが政令指定都市になると思ってなかったんです
が、なぜか政令都市化することによってメリットがあったものですから、これは地方交付税
の問題ですけども、その問題でメリットがあったから夢中になって周辺を広げていって、一
本化して、大千葉市というのでこれが政令指定都市になったわけです。しかし政令都市全体
から見ますと、順番は全く変わっておりません。わずかに北九州なんかが相当無理して政令
都市化したためにですね、現在人口減に悩み始めておりますけれども、東京でも、大東京は
変わりませんけれども、東京の中の区部の人口変動と高齢化率というのは激しい変動を続け
ております。それと同じで結局一体これからどうなるんだろうということをトータルで考え
ますと、日本は大雑把にいって人口が集密している地域というのは、大体面積にしますと
20 パーセント、そして過疎とは言いませんけども、俗に言う郡部並びに山林、その他とい
うのがこれが 80 パーセントです。ただし問題はその 80 パーセントに住んでいる方々の人口
が現在 15 パーセントを割り出しております。従って残った方たちは、85 パーセント以上が
都心への集中を続けているわけです。だからこそ千葉も政令指定都市なんてことになれるわ
けです。しかしこれは先ほどの学者の話にもございましたように、人間の適者生存的な問題
を超えた大きな環境問題としますと、これは大変な問題になって参ります。
よその市町村の問題でちょっと申しますと、例えば香川県の坂出市民病院というのがござ
います。そしてそこの病院に関してはですね、今の前の市長が大英断をふるいまして、市民
病院の大人事異動を断行いたしました。なぜ断行したかというとあまりにも市民病院の予算
が多すぎてですね、坂出の市民が上下水道、なかんずく下水の処理に関してお金をもうかけ
られなくなったわけです。補助金その他の銀行からの借り入れ一切が限界にきておりまし
て、これじゃあ仕方がないと、それだったら病院という医療よりも、上下水道という環境問
題を先に押さえるほうが先だということでとりあえずの対応を示しました。それをみますと
ですね、同じ日本という国が果たして八対二で良いんだろうかという問題が一つございま
す。けれども、これはもう私は避けることができないと思います。皆が寄り合わなきゃ暮ら
せなくなってるんです。長命でも、それなりの生活のあり方を考えると、集中と分散はきわ
めてはっきりしてきます。どっちみち誰かのところで人の世話になる。そのためにはとりあ
えず病院の問題に少し触れさせていただきますと、つい数年前までは看護婦が足りない、看
護婦が足りないというんで大騒ぎしておりましたけれども、この頃あまり話題にならなく
なったのは、医者が足りないんです。じゃあ医者が足りないっていうのは医者の実数が足り
ないのかというとそうじゃなくて、要するに偏在なんですね。溢れている病院と、それから
-25 -
足りなくて何をやったって駄目で診療科の閉鎖をやっている病院と、二つ並んでおります。
そして同時並行でそれらを大きく動かしている要因というのは、実は患者の減少です。東京
の、そして今日お集まりの関東圏、そこの俗に巨大病院と言われている病院が現在入院率が
段々減ってきております。それから入院予備軍が減ってきております。ご存知だと思います
けど、入院日数をなるべく減らすということで短期入院、日帰り手術だとか、そんな問題が
もてはやされてずっとやってきたんですが、さて落ち着いてみますと、現時点では、患者の
減少が想像を超えた速さで動き出している地域がたくさんございます。だから平均在院日数
を 15 日位にまで持っていかないと、とっても食っていけないという院長さえ民間病院の場
合は出始めております。患者の減少というのは二つの要因ではっきりしております。一つは
絶対的な日本の人口減少が始まります。これはもう 2007 年位だと言われておりますけど、
これはあくまでも数字の遊びでございまして、地域によっては人口減少の方が大問題になっ
ております。少子化どころの騒ぎじゃない。少子化というのはその後の問題。現に今減り始
めているわけです。そうすりゃお客である患者の激減というのは必至です。
これ、先行きですね、患者増がおこるか望めるかといったらまず不可能です。何故かとい
うと、これからが本題になるわけですが、1950 年あたりから、日本の経済向上で、在来の
疾病構造というのが大激変、激動が進んでおります。これを皆様方専門家でいらっしゃいま
すから、やれ疾病構造の変化だとか、感染症の転換だとか、色んな風にいいます。何、一般
の人から言えばですね、言葉は簡単なんです。病気らしい病気が激減したんです。黙ってい
ても長生きできるんです。もっと乱暴な言い方をしたら、医者も病院も要らないという世代
と、ある年齢層が増えてる、激増している。そのスパンがですね、、一年、二年だったものが、
五年、十年という風に延びております。それじゃ今病院、千葉大もそうであろうと思います
けども、一体あんなに大勢人が来ているのは何なんだろう、皆老人です。皆というのは言葉
尻で申し上げておりますから、それはお許しいただきたいんですけども、ほとんど高齢者で
す。私のような高齢者がですね、二通りに分れます。行くところがない、こういう方たちが
どうしても医療機関とか、人の集まるところへという風に集中しがちですから、どこもかし
こも今のままの制度でいったら病院は相当混むと思います。いつまでもお客さんが集まって
くると。しかしここでですね、いわゆる医療技術と称するものをどの程度揮うべきかという
問題に関しては、非常に難しい問題でございます。寿命を天命と思い、文字通り天寿といっ
て考えていくのか、これは本人を含めてですが、特に医療側にとっては非常に大事な問題が
でて参ります。しかしそうじゃなくてですね、何が何でも技術を駆使してということは、こ
の頃よく批判されておりますけども、例えば 90 の方にオペをしてですね、それでどうだこ
うだというのはけしからんという人もあるんですけども、私はそれは、それぞれですね、そ
れぞれの方の事情と考え方、またそれを診て、診させていただいている医療側の判断、考え
方、それで決めていく以外はないと思っておりますからそれは構わないんですけれども、問
題はそこで支払われている医療費の動向というのは大蔵省じゃありませんけど、相当これか
らはある程度考えていかなきゃならない問題だろうと考えております。
じゃあお前はどうなんだと言われるに決まっておりますけれども、私の場合はさっき申し
-26 -
ました様にほどほどに生きたし、まあ見るべきものは殆んど見ました。例えばここの大学、
ここへ伺った時に、ああ、ここがこんなに緑なのかと。磯野学長の頃よく来ましたけれど、
何とも言えない雰囲気なんです。あまりにも古い話なんですけど、千葉で私は空襲に遭いま
した。千葉が全滅しました。よく燃えました。ただし私はその前に横浜が 5 月 29 日の空襲
で全く焼け落ちたんです。私の家も。そしてその余熱と申しますか、靴を履いていても歩け
ないくらい熱くなってしまった道に死体がいっぱい転がっておりました。その中で印象に
残っておりますのが、役に立たなかった防火用水といって、桶の中に水をためておいて、そ
れで火を消せばいいと言ってたんですが全然話が違っておりまして、その中に息が苦しくて
首を突っ込んだ髪の長い女の方がですね、やっぱり上半身だけ水に突っ込んでおり焼けない
で、下の方はもう全くの炭みたいに黒焦げになっているのがごろごろしておりました。そん
な思い出は一杯あります。
私は千葉寺の方にお世話になっていたのですが、3 月 10 日に本所深川の大空襲というの
がございました。これはもう人類史上最も残虐だと言われている空襲です。そしてここでア
メリカ軍はですね、要するに軍事施設をどうこうだなんてけちなことではなくて、大殲滅作
戦に方向を転じたわけです。ちょっとそのことだけ申し上げておきますと、まず外回りをぐ
るっと大きく爆弾攻撃をかけて、次に焼夷弾攻撃をかけて、火の輪を作ったわけですね、東
京に。そして今度中はですね、実際は焼夷弾を多少は落としましたけれども、それはマッチ
を擦って落とすようなものでございまして、大半が自分たちが持ってきた予備タンクのガソ
リンを上から撒いたわけです。ですから逃げ場が全然ありません。そして二十数万が亡く
なったと言っていたのですが、アメリカの資料では四十数万という風に自分たちの戦果を
誇っております。そしてその時に丁度私は千葉寺におり、真っ赤に燃えている東京を見てい
たんですが、しばらくしますとですね、見ていられなくなりました。というのは上から物が
落ちてくるんです。その物というのは何かといいますと、これは皆様に想像できない、瞬間
的にものすごい熱が発生しますので、全部上昇気流で持ち上げていくんで、それがほどほど
の風に乗って来てですね、もう持ちこたえないから落っこちるわけです。そして私が世話に
なっていた下宿屋さん、ここは屋根が三ヵ所も壊れました。当然なんですね。大きな洋服箪
笥、三つ重ねになっている箪笥、物が中に入ったままこれがおっこって来るわけです。だか
ら危なくてしょうがないから、今度は私どもは千葉大側の木のいっぱいある方に逃げまし
た。東京の空襲で千葉の町の中で逃げなきゃならないなんていうのは思ってもみなかったん
です。まして自分がその頃持てと言われても持てないような箪笥だとか洋服箪笥しかも当時
でございますから、結婚だとか家族のアルバム、こういった物が上から雨のように降って参
りました。これが空襲であり、自然現象であり、想像を超えたものなんです。そういう現象
は、私はもちろん専門ではないのですけれども、誰に聞いても話半分です。そんな馬鹿なこ
とがあるかと、40 キロもあるじゃないかと。どうしてそんな飛べるんだと。私は最初の頃
はむきになって話していたのですが、その後そういう、何といいますかねえ、浅っぽい学問
で解決できないような問題がどんどん進んでいる時にですね、こんなことを言ってたって無
駄だっていうんでこの頃はお話しませんし、たまたま千葉だったので皆さんのお顔を見てい
-27 -
たら思い出したわけです。今日お集まりの方たちは、空襲を体験された地域の方たちが多い
ようにお見受けします。勿論空襲の話をしたって、今お集まりの方は、興味の一片すらお持
ちにならないことは十分分かるんですが、どうしても申し上げなければいけないから言わせ
ていただいているわけです。その理由は、私自身がさっき申しました様に、1926 年生まれで、
子供の頃いつも明治維新の話、それから次にですね、日露戦争という丁度今 100 年前ですね、
その日露戦争の話を聞かされて、その中で 203 高地というもうただの平らなところですが、
そこを日本軍がわあっと攻めてゆき、上に構えていたロシア軍の重機関銃が狙い撃ちですか
ら、攻めていった人間を上から一人一人撃ち殺してるようなものです。もう死屍累々なんて
云うものではございませんで、あそこではですね、かれこれ当時の人口の中で考えてでもで
すね、6千人以上は死んでおります。しかもその死んだその部隊は大半が香川県の善通寺の
師団、それと仙台の師団、このあたりが中心になっております。ですからそのあたりに行き
ますと遺族だらけです。特に私の場合は香川の出身でございましたので、子供の頃おじいさ
んに、お前今どういう勉強をしているかと必ずきかれました。そして日露戦争で、203 高地
で大きく勝った、おまけに日本海海戦で大きく勝ったっていう話を習っているよ、と言った
ら、おじいさんが真顔になって冗談じゃないと言って、私を連れて行ってですね、当時でご
ざいますけれどもね、その辺の周辺の一軒一軒の家を見て、ここの家も 203 高地で死んだ、
この隣のあすこの家も息子が死んだ、あの家は親父さんが死んだ。全く素手でただ歯向かっ
ているわけですから、死ぬのは当たり前なんです。ね。そういう無策の中で当時も戦争が行
われ、そして同じことはそれこそ今から 50 年前の太平洋戦争でも全く同じことが行われた
わけです。丁度私はこの戦争のはざかいみたいなところで空襲を体験し、しかもその中で敗
戦というものを体験いたしました。そして更にその後で、私は当時の占領軍に横浜で雇用さ
れまして、占領軍の仕事をわずかの間ですけども手伝わされたわけです。手伝わされたと
いっても、本当に物運びみたいなものでございます。ただしそこで私は今横須賀にございま
す海軍病院、横須賀海軍病院にアルバイトで、アルバイトといっても、今時の学生さんのア
ルバイトとはわけが違って小使いですよ、小僧みたいなものですが、そこで食べ物をもらう
ために働きました。ところがその時に来ました主力はまず横浜のニューグランドホテルに
入ってきた第一陣です。日にちを申し上げますと、私非常に鮮明に覚えているんですが、
1945 年のですね、8月 5 日にやっと日本がポツダム宣言を受諾して、全面降伏というもの
にサインを送ったのですが、28 日に第一線部隊が横須賀から上陸して来ました。それは軍
隊はもちろん沖縄戦、マニラ戦のごろつきみたいな連中が来たのですけれども、その中のパ
ワーエリートっていうのがですね、ハーバード大学で既に 1942 年から発足いたしました大
学院、これは占領後の日本の経営政治戦略という講座です。ここで勉強してきたエリート集
団が日本に、予定通り敗戦になった日本に入って来たわけです。彼らがそこの大学院で色々
な意味でプロジェクトを作っていたものをその通り次から次へと断行していったわけです。
占領軍の命令ですから絶対ですからね、その中に医療に関してはサムスという人がおりまし
た。大佐でした。この人が中心になって日本の今日に繋がる皆保険、医療保険制度の構築そ
の他を断行いたしました。日本の看護婦というのはあまりにも酷いと、医者の奴隷じゃない
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かというので、看護の学校制度、あるいは色々な問題に関するサジェスチョンを与えたわけ
です。それから農地解放であるとか経済的な問題であるとか、色々問題がございましたため
にですね、医療の方はどちらかというとペンディングのまま 1950 年という朝鮮動乱を迎え
たわけです。そこでアメリカは今までは負けた国とはいえ一つのロマンを描けるということ
でハーバードグループに好きなようにやらせていたけれど、もうなりふり構わないと。まさ
かと思った朝鮮で次々と負けて、おまけに中共軍によってアメリカはこてんぱんにやられた
んでですね、大分話が違ったと。日本とは大分違ったんで慌てて首脳部の大人事異動を行い
ました。そして 45 年に入って参りましたハーバードエリートを中心とする人たちの大半が
本国に左遷されて送り返されてしまったわけです。当然マッカーサーも同じようにですね、
日本から追われてアメリカに帰り、老兵は死なずというような言葉を残していったわけです
けれども、実にドライに大人事異動が行われました。それでも結局アメリカはあまり勝てな
くて苦労しました。ただし日本は沈まない航空母艦として不沈空母兵站基地の役割をしたた
めに、今日に繋がる経済発展というのは異常なスピードで動いたわけです。今の若い人たち
が何気なくすごしている日本のこの豊かさというのは、あげてあの朝鮮動乱、そしてその後
しばらくたちましてからやってきましたベトナム動乱、この二つによってですね、日本が距
離というよりもあまりにも莫大なこの流通構造、経済構造の大きな渦というものを取れたた
めにこの日本の平和、そしてその日本の立場、日本の経済の安定、異常性というものが全部
できたわけです。ですから世界では、多分皆様方、随分向こうにもいらしてる方が多いと思
いますが、向こうのおじいさん、おばあさんたちの話を聞きますと、やっぱり日本に対して
は火事場泥棒という認識が非常に強いわけです。依然として何気ない言葉の中でジャップと
いう侮蔑し切った言葉が出て参ります。ただし私はそのアルバイトの時にですね、アメリカ
の凄さというものをつくづく感じたのは、何ていったってそのハーバードエリートがです
ね、自分たちが使っている普通のおばさんだの何だのに対しても、非常に丁寧な言葉で応対
してまして、今申し上げても分かりなりにくいと思うんですが、日本ではそんなことはあり
得なかったわけですね、身分制度、格差というのははっきりしていましたから。それで非常
に上手い使い方、使われ方をしているな、と感じてつくづく民族のカルチャーの違いという
ものを感じていました。ですから私はその時以来ずっとですね、親米なんです。アメリカが
好きなんです。その後ニューヨークに勤務をしたりして全く好きなんですが、大事な点はで
すね、要するにアメリカもどんどん変わりました。本来の良さを持っていたアメリカから、
世界中から難民だとかあるいは違った人たちが入っていて、例えば皆様方お分かりかもしれ
ませんが、ニューヨークで地下鉄やなんかの乗り場を聞いたらですね、大体 10 人のうち 3
人が間違えて教えるっていう。それから英語の通じない人間が十何パーセントいるっていう
報告も出ております。日本みたいにですね、全部が日本語で通じるという風に思っていると
ちょっと違うわけでございます。ただし日本も徐々に変わり始めております。例えば山手線、
その他にお乗りになるとお分かりになると思いますけども、この頃まあとにかく外国語の多
いこと。時間帯にもよりますけれどもやたらと外国語が飛び交っております。
それからもっと近いところでは、今日私はけやき会館というこの会館に参ります前に、向こ
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う側の方にちょっと行きたかったんで、向こうから明らかに学生だなと、しかも千葉大の学
生さんだなと思う方が来たんで、すいませんって言って声をかけたんですが、三回かけて何
にも返事しないで通り過ぎようとしたから、また前へ行ってですね、前へ行ったら無理もな
いんです。彼は音楽に聴き惚れているんです。レシーバーを外してくれました。気の毒なこ
とをしたなとちょっと思いました。耽溺しきっている、何の音楽か知りませんけど、それゆ
え夢中になっている人にですね、それを妨害したわけですから、じじいというのは困ったも
んだと思いましたけれども、もっと驚いたのは、その後、総務課のもっと向こうの建物は何
ですかって聞いたら、「知らないって」言うんですよ。じゃあけやき会館はって言ったらそ
れも「知らないって」言うんですよ。千葉大の中で初めて異国に触れました。これが普通に
なってきたんですよ、日本は。だから一番大事なのは、言葉が通じる以前の問題で、自分の
気持ちも自分の考えも相手の人は皆分かってくれるんだという、この日本人独特のある意味
において非常にお目出度い世界観、あるいは他民族の問題っていう問題はですね、今の若い
人は全くそういう訓練と試練を受けておりません。ですから今日これからもお話があると思
いますが、海外の方たちに対する見方、考え方というのはこの国位特異な国はないわけです。
つまりあくまでもまだまだ珍しいんです。外国の人が来てる、勉強してる、その人たちにさ
せてやるんだと、その場を提供してやっているんだと、好きな人間が勉強しに来てるんだ位
に思ってらっしゃるんですね、大半の人は。
今日お集まりの方がどうかはちょっと存じません。私の頃はですね、今そうやって入って
来た人たちと同じ心境でございました。吉田松陰ほど偉くはなかったのは、もう申し上げる
までもないんですけども、私は占領軍が入って来た時にですね、向こうの仕事を雑役として
手伝って何とかしてアメリカに行きたいと、そして自分の一生をそっちにかけようと、皿洗
いだろうが、向こうのドブさらいだろうが、人足だろうが何でも良いと。こんな惨めな敗戦
国の中にいたらろくなことがないと。それは私だけではなくて、皆が思ってたんです。そし
て密出国といいますか、それだけの勇気もなかったからやらなかったんですが、その頃の日
本人と全く似ていて必死の思いで日本にやってきた人たちが転々として不法入国だなんだと
いって、成田、羽田あたりにいると捕まえたりしていますけどね、私は広い目で見たら随分
違うんじゃないかなあと思ってるんです。私のちょっと後の仲間が有名なフルブライトでア
メリカに行きました。私の弟も行ったんですけど、何しろドルの所持が制限されていました
ためにですね、自分が大金持ちの子供だろうが何だろうが肝心要のドルが限定されておりま
すから、コッペパンが一日一個だったら上出来、後、水をお金で買って辛うじて息を継ぎな
がら勉強し、大学へ行ったりしたのが第一回、第二回あたりのフルブライトです。私は偉い
なと思ってるんですが、フルブライトという人は問題のある人ではあったんですけど、莫大
な国費の中でそれだけのことを税金で投与して、貧乏な東洋の哀れな国からですね、勉強し
たい奴を呼んでやったら良いじゃないかと、大した金じゃないんだと。アメリカにとっては
もちろんたいした金じゃないわけです。でも、日本にとってはそれがですね、今日の日本に
真の大学を芽生えさせた超エリート集団がこのフルブライトによって培われていったことは
間違いないわけです。同じことを今こそ日本がやらなきゃいけないです。けれども、さっき
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申しました様に私は、その時間すらない間に日本は相当のスピードで国力並びに社会の一切
の力関係が減衰していくだろうと思っております。
ちなみにですね、これも今朝のニュースですけれども、原油が1バーレルで 61 ドルに近
付いております。皆さん自動車程度にしか石油の問題には関心をお持ちじゃないと思います
が、バーレル 60 を超えるということは、大変な問題でございます。経済的にはもう日本の
基幹産業なんてのは相当程度ひっくり返ってもおかしくないんです。今いろいろな国が梃入
れをしております。そして原因としては、イラクがいけないんだとか、イランが出さないか
らだとか、サウジがどうだとか、金儲けで奴らが云々だとか言っていますけど、主な原因は
過剰需要なんです。その過剰需要は今までアメリカばかりだったんです。アメリカが垂れ流
しみたいに大型車に乗ってですね、うろうろうろうろしてると。限られた地下資源である石
油というものを勝手に使っていてけしからんという風に言われてたんですが、そのアメリカ
は今第二位に落ちました。今一番石油を使ってんのはお隣の中国です。この中国がですね、
あの物凄い勢いで増えている自動車、その他によってどんどん石油需要が変わっておりま
す。そしてちなみにですね、この学長先生にも関係あるかもしれませんが、今中国の人たち
が相当の極貧階級を抱えております。3パーセントのエリートだけが大金持ちで世界を牛
耳っておりますけれども、97 パーセントとは言いませんが、90 パーセント位は極貧の中で
過ごしております。特に辺境民族は大変でございまして、この 3 か月前にもですね、いわゆ
るウイグルその他を中心として 300 万人の人が動乱で殺されたとアメリカは人工衛星から見
ております。そういう様なことが全然伝わらないし、また何事もない位に巨大な人口が中国
です。14 億、あるいは計算の上では 15 億になっているっていうんですが、今一番世界が恐
れているのは、この人たちがもしある程度経済的に安定して、一日一膳のご飯ならご飯を食
べたならですね、世界の食糧危機が一瞬にして起こるわけです。この物凄さだけは是非考え
ていただきたい。
それから中国の場合一掴みのエリートだけが大金持ちになって世界経済を牛耳っていて、
上海を中心にして活躍していると言われますけれども、母体が 14 億です。日本はせいぜい
1 億 2700 万、これが間もなく急激に落ちて参ります。同じ1パーセントでパーセントの重
みが全然違います。その上日本の場合は 1 億 2700 万が殆ど同じような暮らしをしておりま
す。皆コンビニその他で同じように物を買うことができます。となりますと、私は随分大き
な話ばかり申し上げている様ですけども、今俗に言われてる意味での人口の回復、少子化対
策なんて云うのは全くナンセンスだと思っております。もう落ちるだけなんです。落ちてっ
たって良いんです。落ちてったって良いというのはですね、私がある意味において老人だか
らもう良いや、と言ってるんですが、それだけじゃなくてですね、やっぱり、足るを知る、
こういった様な問題に関してはやっぱり大きな歴史の中でほどほどに日本も考えた方が良い
と。そうするとですね、この大学の緑のいっぱいある中でゆっくりと勉強している時間を
持っていられる学生っていうのは、どんなに幸せかわからないんですね。さっき申しました
様に、私は職業柄あらゆる職業の人たちと接触しております。また接触して 50 年以上経っ
たんですけども、大学に今全入って言っているようにですね、試験も何も簡単になってきた
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んで、入るのは簡単なんですけれども、全部恵まれているから大学に行っていることに問題
がないわけです。中国の留学生がですね、一家を挙げて食うや食わずで送り出している留学
とはわけが違うわけですね。そして日本の場合は、じゃあその子が家庭に対して責任を持と
うかっていうと、殆どないですよ。親は親、子供は子供。そして親の方もそのように思って
いるわけです。ですから子供が大学に入ってそこで勉強していけば、仕送りの有無というこ
とは別にしてもですね、子供自身がそれによって勉強して、そして偉くなればいいという風
に親の方も期待しております。また子供の方も、あまり期待しないで、心配もしないで、親
もそれなりにコンビニや何かで物を買えば大丈夫だっていうことになるわけですね。ではそ
うした親子関係のつけがどんなときに出るかと云うと、文字通りターミナルにそれが出て参
ります。このターミナルの大変さに関しましては、もう私はすぐに申せません。さっきお話
したように日野原先生がホスピスケアというのは癌の問題だけじゃないんだと、もはやター
ミナルの問題に向かっていかなきゃいけないと言われるのと同じ様にですね、人間の一生の
幕引きを、どのような形でどうやって迎える、またそれをまわりが見送れるかということは、
その民族の文化を示す問題なんだ、という考え方に私、全く同感なんです。一番今欠けてお
りますのは、家庭、家族という問題であるにも関わらずですね、その家庭、家族の回復、回
帰ということをやらないで、少子化対策でどうするとかですね、子供を結局預けて、その子
供を預けることによってですね、昔は子供を預けて働くという状況もございませんでした
し、そういう職業もなかったわけですけれども、やがて、同居しているおばあちゃんか何か
が見る、私の子供の頃の体験と現在を当てはめることは非常におかしいんですけれども、こ
の頃小児救急や何かの取材で多くの病院に行っておりますとね、こんなことも分からないの
かと、そしてその高学歴のお母さんたちがうろうろうろうろしていながら、しかしもっと驚
くことは、うろうろじゃなくて、何かの様子の変容ぶりですね、なんでもないとなった後、
これはもう全く忘れてしまってですね、さっきまで騒いでいた自分の姿っていうのも全く分
からない。つまりどういう風に申し上げたらいいか、私にもよく分からないんですけれども、
自分勝手っていうんじゃなくて、あんまり考えない。本来であれば親子っていうのは子供の
問題に関しては自分の体を捨ててでも子供を守ったんですけれども、今は全部とは申しませ
んよ、全部とは申しませんけれども、何かそれを非常に強く感じるようになって参りました。
これも年のせいかもしれませんけれども、明らかにですね、どうもどこかがおかしいんじゃ
ないかと。どこかのおかしさっていうのは、どこに原因があるかと言ったら、豊か過ぎるん
ですよ。平和ボケなんです。これは明らかに平和ボケです。平和ボケが私は悪いと言う意味
で申し上げているんじゃないんです。良いんです、平和ボケで。そしてこの平和の中で皆が
これが普通だと言って過ごせたらこれ位幸せなことはないんです。それで家族構造が壊れた
ら老人施設に入る、そして初めて自分がですね、いかに自分の面倒を見てくれる人間の不足
という問題、それを気づかなかった社会構造という問題に関して目をやるっていったって、
もうしょうがないんですよ。特に問題の今後の高齢化の推移の中で、団塊世代と言われてい
る膨大な集団が間もなく高齢者層に入ってきます。とりあえず前期高齢者になりますけど、
時間の問題で、あっという間に過ぎて後期高齢者になっていくわけですけども、この時ま
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で、日野原学説によると、私は生きなければならないから生きてますけど、一般的にはもう
90 位で死んでいくわけです。欲張りです、それ以上は。私は生きなければならないから生
きますけれども、そうなった時にですね、一体この団塊世代の人たち、今日も随分おいでに
なると思いますが、本当にお気の毒ですと、申し上げる以外にないんですね。私は前にJR
関連の、いわゆる車両の整備に関する委員会の委員をやったりしておりましたんですけど
ね、私はその時に今で言う優先席、あれをシルバーシートだとか老人席だとか老人シートだ
とか色々とやったんです。ところがその時にですね、一応そういういうかたちで私鉄その他
がスタートしましたけれども、ある私の先輩が、足をどたっと投げ出している高校生らしき
男が、シルバーシートでふんぞり返ってましてですね、そしてべちゃくちゃべちゃくちゃ皆
としゃべっているんです。そして周りの人たちは何となく顰蹙してるんですけども、その方
が私に、「おい君、注意しろ」って言うんですよ。「ありゃあ何だ、シルバーシートと書いて
あるじゃないか」と。冗談じゃない。私はとってもじゃないけど喧嘩は駄目ですよと。文句
言われたら先生受けてくれますかと言ったら、「いやあ僕はそういう馬鹿なことはしないと」
言う。それで「君注意してきなさい」、と言うんです。とんでもない話です。先生ご自分で
やんなさいと言って、さすがに先輩とはいえ私は何にもしなかったんです。ただし後で、駅
で降りてからですよ、先生ものは考えようですよと。だって先生、考えてごらんなさい。あ
そこで馬鹿みたいに足を投げ出している子供たちは何にも考えていません。でも彼らが我々
の年齢になった時は惨憺たるものですよと。おむつを替えてくれる人間もいなければ、電車
だって動いているかどうか分からんでしょうと。それ位人口の減少が始まってきて、その中
で彼らはそれまでの間、税金と年金負担と両方一生懸命やり続けなければならないんだか
ら、可哀想だと。だったら老人は立てばいいですよと。今までいい目をみ続けてきて、確か
に、戦争や何かで良い人が皆死にました。私の分野でも本当に世話になった沢山の先輩がで
すね、特攻攻撃その他で大勢亡くなっていったんです。こういう方たちと比べたら本当に私
なんてただ運が良い。同じ様に今の高齢者の大半は確かに随分苦労はしたと思うんですけ
ど、運が良いんですよ。その運が良かったことを今の、これから不運がはっきりしている若
い人たちにどう分け合っていくかということが非常に重大な問題だという風に私は思ってお
ります。随分滅茶苦茶な話で、この長尾先生にはもうお断りしているように申し訳ないし、
藤沢先生だって困ったこと言ってるなあという風に思ってらっしゃるかも知れませんけど
も、これはこの年になりますと皆様が絶対に間違いなくそのようにお感じになる時期が来ま
す。でも遅いんです、その時は。だから私が最後の言葉として申し上げたいのは、若い人た
ちにどうか若さっていうものを十二分に満喫しなさいと。ただし全人生を通しての君の若さ
が今どういう時間なのか、どういうタイムスケールなのかということだけは考えろと。それ
を考えられるか考えられないかというのは、頭の問題だと。自分が長生きだから申し上げる
んじゃないんですけれども、世界的に見て平均的な長寿者というのは大体において頭のいい
奴です。これだけは間違いないんで、頭脳が全てをリードいたしますから、どうか頭の良い
子供たちを育てていただきたいし、その頭の良さに便乗してですね自分の将来、ロングスパ
ンで考えろと、明日どうするってことももちろんそうだし、明日を考えないのは若さかも知
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れませんけれども、社会をリードする立場にあるんだったら、人口が5千万、6千万になっ
た時の日本の中で自分がどういう仕事をするかということを確実に持ちなさいよ、というこ
とを言っていただきたいのです。話が飛び過ぎましたけれども、私が申し上げたい中で
ちょっとでも何か引っかかることがあれば、また折を見て色々とお聞かせいただければと思
います。私へのアドレス、その他に関しては長尾先生に申し上げてありますから、どうぞお
手紙なりメールを送っていただいて結構でございます。どうも失礼いたしました。
【司会(藤澤)】 結局大学生にアドバイスしていく時、よく考えて生活を送るように指導す
べきで、教育では当然だと思うんですが…。先生のお話は非常に広範に渡っておりました
し、全体をまとめてポイントというのを、もう一度お話いただければと思います。
【行天】 先生、お聞きいただきまして、苦労してお耳を傾けていただいたんですけども、ど
うもよく分からんと。一体何を言わんとしているのかということが藤沢先生の端的なお考え
なんですけれども、表現は非常にソフトなんです。これが人生なんです。思っているとおり、
俺一生懸命時間で我慢して一時間七分聞いてたけれども、よく言ってることが分からんと、
あっち飛び、こっち飛びと。これはやっぱり散漫なる老人の思考回路なんですね。ですから
これはしょうがないんですけど、私の方も今の藤沢先生のお考えにお答えしますと、ちょっ
と、先生、二、三分かかるんですけど良いでしょうか。
【司会(藤澤)】 どうぞよろしくお願いします。
【行天】 恐縮です。皆様お食事の関係があるのに。私ね、やっぱり若い人を、この年ですか
らざっくばらんに申しますとですね、あんまり甘やかす必要ないと思うんですよ。こんな恵
まれている中で、のうのうと、のんべんだらりと過ごしている。そして全入、全入だなんて
マスコミ的に言いますけどね、やっぱり大学に行ってる人はですね、経済的、その他を含め
て社会の中でエリートなんですよ。エリートだったらエリートの責任を持てっていうのが私
の考えなんです。エリートは競争がなきゃだめです。よくこの頃受験が大変だとか何とかっ
て言いますけどね、私自分に振り返ってみますとですね、私小学校では神童と言われる位凄
かったんです。ただし小学校はその頃は義務教育です、全部ね。自慢じゃございませんけれ
ども、敗戦の混乱というのはございましたんですけど、約 40 人のクラスメートですけど、4
人が刑務所に入りました。つまり大経済混乱期だったんですね。しかしそこで一生懸命勉強
しました。一円もお金を取らないで、当時は一銭ですけれども、一銭もお金を取らないで、
師範学校を出たばっかりの若い先生が情熱を傾けて私共に補習授業をやったんです。それは
希望者です。だから貧乏な子供だろうが何だろうが出たい奴は出なさいって言ってですね、
非常に熱心に繰り返し同じ授業をやってくれました。そして国が、国って横浜市でございま
すけどね、行政的に具合悪いものですから、校長にも補習的なことはやらしてはいけないと
指示していました。仕方がないから校長は役目で下をまわって来るわけです。私どもは電気
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がつく部屋で同じように勉強しておりました。半分位の数になっちゃうんですけども、それ
をやっていると校長が下から上がって来ないんですよ。下から怒鳴るんです。誰か電気忘れ
た奴がいると。もう電気消さなきゃいけないぞとか何とか。分かっているわけです、そこで
行われている授業を。ですから校長としてはやってもらいたい一面があるけれども、決まり
としてはこれをやめさせなければいけないという大ジレンマの中で、苦肉の策で校長はそう
やったんです。勉強ができたにもかかわらず、家が貧乏で翌日の朝、皆様方が想像もしない
ような納豆だの豆腐だの、そういうものを行商で売り歩かなきゃならない子供もいるし、自
分の兄弟や何かを子守としてやらなきゃならない連中もいっぱいいました。この人たちは勉
強に出たいと思ったってできなかったんです。ですからそれは自覚がありました。やっぱり
俺は経済的に恵まれているからこうやって勉強してんだな、だったら彼らの分までやらな
きゃならないと思ったから、先生も情熱を込めて教えてくれたし、私どももそれに応えたん
です。ですからこの神童もですね、神奈川県でトップの進学校というところに入ったんです。
そこまでは当たり前だと思ってたんです、私は。ところが入った時に、入学式で桜の花がいっ
ぱい咲いておりました。クラス分けが行われたんです。そして校長先生の挨拶。これがふるっ
ておりました。その後私の中学校から、当時中学ですけどね、昔の府立一中と言われている、
現在の日比谷高校の校長に移られた方ですけども、私ども全部集めましてですね、諸君は物
凄く選び選ばれたエリートだと。エリートには責任があると。全員皆一高っていって、多分
皆様ご存じないんですが、第一高等学校、一高目指して頑張らなきゃいけないと。しっかり
やれと。じゃあこれで解散と言ってクラスの名前言ってですね、これから本をもらったり何
かしたりするのかなと思っていたら部屋へ行ったんです。そしたら私は主任の方がですね、
英語の先生だ。じゃあ今から始める。それで大文字、小文字から始まりまして、活字体と、
要するに普通の筆記体ですね、あれを黒板に書き始めちゃった。ところが私のところはです
ね、横浜市でも有数の貧しい小学校でございましたから、英語のえの字も当時は習ってな
かったんです、学校としては。私の周辺の連中はどんどんそれをこなしていくのを見てです
ね、何という凄い連中がいるんだろうと思って、神童はとたんに全くアウトになってしまい
ました。それから、それでも頑張らなきゃないと思って、周辺も頑張りますし、私の主任の
クラス担任になった人は、後に大阪大学の教授になっていった方だし、またその後の方は東
大の教授にまでなっていった人なんですけれども、この人たちが、いや教えた教えた。もう
今時の補習だなんて、塾だなんていうのは全くなくてですね、私は全く塾に行かないでひた
すらもう勉強、勉強っていうか、当たり前になってしまうんですね。ですから学校を 9 時ま
でに引けるっていうことはほとんどございませんでした。そして朝は必ず一般授業よりも先
に補習みたいなのがありました。全部ただですよ。じゃあ一体誰が。それはやっぱり教師の
情熱なんですよ。上に立つ人間の情熱がそこにあったんですけれども、今は残念ながらサラ
リーマン化しましてね、個人的な情熱は持つまでもないんです。だから逆に言ったら、お前
たちはエリートなんだからやらなきゃいけないって言ったって無理だってことはよく分かり
ます。でも恵まれている存在なんで、その影には自分と同じ様に今働いている人もいれば、
それから親や何かがどうしているんだろうってことに思いを致してですね、やっぱり学生で
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あるんだったら少し勉強したらいいと思うんですよ。このあたりが、どうもずれておりまし
てね、私としてはますます老化現象が進むと同時にですね、いらいらすることが多いわけで
す。最後にちょっと宣伝を込めて申しますと、『知るを楽しむ』って言う時間が今NHKで、
教育テレビジョンで出ております。これはもちろん私は直接はタッチしておりませんが、私
と一緒に仕事していたずっと若かった人たちが現在キャップになってやっておりますけど
も、そのある人たちの歴史を追いながら人間の生き方っていうのをやってるんですね。提案
の時に私出ておりましたけれども、こんなのは今はもう駄目なんじゃないかと、文学書や何
か読まない連中ばっかりだし無理だよと言ったんですけれども、いや大丈夫ですって言うん
でやって、今ヒットしているんです。放送のヒットというのはおかしいんですけどね、空前
のヒットで問い合わせその他が殺到しております。どんなことをやっているかと言います
と、亡くなった、台湾で飛行機事故で亡くなった向田邦子さんが、男と女、特にあの方はご
自分が不倫関係にずっといた人が、自分の人生をどう書いたかっていうことを色々綴ってい
らっしゃるわけですね。家族っていう問題の重要さ、あり方、こういう問題をやってる。そ
れから夏目漱石がどういう生き方をしたかっていう。その中で今日学長先生にも関係のある
宮脇昭さんという方が、これは私仕事でずいぶんお世話になった方ですけども、フィールド
でですね、日本で最初にドイツに留学された植物の関係の方ですが、学生、教職員と一緒に
手弁当で地面を這いずるようにして雑草を集めて、それが今日に繋がる植生、そういった問
題の方に枠がずっと広がっていったわけです。ですから学問というのはやっぱり、自分が信
念を持って進んでいる問題だけが必ず報われるんだし、また長い目で見ると、極端なことを
言うとその方が亡くなってでも、それがまた開いてくるんだということに関して、是非若い
学生さんたちに教えていただきたいんです。私がもう先行き真っ暗だということばかり申し
ますと、ちょっと話がなくなっちゃいますので、やっぱり先行きは暗いけども、暗くてもそ
の中に必ず光はあるんだということをですね、言っていただければ、藤沢先生も少しお許し
いただけるんじゃないかと思うんですけれども。どうも。
【司会(藤澤)】 ありがとうございました。学生に指導する前に、我々教職員が情熱を持っ
て指導しなければいけない、それで学生もちゃんと反応して、良い学生になってくれるんだ、
ということだと私は理解いたしました。先生、私も初めてお聞きするようなことが多くて大
変勉強になりました。ここで学長以下感謝申し上げます。どうもありがとうございました。
-36 -
〔Ⅳ〕 教
「問診力」
生坂
育
講
演
政臣(千葉大学医学部附属病院総合診療部教授)
「日本人留学生の旅行医学」
溝尾
朗(日本旅行医学会理事)
「青年期の精神障害とその治療」
伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学研究院精神医学教授)
教育講演 1
問 診 力
千葉大学医学部附属病院総合診療部 教授 生 坂 政 臣
ご紹介ありがとうございます。総合診療部の生坂です。本日は医師の方半分、保健士の
方、看護士の方半分と想定してスライドを作って参りましたが、どうやらほとんどの方がノ
ンMDということで、そういう方を意識しながらお話ししたいと思います。
それではスライドをお願いします。タイトルは問診力となっておりましたが、本日はこれ
に傾聴力という言葉をつけさせていただきました。副題として患者と医師がお互いに満足で
きる現実的な診療を目指して、ということですね。お題目ではなくて、現実的な方略を探っ
てということが副題でございます。まず、日本の医療レベルについて少しお話させてくださ
い。医療レベルを評価する方法は、なかなか難しいわけでございますが、たとえばWHOが
出している平均寿命、乳幼児の死亡率では、世界で一番長生きする国であり、乳幼児の死亡
率は世界で一番低い。健康達成度を総合評価は健康寿命、健康で生きる、ただ寝たきりでは
なくて健康で生きる、あるいはそのどこに行っても、同じ様な医療を受けられるといった平
等性、この二つの指標から出されている評価なんです。これもWHOの統計ですと日本は世
界一。しかもそれにかける医療費は、対GDP、先進国の中で 18 位に過ぎない。アメリカ
の約半分でございます。非常に効率の良い医療をやっているわけです。ちょっとデータ古い
んですが、医療に対する国民の満足度はどうかということの国際比較の表がこれでございま
すが、縦軸が一人当たりに年間に必要な医療費、横軸がその国民が医療に満足している割合
なんですが、米国を除けば大体お金をかければかけるほど満足度は高くなっています。米国
はお金を凄くかけてますが、実際には満足度はあまり高くない。日本はまあまあとったとこ
ろなんですが、先ほどの統計資料から見るとその割には高くないと。それがどうしてかとい
うことなのですが、患者さんの満足度に関与する因子として、一般に、安くて、質が良く
て、アクセスの良い、この3要素が揃えば患者さんの満足度は上がります。ラーメン屋さん
を例にたとえると、安くて、うまくて、すぐ食べられると。こう三つ揃えば満足度が高くな
るわけですね。ただそういうラーメン屋があるかっていうと、安くてうまければ必ず行列が
できる。これは世の常でございまして、三つ取るのはむずかしいとい現実があります。米国
では確かに質は良いでしょう。アクセスはお金さえあれば良いですね。ただ、医療費がべら
ぼうにかかると。日本は確かに医療費は安いと。アクセスは良い。いつでもどこでもかかれ
る。予約なしで医療機関を受診できます。大学病院にもかかることができます。
じゃあ質はどうか。この辺が問題になるわけですが、まずアクセスが良い理由を少し考え
てみたいと思います。これはデータ古いんですけど、医師の年齢別の就職先、どこで勤務し
て働いているかということなんですが、赤が大学病院ですね。若い頃は大学病院、あるいは
州病院に籍を置いて、年齢を経るにつれて、大学病院勤務者、あるいは一般病院勤務者が減っ
-37 -
て、開業医、診療所勤務医が増えてくるわけでございます。年々この診療所医っていうのは
増えているわけなんですが、統計を調査をしてみますと、開業医、診療所で働いている医師
の 9 割以上が、何の専門であってもプライマリーケアを意識して提供しているという調査結
果が出ております。こうやって日本では多くの、ほとんどの開業医と言ってもいいと思うん
ですが、プライマリーケアを提供しているということです。これは欧米諸国では見られない
現象です。開業しても専門医は風邪なんかは決して診ません。経済的にも恵まれている専門
医の人気が高く、プライマリーケアを提供する医者は全医者の、例えばアメリカで言います
と3割位に留まっています。これは何とか5割くらいにしたいという政府の意向があるんで
すが、なかなか達成できないでいる。一方、日本ではプライマリーケア医が非常に多いとい
う状況がございまして、従ってアクセスも良いと。
そこで、日本の患者さんにかかりつけ医を持っていますかと聞いてみると、これだけ開業
医さんがいて、アクセス良いわけですから皆さんかかりつけ医を持っているだろうと思いき
や、実際は国民の半分位しかかかりつけ医を持っていない。しかもそのかかりつけ医は診療
所の医者を対象とするものは 64 パーセント、病院にもかかりつけ医を持っている、診療所
にかかりつけ医を持っている日本国民は三分の一位しかいないってことになります。しかも
かかりつけ医への信頼度は、実は病院医のほうが診療所よりも高いという結果になってい
る。従って病院の方にどうしても集中していくという、こういう現実がございます。欧米と
異なり、我が国では病院へのアクセスもよいですので。理想的なシステムは患者さんはまず
診療所をかかりつけ医を受診して、必要があれば病院に紹介されると、費用対効果の高い効
率的な医療が可能となります。私も大学の総合外来で診療をしておりますが、紹介状を持た
ずに病院を受診される方は大勢おられます。しかもそのほとんどはかかりつけ医で対処可能
な問題ばかりです。できればかかりつけ医から病院を紹介してもらわないと、近年問題に
なっております、病院勤務医の過重労働の原因にもなります。勤務医が非常に疲弊している
状況も、大病院志向があるがゆえに起こってきているという側面もございます。これはアメ
リカのアイオワ大学の大学病院の外来ですが、これは午前中です。ほとんど待合室にいない
わけですね。こういう本当にゆったりした環境で、ピアノなんかも置いてあって、演奏もさ
れるわけなんですが、ちょっと日本では考えられない風景で、本当にホテルの様な外来とい
うのがアメリカの病院でございます。
話を戻しますが、どうしてその患者さんの満足度が診療所のお医者さんに対して高くない
のか。患者が期待する医師像を調査してみますと、重要なもの程上にかいてあるわけなんで
すが、特に重要なのは、話がしやすい、十分な説明をしてくれる、患者の症状をよく聞いて
くれる、こういう態度をもって臨んでくれるお医者さんを、多くの患者さんが希望してるわ
けですね。たくさん論文書いてるとか、有名な大学を卒業しているとかはほとんど関係ない
わけです。従って患者満足度を高めるには、医療面接が大切であると。しかし実際には半数
の医師が医療面接で 18 秒以内に患者の会話を遮るというデータがあります。
どうして医者は患者の話を聞かないのか。一つには外来患者数が多いわけですね。医師一
人当たりの年間診察患者数は米国 2200 人に対して、日本はその4倍です。アクセスが良い
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というのはかかりやすい、予約をしないでもかかれる。カルテは積み上がる。最近は電子カ
ルテですから見えないですけど、どんどん溜まっていく。多忙な外来はアクセスの良さの裏
返しなんです。ということで一人当たりの患者さんにかける時間が物理的に少なくなる。そ
れからいくら話しても診療報酬には残念ながら反映されないということで、我々総合診療が
患者さんの話をよく聞くようにしておりますが、病院の中では不採算部門の一つでございま
す。しかし患者の話を聞かない最も大きな原因は、医学教育だと思います。私も医学部学生
時代、あるいは臨床研修医の時代はそうだったんですが、病歴はやはり不確実であると。患
者さんの言葉だからぶれや遊びが多い。やはり最終診断は検査であると。だったら話を切り
上げて検査した方がいいんじゃないかってなるんですね。例えば頭痛で来る。話を聞いて必
要があったらCT検査っていうのが通常の順番だと思われるんですが、病院によってはまず
CTに行ってもらう。CTの写真が出来上がった頃に患者さんを呼び入れるっていう診療で
す。そういう診療が教育の現場で行われている。患者さんの方にもやっぱり検査してもらわ
ないと安心できないという風潮もあります。最近たまたま見かけた某有名医学書なんです
が、これは医療面接について書いてあるところを一部抜粋します。「最も大切なことは、患
者の話を良く聞くことである。中略、我慢して聞くことが肝要である」と書いてあります。
我慢とはっきり書いてある。役に立たないと思っても我慢して聞きなさいと、教科書に書い
てあるわけです。患者の話を聞くことは我慢というあきらめるわけでございます。結局、話
を聞かなければ患者さんが不満を持つが、話を聞けば医者が我慢。どちらかが一生我慢しな
ければならないのでしょうか。何か解決策を見つけたい。そこで我々色々工夫しているわけ
でございます。
病歴聴取で 76%診断できます。病歴聴取が最も強力な診断ツールといわれることは間違
いございません。アメリカには The patient is telling you the diagnosis という有名な言
葉があります。患者さんはあなたに診断を言ってるんですよ、もしあなたがちゃんと聞けば、
と。本当にそうだと思います。根性で聞くような姿勢で医療面接に臨むと、愚痴にしか聞こ
えないんですね。ところが、患者さんの話の中に必ず診断があると信じて、聞けば、患者さ
んの言葉は宝の山になります。非常に面白いです。ただ、これは言うほど簡単ではありませ
ん。これを技能としてとらえるべきであるというのが我々の考えです。これは落とし穴なん
ですが、患者に対する態度が良くても正しい診断ができるとは限らないっていうことです。
つまり患者が満足する医療面接と診断、これは別であるということですね。今、医学教育で
は態度教育が非常に重要視されております。患者さんに挨拶をするとか、自己紹介するとか、
この部分当然、今まで医者ができなかったのが問題なんですが、それを学生時代から徹底し
ようというこの動きは評価できるんですが、だからといって診断ができるわけではない。縦
軸は模擬患者さんの学生の態度評価で、横軸は必要な医学情報を収集しているかを医師が評
価したものですが、相関せずばらばらなんですね。面接態度が非常にいい、きちんと挨拶が
できて、患者さんに対する共感も申し分ない、すべて完璧なんだけど、まったくわかってい
ないという人もいれば、その反対の学生もいるということが、このデータでもわかるわけで
す。
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医療面接は傾聴と問診とこの二つのパーツからなっているという風に考えていいと思うん
ですが、傾聴は患者が主体です。問診は医師が尋ねる方ですから医師主役。傾聴の目的は患
者医師関係の構築、問診は診断と。こういう風に大きく分けることができると思います。通
常は話し手の方が聞き手より満足度が高いわけなんですね。問診は医者が中心で、話してる
尋ねている間は医者は満足度は高いわけですね。傾聴の時間というのは患者さんの満足度が
高いと。従って患者さんの満足度を上げるには、この傾聴の時間を長くすればいいというこ
とになります。理想的な医療面接は、傾聴が 15 分、患者さんの話をゆっくり 15 分聞くと。
問診でその代わりたっぷり質問さしていただきますと。都内の自費診療ではこういう診療形
態も存在する様でございますが、なかなか保険では難しい。現実は5分以下。診断の役に立
たないと思われている傾聴は省略されがちです。5分かければ良い方でですね、なかなか傾
聴主体にはならない。我々が提唱したい面接の時間配分は問診が少なくて傾聴が長い。ただ
しこれで診断をするにはですね、早期診断推論というのを傾聴の初期から開始しなくてはい
けません。そうすることによって聞く内容を絞り込んで問診の時間を切り詰める。これが
我々が考えている問診のスタイルで日々実践しているところでございます。傾聴と問診なん
ですが、傾聴というのは患者さんが患者さんの考えや物語を話すわけでございます。それを
医学的に翻訳して重要度順にキーワードを選択して、並び替えて疾患仮説を立てて、その上
でその疾患仮説を証明するため、あるいは否定するための閉鎖的質問、すなわちはい、いい
えで答えられる質問をいくつか行います。これが傾聴と問診のプロセスです。言葉だけじゃ
なくて非言語コミュニケーションも重要です。医学的傾聴はカウンセリングの傾聴とは
ちょっと違います。カウンセリングは先入観を入れずに、判断せずとにかく相手の話を聞く。
この聞くことが癒しに繋がるわけですが、医学的傾聴、我々がやっている医学的傾聴は、こ
れは医学的判断を傾聴の、患者さんが話し出した最初のその一言目から加えていくわけです
ね。その目的は効果的な問診内容を決定するため。明確な目的を持って聞いています。
その傾聴力向上のためにどのように指導してるかをお話しします。一般的にはまず主訴を
聞いて病歴を聞いて、既往歴とか家族歴とか全部聞いて、身体診察をして、場合によっては
結果が出てから本格的に考えるような研修を受けております。学生に対して行ったスタディ
ですが、主訴プラスアルファの病歴であたりをつけたい学生は、その時に分からないそうで
ないものよりも4倍から9倍正しく診断できたという研究結果がありますが、これは我々の
外来で同じ様にやるとですね、最初の1分以内に患者さんとの面接で、最初の1分以内に診
断できない場合は、後いくら聞いても診断できないことがほとんどです。初診で診断をつけ
るには、最初の1分が勝負なんです。例えば 65 歳女性、一ヶ月前から体中が痛いと。じゃ
あこれで考える病気は何ですかと言って挙手させるとですね、研修医の先生は、もうちょっ
と情報を入れないと考え始めないわけですね。体中が痛い、うーん、という感じなんですね。
ただ外来医、我々の診療ではですね、65 歳女性、一ヶ月前から体が痛い、これはもう病気
は 3 つしかないんです。それ位明白なんですね。診断は確率ですので、当たる確立の高い病
気をまず最初の 1 分で想起しなければなりません。
その時には有病率が大切になります。頻度が高い疾患ですね。大きな角を持った、子供た
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ちに人気のある昆虫は、という情報だけで、日本の裏山だったら、あれしかないみたいな感
じですよね。そうですね。カブトムシ。良くある病気を挙げれば大体当たってるわけです。
ところが、この疾患頻度は場によって変わることは知っておかなければならない。例えば大
きな角を持った子供たちに人気のある昆虫が、昆虫館だったとします。これは何ですか。ヘ
ラクレス大カブトとか、コーカサス大カブト。こういうものを挙げれば大体当たるわけです
ね。従って場によって違うと。最初の質問でですね、一発大穴狙いで、お前それヘラクレス
大カブトだろうと 100 回言ってもまず当たらないですよね。でもこれを研修医はやるわけで
す。さっきの簡単な病歴でもですね、大変珍しい病気を挙げてくるわけですね。そんな病気
はめったにお目にかかれない、めったにないものはやはり当たらないわけでございます。有
病率を考えた推論は非常に大切です。病棟で重症患者さん診てれば、外来の軽い患者さんは
診れるよと言われます。ある地域の住民 1000 人を診たら、その 1 年間に何らかの病気にか
かる人が 750 人です。そのうちの 250 人が医療機関を受診します。そのうち大病院に入院
しなければならないのは1人です。研修医はこういう場の疾患をたくさん診るわけですね。
それも大切ですが、じゃあこれを診る研修をしてですね、残りの 249 人の外来が診られるか
というとそうではない。
例えばこの 55 歳の女性は診療所で拝見した患者さんなんですが、うつ病と診断されてい
る。薬飲んでるけど、全然治らないんですよ、と家族が連れて来ました。話を聞くと、膝が
悪いのでベッドにしたら起き上がりにくくなって、また布団に戻したと。これは実は、パー
キンソン病の病歴なんですね。顔を見ると仮面様顔貌になりますので、どうしてもうつ病と
誤診されがちです。よく見ると少し赤みもあって、脂漏性湿疹もあります。じゃあどうして
これがうつ病という風に診断されてしまうのかというとですね、病棟で診るパーキンソンと
いうのはこういうんじゃない。ただパーキンソン病の人もある日突然こうなるわけじゃなく
て、手前がやっぱりあるわけですね。診療所にはこういう人は来ずにその前段階の病状の人
がいらっしゃる。ですから病棟で診断できても、診療所で診断できるとは限らない。診療所
では診療所の神経内科学をやっぱり学習すべきではあるわけです。同じ病気を診ても重症と
軽症とでは症候が全く異なるということです。
傾聴力向上訓練で大切なのはキーワードを選び、より普遍的な医学用語に変換することで
す。例えば 75 歳女性、昨日からの右膝の痛み。これをより普遍的な医学用語に変換するわ
けです。75 歳女性は高齢女性ですね。まだデータベースは日本のものは欧米のものと比べ
ると貧弱で、英語に置き換えて検索する場合が多いので、最初から英語に変換しておきます。
75 歳女性は高齢女性は elderly female ですね。次がちょっと難しいです。昨日からという
のを、yesterday と直しちゃいけないわけですね。つまり yesterday をコンピュータ、デー
タベースに入れても何も出てこないですよね。従ってこれを医学用語に変換しなきゃいけな
いですね。コンピュータのデータベースに引っかかってくるように変えなきゃいけない。こ
れはですね、昨日からということで acute になるわけですね。つまり急に発症したと。右、
これを right と訳しちゃいけないですね。mono、一つの関節ということになるわけですね。
じゃあ、膝をどう訳すか。これは knee じゃやっぱり駄目なんですね。より普遍的な言葉は、
-41 -
膝というのは関節で、関節というのは大きく分類すると、小さい関節と大きい関節がありま
す。従って膝は大きい関節、large になるわけですね。関節の痛みですから joint pain と。
これを一言でまとめますと、acute mono large joint pain in an elderly female となるわ
けですね。これをコンピュータに入れると、あら不思議、ぽんぽんと 2 ~3の病気が挙がっ
てきます。それらをその他の情報に応じて選べばいいわけですね。もちろんコンピュータに
入れなくても、この病態は三つしかないので知識があれば自ずと診断つく。こういう言葉を
セマンティッククォリファイヤーと呼ぶことがあります。
傾聴で早期に疾患仮説を立てて、その検証作業が問診ということになります。疾患仮説を
検証するために質問するんですが、この時に必要最小限の効果的な質問を考えます。例えば
産後 3 ヶ月、女性。息切れ。これで不安障害、気管支喘息、産後うつ、貧血、産褥心筋症な
どのいくつかの疾患が挙げられるわけです。こられを想起しながら次の質問は、そうすると
労作性かというのを聞けば良いわけですよね。労作性でなければ基本的には貧血と産後心不
全の可能性が否定的になります。次の質問は、発作的に起こるかどうかですね。もし発作性
に起こればうつはないわけですね。発作的な症状というのは、不安障害、これはパニック障
害ですが、後は気管支喘息が残ります。この二つの鑑別はどうすれば良いかというと、最近
少し外出を控えるようになりませんかなどを聞きます。もしそうであれば、不安障害、パニッ
ク障害しかないわけですね。こういう風に診断していくと。三つの質問でかなりの確率で診
断できていくわけです。病歴の段階で疾患を想起しておかないとこうはいきません。病歴で
思いつかない疾患がこういう診察や検査で診断されることは、少なくとも外来では少ないと
いう研究があります。
最後の問題ですが、誰でも赤ひげのような医者になれるのか。私も赤ひげとは正反対の医
者でありましたので、憧れはあります。しかし多忙な外来、当直明けでなかなか、赤ひげ的
な対応ができない。そこでひょっとしたら赤ひげってなれる人と、なれない人と、決まって
るんじゃないかと思ったことがあるわけです。これはアメリカの医学部長 200 人に聞いた研
究結果なんですが、医師として必要な資質 87 項目を重要度順に挙げてもらいました。その
うち教育可能なものも順位をつけてもらったわけですね。そうすると、臨床判断力は最も重
要だけれどもなかなか教育によって向上しない。情緒の安定とかもなかなか教育できない。
キレやすい人は最後までキレやすい。正直さも駄目ですね。ですからいくら高等教育受けて
もカルテの改ざんしてしまう。この辺はなかなか教育しにくい。学業成績は教育可能なんで
すけど、医師としての重要度は低いんです。そうすると診療満足度を向上させるために、ど
うすれば赤ひげになれるか考えてみました。これはおそらく赤ひげ集団とは異なる我々が
行った研究なんですが、患者と医者が満足するシチュエーションを、同じ患者さんについて
医者と患者でアンケートしたんですが、医者がよく話を聞いてくれると患者さんは満足しま
す。医者の方を見てみますと、医師がよく話を聞いてくれた場合、患者さんは満足するんで
すけども、医者は不満足という傾向にあることがわかりました。よく話を聞いてくれたと患
者さんが満足したときは、医者は満足してないという結果が出たわけです。じゃあ医者はど
ういうときに満足するかというと、診断に自信がある、医学的に重要な症例であると思うと
-42 -
俄然満足度が上がるわけですね。上級医から指導を受けた場合もそうです。医者と患者が満
足する要因は違ったのですが、ただ一つ共通してたのは、診断に自信があるとき。つまりき
ちっと診断してもらえると、患者さんも満足するし医者も満足する。ここに接点があるわけ
です。ここはひょっとしたらここに解決の糸口があるんじゃないか。この結果をふまえてま
すます診断にこだわるようになったわけです。なぜ傾聴力と診断力が重要かといいますと、
積極的な傾聴の姿勢に患者満足度が上がります。効果的な問診をすると、医師側の面接の時
間が短縮され、傾聴が増えて患者満足度がさらに上がる。そして診断の精度も高まるので、
医者も満足度が上がるというわけです。赤ひげにはなれないですけど、赤ひげのようにはな
れるかもしれない。
最 後 に 私 の 好 き な 言 葉 を ご 紹 介 し ま す。There are no uninteresting patient, just
uninterested physicians. 興味の湧かない患者はいない、ただ興味を失った医者がいるだけ
だと。興味を持って接すればですね、全ての患者さんに学ぶところはあるし、興味深く診る
ことができるというわけですね。本日はご清聴ありがとうございました。
【米山(昭和大学)】 診断学ついては非常に勉強になりました。ただし私が思ってる診断学
と若干違うという印象があったもんですから、一つお聞きしたいんですが、ある製薬問屋が、
診療所でも大学病院でも、何万人もの患者さんに統計をとったことがあるんです。それを見
て私、びっくりしたことがあるんです。実はですね、早く診てくれる医者と、じっくり話を
聞いて親切に、丁寧に診てくれる医者とどっちがいいかという統計をとったんです。その時
に私はてっきりじっくり話を聞いてくれる医者の方が当然有利だろうとおもったら、フィフ
ティフィフティだったんです。早く見てくれる医者が良く、そういう医者を選びたいという
人が 50 パーセント日本の医療ではあったという統計を見ましてびっくりしました。診断学
の最初の話では、じっくり話を聞く医者が必要とのことでしたが、日本の医療という現実か
ら考えて、その点はいかに考えていらっしゃいますか。
【生坂(千葉大学)】 大変興味深いお話でございます。後でその資料を拝見したいです。そ
れは私が以前から感じていることでもございます。じっくり丁寧に患者さんを診ると喜ばれ
るよと、そのために病院に来ているんだよという、そういうことをおっしゃる先生方いらっ
しゃるんですが、考えてみてください。誰もただ話を聞いてもらうために病院に来ているん
じゃないんですよ。できれば病院なんて所には行きたくない。感染症とか色んなことを考え
なくても、長居したい場所ではないですね。話を聞いてもらいたければですね、もっと別の
場所を選びたいですよね。僕は 50 パーセントというのはまだ控えめな数字なんじゃないか
と思いますが、もし瞬間的に正確に診断できる医者がいたら、私は間違いなくそこへ行きま
す。診断の場合はそうでしょうが、すでに診断はついてる、ただ治療に難渋する、あるいは
治療はある程度本人も諦めてるけど、何とか妥協点を見いだしながら生きていく、そういう
場合には、じっくり話すお医者さんが必要です。ターミナルケアとかはその典型だと思いま
す。正しく診断、治療できれば、診察時間は短ければ短いほど良いんじゃないかというのが
-43 -
僕の考えです。問題なのは診断がつかないのに短時間で診察を切り上げられてしまうことで
す。現状では病歴診断を3分で行うのは難しいですが、将来目標にはしたいと思います。先
生の紹介されたその研究結果は大変興味深いです。ありがとうございます。
-44 -
教育講演 2
日本人留学生の旅行医学
溝 尾 朗
皆さんおはようございます。中田先生、丁寧なご紹介ありがとうございました。またこのよ
うな素晴らしい研究集会で、発表の機会を与えてくださいました、全国保健管理協会関東甲
信越地方部会の皆様、そして私の恩師であります長尾先生、どうもありがとうございます。
感謝申し上げます。
私に今日与えられたテーマは、日本人留学生の旅行医学ですが、皆さん旅行医学というも
のを聞いたことがありますでしょうか。現在と同じような旅行医学は、海外で 1960、70 年
代からトラベルクリニックが開かれることによって始まりました。日本では 1990 年前後か
らようやく始まったばかりで、遅れている医学の 1 分野です。最近は、物珍しさも手伝って
新聞や雑誌にも時々とりあげられるようになったので、見かけたことがある人もいるかもし
れません。しかし、多くの人はご存じないと思いますので、はじめに旅行医学がどういうも
のであるか紹介させていただき、その後日本人留学生に関する旅行医学についてお話させて
いただきます。
旅行医学というものは、実にたくさんの分野にまたがる実践的な学問です。感染症や昨日
の演題にもあった生坂教授が担当しておられる総合診療、プライマリ・ケア、これらもいろ
いろな科を横断する分野で、縦割り社会の日本では遅れていたものです。そういう意味でこ
れから進歩していく分野とも言えます。
日本旅行医学会が、旅行医学の中で最も重要と考えているのは救急医学です。海外で亡く
なる日本人の数は、毎年数百人と言われています。旅行者だけでなく駐在員、留学生も含め
た数ですが、最も多い原因が事故で、次いで心筋梗塞などの心疾患、脳血管障害が続きます。
これら 3 大原因のいずれもが救急医療の分野です。そもそも旅行医学は、旅行中の病気や死
亡を避けるために始まったといってもよいので、我々は救急医学を重要視するのです。救急
医療を受ける場合に注意するべきは、病院の選び方です。我々日本人は、外国へ旅行中に具
合が悪くなると、まず日本語が通じるクリニックを探す習性があります。実際、最近まで海
外旅行保険に付随する小冊子に書かれている医療機関は日本語が通じるクリニックばかりで
した。しかし、もし日本で事故や心筋梗塞、脳卒中などに罹ったら、皆さんはどうされます
か。救急車を呼んで一流の専門病院へ行くに違いありません。外国でも同じように振舞わな
ければ、助かる者も助からない場合があるのです。心筋梗塞であれば 6 時間、脳塞栓であれ
ば 3 時間というゴールデンタイムがありますので、日本語の通じるクリニックから紹介して
もらうようでは、一流病院にたどり着くまでに、ゴールデンタイムを過ぎてしまうこともあ
るわけです。当然、現地の救急車の呼び方や電話番号はあらかじめ知っておかなければなり
ません。かぜや軽い下痢、腹痛などは別として、「命に関わる病気の場合は救急車を呼ぶ」
-45 -
という万国共通のルールを覚えて 「 旅行で死なない 」 ようにする、ということを日本旅行医
学会は強調しています。
これまでお話したことを一般(救急)旅行医学と呼びます。その他、旅行医学には、海外
駐在者のための長期旅行医学、持病を持っている人のための旅行医学、短期旅行医学、帰国
後の旅行医学、感染症旅行医学、トレッキングやダイビングなどのスポーツ旅行医学、災害
旅行医学、温泉旅行などの健康増進のための旅行医学など多くの分野があります。その中の
1つに、後半でお話しする留学生の旅行医学があるわけです。日本旅行医学会では、2004
年 11 月と 12 月に障害者(車イス、人工透析)の旅行医学、2005 年 6 月には小児の旅行医
学という新しいテーマを選んで 1 日かけてシンポジュームを開きました。幸い好評でしたの
で、これらを継続発展させ、さらに新しい分野に積極的に取り組んでいく予定です。
ここで一般旅行医学の簡単な統計(図1)を見てみましょう。日本人の海外旅行者の数は、
ここ数年 SARS やテロ、災害で伸び悩んでいますが、ほぼ毎年増え続け、現在年間
1700 万
図1
人前後となっています。
年齢層では中高年の人が
2001年の日本人海外旅行者数 日本人海外旅行者数の推移
多くなってきているのが
11%
特徴で、実に海外旅行者
3 人 に 1 人 が 50 歳 以 上
という時代になりまし
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1964 1969 1974 1979 1984 1989 1994 1999年
3% 3% 5%
22%
19%
3人に1人が
50歳以上
た。50 歳 以 上 と い う と
ほとんどの人が何かしら
の持病を持っていますの
で、旅行中に心筋梗塞や
脳卒中などの救急疾患に
16%
21%
10歳未満
40歳代
10歳代
50歳代
20歳代
60歳代
30歳代
70歳以上
かかる確率が高くなりま
す。こういう人には、必
ず英文診断書を持って旅行するよう勧
め て い ま す。 重 症 疾 患( 図 2) で は、
図1
図2
ある医療アシスタンス会社が扱った在留邦人重症例
(緊急搬送・本国搬送・死亡例)
薬の知識「海外旅行の医学知識」大利昌久より
最初にも触れましたが、若い人に多い
その他・不明
事故、中高年に多い心疾患、脳血管疾
17%
患が 3 大疾患です。感染症はその次で
11% ぐらいです。そもそも欧米、日本
精神疾患
33%
8%
外傷・事故
(おもに若年者)
にかかわらず旅行医学は感染症を中心
とする熱帯医学から始まったのです
感染症
11%
15%
が、現在では感染症の予防や治療が発
16%
達したことと、高齢者の旅行者が増え
脳血管障害
循環器疾患
(おもに高齢者) (おもに高齢者)
図2
たために、感染症よりも救急医療が重
要となってきたわけです。精神疾患も
-46 -
少なくないのですが、これは長期滞在者や留学生に多い疾患です。この精神疾患に関しては、
私のシンガポールでの診療経験から、日本語が通じる家庭医への受診をお勧めします。患者
さんにもよるのですが、一般的に日本の文化を理解し日本語を話すことができる医師を選ん
だほうが良いでしょう。
ところで、私は毎月 1 回海外駐在予定者に赴任前の医療アドバイスをしているのですが、
そこでは、医療への考え方の違い、医療制度の違いを必ず説明しています。その際、シンガ
ポールで経験したある患者さんのことを紹介して理解の助けとしてもらっています。ここで
もそれを紹介させていただきますと、お母さんが日本人でお父さんがシンガポール人でその
子供さんが、38℃前後の発熱が 2 日間続いたため、お母さんに連れられて診療所に来ました。
診療所に来る前に、お父さんから「耳を診てもらって急性中耳炎でなければ、抗生剤でなく
坐薬の解熱剤だけもらって帰ってきなさい。」と言われてきたというのです。私はもっとも
なことだと感心して、耳鏡で耳を診察して中耳炎でないことを確認してアンヒバという坐薬
を処方しました。2 日後電話で解熱したことを確認できたのですが、外国では医師からいろ
いろな情報をもらうけれども、最終的に治療法を決めるのは自分であり、その責任も負うと
いう人が多いということを勉強しました。日本ではまだまだ医療は医師任せというのが多く
て、責任をともなう権利を行使する人は少ないと思います。しかし、私はより良い医療を築
いていくには、医療者の努力だけでなく、患者さんの努力(勉強)も必要ではないかと考え
ていますので、海外赴任を契機に少しでも医療を考え直していただければと思い、話を続け
ています。
次に医療制度についてですが、医療供給制度つまり医療機関へのかかりやすさという点か
ら各国の制度を比較してみると、日本が圧倒的にかかりやすい。日本では、診療所、大病院
にかかわらずどの医療機関にでも何回でもかかることができます。一方、アメリカでは私的
保険会社が契約している診療所や病院にしかかかれませんし、イギリスやシンガポールで
は、病気になったらまず家庭医(一般医や GP)に診てもらってから、必要があれば専門医
に紹介されるという制度が出来上がっています。どちらの制度が良いかという結論は出てい
ないのですが、海外へ行く場合には、医療機関へのアクセスは日本が最も恵まれている、と
いうことを知っていただいています。
続いて在留邦人のメンタルヘルスについてお話します。海外に在住している日本人を対象
とした JOHAC(海外勤務健康管理センター)と JOMF(海外邦人医療基金)などによる
アンケート調査の結果を見てみると、日本に住んでいるときとくらべ、海外ではいろいろな
ストレスが増加するため、神経症や抑うつ状態の圏内にいる人が、10 ~ 15%高くなります。
このアンケートでは、海外駐在にともなうストレスに強い人は、性格的に楽観的な人、仕事
上の満足度が大きい人、家族帯同で赴任している人だということもわかりました。面白いの
は、日本では悲観的な人が海外で楽観的に変わる人もいて、こういう人が最も仕事ができる
そうです。また、男性と女性を比べると、海外では女性の方がメンタルヘルスに罹患する確
率が高くなります。海外駐在に目的を持たず夫の転勤に仕方なく付いてくるケース、日本で
身近にいた両親や兄弟が遠くなり相談できる人がいない主婦などがかかりやすく、私の経験
-47 -
でも、駐在員よりもそういう主婦を診療することが多かったと思います。
海外駐在の際、よく質問されることにワクチンのことがあります。日本でできるだけ打っ
ていきたいので、何を打ったらよいかと聞かれるのですが、赴任前の忙しい時期に急いで打
つよりは、体調に合わせて接種し、足りない部分は赴任してから続けたらいいのですと私は
アドバイスすることにしています。海外の方がワクチンに関しては便利なことが多く、日本
では打てない A 型肝炎と B 型肝炎の混合ワクチンや、腸チフスワクチン、MMR(麻疹、
ムンプス、風疹)3 種混合ワクチンなどが、海外では利用可能なのです。
日本人の海外旅行期間は平均 8 日間と短いので、帰国後に下痢や発熱が発症することも珍
しくありません。どういう疾患が多いかは、旅行先や潜伏期から考えます。忘れやすいのは、
海外でも発熱の原因として最も多いものは、かぜです。飛行機の中は時にサハラ砂漠より乾
燥していますし、熱帯地方の多くのホテルは冷房のために冷え過ぎていますので、かぜのウ
イルスにとっては逆に快適な環境となっています。また、シンガポールやインドネシアでは、
北半球だけでなく南半球からも影響を受けるので、インフルエンザは年に 2 回(冬と夏)流
行します。
感染症に関しては、飲食物から感染するもの、蚊で媒介されるもの、性感染症が重要で、
WHO や CDC から出される流行情報にはよく目を通しています。今後は、ウエストナイル
熱や鳥インフルエンザにも注意を向けていかなければならないでしょう。
私は、2002 年 9 月から東京厚生年金病院で旅行医学外来を開いているのですが、最近増
えてきている相談が高山病に関することです。中高年に人気が高いトレッキングは、2000m
や 3000m、さらに高地へ行くことも多く、飛行機で降り立つ飛行場がいきなり 3000m とい
うことも珍しくなくなってきたのです。この場合、ダイアモックスという薬でかなり予防で
きることがわかっています。先日、オリンピック選手に帯同しているドクターと話す機会が
あったのですが、多くの選手が取り入れている高地トレーニングでは、屈強な彼らも同じよ
うに軽度の高山病にかかり、最初の1週間は満足なトレーニングができないと言っていまし
た。
ダイビングでの最近の話題は、伊豆半島でダイビングを楽しんだ後、車で箱根越えをする
図3
と潜水病になってしまうことがあることです。ダイビング中の高圧環境と箱根の低圧環境と
の圧較差が原因と言われています。日本でも、減
圧症は少なくないということを知っておいてくだ
東京厚生年金病院の旅行医学外来
2002年9月~
さい。
図3は、旅行医学外来の受診目的をみたもので
すが、最も多いものが留学生からの相談で、駐在
者、短期旅行者が続きます。開設当初は、圧倒的
に留学生からの相談が多かったのですが、最近は
その他
短期海外旅行
8%
相談 19%
留学相談
41%
長期滞在(駐在)
相談 33%
持病を持った人の短期旅行相談や、赴任前の相談
が増え、旅行医学が少しずつ認知されてきたこと
図3
を実感しています。
-48 -
ここから、本題である留学生の旅行医学に話をすすめていきたいと思います。日本人留学生
の歴史は、皆さんもよくご存知のように、中国から学ぶための遣隋使、遣唐使から始まりま
した。明治からは学ぶ相手が欧米諸国に変わりますが、戦後も一貫して欧米から多くのこと
を学んできました。つい最近まで留学というのは、語学、金銭面、交通機関など多くのバリ
アがあり簡単には行くことができないものだったのですが、今では誰でもどこでも海外留学
に行ける時代になりました。とても良いことではあるのですが、一方、先進国の文化を学ん
で日本に持ち帰るという確固たる目的が失われ、目的がはっきりしない留学が増え、いろい
ろな問題が生まれてきたことが指摘されています。
留学生の現状を見てみますと(図4)、バリアが低くなったおかげで 10 年前に比べ数が 2
倍に増え、留学先は依然アメリカをはじめとする欧米が多いのですが、最近は中国への留学
が急増しているのが特
日本人留学生の海外留学状況
徴です。また長期滞在
者の中で留学生が占め
る 割 合 と い う の は、4
分の 1 に達していま
す。このように日本人
留学生というのは数の
上からももっと重要視
されていいと思うので
すが、実際には放置に
図4
国名 留学生数(人)
長期海外滞在者に占める
アメリカ合衆国 ������(����年)
留学生(研究者・教師を含む)の割合
中国 ������(����年)
英国 �����(����年)
その他
留学生
(研究者・教師を含む)
19%
カナダ �����(����年)
25%
韓国 �����(����年)
ドイツ �����(����年)
����年
オーストラリア �����(����年)
フランス �����(����年)
民間企業関係者
ニュージーランド �����(����年)
56%
オーストリア ���(����年) 近 い 状 態 で、 統 計 や
データを探してもこれ
「文部省高等教育局留学生課資料」より 「外務省海外在留邦人数調査統計」より
図4
以上のものはあまり出
てきません。留学というのは文化を学ぶだけでなく、異文化の交流を通じて、外国人に日本
を紹介し理解してもらう絶好の機会でもあると思います。逆に質の悪い留学生が日本の評判
を落とす可能性もあります。日本に来る外国人留学生の受け入れ体制は、よく研究され、か
なり整ってきていると思われますが、海外へ留学する日本人留学生の支援体制は非常に遅れ
ているのではないかと思っています。
長期駐在者に占める留学生の割合は、国によってかなり異なります。20 年前イギリスに
行く日本人留学生はとても少なかったのですが、徐々に増えてきて最近では駐在員と同じぐ
らいの数になってきています。一方、シンガポールへの日本人留学生はほとんどおらず、オー
ストラリアやニュージーランドは駐在員よりも留学生が多く、さらにワーキングホリデーで
滞在する人が最も多いようです。その国の政策や国力、留学生から見た魅力、留学のしやす
さなどに影響を受けているのでしょうが、旅行医学も国によって伝えるメッセージを変える
必要があることがわかります。
さきほど触れましたように、日本人留学生に関する研究は遅れていて、参考になるデータ
が少ないのですが、留学生を含めた海外渡航者に関するアンケート調査が 2 つありますので、
-49 -
ここで紹介させていただきます。
1つは、JCC(NPO 法人日本異文化交流協会)で行われた渡航前のアンケートで、対象
のうち学生が 40%、20 歳代が 37%となっており、留学生が主体となった調査と思われます。
幾つかの質問から成るのですが、その1つから、渡航先で最も心配で不安なことは医療であ
ることがわかりました。現地での危険管理に関して、在領事館に期待している人はほとんど
いなくて、危険時に連絡すると答えた人はわずか 4%でした。しかし、危険管理に対する準
備は 80%の人が不十分と感じているのですから、支援体制が貧弱であると思いながら、留
学しているという実態が浮かび上がってきます。また、災害時などに重要な情報が得られる
外務省の「海外安全相談センター」の存在を 90%の人が知らないと答えています。
次に社団法人中央調査社からのアンケート調査を紹介します。半数が海外長期滞在経験の
ある 20 歳以上の人を対象とした海外渡航後に行われたアンケートです。まず、海外で安全
に滞在するためには、衛生面の情報が最も必要であるという結果が出ています。また、12%
がトラブルや事故に遭遇しており、実際にどこに相談したかというと、40%前後が旅行会社
に連絡しており、日本大使館や総領事館には 7.5% しか相談していません。外務省による海
外危険情報の存在も 64%の人が知らないと答えています。
どちらのアンケート調査も同じような結果でしたが、衛生面や医療面が最も気がかりで、
危険時に政府はあまり頼りにならず、実際に外務省は安全情報を公開しているけれども、努
力が足らずその存在を国民が知らない、ということがわかってきました。(追加:最近は、
外務省をはじめとする政府も広報活動や支援にも力を入れており、徐々に改善してきていま
す。)
ここからは、留学生が実際に直面している具体的な問題について話していきます。
まず留学生の立場からその特徴を考えてみましょう。第1に、青年期で人格の発達過程で
あり、精神障害や薬物に陥りやすいという特徴が挙げられます。次に、留学生が誤解しやす
いことですが、外国でも日本人社会では日本と同じ適応力が必要となります。外国へ行って
もいじめはなくなりません。3番目は、渡航前の準備期間が短いため準備不足が多く、危険
管理があまい。4番目は、駐在員に比べ援助体制が貧弱であること、5番目は、渡航の目的
がはっきりせず、経済基盤も脆弱な人は「留学生崩れ」になりやすいことです。どんな立派
な留学生でも、いずれかの特徴を持っているものです。
図5は外務省が公表している海外邦人援護統計というデータです。大使館や領事館に援護
を求めてきた人の数は、毎年増え続けていて、昨年は 16000 件ぐらいまできています。そ
の中で若者に多いものが、精神障害と麻薬犯罪です。20 歳代、30 歳代が 70%前後を占める
のですが、留学生に多いかどうかまではわかりません。そこで、ロンドンで勤務していた知
り合いの精神科医からお借りしたデータを見ると、留学生が 40%と最も多かったという結
果がありました。イギリスは比較的留学生が多い場所ですが、おそらくどこの国でも、精神
障害者に留学生が占める割合は高いのではないかと思っています。日本語で相談できる心療
内科医または精神科医を紹介する制度、もしくは遠隔医療を含めた援助体制つくりが望まれ
ます。
-50 -
海外での薬物使用に
海外邦人援護統計
関するデータはまった
-外務省領事移住部邦人保護課-
ですが、文部科学省に
よる日本における生徒
へのアンケート調査を
も と に 考 え て み ま す。
高校 3 年生の答えで
は、「20 % が 薬 物 に つ
事件・事故等援護件数の推移
(件)
14752
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
12663
13569 14115
12818
11549 12432
9688
10812
10252
8354
9037 9637
5879
3838
「邦人海外渡航者の精神保健対策」より
(人)
350 精神障害者、自殺者、麻薬犯罪者の推移
300
いての学習経験を受け
た こ と が な い 」「 薬 物
を絶対に使うべきでな
いと思うのは 70%で、
在ロンドン精神科医の関与例
(����年~����年)
留学生������(���)
乳幼児� ����(��%)
主婦� ����(��%)
駐在員� ����(��%)
10268
19
86
19 年
87
19 年
88
19 年
89
19 年
90
19 年
91
19 年
92
19 年
93
19 年
94
19 年
95
19 年
96
19 年
97
19 年
98
19 年
99
20 年
00
20 年
01
年
く見つからなかったの
図5
250
困窮
200
精神障害
150
自殺・同未遂
麻薬犯罪者
100
19歳以下
30歳台
20歳台
40歳台
18%
50
2%
5%
麻薬犯罪者 46%
15% 4%
14% 精神障害者 40%
29%
0
50,60歳台
27%
1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
図5
10 ~ 20 % は 他 人 に 迷
惑をかけているわけで
はないので個人の自由」と考えています。薬物が乱用されている理由は、「簡単に手に入る
こと」「学校や家庭が面白くない」と答えています。つまり、今の若者は薬物に手を出しや
すい考え方を持っていて、さらに、海外は場所によりますが、一般に日本より簡単に薬物が
手に入る環境ですので、留学生は薬物に染まりやすいと言えるのではないでしょうか。学校
だけでなく、留学前にも薬物に対する教育が必要と考えられます。
図6は、NPO 法人留学協会で行われている留学相談の事例報告の統計です。最も多い相
図6
談が留学斡旋業者と現地ホームステイ先との
トラブルです。最近新聞で取り上げられること
もあるのでご存知かもしれませんが、現地のサ
留学相談事例
���法人留学協会より
ポートオフィスを持たない丸投げの留学斡旋
業者の存在が大きな原因です。2つのアンケー
ト調査で明らかになったように、留学生が渡航
先で困ったときに相談できる所がないという
のが現状です。政府による日本人留学生の支援
体制をつくることが最も良い解決策ですが、同
時に無認可でできる留学業務に対ししっかり
した制度をつくって、留学斡旋業者の質の向上
図6
を目指してほしいと思います。
まとめますと、
1.海外への留学生が増える中で確固たる目的を持たない留学も多く、それにともない精神
障害や麻薬犯罪が増加している。
2.留学生は危険管理があまく、政府や斡旋業者の援助体制も貧弱なため、トラブルに巻き
-51 -
込まれやすい。
3.留学前の旅行医学教育や留学中の援助体制の確立が望まれる。
4.留学業界のレベルアップのための制度を作っていただきたい。
以上、旅行医学の紹介と日本人留学生の旅行医学についてお話させていただきました。デー
タが少なく、焦点が絞りきれず、わかりづらい講演になってしまいましたが、最後までご清
聴いただきありがとうございました。
-52 -
教育講演 3
青年期の精神障害とその治療
千葉大学大学院医学研究院精神医学 教授 伊 豫 雅 臣
山田先生、ご丁寧なご紹介どうもありがとうございました。皆さんこんにちは。ただ今ご
紹介いただきました伊豫でございます。また今回長尾先生始め、この研究集会の方々にこの
ような機会を与えてくださったことに対して心からお礼申し上げます。
大学生時代というのは、丁度人格が形成されてくる重要な時期であり、また人生の将来を
方向付ける時期、と言えるかと思います。こういった時に精神障害を患うことは、学習能力
を低下させてしまったり、社会への適応力を低下させてしまいます。それから病気によって
は長期の経過を辿ることから、この重要な時期をある意味台無しにしてしまう可能性がある
と思います。実際に青年期というのは、皆さん既にご承知のように様々な精神障害が出てく
る時期でありますので、現実に重大な問題となります。我々はこういった学生にどう対処す
べきでしょうか。精神障害を早く見つけて早期に介入してあげる適切な医療を提供する、医
療に結び付けてあげるということでしょうか。皆様方の仕事というのは、色々学生から相談
があったり、医療的なサポートをしてあげたり、または外部の医療機関に結びつけるという
ことも重大なお仕事だと思いますが、こういった早期介入して適切な医療に結び付けてあげ
るというのも重要なことだなと思っております。また、この精神障害の症状が安定してきた
場合に、当然大学に戻ってくることになりますが、それをサポートしていくということも重
要と思ってます。いずれにせよ、この青年期は精神障害が発現しやすい頃であり、この人生
の重大な時期である大学生時代などを破壊してしまう可能性もあるということだと思いま
す。
それではこういった方々が精神科を受診する際には、どのようなプロセスを踏むのでしょ
うか。単純に言うとこの 2 つに分かれると思います。これは皆様方のところに相談に来る学
生等に、症状、病気によっては精神科医療機関を受診させることになると思いますが、自ら
悩むという場合にはご本人が心理学的な問題を自覚しているということになります。気分が
落ち込むとか、不安である、または眠れない、集中力が落ちてる。また最近ですとリスト
カットをしてしまうなど、それから過食、嘔吐してしまって上手く食べることがコントロー
ルできないというような問題を自覚されていらっしゃいます。こういった場合には精神科医
療機関を紹介し、受診させるというのはそれほど困難な問題ではないのかも知れません。
一方周囲が悩むということが精神科疾患ではよく見られるものであります。こういった場
合には心理的な問題というよりは、これを背景にして出てくる行動上の問題に周りが気づ
き、心配し、そして何とか対処してあげなければいけない、してあげたいということになり
ます。引きこもってるとか、不登校、周りから見てるとものすごい体重が減ってる、痩せて
る。それから敵意を同級生や教官等にむき出しにしてくる、というようなことも起きてくる
-53 -
かも知れません。こういった時には、本人が当然相談に来るというよりは、他の学生や、他
の大学の職員が相談に来るというのが多いのではないでしょうか。中にはご家族が相談に来
るかも知れません。精神科の臨床では当然ご家族が相談に来るということになりますが、大
学の健康管理をあずかる方々のところでもあるかと思われます。私自身も実際にはこういう
方々から相談を受けることがあります。第三者が介入してくるということになるわけです
が、本人にとってみたら、受診意欲などなかったり、病識がなく自分が行っている行動が問
題であるという認識がない。また多少問題かも知れないけれど、自分のコントロールの範囲
内であると考えている場合があると思います。いずれにせよ、こういった問題を抱えている
学生を精神科医療機関に受診させるには、最終的には家族を介入させざるを得ないというこ
とになるかと思います。このように紹介していただいた精神科医療機関では、どう診断し、
どう治療しているのかということについて、今回私はお話させていただきたいと思います。
皆様方既にご承知の通り、青年期に発症する精神障害には様々なものがあります。例えば
統合失調症です。これは後ほども述べますが、生涯有病率が1パーセント位で、非常に高率
です。1 パーセントというと 100 人に 1 人です。例えば医学部は入学者はだいたいが 100 人
です。統計的にいうと、一人は発症してしまう可能性はあるということになります。
次に気分障害です。大鬱病や、双極性障害、というのはこれは躁病も入ってきます。また
は持続性気分障害です。この大鬱病と持続性気分障害には違いがあります。どちらも鬱を訴
えますが、内容的には違うものになります。この気分障害は生涯有病率が 5 パーセントから
20 パーセントと、ばらついておりますが、非常に高率な疾患であるということが分かりま
す。その症状が出てくるのは、一つは青年期、青年初期、もう一つは壮年期、50 代前後と
いわれております。そうしますと気分障害のピークも学生時代に当てはまる可能性が高いと
いうことになります。
他の精神障害として、最近パニック障害というのが、よくテレビなどでも出ております。
対人恐怖と以前言われていた社会不安障害、手洗いが止まらないといった強迫性障害なども
青年期に発症します。特に社会不安障害、対人恐怖は 10 代から出てくることがあり、大学
に入り更に顕在化してくるということもあるかと思います。そして、摂食障害や、睡眠障害
もあります。この摂食障害は我が国はどんどん増えていると言われております。主に女性で、
女子高生、女子大生の間では、かなり増えているだろうということであります。概日リズム
障害、これは発生率はそれほど多くはないのですが朝起きられず学生生活に支障が出てきま
す。
それから適応障害、急性ストレス障害、PTSDもあります。こういったある意味、外的
要素に非常に強く影響されるものというのも出てきます。高校時代まである程度保護的に、
家族からの保護的環境にいたものが、大学でそれなりに自立してきて何らかのイベントに巻
き込まれてしまうということかと思います。それから海外旅行で薬物乱用し、薬物依存とな
ることも、増えてきています。つい最近も、脱法ドラッグを飲んで、錯乱状態で救急受診を
した大学生がおりました。ちょっとした気持ちでインターネットなどで買って、こういう問
題を起してしまっています。
-54 -
それからアルコール依存ですが、中高年の障害と思われがちですが、若い時期からアル
コール依存症になる一群と、40 歳前後からアルコール依存症になってくる一群があると言
われております。若いうちになる人は、反社会的な行動も伴うことが多く、また大学生が酩
酊の状態で女性に被害を与えるというようなことも出てきております。やはりそれらはアル
コールに関連する問題と言えるかと思います。覚せい剤などもそうですが、一度やるとなか
なか止められなくなり、後遺症として様々な問題が出てくることもあります。
次に発達障害です。当然ですが、非常に知能の高い方がいらっしゃいます。しかし大学生
活の中でそれなりの自立的な行動が求められる時になってくると、周囲との関係から非常に
悩む、本人または周囲が悩むという状態が生じる、または顕在化してくることがあります。
そしてもう一つが人格障害であります。人格障害の診断は大学生位になってくると人格が
確立してくるので、診断名をつけてもいいかも知れません。こういった人格の問題に絡む情
緒的な問題、または行動的な問題も、大学生時代に出てくるかと思います。こういった様々
な問題は最初、皆様方の所に相談に行くことが多いと思います。多くの学生が行くのではな
いかと考えざるを得ません。
では、視点を変えて、ある現象からどういった疾患に、辿り着くかというのを、簡単に見
てみたいと思います。例えば不登校、引きこもりというものがあったとします。いじめが
あって学校へ行くのが嫌だという場合や、ゲームにはまってしまって行けなくなってしまっ
て、勉強も分からなくなったから、行くの止めてしまった、回避してるというような、現実
的な問題もあるかもしれません。その一方で、自分の意思と関わりなく朝起きられないとい
う状況もあるかと思います。それは概日リズム障害です。睡眠相後退型や、前進型などがあ
ります。我々人間は元々 25 時間サイクルであったものが、社会的な刺激によって 24 時間に
その都度修正をしながら生活をしていると言われております。この概日リズム障害では、そ
の修正が利かなくなってしまっている。ですから 1 日に 1 時間、または 2 時間ずつ目が覚め
る時間がずれてきてしまう状態になります。これは本人が怠けているわけではなく、何とか
しようと努力しているのですが、上手くコントロールできない状態であります。また、飲酒
や薬物などを使って朝起きられず不登校となることもあります。
次に気分が落ち込む、意欲が湧かない、と訴えて精神科を受診する学生も結構おります。
この場合、病前の機能から明らかに変化しているかどうかすなわち、中学、高校時代と比べ
てどうなのか、または3か月前と比べてどうなのかということが重要です。明らかに変化し
ている場合で、はっきりとしたストレスが確認できる場合には、適応障害という診断をつけ
てもいいかも知れません。この場合の対処方法としてはこのストレスをどう処理していくか
ということになるかと思います。その一方で、特にはっきりしたストレスは存在しないけれ
ども、ほぼ一日中、ほぼ毎日、2 週間以上持続して気分の落ち込みとか意欲低下が起きてい
る場合には、大鬱病エピソードということになります。
その一方でこの状態が1、2年は続いて、しかも気分の良い日もあるが、落ち込む方が多
いかも知れないということで訪れる方もいます。これは気分変調症になります。このように
抑鬱、意欲低下とひとことで言ってもいくつかの診断がなされます。当然診断が変われば治
-55 -
療方法も変わることになります。特に大鬱病エピソードでは、典型的な場合はお薬を出して
休んでくださいって言うだけで、よくなってしまう方も結構いらっしゃいます。それに対し
て適応障害の場合はストレスとの関係などについて、一緒に考察してあげる必要があり薬と
休養だけでは改善しないこともあります。気分変調症は、患者さんによっては、こちらのア
ドバイスなど聞かないということも多い病気です。鬱と言ってもかなり違う訳です。そして
鬱に頑張れと言うなと言われますが、その対象となるのは大鬱病エピソードの患者さんで
す。気分変調症の方には時には言わないといけないと思います。ところがそれを言うと、「先
生は私は鬱なのに頑張れって言っておかしい」って攻撃してくることもあります。そういう
攻撃をしてくるのは大鬱病ではないと言うのですが、それでもそう言ってくることがありま
す。最近鬱がごちゃごちゃになってしまっていて、しかも大鬱病性障害に対しての対応方法
が“うつ”一般に対してのものとして広がってしまっている状況になってしまっていると思
います。
次に不安、恐怖です。不安や恐怖の対象は自分の健康であったり、体形など自分に関して
の場合や、周囲との関係の場合があります。健康への恐怖には、動悸がしてきて原因がはっ
きり分からない、またこういった発作がおきて死んでしまうのではないか、と予想してしま
う、予期不安を持ってしまうパニック障害の場合がありますし、体への恐怖では痩せ願望や
肥満恐怖があります。摂食障害の拒食症や大食症です。それから自分は醜い、臭い、または
自分の目つきが悪いというような醜形恐怖、自己臭恐怖、自己視線恐怖といった恐怖症を持
つ方々がいらっしゃいます。例えばこの醜形恐怖の方だと美容整形などに何回も何回も行き
ます。自己臭に関しても自分のわきがが気になるといって、外科に行って何度も手術を受け
るということもあります。こういう場合は神経症レベルのこともあるのですが、妄想、誤っ
た考えを訂正できないという状態になってしまっている場合も多く、日本では思春期妄想症
と言われることもあります。妄想性障害といういうことになるかもしれません。また、周り
から自分が見られている、自分がどう評価されているかということを過剰に気にしてしま
う、これが以前で言うところの対人恐怖があります。現在では社会恐怖、周囲から見られる
ことに対しての不安、恐怖であり社会不安障害と呼ばれることも多くなっています。そして
周りから被害を受けている、周りから声が聞こえてくる、批判の声が聞こえるというような
被害妄想や幻聴などが出てくると統合失調症ということになるかと思います。その他にも手
洗いが止まらないというような強迫性障害や、他の色々なものが怖いというものもありま
す。
ある現象を診ても様々な診断が下され治療方法も変わってきます。我々の治療アプローチ
は、病気の原因を考える時でも最近ではよく言われていますが、バイオサイコソーシャルと
いうことになると思います。バイオでは薬物療法です。抗精神病薬、幻覚、妄想などに効果
がある薬、それから抗鬱薬、気分の落ち込みだけでなくて最近は社会不安障害にも効果があ
るし、それから強迫性障害にも一部効果があると言われております。それから抗不安薬を使
用します。サイコは精神療法となります。千葉大では基本的な精神治療法として認知行動療
法を採用しております。当然ですが精神分析療法というものも行われております。環境調整
-56 -
です。先ほどの適応障害もそうですし、復学してサポートが必要な学生も出てきます。
私が経験から創作したいくつか例を通して学内での対応や精神科的治療を見ていきたいと
思います。18 歳の女性で大学生 1 年生。大学に入学して単身生活になりました。6 月に入っ
た頃から不登校になり、週末には自宅に電話してたのが、その電話もしなくなってきた。心
配して両親が訪れてみると、服装はだらしなく、部屋の中が散らかっていて、窓や天井に黒
い紙をぺたぺたと貼っていたということです。理由を聞いてみると、周りから見られている、
天井から命令する声や電波が来る。この黒い紙はそれを防ぐのだと言っていた。本人は病識
がありませんので、両親が介入して、精神科を受診させ統合失調症と診断された。年度末ま
での休学届けも出して、通院療法も開始した。病識がなく、本当に見られているし、本当に
自分のことを色々とうわさしている声が聞こえてくるわけですから、自分は異常ではないと
考えております。ところが眠れてないとか、強いストレスとなっていることは自覚していま
す。そこでご本人が困っている部分もあるわけですから、薬を服用するように言います。最
近の薬は効果が高く、内服するとその晩やその次の日にぐっすり眠れ、幻覚、妄想もすうっ
と消えていきます。本人がその消えてくることを体験できますので、先生、この薬だったら
飲み続けていいですよなど、そういったことをおっしゃってくれる。先生、私、病名はなん
でしょうかと、尋ねられ統合失調症の可能性が高いと伝えると、インターネットで統合失調
症を色々調べてきて、いろいろ質問してきます。この人は比較的早くアルバイトを始めまし
た。統合失調症は、有病率1パーセント位で思春期から青年期に発症して、長期的な経過を
辿ります。症状としては幻覚、妄想、興奮、解体した会話、陽性症状と呼ばれるもの、また
陰性症状として感情の平板化とか思考の貧困、意欲の欠如がみられ最近かなり注目されてお
りますのが、認知障害があります。これら三つが主たる症状と言われております。
以前の薬は陽性症状だけをターゲットにしておりましたので、陰性症状や認知障害の改善
は非常に困難でした。ですから大学生活を送っている間に、この二つがあると学習はできな
い。それからこちらのために人格レベルがどんどん下がってしまうということも起きてきま
した。それに対して最近出てきている新しい薬は、これら三つに作用してくれますので、社
会生活をかなりうまく送れる方々も増えてきております。しかしこの抗精神病薬は、長期に
わたって飲み続けてなければなりません。今のは親が介入してくれた例です。
次は 21 歳の男性でA君。同級生である男子学生 2 人が相談に訪れました。授業開始前に
このAが自分たちのところに来て、俺を罠にかけようとしても無駄だ、何で色々と邪魔する
んだと突然自分たちが攻撃された。思い当たることはない。それから女学生のBに聞いたと
ころだと、後をつけてきてストーカーのようなことをAはやっていてBが怖がっている。何
とかしてほしい、と相談にみえました。だけどこれを俺たちが言ったと言わないでくれとい
います。名前を出して後で恨まれると嫌だからということです。こういった形で相談に来る
こともあります。こういった場合対応は非常に難しいです。この人は授業中にぼおっとして
ることもあって、成績も少し下がってきたので学務係を通して学生相談として呼び出してま
した。話を聞いてみると半年ほど前から周囲の様子がなんとなくおかしくて、皆で合図した
りしている。最近になって自分を罠にかけているのに気がついた。Bにはストーカーをして
-57 -
いるのではなくて、彼女の方が自分に好意のあるような仕草をしているし、ついて来てとい
うのでついて行っただけだと話しました。この場合は明らかな幻聴はないので、これは妄想
性障害の可能性があります。当然本人には病識が全くありません。本人には両親とも話をし
たいと伝えて、後日両親も交えて話し合い、精神科を受診させることにしました。このよう
に、自ら受診するということがなく、被害意識や攻撃性を持つ疾患にはどういうものがある
でしょうか。先ほどの統合失調症も一つの例ではあります。ただ統合失調症の場合は、陰性
症状や解体した会話や行動、幻覚あり、行動上、周囲と適応しないような行動が出てきてし
まうことが多いので、比較的診断はしやすいと思います。ところが妄想性障害は、他の機能
は保たれてることが多く、話を突き詰めいくと、確かにそのように思ってもおかしくないな
ということもあります。しかし、妄想性障害にも薬物療法が必須ということになります。
もう一つあります。様々なことを不審に思い、疑い深く、他人の行動を悪意と解釈してし
まうという、妄想性人格障害です。皆さんのところにも相談が来るかも知れませんが、非常
に対応が困難なものかと思います。
次の例は、中学時代に人前で発表する時にどもってしまって,それ以来人前で話すのが苦
手となった。高校の時は欠席がちだったけれども、成績優秀で希望通りの大学に合格してま
す。しかし授業中に自分が赤面しているのではないかとか、それをクラスメートが見て変だ
と感じているのではないかと考えるようになり、緊張感で動悸や息苦しい感じが出てきて集
中もできない。最近は登校するのも苦痛になってきてしまった。一人でいると自分の行動発
言について後からくよくよと、繰り返し否定的に考えてしまう。このままではいけない、ど
うにかしたいと思って受診しました。家の中では全く問題がなく、ご両親は高校時代からの
不登校に対しては、見守るしかないなと考えてました。診断は社会不安障害。精神科クリニッ
クを紹介しました。治療法としてはSSRI、セロトニン再取り込み阻害薬、抗鬱薬です。
それから認知行動療法が非常に効果的な場合が多いので、病態についての説明し、回避して
る場面に行き、本当に周りが自分のことをそんなに見てるのかどうかを確認してもらう、そ
れから、後からくよくよと自分の行動を振り返るということを止めることをお話しました。
SSRIは、脳内のセロトニン神経終末に作用します。鬱や不安障害の方々では、セロト
ニン量が減っていて、再取り込みしてリサイクルする部分をブロックします。そのためシナ
プス間隙におけるセロトニン量が増加して症状が改善するのだろうと考えられます。
認知行動療法における社会不安障害の考え方としては、例えば教室の中で周りの人たちか
ら注目を浴びているのではないかと考えてしまう。その考えがどんどんどんどん大きくなっ
てくると、緊張、不安、恐怖になりますので、体の症状として赤面とか動悸が出現し緊張感
がさらに高まります。そして自分のことに集中して、周りを客観的に評価できず、うつむい
たまま悪い方に考えてしまう。同時にこういった緊張感があるので、そういう状況を回避し
ます。教室にいると緊張するので、目立たないように教室の隅に座る、または不登校となり
ます。それから自分が本当に見られているかどうか、他の人がそんなに自分のことを見てい
るかどうかというのを確認をしていません。このようにどんどん自分の世界に入って行って
しまいます。また家に戻ってから、あの時ああ言ったからこうだったとか、こういう行動が
-58 -
どうだったかと反省してしまいます。従って治療では、こういった場面には避けずに行って
もらって、本当に周りの人が見てるかどうかを確認させ、また不安緊張の症状であるという
ことを理解してもらいます。この症例は 6 か月後には、不安はなくなり、サークル活動も楽
しんでいるということです。
次は痩せです。Cさんの痩せが著しいことに、教官を始め、他の職員、学生も気づいてい
る。授業にはほとんど全て出席している。1か月前に陸上部の先輩に,痩せ過ぎではないか
と指摘されると、春にダイエットしたら上手くいったけど、また体重が増えるのは嫌だと考
えている。また部活動にも出なくなった。学校ではやや疲れている印象はあるものの、笑顔
で活発に友達ともしゃべっている。大学入学時 162 センチ、55 キロ、BMI 21 だったのが、
この秋にはBMI 14 で 36.7 キロに落ちてしまったということです。対応は非常に難しいで
す。ご本人はこれでいいと思っているのですね。こういった方を治療に結びつけるのは非常
に難しいと思います。これは特に精神科が最初から関わるというのは困難で、やはり内科の
先生方などに、健康という意味で非常に危険な状態と言っていただいて、次のステップで精
神科に来るようにしていただければと思います。たまに私たちも、そういう学生見てです
ね、どうしようかなと思いますが、本人は何も言ってこない、親も何も言ってこない、その
ため介入のきっかけがないのです。問題行動起こしてるわけでもないわけです。ところがこ
のままいけば、突然死するという状況です。
千葉大精神科の場合はこのレベルになると、入院治療を考えます。我々がやっている治療
の一つは行動制限療法です。目標体重を決めて治療を進めていき、目標が達成できたらでき
ることを増やしていきます。例えば電話の回数を増やしたり、雑誌や面会時間などを増やし
ていくのです。裏を返せば、治療開始時点では電話もできないし、雑誌も読めない、家族と
の面会もできないという状況から始めていくとことになります。ただしこれは本人の了解を
得た上で行います。病識がなく幻覚、妄想状態で行動を制限する、というのとは違って、生
命的に危機的状態、状況にあり、こういう選択をせざるを得ないということを本人に話し了
解してもらうことで始めることになります。ただ本当に生命的に危機的な状況であれば、や
はりそれは、精神的な病気の状態でなってるわけですから、私は場合によっては、強制的に
体重を増やさせることも必要になるのではないかとは思ってます。
全ての疾患についてご紹介する時間はありませんが、青年期においては、特に大学という
のは人生の中で重要な時期であります。そして精神障害はこの時期非常に多く発症します。
そしてそれは、その人の人生に大きな影響を及ぼしてしまいます。対応方法としては、自ら
相談に来てくれる場合もありますが、その一方で、他の学生や教官が相談してくる場合、ま
た最後の症例のように、皆見て分かるのだけれども、どのようにアプローチしていいか分か
らないという場合もあります。何とか工夫して、早期に介入して適切な医療を受けさせてあ
げる必要があるのではないかと思います。そしてまたある程度いいコンディションになって
きた時には、また学生生活を有意義に過ごせるようにサポートしていってあげられればと考
えております。
以上で私の講演を終わりにしたいと思います。どうもご静聴ありがとうございます。
-59 -
【司会(山田)】 伊豫先生、どうもありがとうございました。私たちの方が、日ごろお会い
する学生さんの精神科的な問題について、その診断と分類について極めて分かりやすくご説
明いただけたかと思います。また、具体的な対応のあり方について、統合失調症、妄想性障
害、そして社会不安障害、そして摂食障害について事例ごとにご説明いただきまして、日ご
ろの、関わりの方、改めて思い浮かべて、整理させていただくことができたのではないかと
思います。先生のお話の中から、我々も、早期に介入をして適切な医療に結び付けていく、
そして学生さんが上手く大学生活等に復帰していくことを考えていく工夫をしていくことだ
という風に、提言がされたかと思います。本当にどうもありがとうございました。時間が、
若干押してはいるのですが、せっかくの機会ですので、お一方でも伊豫先生にご質問されて
はいかがかと思います。
【内田(茨城大学)】 茨城大学の内田と申します。私は精神科医なんですが、大学の中で統
合失調症の患者など、後で結局分かるわけですけども、それによる他学生への暴力とか、ス
トーカー事件というのが何件かありました。そのような時に、他の学生も迷惑してるわけな
んですが、学生委員会で処分とか何か考えなければならないですね。その場合に精神科医の
意見として、統合失調症だからこれを軽くすべきかどうか相談されることがあります。それ
に対して、先生はどのように考えられますか。
【伊豫】 ちょっとだけ似た事例は、以前も経験したことあります。まずストーカーなどとい
う問題行動は、僕は問題行動として最初に取り上げるべきだろうと考えております。次に統
合失調症であるという診断がついた時点で、これは病気に基づく行動であるということを、
他の先生にも理解してもらう必要があります。患者さん本人には、治療を受けること、そう
いった問題行動は今後起こさないことを明確に伝え、それで一定の期間をおいて復帰させる
ということになります。ですから、結果的に処分という形にはあまりさせない方向にいって
しまうと思います。
【内田(茨城大学)】 私も基本的には先生と同じ意見で、そのようにしたんですが、結局治
療を受けないとかですね、親もあまり理解しなくて、同じような暴力行為がまた起きてしま
う。その場合にはやはり被害者から警察に訴えるなり何なり、そのような方向でやっていく
しかないのではないかと思うんですが。
【伊豫】 そうですね。私は、最初問題行動として取り扱った方がいいと申し上げましたけれ
ども、暴力事件や暴力行為は、してはいけないことだということをしっかり認識していただ
くことが最初だと思います。やはり2回目したら、もうその場では適応できないと考えざる
を得ないと思います。ですからそれは、本人にも家族にもそう伝えてると思います。家族が
しっかり、薬も含めて管理するという形を取らせることもあります。
-60 -
【内田(茨城大学)】 殺すとかのメールが 1000 通も来たりとかですね、やっぱりその場合
には警察関与しかないのかということで、被害者の親が警察にも訴えたりしたんです。しか
し、結局それでも治療には上手く乗らなかったというような例がありました。
【伊豫】 ただ僕はもうそれは、精神保健福祉法に則って対処した方がいいと思います。場合
によっては措置だという位のことは親には理解してもらわないといけないと思います。なか
なか難しいです。
【司会(山田)】 先生、ありがとうございました。大変悩ましい問題で、我々も他人事では
ないなという風な気がしてる問題だと思います。精神医学等の問題につきましては、今後、
伊豫先生の方で更に病態の解明、治療について、御研究いただき、我々の方にもまた教えて
いただけたらと願っております。教育講演の3の方はここで終了にさせていただきたいと思
います。伊豫先生にもう一度拍手をお願いしたいと思います。伊豫先生、どうもありがとう
ございました。
-61 -
〔Ⅴ〕 緊
急
「中越地震での大学危機管理」
三宅
仁(長岡技術科学大学
報
告
体育・保健センター所長)
緊急報告
中越地震での大学危機管理
長岡技術科学大学 体育・保健センター所長 三 宅 仁
皆さんこんにちは。長尾先生、ご紹介ありがとうございます。スライドをお願いできます
でしょうか。<< 以下多数のスライドを上映 >> 今回緊急報告ということですが、今ご紹介
があったように、あまり緊急でもなくなったんですけれども、中越地震での大学危機管理と
いう題目でお話せよということですが、実際のところ大学の危機管理なんて、そういう立場
にありませんので、専門的な話はできないんですけれども。
<< スライド >> このバックにあるのは私の部屋です。ごちゃごちゃっとなっているんで
すけれども、直後に撮った写真です。ご存知の方はいつもと変わらないんじゃないのと言わ
れるんですけれど。(笑)実は3月のフィジカルヘルスフォーラムで同じような話をしたら、
要は人の不幸ほど面白いことはないということらしいんで、何度話しても面白がっていただ
ければ、と思うんです。
<< スライド >> これは地元の出版社が出した中越大震災の写真集です。<< スライド >>
これはインターネットから取ったものなんですけれど、地震の模様ですね。ここは新潟です
けれど、ここから同心円状に広がっていって、全国が揺れてますね。こんなに揺れたとは思
わなかったんです。九州まで揺れてますね。結構日本中を騒がせた地震。<< スライド >>
その後、これ今年の冬。まだ雪が降ります。元々この位当たり前なんですけれども、最近
ちょっと少なかったものですから、今年は豪雪ということで。<< スライド >> これは我々
の体育保健センターの建物です。2階建てです。実質的には1階部分だけですが。<< スラ
イド >> 春になると桜が咲いて、今年も桜は見事に咲いてくれました。こんな状況です。
<< スライド >> ごめんなさい、こういうお話をする前に、今回の地震に際しまして各大学、
近隣の新潟大学さん、それから上越教育大学さん始め、近隣の大学様、それから各センター、
いろんな、それから国民の皆様といいますか、たくさんの方から援助いただきました。お礼
申し上げたいと思います。今日のお話は、一応三部構成です。大体ご存知だと思うんですけ
れど、どんなものであったかということですね。それからこれは我々の話ではないんですけ
れど、全般的な医療活動はどうだったかという、ご関心があるかと思います。それから我々
の状況。危機管理と言えるかどうか分からないんですけれども、こんなもんだったというお
話をしたいと思います。
<< スライド >> 時間がないので、かなり端折ってお話しますけれども、ここに概略が書
いてあります。ちょっと見づらいんですが。これがインターネットにありますけど、震度7っ
ていうのが出発点で、今回の地震の特徴は震度5クラスの余震がずっと続いたんですね。
<< スライド >> もうちょっと分かりいいのはこっちですかね。これが新潟の地図ですけれど、
これは震源域です。我々の大学がこのAとあります、この辺りなんですね。かろうじて震源
-63 -
域から外れているという、ラッキーなところだったんです。これは 11 月8日までですけれ
ども、有感の余震が 713 回。こんな状況でとにかく初期の頃は数えることもできないくらい
揺れてということですね。何日も経って、ついこの前、一か月位前も震度4、5、震源地は
5位ですかね、そんな余震もありました。そんなんで結構揺れ続けたというのが特徴です。
<< スライド >> これもまとめで、文字だけで見づらいですけれども、たくさん被害が出た
ということですね。死者が 40 名。昨日ですか、ロンドンのテロで同じ様な数字になってい
るようですけれども、負傷者が 4000 名以上。あとはテロと違うのはやっぱり住宅の被害で
すね。こういうのも非常にたくさんあるということです。あと、医療的に注目されたのはト
リアージタグですね。これを公式に初めて使ったんだそうです。それから、私のプライベー
トなものもありますけど、200 枚ありますのですっ飛ばして見て頂きます。<< スライド >>
これお隣の家なんです。お隣の塀が全壊しました。<< スライド >> これは近所の小学校。
翌日です。<< スライド >> こんなふうに道が潰れて、<< スライド >> 土蔵が潰れて、<< ス
ライド >> ショッピングセンターに人が集まって、<< スライド >> それからお墓が潰れてと
いう状況です。<< スライド >> これは市内ですね。人通りが閑散として。<< スライド >>
これ市民会館です。<< スライド >> これ長岡駅ですね。
<< スライド --Photo.1>> それからセンターです。センターの中はこういうふうに引っく
り返っていまいた。二段重ねの棚っていうのは留めなくていいっていうふうに言われていた
んですけれど、実際留めなきゃ駄目だと。<< スライド >> 今ちらっと出ましたけど、本棚
は固定してありましたから倒れませんでした。だけど留めてない小さなものは皆引っ繰り
返っていますね。ああいうふうに二段重ねのやつはコロンと落ちて、下敷きっていうか、一
撃を受けたらもう確実に死んでると思います。<< スライド >> これはセンターの前。隣は
体育館なんですけれど、少し浮いたり、それから天井から何かいっぱい落ちたりという感じ
で。見かけはきれいです。<< スライド >> これ、事務局辺りですね。こういうように建物
と建物の間が壊れました。建物自体はそんなに被害がなかったんです。
Photo.1
-64 -
<< スライド --Photo.2>> 学生がこういうふうに自主的に避難して、テント建てたりですね。
<< スライド >> これ、私の部屋です。本箱は留めてありましたからきれいなんです。<< ス
ライド >> これは売店なんですけれど、本が崩れている。<< スライド >> これは中庭。
Photo.2
<< スライド -Photo.3>> 運動場はこういうふうに地割れをしています。20 センチ位でしょ
うか。<< スライド >> いわゆる液状化で砂が吹いているんですね。<< スライド >> こうい
うテントでボランティアが食料を配っていました。<< スライド >> 下水のマンホールなど
が皆壊れちゃったんですが。<< スライド >> これその後ですが、日にちが経つと余震でま
た壊れちゃったんですね。<< スライド >> これは休日にぐるっとまわったんですけれども、
自衛隊の人。<< スライド >> 有名な新幹線がコロンと寝っころがってるところです。<< ス
ライド >> 子供が行っている小学校もやっぱり被害が。<< スライド >> 全国からレスキュー
の人がたくさん来ていた。<< スライド >> これ、日赤なんですけれど、テレビ中継やって
Photo.3
-65 -
るところです。
<< スライド >> 学内に学生支援センター作りました。<< スライド >> これは秋だ、こん
な季節だっていう写真です。<< スライド >> 今のは飲料水が写ってたんです。体育館をで
すね、倉庫に貸し出したんです。そしたら春まで使えなくて。<< スライド >> 今のは子供
の写真、私の子供で、ちょうど誕生日だったんですけれど、印象的な誕生日でした。<< ス
ライド >> これ、あの、有名な小千谷。テレビでしょっちゅう出てた体育館ですね。この中
にたくさんの避難者の方がおられました。<< スライド >> これ、有名なお寺なんです。戊
辰戦争の時の、有名な慈眼寺というお寺なんですけれど、それも潰れてます。<< スライド
>> こういう土蔵がみんな潰れちゃったんですね。こんなところですね。時間があればゆっ
くりご説明するんですが。
<< スライド >> 直後にですね、これはある先生がこういう調査をされて、ちょっと見づ
らいですけれど、避難所の生活の度合いですね、そういうものを調査されたりという。ある
意味ここぞというチャンスで、こういう時期でもあったわけです。<< スライド >> それか
らこれは体育関係の広報誌から取ってきたんですが、市民体育館の屋根が潰れてるとかです
ね、プールが潰れたとか、それからスキー場があるんですけれども、これは壊滅状態、テニ
ス場も壊滅状態。<< スライド >> そこへ全国から多くの芸能人、それからアスリートって
いうんですかね、体育系の方がたくさん来られて、激励をしていったというんですけれど、
悪く言うと売名行為なんですね。ちょっと有り難迷惑みたいなところもあったりしたという
裏話もあるんです。でも、現地の人間にとっては非常に嬉しい。被災直後、我々の感情から
言うと、やっぱり励まして欲しい、笑いが欲しいですね。だから芸人さんがもっと来て欲し
かったですね。そんなのが、感想です。あんまり深刻でなくて、もっともっと笑いを。
<< スライド >> それからこれは、長岡市の医師会のホームページにある大規模地震発生
時初動マニュアルです。平成 10 年に作ったって書いてあるんですが、これを頭の片隅には
あったんですけれど、全部は覚えてませんでした。結局これを言いたいんですけれど、震度
5強以上でこういう緊急体制を立ち上げるんだと書いてあるんですけれど、今から考えると
5強というのはちょっとレベルが低すぎるっていうか、高すぎるっていうか、ちょっとオー
バーアクションだと。6位でないと意味ないのかなと。<< スライド >> これは医師会の会
報なんですけれど、先生方がいろいろ活躍されたっていう、そういうことが書いてあります。
ちょっと写真が汚いんですけれど、いろいろ示唆に富む文章を書いておられます。本当に開
業医の先生方も非常によくやっておられたということが分かりました。私もちょっと行って
みたんですけれど、やっぱり組織的な運動でないとだめですね。個人の参加というのは
ちょっと非効率ですね。<< スライド >> これは県の医師会の方の文章ですけれど、この図
を見ていただきたいのですが、患者数が直後はそんなに多くないですね。2日目位が多くて、
後はちょっと落ち着くということですね。直後はそんなに来ません。だから病院としては少
し余裕があるんですね。<< スライド >> これは全体の傾向ですけれど、横軸に日にちが書
いてあるわけなんですけれど、いろんなチームがたくさんやってきて、いろんな活動をして
いただきました。この辺切れ目なくというか、初期、たくさん来られて、たくさんの援助を
-66 -
いただきましたが、やはり、たくさん皆さん来られるんで、ちょっと混乱があったという、
その辺の反省が残っているようです。
<< スライド >> 今回余震が続いたということ、新潟という特性があって、一戸建ての家
が多くて、距離的にも隣の家と離れているとか、そんなことがあって、避難所に集まる人も
いるんですけれども、かなりの方が自宅の庭に止めてある車の中で過ごしました。そこでエ
コノミークラス症候群になると。こういうのはかなり前から分かっていて、テレビとかラジ
オ、マスコミを通じてかなり危険だということ言われたんですけれど、それでもそういう情
報が行き渡らなくて亡くなられた方、亡くなられてはないですけれど、ちょっと危なかった
という方がおられました。<< スライド >> これは報告で初めて知ったんですけれど、たこ
つぼ型心筋症というちょっと循環器では特殊な病気があります。要は強いストレスを受けた
後に発生する、特異な病態があるということですね。いわゆるたこつぼ型の造影像なんです
が、こういうものを示します。ただしこれは女性に多くて予後良好だということですね。こ
ういう特異のものがかなりの数、10 例以上今回出たというような報告がありました。
<< スライド >> それからもう一つ、今回初めて経験したことがあります。PTSDとい
うのは皆さんよくご存知で、こういうことがあるとすぐに心のケアとか何とか言うんです
ね。ですけれど、もう一つASD(急性ストレス障害)っていうのがあるんですね。これが
今回勉強になりました。これは簡単に言うと誰でもが陥る病態、病態とは言えない、生理的
な反応ですね。私も個人的には4日目の朝だったと思うんですけれど、目が覚めて立ち上が
る時にふっとですね、あ、何か悪い夢見てたなと、何か地震とか何かあったようだけれど、
悪い夢を見てた、良くなかったなんて、頭がふうっと、ふらふらっとしたんです。それも一
つの急性ストレス障害だったんだろうと思います。PTSDっていうのは、そういう事象が
あったかなり後、少なくとも2週間以降、実際には1か月以上ですが、またその症状が1か
月以上続くという、そういう定義がありますので。PTSDよりも直後はASDですが、こ
れもかなり混乱します。個人的に混乱します。多くの方がちょっと戸惑うんですね。
<< スライド >> 危機管理ということでお話せよということなんですけれど、長尾先生か
らご指摘あって、リスクマネジメントという言葉と、クライシスマネジメントという言葉が
あって、私の場合はクライシスマネジメントじゃないでしょうかということで、ここはクラ
イシスマネジメントと書いてあります。専門家の先生にお聞きしたんですけれど、どちらで
もよかろうというか、専門家でもまだはっきりした意見の統一がないと言っておられまし
た。一般的にはリスクマネジメントといった場合には、かなり予防的っていいますか、前もっ
て何かしておくこと。クライシスマネジメントというのは、起きた後どうするか、別の言葉
だとディザスターリカバリー、災害復旧とか、エマージェンシーレスポンス、危機対応とか
そういう言葉があるということです。新聞でも危機管理なんて言葉をよく使うようになって
います。これは阪神淡路大震災からちょうど 10 年ということになるからでしょう。<< スラ
イド >> こんな記事もありました。
いざどうするかっていうのは皆さんかなり関心あるようです。<< スライド >> そういう
一つの理想としてですね、これはご存知だと思うんですけれど、奈良女子大学の前の所長
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だった山本先生が奈良女子大学保健管理センター年報の第 15 巻に書かれてるものがありま
す。これは今回の地震の後で山本先生から直接送っていただいたんですけれども、要は阪神
淡路大震災を契機にシュミレーションしてみましたということが書いてあります。すごく詳
細に書いてあるんですけれど、ちょっと遠くから見づらいと思うんですけれど、ここにその
包帯やら何やら、薬品やら器具とかいっぱい書いてあるんですけれど、これだけ多分必要だ
ろうということです。しかし、たとえこれだけ器材があったとしてもですね、奈良女子大で
も同じだと思うんですけれど、医師が 1 人、看護師1人位で何が実際に処置できるかという
と、1 日に数十人が精一杯ですね。ここは想定だと 200 人だとか、400 人だとか、そんな想
定ですのでちょっと間に合わない。ですから、実際できることを想定しておかなければなら
ないと思うんですね。これが現実です。
<< スライド >> これはそのまま載せてありますので、この場限りということで見ていた
だきたいんですけれども、26 日の火曜日ですね。13 時です。火曜日の午前中に停電が復旧
して、やっとコンピュータが使えるようになったと、そういう状況ですね。まず安否確認を
してくださいというようなことですね。それから薬品の当面の管理は、皆さん自分のところ
でとあります。それからこれは私が書いたのですが、体育館は使えません、保健室は当分の
間応急処置のみやりますみたいなことが書いてあります。さらに、避難生活が長引いてくる
とどうのこうのと。長期戦に備えたことをもうすでに 3 日目、4 日目位で書いてあります。
それから、これも同じ火曜日ですね。副学長から留学生が不穏だと。不穏というのは、留学
生というのは地震を経験したことのない、元々地震のない国があるんですね。そこから来て
る学生というのは初めて地震を経験し、しかも我々だって、本当に一生に一度でも十分過ぎ
るこういう強い地震を経験して、すごく不安になって、それを何とかしろというような命令
が来て。それから学長が対策会議をやるとか、29 日の日に授業再開をするからどうのこう
の、実際は 1 週間後に再開しました。これは学長から職員、教員にですね、金曜日に、ちょ
うど地震から 1 週間後の金曜日に臨時の教授会をやるから、全員必ず出席してくださいと。
欠席の場合は理由を付し学長まで返信してください、こういうメールが来るんですね。それ
でちょっと学長もかなりあたふたしてるなということが分かりました。そんなのがありまし
た。
<< スライド >> これは皆さんASDで大変だっていうんで、教授会の日に急遽こういう
ものを用意して配ったんです。障害受容から新しいアイデンティティへっていう、こういう
文章を急遽探してきて皆さんに配りました。これはどういったものかというと、若い夫婦に
子供が生まれた、実は障害があった、そういう障害児を持った親が、それをどういうふうに
受容してそれを超えていくかという、それを段階的に書いた、死の受容と同じ様なものなん
ですけれども、精神的な打撃と麻痺の状態、否認、パニック、怒りと不当感、恨み何とかか
んとかとずっとあって、最後の 11 番目は新しいアイデンティティの誕生と、そういうのが
ありますよと。せめてですね、ここの 8 番のアパシー段階を越して、9 番の諦めから受容、
それから 10 番の新しい希望そしてユーモアと笑いの再発見、この辺まで皆さん行きましょ
うというような、こんなことを教授会で発言しました。
-68 -
<< スライド >> 問題はですね、危機管理の時はこういう指揮命令系統、これを予め決め
ておかないと混乱しますよということですね。
<< スライド >>1828 年にですね、今から 180 年前にも大きな地震があったという、そう
いうことで 200 年に1回の地震なんですね。逆にもうこれから 200 年は大きなのは来ない
から、こんな危機管理対策は要らないんじゃないかと、某執行部の一員が言ってるんで、そ
れも困るんです。<< スライド >> それから業務を継続するのかどうか、いろんな問題があ
ります。<< スライド >> さらにマスコミ対策もあるんですけれど、ちょっともう時間です
ので飛ばします。いよいよ、もう時間がなくなっちゃって……。
<< スライド >> これが大学全体の被害の図で、赤いところですね。それから教職員の、
これもかなりプライバシーにも関わるんですけれども、学長の自宅はどうだったか、各先生
がどうだとか、自宅が壊れたとか、そういうのがリストになっていますけど、ちょっと省略
します。<< スライド >> 学生は自宅とかアパートが壊れたとか、それで引越ししなきゃい
けなかったのが大体 29 人位。それからもう一つ留学生が怯えたりした。立派な学生は自分
たちでグループを作って、買出しに行ったりしてちゃんと自活してたというグループもあり
ますし、連絡が取れない学生はどうしたのかと思ったら、大使館員が飛んできて、その学生
を連れて帰ってですね、東京で生活してたとかですね、そんな立派な国もあります。<< ス
ライド >> いわゆる外傷はごく少数、実質的には 2 件、これもちょっと怪しくて、確認でき
たのは 1 件だけです。内科的には風邪を引いたとか、もう一つ食べ過ぎもある。たくさん救
援物資を頂いて、残すのはもったいないって食べ過ぎちゃってというのが。これは学生はそ
うはないんですけれど、避難所の、特にお年寄りがこれで、自衛隊が若い自衛官を基準に炊
き出しするもんだから、多過ぎるというんで、減らしてもらったら良くなったと、そんな話
もあります。
<< スライド >> 問題はやはり心の問題、メンタルヘルスの方で、5 件位あります。何かや
らなきゃいけないっていうんで、PTSDのアンケートをやりました。これはまた別のとこ
ろでしゃべりたいと思うんですけれど、一つはですね、こういうアンケートをするだけでも
PTSDを引き起こすということで、その辺を考えてやらなきゃいけないと思っています。
<< スライド >> 本来はですね、奥に行くほどゼロ、感じないというのが増えて当然なんで
すけれど、実は余震があって、その直後にやるとまたポーンと増えたりして、完全におさま
らないとこういう調査をやってもあんまり意味ないのかなというような気がしました。<<
スライド >> 大学としては随筆集みたいなの作って、いろんな皆さんの体験談を収集するこ
とによって、ある程度の自分の中での決着をつけるということをやったのですけれど、私自
身はまだ決着がついてないのです。
<< スライド >> 今回は時期的に幸運というか、寒くなる直前でした。夜外で過ごしても
過ごせるという状況でした。それから時刻が土曜日の夕方ということで、学生も少なかった
ということですね。さらに新潟県という県民性っていいますかね、そういうのもありました。
<< スライド >> もう一つ長岡市内に長岡工業高等専門学校という教育機関がありますけど、
こちらはかなり被害がありました。これはあまり表に出てないんですけれど、相当大変でし
-69 -
た。
<< スライド >> 危機管理の話では、個人的な危機管理と組織としての危機管理、この辺
をどうするのかというのが予め考えておかなければならないのかなという気がします。よく
言われますけど、3 日分のサバイバルができる食糧、水、懐中電灯、ラジオ位は、今すぐで
も用意しておいた方がいいと思います。それから、スマトラの地震だとか、福岡、それから
千葉、この関東もたくさんあります。さらに我々のところでは豪雪の後、集中豪雨もありま
した。去年も豪雨がありました。ということで、いろんなリスクがあります。テロもありま
す。だから相当大変だと。それからもう一つは二次災害ですね。これはやはり人的なもので
すので、これは何としてでも防がなきゃいけないのかなというのが今の思いです。これが最
後のスライドですけれど、今から一か月前から今月の 4 日までですけれど、最近1か月間の
日本の地震の記録です。こんなに揺れているんですよね、日本というのは。ここがちょうど
新潟、千葉はこの辺です。日本というのはこれだけの地震国だというのをご理解いただけれ
ばいいのかなと思います。すみません。長くなりました。終わります。
【司会(長尾)】 先生、広域避難域に指定されているわけですね。
【三宅】 実は指定されてなかったようです。我々のところに近くの住民が逃げてくるんじゃ
ないのですかって事務局に聞いたら、いや、来ないんだとの回答でした。近くに小学校があ
るんです。そこが指定されていて、我々の大学は実は指定されてないんですね。だから大学
としても何も準備してなかったというのが、恥ずかしいんですけれども、そういう状況で
す。一般的には大学は指定されていると思うんで、準備があると思うんです。
【司会(長尾)】 そうですか。千葉大学なんか広域指定域にされてますんで、周辺住民がど
んどん入って来るんで、かなり大変になるんじゃないかと思ってるんですね。あと安否のお
話がありましたけれども、安否確認の手段はどうやってなさるんですか。
【三宅】 あらゆる手段を講じてということ。一番簡単なのは電話。今学生はほとんど携帯
持ってますので。ただ携帯も繋がりにくい状況になりますけども、何とか。最終的に、さっ
きも言いましたように、どうしてもつかまらない学生がいて、留学生だったんですけれど、
結局東京にいたと、大使館で過ごしていたというようなことが分かったり、というようなこ
とで、基本的には安否確認できました。学長はそれに懲りて、今年の春からですね、アドバ
イザー教官制度というのを作りまして、学生 5 人に 1 人の教官を割り当てて、とにかく 5 人
分は責任持てと、何かあったらその 5 人だけは安否確認しようと、そんな体制を作ったりし
てましたけど。
【司会(長尾)】 それは土曜日だったから大学に人がいなかった、それはラッキーであった
というお話なんですが、もし今度ウイークデーで授業中であったとそれを想像されたらどう
-70 -
いうことが起こってたとお考えですか。
【三宅】 それを想像したら死者が二桁は行ってただろうと思います。だから本当に幸運だっ
たとしか言えないですね。
【司会(長尾)】 その死者っていうのはどういうところででる可能性がありますか。
【三宅】 先ほども写真があったんですけれど、二段重ねのこういう棚なんかバーンと落ちて
ますから、あれ直撃食らったら多分死んでると思いますね。それから火災も幸運にもなかっ
たんですけれども、火災、爆発、そういうのも必ずあると思うんですね。さらに有害ガスと
か有害物質。
【司会(長尾)】 じゃあもう一つ伺いますが、関東は特に逼迫してるということで、大学で
も防災危機管理センターっていうのを設置したんですね。うちではそのセンターの中枢をこ
この二階のある部屋を想定してるんですね。今まで 2 回防災訓練やって、今年度は実は来週
14 日にやる予定になってるんですね。何か起こったらまず皆ここに集まると。それで、集まっ
たところで、その中のメンバー、私も入ってるんですけれども、集まったところで最初に安
否確認を、授業中だと仮定するとですね、安否確認を行うということですね。今いろいろと
考えてて、学生の学生証をですね、ICカードでチェックして、いる者はとにかくICカー
ドを教員が持ってるカードリーダーみたいなもので読んでいこうと、そんなようなことを考
えてるんですね。試算すると大変なことになるからなかなか難しいんです。その場合いつも
問題になるのが、みんなパソコンとかカードリーダーが使えるという条件の下なんですね。
ところが実際となると停電があるだろうし、バッテリーは新たに自分たちで用意するらしい
んですけれども、大変な考えをしてるんですが、先生、もしそんな物あったとして、どうで
しょうか。
【三宅】 直後っていうのは無理だと思うんですよね。というかそれに頼るような体制をして
おくと駄目だと思うんですね、直後は。これは私の個人的な考えです。(注―本文中にも
あるようにリスクマネジメント ( 予防対策 ) とクライシスマネジメント(事後対策)の両方
の準備が必要と思われる。)
【司会(長尾)】 先生、その時はどちらにおいでになったんですか。震災があった時は。
【三宅】 私はちょっと個人的な話ですけれど、土曜日で医師会の講演会があって、それに出
かけて帰ってきた直後で、私は車から降りてまだ車庫の中にいたんです。家族は、妻と子供
は私の帰る直前に帰って来て上がったところだったんですね。最初の揺れで、高床式の車庫
なので家が潰れてくるんじゃないかと思ったんですけれど、何とか治まって。すぐに停電に
-71 -
なったんで、真っ暗の中、家族の安否確認して、ガラス割れてるんで、あと余震が来ると
思ったんで、とにかく動くなと、余震が収まるまで待て、と言って、とにかくじっとして。
収まったところで靴を履かせて、それから非常持ち出しっていうか、明かりとラジオと持ち
出して外へ出たとか、そんなようなところです。
【司会(長尾)】 大学に招集がかかるということは頭に。
【三宅】 それは全くなかったですね。先ほどの山本先生のシュミレーション、あれ前に読ん
でましたので、私のところは保健管理センターですから、救急センターではないんですね。
だから仕事が違うんです。我々は決して救急をやろうと思っては駄目ですよ。だってたった
2人で何人救えますかというかですね。大学に駆けつけるためにも、流言飛語の類ですけれ
ども、私の家から大学まで4キロあるんですが、その間の道が寸断されてるとかですね、そ
ういう話があって。実際5センチほどでしたけど、段差がありました。さらにはとても行け
ないんだという話もあって、とにかくその晩はじっとしてました。ラジオを聴いて、何かあ
るかなと思って聴いてたんですけれども、大学周辺の情報はありませんでした。ないという
のは、いいのかなと思って、逆に壊滅状況でまるで駄目なのかも知れないし。とにかくどう
しようもなかったですね、最初の夜は。翌日、車はどうかというんで自転車に乗って途中ま
で行ったんですけれど、同僚の家があって、聞いたら彼は行って来たと。そんなに問題なかっ
たという話を聞いて、じゃあ大丈夫かなという気になった……。
【司会(長尾)】 分かりました。まだ会場の皆さんもお聞きになりたいこと、本当はあると
思うんですけれども、これから 10 分間の休憩を取る予定になっておりますので、三宅先生
にもし何かご質問がございましたら、直接後ほどフロアでお聞きいただきたいと思います。
それでは三宅先生には、経験できない、経験したくない話なんですけれども、経験できない
ことをされて、それをPTSDにもならず、こうやって今日お話いただけましたことを、本
当にありがたかったと思います。本当に、先生、今日はどうもありがとうございました。
-72 -
〔Ⅵ〕 シンポジウム1
テーマ:「学生の身近な感染症を巡る諸問題」
司
会:野田
長尾
公俊(千葉大学大学院医学研究院病原分子制御学教授)
啓一(千葉大学総合安全衛生管理機構長)
シンポジスト
「最近の食中毒」
澤口 邦裕(千葉市保健所食品衛生課食品監視係)
「感染症関連検査」
相原 雅典(医療法人社団徳風会高根病院検査部長)
「ウイルス感染症」
猪狩 英俊(千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部講師)
総 合 討 論
シンポジウム1
最近の食中毒
千葉市保健所食品衛生課食品監視係 澤 口 邦 裕
ただいまご紹介いただきました千葉市保健所食品衛生課の澤口と申します。今日はです
ね、最近の食中毒について話をしてくださいと言われてまして、どんなことを話したらよい
のか私もよく分からなかったんですけども、取りあえず一般的な食中毒についてですね、今
から 20 分程度お話をしたいと思います。話す内容はですね、まず食中毒とは一体じゃあど
ういうものなのか、定義といいますかですね、そういったものを簡単に話をしまして、その
後に、じゃあ食中毒とはどういうものがあるんだろうかという、分類みたいなものを簡単に
お話して、最後に今の食中毒の発生の状況から、最近食中毒はこんなものが多いんだよとい
うような話をして、話を終わりたいなという風に考えておりますので、よろしくお願いした
いと思います。
まず食中毒の話をする前にですね、私がいる保健所食品衛生課の仕事内容というのはです
ね、皆さんが日々使っているレストランだとか食堂だとか、そういったところの監視をした
りですね、小学校とか中学校とか、あるいは高齢者の老人ホームみたいな施設とかの、給食
施設等のですね、日々監視を行っているんですけども、これは食品衛生法という法律に基づ
いて、我々保健所食品衛生課の職員は日々監視等を行っているんですけども、まずその食品
衛生法のですね、第 1 条というところに、このように食品衛生法を抜粋してきたんですけど
も、読み上げますと、第 1 条に食品衛生法の目的というのが示されております。「この法律
は食品の安全性の確保のために、公衆衛生の見地から必要な規制、その他の措置を講ずるこ
とにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図るこ
とを目的とする」というようなことで食品衛生法の定義が第 1 条に書かれております。じゃ
あ食品衛生法の中で食中毒という定義はどういうことなのかということなんですけれども、
残念ながら食品衛生法の中で明確にですね、食中毒とはこういったものですという定義はご
ざいません。ただその食品衛生法の目的の中の下線部分、「食品に起因する衛生上の危害の
発生」というところですね、こういったところを勘案しますと、食中毒というのは飲食に起
因する、例えばある微生物であれば微生物が食品について、それが増殖していって、それを
食べて、摂取して、それで衛生上の危害、健康被害ですけど、健康被害が起きてしまったと、
そういうことを食中毒という風に定義づけるのかなと私は思っております。
それで、じゃあ食中毒というのは一体どういうものがあるのかという話なんですけれど
も、食中毒の分類は大きく一般的に四つに分かれます。一つ目は上から細菌、ウイルスによ
る食中毒。次が自然毒による食中毒。それから化学物質による食中毒。上記以外のその他の
食中毒と、大きく四つに分かれるのかなと思いますけれども。
これを一つ一つ簡単にですね、説明いたしますと、細菌とは、細菌による食中毒というもの
-73 -
にはどういったものがあるのかなといったことなんですけど、ここにサルモネラとかブドウ
球菌とかボツリヌスとか腸炎ビブリオとか、腸管出血性大腸菌、皆さんよくご存知の O157
とかですけども、そういったようなものがずらずらと書かれております。こういう細菌に
よってですね、食品が汚染されてそれを摂取することによって健康被害が起きちゃう、とい
うのがこの細菌による食中毒でございます。
次がですね、ウイルスによる食中毒になります。これはノロウイルスとその他のウイルス
ということで、その他のウイルスにはA型肝炎といったウイルスも入るのかなと思いますけ
れども、このウイルスの食中毒というのはですね、平成 9 年の 5 月の食品衛生法の規則の改
正というものがございまして、その時にですね、今までは食中毒の病因物質として位置づけ
られていなかったものが、平成 9 年に初めてこのウイルス、ノロウイルスとその他のウイル
スということで、位置づけられております。これは後で説明いたしますけれども、一応こう
いうウイルスによる食中毒というものがあります。
次に自然毒による食中毒とは一体どういうものがあるかということですね。ここに大きく
植物性自然毒ということと、動物性自然毒というものに、大きく分かれます。植物性の自然
毒に、一番としてカビ毒と書いてありまして、かっこしてアフラトキシン等って書いてあり
ます。アフラトキシンというのは、ご存知の方も当然おられると思いますけれども、一般的
に落花生だとかというナッツ類のですね、カビによる毒素なんですけれども、発癌性がある
ということで、問題視されておりまして、海外から、中国とか色んな所から落花生とかが輸
入されてるときでもですね、国の機関としてはそういったアフラトキシンの検査等を実施し
て、そういったものが流通しないようにということで、検疫されたりしています。
それから次が毒茸による食中毒です。これはほとんど、レストランだとかそういったとこ
ろで毒茸が使われて何か食中毒が起きたってことは、私の経験上はないんですけど、たまた
ま自分の庭だとか、そういった所とか、もしくは茸をよく知っている方でもですね、本当に
毒茸とそうじゃない茸、食べれる茸と見てちょっと分からないようなものがあって、間違え
て食べてしまうとかですね、そういったことで毒茸を間違って、誤って食べてしまって、食
中毒が起きてしまうというもの。それから植物毒というのは、トリカブトということで、何
年か前に、昔そういう事件がありましたけれども、そういうような植物による毒による食中
毒ということと、後は動物性自然毒としましては、一番目のフグ毒、これはふぐを食べて中
毒を起こしてしまうとかですね、あとはシガテラ毒といって、魚のですねシガテラ毒によっ
てそういったような食中毒を呈してしまうとか。それから後は三番目に貝毒ということで、
下痢性貝毒と麻痺性貝毒とに大きく分かれるんですけれども、そういったような貝毒による
食中毒というものがあります。
それから次がですね、化学物質による食中毒ということで、一番目として有害性の金属、
それから、二がヒスタミンですね。アレルギー様の食中毒っていっても過言ではないと思い
ますけど、後は三番目として放射性汚染物ということで、これ 10 年以上、もっと前ですかね、
ソ連のチェルノブイリの放射能の事故というのが昔あったかと思いますけれども、例えばそ
ういうもので、色々なものが放射能で汚染されてそれを喫食することによって健康被害が起
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きてしまうといったような、そういうような食中毒というのもあるということです。以上一
応先ほどの四つの分類を簡単に説明させてもらいました。
その他の食中毒は一体何があるのかっていう話なんですけども、これは例えば実際にお腹
を壊したという事実はあるんだけれども、食あたりみたいな、事実はあるんだけれども、原
因が何か分からないというようなものも中にはあります。そういったものがその他の食中毒
に分類されるのかなと思っております。実際にですね、この食中毒、この分類の中で、じゃ
あ全国的に見てどういった食中毒が多いのかということなんですけども、細菌、ウイルスに
よる食中毒というのが 8 割から 9 割位、その位の比率であります。ですから食中毒というの
はほとんどが一番上に書いてあります細菌ウイルスによる食中毒というように言っても過言
ではないというようなことだけは認識していただきたいなあと思います。
それでは、一応この表なんですけども、これは病因物質別のですね、食中毒事件別発生状
況ということで、厚生労働省の出しております統計からちょっと抜粋してきたんですけれど
も、平成 9 年から平成 13 年まで、これを一位から三位のところを見ていただくと、腸炎ビ
ブリオ、サルモネラ属菌、それからカンピロバクターということで、この順位は入れ替わっ
ておりますけれども、9 年から 13 年までは全く変動がない。この三種類の微生物による食
中毒が一番多いんだよ、ということがお分かりだと思います。それがですね、平成 14 年か
らですね、この SRSV という、これは先ほどのウイルスによる食中毒になるわけですけど
もそういったものが第三位、それから 15 年も第三位、16 年度、昨年は、第二位という風に、
いきなり 14 年度からベスト 3 に入ってきたということがいえるかと思います。先ほどのこ
とで、一番最初平成 9 年にですね、食中毒の病因物質の中にウイルスが入りましたよ、とい
うことをお話したかと思うんですけど、その中で最初の平成 9 年の時に位置づけられたウイ
ルスの食中毒というのは、病因物質というのは、ここに書いてありますように小型球形ウイ
ルスというように、当初は読んでおりました。それが平成 15 年度にですね、改正されまして、
ノロウイルスとその他のウイルスということで、ここが少し名称の変更があったということ
なので、平成 15 年度以降は SRSV という文字は全てノロウイルスというようなことで、読
み替えていただきたいと思います。
まことに申し訳ありませんけども、皆さんのお手元の資料がちょっと間違っておりまし
て、もしもよろしければ直していただければなという風に思います。平成 9 年からちょっと
読み上げちゃいますので、もしも書き留める方はお願いします。平成 9 年は第一位が腸炎ビ
ブリオで、二位がサルモネラ属菌、これは変わりません。平成 10 年の第三位のところがで
すね、SRSV ではなくてカンピロバクターになります。それから平成 11 年は三つとも間違
えてたんですけれども、第一位がサルモネラ属菌、それから第二位が腸炎ビブリオ、第三位
カンピロバクター。それから 12 年になって、第二位のところが腸炎ビブリオではなくてカ
ンピロバクター、それから第三位が SRSV ではなくて腸炎ビブリオ。それと平成 13 年の第
一位の SRSV がカンピロバクターに。申し訳ありません、この場で訂正させていただきた
いと思います。
これだけ見るとですね、先ほど行ったように平成 9 年から、平成 9 年の 5 月にウイルスと
-75 -
いうものが病因物質に位置づけられたんですけども、それから本来であれば 10 年位からは、
じゃあもしも SRSV による、ウイルスによる食中毒が多ければ、ここで統計上出てきても
おかしくないのかなって、本来考えるわけですけども、第三位までしか書いてませんので、
この次ってのが分からないと思うんですけど、平成 9 年にウイルスが位置づけられてから、
次の年、平成 10 年の集計とか、平成 11 年、この二年間でこのノロウイルス、SRSV は第
五位に位置しております。平成 12 年、13 年の二年間は第四位ということになっておりま
す。14 年からはこういう、三位とか二位とかに食中毒の発生の状況が増えてきているとい
うことになります。
ではノロウイルスについて、どういったものなのかということを簡単にここでお話したい
と思います。ノロウイルスというのは、主な症状はここに書いてますように、嘔吐、腹痛、
下痢、発熱等の症状があります。これは潜伏期間。食品を摂取してから、食べてから発症す
るまでの時間、潜伏期間と言いますけど、それが大体 24 時間から 48 時間、丸一日から二日
かけて発症する方が多いという風に言われております。原因となる特に多い食品というのが
ありまして、それは牡蠣だとかシジミ等の二枚貝で、二枚貝の中腸腺にですね、そういった
ものが蓄積されて、それを生とか、ここに書いてありますように加熱不十分で食べてしまう
とそれが原因でノロウイルスの中毒になってしまうということになります。予防っていうよ
うにここに書かしてもらったんですけども、これ、生牡蠣は生食しないって、これちょっと
私の個人的な意見なんですけども、生牡蠣は絶対いけないってことではないんですけれど
も、牡蠣自体が持っているため、お店の方々にやっぱりお客さんの求めに応じて生牡蠣がな
いのかと言われると、出さざるを得ないと。その気持ちも当然我々も人間としては分かるん
ですけども、我々保健所の立場としてはですね、ウイルス自体は加熱してしまえば死滅して
しまうので、生牡蠣での提供はやめてくださいということを、いつも現場の方には言ってお
ります。まずだからこういう牡蠣の生食はやめると、避けるということと、もしも加熱して
食べるにしてもですね、十分加熱をするということで、ここに書いてますように中心温度が
85℃で 1 分以上加熱をすると、ノロウイルスとかそういうウイルスは死滅するよと言われて
おります。ちょっと違うのは一般的な細菌、先ほどの微生物のサルモネラとかカンピロバク
ターとか、そういったものというのはここの温度がですね、一般的には 75℃で 1 分以上加
熱すれば死滅してしまうっていうように言われてますので、若干ウイルスの方が高い温度
じゃないと死滅しないということになります。後は、まな板とか包丁といった調理器具を二
枚貝を調理した時にですね、そういったものについては、こういった洗浄が望ましい。これ
は国の方がですね、厚生労働省の方が、こういうノロウイルスの予防のために、どういった、
調理器具がどういう扱いをしたらいいのかっていうことで、こういう風な内容が示されてお
ります。ただ実際に 85℃で 1 分以上の加熱をまな板でできるかっていうと、まな板が入る
ようなもので煮沸消毒しなくちゃいけないという話になるので、ご自宅では多分、かなり難
しいのかなという風に思います。ただよく洗いましょう、後はよく加熱をしましょうという
ことに、やっぱり気をつけていただければいいのかなと思います。
これは食中毒を起こす細菌には、それぞれ上に書いてありますように、増殖しやすい条件
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がありますということで、一番温度だとか栄養分がなければ当然細菌は生きられませんし、
水分もある程度なきゃいけないということで、温度についてはですね、一般的な食中毒菌な
ので、全ての細菌に当てはまるかといったらそうではないですけど、一般的な食中毒を起こ
す細菌についてですね、30 ~ 40℃位の温度帯で一番活発に増殖が進むのが多いですよと。
だから 10℃以下で保存しましょうということなんですけど、ここにも書いてありますよう
に、細菌によっては中には 10℃以下で保存しても増殖する菌もあるんで、冷蔵庫に入って
るからいいんだよと、安全なんだよ、ということは言えないから、なるべく買ってきた物は
早目に調理して食べようということが、一番食中毒を予防するにはいいのかなって考えてお
ります。後はここに書いてあるような、栄養分だとか水分だとかによって、こういった増殖
しやすい条件が整ってしまうということなので、その辺を注意すればいいのかなっていう風
に思ってます。
ここに書いてある食中毒のメカニズムっていうことで、ちょっと書かせてもらったんです
けど、食事時はですね、例えば手指、自分の手とか指とか、調理器具を介して食材にうつっ
たりとかですね、その菌がここでこういう形で手指とか調理器具から相互汚染とか、二次汚
染で食材にうつって、それが十分加熱されないで、菌がついたまま放置されると、その時間
の経過によって菌はどんどん増殖しますよと。それを摂取する、食べることによって健康被
害が起きてしまうよ、ということになってしまうんですけども、一般的には家庭で、学生さ
んとかそういった方々で言えばですね、家で調理したらすぐ食べるということなので、基本
的にはそうすれば、十分加熱してすぐ食べれば菌の増殖する時間は少なくなるので、食中毒
が起こりづらいのではないかなと思います。ただ、余ってとっておいて冷蔵庫で保管して、
また次の日に食べるとか、そういうようなことになると、十分加熱をしないで食べると、やっ
ぱり菌は増殖していてこういうような食中毒が起こり得る、健康被害が起こりえる、という
ことになるかと思います。昔から言われている食中毒予防の三原則というのがありまして、
一番、二番、三番というように、まず菌をつけないことが一番ですよ。菌がもしついちゃっ
たとしても、菌を増やさないようにしなきゃいけませんよ。菌がついちゃった場合には、菌
を殺すんだよ、というようなことが食中毒の三原則といって、皆さんよくご存知だと思うん
ですけど、そういうようなことがいわれております。菌をつけないのは当然、当たり前の話
なんですけど、菌を増やさないのは調理してすぐに食べて、増殖する時間がないようにすぐ
に食べるのが一番いいのかなというように思います。菌を殺すというのは十分加熱する。先
ほど言ったように、細菌であれば中心温度 75℃、1 分以上とか、ウイルスであれば中心温度
が 85℃で 1 分以上加熱することによって、菌を殺すことができるということなので、十分
加熱をして食べるということが、食中毒の発生を防止する一番のポイントなのかなという風
に思います。先ほどただ、細菌とウイルスで、これはあくまで細菌のメカニズムなんですけ
ども、この二番の菌を増やさないというところが、細菌とウイルスの一番大きく違うところ
でして、ウイルスの場合にはですね、食品にもしもウイルスがついていたとしても、その中
で時間が経過して、温度帯が先ほど言った、細菌だと 30℃から 40℃台が一番増殖しやすい
温度帯ですよという話をしたと思うんですけど、その温度帯に置いておいたとしても、菌
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は、菌っていうかウイルスは増殖しません。ウイルスの場合にはそれを人間が、例えば食べ
て、腸管内に入って、初めてその中で悪さをしだすというものなので、ウイルス自体はです
ね、この二番については該当しないのかなという風に思います。だからウイルスの場合に
は、まず菌をつけないということになるかと思います。ノロウイルスの場合にはですね、個
数でいうと 10 の 2 乗、つまり 100 個ですよね、100 個位でも感染してしまうよと。それを
食べたことによって腸管内でウイルスが悪さをして、食中毒がおきてしまうということで。
これ、余談なんですけど、何かちょっと、どこかの本で、文献に書いてあったことなんで
すけども、例えばノロウイルスに感染された方の便、1グラムにですね、どの位の菌量がい
るのかなっていうことが書いてあったんですけども、ノロウイルスに感染した方の便の中に
1グラムについて、多い人で1億個以上いると言われております。だから例えば、トイレに
行ってトイレットペーパーで拭いても、トイレットペーパーを通じてですね、手の方に1億
以上あるということは、手に 100 個とか 200 個とかね、手にもしついた場合にはそれをそ
の手で食品を触った場合には、食品の方にそれが移行して、それを食べることによって食中
毒ということが起こり得るという話になりますので、十分に手洗いを励行するとかですね、
そういったものにやっぱり気をつけなきゃいけないのかなと思います。
一応ですね、以上がですね、私の最近の食中毒ということで、説明を終わらせていただき
たいと思います。ありがとうございました。
-78 -
シンポジウム1
感染症関連検査
医療法人社団徳風会 高根病院 検査部長 相 原 雅 典
過分なご紹介有り難うございました。それではただいまから私の話を始めさせていただき
ます。私に与えられたテーマは感染症検査と言うことでございまして、本日お話しいたしま
す話題としましては、取り敢えず学生さんがかかりやすい感染症を私なりに幾つか取り上げ
まして、そのテーマに関して現状の話題でありますとか、あるいは感染症の検査法でありま
すとか、検査法上の問題点という風なところを少し集約してみたいと考えております。
まず、学生のみなさんがかかりやすい感染症と致しましては、いろいろあると思うのです
が、一つは活動がアクティブな時期でございますから、性に関連した感染症、即ち性感染症
に罹患すると言う危険性が最も高い年齢だと思います。
また最近私もケニア共和国に1年間おりましたが、その間に私のところに何名か色んな大学
の学生さんがブラッと立ち寄られたことがありました。その経験から、途上国へかなり無防
備な状態で旅行されている方が多いと思いますので、そういった時に土着の強毒菌感染症に
罹患してしまうと言うケースがあるのではないかと思いました。その他には、色んなクラブ
活動などを通じて集団で生活するということがございますので、そこで空気感染を起こした
り、あるいは接触感染を起こしたりと言うことがあると思います。コレラの中で、性感染症
と、旅行中に起こる感染症というものについてお話ししたいと思います。
まず性感染症です。このスライドは厚生労働省の調査報告を野口先生が表にされたもので
すが、○がクラミジア感染、△が淋菌感染を、オープンが男性を、クローズが女性を表して
います。この表は人口 10 万人あたりの患者数を表したものですが、クラミジア感染がここ
数年で急激に増加してきていることを示しております。インターネットを検索しておりまし
たら、こんなものが出てきました。高校 3 年生の性交渉の経験率というものがグラフで表さ
れておりますが、この時期になると男女とも約 40% が経験する。大学生になりますと、4 年
生で約 70% の男女が経験すると言う統計が出ております。そのような中で、いろいろな感
染症に罹りやすいと言う説明があるわけですが、女性の場合昔は男性のセックスパートナー
が複数いないと言う状態であったわけですが、最近はそういったことがかなり多様化してき
ており、このサイトでは自由になってきたと表現されていますが、感染が玉突き状態で広
がっていると言う記載がされています。これは「臨床検査」と言う雑誌に発表された論文か
ら引用したものですが、特にクラミジア感染に焦点を絞ってお話しさせていただきますと、
年齢別にクラミジアに感染された方の感染源が何だったのかを男女別に分けて表したもの
で、高齢になってくるとどうしてもソープだけになってくるようですが、年齢が若くなるに
つれ多様化し、色んな感染源が出て参ります。大変おもしろいと思いましたのは、若い 10 台、
20 台の方々は、やはり男女とも素人との性交渉によって感染が起きる確率が極めて高いこ
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とが解るわけです。クラミジア感染を未婚の中絶希望の女性でどの位感染しているのかと言
うデータをお示ししますと、19 才以前のいわゆるティーンエイジャー世代の感染が最も高
く 24.4%、つまり 4 人に一人が感染していると言う状況で、年齢が上がってゆくと感染率は
下がってゆくことが見事に出ているわけでございます。
そこで感染に対する知識があるか無いかで感染率がどう変わってゆくのかと言う統計も出
ておりまして、未婚、既婚を問わず、知識がある者とない者で 2 倍以上の罹患率の違いが出
ると言う数字が出ております。やはりちょっとでも知識があれば、感染せずに済むと言うこ
とがはっきりしているわけです。
私はこの話をお受けした時に、司会の長尾先生から、「実はインターネットで検査試薬が
販売されていて、大変なことになっているよ」と言う話を伺いました。私もそれまでは全然
知らなかった訳ですが、実際にインターネットで調べるとこのスライドに示しましたような
サイトがございました。STD 研究所などというおどろおどろしい名前がつけられておりま
すが、チェッカーと言う試薬が販売されているという実態が解りました。高いもので 9000
円位です。幾つかの試薬がセットにされて販売されているものもあります。安いもので
3000 円位ということでございます。興味のある方もいらっしゃるかと思いますので、買い
方を少し紹介致します。まず、インターネットのホームページにアクセスし、チェッカーを
買いたい人はそこに申し込み欄がありますので申込を致します。そうしますと、自宅に品物
が秘密に届きます。届いたらその中に尿や膣分泌物を採取する容器が入っておりますので採
取し、それをまた指定の所に送るわけです。検体が送られて大体 5 ~ 7 日後位に、その検査
結果がインターネットで分かる仕組みです。このインターネット商売の売りは、性病に感染
したと言う人の羞恥心をうまく利用している点です。また検査が簡単である点も売りのよう
で、一週間以内に結果が解って、しかもそれがインターネットで、自分だけが知り得ると言
う点です。また幅広い検査対象も特徴であり、クラミジア、HIV、ヘルペス、淋菌、梅毒
と言った性感染症の他に、肝炎やアメーバ赤痢など合計 24 疾患も検査できますと示されて
います。同時にプライバシー対策は万全であり、試薬購入、商品発送、検査申込、結果の通
知、これらすべてを厳重に秘守すると言っています。それ以外にも、STD に関する知識を
そのサイトの中で教えたり、あるいは STD の専門医まで紹介したり、非常に懇切丁寧に対
応しているわけです。
それでは次に、性感染症の診断法としてどのような方法があるのかですが、このスライド
に一覧表としてお示しいたしました。クラミジアは非淋菌性尿道炎という疾患の病原菌でご
ざいますが、現在の需要状況を反映してか、検査法も多く出ており、色んな特徴ある方法が
使われています。一つ二つ紹介しますと、このスライドは PCR 法と EIA 法の成績を示した
ものです。EIA 法と言いますのは酵素抗体法と呼ばれる方法で、PCR 法と言うのは遺伝子
増幅法でございます。どちらの感度が良いのかと言えば、勿論 PCR 法の方が感度は良いわ
けで、PCR 法での陽性が 26、EIA 法では 23 となっています。一致率は 83% と 84% でござ
います。下の表は PCR 法より更に感度が良い LCR 法と PCR 法との成績比較でありまして、
LCR 法陽性が 42、PCR 法陽性が 35、これも一致率は 83% であります。このように方法によっ
-80 -
て随分感度が違うということが、今後問題となると思われます。そこで市販のキットがどの
位あるのか調べてみました。これがそのスライド(表 1)ですが、数が多く一々説明できま
せんが、クラミジアの診断
キットが最も多いと言うこ
表1 市販の性感染症診断用キット
とがお分かりいただけると
思います。キットの値段は
1回分で 1500 円から 2000
円位のものが多いようで
す。 判 定 時 間 も 大 体 30 分
から 2 時間位でできるよう
です。今お見せしているス
ライドはクラミジアを細胞
を使って培養し陽性になっ
たものでございます。スライド左は酵素抗体法で染めたもので細胞内に褐色の封入体が見ら
れ、この中に感染を起こすクラミジアがいっぱい詰まっているわけです。右側が蛍光抗体法
でやはり培養で細胞に感染させたものですが、細胞内にフローレッセンイソチオシアネート
FITC と言うバスクリーンの成分の一種が取り込まれて青リンゴ色に輝いている封入体が見
られます。実際に市販されているキットをお見せします。一番良く検査に使われているのが
イムノクロマトと呼ばれる方法で、一袋の中に一検体分の反応板が入っており、試薬類と共
に何検体分かが一箱のなかに梱包されて売られているわけです。今お示ししているスライド
はクラミジアのキットとは違いますが、TFB と言う試薬会社から提供して頂いたイムノク
ロマトのキットをお見せしています。この反応板に検体を落とし、次に試薬を落としますと、
中に入っている濾紙を伝わって検体と試薬が上昇し、陽性であればこのあたりの位置に赤い
バンドが出る反応です。またコントロールもついていて、この反応が正しく行われているの
かを見る精度管理用のバーがこのあたりにでるわけです。もし反応が出なければ陰性と言う
ことで、反応自体はごく簡単で、しかも短時間にできる精度の高い方法であることは間違い
ありません。
クラミジア、性感染症はこのくらいにして、次に海外旅行に伴う感染症についてご説明し
ます。今お示ししているスライドは日本人の海外旅行者の統計でございます。現在1年間で
大体 1600 万人が海外に旅行しているということでございます。2003 年にドンと落ちました
のは SARS の影響でございまして、1300 万人まで落ちたようですが、以降経年的に上昇し
ておりますので、何れは 2000 万人を突破することは間違いない訳です。その中で学生がど
の位いるのかを調べたのですが、正確な数字は掴めませんでした。とにかく日本人の海外旅
行はすごいことになっているわけです。その私たちの周辺の海外というのは、結構リスキー
なところが多くて、例えばこのスライドはコレラの侵淫地を示した世界地図ですが、実は日
本もその侵淫地の一つとなっています。それから肝炎の侵淫地、マラリアおよび HIV の侵
淫地と言う風に、周囲に安全なところは殆ど無い訳でございます。そう言う所に軽装で、ま
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た非常に軽い気分でポンと行ってしまうと、色んな感染症に遭うわけです。実は今お示しし
ておりますスライドは T 大学の学生が 1999 年にインドネシア、インド、ネパール方面に旅
行し、合計2グループ4名と個人3名の合計7名だったのですが、帰国後に下痢、腹痛等の
症状で T 大学病院を相次いで受診した事例です。症例 1、2 がカップルで、3、4 もカップル、
5、6、7 は個人の旅行でありました。このスライドは検査結果をお示ししたものですが、白
血球数、好中球数、好酸球数などです。白血球数につきましては 9800 個と言うのがちょっ
と高めで、好中球は 90% が一人でこれは増加しています。好酸球についてこの一人が少し
多い程度ですし、CRP については一人少し高い方がおられると言う程度で、検査値だけを
見るとそんなに異常なデータは出ておりません。次のスライドは、これらの方々から分離さ
れた病原体(表 2)ですが、症例1のインドに行かれた男性からクリプトスポリディウム、
ジアルジアランブリア、
横川吸虫、サルモネラタ
表2 外遊後消火器症状を呈した学生からの病原体
イフィ、つまり腸チフス
菌ですね、およびカンピ
ロバクターと5種類もの
病原体が検出されていま
す。カップルの女性から
も3種類検出されていま
す。聴くところに拠ると、
ガンジス川で水浴びをし
てきたようでして、あん
な所で日本人が水浴びす
ればこういうことになると言う風に理解すべきでしょう。チベット、ネパールでもこういう
病原体に感染して還ってくる。インドやネパールなどに行くと、やはり水に関連する病原体
に悩まされると言うのが必定であることが解るわけです。
今お示ししているスライドは今の症例から検出されたものではありませんが、たまたまク
リプトスポリディウムとジアルジアランブリアが一緒にいる検体を蛍光抗体法で染めた写真
がありましたのでお見せしています。クリプトスポリディウムは 4 ~ 5 μm位の大きさです
から赤血球と同じくらい、ジアルジアランブリアも 7 ~ 8 μm位の大きさですから、何れも
観察するには顕微鏡の最大倍率で見なければならないものでございます。次のスライドはラ
ンブル鞭毛虫の栄養型で、非常に愛らしい顔をしております。急性期の患者糞便から出てく
るものです。感染力のあるのは嚢子でして、こちらの方が人体に入りますと感染が成立する
訳でございます。次のスライドは、今回の症例とは関係ないのですが赤痢アメーバの栄養型
で、赤血球を食っているのが特徴的ですが、慢性化すると嚢子に変わります。次も症例とは
直接関係がありませんが、熱の原因となるマラリアで、熱帯熱マラリアの生殖母体と三日熱
マラリアですが、このようなマラリアに罹患して帰ってこられる方が沢山いるわけです。
下痢、腸炎に話を戻しますが、市販の診断用キットを調べてみましたら、このスライド(表
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3)のように沢山の製品
表3 下痢、腸炎診断用キット
がありました。時節柄、
出血性大腸菌に対する診
断キットが最も多いよう
ですが、その他ロタウイ
ルスとか、ディフィシー
ル菌と言うような菌の感
染を診断するためのキッ
トが沢山出ているわけで
す。そのうちの一つにラ
テックス試薬があります
が、これはラテックスと
言う支持体に抗体をくっ
つけた試薬と糞便を反応
させますと、陽性はこのスライドのように短時間で凝集が起きてくるわけです。こういった
診断法がどのように利用されているのか纏めたものがこのスライドですが、細菌や真菌感染
は塗抹標本の顕微鏡検査や培養同定を始め、免疫学的検査にしても遺伝子検査にしても非常
に進んでおり、よく活用されています。ウイルスに関しては、上の2つは難しいためどうし
ても免疫学的検査や遺伝子検査の方向に進んで行きます。リケッチアについては日本ではあ
まり症例がないと言うことであまり進んではおりません。原虫はやはり塗抹標本の検査が一
番進んでいて、その他には培養や免疫学的方法が使われることがあるという程度でございま
す。
ここで感染症検査の問題点に移らせて貰いますが、感染症に罹患した可能性がある時に、
どういう検査を何時やればよいのかと言うことは、実は結構難しい問題なんです。ここに病
気の時期と診断法の感度を河田先生の論文からお借りしてお示し致しますが、例えば初感染
で最初一番病状の酷い時期では抗原やウイルス、病原体自身などが非常によく検出できるわ
けです。しかし病原体は回復期にはいりますと殆ど検出されなくなります。逆に抗体検査は、
急性期には殆ど役に立ちませんが、回復期には非常に役に立つわけです。これが再発例です
と、急性期しか役に立たないものと、血清反応のように急性期も回復期も役に立つことにな
ります。このように、その感染が今どの様な時期にあるのか、あるいは同じ感染を何度か起
こしたことがあるのか、等を頭に入れ、診断法をうまく使わないと決してうまくはまらない
ことになります。
また診断法にはいろいろなものがあって、例えばこのスライドは淋菌とクラミジアの診断
法を挙げたものですが、例えばこのゴノザイムと言う方法は EIA を使った方法ですが、こ
の方法では他の方法に比べて偽陽性が多く出てしまうわけです。これに対し、ジーンプロー
ブ法や PCR 法を使うと偽陽性が殆ど出て参りません。クラミジア診断でも同じ傾向が認め
られ、このデータを見ればどんな方法でも良いということにはならないことをお分かりいた
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だけると思います。また検査法には感度と特異性があり、方法によって違うと言うことが
解っておりますが、例えばこのスライドはカンジダの感染症を診断するための方法を挙げた
ものです。この3つの方法は何れもマンナン抗原を標的とすることは同じですが、検出限界
がパストレックスでは解りませんが、ユニメディーでは 0.05ng、プラテリアでは 0.25mg
ですから、もう全然感度の違いがあるわけです。このように検査法によって感度や特異性が
違うということでございます。
最後に纏めに入らせていただきますが、学生さんが実際に感染する可能性の高い疾患で、
それを診断するための検査をするときにどういう問題点があるのかと言うことでございま
す。取り敢えず今回は性感染症と外遊時の強毒菌感染症に焦点を当ててお話させていただき
ました。性感染症に関しましては、どうしても性活動の非常にアクティブな時期でございま
すので、感染を起こすリスクは非常に高くなるわけですが、ただ予備知識をもう少し与えて
おけば感染を少しは防げると言うデータが出ている通りでございます。青少年を蝕んでいる
性感染症というものが、ただ単に本人を蝕むだけではなく母子感染や不妊症、あるいは子宮
癌の原因にもなると言うことさえ解っているわけですので、やはりこれは何とかしなければ
ならないと言う風に思うわけです。インターネットで手軽に診断薬が販売されていると言う
現状につきましては、要するにその検査法がどの程度の精度をもったものなのか、あるいは
どの程度保証された成績が出せる方法かが全く解らないわけですね。従いましてやはりこれ
には法的な規制が必要なのではないかと言う気がします。ただ、厚生労働省は昔から臨床検
査の中でも、検体検査は一旦患者から離れた検査であるからそれはもう医療ではないと言い
張るんです。医療ではないのに、片や診断に使われたり、片や治療に使われたりしているわ
けで、その辺に非常に大きい矛盾がありますし、実際にこういうものは医療ではないと野放
しで放置されると様々な問題が生じてくることはもう目に見えているわけです。ですから厚
生労働省が言うことには問題がありますが、取り敢えずこういう試薬などの販売は規制する
方向に向かわなければいけないのではないかと思います。
途上国に旅行する時に様々な危険な状態があるということを、常に知っておく必要がある
と思います。厚生労働省のホームページにも注意を喚起するものが載っていますが、しかし
学生というのは結構無防備で行動される方が多いので、その辺をもう少し何とかならないの
かと言うのが一つです。強毒菌感染症に罹患する方を見ておりますと、観光を越えて現地の
生活の中に入り込むというリスクを高めていることが多いと思います。先ほどのガンジス川
の沐浴と言うのもその一つだと思いますが、こういうことをすれば感染が起きてしまうと言
うことは明らかなわけですね。そしてそのような強毒菌感染症に罹ったときの診断というの
は、これは簡易検査では殆どできません。検査体制が確立された医療機関で、専門家の手で
きちんと行われなければ正しい検査結果は得られないと言うことでございます。こういった
点を含めて、一つの問題を提起しておきたいと思います。
これで私の話を終えさせて頂きます。ご静聴有り難うございました。
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シンポジウム1
ウイルス感染症
千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部 講師 猪 狩 英 俊
長尾先生、ご過分なご紹介をいただきありがとうございました。早速始めさせていただき
ます。私の担当はウイルス感染症ということで、主に麻疹とかムンプスとか水痘とか風疹、
そういったところを中心に話して行きたいと思っております。私ども院内感染対策を行って
いる都合上、大体年間行事というのがありますね。四月から七月は新採用の職員が入ってき
ますので、麻疹等の抗体検査を行っています。十月になるとインフルエンザのシーズンを目
の前にして、職員に対するインフルエンザワクチンの接種を行っています。これは普通の大
学の健康管理という意味でも四月から七月というのは新入学生が入ってくる時期で、このよ
うなものが気になる時期ですし、十月になればやはり学校も集団感染がおこりやすい場です
からインフルエンザ対策というのも必要になってきます。
これは鹿児島大学で麻疹の集団発生があった際に抗体検査をした結果ですけれども、麻
疹、風疹、水痘、ムンプス、陰性者が、結構な割合でいます。麻疹の陰性者が 25 パーセント、
風疹が 13 パーセント、水痘は 100 人に 1 人位が陰性でした。ムンプスに至っては 2 人に 1
人位が陰性でした。千葉大学附属病院の職員の抗体検査をした結果を示しします。やはり鹿
児島大学と同じ傾向で、麻疹、抗体陰性職員が 100 人中 26 人、4 人に 1 人が陰性という結
果になりました。
風疹、水痘、ムンプスも鹿児島大学と同種の傾向になりました。今日は麻疹と風疹に絞っ
て話を進めていきたいと思っております。
千葉大の麻疹抗体のデータを、更に詳しく調べますと、8 倍以上あれば陽性と言われてい
ますが、ちょっと間違えると 4 倍、ちょっと間違えると 16 倍に入ってくる集団ですから、
先ほど麻疹抗体陰性者 25 パーセント、と申し上げましたが、麻疹に無防備な人がもう少し
いると思われます。病院も、若い人世代の人が多くいて麻疹の集団発生を起こる素地を備え
た集団であるということが分かっていただけると思います。
小児科の定点の麻疹調査を示します。基本的に皆さんの直感と違いないと思いますが、麻
疹は子供の病気であるという考え方は、多分あたっていると思います。ところが重症度まで
考えますと 「 大人になってからはしかになると大変だ 」 というのもやっぱり当たっている
と思います。これは都立駒込病院の高山先生のデータですけども、今から 20 年前、1984 年
に麻疹で入院される方ほとんど子供でした。ところが 2000 年になると、麻疹で入院する人は、
圧倒的に成人が増えています。これはアメリカのデータですけども、20 歳以上で麻疹にな
ると7パーセントが肺炎を起こし、25 パーセントが入院しているというデータです。
麻疹にかかると種々の合併症をきたします。これは 1990 年から 2000 年の大阪のデータ
ですけども、肺炎を起こした人が 15 パーセント、腸炎、中耳炎といった合併症を起こして
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た人を含めますと 3 人に 1 人が合併症をおこしています。入院した人の比率ですけど、大人
になるにつれて入院する人が増えてます。合併症は 30 パーセントの人におこり、約半数が
肺炎です。比率としては少ないですけど脳炎を起こす人もいます。
この問題を解決するには、キーワードとしてワクチンの問題があると思います。WHO 麻
疹排除に向かう段階ということで、四つの段階に分けています。一番良いのは根絶という状
態で、天然痘が根絶したという話はよく聞かれると思いますけれども、日本の麻疹はまだ制
圧という段階です。「 麻疹は恒常的に発生しており、頻回、時に流行が起こる状況状態、麻
疹の患者の発生、死亡の減少を目指す時期であると 」 いうことで、実に一番初歩的な段階
です。感染症研究所の情報として今後の麻疹の現状についてこのような見解を出しておりま
す。患者数は明らかに減ってます。年齢的にも 2 歳以下が全報告数の半数を占める子供の病
気だと言っています。しかし、近年患者数増加の傾向にある年齢群は、定期接種年齢を超え
た分、特に成人麻疹の増加であり、特に 20 歳台前半での増加が目立つ。ですからみなさま
の学校の学生さんたちが、まさにこの最後のグループであると思います。そして、これらの
患者の多くは麻疹ワクチン未接種者であると言っています。アメリカのデータでは、1960
年代、ワクチンを開始してから患者数が減ってきました。日本では 1969 年に麻疹ワクチン
が導入されました。確かに死亡者数が減ってきました。届出患者数も減ってきましたけれど
も、なぜまだコントロールできないんでしょうか、ということなんです。ワクチンの接種状
況も悪くないです。ところが麻疹感受性患者数ですけども、圧倒的に 10 歳代から 20 歳代に
多いということです。感受性の患者、ワクチンを打って抗体価の上がっていない人、あるい
はまだ麻疹にかかってない人が感受性群ということになります。
麻疹ワクチンによる免疫は終生免疫ではないということを一つ覚えておいていただけたら
と思います。ワクチン普及以前は毎年春から夏にかけて流行していました。これが流行曲線
ですけども、春から夏にかけて増えて、秋口に減ってくるという傾向でした。ところが、ワ
クチンが普及してきた結果、今年の麻疹発症状況は、かなり少なくなっています。流行がな
くなり、当然麻疹の曝露機会が減ってきました。次第に麻疹免疫が低下していきます。赤ちゃ
んの時はワクチン接種によって、いったんは抗体を持っても、段々段々免疫が低下して来て
しまうわけです。どっかでもう一回ワクチン接種をするか、麻疹にかかれば、麻疹免疫を回
復するのですが、その機会さえなくなってしまったということです。
もう一つのキーワードとして、secondary vaccine failure があります。ワクチンを接種
して、一度は免疫を獲得しましたが、その後麻疹免疫が低下してきました、という状態です。
それに対してプライマリーの vaccine failure というものがあります。ワクチン接種しまし
たが免疫を獲得できないという人たちです。麻疹ワクチンの再接種が必要な時期になってい
るんじゃないかと思います。海外の麻疹の予防接種方法ですが、アメリカ、イギリス、フラ
ンス、では再接種が行われています。
次に風疹です。鹿児島大のデータでは、風疹抗体を持ってない人は 13 パーセントでした。
男女に分けてみますと、男性の方が女性よりも陰性の人が多くなっていますね。ここで問題
にしたいのは、先天性風疹症候群ということです。妊婦が妊娠初期に風疹に罹患すると、風
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疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、出生児が先天性風疹症候群になることがありま
す。個人防衛として未感染の女性は妊娠前にワクチンを接種する、集団的な防衛として小児
のワクチン接種率を上げ、風疹の流行そのものを抑制する必要があるといわれています。こ
れが先天性風疹症候群で、主な症状は目と心臓と耳にきます。眼の症状は大体妊娠 2 か月目
までの感染の時に多いようです。心疾患は 3 か月目、難聴は妊娠 5 か月目までの感染によっ
て発生しているようです。それに対して風疹ワクチンはどのように扱われてきたかっていう
と、1976 年に任意接種というのが始まりました。
次にインフルエンザ対策です。これはいい言葉ではありませんが、過剰死という言葉があ
ります。インフルエンザ流行の年に限ると、冬場に死ぬ人が増えると言われています。それ
を過剰死と言っております。それとワクチン接種量の関係です。日本では、1980 年代の後
半からワクチンの出荷量が減ってきて、壊滅的な状態になりました。その結果、インフルエ
ンザにかかる人が増えて、それが過剰死に繋がったって言うことを示す有名なデータなんで
す。ワクチンで、病気を予防する必要性を説得するグラフだと思っております。実際千葉大
でもインフルエンザのワクチンの接種を開始した結果、接種前、充分な抗体価を有した人は
少なかったのですが、ワクチン接種で抗体価を上げることが出来ました。
もう一つインフルエンザということで、話題は鳥インフルエンザの話だと思います。これ
はベトナムのハノイにあるバクマイ 病院です。病院の中に行くと鳥インフルエンザに感染
した患者のボードがあって、この時点で 39 人入院していました。現在の流行はベトナムと
カンボジアとタイで発生しております。6 月 10 日の時点で、100 人中 54 人が亡くなってい
ます。今、鳥インフルエンザが人に感染する可能性は少ないといわれています。しかし、今
後は、分かりません。人に効率よく感染する H5NI というインフルエンザができると大流
行になるのではないかということで、皆さんに啓蒙、啓発しているというところです。1997
年に香港で H5HI が出て、そろそろ人に流行するのではないかなと危惧を与えています。
感染を防ぐにはどうするか。ずっと僕はワクチンの話をしてきましたけれど、感染経路の
理解も大事です。SARS をきっかけにこういうことがよく言われるようになったと思います。
接触感染、飛沫感染、空気感染等、感染経路を考えましょうということです。空気感染の代
表は、麻疹と水痘、結核、天然痘です。飛沫感染の代表はインフルエンザです。これはプリ
ンセス・マーガレットと言って香港の SARS 患者の三分の一の入院を引き受けた病院です。
「 院内では必ずマスクを着用してください 」 と、あちこちにはり紙がしてあります。実際、
中に入ると患者さんは全てマスクをしています。ですからもし冬場にインフルエンザが流行
るようになったとすれば、病院は最近レスピラトリー・エチケットといって、マスクをつけ
たり、ハンカチで口もとを覆って下さいと言うことをやってますけど、大学でもそういうこ
と、必要になってくるのかも知れません。それからこれはやり過ぎなのかも知れませんけれ
ども、トリフージュセクションでは、トリアージュナースが発熱をチェックして、患者さん
を誘導する場所を変えています。もし、日本で SARS が流行していたら、皆さんの大学でも、
こういうことを実施しなければいけなかったかも知れませんけども、こういうこともあり得
るということです。
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次に HIV とエイズです。7 月 1 日から 5 日まで神戸で、第 7 回アジア太平洋地域エイズ
国際会議がありました。NHK でも報道されていましたので、きいた方もいると思います。
日本もこういった感じでエイズの患者さんが増えてきて、1 万人を超えているのは皆さんご
存知のことだと思います。国際的に見ると、約 4000 万人の患者さんがいて、三分の二が、
サハラ砂漠より南のアフリカ、それから 18 パーセントが東南アジアです。日本の HIV の
患者は、圧倒的に日本人の男性が多いのですが、20 代、30 代に限ると、男女の差がそれほ
どありません。それからエイズの治療薬です。薬を紹介することが目的ではありません。「
お金がいくらかかるのですか 」 ということです。一日の薬代は、約 6000 円です。一か月で
は 20 万円です。一年では 240 万円ということです。『年収 300 万円時代の生き方』という本
が出てますが、その 300 万円のうち、薬だけで 240 万円使ってしまうということです。個
人の負担にはならないのですけども、国民全体でやっぱり負担していかなくてはならないこ
の 240 万円の重みを考えたら、何とか HIV 問題を解決しなくてはいけないのではないかと
思っております。
そろそろまとめに行きたいと思います。ワクチンの必要性を強調しなければいけません。
ワクチンによって予防可能な疾患の抗体陰性者数が少なくないということです。国の政策に
訴えていくことも必要です。麻疹は一人の患者から 15 人に感染させているという現状があ
ります。このようなことも考えて健康管理当たっていただければと思います。どうもありが
とうございました。
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総 合 討 論
【司会(野田)】 それでは総合ディスカッション、総合討論に入らせて頂きます。まず、先
ほどの三人の先生の講演が終わったわけですけども、どなたでもいいですから、もし質問が
ある方は、どうぞマイクをお使いいただきたいんですが。
【米山(昭和大学)】 昭和大学の米山と申しますけど、猪狩先生、相原先生の両者にお聞き
したいんですけども、今ルミノール反応をもちいたケミルミ(CLIA)が流行ってますね。
EIA に 代 わ り ま し て、 蛍 光 の EIA を 色 々 の 会 社 で や っ て ま す。 例 え ば HBV の EIA と
CLIA 法とでスタンダードカーブがかなり違いますよね。False positive の患者さん、ある
いは positive の、印象が非常に私は強く感じます。じゃあ Vaccination の測定値でやるの
かということです。だからそのあたり、例えば、今風疹の話も出ましたけど、HI 法で測っ
ておられる。水痘も水痘だけ EIA で測っていらっしゃる。そう言う検査学的な問題と、そ
れからデータ処理の問題ですね。このあたりはどういう風にお考えなのかちょっとお聞きし
たいんですけども。
【猪狩】 これは多分コストの問題が大きく反映された結果だと思っています。水痘だけ
EIA でやっているってことは、EIA でないと駄目だってことがわかっているから EIA にや
むなくしているんですが、HI でない方がいいに決まってるんですけど、EIA と HI のコス
トが4倍違うんですね。具体的なことを言うと問題があるので言いませんが、HI の方が1
とすれば、EIA の方が4の値段をとられてしまうと言うことで、やむなくしているところ
があります。これは個人の人に大変失礼な言い方になってしまいますが、私は病院ですけれ
ど、院内全体の防御をあげるという意味では、この HI 法で何とかクリアーできるのではな
いかと思っています。ただ、私の風疹はどうなのよ、と言われたときに、ちょっと責任もて
ない数値なので8倍前後になった方にはその旨指導して行く必要があるかと思っておりま
す。
【司会(野田)】 よろしいでしょうか、今ので。
【米山(昭和大学)】 1984 年に昭和大学は風疹の大流行を起こしたもので、全員1年次寮生
活をやっているんですが、休校になってしまったんです。それから全員ですね、風疹の HI
法で風疹抗体を 20 年間ずっと追っているんですけど、ある時からもう抗体が増加しないよ
うになちゃったんですね。(『日本臨床』の免疫学(下))に書きましたけど、中学生が風疹
ワクチンを接種しないことも大きいですが、ワクチン接種によっても抗体ができないワクチ
ンフェーラーを起こすんですね。そうするとどうしても抗体が上がらないワクチンがある
と。今の風疹ワクチンの種類は 4 種類ありますけど、うまくつかない株が実は日本でもある
んだということをちょっと書いたんです。風疹においてはワクチンの問題と測定の問題があ
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ります。HI というのがずっと続けているんだったらしょうがないんですけれど、コスト面
を考えると私だったらやっぱりそろそろ EIA か他の方法でやった方がいいと思います。
【司会(野田)】 相原先生何かコメントはありますか?
【相原】 私の方からは何もありません。むしろ教えていただきまして有り難うございまし
た。HI と EIA では多分感度が 1000 倍以上違いますよね。ですからそう言った意味では米
山先生が仰った通り、それを知った上でどう使うかと言うことだと思います。本当にきちん
とした診断をしたいときにはやっぱり少々高くてもいい方法を使うと言うことになるでしょ
うし、マスの抗体価を調べようとしたときなんかは HI でもいいのかなと思います。その程
度のことしか私には解りません。すいません。
【司会(野田)】 ありがとうございました。他にどうぞ。
【岡田(北里大学)】 北里大学の岡田ですけども、食中毒についてお伺いします。私どもの
キャンパスで 4 月ごろから腸炎が発生し、その時に発見されたのはカンピロバクターなんで
すね。それで学生に聞くと、飲み屋に行って、生の、または半生の焼き鳥とか、そういうの
を食べてきちゃうんですね。実際に集団で出たことがあって、保健所にも報告してるんです
が、保健所の検査では集団感染というのははっきりしないということで、行政処分にはなり
ませんでした。地域の検査なんかですと鳥自体の 9 割位がカンピロに感染しているという状
況なので、元から断っていただかないと、われわれが学生に注意しても非常に難しいという
状況です。その辺り、行政的にどうなのかなというのが第一点です。もう一点は同じような
ノロウイルスについてです。ノロウイルスは冬の腸にくる風邪だって昔言われていました
が、今のところ検査ができないのです。PCR は保険がききませんので、ルーチンでは検査
できないんです。もしルーチンできるようになるとかなり見つかると思うんですね。北里で
は大学が病院と一緒なものですから、学生なんかに出てくると非常に問題があるんで、今後
その辺の対策は非常に難しくなってくると思います。その辺お聞かせいただければと思うん
ですけど。
【司会(野田)】 澤口先生、よろしいでしょうかね。今のに関しましていかがですか。
【澤口】 最初のところは、何か学生さんがどっかの飲み屋さんに行って、焼き鳥を食べ
ちゃったということですよね。
【岡田(北里大学)】 鳥自体が実際には 9 割位がカンピロに汚染されていることは周知の事
実ですので、飲食店がやはり不十分な形で出していることになる。そこら辺で結局被害者に
なっているわけで、そういう状況というのがもう少し何とか改善できないだろうかというこ
-90 -
となんですが。
【澤口】 一般的に今焼き鳥屋さんという話をしていたんですけど 、 鶏肉自体には当然カン
ピロバクターがですね 、 付着しているとか当然ありえるわけで 、 無菌ではないわけですか
ら 。 保健所としてはですね 、 当然その飲食店で焼き鳥を焼くにしてもですね 、 今日ちょう
ど中心温度 75℃ 1 分以上という話をしたんですけど 、 十分加熱してくださいと言う以外に
は防ぐことはできないと思うんですけどね 。
【岡田(北里大学)】 それからノロウイルスに関しても、私どもの病院の病院長名で、2 年
前から冬は職員全員に牡蠣を食べるなというようなことが出てる位なんです。季節ですとフ
ライにしても中まで十分に火が通らないこともある。去年の冬の報道でも、日曜診療やって
る施設が 40 人くらいそういう患者さんが来たという話もある位です。それだけ多いわけで
すので、ノロウイルスに対して、今度どういう対策をしていったらいいのか……。
【司会(野田)】 大変難しい質問だと思いますが。
【澤口】 対策まではお答えできないんですけども 、 たまたま今年の 4 月から 3 か月位経つ
んですけど 、 千葉市内で今のところ食中毒事件というのは 1 件だけでして 、 4 月に起こった
のはたまたま病因物質がノロウイルスによる食中毒事件でですね 、 原因食品は何かという
とですね 、 シジミの醤油漬け 、 という台湾料理になるんですかね 、 色々と 、 今色々なもの
を海外から輸入されたりとかですね 、 食文化もどんどん昔みたいなものだけではなくてで
すね 、 昔だったら海外 、 外国に行ってでなければ食べられないものも 、 今は日本のどこで
も食べられるような時代になってますので 、 調理方法も色々あるわけでして 、 先ほどのシ
ジミの醤油漬けもですね 、 結局は半生状態なんですね 。 一応は加熱はしてあるんですけど 、
お湯の中で口が開いた状態で調理を止めてしまうような 、 そういうような調理法みたいな
んですけど 。 保健所の方は実際に検査をやっている部署ではありませんで 、 千葉市の場合
はですね 、 検査は千葉市環境保健研究所という研究所で全部食中毒の疑いがあった場合に
調査するんですけど 、 たまたま同じ食中毒の患者さんのですね 、 食べたものと同じものが
ありまして 、 検査のところで見せてもらったところですね 、 火が通ってると中腸腺が茶色っ
ぽく色が変化してあったんですけども 、 それがそうじゃないと火が不十分だとですね 、 火
がまわってないと色が真っ黒なままの状態 、 生の状態というんですかね 、 そういう状態が
分かったので 、 そういう調理方法をしっかりするしかですね 、 防御することはできないの
かなと 、 再認識したんですけども 。 だから対策と言われても法律の中でこうしなさい 、 生
食は駄目だっていう風に規制するのは難しいんでしょうか。だから例えば腸炎ビブリオなん
かでも 、 日本の文化で生を食べるっていう食文化があるわけで 、 そういったものを規制し
ないと 、 あとレバ刺しみたいなものもですね 、 この中でも大好きですっていう方がもしか
したらおられるかも知れないんですけど 、 そういったものも規制しないと 、 法律でこうい
-91 -
うものは生で提供してはいけませんといった 、 そういう基準を作らない限り防御すること
は難しいのかなと思いますけど 。
【司会(野田)】 ありがとうございました。他にどなたかありましたらどうぞ。
【齊藤(慶應義塾大学)】 慶應義塾大学の齊藤と申します。食中毒に関してですが、学生の
文化祭に関してですが食中毒が起こることをとても心配しています。保健所としては今どう
いった対策を考えていらっしゃるのでしょうか。
【澤口】 文化祭はですね、対策というものは、千葉市では、形式的っていうとちょっと怒ら
れちゃうかも知れませんけど、模擬店、一般的に町内会のものとかですね、そういうものに
ついては、模擬店という形で、うちの方では扱っていまして、模擬店の開催届けというもの
を、やる時にですね、どういう食品を取り扱うのかとかですね、それから焼きそばをやりま
すといったら、焼きそばをやるためにはどういう食材、焼きそばだとかお肉だとかキャベツ
だとか、そういった食材をどこから仕入れますかだとか、そういうものを書くものがありま
して、そういったものを、一応何かあった時に把握、すぐに調査できるような形をとってい
るということと、後は調理に従事される方とかそういったものには、検便の実施を促してい
て、模擬店の開催届出のところに別添としてちょっと調理従事者の方の検便の実施表を添付
してもらうような形をとっている、そういうものしか対策としてはとっていないんですけ
ど。
【齊藤(慶應義塾大学)】 どれだけ実施されているかということをご存知なんでしょうか。
例えば 100 店やっていて、何パーセントが検査をやっているということは、ご存知なんでしょ
うか。
【司会(長尾)】 それは私も把握しておりません。今お話いただきましたように、大学とし
て何かやらなくちゃいけないということで、一応模擬店を出す前に、学生に食材一覧を出さ
せるんですね。それを見たって正直分からないです。タコとかイカとかたくさん出してくる
んですけど、その食材をチェックしろといってもリストだけですから分かりません。意識を
高めるだけにしております。あと他にやっていますことは、手洗いの講習会ですね。最初は
私どもにおります外科のドクターが手術をする前の手洗いの講習をやっていたんですね。そ
れはナンセンスで、とにかく流水で一生懸命やるんだよということだけを注意して教えても
らうようにしました。話はそれましたが具体的な把握は全然しておりませんし、こんなこと
でお茶を濁しているのが現状です。あと、保健所の人にむしろ聞きたいのは、便の集団検査
をまだやってるんですけども、寄生虫をやってるんですか?便培養ですか?。
【澤口】 食品衛生の観点から言うとですね、O157 についてだけ検便を実施してもらってる
-92 -
んですよ。病原大腸菌ですね。
【司会(長尾)】 こんな程度です。私が把握してるのは。
【齊藤(慶應義塾大学)】 もし食中毒事件が起こりますとニュースになりますし、安全管理
をやっている保健管理センターにも責任があるといったことが言われてくると思います。今
のところないように思いますけど十分注意しなければならないと思います。慶応の学生寮に
いる何人かの学生が A 大学の学生と交流会で、A 大学で食事した後間もなくして食中毒様
の症状出まして、当初 A 大学での食事が悪かったといわれていたのですがそれを保健所の
方でしっかり調べたら、A 大学の方は全く何でもなくて、その前に寮で鳥ワサを食べてま
して、カンピロバクターだったという事がありまして。何だ、自分の方が悪かったんだって
ことになりましたけど、そういうことも往々にしてありますので、学生に対する食事につい
ての教育と、常識を教えていくのが、一番の課題だと思うのですけど、それの機会がないの
が現況だと思っています。
【司会(長尾)】 ちょっと追加させていただきます。千葉大学では、昨年度食中毒事件が 3
件ありました。2 件がカンピロです。1 件がノロなんですね。先ほど澤口先生がおっしゃっ
た通りで。2 件のうちの 1 件は 3 大学合同の合宿で起こりまして、バーベキューでの競争で
すね、速く肉を食うという競争で、それで生煮えの肉を食ったというわけです。ただカンピ
ロバクターの場合、一つ心配なのは、発症が遅いですよね。それから、中毒を起こして 10
日位経ってから、ギランバレーみたいなことです。神経の合併症がでることがあるんですね。
それがもう一つの心配だったことです。二つとも一応 2 週間以内に学生に何かあったら届け
出なさいという風にやりました。つまりギランバレーといって上行性の麻痺で神経がきかな
くなちゃうような合併症その注意だけはいたしました。あと部活のことです。一つは非常に
乱暴な部活で、もう一つは非常にソフィスティケートな部活でした。上野のきれいな料理屋
で打ち上げをやったんですね。芸大とうちで。管弦楽団だったんですが、ちゃんと調理した
いいものを食べてノロウイルスにかかったんですね。だから教育といっても難しいと思いま
す。ただ基本は確かに教えなくてはいけないと思います。
【司会(野田)】 今の基本を教えなきゃいけないというのは、私も同感です。やはり入学式
の時に大学生活のオリエンテーションなどをしますけども、こういった食中毒に関するもの
もしなければならないかも知れませんね。実際に私は医学部のほうにおりますけど、こちら
のキャンパスに来まして、「 生命科学 」 などの講義をします。基本的には、細菌などの、目
に見えない生物の話をするんですが、食中毒のこともひっくるめて、O157 の話とか、色ん
な話をすると非常によく彼らは食いついてくるんですね。特に大学に入って、一人で生活を
始めて、時々は自分で食事を作る学生にはどういった対処をするかという話をすると非常に
喜んでくれまして、是非今年はそういう風にしますという嬉しい反応が返ってくるんです。
-93 -
やはり彼らは無防備と言いますけど、そういったものに対する知識、そういったものに接す
るチャンスがなかっただけだと思うんですね。ですから、そういったものを提供すると、そ
ういったことを知りたかったんだと言ってくれますね。それからもう一つ、澤口先生の話し
で、あれはものすごく正しいことで、食中毒の予防、対策というのは、菌をつけないことが
最初のステップで、二つ目は菌を増やさないんだと、三つ目は菌を殺すということがありま
す。これは疑いもなく正しいことです。ただですね、これだけを鵜呑みにしていても駄目だ
という事があるんだということを知っておかなきゃいけないんですね。例えば細菌性食中毒
というのは、大きく分けますと感染型の食中毒と、毒素型の食中毒と二つに分かれるのはご
存知の通りですよね。感染型の食中毒は、菌が直接私たちの口の中に入ってきて病気を起こ
すものですから、菌を殺してしまうっていう三つ目のステップはこれは非常に大切なことな
んですが、一方、毒素型の食中毒では、例えば皆さんご存知のように、黄色ブドウ球菌が食
品を汚染した時に、食品の中で黄色ブドウ球菌が増えますと、耐熱性のエンテロトキシンと
いうのを産生しますよね。これを加熱をして、食品の中には黄色ブドウ球菌を全くいない状
態にしても、そこで作られたエンテロトキシンという毒素は、活性を保っておりまして、そ
れを摂取しますと食中毒になってしまいます。ですから学生さんには黄色ブドウ球菌に汚染
された食品は、煮ても焼いても食えませんよと、いう話をよくするんです。このように細菌
性の食中毒でも、細菌がいなくても起こる場合がある。細菌を殺してしまっても既でにそこ
に産生されてる毒素によって起こる場合があるということは、意外と見過ごされやすいんで
すね。そういたことも教育していく必要があろうかと思います。それから相原先生のお話を
聞いて私も非常に感銘を受けたんですが、例えば途上国への無防備な旅行が増えているとの
事。学生さんも、特に医学部の学生さんも、夏休みになりますと発展途上国に行く方がおり
ます。その時には、私どもも何か情報を与えなきゃいけないというので、一つは皆さんよく
知っている、生水には注意してくださいという類の話はするんです。しかし 、 ある時に、こ
ういった事件があったんです。生水は最後まで注意して飲まなかったのに最終的には成田の
検疫で引っかかったんです。コレラでしたね。話をよく聞いてみますと、生水は飲まなかっ
たのに、ジュースに入っていた氷をついカリカリ齧って食べちゃったというのです。どうも
その氷は普通の生水から作った氷だったらしいのです。細菌は凍らしても、死なないという
ことなんかも、やっぱり教育しなきゃいけないなと思っております。今相原先生のお話で感
銘を受けたのは、もう一つ、発展途上国に行って土着の病原菌に感染する場合があるので注
意しなさいよという事です。まさにその通りですね。皆さんが大学で学生さんたちに指導す
る場合はですね、発展途上国に限らない方が良いです。アメリカ合衆国に行っても起こる場
合があるんです。相原先生は、観光を超えて生活に入っていく場合とおっしゃってました。
それはまさに正しいんですね。例えばアメリカ合衆国に行って普通の大都市を観光してる分
には何の心配もありません。でも今時々テレビのコマーシャルで、アメリカの砂漠などに
入って行って、何かスポーツドリンクを美味そうに飲んでいると、つい私もああいう風にし
たいという人が時々出てくるんですね。ところがこういったアメリカの砂漠のある所では、
ある種の黴がいまして、これは日本にいない黴なんですが、それに感染しまうと大変重篤に
-94 -
なってしまいます。それに感染した私どもの大学の教授も実際におられます。それは観光
じゃなくて、現地にある調査に行ったんですね、砂漠に。そういったことなんかもあります
ので、決して発展途上国だけではなくて、先進国でもそういったことがあるということを
知っておいていただきたいと思います。
実はですね、長尾先生はもうご存知だと思いますけど、私は、千葉大学と日本細菌学会の
共催ということで、全国の子供たちに無料の出張講演をしています。具体的には食中毒の話
なんかをするんですけども、こういった細菌の話なんかをさせていただいております。小学
校 1 年生から高校 3 年生までを対象にしています。これは無料の出張講演ですので、是非皆
さんのお近くに小学校や高校等がありましたら、お声をかけていただきたいと思います。詳
しいことはですね。日本細菌学会のホームページを開いていただきますと、そこに千葉大学
と日本細菌学会の共催の無料の出張講演というのが載っております。私は昨年で約 6000 名
を対象にやりまして、今年中に1万名を達成しようと思って頑張っておりま。無料ですので、
是非お声をかけていただければ幸いです。大学生になった時には、基本的な対処法をマス
ターしてる、といったことを目指して活動しておりますので、是非よろしくお願いします。
【司会(長尾)】 猪狩先生に最後に大学の職員を対象にしたウイルス抗体価のデータをお示
しいただきました。私どもは、医学部学生で入学した年に、抗体価を測っておりますけど、
先生にご指摘いただいた通りのデータです。本当に驚きますのは、麻疹の抗体価が非常に低
い。今日ここにおいでいただいている方たちも、日本の大学生がアメリカ、またはヨーロッ
パ、留学する時には、よく向こうから健康診断書を要求されることとおもいます。その健康
診断書の内容というのは、予防接種のデータなんですね。つまり麻疹はやってありますか、
何やってありますかというんですけども、向こうは MMR というのが基本なんですね。
MMR というのは、Measle つまりはしかと、それから Mumpus つまりおたふく、それか
ら Rubeola 風疹、この三種なんですね。外国でいう三種混合というのはそれなんですね。
日本の三種混合は DPT ですね。ジフテリア、破傷風、百日咳ですね。さっき猪狩先生が示
したように、日本人の中には麻疹の抗体価が非常に低い者がいて、集団感染を起こす可能性
があるということで、日本人は非常に危険視されてるんですね。ですから日本人の学生が向
こうに行く時は、ちゃんと抗体価をチェックして、もしマイナスだったらば必ず追加接種を
する必要があります。それが要求されてもやってないと、向こうに行って有無を言わさず
MMR という三種をやられちゃうんですね。MMR というのは、日本では危険だということ
で、平成 4 年だったか、一時 MMR の予防接種をやったんですが、その後中止されてるん
ですね。それ程ある意味危険だと判断されていたものが向こうでは当然になっている。
MMR はさほど危険とは思いませんが十分に考慮せねばならないでしょう。
【司会(野田)】 ありがとうございました。先生からいただいておる時間はかなり超過しま
したが、最後に何かご質問という方がいらっしゃいましたら、お一人……よろしいですか。
それでは本日はありがとうございました。講師の先生方もありがとうございました。
-95 -
〔Ⅶ〕 シンポジウム2
テーマ:「留学生への健康支援
司
会:岡田
葛
保健・看護分科会シンポジウム
―現状と課題―」
純(北里大学健康管理センター長)
輝子(東海大学保健管理センター、保健・看護分科会委員長)
シンポジスト
「身近な留学生相談活動」
白石 勝己(財団法人アジア学生文化協会理事)
「効果的な留学生支援をめざして ―異文化間心理学の視点から―」
新倉 涼子(千葉大学国際教育開発センター教授)
「大学における外国人留学生の健康状況」
田口 理恵(東京大学保健センター)
総 合 討 論
シンポジウム2
身近な留学生相談活動
財団法人アジア学生文化協会理事 白 石 勝 己
皆様こんにちは。今ご紹介いただきました、財団法人アジア学生文化協会というところで
勤めております白石と申します。今日は、私どもは留学生受け入れ業務、相談業務をやって
いるわけですが、保健関係の方のシンポジウムお話させていただくということで、どういう
ようなお話をさせていただこうかなと、色々考えたんですけども、まず 1983 年から留学生
10 万人計画というような計画が進められておりこの政策により、この間どのような経過を
経て、留学生数が増えていったかというようなことをざっとご紹介したいと思います。
それともう一つ。留学生に対する個別相談活動を私ども民間のレベルで、やってるわけで
すが、そういった時どういう相談があるのか、あるいは特徴や、特殊性について若干ご紹介
できたらと考えております。
まず最初に、私どもの協会自体の説明をさせていただければと思います。私どもアジア学
生文化協会は東京都の文京区に本部を置いており、留学生の宿舎、日本語教育、あるいは留
学生支援というような仕事をやっております。留学生相談はですね、2003 年度実績で、約
4000 件ほど受けております。専従のスタッフが 3 人。アルバイトが 1 人、パートの方が 1
人というような体制です。民間でこれだけの専従スタッフを揃えて、相談活動に当たってい
るというところは、あまりないんじゃないかなと思っております。資金的には日本財団の援
助を受けております。ほかに、情報発信もやっておりまして、ウエブサイトで日本留学案内
というサイトを出しております。ここでは大学院、大学学部、短大の、日本語と英語による
データベースを構築しまして、留学生向けの情報を発信しているということでございます。
このデータベースのデータを利用して出版活動もやっております。留学生のための大学院、
あるいは大学の学部入学案内、奨学金の案内等々の本を出しております。また『アジアの友』
という雑誌を編集をしています。活動の資金的支えとして、出稼ぎをしております。例えば
マレーシア政府の留学生の教育サポートです。マレーシア政府ルック・イースト・ポリシー
という政策をとっておりますが、今マレーシア留学生は日本に 2000 人いるわけです。その
うちの約 1000 人がこのマレーシア政府による、政府派遣留学生で、各国立大学、高専に派
遣されておりまして、多分皆様の大学、国立大学さんには色々お世話になっていると思いま
す。私は留学生のカウンセリングのセクションを担当しており、北は北海道、から、先週は
鹿児島大学、宮崎大学をずっと行脚しました。1 年に 3 ~ 4 地域を、回って歩いて学生のイ
ンタビューをして歩いています。同時に大学の留学生センター等で、インタビューをして、
留学生の状況についてお話を伺うというような活動をしております。その他に海外大学の設
立の F / S 等のお手伝いもさせていただいているというのが、私の現在の仕事です。
これは 2003 年の留学生数のデータですが、中国からの留学生が 66 パーセントで 7 万人、
-97 -
次は韓国が約 16000 人位
留学生の数(1)
で す ね。 次 は 台 湾 の
留学生数��万人の中身
4000 人 と。 こ の 3 か 国
2 0 03 年度留学生数
ベトナム
1%
インドネシア
1%
11 万 人 の 359 の 85 パ ー
セントを占めているとい
次に留学生数の伸びに
ついてお話させていただ
韓 国
14%
き た い と 思 い ま す。10
中 国
70,814
韓 国
15,871
台 湾
4,235
マレーシア
2,002
タイ
1,641
インドネシア
1,479
ベトナム
1,336
10%
タイ
マレーシア 1%
2%
台 湾
4%
うような状況です。
留学生
数
国 名
アメリカ
1% その他
中 国
66%
万 人 計 画 は 1983 年 か ら
アメリカ
1,310
その他
10,820
合 計
109,508
始まるわけですが、この
デ ー タ 1986 年 か ら デ ー
文部科学省資料より
図1
タ が 入 っ て お り ま す ね。
棒グラフの方は留・就学
留学生の数 (2)
生の新規入国者数です
ね。1 年に何人の留学生
-在留資格認定審査が留学生数に大きな影響を与えてきた-
留・就学生の新規入国者数と留学生数
棒グラフ 新規入国者数
が 入 っ た か、 就 学 生 が
40,000
人
入ったかというのがこち
30,000
折れ線グラフ 留学生数
95,550
●
留学
就学
35,000
9万人
78,812
8万人
●
25,000
らのグラフで、折れ線グ
7万人
64,011
●
20,000
6万人
52,405
ラフの方は右側の数字の
10万人
53,787
53,847
●
●
52,921
●
●
15,000
51,047
51,298
●
●
55,755
●
48,561
41,347
45,066
5万人
●
●
●
10,000
4万人
31,251
スケールになっておりま
●
5,000
22,154
3万人
25,643
●
●
~
~
0
1986
して、留学生数になって
1999 年 に は ま だ 5 万
年
法留
務学
省
生
10
留万
学人
生計
�画
�
�
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90
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可
1991
1992
1993
1994
1995
年
年
93
年
94
年
95
年
日
本
語
教
育
振
興
協
会
設
立
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務
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就
学
生
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会
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全申
体請
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�
%半
減
.
え た と 言 っ て も で す ね、
83
年
1990
90
実は 2003 年に 10 万人超
1989
89
5000 人だったわけです。
1988
88
ま す。2002 年 で は 9 万
1987
審
査
方
針
�
検
討
定
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
年
96
年
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年
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年
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入
国
在
留
審
査
関
係
年
票
文科省・法務省資料より作成
5000 人 で し か な か っ た
図2
と い う こ と な ん で す。
2000 年、2001 年、2002 年、2003 年の 4 年間で倍の留学生を受け入れるようになった、10
万人になったということです。92 年から 99 年まは留学生数が伸び悩んで、留学生 10 万人
計画は達成が不可能であるというようなことが言われた時期がありました。この留学生数の
伸び悩みについては、文科省の分析等々によりますと、アジアの経済危機とか、日本の経済
的な失速によって、留学生が来なくなったんだと、アジアからの留学生が来なくなったんだ
というような説明がなされておりました。
実は私はそれに対して、ずっと疑問に思っておりまして、実は留学生数というのはですね、
日本語学校生の入国者数、いわゆる就学生の数に非常に大きく影響されているということな
-98 -
んです。ですから日本語学校の学生が増えれば、数年後に留学生も増えると。1992 年に 5
万人まで増えていくラインというのはですね、実は 90 年 91 年に日本語学校の受入数によっ
てかなり押し上げているというような状況があったということです。2000 年からも急激に
増えていくんですが、これはなぜかというと、ビザの発給の関係、在留資格認定証明書の発
給数が留学生数に非常に大きな影響を与えてきたということです。留学生数が増える時はビ
ザの発給、在留資格の審査が非常に簡単になる。逆に停滞する時、あるいは減る時はビザの
審査が非常に厳しくなっている。このようななサイクルがあるわけです。2000 年は、法務省、
入管は、非常に大きな入管政策の変換をしまして、大学や日本語学校が入学許可を出せば、
何の審査もしないで、在留資格認定証明書を発給していくというような方針をとりました。
従って 2000 年から留学資格も就学資格も非常に大きな伸びを示しています。1 年間で発給が、
大体 2 万人前後で 、 つまり 2 万人から 3 万人が新規に入国するわけです。とすれば数年で
10 万人になるのは当たり前の話ですね。1 年間に留学、就学合わせて 4 万人程度入ってくる
わけですから、留学生数が急激に伸びるということです。しかし、一昨年位から、留学生の
問題がたくさん出てきまして、福岡の殺人事件とかも、色々起こったりしました。そこで入
管はまた再度ですね、2003 年の 11 月からビザの申請を非常に厳しくしました。その結果
2004 年度には日本語学校生の数が少し減っていくというような状況になりました。
これが、10 万人計画の全体的な留学生数の変化です。
ご自分のところの大学の学生数については皆さんご存知だと思うんですが、トップ 30 の
大学の留学生数の分布です。東大から始まりますが、早稲田、立命館と並んできます。東大
で 2000 人ですね。早稲田大学は、1600 人というような並び方になっております。ここで分
析したのは、中国、台湾、韓国の学生の割合と ASEAN の学生の割合、それ以外の学生の
割合ここで見て取れるのは、国立大学は中国、韓国、台湾の 3 か国の学生が大体 50 パーセ
ントから 60 パーセント位。ASEAN の学生さんが 10 パーセントから 20 パーセント台とい
うようなことが分かるかと思います。
私立の大学は、大体 90 パーセント以上が中国、韓国、台湾の学生さんで占められている。
このグラフの中には、学部か大学院かの分布については触れておりませんけども、国立大学
については大体研究留学生が主体で、大学院の学生さんが非常に多いということが特徴で
す。私立大学については、学部の学生が非常に多いというのが特徴になっています。これが
トップ 30 大学の留学生の内訳、全体の配分です。
私どもは 2003 年度で 4500 件の相談を受けておりますけど、半分が日本語の支援とか交
流活動、地域のボランティアの交流活動等で占められています。あとが勉学関係、在留関係、
ビザの関係です。それから生活関係、奨学金、といった相談を受け付けているわけです。最
近の、留学生関係で主なトピックをいくつが挙げさせていただきました。1 つめは政府の留
学生関連部門の縮少についてです。文科省でもですね、留学生課ななくなって、学生支援課
の中に吸収されてしまったんですね。以前は留学生課という部署があったんですけども、去
年なくなってしまいました。それからもう一つは、外務省もですね、実は人物交流課という
課が留学生の担当をしてたんですけども、文化交流部の人物交流室になってしまった。同じ
-99 -
様に、文科省の関係で留学生の仕事をやっていた、国際教育協会 (AIEJ)、内外学生センター、
国際学友会、が日本育英会と統合されて、日本学生支援機構というに統合されました。政府
の説明では統合されたことによって総合力が上がるといったようなことが言われてるんです
が、これはやっぱり留学生政策は 10 万人計画が達成され後、後退しているんじゃないかと
思わざるを得ないわけです。日本育英会は、非常に大きな組織であり、その中に留学生関係
の団体が吸収されていくと、ほとんど予算的にも誤差位の予算しかついていないという感覚
になってしまいますね。
健康関係の相談では、先ほど、長岡技科大の先生の、発表もございましたけれども、2 年
前は実は SARS の問題が大騒ぎでした。これは留学生の関係でも、非常に大きな問題でして、
SARS の問題が起こったのは 5 月位だったと思いましたが、10 月に新規来日する日本語学
校の学生がたくさんいたわけですね。台湾とか中国から新規来日で来る。そういう時に、さ
て、どうやって対応しましょうかといっ時に、実は国際交流の関係の方ではマニュアルが一
切ありませんでした。何が参照されたかというと、文科省から、小中学生の帰国子女に対し
てどうやって対応するかというようなマニュアルが出されたわけですね。それを一生懸命参
照しながら、来日する留学生にどうやって対応するかというようなことを一生懸命考えたと
いうようなことがこの時でした。ちょうど同じ様にですね、海外から受け入れる留学生と同
じ様に、こちらから派遣する留学生、日本人の派遣留学生についてもですね、夏休みに一時
帰国したりとかいう時に,色々問題になったと。どうやって対応したらいいかということを、
皆で協議したといったことがありました。
三番目は、先ほど冒頭で触れましたが、2000 年にビザの緩和策があったわけですが、そ
の後 2003 年 11 月からまた極度のビザの引き締めがありました。例えばどういうことがあ
るかというと、ビザの期間をちょっと忘れて、1 日遅れちゃったよというようなことが、ま
まあるかも知れない。これまでは、しょうがないね、次、気をつけてよと言って、特別受理
というのをされてきたんですけれども、今日本の入管は何やってるかというと、留学生でも
違反審査、オーバーステイと同じ審査に回してしまうんですね。留学生が泣いて電話をかけ
てくる。私、犯罪者になっちゃったと在留期限を 1 日オーバーしただけで、じゃあ違反審査
回ってくださいと言われ、10 本の指の指紋を取られて、顔写真撮られて、在留特別許可と
いうような 1 年のビザが出されるわけですね。そういうような状況が、今続いているという
ことです。
それから、留学生相談をやっていて、非常に感じる変化があります。先日 7 月の 3 日に横
浜パシフィコで 「 留学生のための留学相談フェア 」 というのがありまして、161 の全国の大
学がブースを並べて留学生に対する学校説明を行いました。参加した留学生は 1600 名以上
ですが、そこで私どもはブースを出して留学生相談に当たるわけなんですけども、ここ数年、
「 私は何を勉強しますか 」 「 私は誰ですか 」 というような相談が非常に多くなっています。
モラトリアム化というのでしょうか、留学生だったらはっきりした目的を持って日本に来る
という時代ではなくなっているのだなという風に思っております。
これは留学生に対する個別相談がどういうものがあるかという表です。留学、勉学、在留、
-100 -
保証人探し、宿舎、アルバイ
留学生に対する個別相談(3)
ト、リサイクル、交流支援、
留学生という存在と相談の範疇
日本語支援、生活一般、奨学
金、就職等々というような、
相談に対応してる。保険関係
では、生活一般の中に分類さ
地域住民
学生・青年
行政手続・健康保険・税金・年金
地域問題(ゴミ出し、騒音、自転車)
住居・家主との関係
アルバイト先の職場関係
事件・事故・災害
勉学適応・対人関係・孤独
健康・将来不安・就職
異性関係・誘惑・期待
れていて、この頃は国民健康
保険の適応についての相談が
何件かあります。大学を卒業
外登、ビザなど行政手続き・言語的バリア(日本語) ・情報不足
異文化適応・生活、食習慣の違い・マイノリティー・社会的ストレス、孤立
政治・宗教・民族、本国の親族関係・日本の母国集団・他
外国人
した後に留学のビザから帰国
準備のため 30 日、あるいは
留・就学生=資格により管理されている
90 日 の 短 期 ビ ザ に 変 え た 時
留学・就学=学校で勉強するために来日 他は目的のための付帯条件
ビザ=学校出席、財政証明、外登携帯、アルバイト許可、再入国許可
に、 国 民 健 康 保 険 を 切 ら れ
行動が制限的である=人権侵害を受けやすいという認識
ちゃうんですね。1 年以上の
図3
長期のビザがないと国民健康
保険が出せない。その場合に継続している診療が受けられなくなるというような相談が、寄
せられています。
次の表では留学生相談の範疇というのを考えてみました。もちろん留学生も学生、青年で
あってですね、勉強の問題、対人関係、健康の問題異性関係もかかえているでしょう。同時
に、地域住民としての対応も当然あるわけですね。行政手続、健康保険、年金、地域で、よ
く出るのはゴミの問題ですね。留学生はきちっと分別して出しててももえないゴミが出てる
と、あすこの留学生じゃない、といわれてゴミを漁られ、中を見られると ( いう ) 様なこと
があります。ここら辺の問題というのは地域住民として、留学生というよりも外国人が地域
に入ってきた時と同じ問題と思っております。外国人が日本で生活するときは、日本人とは
違って、色々な場面で制限されてくる。たとえば外国人登録は必ず持っていなくてはならな
い、携帯義務というのがあるんですね。日本人には身分証の携帯義務というのはありません
けど、外国人だと必ず外国人登録証を常に持っていないといけない。警察に聞かれた時に外
国人登録証を持っていないと外国人登録証不携帯という罪になってしまうというようなこと
があります。
行政手続きの他、言語的なバリアによる、情報的な不足、異文化適応の問題、食生活の違
い、孤立とかいうような、いわゆる外国人であるがゆえの特徴的な問題があるのですが、私
たちが常々、相談を受けながら感じるのは、外国人であるゆえに 「 資格 」 によって管理さ
れているということです。日本人がいわゆる憲法で保障されている人権の保障が、ある時は
外国人であるが故に非常に制限される場合もある。そのことを留学生と話す時、あるいは留
学生と面談する時には常に認識しておかなくちゃいけないんじゃないかなという風に感じて
おります。
たとえば留・就学というビザについては、学校で勉強するために来日しているということ
-101 -
で、他の行為は付帯条件であるということです。ビザについては学校に出席していることが
絶対的条件で、学校に通うことができるだけの経済的な基盤、経済的な裏づけがあるという
ことが、必要条件になってます。留学、あるいは就学で勉強するという資格で来てるんです
から、だからアルバイトをする時は資格外、資格の外の活動許可証を取らなければいけない。
この資格外活動の申請をする際には大学から副申書という証明書をもらわなければいけない
んですね。留学生は日本人と同じ様に、大学とは関係なく、自分たちでアルバイトすること
ができない。在留資格によって管理されている。そういう風な状況が実は留学生にはあると
いうことです。日本語学校生の場合、一時帰国するときは、学校から一時帰国の許可の書類
が必要とされています。ですから、学校から許可がないと一時帰国もできないというのが、
ある意味では留学生の立場であるということです。
このことについて大学でも 2 つの方向で考えてみました。在籍管理というのは、日本人学
生についても同じ様に、厳しいか緩いかということはあっても一応やってることです。大学
のマインドとしては、一応学生のプライバシーにはノータッチというのが、原則だというこ
とになっているわけです。ということはキャンパス内のサービスに、特化されているという
ことですね。教学関係、あるいは勉学のオリエンテーション、就職のサポートなど。キャン
パス外のプライバシーについては関わらないと。一方、留学生を受け入れる特殊性として、
キャンパス外の生活の周辺の部分、生活環境整備の部分、在留手続きの部分、そういうよう
な生活オリエンテーションの部分がどうしても必要になってくるのではないかと。ここのと
ころをどのように充実させていくかということがないと、これからの大学での留学生の受け
入れというのはなかなか難しいんじゃはないかなという風に思っています。入国管理行政で
は、外国人の受け入れ主体がどのように在留管理がちゃんとできるか、ということが、問題
とされるからです。そこで日本語学校に対して行われている入管当局の管理というのは、も
し 3 パーセント以上の不法残留者が出ると、学校に対するビザの審査が非常に厳しくなって、
そこの学校に対するビザがほとんど出なくなるというような管理を取っております。一部の
大学にもこのようなやり方が当てはめられてきているという状態です。さらに、例えば経済
状況ですね。これ、日本人の学生に、あなたたちの経済状況を見せなさいと言ったらもう大
騒ぎになります。あなたのお父さんの年収はいくらですかと聞いたら、これは大騒ぎになる
んですが、留学生は当たり前のように学校側から聞かれます。あなたはアルバイトでいくら
儲けているんですか、何時から何時までアルバイトやっていますかというのは、日本人の学
生には、これ、プライバシーの侵害になるんですが、留学生の場合は申告しないと、資格外
活動許可証も出してもらうことができないというような状況も、留学生と相談される時は、
認識していただけるとありがたいなという風に思います。
先ほど新潟の中越地震で私ども、留学生がどのような状況になったかということを調査に
参りました。私どもの発行している『アジアの友』という雑誌で、留学生にインタビューし
ました。長岡大学の中国の学生にもインタビューをしましたので、もしご興味ある方は申し
込んでいただければと思います。
ここで申し上げたいのは、顔の見える関係作りをと活動している長岡国際交流センターの
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センター長芳賀さんという方がいらっしゃるんですが、この方はお医者さんです。地震に
あった後留学生だけじゃなく、外国人のフォローをやったわけなんですが、どういう風に
やったか。先ほど緊急時、どのように連絡を取るかということがありましたが、彼はいわゆ
るバイク隊を作って、外国人一人一人のですね、お医者さんなんですねやっぱり、カルテを
作って、一人一人がどういうような行動を取っているか、どこに何人いるかというのをフォ
ローしていったわけです。こういうような、地元と密接な、関係の深い活動があって、ある
意味ではそれほど大きな混乱がなく過ぎたのかなという風に思っております。
以上で私の発表を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
-103 -
シンポジウム2
効果的な留学生支援をめざして
-異文化間心理学の視点から-
千葉大学国際教育開発センター 教授 新 倉 涼 子
千葉大学の新倉でございます。よろしくお願いいたします。今回留学生の支援ということ
で、こちらでお話をということで仰せつかりました。留学生の概要に関しては先ほどの白石
先生のお話を参考にしていただいて、私の方は留学生のメンタルヘルスの側面から少しお話
をさせていただければと思います。私自身が異文化間心理学という領域におるものですか
ら、留学生の心を中心に少しお話をさせていただきます。時間が短いので本当にかいつまん
だお話しかできないと思いますがお許しください。
私は、今国際教育開発センターというところにおるんですけども、先ほどの表にありまし
たように、少し千葉大学でも学生が増えておりまして、今 800 人強学生がおります。私は留
学生の指導相談という形で留学生とお付き合いしているんですけれども、そこの中で日々
色々な相談があります。私がここに来て一番ショックだったのは、日本人学生、あるいは日
本人との交流が非常に少ないっていうことだったんですね。そういうことから私の指導相談
部門の中で、留学生相談のみならず日本人とどうやって関わっていくのか、留学生が日本社
会の中でどうやって上手く適応して、日本人も留学生から色んなことを学んで、相互交流が
どうやってできるのか、相互に有意義な活動を行うにはどうしたらいいのかというところに
力点を置いてやって参りました。今日そこの中でのお話も踏まえてご紹介、ご説明をしたい
と思います。
私自身、それから千葉大学の基本的な方向として、留学生を受け入れて、留学生がやはり
日本社会の中で非常に心理的に安定しているっていうことがまず第一だと思うんですね。
色々なことで不安が高くなったり、イライラが募ったりというようなことなく、心理的に安
定して、そして日本人とも調和的に行動して、日本社会の中で調和的に行動できる、そうい
うスキルを身につけていく。そしてそういう行動を通して留学生自身が異文化への感受性で
すとか、異文化の中での対処能力を高めていくと、そういう目的プラス、もちろん留学生で
すので自分の勉学を貫徹するという初期の目的がありますので、学業を成就していくという
ことなんですけど、それと同時にやはり留学生が日本人学生と同じ様に自己成長をしてもら
いたいという風に願って、私たち日々留学生と接しております。やはり留学生というと、先
ほど白石先生のお話にもありましたけれども、何か海を渡って異国の地に来て色々なことを
知っているように私たち錯覚してしまいがちなんですけれども、やはり一つの文化から日本
という一つの文化に移動してきただけの段階では、ものの見方ですとか、考え方もやはり狭
い学生もおります。それからもっと色んなところで、色んなことを経験して非常に視野が広
い学生もおります。様々、留学生といっても非常に様々いるという風にお考えいただいて、
何か留学生がひとくくりになってしまうというような発想ではないという風にお考えくださ
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い。
そういう立場で留学生を見ていた時に、じゃあ私は留学生をどうやって、どのようにサ
ポートしていったらいいんだろうかと思います。そこでまず、私は今日レジュメを用意して
参りました。留学生が日本に来て、海を渡って違う文化に入ってくる。違う文化に入ってく
るとうのは、一体そこで何が起こるんだろうか、文化移動するというのは、そこで、心の中
でどういうことが起きるんだろうかということを簡単に説明をさせていただきます。留学生
自身の心を、行動を理解する上で文化移動、文化という側面が切り離せないので、そこのと
ころをご説明させていただきたいと思います。
そこで異文化接触で生じる心理的プロセスという一番目のところを見ていただきたいんで
すけれども、文化に関して、今さら何か釈迦に説法のようなことで失礼かとは思いますけれ
ども、私たちがやはり文化を考える時には、表に見えている、例えばお花であるとか、日本
文化っていうと例えばお茶であるとかっていう顕在的な文化ではなくて、私が行動していく
上でその背景にあるルールですとか、価値観ですとか、それから感情ですとか、そういうも
のを方向付けるものと理解してもらいたいんです。ですからオギャーと日本社会で生まれ
育ってゆけば、日本の価値観ですとか色んなルールですとか、そういうものを日本人として
自然と身につけてきてしまっているわけですね、ですのでそこで、人は育ちの中で文化の衣
をまとうっていう風に書きましたけれども、やはり私たちは日本人として日本の中でずっと
育ってきてる以上は、そこの価値観や感情までも、だからおかしいと感じることも、特にユー
モアのセンスもそうかも知れませんけれども、そういう色んな感情までも文化が支配してし
まうということなわけです。
留学生が自分の文化から日本の文化に入ってくると、一体それじゃ何が起きるのかってい
うことなんですけど、これは留学生のみならず私たちもそうで、私たちが例えば外国に行っ
て、自分の文化を移動した時に同じ様に起こることなんですけれども、自分の文化にいる時
は、先ほど申し上げましたように、生まれ育った文化の中でずっと暮らしていますから、他
の人たち、同じ文化の中で育った人たちとは、同じものの見方ができるわけです。そうする
とあまり、あ、同じものの見方をしているな、ということを意識して考えることがありませ
ん。もう無意識のうちに皆暗黙の了解として受け入れいてしまっているので、同じ行動をす
るのが当然のように私たちは考えています。じゃあ、どうして行動するんだろうっていった
時も、大体理由付けが同じなんですね。文化の枠が狭ければ、そんなに皆ばらばらに、同じ
行動をするのに違う理由でやってるってことはなくて、やっぱり皆同じような理由で、同じ
様な行動をするわけです。そういう社会の中で慣れ育っていると、相手の行動をすばやく推
測できますから、あまり色んなことを考えずにぱっと行動すればそれが大体当たっていて、
大体適切な行動だという風に判断されるわけです。
ところが、文化を移動してきますと、例えば留学生が日本に来た時に、留学生は留学生の
文化的な背景を持って日本に来るわけです。そうするとそこで日本の文化に直面する。そう
すると何が起こるかというと異文化と接触した時に起こることなんですけど、常に自分の枠
組みの中で相手や、色んな現象を捉えていますから、目の前に見えたことを自分の枠組みで
-105 -
捉えようとする。そうするとその文化の中では非常に大切なことを見落としてしまったりす
ることがあるわけですね。日本社会の中ではこれを見ないといけないんだよって思っていて
も、違う文化から来た人がそのものを見る枠組みがなければ、そのように見られないわけで
すね。だから非常に大切なことを見落としてしまっている。あるいは日本人だったらこう理
解するのに、異文化から来た人は自分のものの見方でそれを理解しようとすると、自分の枠
組みで考えるものですから、それをゆがめて取ってしまったり、というようなことが起きて
くるわけです。それを、じゃあどうしてなんだろうっていう理由付けをする時も全く違った
理由付けをしてしまう。自ずと見方も違う、理由も違う、となると当然行動も違ってきてし
まうわけで、日本人から見ると非常にとんちんかんな行動をしてしまうっていうようなこと
が起きるわけです。これは今留学生と日本人っていう風に申し上げてますけれども、これは
私たちが他の文化に行った時でも同じことで、相手文化に行った時に、これと思ってやった
ことが非常に的外れなことで大恥をかいたりとか、あるいは大恥位で済めばいいんですけれ
ども、相手との関係が悪くなってしまったというようなことなんかが出てくるんですね。
留学生を理解していただく時に、まず彼らたちは自分の文化を持って、他国の文化の中で
適応しようとしているとお考えください。それをまず念頭に置いていただければと思いま
す。ですのでそういう状況であれば、間違った判断をしたりすることもあります。何をどう
していいか分からないような状況になってきますし、それから自分が期待をしていた結果が
得られなかったり、留学生からしてみればそういう行動は非常に不安に思います。常に相手
が何を望んでいるのか、私はこの文化の中で何をしなくちゃならないのかっていうことを、
もうアンテナを張り巡らして、色々神経を本当に尖らせて日本人社会の中に適応している留
学生がいることをイメージしていただけると分かると思うんですけど。そうすると目の前に
来た日本人に、私は何を話したらいいんだろう、今どういう行動を取ったらいいんだろうっ
ていうことを常に意識してるんですね。逆の立場になってみれば分かるかと思いますけど
も、そういう立場におかれた人間って非常に不安ですし、それが上手くいかなかったりする
と非常にストレスが溜まってくるわけです。そのような状況の中でまず留学生の日本での留
学が始まるという風に思ってください。これはどの学生でも同じことだと思います。留学生
といっても色んな留学生がいますが、例えば千葉大なんかでも、私費で来る場合は、まず最
初に日本語学校に入って、1 年ないし 2 年日本語を勉強してから千葉大を受験して入学する
という学生もいます。それからいきなり外国から、日本語がほとんどできないで、千葉大学
に入学してくる国費の学生など色んな学生がおります。どの学生に関しても異文化を経験す
るっていうことは、こういう状況を必ず最初に体験しているということです。
そのような状況で入って来た留学生について、今度はレジメの二番目の日本における留学
生の異文化適応を見て下さい。いくつかここに留学生のストレス因子というものを書き出し
てみました。今まで留学生に関する研究の中で、色々な留学生が一体何にストレスを感じる
んだろうとかっていうことについて様々な研究がなされてきています。そこの中で大まかに
こういう風に集約されるんではないかなというものをいくつか挙げてあります。これ以外に
もありますし、それからもっと違ったアプローチで研究をされているものもありますけれど
-106 -
も、概要はこのような感じです。留学生が適応していく上で困難なことのいくつかを挙げて
みました。これの一つが対人関係です。多義性と書きましたが、よく日本語は分かりにくい
とか、非常にあいまいだとか言うんですけれども、私は今日本の中では、日本語があいまい
だ、あいまいだというところばかり取り上げられてしまっていますけれども日本語以外にも
あいまいな言語ってたくさんあると思うんですね。むしろあいまいに思ってしまうっていう
のは、先ほど申し上げたように、人の文化に入って行くと予測がつかないから、意味不明の
ことについては理解がしにくい、っていう意味であいまい、言葉一つを的確に捉えられない
という意味で、多義的であるのです。日本人から拒否をされるとか、価値観のずれがある、
などで。対人関係が上手く持てないとか、それから。価値観のずれっていうのは、これは相
談事例の中にはもうたくさんあります。
色んな事例がありますので、ここで挙げていると切りがない位あるんですけれども、例え
ば皆さんのところにも中国人の留学生が非常に多いかと思うんですが、うちの典型的な中国
人の例を挙げてみますと、学生が授業に遅れてくると、日本人学生は 「 すいません 」 って
云います。先生が何を言ってもすいませんって言って、あんまり言い訳をしないんですね。
ところが中国人の留学生は、日本の社会ではすいませんって言うんだということは学んでい
ますので、すいませんって言うんですけども、いやあ電車が遅れてどうのこうのとか、それ
からどこどこで何があってどうのこうのって言って、ずっと色々理由付けをするんですね。
日本人からすると自己弁護に聞こえます。そうすると先生の方が、もうそんないちいち理屈
はこねるなっていうことで、そこで先生と上手くいかなくなるんですね。留学生の方は逆に
きょとんとしてしまうんですね。自分は遅れた理由をこんなに一生懸命伝えているのに、先
生は非常に不愉快な対応をしたっていう風に留学生はとるわけすね。これは日本では、ごめ
んなさいって謝って、それからごめんなさいを連発しますけれども、中国の子たちはあんま
りごめんなさい、ごめんなさいを連発しないんですね。一回謝ればもうそれでいいというな
こともありますし、理由付けをきちっとして自分の遅れた理由をはっきり言うように教えら
れている文化圏の中にいる学生たちはそういう風にやりますので、そこでもうずれが出てく
る。それはどちらも正しいんですけども、どちらも自文化のやり方で解釈をしてますから、
そこでずれが出てくるそういうことは非常にたくさんあるんですね。同じ中国の子たち、そ
れから他の国の子たちもそうですけれども、何か物をあげて日本の場合だと 2、3 日経っても、
あるいは 1 週間位経っても、ああ、この間はどうもありがとう、美味しかったわっていうよ
うなことを言うんですけれども、一回その時、ありがとうございますって言ったら、もうそ
の後 2、3 日経って会っても言わないっていう文化圏の人たちもいるんですね。ところが地
域の日本人たちで、留学生を可愛がってくれて、物をあげる。その時にありがとうって言う
のですが、2、3 日して再度お礼も云わず知らん振りするので、まあ何とこの子は失礼な子
なのでしょうと思う、そういうずれがあります。もうこれは話し出すと切りがない位、色ん
なところで留学生は日本人と価値観の違い、行動様式の違いに直面します。でも留学生はや
はりその時その時で真剣で、日本人とどうやって接していったらいいんだろうか、私はここ
でどうしたらいいんだろう、非常に悩みながらやっております。
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それから日本語の理解でもずれを感じるんですけど、やはり日本語ができるできないとい
うことに関しては、日本語ができないってことは非常にストレスを感じる。これは当たり前
のことかも知れませんけれども、言葉の問題というのはやはり大きなストレスになってきて
います。
それから外国人への先入観に基づく扱いと書きましたけれど、これはうちの学生なんかで
すと、大学の中では比較的そういうことはないんですけれども、外に出てアルバイトをした
時に、やはり韓国人だとか、中国人だとかって言われて、非常に蔑視された態度を取られた
ことが原因で大学に入学してくる時に、本当に私に向かう時に、日本人なんかに負けない
ぞっていうような顔をして入ってくる学生もおりました。でも段々と信用できる日本人もい
るんだなって分かってくると、日本人をきちっと理解をするようになります。がそういう嫌
な思いをする学生も正直おります。
それから日常生活に関する問題ということで、経済的な問題ですとか、病気ですとか、特
にここの今度のシンポジウムでも取り上げられておりますけれども、病気に対する対応は彼
らにとってはとてもストレスが溜まるもので、彼らにとっての大きなストレス因子になって
おります。
それから勉学上の問題では指導教員との関係が非常に大きくて、留学生は意外にも自己主
張をするかっていうと、これは千葉大の学生だけなのかも知れませんけれども、あまりしな
いんですね。つまり指導教官に嫌われないようにということがやはりあります。例えば自分
の専門を変わりたいって云った時に、「 言って御覧なさい、指導教官に、私はこういうこと
をやりたいんだって言ってご覧なさい 」 って言うと、そういう風なことを指導教官に言っ
て失礼にならないだろうか、とか、それからそういうことを日本でしていいんだろうか、と
か、それはアジアの学生だけではなくて、日本に来た留学生皆同じ様に気を遣います。むし
ろ指導教官と対立して、喧嘩になるという状況よりも、先生に対して一目置いて、先生の言
うことを何とか自分の中で受け入れようとしていく、だからそのストレスの方が大変じゃな
いかなと思います。
それからやはり自国で学んできた勉強の仕方が違いますので、そういうところでもストレ
スになってくる。そういうストレスを留学生が感じております。これ以外にもたくさんあり
ますけれども、留学生がストレスと感じるようなことはこういうことです。
ところが、これらのストレスも一律同じ様に感じるかっていうとそうではなくて、やはり
それに影響を及ぼす要因が違うんですね。それが二番目の異文化適応に関わる諸要因です。
言語能力とか、滞在期間とか、日本人とどの位親密かどうかっていうような要因によって、
このストレスのあり方も随分と変わってきます。先ほど言葉の話をしましたけれども、言葉
の問題っていうのは何というのでしょうね、できるからオーケー、できないから駄目ってい
うようなことではないんですね。留学の初期で言葉ができないっていうことはものすごくス
トレスになるんですね。それで言葉ができないために自分の意思疎通ができない。だからそ
れがストレスになってくる。それは留学の初期によく起こりがちなんですが、段々段々と時
間が経ってきて、留学も半ばを過ぎて、大分経って、日本語も上手くなってきた頃からのス
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トレスも結構あるんですね。それはなぜかっていうと、言葉ができるゆえに色んなことにつ
いて意見交換できるようになってくる。そうすると段々自分との価値観の違いが出てきてし
まうことに気づく。そこでまたそれがストレスになってくるので、言葉ができるからオー
ケー、できなければ駄目っていうようなことでは一概には言えないような状況でもありま
す。
ホスト社会の人々との親密さに関してですが、留学生が日本人の人たちとどの位親しいか
どうかということによっても、留学生の心理的なストレスって随分と違ってきてるんです
ね。私たちはやはり色んな環境を留学生に整えてあげたいと思ってる。経済的にも奨学金も
出してあげたいしと思ってますけれど、私たち自身もそんなに裕福ではないです。留学生に
十分奨学金がいくとか、それから住居も問題なく提供してあげたいと思ってもそういうこと
ができない。そうすると物理的な側面での支援がままならない場合には、やはり心のサポー
トになってくるんですね。心のサポートをどうやってやっていったらいいのかということな
んですけど、例えば大学に入る前に日本語学校に 1 年間行って、そして大学に入って 3 年に
なっていた留学生だったんですけど、私の中ですごく心に残った留学生でした。その子が大
学 3 年の時でしたが試験が間近になって、3 年になるとゼミになってくるんですけどもね、
日本人学生は皆でグループで勉強して、こんなこと言っちゃいけないんですけど、ノートが
飛び交うんですね、試験準備のために。そうするとコピーが行き交う。その時に彼が、日本
語はもう十分できてた子なんですけれども、僕も仲間に入れてっていう言葉がどうしても出
なかったって言うんですよね。言いたかったんだけど、ここまで出てたんだけど言えなかっ
たって。ゼミ室で日本人学生が皆でたむろしていて、皆それぞれがコピーを回したり、ノー
トを交換したりしてやっている時に、彼は僕もちょうだい、僕も見せて、僕も仲間に入れてっ
ていう一言がどうしても言えなかったって。それは私たち大学人の、日本人学生をきちっと
教育してなかったっていう私たちの反省も込めて、やはりそこで日本人学生が一言、入んな
よって声をかけてくれれば彼はすんなり入れたんです。留学生からはなかなかそれが言えな
い。その気持ちって、先ほど申し上げましたけれども、日本語ができても他人の文化の中で
行動するって、私たちがよその国に行ってみると分かると思うんですけれども、やっぱり非
常に色んなことをするのに勇気がいるんですね。誘われれば何とか反応するけれども、そう
じゃなくて自分から働きかけるってのがすごく勇気が要る時があります。その時に私たちホ
ストになっている国の人たちが一声かけてあげればすんなり入れたのにと思います。そのま
んまでしたら、この子本当に孤独感でその後どういう風になっていっちゃうのかなと思って
たんですけれども、その子が一つ救われたのが、たまたまそういう時にすごく寂しかったと
きに、靴屋さんに靴を買いに行ったんです。そしたら靴屋のおばさんが色々話しかけてくれ
た。それがすごく嬉しくて、次もまた行く様になった。今度は靴を買いに行ったわけではな
くて、ただおばさんと話をしに。そこのおばさんが、勉強どうしたとか色んな他愛もない話
をして、色々声がけをしてくれたのが嬉しくて、そこから靴も買わないのに頻繁に靴屋さん
に通うようになった。この子が救われたのは、その靴屋の店員さんの、店員さんっていって
も 50 代の女性ですけれど、その方の温かい気持ちが彼に通じて、彼はそれで救われたんで
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すね。だから同じ様にストレスの因子を留学生が抱えても、それをどうやって上手く自分の
中で消化できるかは、やはり周りの人たちがどうやって心の支援をするかにかかってきてる
んですね。そういう意味で私たちは留学生を受け入れることの意味、留学生を受け入れると
いうのは、私たちにとって一体どういうことなのかをやはり考えながら彼らを受け入れてあ
げたいなと思っております。
そこでどのような留学生の適応支援が望ましいのかを考えてみますと、まず、留学生のス
トレスというのがこういうような状況で出てくるんだよということを頭の中に入れ、じゃあ
そういう状況を和らげていく支援って一体どういう風にできるんだろうと考えてみます。今
私たちのところでは、地域の人たちのサポートをかなり得ております。これは大学にいる者
の怠慢でもあるんですけれども、とても大学の中だけでは完結できません。彼らは地域で暮
らしてもいますので、大学の中だけではなくて地域の人たちが色んな形でサポートをしてく
ださっています。一つに『母と学生の会』というサポート支援のグループをはじめ色々なサ
ポート支援のグループもあります。特に『母と学生の会』というのはお母さんたちが子供た
ちに接するように、お腹が空いてたらご飯食べさしてあげるとか、何か困ったことがあると
相談に乗ってくれたりとか、特別なことをしてるわけではありません。学生は私たち教員に
話せることと、お母さんたちに話せることを使い分けるんですね。私はそれでいいと思って
いますけれども。ただ私たちがきちっとそういう人たちとネットワークを作って、そこから
の情報をいただいていくということが重要なんです。お母さんたちとの話の中から、学生た
ちの色んな問題を発見することが出来ます。お母さんから 「 あの子今少し行動が不安定の
ようだ 」 という報告を受け、危機的状況に陥った学生にうまく対処できたこともあります。
色んなところに情報を綱を張り巡らしておくと、その人たちが皆その子の状況を教えてくれ
たりして、そしてそこで皆が協力してその子をサポートできる、それで上手くいったケース
なんかも多々ありましたので、やはり私たちはこういう地域の人たちの色んな、本当に身近
なサポートを頼りにしております。そういう中でお互いに情報を共有して、学生たちの日々
の行動をできる限りつかんでいく。システマティックとは言えないのかも知れないんですけ
れども、やはり人の心を扱う時って、やっぱりそういう無駄もしていかないといけない。こ
ういう機関を作ったからいい、これをやったからいい、ここに相談室を作ったから留学生が
必ず来るっていうことではなくて、それも勿論必要ですけれども、やはり人的なネットワー
クを色々なところに張り巡らしておくことが大切です。そうすると日本人学生でも、同じゼ
ミの子がこういう状況なんだけれどもと、今何か非常に困っているみたいだとか、ちょっと
様子がおかしいとかを知らせてきてくれたり、直接じゃなくても間接的に知らせてくれたり
すると、未然にその子の問題が防げたりすることがあります。そんな方法で、心理的な援助
を得られるような、対人ネットワークを形成していくってことが非常に大切なんではないか
と思います。
ただそうとはいっても、大学の中できちっとオリエンテーションをしなくてはいけません
し、大学の中で、これは私たち国際教育開発センターの課題でもあります。心理的なサポー
トをする対人的ネットワークを形成するということに関して云えば保健管理センターと連携
-110 -
も大変重要です。健康診断の時にイスラムの女子学生が、最後の問診のところで男の先生の
問診を受けました。イスラムといっても非常に戒律が厳しい人たちと、比較的緩やかな人た
ちといます。たまたま私がお話した学生はスカーフをかぶってる子ですので、比較的敬虔な
イスラム信者です。その彼女たちが健康診断の問診の時に、Tシャツの中から聴診器をこう
やって入れて、診察しました。私はそれまでイスラムの子たちにも自分たちが困ることは言
いなさいって言ってたんですけれども、それは私の見方が甘かったようです。彼女たちは言
わなかったんですね。それはどうしてって聞いたら、そうしなければいけないと思ったって
言いました。だから最初の話にもありました様に、やはりよその文化に来た時には、よその
文化になるべく適応しようと思って皆必死になってるんですね。なかなかそういう心の中っ
て見えないんですけれども、一生懸命に他文化に適応しようとしている気持ちを理解してい
ただけると、留学生に対して否定的な見方が比較的友好的な見方になってくるのかも知れま
せん。そういう心の動きがあるということを覚えておいていただけるとありがたいと思いま
す。すみません、時間が来てしまいましたので十分なお話ができませんでしたけれども、こ
れで終わらせていただきます。ありがとうございました。
-111 -
シンポジウム2
大学における外国人留学生の健康状況
東京大学保健センター 田 口 理 恵
岡田先生、ご紹介ありがとうございました。また本日はこのようにお話させていただく機
会をいただきましたことをお礼申し上げます。今、白石先生と新倉先生と非常に留学生と密
接に関わっている先生から、大変多様で個別の問題が存在しているということを教えていた
だきました。ただ一方で大学で健康管理を行う立場としましては、留学生をマスとして捉え
て、私たちでしたら公衆衛生的な視点から管理計画を立てていくことも実際には必要でござ
います。本日は東京大学ではどのように考えて健康管理をおこなっているのか、またどう
いった問題に直面しているのかということをご紹介させて頂きたいと思っております。
こちら先ほども同じ表がございましたけれども、確かに東京大学は留学生の受入数が
2000 名を超えているということで、日本で一番留学生が多いということは確かなのですが、
例えば、今日大変お世話になっている千葉大学さんもこちらにお名前ありますけれども、国
立大学の留学生の在籍比率ということで考えてみますと、東京大学が特別に突出していると
いうことではないという様に考えます。東京大学は学生数が非常に大きいマンモス大学でご
ざいまして、実際にどの位留学生が在籍しているかということで見て参りますと、東京大学
の総学生数が 2 万 8000 名を超えており、留学生総数が 2100 名ちょっとということで 7.4 パー
セントにあたります。実際にはそのほとんどが大学院に在籍しておりますので、大学院では
10 パーセントを大きく超えています。また留学生の出身国がどの様になっているかといい
ますと、最初にお話がありました様に、やはり中国、韓国、台湾といったところ、それから
その他のアジアの地域を加えて約8割ということで、本日のお話はこういうバックグラウン
ドを持っている集団として考えていって、どういう保健計画を立てているかというお話をさ
せていただきます。
アジアからの留学生が大変多いので、集団の健康管理を行う上で感染症の問題、特に結核
の問題というのは、やはり私どもも一番重要と考えております。実際今アジア各国の結核の
状況がどの様になっているかということで見てみますと、こちらに東京大学に受入数の多い
順番に、中国、韓国、それからタイ、ベトナム、インドネシアということで、WHO の結核
の罹患状況についてお示ししました。まず結核の患者がどの位いるかということでみていき
ますと、中国は結核の患者数で世界第 2 位で、インドネシアが第 3 位、1 位はインドになる
わけですが、この様に世界の結核蔓延の中心というのは、まさにアジアにあるということで
間違いございません。発症率を、年の人口 10 万対の値で見ますと、これらの国では日本の
数字と比べますと大体 3 倍から 9 倍程度、それから有病率で見ましても、例えば中国で日本
の約 6 倍、インドネシアで 16 倍ということですから、非常に結核の頻度は高いということ
が分かります。
-112 -
それでは実際私どもが受け入れている学生さんの結核に関するデータどうなっていますか
というと、図 1 は結核だけではない、定期健診の時に胸部のエックス線検査を行いまして、
その結果二次検査にまわり、更に医
療を含めて経過観察が必要になった
学生さんの割合です。こちらブルー
が日本人で赤い方が留学生ですか
ら、明らかに有所見率が高いという
ことが分かります。結核に絞って見
ますと、発症頻度が少ないので年度
によるばらつきが大きくなります
が、やはり平均しますと留学生で日
本人の 10 倍から数十倍頻度が大き
くなっております。また正確な数字
がございませんので、ちょっと無責
図1
任ですが、印象で申し上げますと、
塗涂陽性の割合となりますと、これ
は圧倒的に留学生の方で多くなっております。そういったことで、私どもは定期健康診断で
結核の早期発見に努めているわけですが、実際にそれが上手くいっているかということでみ
てみますと、こちらにお示ししましたように、一般の定期健康診断の受診率は大体いつも 8
割強ということで推移しているのに対して、留学生の健康診断の受診率は大体 6 割程度とい
うことで、大変低迷しております。その理由として一番多いだろうと考えておりますのが、
日本の学校の検診システム、つまり日本独自の、毎年決まった時期に、毎年毎年年 1 回、健
康であっても健康診断を受けなければいけないということ自体が、非常に珍しいというか、
違和感のある、不慣れなことになります。そういうこともありますので、学部の留学生担当
の方と協力してガイダンスで説明していただいたり、また日本人の学生さんに関しては掲示
しか出さないんですけれども、個別の通知を行ったりということで、かなりきめ細かくは
やっている積もりなんですけれども、それでもなかなか検診を毎年受けなければならないな
んて思いませんでした、という学生さんはなかなか後をたちません。
それから私たちがもう一つ心配していることは、病気がある方がむしろ検診を受けに来て
くれなくなっているという可能性も否定しきれないという点でございます。どういったこと
から私たちはそういうことを心配しているかと申しますと、保健センターの業務の中で、特
に留学生の方、奨学金の申請をされる方が多いので、健康診断書を作ることがございますが、
その時に色々な問題が透けて見えて参ります。まず一つは健康診断書を作成する時に、陳旧
性肺結核の所見がある学生さんというのがままおります。それでこれは日本人の場合にはあ
まり問題にならないのですが、陳旧性ということなのでこれを提出しても大丈夫だよと、場
合によっては活動性を否定する様なデータも付け加えてあげるよ、という様な話を心を尽く
していたしましても、これは困ると、肺結核なんていう文字自体は書いてもらっては困ると
-113 -
いうことで、どうしても納得していただけなくてで、こちらもあるものを書かないというこ
とはできないですよ、という話をすると非常に激しい感情の爆発に出会ってしまうというこ
ともあります。それはやはり彼らはそういった何らかの記載がある診断書を出すことによっ
て、大変な不利益を実際に受けたのか、そういう話を聞いたのか分かりませんが、そういう
ことがあるということを大変心配しております。
それからまた、入試の時に今まで健康診断書を提出してもらっていたわけですが、学部の
入試につきまして、国立大学ですと、文部省の通達の中に入学者選抜実施要綱というのがあ
りまして、その中に前は健康診断書もしくは健康の記録欄というのを書いてもらうというこ
とになっていましたが、今年度からそれがなくなりました。東京大学でもそれを受けて学部
については診断書がなくなりまして、大学院についてもどうするという話が昨年度あったの
ですが、その中で、大学ですとかそれからそういったものを決めてらっしゃるような上の先
生方というのは、診断書の中に病気の記載があると選抜の際に差別につながるから、診断書
提出はやめようというようなことをまじめに考えていらっしゃるということが分かりまし
た。私どもからして見れば、診断書に何か記載があったから選抜の時に差別をするというこ
と自体がナンセンスで、そういった診断書があったとしても、より学業が充実して行えるよ
うサポートをしていくため、また集団で生活を行う時に、健康な学生も病気のある学生も十
分に学業が行える様にサポートするために活用すればいいじゃないかという風なお話を保健
センターとはしたのですが、なかなかそこに大きなギャップがあるということを感じまし
て、最初にお話いたしました様に、留学生の心配というのも決して杞憂ではないのだなとい
うことを考えております。
さて、感染症ということでもう一つ、B 型肝炎のキャリアの啓発活動というのを、私ども、
これは日本人学生に対しても同様ですが、以前から積極的に行っておりまして、このことか
ら最近感じていることについてご紹介させていただきます。図 2 は検診時の B 型肝炎 HBs
抗原の陽性率ですけれども、やはりこれについて見てみましても、ブルーが日本人で赤が留
学生ですから、留学生で非常に陽性
率が高い ( 図 2)。それでこの後には
専門医からのカウンセリングを行っ
たりとか、後は在学中に場合によっ
ては治療までいたるケースもござい
ますので、本事業自体の有用性とい
うのは依然として高いと考えており
ますけれども、実際に学生さんと接
していると、どうも留学生を取り巻
く B 型肝炎の状況というのはアジア
地域では大分変わって来ているなと
いうのは肌で感じております。具体
的にはどういうことかと申します
図2
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と、以前は 「B 型肝炎というのは何ですか 」、「 キャリアって何ですか 」、というようなレ
ベルの学生さんが多かったんですが、実際に最近では 「 出国時に検査してきたので結果は
知ってます 」 とか、どういうこと気をつけなければいけないかというようなことも勉強し
てきている学生さんが増えてきております。勿論色々な事情があると思うんですけれども、
その中でやはり一番影響が大きいと思っておりますのが、EPI 予防接種拡大計画ということ
で、WHO や UNICEF の協力のもと、アジア始めとする発達途上国では今様々なワクチン
の接種が拡大していっております。B 型肝炎につきましても、例えば中国では 2002 年から、
韓国では 1995 年、またベトナムでは 2003 年から、日本とはシステムが異なりますけど、
乳児に対する全員接種というのが開始されております。こういうような事業が始まります
と、都市部では接種対象者以外に対しても色々な対応ですとか、それから知識の普及という
のは急速に広まっているのではないかという風に感じております。この様にワクチンに関す
る EPI ですとか、先ほどお話した結核につきましても、ここ数年で中国で DOTS の導入が
開始されている、アジア諸国でも開始されようとしているということ、それから近年の
SARS の流行、鳥インフルエンザの流行といったように、これまで私たちが経験していた
のとは異なる、非常に急激な速度でアジア地域における公衆衛生の状況は変化してきている
と感じております。日本の状況につきましては、色々な方法で簡単に情報を手に入れること
ができるんですけれども、なかなか海外の状況ということになりますと私たちの情報収集も
遅れがちになりますが、今後は今まで以上にこういった情報を取り入れて私たちの保健計画
にも取り入れていくことが必要になってくるのではないかと考えております。
またもう一つ、健康管理上の問題ということで、生活習慣病について少しお話しようと思
います。東京大学の留学生というのは、最初にもお話しましたように、大多数が大学院の研
究留学生になります。しかも本国で一度大学を出てからですとか、場合によっては徴兵を終
えてからということで、かなり年齢の上の学生さんが留学して来ておりまして、平均で大体
30 歳前後ということで、日本人の大学院生よりもより一層年齢が高い集団ということにな
ります。ですので最近では学生さん本人自身からも、「 人間ドックみたいな検診をして欲し
い 」 とか、「 もっと生活習慣病のことも考えて欲しい 」 とか、「 職員の検診のようなものを
やって欲しい 」 というようなリクエストも段々増えて参りました。更にそれぞれのアジア
の国の状況がどの様になっているかということについても、こちら日本のデータと中国の
データ、ちょっとデータソースが違いますので年齢が揃えられませんでしたが、日本と中国
の肥満の罹患率ですけれども、決してもう中国の方が少ないという状況ではない、場合に
よっては女性についてなど、中国の方が今少し悪い状況になりつつあるということがわかり
ます。また、アジア各国に目を向けて見ますと、ちょっとなかなかデータがないので糖尿病
で申し訳ありませんが、糖尿病の罹患率ということで、これらの国について見てみますと、
インドネシアや韓国ではもう日本と同じ状況にありますし、何よりも目を見張りますのが、
この上昇率ですね。日本は 2000 年から 2003 年で 30 パーセントの上昇率ということで、非
常に急激な上昇ということで大騒ぎになってますけれども、中国などでは 3 年間で 100 パー
セント、倍ですね。ベトナムでは 195 パーセントということで、中には診断率の上昇という
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こというのも因子としては入っていると思いますけれども、非常に急激に経済発展をしてい
く中で生活習慣病がアジア諸国でも大きな問題になりつつあることは間違いないようでござ
います。実際私たちの受け入れている学生さんのデータではどうなっているかということ
で、図 3 に血清中の総コレステロールの値を示しましたが、有所見率ということで見ていき
ますと、平成 12 年以降、留学生は黄色のバーです、こちらは今の所は日本人の大学院生よ
り有所見率は低い、しかしながら学部生よりは明らかに有所見率は高いという状況になって
います ( 図 3)。
また留学生の生活習慣がどういう風になっているのかということで、平成 6 年の古いデー
タで申し訳ないんですが、こ
れは東大の韓国人学生に聞い
たものですけれども、食事を
どういう基準で決めています
かということで、一番に何を
重視するかで、一番がやっぱ
り価格なわけですね。で、味
付けとか、簡易性。栄養や材
料のことを一番に考えられる
という人は、そんなに数がい
ないということが分かりま
す。また外食の頻度というこ
とで見ましても、大学院生で
図3
3 分の 1、その他の人で半分
の人は、ほぼ毎日か週 3 日か 4 日は外食で済ませているということで、非常に高い。これ夕
食ですので、夕食ですら外食で済ませているという人が多いということが分かります。また
運動の習慣についても聞いておりますが、これについては約 9 割りの人がほとんどできてい
ないという風に返事をしています。
このように見ていきますと、今後は留学生に対する生活習慣の指導というのは、より重要
性を増していくと考えられますけれども、一方で日本人の学生と同じ様に行うというのは大
きな困難があると思われます。先ほどから問題として挙げられています、やはり言葉の問題
というのは非常に大きくて、日本に来て特に 1 年目の全く慣れない環境、日本食も食べ慣れ
ない、食材もよく分からない、どこで食品を買ってもいいのか分からない、そういう状況で、
一番支援が必要な段階で実はまだ言葉に問題があるということになります。こちらは東大の
中国人女子学生に対する調査で、これは 1 年目だけではなくて在籍している人全員に聞いた
調査なんですけれども、通訳がいない状態で医療機関を受診して、医療の専門用語の書いて
ある質問用紙が理解できたかとか、症状をちゃんと訴えられたか、先生の説明が分かったか
と聞いてみますと、大体半分位しか十分に理解できたという風に答えておりません。もう一
つ注意したいのは、これは通訳がいない状態で医療機関を受診した人に質問していますが、
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なぜ通訳がいなかったのかと質問しております。そうしますと、それはアベイラブルじゃな
かったということではなくて、「 通訳は要らないと思った 」 と 75 パーセントの人が回答し
てます。つまり日常生活など送っている中で、病院位行けるだろうと思った、だけど行って
みたらよく分からなかったということを表しています。私たちも実際学生さんを窓口で対応
している時に、まず最初に日本語で大丈夫ですかってお聞きしますと、大体の人が 「 はい 」
って答えます。それで実際に色々な話を進めていくと、途中でこれは話がどうも通じていな
いんじゃないか、場合によっては後日になって、あの時言ってたことは全然分かってなかっ
たんだな、ということが分かることがございます。先ほどの新倉先生のお話をお聞きしてて
思ったんですが、やはりなかなかそこで、「 私分かりません 」、「 何とかしてください 」 っ
ていうのは言い出しにくい、こちらから色々なチョイスを示してあげる、例えば英語ですと
か、母国語の質問用紙を最初から示してあげるといったような親切な対応が必要じゃないか
なという風に感じました。
さて最後にですね、私どもがこういった健康管理、それからもちろんプライマリーケアと
しての保健センターの重要性というのは間違いがないのですが、それ以上にこれから何に取
り組んでいかなければいけないのかということで、感じていることを話したいと思います。
こちらにいらっしゃる皆さんの中には、もう十分その辺もなされているという方もいらっ
しゃるかも知れませんが、私たちのケースということでお聞きください。こちらに外国人の
留学生が病院の受診時に、どういうことを不安に感じたかということの調査データがござい
ます。こちらで見てみますと、一番はやっぱり言葉によるコミュニケーションなんですが、
二番目に医療費、経済的な問題が挙げられています。経済的な問題というのは、留学生の医
療機関へのアクセス自体を抑制する可能性が十分にございます。ですのでこういった問題を
私たちも見過ごすことができないのではないかなと考えております。留学生の経済状態とい
うのは、国費と私費によって大分異なってくると思いますが、東大は私費留学生が 6 割とい
うことで、全国的な平均から見ると非常に少ない、恵まれた状況の学生が多いわけです。国
費留学生ですと、大学院でしたら大体月に 18 万円前後もらってますので、十分ではないで
すけれども、アルバイトですとか数少ない少額の奨学金に頼っている私費留学生に比べると
かなり経済力は違うと言えます。こちらはですね、大分以前のものですけれども、日本学生
支援機構に提出した医療費の申請書の内容から、国費と私費に分けて解析した東大と京大の
共同研究でございますけれども、こちらで見てみると医療機関の受診率というものは、私費
の学生と比べて国費の学生は、東大でも京大でもこれは有意に高くなっている。ところが一
方、年間の平均医療費、それから一回ごとの診療費ということで見ていくと、これはかなり
ばらつきが多いので有意ではございませんが、私費の留学生の方が高くなっている。ここか
ら色々なことを推測するのは少し強引ではございますけれど、一つの可能性として考えられ
ますのは、やはり国費の留学生と比べて私費の留学生は経済的な問題ですとか、アルバイト
などの時間の制約の問題から、なかなか病院には行かないと。ただしそうしますと行く時に
はお金がかかってしまうような状況になってますので、かえって医療費がかかるというよう
なことが一つ影響しているとも考えられます。
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またこちらはやはり東大の中国人女子生についての調査ですけれども、では保険医療制度
についてどの位知っているのか聞いています。私たちが保健センターにいて、そこに来る学
生と話をしていると、結構皆さん色々なことを知っています。医療費の補助のことなんてい
うのは、かなりの学生が知ってます。ところが在籍している人ということで、全員に聞いて
みますと、救急車というサービスがあると、それから医療費の補助サービスがあるというこ
とに関してすら、5 割ちょっとの学生しか知らない。これは 1 年目の学生ではなくて、2 年、
3 年目在籍している学生を含めてこの状況です。それからましてや自治体などによる、これ
女性でしたので婦人科検診を聞いてますが、こうした無料のサービスを知ってますかという
ことになると、ほとんどの学生は知らないということが分かります。こういった状況を考え
ていきますと、これまでのような健康管理、それからプライマリーケアといったサービスに
加えて、しかも保健センターに来る方に関して受身の情報ではなくて、色々な留学生セン
ターなどと共同して外に出て行って、学生さんに色々な医療情報、それは経済的な問題も含
めた制度を紹介するために、保健センターが何らかの役に立てる部分があるのではないかな
という風に考えております。
以上です。ありがとうございました 。
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総 合 討 論
【司会(岡田)】 田口先生、ありがとうございました。それではお三方に壇上に上がってい
ただいきまして討論をしていただきたいと思います。約 25 分ありますので、活発なご討議
をいただきたいと思います 。
【司会(葛)】 今回、留学生支援の様々な取り組みがご紹介され、皆様方の大学との比較が
できたことと思います。まずフロアーの皆様からステージの先生方へご質問をお願いいたし
ます。おそらく、どこの大学でも、留学生支援への課題がたくさんあるのではないかと思い
ますが如何でしょうか? 三宅先生お願いします。
【三宅(長岡技術大学)】 長岡技術大学の三宅です。白石先生にお伺いしたいんです。先ほ
どの地震の話はちょっと個人的にまたお聞きしたいんですけれども、それと全然違う話で、
非常に古典的な留学生というのは、母国のために選抜されて、先進国に行って帰って来て、
母国の役に立つという、これが私の持っている留学生像なんですけれども、今現在違います
よね、明らかに。その辺の意識、我々も変えなきゃいけない、っていうか、もう変わってる
んでしょうけど、ちょっと私の様に古い考えの人間がいて、だから要は君たちは将来帰るん
だから、少し我慢しなさいという指導をすることがあるんで、まずそれは良くないのかなと。
ちょっと話し違うんですけど、お聞きしたいのは、今私就職の担当もやってるんですけれど
も、卒業した後日本の企業に勤めたいという学生がたくさんいるんですけれども、その時に
ビザは簡単に手に入るものなんでしょうかという。その辺が企業が内定がもらえればビザが
出る、でも逆に内定が出なくて、でも残ってもう少し就職活動したいという様な学生の場合
はどうなるのか、その辺ちょっとお教え願えればと思うんですけど 。
【白石】 長岡技科大ですね。マレーシアの政府関係の学生が 30 人以上お世話になってまし
て大変お世話になっております。今先生のおっしゃる様な留学生のイメージ、実は私もそう
いう様な考え方をずっと持ってたんですが、今の日本の学生さんも海外に留学、短期で留学
することなどは普通になっていますよね。その学生さんたちが、昔の明治の留学生と同じよ
うに一国のミッションを背負って出かけて行っているかというと、多分それはないと思うん
ですね。非常に気軽に語学留学行ってきますって言って気軽に行くというようなことが多い
と。アジアから来てる学生も、そういうような層の方が非常に多くなってるという風に思い
ます。その意味では日本人の学生さんが海外に行くのとあまり変わらないという風に思って
もいいんじゃないかと思います。それから就職の問題ですけれども、留学のビザは非常に厳
しくなってますが、大学を出た後に就労するビザは原則的には人文知識国際業務、あるいは
理科系の学生だと技術というビザが出ますけれども、そこの門戸はかなり広くなっていま
す。日本人とほぼ同じ待遇を得て、大学で勉強したことと同じような業種に就くということ
であれば、ほとんど認められてる。申請件数自体は 8000 件くらいだったんじゃないかと思
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います。それほど多くないんですね。ですからまだまだ日本の企業の方が留学生を積極的に
採ろうとはしていないのではないか。まだちょっとバリアが高いのかなというような感じが
しています。それから就職活動については、一般的には日本人と同じように大学の 3 年生、
4 年生になると、就職活動を始めるわけですが、実は法務省は、なかなか粋な措置をとって
おりまして、卒業後でも、90 日間の短期滞在を付与して、就職活動するということを認め
ておりますし、就職活動をそのまま継続するということであればもう 90 日間、6 か月の期
間就職活動することを認めてるんです。ただこれは条件がありまして、大学側の 「 推薦書 」
があればということなんです。卒業した学生に対して推薦書を出すっていうのは、そんなこ
と大学はあり得ないよと、皆さんお考えだと思うんですけれども、法務省入管の方の考え方
からすると、在籍先、所属先のない外国人を置いておくわけにいかないというイメージなん
ですね。だから大学に対して卒業生なんだから推薦書を出してくださいというような条件が
ついてます 。
【司会(葛)】 日本人学生と同様にモラトリアム化した留学生に対し、様々なサポートを大
学現場で行っている皆様と思います。ここで、留学生支援に対する確認や質問がありました
ら、是非お聞かせいただければと思います。
【司会(岡田)】 私から新倉先生に教えていただきたいと思います、先ほど講演の中で、地
域のサポートというのがかなりの需要だとをおっしゃってたんですが、そういうサポートの
システム作るということはかなり大変だと思われますが、例えば元からあるボランティアの
団体を利用するのか、それとも先生方が独自にサポートのシステムを作り上げたのか、その
辺のことを教えていただきたいと思います 。
【新倉】 その両方です。先ほど申し上げた『母と学生の会』というのは、東大の学生さんた
ちがこの留学生寮にいた、もう何十年も前の時からの支援団体なんですね。そのころは留学
生がボタンが取れたというとボタン付けをしてあげたり、お腹が空いたっていうとご飯食べ
させてあげたりと、本当にお母さんが家庭でやる様な支援をずっと地道にやってきてくだ
さってたグループなんですね。そういう方たちって目立とうなんていう気持ちは全くなく
て、でも逆にそういう人たちこそ留学生にとって、一番必要とされているところだったんで
すね。私が千葉大に来てからなんですけど、そのお母さんたちのその活動というのを、非常
に私は重要視しまして、大学の組織の中に組み入れていくような形でシステム化していく努
力をしてきました。今は他にもいろいろなサポート団体があるんですけれども、学長までも
う何か地域ボランティアっていうと『母と学生の会』っていうような固有名詞が出て来る様
になったんです。それ以外にやはり色々な団体の方々が留学生をサポートしたということで
いらしてくださってます 。
【司会(岡田)】 ありがとうございます。それらのサポートのシステムがあるような大学、
-120 -
東海大学ではどうでしょう。
【司会(葛)】 東海大学では、留学生をキャンパスでよくみかけます。留学生の種別は、学
部学生、大学院生、研究生、日本語だけを学ぶ日本語別科生など多様です。保健管理センター
では、これらの留学生に対し、日本人学生と同様に健康診断や健康相談を実施しています。
特に、日本語別科生に関しては、まず入国後、感染症対策として胸部レントゲン検査は実施
しています。日本語が全くわからない彼らに対して、保健管理センターの利用も含めた、生
活オリエンテーションを実施しています。先ほどから保健管理センターは、留学生にとって、
医療情報発信基地の役割があるのではないかとお話がありました。しかし、現実はどうかと
考えると、大学の中での留学生を支援する各部署の連携や支援システムなど、組織的な連携
は十分できているのか、留学生支援に対し、大学として一本化した情報発信をしているのか
少し不安になってきます。今、東海大学の例をお話させていただいたのですが、様々な大学
での留学生支援の取り組みを紹介していただき、その情報を共有できればよいと考えます。
つまり、大学の中でも、留学生支援をできることから開始してみてはと思うのです。その他
に質問はございませんでしょうか?
【川田(十文字女子大学)】 埼玉県新座市にあります十文字女子大学、留学生センターの川
田と申します。本学には留学生別科の学生と学部の学生がいるんですけれども、学部の留学
生で休学をしますっていうことでセンターの方に報告に来る学生で、理由を聞きますと、妊
娠したので休学しますっていう学生が、理由が本学ではちょっと多いのかなという気がする
んですけれども、他大学の現状ですとか、ちょっとどういう状況なのかなと思いまして質問
させていただきました。
【新倉】 千葉大学では妊娠したというケースは配偶者が多いんですね。今家族を連れてくる
学生が非常に多くなりまして、ここ、過去 6、7 年位前からがぐっと増えました。それで子
供が生まれるとかということで、先ほどの白石先生のにありました、医療費の補助ですとか、
田口先生の方でしたか、ありましたけれども、そういう風な形でのものはありますけど、学
生が妊娠したので休学しますというのはそれほど多くないですね。ほとんどが配偶者のケー
スですね 。
【田口】 私どものところはそういった情報が直にあがってくる場所ではございませんので、
留学生センターの先生の方がずっとお詳しいと思うんですが、印象といくつかの調査から見
ますと、多いという感じはやはりしません。ただやはりおっしゃられた様に中国人、それか
ら韓国人の留学生というのは家族で来てる方が非常に多いんですね。そうしますと、そう
いった家族のこと、それから子供のこと、奥さんが妊娠、出産するという場合の、そういっ
たことに対しての医療情報を必要としている人がたくさんいるという風に感じています。後
はお子さんがいらっしゃる女性の留学生もたくさんいらっしゃるんですけれども、そこにつ
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いてはやはり難しい問題があるのか、子供を自分の国の親に預けて留学してる方というのが
多い印象を持っています。
【司会(葛)】 その他に皆様からご質問をお願いいたします。
【大塚(筑波大学)】 筑波大学の保健管理センター、大塚と申します。田口先生にお聞きし
たいんですけれども、うちの大学も留学生が 1000 人以上いましてやはり同じようにアジア
系が多いわけです。先生、留学生の健診の受診率が 6 割強ということで、少し少ないとおっ
しゃってました。うちでも大体同じような感じなんですが、受けなかった人の中に結核が過
去 5 年間で 2 人出ています。そういう受けなかった人の中には、自分の意識の中で積極的未
受診というのがありましたが、そういう人たちをどうやって受ける方向に向けていくか、難
しい問題だと思うんですけれども、何かいい案があったら教えていただきたいと思います。
【田口】 まさに良い案がなくて、皆さんにいろいろ今日教えていただきたいなと思って来て
るんですけれども、一つは私たちも情報発信基地にならなければいけないという風に申し上
げましたけれども、もう一つ留学生のネットワークとして非常に重要なのは、同国人のグ
ループですね。私たちが学部などを通して一生懸命言うのよりも、中国人だったら中国人の
大学の仲間の中にものすごく立派なネットワークができておりますので、そこに正しい情報
を流してあげるってことが一つ必要だと思っています。正しいというのは、まず、実際本当
にあるのかどうか分かりませんけれど、そういった偏見的な、病気があると非常に怖いこと
になるというようなことはないんだよ、ということを流してあげる。それは大学で配布して
いる冊子などにも最近そういうことを私たちも積極的に書いてるんですけれども、ただそれ
だけじゃなくて、他の方法で流してあげる。それから受診率を上げるのに一つの方法として
は、いつでも受けてあげるっていう方法が一つはあると思うんですけれども、そこのもう一
つ怖い点は、いつでも受けられるということになると、やはり必要がない人は来なくなって
しまうと、このジレンマがございますので、今のところはそれは効果が上がるか分からない
ということで取り入れておりません。他に何か効果をあげてらっしゃるところがございまし
たら、是非お教えください。
【大塚(筑波大学)】 先ほどから横の連絡という話がありますけれども、留学生センター、
あるいは教育組織との連携で進めていくしかないのかなという風に思っています。また色々
良いアイディアがあったら教えていただきたいと思います。
【長尾(千葉大学)】 千葉大の長尾です。今のお話に続きまして、千葉大学では、レントゲ
ンに関しては定期健康診断の他に、留学生だけを対象にした留学生特別健康診断というのを
設けております。それは主として血液検査なんですけれども、その時にもう1回レントゲン
を撮る機会を与えています。ですから、もし定期検査を受けなければそこで受けるチャンス
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は一応あります。ただ、それもある意味で差別ととられることもあり、なぜ留学生だけそこ
まで徹底してやるんだと、変に思われる危険もあります。結核予防の観点からだけ考えれば、
結核予防というのはこれから一律にやるんではなくて、重点化してやるというのが基本にあ
ります。そういう風に考えますと、留学生の中ではやっぱりアジアに重点を置かなくちゃい
かんわけですね。留学生の中でもその国の結核罹患率、有病率を考えて、彼らを重点的に健
診対象とすると、更に差別ということになり非常に難しい問題です。公衆衛生学的な考え方
を持っていけば持っていくほど、差別という問題がどうしても浮かび上がる怖さは持ってお
ります。あともう一つ、糖尿病が増えているという話がありましたですね。あれはアジアと
いうのは、基本的に農耕民族で、農耕民族が西洋の肉食文化を入れてしまったと。そのため
に増えるというのは当然だと思います。ですからより留学生で特にアジアの人たちに関して
は、食の指導っていうのも必要だと思っております。
【司会(葛)】 齊藤先生、お願いいたします。
【齊藤(慶應義塾大学)】 保健管理センターの位置づけとして、管理という視点と学生のサ
ポートという視点と両方あって、それは相反するものではなくて一致していると思うんです
けれども管理のほうに重点を置いて新倉先生にお伺いしたいんですけれども、日本から学生
がアメリカに留学する場合には、感染症について細かく書いた診断書を提出することが義務
付けられておりますけれども、一方日本に来る留学生に対してはそれがないのですけども。
日本もシステムとしてやったらいいんじゃないかなという気がするんですね。それは新倉先
生の立場で、そういうことはむしろ望ましくないとお考えになるかどうか、お伺いしたいん
ですけれども。
【新倉】 基本的に例えばどういう書類を指しておっしゃってるんでしょうか。
【齊藤(慶應義塾大学)】 先生はそれをご覧になるお立場でないからあれだと思うんですけ
ども、我々はしょっちゅう書いているんですけど、それを一番のポイントは小児のウイルス
感染症ですね。日本で感染症の予防注射、全部受けているかどうかですね。それから B 型
肝炎の予防注射と結核の問題ですね。日本の大学も留学生に対してですね、そういったもの
を出しておいてくださいと言えないものかどうかと。
【新倉】 以前にも長尾先生とご相談したこともありましたけれども、アメリカで例えば結核
の健康診断を受けてこない学生がいたんですね。それはレントゲン撮影拒否ということで書
類にのってこなかったというようなケースがありましたけれど、そこからこういった問題が
千葉大学でも出て参りました。ただこれは私個人の考え方なので、大学がどういう風にして
いくのかということとちょっとかけ離れていますけれども、話が外れますけれども、SARS
の時にも留学生が外国に出て行って、寮にそのまま帰って来てっていう様なことがあった時
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にも、きちっと留学生に指導をしましょうっていうのと、いやそれは差別になるからという
様なことと、大学の中でも正直議論がありました。ただ学生はこういう理由で今こういう処
置が必要なんだということをきちっと説明すれば理解できる千葉大の学生に限ってですけれ
ども、できると思っています。ですからむやみやたらに何でも理由なしに、これとこれとこ
れっていう様な指示を出すのではなくて、例えばいる学生に関しては、こういう理由で、こ
ういうデータがあって、こういう理由があるからアジアのどこどこ圏については、こういう
ものを課しますと説明した時には彼らは納得すると思うんですね、それなりに。ただ、今度
来る学生に関してなんですけれども、来る時に色んな書類を次から次へと出していった時
に、それをどこまで必要とするのかという議論をまず大学の中で、あるいは日本で、こちら
の方できちっとして、これに関しては、今例えば、感染症に関しては今こういう傾向があっ
て、日本としてはこういうことを防ぎたいので留学生に関してはこの書類をお願いしますと
いう様に、その道筋がきちっと立っているのであれば私はかまわないと思います。けれども、
ただ次から次へと根拠説明なしになってくると、話がどんどんどんどん混乱してきて、最終
的には留学生だけ入らせない様に差別をするなどと要らぬ誤解がでてくるんですね。そこの
問題をどういう風にクリアしながらやっていくかということだと思うんです。よろしいで
しょうか 。
【田口】 フォーマットの件。今お話があった様に、東京大学ではというとより、やはりアメ
リカだと州単位でしょうか、日本もやはり国としてこういう政策で行くのでというのでない
と、なかなか難しい様な気がしますけれども、そういったところに働きかけていく役割とい
うのは、長尾先生始め保健管理センターの先生に是非やっていただけると良いと思うんです
けど。私もそれは全く差別ではないという風に考えているんですね。それは何かがあったか
らあなたは入れませんという発想があるので、それが差別という風に取られるのであって、
そうではなくて皆がなるべく健康に、学業がまっとうできるための手段として、これが必要
だというものをやるということは必要なことだと思っています。実際日本人がアメリカ行く
と、麻疹が来たみたいな感じで色んな検査をさせられるわけですが、それについてだから皆
アメリカに行かないということはないわけです。ただそれよりもむしろ、留学生はきちんと
説明すれば理解できるという新倉先生のお話を聞いて、非常に心強かったんですが、それよ
りも受け入れている大学側の先生の方の中にもまだ偏見があって、自分の中に偏見があるの
でそれは差別だとおっしゃってるのではないかなという印象を持っていて、その辺もなかな
か根強いのではないかと思ってます。
【齊藤(慶應義塾大学)】 州によって違い、ニューヨークへ行く人と、南部に行く人と違っ
たり書く方も大変なんですけれども。今から注射をすぐしなくちゃいけないとばたばたする
わけです。そういったことがアメリカへの留学生ではあるけれども、日本では全く無防備に
やってるということが、あまり知られていないような気がしますけれども。
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【白石】 私はどちらかというと日本の大学に留学生を送り出すほうでお手伝いすることが
多いんですけれども、そこにやっぱり健康診断書がついてくることがありますね。その場合
に結構、形骸化してるなと感じることはあります。ただ田口先生がおっしゃった様に、留学
生の場合、さっきの妊娠の場合もかかわるんですけれども、勉強しに日本に来てる。勉強を
やめたら日本に滞在できないんですね、基本的に。病気して日本の中で治療を続けると、休
学するということになると思いますけれども、よっぽど理由がたたないと国に帰って治療し
てくださいって言われるんですね。そういう意味では、健康というのはいわゆる勉強する時
の基本的な問題なんですね。それは日本人の学生が日本の大学に入って、病気したから 1 年
休学します、あるいは 1 年退学してまた復学しますとかいう状況と若干違うような気がする。
そういう観点から健康診断、あるいは健康診断書というのをどうやって位置づけるかという
問題になってくるんじゃないかなという風に思いますけれども 。
【長尾(千葉大学)】 まずですね、外国、例えばアジア圏の方たちが持ってくる診断書の多
くは信用できないですね。だから数年前に留学生を受け入れるときの診断書提出はやめてし
まいました。その代わり入ってからこちらで健康支援をいたしますということで健康診断を
受けてもらいます。ですから入ってきてからどうやって指導するか。留学生ともっと積極的
に、意見交換をやっていければいいかなと思っています。
【新倉】 ちょっと付け加えさせていただくと、やっぱりこちらの姿勢を留学生ってしっかり
見てるんですね。こちらが揺れ動いている時は必ずそこを突っ込んできます。こちらがき
ちっと説明して、こういう理由でこの条件でなければ、あなたたちはここにいられないんだ
よというのを、語幣があるかも知れませんけれども、そういう風なことであれば、それはそ
れで納得します。私たちがどういう留学生をどういう条件で受け入れたいのかっていうその
理由をきちっと明確にしていけば、彼らたちは納得しますので、その辺のこちらの姿勢が試
されていると私自身は感じております 。
【白石】 保健管理センター、管理という言葉は使うんですが、保健サービスセンターとかで
すね、学生さんが利用しやすいのはスポーツクラブとかフィットネスクラブとかですね、そ
ういうところに健康診断のところもついているというのが、一番イメージとしてわかりやす
いのかなと思うんです。管理という意味では、例えばビザの申請の時には、自分はこんなに
お金を持ってますって出さなくちゃいけないんですよ。経済的な証明をしないとビザが延び
ないんですね。ただ奨学金の申請をする時は、私はこんなにお金がありませんと出さなく
ちゃいけないんです。それで、どっちかを選ばなくちゃいけない。ビザを延ばしたいのか、
奨学金が欲しいのか。ビザを延ばしたい時は学校には秘密で自分で延ばしましょうとなる。
そういう意味では学校、大学側は管理するんですね、学生を管理せざるを得ない。そういう
意味では例えば、管理センターではなく健康サービスセンターとか、保健サービスセンター
とか、名前を変えるというのはどうでしょうか 。
-125 -
【長尾(千葉大学)】 それ、英語ではマネージメントセンターという語を使っているところ
はない。コントロールセンターっていう言葉を使っているところもないです。スチューデン
トヘルスサービスが一番今多いと思います。これはもう歴史的にずっと管理という語を使っ
てたんですね。例えばうちなんかでも、総合安全衛生、管理がついています。これからは健
康安全センターとかですね、どんどんどんどん変わってきておりますので、ここにおいでに
なる方たちの施設も変わってくるのではないかと思っております。
【司会(岡田)】 今の結核の件なんですが、やはり最後に田口先生がお示しになったように
アジアの圏はやはり結核の有病率が高いんで、そうすると 1000 人入ってくると、その中に
結構1人位見つかる可能性は非常に高いんですね。そういう意味では向こうからの診断書も
難しいということになると、長尾先生がおっしゃったように、大学できちっとしたシステム
を作ってチェックしていくということも必要ですし、それから、学校保健法が変わりまして、
胸部レントゲン検査が年に 1 回ではなくなりましたので、そういう意味で厳密なチェックが
必要になる。そういう意味ではシステムが必要だと思います。それでは最後にまとめさせて
いただきますが、皆さま専門の立場から、白石先生からは留学生の生活全般の方の問題点を
指摘していただきました、新倉先生からは学生の心理面の色々なストレスの因子がたくさん
あるということ、それから地域のサポートの重要性がありますし、それから田口先生からは
健康管理の現状、生活習慣病も出てきているような諸問題をいただき、フロアの方からも
色々な入学生の健康管理に関する、それから支援に関する問題点もでましたが、このシンポ
ジウム初めての企画なので、このシンポジウムを機会に、皆さん持ち帰っていただいて、よ
り留学生の支援ができるような良いシステムができるようにご検討いただいて、また次の機
会に皆さんの成果をいただいて、より留学生が支援できるようなシステムを作っていきたい
と思いますので、よろしくお願いします 。
【司会(葛)】 最後にまとめに入ります。私たちが考えた今回の企画は、まず留学生の置か
れている実態を、様々な視点で正しく知ること、そしてどんな支援ができるかを考えること
でした。留学生に対し、我々はいったい何ができるのか?また何をなすべきなのかが、今回
のシンポジウムで焦点が絞られてきたように思えます。新倉先生のご発表の中で、留学生は、
大学の対応を含めた相手の反応や姿勢をよく見ており、私たち自身の姿勢が、留学生に試さ
れているのではないかというご指摘があり、とても印象に残っています。自分自身が大学人
として、国際人として、留学生を受け入れ支援するために、誠意ある姿勢で対応できている
のか、もう一度考え直す必要があるのではないかと感じています。今回の企画は、第一回目
です。次回の機会には、このシンポジウムを契機とし、各大学が留学生支援に対する様々な
活動を報告し、お互いに活用できるように発展していければと願っています。今日、質疑応
答が活発に行われ予定時間を越してしまいましたが、実りあるシンポジウムを終えることが
できました。会場の皆様、シンポジストの先生方、長時間ご協力いただき、どうもありがと
うございました。
-126 -
〔Ⅷ〕 資
料
⑴
平成 17 年度総会報告
⑵
平成 16 年度収支決算報告書
⑶
平成 17 年度予算書
⑷
平成 17 年度役員名簿
⑸
関東甲信越地方部会規約
⑹
平成 17 年度保健・看護分科会運営委員名簿
⑺
関東甲信越地方部会
⑻
第 43 回地方部会研究集会参加者名簿
⑼
第 43 回研究集会参加者アンケート結果
⑽
胸部 X 線検診に関するアンケート調査
保健・看護分科会運営規約
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会
⑴ 平成 17 年度総会報告
日 時 平成 17 年7月7日(木)14:10 ~ 14:25 場 所 千葉大学 けやき会館
議 題
1 .2004(平成 16)年度収支決算について
慶應義塾大学の齊藤世話人から、資料(128 頁)に基づき説明があり、原案どおり承
認された。
2 .2005(平成 17)年度予算(案)について
当番大学の長尾世話人から、資料(129 頁)に基づき説明があり、原案どおり承認さ
れた。
3 .人事について
慶應義塾大学の齊藤世話人から、地方部会新幹事について資料(130 頁)に基づき説
明があり原案どおり承認された。
全国大学保健管理協会の理事については、現評議員の千葉大学総合安全衛生管理機構
の長尾機構長を推薦することが承認され、評議員については、北里大学健康管理センター
の岡田センター長、東海大学保健管理センターの葛係長、筑波大学保健管理センターの
大塚所長、電気通信大学保健管理センターの坂口所長、東京芸術大学保健管理センター
の須甲教授、信州大学健康安全センターの相澤所長を推薦することが承認された。
また、全国大学保健管理協会のあり方に関する委員会委員については、理事である慶
應義塾大学保健管理センターの齊藤所長を推薦することが承認された。
4 .次年度部会長(当番大学)について
当番大学の長尾世話人から、2006 年度は北里大学、2007 年度は筑波大学が当番大学
になることが幹事会で決定された旨の報告があり、承認された。
5 .その他
当番大学の長尾世話人から、結核予防法及び学校保健法の一部改正に伴い、学生健康
診断へのX線検査のあり方について、研究集会参加大学を対象にアンケート調査を実施
する旨発言があり、各大学参加者に協力要請があった。
最後に、2006 年度当番大学の北里大学の岡田センター長から挨拶があった。
※ 2006(平成 18)年度関東甲信越地方部会研究集会は、以下の日時、場所で開催されます。
日 時 平成 18 年7月 28 日(金)・29 日(土)
場 所 北里大学 薬学部コンベンションセンター
-127 -
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会研究集会
⑵ 平成 16 年度収支決算報告書
平成 17 年 3 月 31 日
当番大学:日本女子大学
単位 : 円
科 目
金 額
備 考
前年度繰越金
397,015
全国大学保健管理協会 地方部会研究集会補助金
600,000
全国大学保健管理協会交付金
400,000
全国大学保健管理協会
地方部会研究集会参加費
1,065,500
会員校・個人会員@ 3,000 × 284 = 852,000
未加入校 @ 3,500 × 61 = 213,500
利 息
10
合 計
2,462,525
単位 : 円
科 目
消耗品費
金 額
備 考
41,662
ラベルシート、名札、パソコン消耗品等
印刷費
516,831
報告書、地方部会パンフレット、封筒等
郵便費
227,603
幹事会通知、開催通知、研究集会案内、
報告書送付等
委託費
94,500
雑 費
223,077
講演者・幹事等昼食代、ドリンクサービス、
保健・看護分科会会議費、振込手数料等
支払報酬
528,237
講演者・シンポジスト他に対する謝礼金
次年度繰越金
830,615
合 計
研究集会の講演テープ起し料
2,462,525
-128 -
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会研究集会
⑶ 平成 17 年度予算書
平成 17 年 7 月 7 日
当番大学:千葉大学
単位 : 円
科 目
金 額
備 考
前年度繰越金
830,615
全国大学保健管理協会 地方部会研究集会補助金
600,000
全国大学保健管理協会交付金
400,000
全国大学保健管理協会
地方部会研究集会参加費
合 計
1,050,000
会員校・個人会員@ 3,000 × 280 = 840,000
未加入校 @ 3,500 × 60 = 210,000
2,880,615
単位 : 円
科 目
金 額
備 考
消耗品費
100,000
文具等
印刷費
650,000
報告書、地方部会パンフレット、封筒等
通信費
250,000
幹事会通知、開催通知、研究集会案内、報告
書送付等
委託費
200,000
研究集会の講演テープ起し料等
雑 費
300,000
講演者・幹事等昼食代、世話人会会議費、保健・
看護分科会会議費、ドリンクサービス等
支払報酬
600,000
講演者・シンポジスト他に対する謝礼金
予備費
780,615
合 計
2,880,615
-129 -
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会
⑷ 平成 17 年度役員名簿
部 会 長
古在 豊樹
千葉大学
学長
世 話 人
世 話 人
齊藤 郁夫
長尾 啓一
慶應義塾大学 千葉大学 保健管理センター所長
総合安全衛生管理機構長
国立大学幹事
宮川 八平 吉野 啓子
相澤 徹
大塚 盛男
坂口 明
井上 哲文
須甲 松信
影山 任佐
加藤 喜子
鈴木 芳樹
茨城大学
宇都宮大学
信州大学
筑波大学 電気通信大学
東京外国語大学
東京芸術大学
東京工業大学
東京大学
新潟大学
保健管理センター所長
保健管理センター所長
健康安全センター所長
保健管理センター所長
保健管理センター所長
保健管理センター所長
保健管理センター教授
保健管理センター教授
保健センター事務部主査
保健管理センター所長
私立大学幹事
五味 愼太郎
岡田 純
米山 啓一郎
齋藤 宣彦
葛 輝子
中野 隆史
佐藤 和人
吉田 正
大矢 達男
青山学院大学
北里大学
昭和大学
聖マリアンナ医科大学
東海大学
獨協大学
日本女子大学
星薬科大学
立教大学
保健管理センター所長
健康管理センター長
保健管理センター所長
内科学教授
保健管理センター係長
保健センター所長
保健管理センター所長
保健管理センター長
診療所長
当番大学幹事
中田 暁
清水 富雄
緑川 治夫
吉田 智子
千葉大学
千葉大学
千葉大学
千葉大学
総合安全衛生管理機構講師
学生部学生支援課長
学生部学生支援課専門職員
総合安全衛生管理機構看護師
前年度
当番大学幹事
赤石沢 京子
日本女子大学
保健管理センター主任
次年度
当番大学幹事
矢那瀬信雄
佐野 顕
中野 宏
藤田 恵子
北里大学
北里大学 北里大学
北里大学
健康管理センター講師
学生サービス部次長
健康管理センター課長
健康管理センター看護係長
-130 -
⑸ 社団法人全国大学保健管理協会
関東甲信越地方部会規約
昭和42年 1 月21日協会制定
昭和43年 4 月 1 日改正 昭和45年11月 7 日改正 昭和47年 4 月 1 日改正 昭和54年 7 月19日改正 平成元年 7 月20日改正 平成 8 年 7 月11日改正 (設 置)
第 1 条 社団法人全国大学保健管理協会定款(以下「定款」という。)第 34 条の規定に基づ
き社団法人全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会(以下「地方部会」という。)をおく。
(目 的)
第 2 条 地方部会は、関東甲信越地方における大学保健管理について連絡協議し、その向上
発展に資するとともに、定款第 5 条に定める事業を行うことを目的とする。
(世話人)
第 3 条 定款第 36 条第 2 項の規定に基づき、地方部会に世話人 3 名をおく。
2 世話人は、地方部会の業務を処理する。
3 世話人の任期は、3 年とし、再任を妨げない。ただし、世話人が欠けた場合における補
欠の世話人の任期は、前任者の残任期間とする。
(部会長)
第 4 条 地方部会は、当番校を定め、部会長をおく。
2 部会長は、当番校の学長をもってあてる。
3 部会長は、地方部会を代表し、業務を遂行する。
(総 会)
第 5 条 地方部会は、毎年 1 回総会を開催する。ただし、必要に応じて臨時総会を開くこと
ができる。
2 総会は、部会長が招集する。
3 地方部会の業務および運営等に関する重要事項については、総会に提出してその承認を
受けなければならない。
(幹事会)
第 6 条 地方部会の運営を円滑にするために、幹事会をおく。
2 幹事会は、地方部会の業務及び運営等に関する重要事項について審議する。
3 幹事会は、世話人及び幹事 20 名以上 40 名以内をもって組織する。
-131 -
4 幹事は、地方部会の会員のうちから幹事会の議を経て、部会長が委嘱する。
5 幹事の任期は、3 年とし、再任を妨げない。
6 幹事会は、部会長が必要に応じて召集する。
(専門委員会・分科会)
第 7 条 部会長は、会の運営上必要があるときは、専門委員会・分科会をおくことができる。
(名誉会員)
第 8 条 部会長は、地方部会の事業に対し特に功労があった者の中から、総会の議決をもっ
て名誉会員を推薦することができる。
(事務所)
第 9 条 地方部会の事務所は、部会長の属する大学内におく。
(費 用)
第10条 地方部会の運営に要する費用は、全国大学保健管理協会の交付金および同関東甲信
越地方部会研究集会補助金の収入をもってあてる。
(その他)
第11条 この規約に定めるもののほか、地方部会の運営について必要な事項は、部会長が幹
事会の議を経て定める。
付 則
この規約は、平成元年 7 月 20 日から施行する。(代表世話人を部会長に変更)
付 則
この規約の改正は、平成 8 年 7 月 11 日から施行する。(専門委員会に分科会を加える)
-132 -
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会
⑹ 平成 17 年度保健・看護分科会運営委員名簿
委員長
葛 輝
子
東海大学保健管理センター
副委員長
服
道
子
青山学院大学保健管理センター
赤石沢 京 子
日本女子大学保健管理センター
真 壁 香
東京大学保健センター
秋 山 富貴子
筑波技術短期大学教務第二課
門
新潟経営大学健康管理増進室
部
野
香
里
進 藤 なり子
十文字学園女子大学健康管理センター
西 沢 理恵子
信州大学健康安全センター
綱
川
恵
子
宇都宮大学保健管理センター
吉
田
智
子
千葉大学総合安全衛生管理機構
-133 -
⑺ 社団法人全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会
保健・看護分科会運営規約
(設 置)
第 1 条 社団法人全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会(以下「地方部会」という)規
約第 7 条の規定に基づき、地方部会に保健・看護分科会(以下「分科会」という)を設ける。
(目 的)
第 2 条 分科会は、会員相互の連絡を図り、保健業務の研究及び向上発展に資することを目
的とする。
(構 成)
第 3 条 分科会は、地方部会加入校の保健・看護担当職員によって構成する。
(運営委員会)
第 4 条 分科会の運営を円滑に行うため、運営委員会を置く。
2 分科会の運営委員は、運営委員会の議を経て部会長が委嘱する。
3 運営委員会に運営委員長 1 名、副委員長 1 名、委員若干名を置き、委員の互選により選
出する。
4 委員の任期は、2 年とする。ただし、再任は妨げない。
5 運営委員会は毎年 1 回委員長が召集し、その議長となる。ただし、委員長が必要と認め
た場合は、臨時に召集する事ができる。
(その他)
第 5 条 運営委員長は、分科会の行う事業について部会長に報告し、幹事会の承認を得るも
のとする。
付 則
この規約は、平成 9 年 7 月 10 日から施行する。
-134 -
⑻ 第 43 回地方部会研究集会参加者名簿
No
大 学 等 名
氏 名
No
大 学 等 名
氏 名
1
川 﨑 仁 志
36 関東学院大学
2
松 本 さゆり
37 木更津工業高等専門学校 柳 澤 静 代
砂 川 英 代
38
4
五 味 愼太郎
39
5
服 部 道 子
40
3
青山学院大学
矢 﨑 有拡子
岡 田 純
北里大学
矢那瀬 信 雄
藤 田 恵 子
6
亜細亜大学
皆 上 カズエ
41
寺 島 吉 彦
7
足利工業大学
阿 部 直 子
42 共愛学園前橋国際大学
竹 渕 みゆき
8
跡見学園女子大学短期大学部 有 光 千穂子
43 共立女子大学
呉 屋 美佐江
9
跡見学園女子大学
北 野 俊 子
44 群馬県立県民健康科学大学 中 村 美代子
10
宮 川 八 平
45
11
内 田 千代子
46
12 茨城大学
高 安 ツギ子
47
13
斉 藤 端 子
48
14
深 谷 美 架
49
斉 藤 むつ子
50
根 本 旬 子
51
17 植草学園短期大学
西 川 艶 子
52
18
岡 田 真由美
53 國学院大学
佐 藤 明 美
綱 川 恵 子
54 国士舘大学
瀧 澤 博 美
加 藤 渉 子
55
森 山 朋 美
21
吉 野 啓 子
56 駒澤大学
伊 藤 玲 奈
22 浦和大学短期大学部
高 野 直 美
57
石 川 智 恵
23 恵泉女学園大学
吉 村 郁 美
58 埼玉大学
関 直 彦
24 大妻女子大学
手 嶋 洋 子
59
小 牧 宏 一
25 お茶の水女子大学
大 木 勢津子
60
26
藤 巻 恵 子
61 産能大学
三 宮 美 穂
浜 崎 すみ子
62 産能短期大学
木 村 幸 子
28 神奈川歯科大学
大 森 純 子
63 実践女子大学
水 野 明 子
29 鎌倉女子大学
金 子 恵 子
64
土 井 惠 子
30 川村学園女子大学
山 下 千 信
65
31
高 橋 修一郎
66
三 好 弘 子
67
33
鈴 木 初 子
68 淑徳大学
原 麗 子
34 関東学院大学
西 岡 美知子
69 淑徳短期大学
大 里 てるみ
35
吉 本 美代子
70 上越教育大学
舩 越 幸 子
15
16
19
20
27
32
茨城キリスト教大学
宇都宮大学
神奈川大学
神田外語大学
-135 -
敬愛大学
平 野 典 子
西 村 恵 子
齋 藤 郁 夫
慶應義塾大学
田 中 由紀子
久根木 康 子
青 木 和 美
工学院大学
埼玉県立大学
芝浦工業大学
十文字学園女子大学
敏 蔭 美和子
手 塚 優 子
吉 田 由 紀
野 原 栄 子
進 藤 なり子
川 田 尚 子
No
大 学 等 名
氏 名
No
大 学 等 名
氏 名
71 城西大学
小 西 くに子
106 聖マリアンナ医科大学
齊 藤 宣 彦
72
土 肥 和 子
107 聖路加看護大学
中 山 久 子
井 上 理 恵
108
渡 邉 京 子
平 憲 一
109
山 﨑 範 子
110 創価大学
染 谷 美貴恵
76 上智短期大学
久 保 洋 子
111 大東文化大学
原 田 保 子
77 湘南国際女子短期大学
山 内 優 子
112 高崎経済大学
吉 井 玲 子
78
柴 田 崇 浩
113
加 藤 紀 子
佐 藤 和 江
114
阿久沢 比左江
115 多摩大学
関 美 穂
鶴 岡 一 世
116 多摩美術大学
西 郷 あき子
米 山 啓一郎
117 千葉経済大学
平 井 節 子
83
高 田 正 枝
118 千葉経済大学短期大学部 桝 本 直 美
84 昭和音楽大学
長 田 朱 美
119 千葉県立衛生短期大学
五十嵐 かおる
85
村 松 茂 樹
120
関 上 悦 子
佐 野 洋 子
121
87
米 原 早 苗
122
吉 村 豊
88 女子栄養大学
高 木 巳 和
123
三 木 政 海
89
高 井 ノリ子
124 中央大学
吉 澤 裕 世
90
相 澤 徹
125
田 村 恵 美
91
鷲 塚 伸 介
126
安 藤 誠
徳 原 さえ美
127 中央学院大学
川久保 整 子
児 玉 邦 代
128
大 塚 盛 男
94
西 沢 理恵子
129
95
林 弘 子
130
96 駿河台大学
牛 越 ひろみ
131 国立大学法人筑波技術短期大学 諸 岡 治 美
97 諏訪東京理科大学
濱 由加里
132
秋 山 富貴子
98 聖学院大学
矢 作 量 子
133 つくば国際大学
今 高 恵 子
99 成蹊大学
瀧 澤 信 子
134
山 崖 俊 子
100 政策研究大学院大学
手 嶋 秀 子
135
101 成城大学
谷 川 真理子
136 都留文科大学
山 本 純 子
102 聖心女子大学
藤 井 智恵美
137 帝京大学
古 玉 佐知子
103 清泉女子大学
平 澤 恵津子
138
坂 口 明
104 聖徳大学
前 沢 髙 子
139 電気通信大学
田 中 健 滋
105 聖マリアンナ医科大学
太 田 直 樹
140
青 柳 輝 美
73
74
75
79
城西国際大学
上智大学
尚美学園大学
80
81
82
86
92
93
昭和大学
職業能力開発総合大学校
信州大学
-136 -
専修大学
拓殖大学
千葉工業大学
筑波大学
西 俣 明 美
中 山 修 子
矢 島 久 子
久 賀 圭 祐
深間内 文 彦
津田塾大学
石 井 ゆかり
No
大 学 等 名
氏 名
No
大 学 等 名
氏 名
141
葛 輝 子
176 東京女子体育大学
桑 田 昌 子
142
萱 場 隆 人
177
堀 井 登志喜
中 山 直 子
178
佐 藤 みゆき
179 東京造形大学
伯耆原 純 穂
145
北 浦 綾 乃
180
野 村 好 重
146
笠 富美子
181 東京電機大学
長 島 由里子
147 東海大学短期大学部
浦 野 美枝子
182
小野寺 伴 子
148
村 田 逸 美
183 東京農業大学
松 田 典 子
149
川 瀬 英 理
184
百 鬼 史 訓
150
真 壁 香
185
早 川 東 作
151 東京大学
高見沢 聡 美
186 東京農工大学
阿 部 眞 弓
152
駒 井 昌 子
187
古 田 美 恵
153
井 口 涼 子
188
福 辺 美佐子
154
加 藤 恵美子
189 東京薬科大学
関 口 ナミ子
金 野 滋
190
太 田 宏 平
大 澤 里 惠
191
157 東京音楽大学
青 柿 理 恵
192
158
塚 越 昌 幸
193
加 藤 まり子
194
木 谷 誠 一
195
小 室 理恵子
196
長 部 ひとみ
197
相 原 由喜子
198 東洋英和女学院大学
井 上 佳 代
高 橋 由美子
199
玉 野 利 子
八重樫 イ ツ
200
166 東京経済大学
新 井 美津代
201
中 野 隆 史
167 東京芸術大学
須 甲 松 信
202 獨協大学
鈴 木 利 治
168
齋 藤 憲 司
203
小 林 恭 子
169
安 宅 勝 弘
204
山 崎 万智子
205
樋 田 伸 子
206 長岡工業高等専門学校
石 丸 のり子
172
小 川 宣 子
207 長野大学
井古田 眞喜子
173
青 木 八千子
208 新潟大学
青 木 定 夫
174 東京工芸大学
波 塚 悦 子
209 新潟経営大学
門 野 香 里
175 東京女子大学
砂 川 昌 子
210 新潟工科大学
田 中 直 子
143
144
155
156
159
160
161
162
163
164
165
170
171
東海大学
東京医科歯科大学
東京外国語大学
東京海洋大学
東京学芸大学
東京家政大学
東京工業大学
-137 -
東京成徳大学
東京理科大学
高 木 典 子
伊 藤 享 子
鈴 木 雅 子
内 藤 輝 子
東邦大学
東洋大学
東洋学園大学
長岡技術科学大学
秋 元 幸 子
清 水 美 江
井 波 正 子
堀 木 美恵子
丹 後 由 美子
三 宅 仁
小 番 美 穂
No
氏 名
No
211 新潟産業大学
伊 部 多実子
246
212
矢 部 典 子
247
高 橋 茂 子
248 フェリス女学院大学
田 中 ゆ り
214 二松学舎大学
榊 原 あづさ
249
永 田 久美子
215
結 城 孝 子
250
216
遠 藤 明 子
251 防衛医科大学校
安 部 京 子
217
杉 山 綾 子
252
對 馬 洋 子
218
清 水 道 子
253 法政大学
土 屋 康 子
219
松 村 悦 博
254
菅 井 亜津子
220
今 津 ひとみ
255
吉 田 正
221
滝 川 妙 美
256 星薬科大学
武 藤 章 弘
222
若 月 ツヤ子
257
酒 巻 保 子
223 日本大学
飯 岡 美和子
258 武蔵大学
瀬 在 泉
224
松 本 あや子
259 武蔵丘短期大学
柏 原 令 子
225
村 松 みどり
260 武蔵工業大学
来 栖 栄 子
226
細 川 幸 子
261 武蔵野音楽大学
佐 藤 光 紀
227
西 澤 幸 子
262 武蔵野美術大学
黒 江 恵 子
228
渡 会 桂 子
263
長谷川 彰 彦
229
加 藤 寿 樹
264
230
佐々木 孝 全
265
231
東 一 之
266
232 日本工業大学
小 川 万希子
267
233 日本歯科大学
丹 純 子
268
234 日本社会事業大学
河 野 広 美
269
235 日本獣医畜産大学
馬 場 雅 子
270
236
赤石沢 京 子
271 明星大学
松 橋 みち子
水 嶋 由 美
272
三 輪 悦 子
山 本 美智子
273
239
佐 藤 和 人
274
240 日本女子体育大学
前 田 真 弓
275
241 日本赤十字看護大学
力 石 恵美子
276 山梨英和大学
筒 井 加 奈
242 日本体育大学
大 野 誠
277 山梨県立大学
末 木 恵 子
243 日本橋学館大学
近 藤 治 江
278
田 中 悦 子
244
室 井 浩 代
279
小 森 幸 子
280 横浜商科大学
213
237
238
245
大 学 等 名
新潟薬科大学
日本女子大学
白鷗大学
-138 -
大 学 等 名
一橋大学
文教大学
明海大学
氏 名
柳 澤 千恵子
丸 田 伯 子
片 岡 江里子
加 藤 美知子
西 京 子
坂 上 明 子
明治大学
明治学院大学
目白大学
山梨大学
横浜国立大学
湯 浅 房 江
就 鳥 弘 子
工 藤 たみ子
井 上 美 紀
原 美貴子
守 屋 圭 子
中 込 裕 美
鍋 嶋 多 美
小 川 すみ江
No
大 学 等 名
氏 名
281 横浜商科大学
佐 野 裕 美
282 横浜市立大学
近 藤 智津恵
283 横浜美術短期大学
半 田 晃 子
284
大 矢 達 男
285 立教大学
木 島 出
286
岡 﨑 恵美子
287
288
立正大学
塚 越 千 明
藤 原 ひで子
289 ルーテル学院大学
外 山 康 枝
290
高 井 満
291
麗澤大学
292
293
294
上 栁 智 津
早稲田大学
295
296
297
井 村 サト子
滝 口 香奈子
津久井 美佐子
谷地田 加代子
和洋女子大学
林 喜美子
今 井 ミツ子
298
長 尾 啓 一
299
山 田 敏 久
300
301
千葉大学
中 田 暁
坂 惠 里恵子
302
吉 田 智 子
303
生 稲 直 美
-139 -
全国大学保健管理協会関東甲信越地方部会
⑼ 第 43 回研究集会参加者アンケート結果
1 .参加者 参加者数 303 名 アンケート回収数(率) 112 名 (37.0%)
2 .回答者の職種
人
70
60
50
40
30
20
10
0
67
27
7
医
師
保
健
師
看
護
師
1
0
2
�
�
�
�
�
�
保
健
体
育
教
員
養
護
教
諭
8
事
務
職
0
0
�
�
他
無
回
答
3 .講演・報告・シンポジウム「学生の身近な感染症を巡る諸問題」について
1 )満足度
不 満
1%
無回答
5%
大変満足
16%
普 通
22%
満 足
56%
-140 -
2 )興味深かった講演・報告
(複数回答)
千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と挑戦
大学生活を大切に
問診力
日本人留学生の旅行医学
青年期の精神障害とその治療
中越地震での大学危機管理
0
20
40
60
80 人
3 )シンポジウム「学生の身近な感染症を巡る諸問題」で興味深かった講演
(複数回答)
最近の食中毒
感染症関連検査
ウィルス感染症
0
20
40
60 人
4 .保健・看護分科会シンポジウム「留学生への健康支援―現状と課題」について
1)満足度
無回答
15%
大変満足
13%
不 満
2%
普 通
21%
満 足
49%
-141 -
2 )保健・看護分科会シンポジウム「留学生への健康支援―現状と課題―」で興味深かっ
た講演
(複数回答)
効果的な留学生支援をめざして
ー異文化間心理学の視点からー
身近な留学生相談活動
大学における外国人留学生の健康状況
0
20
60 人
40
5 .今回の研究集会の運営について
【スタッフの対応】
【プログラムの進行】
不 満
1%
無回答
4%
不 満
2%
大変満足
24%
普 通
19%
無回答
4%
大変満足
17%
普 通
24%
満 足
53%
満 足
52%
-142 -
⑽ 胸部 X 線検診に関するアンケート調査
調査票・回答用紙
質問1.大学名(国立大学法人・私立 大学)
質問2.学部学生総数 約( )人
質問3.貴学に次のいずれかの学部がありますか? 1または2に○をつけて下さい。
1に○をつけた場合は該当する①②などの番号を記載してください。
①医学部 ②看護学部 ③保健学部 ④薬学部 ⑤福祉学部 ⑥教育学部 ⑦その他医療関
係学部
1.ある( ) 2.ない
質問4.平成17年度定期健康診断での胸部X線検査をどうされましたか?番号に○をつけ
て下さい。4に○をつけた場合は具体的な記載をして下さい。
1.全学生に実施、2.1年生だけに実施、3.1年生と4年生に実施、4.学部によって
異なる( )
質問5.平成18年度定期健康診断での胸部X線検査の実施予定はどうなっていますか?
番号に○をつけて下さい。4に○をつけた場合は具体的な記載をして下さい。
1.全学生に実施、2.1年生だけに実施、3.1年生と4年生に実施、4.学部によって
異なる( )、
5.未定
以上です。ご協力ありがとうございました。
差し支えなければ記載者の所属、職種とお名前をお教え下さい。
所属( ) 職種( ) ご氏名( )
-143 -
胸部 X 線検診に関するアンケート調査結果
アンケート集計 回答校
別紙
質問 1 大学名 145
質問 2 学部学生総数
回答数
999 名以下
25
1000 以上 4999 以下
66
5000 以上 9999 以下
28
10000 以上
25
( 空白 )
1
合 計
145
構成比
17.2%
45.5%
19.3%
17.2%
0.7%
100.0%
質問 3 (複数回答) 所持学部
回答数
1. あり
①医学部
②看護学部
③保健学部
④薬学部
⑤福祉学部
⑥教育学部
⑦その他の医療関係学部
未記入
2. なし
( 空白 )
合 計
67
15
15
4
11
23
24
22
1
77
1
145
構成比
46.2%
23.1%
23.1%
6.2%
16.9%
35.4%
36.9%
33.8%
1.5%
53.1%
0.7%
100.0%
質問 4 平成 17 年度定健時胸部 X 線実施状況
回答数
構成比
1. 全学生に実施
133
92%
2. 1年生だけに実施
3
2%
3. 1年生と4年生に実施
2
1%
4. 学部によって異なる
5
3%
( 空白 )
2
1%
合 計
145
100%
質問 4 医療系学部あり、なし別
1. あり
2. なし
1. 全学生に実施
61
2. 1年生だけに実施
1
3. 1年生と4年生に実施
4. 学部によって異なる
3
( 空白 )
2
合 計
67
( 空白 )
総計
71
2
2
2
1
77
1
133
3
2
5
2
145
質問 4 (記述)
・教育学部のみ全学生
・新入生以外に実施
・医療関係学部は全学年、その他の学部は1年生(新規編入学生を含む)、医師の指示のあっ
た者及び希望者
・2、3、4、院生に実施
・新入生4年、5年、専攻科生
・歯学部は1、5年生のみに実施。他の学部は全学生に実施
-144 -
質問 5 平成 18 年度定健時胸部 X 線実施予定
回答数
構成比
1. 全学生に実施
88
60%
2. 1年生だけに実施
4
3%
3. 1年生と4年生に実施
5
3%
4. 学部によって異なる
6
4%
5. 未定
42
29%
( 空白 )
0
0%
合 計
145
100%
質問 5 医療系学部あり、なし別
1. あり
2. なし
1. 全学生に実施
45
42
2. 1年生だけに実施
1
3
3. 1年生と4年生に実施
5
4. 学部によって異なる
6
5. 未定
15
27
合 計
67
77
( 空白 )
総 計
1
1
88
4
5
6
42
145
質問 5 ( 記述 )
・教育学部のみ全学生
・1年生と実習予定の3、4年生
・医学部、教育学部は全学生、その他の学部は1、4年生に実施
・医療関係学部は全学年、その他の学部は1年生(新規編入学生を含む)、医師の指示のあっ
た者及び希望者
・1年、3年、4年に実施
・1年生及び1年生以外の学年は全学年希望学生に実施予定 法学部、商学部、理工学部、工
学部、生物資源科学部 ・医・歯・薬系なので全学年に実施予定 医学部、松戸歯学部、薬
学部 ・その他 芸術学部(全学生に実施予定) 生産工学部(大学院を含め全学年に従前通り実施
予定) 歯学部(1年生への実施は決定しているが2年~6年生については未定)
・未定 文理学部、国際関係学部
・1年生全員と福祉学科、子ども学科、教職履習者、保健医療学部、看護学部
-145 -
胸部 X 線検診アンケート回答大学等一覧
質問1(大学等名)
青山学院大学
亜細亜大学
足利工業大学
跡見学園女子大学短期大学部
跡見学園女子大学
茨城大学
茨城キリスト教大学
植草学園短期大学
宇都宮大学
浦和大学短期大学部
恵泉女学園大学
大妻女子大学
お茶の水女子大学
神奈川大学
神奈川歯科大学
鎌倉女子大学
神田外語大学
北里大学
共立女子大学
共愛学園前橋国際大学
群馬県立県民健康科学大学
敬愛大学
慶應義塾大学
國學院大学
国士舘大学
駒澤大学
埼玉大学
埼玉県立大学
産能大学
産能短期大学
実践女子大学
芝浦工業大学
淑徳大学
淑徳短期大学
上越教育大学
城西国際大学
上智大学
上智短期大学
湘南国際女子短期大学
尚美学園
昭和大学
昭和音楽大学
職業能力開発総合大学校
女子栄養大学
信州大学
駿河台大学
諏訪東京理科大学
聖学院大学
成蹊大学
政策研究大学院大学
成城大学
聖心女子大学
清泉女子大学
聖徳大学
聖マリアンナ医科大学
聖路加看護大学
専修大学
創価大学
大東文化大学
高崎経済大学
拓殖大学
多摩大学
多摩美術大学
千葉経済大学
千葉経済大学短期大学部
千葉県立衛生短期大学
千葉工業大学
中央大学
中央学院大学
筑波大学
筑波技術短期大学
つくば国際大学
津田塾大学
都留文科大学
帝京大学
電気通信大学
東海大学
東海大学短期大学部
東京大学
東京医科歯科大学
東京音楽大学
東京外国語大学
東京海洋大学
東京学芸大学
東京家政大学
東京経済大学
東京芸術大学
東京工業大学
東京工芸大学
東京女子大学
東京女子体育大学
東京成徳大学
東京電機大学
東京農業大学
東京薬科大学
東京理科大学
東邦大学
東洋大学
東洋英和女学院大学
東洋学園大学
獨協大学
長岡技術科学大学
長岡工業高等専門学校
長野大学
新潟大学
新潟経営大学
新潟工科大学
新潟産業大学
-146 -
新潟薬科大学
二松学舎大学
日本大学
日本歯科大学
日本工業大学
日本社会事業大学
日本獣医畜産大学
日本女子体育大学
日本赤十字看護大学
日本体育大学
日本橋学館大学
白鴎大学
フェリス女学院大学
文教大学
星薬科大学
武蔵大学
武蔵工業大学
武蔵野音楽大学
武蔵野美術大学
明海大学
明治大学
明治学院大学
明星大学
目白大学
山梨大学
山梨英和大学
横浜国立大学
横浜商科大学
横浜美術短期大学
立教大学
立正大学
ルーテル学院大学
早稲田大学
和洋女子大学
一橋大学
関東学院大学
千葉大学