ノート 愛知工業大学研究報告 第 2 7号 B 2 2 1 平 成 4年 ( : 1 5 ) 号室主主三本田議長三室幸民全雪 Rep0rtFr0血 theC 0Un se1 ingR 00曲 ( N o . 1 5 ) 綴 綴 Kohei 兵 康 KOKETSU T h e Psychoanalysis t h e o r yb yS . F r e u di sb r i e f l y mentioned i nt h i sn o t e . 今回はフロイトの精神分析について雑感 的に記してみたい。 では、我々が日常の夢の観察によって得ら れる夢の特性とはどんなものか。 現代社会がかかえる問題は、まさに多種 多様を極めている。例えば、平和の題一つ A) 夢 を 見 る き っ か け は 、 ごく最近の関 心、諸印象である。 を取り上げて見ても、その問題は複雑多技 B) 夢 は 材 料 と し て 、 覚 醒 時 に は 重 要 と に渡っている。そうした問題を一元的に解 思われない子細な出来事を選ぶ。 決する事は、多分、構造的に不可能と思わ れる。 c) 夢 は 幼 児 期 の 細 々 と し た 事 柄 す ら 、 記憶の奥底から引っ張り出して来る。 今日、人聞の本質に、又、人間存在の根源 に関わる様な問題は益々拡大している。 筆者はここで、フロイトの精神分析なる ものが、我々の現実生活に少しでも参考に なればと思い、気ままに筆を取った。 一体、 こんな特性を持った夢の目的、存 在価値は何か?それにたやすく答えてくれ る夢もある。それは、身体刺激に対処する 為に見られる夢と幼児の夢である。 例えば、睡眠中に渇きを覚えた男が、起 フロイト理論は無意識と言われる大海を き上がって傍らの水差しの水を飲むといっ 発見し、精神分析と呼ばれる新たな航法に た夢を見たとする。彼は夢に依って眠りを よって、人間(欲望)と現実社会との聞に 守ったと思われる。夢は彼の睡眠中に高ま 在る葛藤を乗り越え様とする水先案内とも った身体的興奮に代償満足を与え、眠りた 言えよう。 いという願望を充足させたのである。又、 (1) 夢 分 析 フロイトの干にも及ぶ夢の実例に依れば、 よく言われる様に、 フロイトの精神分析 幼児の夢は、前日の果たされなかった願望 は夢から出発した。夢に対し、一般的には、 が歪みなく正直に顕れる。前日に少ししか 夢は睡眠中の心理活動の結果であり、人は 食べられなかった菩を、子供は夢で、篤い 醸眠中にも、覚醒時とは異なるが、 っぱい食べてしまう。が、大人が普通に見 しかし 同質の思考活動が行われているのであって、 る夢はそれ程単純ではなし、。夢が意味と目 それは覚醒時中働らいている意識が、預か 的を持つ場合、無意識界の何らかの意向、 り知らぬ心的生活の存在によるものであり、 作用により、夢は歪められ、奇妙なものに 又、この様な夢の行為は無意識界の事柄で させられている。 あると言われている。 (1 ) フロイトは、 この夢を歪めてしまう作用 に抗し、夢を見た人は白己自身が夢の意味 愛知工業大学 経営工学科(豊田市) を知る事が出来ないと思い込んでいると言 2 2 2 う前提 l こ立ち、精神分析の技法を提案した。 もである。)の検閲行為によって抑圧を受 それは、夢を見た入、その本人に意味を言 ける。許されて意識体系に移動しでも、そ わせ、本人の心の無意識と呼ばれる部分へ、 こは前意識であり、心の感覚器である意識 あらゆる抵抗に対処し、本人自らを進ませ に注目されなければ意識化されない。夢を る事である。 見る場合、先ず前意識に存する覚醒時に関 フロイトは自らの夢研究に於いて、夢は 心を寄せた物によって、無意識の願望が刺 確かな意味と目的を持っている事を確信し、 激され興奮する。その願望は抑圧を受け、 期待する事によって、夢判断と呼ばれる一 無意識中の連想作用によって、どうでもい つの技法(精神分析)を精神医学の世界に いような物への移動、又、統一的、象徴的 導入した。もし、夢に何の意味もないなら 作用による圧縮等の手段で対処し、意識化 ば、我々は夢の存在価値も、その奇妙な特 させ、夢を形成する。つまり夢は、記憶さ 性についても説明が不可能になるであろう。 れた日中の外的刺激で興禽した無意識の願 従って、我々は、顕在的に見た時の物事が、 望を、現実的、社会的要求に沿う様に努力 夢の中で歪められてしまった物事に、潜在 し検聞を通して充足させ、その興奮を鎮め 的、本質的存在理由があると想像するので る。それが心の機能なのである。そして、 ある。 (2) 心 的 装 置 (2) フロイトはこの夢の機能を、 日常の心の一 般的機能と同質と考えた。心は、ある何ら フロイトは夢分析の研究から、夢の本質 かの刺激によって興奮させられた心の不快 的な部分は、日常生活に於いて自己の満た を快に、つまり興奮を取り除く事のみに働 されない事柄に対する願望充足であると考 く。この場合、心はそうした働きを段階的 えた。この願望は無意識から発しており、 に行う。つまり、 無意識はあらゆる事を願望し、その充足を 求めて止まない。夢はそれを、視覚、言語、 A) 感 覚 興 奮 を 直 ち に 運 動 に よ っ て 放 出 したり、情動の表出により放出する。 情動作用等によって行おうとするが、その B) そ れ が 何 ら か の 現 実 の 障 害 に よ り 禁 願望が量的に多過ぎたり、不道徳であった 止された場合、かつて(幼児期)の りする為、歪曲を加え、都合の良いものに 満足体験の感覚、知覚を蘇らせ、代 変えてしまう。夢の歪曲は、あらゆるもの 償満足を得る(知覚同一性)。 を道徳の下に従わせ様と務める検問行為で あり、検閲を行うものは、睡眠によって弱 c) や が て 心 は 、 代 償 満 足 で は 外 的 刺 激 からの解放は得られぬ事に気づき、 められている覚醒時の判断に承認されてい 退行を止め、外界 i こ働きかけ、外界 るものである。検闘を加えられるものは、 による知覚同ーを得る(思考同一性)。 倫理、美、社会的見地と言ったものからは 心が外界変革の為に消費するエネルギーに 許し難く、嫌悪なくしては考えられぬもの 比べれば、退行の為 l こ用いるエネルギーは であり、粗暴な利己主義や、禁ぜられた対 小量であり、当面の不快発展阻止には得る 象を最も好む。こうしたものは、フロイト 所が大きい。従って、睡眠時等に、弱く、 に言わせれば、すべての人間に持たされて 幼児的になった自我は安易に、この退行に いる無意識に潜むリピドー(性的衝動)で すがりつく事になる。この事をフロイトは、 ある。夢は元々この様に隠される運命的な 神経症研究に於いて確認する。 潜在内容を持つのである。 この夢研究によって得られた、意識・無意 【8 】 (3 ) リ ピ ド ー 〈 性 的 衝 動 ) 生まれた時から持ち続け、無意識に潜み、 識の位置関係や仕組み、即ち便宜上の心の 発達するリピドー(性的衝動)が現実の強 構造をフロイトは心的装置と呼んだ。無意 い拒否に合った時、心は自らの欲動と、現 識中の個々の,心の動きは、検問所(これは 実との闘争によって高められた興奮を鎮め 通例、社会一般の道徳規範と呼ばれている 様とする。 この手っ取り早い方法が、退行 2 2 3 による知覚同ーの獲得であり、その為、心 実的な満足を得る事となる。 は、満足の得られなかった過去の幸福な時 症状は何らかの形で幼児期の満足を反復す 期に押し戻される。 るが、かつての満足も今では、現実の厳格 この心の幼児的手段が 神経症であり、過去の幸福な時期であった さと教育された自我によって、嫌悪の念を 幼児期の記憶は、幼児性の為に真偽も暖昧 呼び起こすにはおかず、葛藤から生じた検 であり、従って、神経症の症状は奇妙なも 聞によって歪められ、通例、苦悩の感覚に のとなる。 変化する。神経症患者は望んでこの苦悩を フロイトは、神経症患者の幼児性と性的 受け取る。従って、神経症患者の奇妙な症 欲動の関連から、幼児も性的関心を持つ者 状にも意味があり、患者にとっては、その とし、幼児はその満足の為に自己を取り巻 一つの症状のみでしか、危険な程高められ くあらゆる環境、又、 た興奮景を鎮め得ないのである。 自己の身体をも対象 にする事を確認した。幼児はその無知性の 為、あらゆる取り違えをする。 (4 ) 結 び フロイトの精神分析療法は、 この打算方 幼児は正常な生殖行為には、対象を要求せ 向に暴走するリビドーを、 ねばならない命令を内部に持つが、安易に に使用出来る道を与え様とする。精神分析 自我が再び自由 その対象を自己に求める。又、対象の質も、 の技法により、症状を解釈し、症状を生じ それに与えるべきリビド-.エネルギーの せしめた葛藤を再び蘇らせ、技法家の教育 量も知らぬ為 l こ、異常な程ナルシズム的関 によって自我を変化させ、無意識を意識上 心で自己の心身に満足を求めたりする。幼 に上昇させ自我の拡大を図る。 児性愛はこの様に支離滅裂で、ある対象へ 成った自我はリビドーに対し、何らかの満 この大人に の集中化、組織化の傾向を持たず、個々の 足を容認し、自我自身も、可能性として自 部分欲動が、それぞれの器官快感を求め、 ら現実を変化させる力を持つ事を大いに認 別個に活動する。そして色々な過程(前性 識させる事によって、 器的体制の出現による緩和)をへて、部分 みしなくなる。 欲動が性器の優位の下に服従する事により、 になった自我に安心して服従するのである。 成長を遂げ、性愛が生殖機能 l こ服従して行 リビドーに対し尻込 こうしてリビドーは、大人 以上の夢理論、神経症理論、 リビドー論 くこの過程に於いて、性の欲求のある部分 からフロイトは、心の仕組みを体系化し、 が最後の目的に到達しているのに、他のあ 日常に於ける一般的な心の性格を明らかに る部分は幼児期に取り残されていると言う しf こ 。 事が起こりうる。それをリビドーの固着と 心が目指す唯一のものは外界からの刺激 呼び、その素因は、幼児が素質として先史 によって高められた興奮を鎮める事である。 的体験によって手にした性的傾向と、幼児 この事は常に無興奮の状態を保持する事を 期に偶然呼び起こされた外的影響の二つで 意味する。無興奮状態、それはつまり死・ ある。神経症の症状形成は、現実の外傷的 タナトス 体験によって拒否されたリビドーが、退行 トは考えた。 によってこの固着部分へ戻る事であるが、 あらゆる生命の目的は死であり、自己保存 すでに自我の中に生じている社会的、道徳 の本能も、生が死への独自の道を守ろうと (Thanatos) で は な い か と フ ロ イ (4) 的見地を承認する部分によっても、内的拒 する試みである。何故なら、心は不快から 否を受ける為、 快へ、興奮量の減少の為だけに働くからで リビドーは自らの欲望と、 現実と、自我の厳格さとの闘争の中で行き ある。生命は、奇跡によってか、現実の偶 場を失い、様々な歪曲を受けた派生物を作 発的な事柄によってか、生じせしめられ、 り出し、それに固着する。 その段階ですでにそれを不快と感じた。そ 症状であり、 これが神経症の リビドーは無意識と間着を経 て、ついには非常に制限されているが、現 れを快にする為 l こ、元の無機質の状態(死) を願望した。 2 2 4 以上が、フロイト思想の外観である。見 静 夫 著 : イ マ ー ゴ (vo1 .3 -3、 (4)町沢 方によれば、フロイトの考え方は淋しく、 エロスとタナトス)、一死の本能(タ 厳しいものである。 ナトス〉はあるのか一、 最後に、 P. ゴ ー ギ ャ ン の 言 葉 を 記 し て 94-105参照、 1 9 9 2 . 青土社、東京、 終わりとしよう。 付 記 : 過 去 1年 聞 に 学 生 相 談 室 で 取 り 扱 わたしたちはどこからきたか、 った件数を相談内容別に集計した下表を わたしたちはなにか、 参照して頂きたい。 わたしたちはどこへゆくのか、 相談内容別取扱件数 (平成 3 年1 月1 8日 主要参考文献 (1) フ ロ イ ト 著 作 集 い 高 橋 義孝訳、 相談内容 平 成 4年 1月 1日) 件 数 % 一精神分析入門(正・続)一、人文書 院、東京、 1 9 7 6 . (2 ) フ ロ イ ト 著 作 集 2:高橋 1 9 8 0 . 参照文献 隼 雄 編 : イ マ ー ゴ (vo1 .2 -12、 夢)、藤田 (2) ポ ー ル ・ リ ク ー ル 著 : 久 米 ーフロイトを読む一、 新曜社、東京、 1 9 91 . 2. 学 生 生 活 32 29 3.対人関係 15 13 4.精 神 衛 生 14 12 5. 進 路 問 題 7 6 6.健康問題 4 3 112 100 博訳、 289-293参照、 1 9 8 2 . 尚武編:精神医学大事典、- (項目、退行〉一、 談社、東京、 36 博史著:ー夢の構造一、 118-134参 照 、 青 土 社 、 東 京 、 (3 ) 新副 40 義孝訳、 一夢判断一、人文書院、東京、 (1 ) 河合 1. 学 業 全 般 7. 計 583-586参 照 、 講 1 9 8 9 . (受理 平 成 4 年 3 月 2 0 日)
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