2013/4/11 1. 医療経済学の課題 1.1. 医療サービスの経済学的な特徴 1.1.1. 情報の非対称性 専門家である医師や看護師などと,患者や家族と のあいだに専門的な知識について決定的なギャッ プが存在する.他の産業と比較してかなり特殊な 専門性が存在 つまり専門職のひとつ 専門性が存在.つまり専門職のひとつ. ↓ 顧客との間に埋めがたい情報の非対称性存在 医療にまつわる問題は直接自分の生命にかか わる 重篤な病気ほど医師の言葉に従わざるを得ない 平成23年医療施設調査(厚生労働省HPより) 1 消費者主権が一般には成立しない医療サービス →「インフォームド・コンセント」も未だ不十分であり,経験 による学習も困難. 消費者主権に基づく競争均衡を実現するにはどうしたらよ いか? →専門家たる医師や専門家集団が,患者の忠実な代理 人として行動すること このような条件がみたされれば,たとえ患者が医療につい て無知でも,依然として競争均衡は成立し得る. しかし一般にはやはり市場の失敗が発生する.医療サー ビスは専門財 (professional goods).弁護士,会計士,大 学教師.これらの職につくものは一定の倫理が必要. 2 1.1.2. 供給独占 病床数で約70%は民間病院.しかし,過疎地帯や 特殊な診療科目では,国公立病院に依存せざるを 得ないが,供給独占になるのは必至.競争均衡 と比較して,価格は高く生産量は低下し,それだけ 総余剰も減少し 市場の失敗が発生する 総余剰も減少し,市場の失敗が発生する. 1.1.3. 外部性 インフルエンザと予防接種 予防接種をした人は, それによって自らインフルエンザに感染するリスク が低下し,私的便益を受けるだけでなく,流行の可 能性をいくぶんでも低下させて,受けていない人の 感染リスクを軽減させ,外部経済を生み出している. 私的便益 + 外部性 = 社会的便益 他者の健康状態が自分の効用に影響する外部性 →U = u (c, x, X), ただしXは他者の健康.→困難 な移植の成功を願う国民的心情など.特に家族の 健康状態は重要.医療サービスの外部性の存在. 5 1.1.4. 需要の不確実性 人はいつ病気になるか,また,けがをするか予測 できない 「医療需要の不確実性」 →不確実性への対応としての保険制度 自動車保険,損害保険と同様に医療保険 国民皆保険の成立(1961年)の重要性 加えて,供給側すなわち医療行為の不確実性も存 在する.その原因は,輸血ミス,点滴ミスといった いわゆる医療過誤だけでなく,患者の個体差に起 因する治療効果の不確実性にある. 過疎地域・特殊診療科目 情報の非対称性 一層供給側の独占の可能性は高くなる 4 3 6 1 2013/4/11 1.2. 医療サービスの市場的な資源配分: 市場の失敗 4つの特徴をより経済学的に考える(情報の非対称性と外部性). 1.2.1. 情報の非対称性 現在の日本では,医師や医療機関の診療報酬は「出来高 払い」(fee for service) であり,一部には入院などの「定 額制」(per (p monthあるいはper p day) y) になっているが,多 くは医療サービスを提供するごとに,所得が増える報酬制 度になっている. →患者の忠実な代理人の責務を十分には全うせず,医学 的に必要な水準以上の医療サービスを提供するだろう. 諸外国と比較した場合の,「過剰投薬」,「過剰検査」現象. 7 医療サービス需要において,医師・医療機関が患 者の代理人として行動するなら,患者の代わりに 需要するのだから,供給者と同時に需要者にもな る.さらに診療報酬が出来高払いなら医師・医療 機関は本来患者が必要とする以上に医療サービ スを需要し,それに応じて供給することになる.次 頁の図1はそうした状況を示している. 8 医療サービスの価格 D’ D S 厚生損失 E’ E D’ S 0 D 医療サービス 図 1 医師誘発需要 師誘発需要 本来の需要曲線はDDであり,供給曲線SSとの交 点はEである.しかし,もし医師が患者の必要とす る以上に需要するならば,つまり必ずしも忠実な代 理人でないならば,そのとき需要曲線はD’D’となり, 9 供給曲線との交点はE’と右上に位置する. 医師誘発需要 医師や医療機関が所得を高めるために, 医学的に必要な以上の医療サービスの需要を意図的に 行うこと 一般的に言って,医療を市場的に資源配分すれば,この 医師誘発需要が存在するために,市場の失敗が発生する. 図において,市場の失敗による厚生損失は三角形部分. すなわちこの三角形の面積部分は 医学的に必要な患者 すなわちこの三角形の面積部分は,医学的に必要な患者 の医療サービスに対する限界便益よりも,それを供給する ための限界費用の方が高く,社会的な厚生損失が発生し て,その総額はこの面積になる. 情報の非対称性 出来高払い制 患者の悪しき代理人→市場の失敗 ⇔「医師誘発需要」 10 1.2.2. 外部性 インフルエンザと同様の問題 伝染性の病気はそ の好例.結核やペスト.結核は戦後の抗生物質の 出現までは,日本でも長らく死亡原因のトップを占 めていた. ここでは,例えば予防接種による私的限界便益と 外部効果,社会的限界便益の関係を,図2を用い て検討しよう. 11 まず,ある個人が予防接種を受ければ,受けてい ない人々にも恩恵がおよぶから,図のように社会 的限界便益曲線は私的限界便益曲線を上回る. 一方,これまでの議論と同様にして,1単位の予防 接種を生産するのに追加的に要する費用を限界費 用曲線として右上がりに描く 市場的には 人々は 用曲線として右上がりに描く.市場的には,人々は 私的限界便益と限界費用の一致するE点まで予防 接種を受けると考えられる.しかし一見すると明ら かなように,E点では社会的厚生は最大化されてい ない.社会厚生の最大化が実現するのはE’点であ 12 る.ここに市場の失敗の発生が明示できる. 2 2013/4/11 予防接種の価格 限界費用曲線 E’ E 社会的限界便益曲線 私的限界便益曲線 予防接種の量 0 図 2 予防接種の外部効果 13 医療サービス一般の場合,外部性の存在によって 市場的な資源配分がどの程度失敗するかはもちろ ん明らかでない.しかし,旧来の伝染病は過去の ものかもしれないが,たとえば「エイズ」の恐ろしさ を再認識するなら 医療サービスの外部性は依然 を再認識するなら,医療サービスの外部性は依然 として無視できない. 14 3
© Copyright 2024 Paperzz