ニューズレター 第8号 2004年6月

防災科学技術研究所
ニューズレター
第8号
巻頭特集「災害に対する社会的備えの構造評価法に関する研究」の紹介・・・・ 1
プロジェクト活動報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
● 新スタッフ紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
● 研究発表・行事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
2004年6月
●
●
No.
8
特集:「災害に対する社会的備えの構造評価法に関する研究」の紹介
岡田憲夫 氏(京都大学防災研究所,防災科研客員研究員)
杉万俊夫 氏(京都大学人間・環境学研究科)
渥美公秀 氏(大阪大学人間科学研究科)
私たちのチームでは,阪神・淡路大震災で注目を浴びた災害ボランティア活動に焦点
をあて,災害時のボランティア活動とそれを支える災害NPOや行政,企業,そして,市
民が,これからの災害に対して,いかなる社会的備えを整えつつあるのかということに
ついて,事例研究,実践研究,理論研究を進めてきました.ここでは,平成15年度に行っ
た研究を紹介し,最終年度に向けた平成16年度の研究計画を述べます.
阪神・淡路大震災を契機に,ボランティアやNPO
(の一部)を普及していくための試みとして様々
を含んだ災害救援システムの(再)構築が行われて
なツールを開発する(知識・技術の可視化)ことが
きました.しかし,救援システムに関する知識・技
必要だと考えました.そこで,平成15年度は,前年
術は,自治体の防災担当部署内部や一部の災害NPO
度までの成果を踏まえて,以下の4つの研究を推
に極端に遍在しており,必ずしも,災害救援の全貌
進しました.
を視野に入れた整理ができているわけではありま
なお,研究期間中に,宮城県北部連続地震(2003
せん.本研究チームでは,災害に対する強度の高い
年7月26日)が発生し,参与観察の場となっている
社会システムの実現に向けて,より多様な組織や
災害NPO「特定非営利活動法人 レスキューストッ
人材を視野に入れた展開を図るために,①偏在し
クヤード」(名古屋市)が,救援活動を展開したの
ている知識・技術を集約して閲覧できるようにし
で,私たちも活動に参加し,下記研究を実地にて深
(救援システムの全貌の可視化),②救援システム
めることとなりました.
事例研究1
災害NPOらが実施している知識・技術の集約の場での参与観察
事例研究2
救援システムの普及策の1つとしての地域防災プログラムへの参与観察
実践研究
救援システムの普及策の1つとしてのビデオ教材の作成
理論研究
災害NPOが社会的防災力の強化に果たす役割と課題
1
特集:「災害に対する社会的備えの構造評価法に関する研究」の紹介
事例研究
国内各地に点在する災害NPOは,阪神・淡路震災
以来,様々な災害救援現場に赴き,活動経験を重ね
ています.しかし,各NPOでは,救援活動から得た
経験が組織の内部に蓄積されるだけで,なかなか
相互に交換されて共有の知となる機会がないと感
じていました.そこで,NPOの有志や研究者が集
まって,それぞれの経験を交換し,共有する場とし
て,
「智恵のひろば」という集まりを立ち上げまし
た.レスキューストックヤードは,東海・東南海・
地域防災ワークショップの様子(名古屋市)
南海地震を前に,災害救援をめぐる経験や知識の
共有(つまり「智恵のひろば」)の必要性を最も強
く感じていたNPOの1つでしたので,阪神・淡路大
(宮城県北部連続地震).レスキューストックヤー
震災や東海豪雨水害での経験を共有すべく,
「智恵
ドは,震災直後から,事務局長を現地に派遣し,被
のひろば」の中心的役割を果たすことになりまし
災地となった南郷町で,地元の社会福祉協議会,地
た.本研究チームは,前年度までに,レスキュース
元の災害NPO,各地から駆けつけた災害NPOととも
トックヤードで参与観察を行い,東海豪雨水害を
に,災害ボランティアセンターの設立に携わりま
中心とした救援活動の経緯を調査するとともに,
した.本研究チームもこの救援活動に参加しなが
彼らが地元で実施している地域防災プログラムに
ら,災害ボランティアセンターの設立から解散ま
ついて検討を重ねてきましたので,「智恵のひろ
での経緯を記録し,災害時における災害NPOの役割
ば」において,レスキューストックヤードに蓄積さ
と災害ボランティアセンターの機能を分析し,課
れてきた経験がどのように集約されていくのかと
題を抽出しました.その際,災害ボランティアセン
いう観点から,
「智恵のひろば」での討議の内容と
ターの立ち上げが順調に行われた南郷町と,その
過程を検討しました(事例研究1).また,レス
設置までに1週間程度を要した鹿島台町とを比較
キューストックヤードが実施してきた地域防災プ
検討しました.その結果,災害救援システムの全
ログラムを救援システムの普及という観点から検
貌,ないし,ある程度の全体図がボランティアセン
討し,地域への定着について検討しました(事例研
ターを立ち上げる当事者に示されることが,災害
究2).
ボランティアセンターの迅速な立ち上げと,より
こうした研究を進める中,2003年7月26日に宮
効率的な災害ボランティア活動にとって必要であ
城県で震度6弱および6強の地震が発生しました
ることが解りました.
実践研究
本研究チームで
立ち上げに関する全体図を提示できるものとする
は,救援システムの
ことを決め,
「特定非営利活動法人
普 及策 として の教
ボランティアネットワーク」
(神戸市)などの協力
材 づく りを予 定し
を得て,ビデオ教材を作成しました(実践研究).
ておりました.そこ
内容は,災害ボランティアセンターの設置過程を
で,宮 城 県 で の
1つ1つ説明するマニュアルとするのではなく,
フ ィー ルドワ ーク
あくまでその全体像を伝えることとし,これまで
をもとに,教材の内
に災害ボランティアセンターで中心的な役割を果
容を災害ボラン
テ ィア センタ ーの
たした「特定非営利活動法人
水害ボランティアセンター
(栃木県那須町,1998年)
日本災害救援
ハートネットふく
しま」
(郡山市:1998年北関東・南東北水害),
「特
2
特集:「災害に対する社会的備えの構造評価法に関する研究」の紹介
定非営利活動法人
レスキューストックヤード」
ボランティアに対するメッセージ」などを収録し
(2000年東海豪雨水害),および,南郷町社会福祉
ました.また,ビデオには,過去の災害ボランティ
協議会(2003年宮城県北部地震)のメンバーへのイ
アセンターの記録(の所在)や,センターを開設・
ンタビューを中心としました.インタビューでは,
運営していく上で必要となる書類(様式)なども示
「災害時にボランティアセンターは必要か」,「災
しています.なお,突発的に発生する災害時に,被
害ボランティアセンターでは何が大切か」,「上手
災地の社会福祉協議会職員等が見て参考にし,す
くいった例とその理由」,「上手く行かなかった例
ぐに開設に向けて動けるように,収録時間を極端
とその理由」「センター設営について,NPO,行政,
に短く10分程度としました.
理論研究
平成15年度は,こうした研究を通じて,災害
NPOが社会的防災力の強化に果たす役割と課題を
整理しました(理論研究).災害NPOは,行政の
ように公平性に極度にとらわれることなく,救援
や防災(の手助け)を必要としている人々に支援
を提供することができます.しかも,行政と市民
の間に立って,両者をつなぐとともに双方に提案
を行うこともできるでしょう.確かに,まだ十分
な数には至っていない災害NPOを増やすことも課
題と言えますが,同時に,災害救援の総合的な展
災害ボランティアセンター
(宮城県南郷町,2003年)
開を見据えて,災害に限定しない多種多様なNPO
との連携を進めていくことこそが今後の課題とな
ると整理しました.また,災害については,災害
のかという点を検討します.その際,専門家の言
NPOが,様々なNPOの中で災害に関する中間支援組
説と現場のボランティアの言説が,それぞれの体
織としての役割を果たすことを提案しましたが,
系において抽象的であることから,その具体化を
これは,「智恵のひろば」として結実しそうで
図って接点を探り,専門家とアマチュアを含んだ
す.
救援システムに関する政策提言を準備します.次
さて,平成16年度は,これまでの参与観察を継
に,災害NPOの活動現場で接する「一見奇妙な言
続するとともに,いよいよ最終年度に向かって,
説」を採り上げ,災害NPOの社会的役割に関する
政策提言の準備を推進します.まず,参与観察
考察を深め,災害NPOを含んだ災害救援システム
は,レスキューストックヤードの地域防災活動の
に関する理論を構築するとともに,そこから政策
拡がりと,「智恵のひろば」におけるレスキュー
提言を導きます.最後に,「智恵」とは何かとい
ストックヤードの経験の集約や発信の現状に注目
うことについて,理論的な考察を深め,智恵を軸
する予定です.その際,平成15年度に作成した教
とした社会的備えについて,政策提言を準備しま
材をいかに使うかということについて,災害NPO
す.
や社会福祉協議会の協力を得て検討する予定で
もちろん,災害の発生を願うわけでは決してあ
す.
りませんが,研究期間中に,レスキューストック
政策提言に向けた理論研究は,これまでの成果
ヤードが活動するような災害が発生した場合に
のとりまとめをもとに,次の3点について実施す
は,できるだけ救援現場に同行し,災害NPOの活
る予定をしています.まず,災害NPOという専門
動現場に身を置きながら,政策提言のアクチュア
家集団と,必ずしも専門家ではない災害ボラン
リティを探っていきたいと思います.
ティアとの間でどのように智恵がやりとりされる
3
プロジェクト活動報告
平成16年3月13日(土)名古屋工業大学
Pafricsを使ったワークショップ
−「災害Vネットあいち」において−
3月13日,名古屋工業大学で中京地域の災害ボ
質疑応答後,Pafricsに対する第一印象と災害
ランティア団体のリーダーを中心とした「災害V
意識を測定した事前アンケート調査と比較するた
ネットあいち」の会合が開かれた.当会合におい
め,事後アンケートを実施した.事後アンケート
て,当 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム が 開 発 し て い る
調査の結果,「Pafricsを用いて地域住民と水害
Pafrics (Participatory
Flood
Risk
について勉強してみたい」,あるいは「もっと詳
Communication Systems) を NPO 及 び NGO 関 係 者 の
しく話しを聞いてみたい」といった意見が多数寄
方々に紹介する機会を得た.我々が開発している
せられ,おおむね好評であったことが明らかに
Pafrics の 特 長 を 紹 介 し,NPO 及 び NGO 関 係 者 の
なった.今後も,自然災害時における活躍が期待
方々からご意見を頂き,それをもとにシステムを
されるNPO及びNGO関係者と協働し,地域防災の向
改良することを目的とした.
上に資するものをつくるため改良を重ねていく予
冒頭で池田研究チームリーダーから今回のワー
定である.
クショップの概要に関する説明が行われた.その
記:髙尾堅司
後,NPO及びNGO関係者の災害意識とPafricsに対
する第一印象を測定するため,ワークショップ開
始直前に簡単なアンケート調査を実施した.その
後,竹内特別研究員からPafricsの使用方法なら
びにコンテンツ内容の説明が行なわれた.約1時
間にわたるPafricsを構成する諸機能と水害のメ
カニズム等に関する説明の後,NPO及びNGO関係者
から質問を受け付けた.
第1回/第2回
防災科研におけるリスクマネジメント研究ワークショップ
平成15年11月14日(金)防災科学技術研究所
平成16年3月17日(水)防災科学技術研究所
総合的防災研究の理論的基礎であるリスクマネ
トのプロセスであること,防災科研においてリス
ジメントの概念構築について,防災科研内の共通
クマネジメント的な防災研究を育むことの重要性
認識を形成することを目的とし,防災科学技術研
を共通認識として確認した.また,総合的防災研
究所(つくば市)にて,地震防災フロンティア研
究を具体的にどのような形で社会貢献に結びつけ
究センター(以下,EDMと称す)と「災害に強い社
るかについても議論された.(次頁へ続く)
会システムに関する実証的研究」プロジェクト
(以下,当プロジェクトと称す)による合同ワー
クショップを平成15年11月14日と平成16年3月17
日に開催した.
第 1 回 の ワ ー ク シ ョ ッ プ で は,EDM と 当 プ ロ
ジェクトの相互理解を深めるため,8件の話題提
供に基づいて意見を交換した.意見交換において
は,自然災害種別毎に取り組まれている防災研究
を,総合的に位置づけることがリスクマネジメン
4
プロジェクト活動報告
<第1回の話題>
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
亀田弘行:本ワークショップの主旨とEDMの研究概要
福囿輝旗:「災害に強い社会システムに関する実証的研究」の概要
下川信也:洪水現象に関わる確率的要素について
佐藤照子:水害リスクの特性と防災科研における水災害研究
福囿輝旗:水災害におけるリスクコミュニケーション支援システムの役割
牧 紀男:防災計画策定手法とリスクマネジメント・フレームワーク
新井 洋:地震工学者による防災リスクマネジメント研究の必要性に関する私見
ニール・ブリットン:From Risk Assessment to Risk Management
第2回は,東海豪雨災害調査とPafrics(参加型
運用のあり方に関する報告があった.EDM災害過
水害リスクコミュニケーション支援システム)の
程シミュレーションチームの牧紀男氏からは,
コンテンツ作成との関連について当プロジェクト
フィリピンにおける行政担当者を対象としたワー
特別研究員の髙尾堅司から,原子力発電のリスク
クショップの報告があった.EDMと当プロジェク
マネジメントについて慶応義塾大学大学院政策・
トの研究対象とする災害は異なるが,研究手法や
メディア研究科助教授の長坂俊成氏(現当プロ
リスクコミュニケーションの課題について活発な
ジェクト主任研究員)から報告があった.また,
意見が交わされた.今後も継続的にワーショップ
東原紘道EDM副センター長(現EDMセンター長)か
を開催し,議論を深める予定である.
ら,原子力発電を事例に,リスクマネジメントの
<第2回の話題>
(1) 亀田弘行:本ワークショップの主旨説明
(2) 髙尾堅司:住民の水害対策行動における主要な心理的要因
−水害リスクコミュニケーションシステムへの応用−
(3) 長坂俊成:原子力発電とリスクマネジメント(1)
(4) 東原紘道:原子力発電とリスクマネジメント(2)
(5) 牧 紀男:マリキナ市(フィリピン)における参加型ワークショップ
−「被害を学ぶ」を超えて−
記:佐藤照子・竹内裕希子
セミナー
−Ben Wisner氏を迎えて−
平成16年1月20日(火)防災科学技術研究所
自然災害は,社会・経済,財産,人命に影響を
し得る.この両者の知識及び技術を組み合わせる
及ぼす.自然災害に対する諸々の脆弱性に対処す
ことで,自然災害に対するマネジメントを向上さ
るためには,相当の知識と技術が必要である.そ
せることができる.
の知識及び技術のひとつとして私が重視するの
一般的に,大規模自然災害に対処するのは行政
は,特定地域の知識及び技術とその地域以外の知
機関の役割という認識があるが,行政機関に依存
識及び技術である.その2つの知識及び技術を交
するだけでは不十分である.実際,メキシコ地震
差させることで,災害マネジメントを効率化でき
の被災者の中には,行政機関あるいは軍隊は,瓦
ると考えている.たとえば,1985年のメキシコ地
礫の整理が終わるとすぐに去ってしまったと述べ
震の際,最も早く住民を助け出したのは,地域特
る者もいた.メキシコ地震の被災地では,過去の
有の知識及び技術を有する地域住民であった.一
苦い経験から行政機関あるいは軍隊に依存するだ
方,瓦礫の整理と大規模な復興事業は,特定の地
けでは不十分であるという意識が芽生えつつあ
域の知識及び技術だけでは対処しきれない.この
る.たとえば,定年を迎えて退職した消防士を中
段階では,行政機関の知識及び技術が効果を発揮
心にした自主防災団体が組織化されるなど,住民
5
プロジェクト活動報告
レベルでの取り組みは盛んになりつつある.
また,自然災害に対処するうえで忘れてはなら
ないのが,災害の伝承である.特定地域の知識及
び技術を後世に引き継ぐことは,将来に発生し得
る様々な自然災害への対処を容易にする.世界各
国で災害の伝承に取り組む動きが認められてい
る.たとえば,トルコでは災害をテーマにした歌
があり,ハワイには津波博物館がある.神戸市の
Ben Wisner 氏
London School of Economics (LSE) 教授.
従来の災害研究は,主にハザードに焦点
が置かれ,人間やシステムの災害脆弱性を
重要視していないと主張する.最近出版さ
れた”At Risk: Natural Hazards, People’s
Vulnerability, and Disasters”第2版が話題
となっている.
人と防災未来センターも災害の語り継ぎに貢献す
ると思われる.日本の場合,災害を伝承して行く
うえで世界的に評価されている日本の漫画技術を
利用するのも方法のひとつとして検討に値するの
ではなかろうか.
記:髙尾堅司
セミナー
カリフォルニア州の地震保険制度−CEAについて−
Milo Pearson 氏
坪川博彰
氏
平成16年1月23日(金)防災科学技術研究所
(Director, California Earthquake Authority)
(損害保険料算出機構,防災科研客員研究員)
アメリカ合衆国の西海岸に位置するカリフォル
CEAと保険会社の関係もユニークである.CEA
ニア州は,全米随一の地震多発地帯であり,カリ
は地震震保険証券の発行と地震保険の引受を行
フォルニア州の地震保険料は合衆国全体の75%以
い,保険会社はCEAが発行する地震保険の販売,
上を占めている.1994年にロサンゼルス北部で発
保険料の集金,クレーム時の査定等を行う.な
生したノースリッジ地震は,153億ドルという米
お,参加保険会社には,CEAが発行する地震保険
国の損害保険史上未曾有の保険金支払いをもたら
の販売,保険料の集金等に対して4%の手数料が
した.
支払われる.
莫大な保険金支払いにより,損害保険会社は住
ノースリッジ地震以降カリフォルニア州で大き
宅に対する地震保険販売を制限した.その結果,
な地震は発生していない.次にノースリッジ地震
住宅購入者は火災保険(ホームオーナーズ保険)
と同程度,あるいはそれ以上の大地震が発生した
自体を買うことができず,銀行などから住宅購入
際,CEAの真価が問われることとなるだろう.
資金の融資が受けられなくなった.こうした保険
記:鈴木 勇
危 機 に 対 処 す る た め,1996 年 CEA (California
Earthquake Authority:カリフォルニア地震公
社)が創設された.
CEAは財務的には民営だが,運営は公的なコン
トロールが行われる特殊な組織(公社)である.
また,CEAは地震保険の提供,引受ばかりでな
く,保険契約者に対し,地震損害軽減のための啓
発活動を行うとともに,住宅の耐震性向上のため
の増改築費用貸し付け業務も行っている.
6
プロジェクト活動報告
平成15年度
●
第3回研究推進会議
平成15年9月9日(火)フォーラムミカサ(神田)
参加型水害リスクコミュニケーション支援システム(Pafrics)について
照本清峰・鈴木 勇・竹内裕希子(防災科学技術研究所)
参加型水害リスクコミュニケーション支援シス
ぶ.これらの学習を背景に,現在想定されている
テム(Pafrics)は,水害にとって有効な支援システ
水害シナリオとは別の水害シナリオにおける浸水
ムを開発することと,水害リスクコミュニケー
深・被害額・対策費用の比較例を示し,これらの
ションの方法論を検討することを目的としてい
情報を基にリスクコミュニケーションの必要性を
る.本システムは,「水害リスクリテラシー」,
学ぶことを目的としている.
「 水 害 リ ス ク コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 」,「 ワ ー ク
「水害対策代替案提示による地域リスクコミュ
ショップ支援」の3つから構成されている.今回
ニケーション」は,降雨条件と対策条件の組み合
は,「水害リスクコミュニケーション」と「ワーク
わせによるシナリオを任意に選択し,そのシナリ
ショップ支援」に関して報告する.
オ時の浸水深・被害額・対策費用を表示するシ
「水害リスクコミュニケーション」は水害対策に
ミュレーションを用いてリスクコミュニケーショ
関する客観的情報を提供し,それを基にリスクコ
ンを行うことを目的としている.
ミュニケーションを行い,住民が居住地域や住民
「ワークショップ支援」は,「ワークショップ支
個人に見合った水害対策を選択するための機能で
援コンテンツ」と「ファシリテーション学習コン
ある.具体的には,「東海豪雨災害を事例とした地
テンツ」からなる.両者は,NPOや行政主催の研
域リスクコミュニケーション」と「水害対策代替案
究 会,ワ ー ク シ ョ ッ プ 等 に お い て,フ ァ シ リ
提示による地域リスクコミュニケーション」から
テーターが水害リスクコミュニケーションに留
構成される.
意しつつ,効果的なワークショップを行うこと
「東海豪雨災害を事例とした地域リスクコミュ
を 助 け る.「 ワ ー ク シ ョ ッ プ 支 援 コ ン テ ン ツ 」
ニケーション」では,名古屋市とその周辺地域に
は,実 際 の ワ ー ク シ ョ ッ プ お い て,フ ァ シ リ
限定し,地域的理解を深めつつ,リスクコミュニ
テーターがPafricsを映し出しながら会を進行さ
ケーションの必要性を学ぶことを目的としてい
せるものであり,ワークショップの対象者や時
る.2000年東海豪雨災害以前の水害対策と東海豪
間 に 合 わ せ て ワ ー ク シ ョ ッ プ 内 容 を 変 更 し,
雨災害の浸水実績,また自然的・都市的特徴か
ワークショップ進行シナリオを作成する機能を
ら,名古屋市とその周辺地域において,今後も水
持 つ.「 フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン 学 習 コ ン テ ン ツ 」
害の発生が予測される理由を学び,さらに,東海
は,ファシリテーターがファシリテーションを
豪雨災害後の河川整備計画と地域防災計画を基
事前に学習するためのコンテンツである.
に,現在想定されている水害シナリオと対策を学
議論
C:Pafricsを用いた勉強会やワークショップの短時間バージョンが必要.リスクマネジメントとリスクア
セスメントを一緒に考える必要がある.また,教育の場で使うこともできるのではないか.
C:地域の対策と個人の対策は別である.住民は被害額と対策費用の便益比を本当に必要としているの
か.行政の対策と個人の対策の区分けも必要.こちらが提供できる内容には限度があり,全てを網羅
することは難しい.学習しながらシステムが成長していくスタイルは取れないか.それそのものがリ
スクコミュニケーションになるのではないか.
C:ワークショップ支援に関して,パソコンを使ってファシリテーション技術を伝達するのは非常に難し
い.ファシリテーターの人材育成を行う方がいい.また,新川に特化するのではなく,庄内川全体を
対象にしていただきたい.国土交通省の「コレカラプロジェクト」のような受け皿つくりも念頭に.
7
プロジェクト活動報告
●
GISのリスク情報への応用と最新技術
久保幸夫 氏(元慶応義塾大学,防災科研客員研究員)
本日はGIS(Geographic Information System)と
防 災 に 関 し て,FEMA(Federal
う.現 在 は GIS 化 さ れ て い る の で DFIRM(Digital
Emergency
FIRM)である.このDFIRMをもとにQuick2を用いて
Management Agency) の プ ロ グ ラ ム に あ る CRS
浸水深の推定を行い,HAZUSを用いて建物の被害予
(Community Rating System)の例を発表する.
測を行う.HAZUSは,ハリケーン,水害,地震にお
GISがどのように防災に生かされるかは,防災に
ける建物被害を推定するプログラムである.州レ
長期的に備えるのか,短期的に備えるのか,被害を
ベル,郡・市町村レベル,個別建物レベルの精度を
把握するのかという時間軸や使用する内容によっ
用いている.ここで出された結果を基に保険料率
て異なってくる.災害前の利用としては,被害地域
の決定がされる.
想定・防災計画策定・災害予知など,災害時の利用
ア メ リ カ で は,1991 年 か ら CRS (Community
としては,被災状況の把握・リアルタイム避難誘
Rating System)が行われている.これは水防組合
導・出動計画,二次災害回避,災害後の利用として
やコミュニティ単位で活動することによって,ポ
は,災害被害情報の取得と公開・災害拡大防止・避
イントを獲得し最大45%保険料率がディスカウン
難所管理などが挙げられる.災害後の利用として
トされるシステムである.何もしないとRATEレベ
の災害被害情報の取得・公開は重要であるが,阪
ルは10である.これらの活動の中には,情報公開や
神・淡路大震災では,被害に関するサーバーはどこ
防災教育活動も含まれている.このシステムには,
もパンク状態であった.海外からのアクセスも多
全米約900のコミュニティが参加し,毎年評価され
かった.GISをどう利用するかを考えるとリアルタ
ている.CRSの例としてデラウエア州ニューアーク
イム対応をどうするかということになる.阪神・淡
を挙げる.ここでは,氾濫域内の新建築物標高証明
路大震災時は避難所支援システム,家屋撤去シス
の義務化,不動産取得者への氾濫域地図の配布な
テム,被害データベースなどが活用された.逆に神
どが行われ,レベル7を獲得している.このシステ
戸市の水道局の導管システムは,システムがあっ
ムでは,対策が普及するのに時間がかかる大規模
た建物が倒壊したことと,災害復旧がシステムの
都市よりも,変化の伝達が早い小規模のコミュニ
目的外であったため使用できなかった.他に,災害
ティの方が良い評価をもらえることがある.CRSの
時にGISが活用された例としては,1990年アメリ
資格を取得したコミュニティはネットで公開され
カ・ニューポートビーチ市のタンカー座礁による
ている.他に,テキサス州ビクトリア市では,人口,
オイルスピルの被害予測や1991年オークランド市
世帯数,水害確率,水害実績,緊急施設,避難ルー
での山火事現場での延焼シミュレーションが挙げ
ト,保険加入状況など必要に応じてオーバーレイ
られる.
している.
近年インターネットを使用して情報提供が行え
FEMAでは,データや技術,解説書などが有償の部
るWeb GISが発展してきている.Web GISはサー
分もあるが,全て誰でも入手することができるの
バーで処理して,ユーザー側は画像表示が中心で
で,専門家レベルの対策でもやろうと思えば誰で
あるため,特別なシステムはいらない.携帯電話で
もできるというのがコンセプトである.しかし,測
も可能である.災害前の利用例として,浸水予測図
地系や投影法など,一般には多少難しい用語など
や降雨情報の提供などが挙げられるが,情報の提
も使用されているため,本当に出来るかは,別の問
示に時間がかかるため,災害時に利用できるのか
題である.また,FEMAでは,合意形成の支援にどの
疑問が残る.
ようにGISを用いるかについて多くの努力を行っ
FEMAのGISは各種計画の立案・調査に使用するこ
ている.GISで使用するデータの整合性を保証し,
ともある.水害関係の活用例として浸水深の推定
GISを標準化させることが必要だが,これはISOの
や建物被害の予測がある.まず危険地域の抽出を
作業として行われている.水害用のGIS教育につい
し,FIRM(Flood Insurance Rate Map)の作成を行
ては,職員などの内部向け,市民向け,教育機関向
8
プロジェクト活動報告
けにわけて教育を行う.HAZSUを用いた建物被害
られること,ユーザーグループの組織に力を入れ
推定モデルに関する講習会も実施されている.こ
ているのが特徴である.講習会を受講すると,水
れらのようにFAMAのGIS政策は,結果を提供する
害保険業者としてメリットがある仕組みになっ
だけでなく,教育を重視していること,分析シス
ている.
テムを提供しており,専門家でなくても結果が得
議論
Q:保険加入状況などの情報はネットで世界へ配信されているのか.個人情報の取り扱いはどうなっているの
か.
A:個人情報の概念が違うのではないか.税金など,公共のものを用いたものに関する情報は公開されるべ
きであるという考えだと思われる.
Q:GISと参加型計画・合意形成に関して教えてほしい.
A:具体的には都市計画に関するものが多い.道路や送電線の建設に関して議論を行ううえで用いた.建設
の目的―計画説明―GIS図面を基に景観や生態系,費用をスコア化する.スコア化の際には,それぞれの
立場でウエイトを置いて行った.
Q:日本の官庁で,GISを用いた情報提供は進んでいるのか.
A:かなり進んでいる.省庁の連絡会議の下のレベルで議論されている.国土地理院が参加したので,これ
から変化していくと思われる.
C:認知マップと実際のマップの違いやずれは大きいので,そのずれを埋めていくのがリスクコミュニケー
ションとなるのではないか.そこにGISが対応できないか.
記:竹内裕希子
平成15年度
●
平成15年度11月11日(火)鉄鋼会館(茅場町)
第4回研究推進会議
災害保険市場を通じた災害リスクの経済評価法
小林潔司
横松宗太
氏(京都大学工学研究科)
氏(鳥取大学工学部)
現在,災害保険市場に関する不確実性下の費用
質的な所得を失った場合には保険ではすべてを
便益指標において,集計化の方法は大きな課題に
カバーされない.カバーされない部分の損害につ
なっている.費用便益の方法として,個人の支払
いては費用便益評価をする際にリスクプレミア
い意思額を単純に足して全体の便益にするとい
ムとして便益に入れてもいいのではないかと考
う発想であるが,実はそう単純にもいかない.特
えている.
に不確実性下の状況において個人のリスクプレ
一方,個人の便益でみた場合にはリスクプレミ
ミアムが存在する場合,難しい問題が生じる.
アムは存在するが,国庫全体でみれば誰に被害が
河川整備事業においては,現在,生命の価値を
及ぼうとも出てきた被害を集計すれば同じであ
費用便益評価のなかには入れていない.台風など
る.そのため,出てきた被害の総計と対策費用を
がきたとしても事前の避難措置などの対策を講
比較すればいいという意見がある.費用便益評価
じることによって人命は救済できる,という前提
をする際,個人の立場にたてばリスクプレミアム
にたっているためである.また自然災害に対して
はあるが,国が計上するとき,リスクプレミアム
は,基本的に国から個人への補償をしないという
をいれることは正当化されるかということに関
ことになっている.しかし個人が保険などに加入
して論議になっているところである.
していたとしても,流出などによって家屋など物
9
プロジェクト活動報告
●
家計の災害リスク認知バイアスを考慮した保険購入行動と政府の役割に関する一考察
横松宗太
災害保険の普及率は低いという問題意識があ
成,認知的不協和の
る.これはリスク情報の不足,公正な保険料率に
程度のパラメータを
なっていないことが原因としてあげられる.ここ
入れている.認知的
では,家計の意識,リスク認知の問題に焦点をあ
不協和理論と曖昧性
て,自分は災害にあうことがないと決め込む問題
回避選好の関連性の
に着目する.具体的には認知的不協和理論,曖昧
指摘,家計が合理的
性回避選好を考えており,情報を提供する以外の
に保険を無視する可
政府の役割についても検討する.
能性の指摘,保険行
これらを簡単なモデルを設定してみていく.災
動の誘導と政府の役
害保険への加入を選択する状況としては,第0期
割に関する考察がま
として災害の生起確率がわかっていない状況,第
とめとしてあげられる.
氏(鳥取大学工学部)
1期として災害生起確率の情報が公表され災害保
険が発売される状況を考えている.また信念の形
●
Pafricsにおける費用便益評価について
佐藤照子(防災科学技術研究所)
本プロジェクトでは現在,参加型水害リスクコ
待損失減少額,B/Cなどの表示ができる.(3)選択
ミュニケーション支援システム(Pafrics)を作成
した被害軽減策に,選択した確率降雨を入力した
している.Pafricsは水害被害軽減策選択を擬似
時のハイドログラフ,最大浸水深の空間分布,被
的に体験できる機能を有している.その中には費
害の空間分布等の表示が行える.また,これらは
用便益評価を組み込んでおり,次のような機能が
現状の被害等と比較できる.被害評価は既存の手
ある.(1)被害軽減策の選択肢として,流出抑制
法を用いているが,将来的には環境も考慮した
策,河道対策,内水氾濫軽減策,住宅の耐水建築
い.
化などがあり,それらの計画規模も選択できる.
今後,住民の方の意見を伺いながら本システム
(2)選択した被害軽減策の経済的効率を知るた
の表現方法について検討していきたい.
め,被害軽減の費用,それらを施工したときの期
議論
C:河川整備等の公共事業は無駄なものをつくっているという認識があるから批判があるとも考えられる.
それはリスクが認識できていないことも一因として考えられる.個人としての判断としては,保険料率に
跳ね返ってくるときにリスクとして認知できるのかもしれない.
A:対策の様々な組み合わせによって被害軽減を図ることが大切で,住民自身が模擬的に被害軽減策の選択
を体験すことが重要だと考えている.そのようなことをPafricsの利用を通して学んでもらいたいと考え
ている.
C:住民は氾濫シミュレーション自体に一番疑いを持つ.
A:様々なシミュレーションがあるが,このシステムで使用しているモデルの考え方や計算結果の精度等に
ついての説明をきちんとしようと考えている.
10
プロジェクト活動報告
●
各種災害に対する住民意識について
坪川博彰 氏(損害保険料率算定機構,防災科研客員研究員)
自然災害に関する住民の意識調査の分析結果
たが,台風では地震ほど明確には出なかった.住
について報告する.調査は,社会調査を専門とし
宅の耐震性は老朽度に依存すると考える人が多
ている会社の契約モニターを対象としている.そ
いことが想像される.また地震による被害の可能
の中で,持ち家である人を対象とし,保険の加入・
性が高いと考えている人ほど台風による被害の
未加入者を考慮してあらかじめスクリーニング
可能性も高いと考えていることがわかった.
を行い,3,360票の回収があった.アンケート項目
の量は多かったが回収率は90%と高かった.保険
のような問題を取り扱うのであれば保険に加入
80%
しているなどの層を把握した上で,その対象にし
ぼってアンケートした方がよいと思う.
60%
アンケート項目では,はじめに自然災害に関す
40%
る5つのリスクをあげて,一番大きいリスクはど
れかという質問をしている.結果として火災が一
20%
番多った.次が震災,風災,水災,雪災の順であっ
0%
北
海
道
東 地方
北
地
方
関
東
地
中
方
部地
近
方
畿
地
方
中
国
地
方
四
国
地
方
九
州
地
方
た.また地域ごとに回答結果に違い(「九州では
風災が地震を上回る」など)がみられる(図1).
ちなみに専門家を対象に自然災害のリスクに
ついて質問したときには,水害,土砂災害,大火
という順であり,傾向に違いがあった.
図1
地震による被害可能性については,古い住宅に
火災
震災
風災
水災
雪災
災害種類別地域別危険意識
住む人の方が高いと考える傾向がはっきり現れ
議論
Q:リスクに対する意識について,どのような質問をしているか.
A:それぞれの自然災害のリスクに対して,被害にあう可能性はあるかという聞き方をしている.災害に
遭遇する確率や被害額の大きさについての質問はしていない.
Q:保険の加入,未加入の属性によって意識の違いはあるか.
A:傾向に違いはある.また保険に加入している人は,住宅が広い,新しいなどの高所得者層になってい
ることが認められた.
平成15年度
●
記:照本清峰
第5回研究推進会議
平成16年1月13日(火)フォーラムミカサ(神田)
名古屋市西部の住民の防災意識に関する調査−アンケート調査の概要−
元吉忠寛 氏(名古屋大学教育学部,防災科研客員研究員)
竹内裕希子 (防災科学技術研究所)
今年度末に実施を予定している名古屋市及び
動きが慌しくなっている.この現状を反映して
西春日井郡の住民を対象にしたアンケート調査
か,主に中京地域で防災活動を展開しているNPO
の実施概要について説明する.名古屋市では,
法人レスキューストックヤードのように,地域住
2000年の東海豪雨災害後,2002年には東海地震の
民と連携して防災活動を実施する動きも認めら
防災対策特別強化地域の指定,2003年には東南海
れている.
地震の被害予測が公表されるなど,防災関係者の
「災害に強い社会システムに関する実証的研
11
プロジェクト活動報告
究」プロジェクトは,過去2回にわたって名古屋
強めるにはリスク認知を高めるべきか,それとも
市及び西春日井郡の住民を対象にしたアンケー
地域コミュニティを活性化させるべきかといっ
ト調査を実施してきた.一連の調査の結果,家屋
た点を明らかにすることができると考えている.
の所有形態によって水害対策行動に違いがある
併せて,名古屋市及び西春日井郡の各町が公表・
こと,水害リスク認知と水害への不安感が,水害
配布しておよそ1年を経たハザードマップの使い
対策行動意図を直接的に規定するとは限らない
方と有用性に対する地域住民の認識についても
ことが明らかにされてきた.
明らかにする予定である.
今回のアンケート調査では,前回及び前々回の
調査対象は,名古屋市北区,西区,中川区,中
アンケート調査では触れなかった水害と地震に
村区,西春日井郡西枇杷島町である.調査対象と
関する住民意識の違い,家庭における備えと地域
する世帯数は,各区町600世帯ずつで計3000世帯
としての備えの違い,ハザードマップに対する評
である.アンケート用紙は,郵送配布及び郵送回
価をとりあげる.今回のアンケート調査を分析す
収を行い,平成16年4月の回収を予定している.
ることで,家庭における防災と地域における防災
をいかに整合させるべきか,防災対策行動意図を
●
災害に対する社会的備えの構造評価に関する研究
(平成15年度の研究成果と平成16年度の研究計画)
杉万俊夫
渥美公秀
氏(京都大学人間・環境学研究科)
氏(大阪大学人間科学研究科)
平成15年の主な研究成果は,災害救援システム
ンターを運営した経験のある人へのインタ
に関する全貌の把握と普及のためのツールの開
ビューを盛り込みながら,災害時におけるボラン
発である.具体的には,ボランティアを含んだ災
ティアセンターの意義,注意点などをまとめてい
害救援に関する情報・知識・技術の集約方法に関
る.
する検討や,ボランティアセンターに関するビデ
レスキューストックヤードへの参与観察とし
オ教材の開発,レスキューストックヤードへの参
ては,地域における防災活動として東山学区の防
与観察等である.
災ワークショップ,災害救援活動としての宮城北
ボランティアを含んだ災害救援に関する情報・
部連続地震救援におけるボランティアセンター
知識・技術の集約方法に関する検討においては,
の設立・運営を対象とした.
「震災がつなぐ全国ネットワーク」,「全国災害
平成16年度研究計画は,主に成果の集約と政策
救援ネットワーク」などに加盟する災害NPO有志
的提言の準備である.具体的には以下の3点であ
らが,個人の資格で加入している会合「智恵のひ
る.(1)
「ボランティアを含んだ災害救援に関す
ろば(仮称)準備会」(10/13,10/14,12/26,2/10)
る情報・知識・技術の集約に関する方針」につい
に参加し,災害ボランティアセンターに関する情
て,決定に至るプロセスを記録するとともに,方
報・知識・技術の集約を提案した.
針をもとにした実践に参加し,政策的提言を導
ボランティアセンターに関するビデオ教材の
く.(2)平成15年度に作成したビデオ教材を用
開発は,(特)日本災害救援ボランティアネット
いてその普及方法を検討し,実践に努め,その過
ワーク,(特)レスキューストックヤード,(特)
程を分析することから,政策的提言を導く.
(3)
ハートネットふくしま,さらに,宮城県南郷町社
レスキューストックヤードへの参与観察を継続
会福祉協議会の方々に協力を得て進めている.そ
する.
のプロット(5∼10分)は,災害ボランティアセ
12
プロジェクト活動報告
●
利害関係者間のコンフリクト構造を考慮した災害リスクマネジメント
集合住宅の建て替えや治水計画への住民参加,
榊原弘之
氏(山口大学工学部)
まずは,プレイヤー G(事業者)とプレイヤー
防災協定の締結等の際に,異なったリスク認知や
O(反対派グループ)の行動オプションとそれぞれ
リスク回避性,時間選好等を有する人々が,コ
のプレイヤーにとっての望ましいオプション選
ミュニティ内や利害を異にするコミュニティ間
択を設定する.そして,それぞれのプレイヤーの
に存在しているため,合意形成の必要性があると
オプションに対する優先度を決める.ここでは,
されている.しかし,「当事者間での自発的な合
事業者(プレイヤーG)に事業優先と合意優先の二
意形成が可能か否か」についての検証,責任関係
つのケースを設定する.安定性分析を実施したと
の明確化,当事者がコンフリクトの構造を理解す
ころ,ケース1(事業者が事業優先)の場合は,
る必要性などは検討されていない.本研究は,
プレイヤーGが現行プロジェクトを実施しつつ他
ゲーム理論を用いて,利害関係者間のコンフリク
の代替案を提案し,対話を呼びかけても,プレイ
ト構造を考慮した意思決定モデルを開発する.
ヤーOは住民投票を推進し,対話には応じない結
研究対象として想定したのは,徳島県の吉野川
果になった.ケース2(事業者が合意優先)の場
第十堰の撤去・改築工事である.1984年に国土交
合は,事業者の選好によってコンフリクトの構造
通省(旧建設省)による改築工事の予備調査が開
が変化し,合意の可能性が変化した.この結果は,
始されたが,1993年に反対派グループが形成さ
参加型計画・パブリックインボルブメントの制度
れ,2000年1月に徳島市で実施された住民投票で
化に意義あることを示唆している.今後は,コン
は過半数が国土交通省のプロジェクトに反対し
フリクト構造をどのようにゲームに応用するの
た.このようなコンフリクトにおいて,意思決定
かを検討していきたい.
過程がどうなるのか,どの結果が出るのかをゲー
記:翟
国方
ム理論で検討していく.
平成15年度
●
第6回研究推進会議
平成16年3月9日(火)フォーラムミカサ(神田)
参加型リスクコミュニケーション支援システム(Pafrics)による模擬ワークショップ
池田三郎・竹内裕希子(防災科学技術研究所)
本日は,3月13日に災害ボランティアの方々の
サルティング機能と情報提供機能があり,これら
前で行う学習会の予行演習を行う.Pafrics最大
を利用してリスクコミュニケーションの役割理
のセールスポイントは,「水害リスク」という考
解を行えるようになっている.第3は,ワーク
え方を学習してもらうことである.
「水害リスク」
ショップにおいて行政や住民の対話を進行する
という観点から,集中豪雨や台風,高潮などの
ファシリテーターを支援する機能である.
hazard か ら exposure ま で を 理 解 し,コ ミ ュ ニ
3月13日に「災害Vネットあいち定例会」におい
ティ,個人としての対処を学習し理解を深めても
て,災害NPOの方々を対象にPafricsを用いた学習
らう.
会を実施するため,現在E-mailにて学習会の実施
Pafricsでは3つの機能を用意している.第1は,
内容などに関するアンケートを行っている.学習
水害リスクリテラシー学習支援機能である.ここ
会当日は,災害に関する意識や考えに関する事前
では「水害」という現象をどのように理解するか
アンケートの後,Pafricsの全体像を説明し,その
を学習する.特にリスク論を理解するために不可
後Pafricsの一部を用いて水害に関する学習会を
欠な確率の概念の表現方法を工夫し,最終的には
実施する.最後に,学習会の進め方,内容,水害
統合的な水害リスク管理を学べるよう準備して
に対する意識などに関して再度アンケートを行
いる.第2は水害対策選択リスクコミュニケー
う.本日は13日に行うPafricsを用いた水害学習
ションの支援機能である.水害対策に関するコン
会の内容を発表する.構成は「導入」「洪水氾濫」
13
プロジェクト活動報告
「近年の水害」「水害対策」「統合的水害対策」
こと」にわけて考える必要があり,そして,「何
「ワークショップ」となっている.
を守りたいか」「何を優先したいか」「対策費用」
まず,「導入」では,水害だけではなく自然災
「被害減少額」を考慮し,これらのトレードオフ
害全般を説明する.特に今回ワークショップを行
を行うことの重要性を述べる.事例として,新潟
う愛知県では地震への関心が高いため,地震だけ
県の「つうくり市民会議」を紹介する.「つうく
ではなく水害も考えなければならない理由を説
り」とは,新潟市内を流れる通船川と栗の木川を
明する.最初に地震と水害それぞれの発生メカニ
合わせた略称である.かつては日本一汚い川とい
ズムと特徴を説明する.例えば,大規模な地震は
われたこの河川流域では,現在,住民参加型より,
発生頻度が低いが,水害は発生頻度が高く,小規
「治水」「川の利用」「川の環境」「川とのかか
模でも被害が発生することなどを述べる.次に,
わり」の4つの基本理念を掲げ水害対策に取り組
愛知県内の水害と地震被害の災害史について述
んでいる.このような「つうくり市民会議」の事
べる.ここでも両者の発生頻度が異なることを示
例を踏まえ,統合的水害対策を地域で考えるため
す.さらに,土地利用の変化によって水害の発生
のシミュレーションを紹介する.このシミュレー
頻度が高くなると予想される理由を述べる.
ションは,ある仮想地域において水害対策の種類
次に「洪水氾濫」について,「外水氾濫」「内
を選択すると,その際の浸水深,被害額,対策費
水氾濫」の違いを説明し,氾濫が発生しやすい箇
用が提示される.このシミュレーションの結果を
所を図や地図を用いて解説する.続いて「近年の
用いて,地域の水害対策を選択する際のトレード
水害」として東海豪雨災害の様子を(NHK製作のビ
オフを仮想的に体験してもらう.
デオを利用して)解説する.
最後に今回の学習会に参加しているNPOの方々
「水害対策」では,住民と行政それぞれが行え
がワークショップを実施する際の留意点を3点説
るハード的対策とソフト的対策を示し,従来の行
明する.1つは,話し合いによってワークショップ
政主体の水害対策の課題を提起する.そして,今
の参加者が納得できる進め方を目指すこと.2つ
後の水害対策には水害の軽減方法を議論する場
目は,直接の受益者や負担者だけではなく,様々
に住民が参加していくことを提案する.この場
な立場の人が話し合いに参加することの重要性
合,「個人ができること」「住民が協力し合って
を確認すること.3つ目は話し合いのプロセスの
できること」「住民と行政が協力し合ってできる
公正性・透明性を保つ必要があることである.
議論
C:ワークショップを実施する際には,参加者の知識やモチベーション,体験の違いに基づくメリハリのつ
け方が必要なのではないか.また,地域で具体的な対策を考える場合には,実際の具体的な問題に答え
るのか,専門家をどのように入れていくのか,といった課題がある.さらに,Pafricsを使えるもうひ
とつの場は学校教育である.地域の学校に持っていって使う方法もありうる.
C:ワークショップ事後アンケートは,ワークショップの改善を図る設問にすべきではないか.
C:ワークショップの中で,対策を議論しあうところが一番大切である.(説明する内容が)ワークショッ
プ参加者自身の問題だと自覚できるようにワークショップをすすめていかなければならない.例えば,
水害と地震の比較でも具体例を取り上げて説明すればよいのではないか. また,図やグラフが小さす
ぎて今のままでは見えない.
C:費用便益の金額が本当に身につまされるものなのかという検討が必要ではないか.費用便益が意味を
持つのはもう少し広いコミュニティ(流域コミュニティ)なのではないか.個人レベルの対策を考える
際に費用便益が意味を持つだろうか.
C:住民が自分でできる対策を考える手立てにならなければ意味がない.
記:鈴木
14
勇
新スタッフ紹介
①専門分野 ②プロジェクトでの研究内容・抱負等
③つくばに来た感想,印象 ④趣味
長坂
③
④
俊成
NAGASAKA Toshinari (主任研究員)
①
情報ネットワーク社会論,リスクコミュニケーション
②
自治体,NPO,大学等と連携して,分散・相互を基本とする地
域社会の安全・安心のためのコミュニティプラットフォーム
としてのリスクコミュニケーション支援システムに関する研
究を深めてゆきたいと考えております.また,ユビキタス社会
における災害リスクマネジメント手法の研究にチャレンジし
たいと思います.
街路樹など,主要道路沿いの景観は美しいのですが,一斉に老朽化し,外壁などもメンテナンス
されていない公務員宿舎が,まちの雰囲気を悪くしてますね.とはいいながら,私も4月から公
務員宿舎に入居しましたが,天井からは,蚊がとまっただけで食卓に粉が降ってきますが,5歳
の長男曰く「トトロに出てくるおうちよりは新しいよ」と慰めてくれます.
地方探訪.ダイビング.最近は,子育てに追われ,海に潜れていません.
研究発表
①タイトル
②発表学会等,発表年月日
③発表概要
元吉忠寛・髙尾堅司・池田三郎
①地域防災活動への参加意図を規定する要因−水害被災地域における検討−
②心理学研究, Vol.75,No.1, pp72-77, 2004.
③本研究の目的は,地域防災活動への参加意図を規定する要因を検討することであった.合理的行為の理論を基本モデル
として,災害に対する関心の要因を組み込んだモデルを形成し,構造方程式モデリングでモデルの妥当性を検討した.水
害の危険性の高い地域住民(N=3036)を対象に調査を実施したところ,仮定したモデルは支持された.仮定モデルから,
主観的規範と,水害に対する関心が高い場合に,地域防災活動への参加意図が高まることが明らかになった.また,防災
活動に対するコスト認知が,参加意図の阻害要因であることも明らかになった.
Guofang ZHAI, Teruki FUKUZONO, Saburo IKEDA
①Estimating Injuries and Fatalities due to Floods-The case of Japan-.
②Proceedings of International Symposium on Disaster Mitigation and Basin-Wide Water Management, pp483-489,
Niigata, 2003.
③本研究は,洪水による人的被害の推定モデルを数式化し,日本の戦後(1947∼2001 年)の洪水(主に,豪雨と台風)
による人的被害データを収集し,日本の1947年後の洪水(主に,豪雨と台風)による人的被害の変化や特徴や,その被
害関数を推定モデルから導出した.
照本清峰
①ハザードマップの活用とリスクコミュニケーション
②日本地理学会発表要旨集, No.65, p7, 2004,3.
③現状のハザードマップの活用状況についてリスクコミュニケーションの発展段階の観点から整理した.また事例を参
照し,住民の意見を考慮しながら対策を検討する有効性について示した.
照本清峰・元吉忠寛・佐藤照子・福囿輝旗・池田三郎
①治水整備と洪水災害が住民意識に及ぼす影響
②水工学論文集, Vol.48, pp397-402, 2004,3.
③本研究は,水害と治水整備を踏まえた危機意識の変化と治水施設整備に対する評価の分析を目的として行った.全般的
に住民は,浸水被害の危険性のあることを受容しない傾向にあることが分析結果から読み取れた.
15
研究発表
鈴木
①タイトル
②発表学会等,発表年月日
③発表概要
勇・渥美公秀
①災害に関わるボランティアの変容と展開−規範の生成および変容のダイナミックスに関する研究−
②日本グループ・ダイナミックス学会第51回大会発表論文集, pp38-41, 南山大学, 2004,5.
③阪神・淡路大震災以降の災害に関わるボランティアの動向について,4つの事例を交えて検討した.災害ボランティア
には,地域コミュニティの生活全般を視野に入れた活動が求められていることを示した.
湯本道明・中根和郎・佐藤照子・申
紅仙・竹内裕希子・鈴木
勇・筆保弘徳
①平成15年台風第10号Etauと北海道日高地方で発生した水害
②日本気象学会春季大会講演要旨集, 気象庁, 2004,5.
照本清峰,佐藤照子,福囿輝旗,池田三郎
①地方自治体における水害に対する危機管理の現状の課題
②地域安全学会研究発表会,和歌山, 2004,5.
SUZUKI Isamu, SATO Teruko, FUKUZONO Teruki, IKEDA Saburo
①A case study of voluntary organizations for disaster relief.
②28th International Congress of Psychology, Beijing, 2004.8.
鈴木
勇・佐藤照子・福囿輝旗・池田三郎
①災害ボランティアネットワーク組織の展開
②日本心理学会,関西大学, 2004,9.
行事
5月25日
6月 1日
7月 1日
7月 5日-7日
防災科学技術研究所第3回成果発表会
Pafrics社会実験(立正大学)
Pafrics社会実験(金沢大学)
第4回DPRI-IIASA国際シンポジウム(イタリア,ラベロ)
編集後記
昨年度も多くの自然災害が発生しました.世
界に眼を向ければ,イランで大地震が発生し,
欧州,中国,韓国では大雨による被害がもたら
されました.国内でも,地震災害,土砂災害,
豪雨災害が発生しました.言うまでもなく,私
たちには「必ず起こる災害」にいかに備えるか
が問われています.
私たちのプロジェクトも4年目を迎えます.
発 行者
独立行政法人 防災科学技術研究所
「災害に強い社会システムに関する実証的研究」
プロジェクトチーム
監修:福囿輝旗
編集:鈴木勇・佐藤照子
制作:川村玲子
デザイン:吉成明美
〒305-0006 茨城県つくば市天王台3−1
TEL: 029-863-7553
FAX: 029-856-0740
下記ホームページからPDFでご覧になれます.
「災害に強い社会システム」の必要性はますま
http://www.bosai.go.jp/sougou/shakai/index.html
す高まっています.新メンバーも加わり,これ
ニューズレター配布希望連絡先:
e-mail: [email protected]
からも一層がんばってまいります.(鈴)
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