論文内容の要旨 国 際 リ ニ ア コ ラ イ ダ ー 加 速 器 ( ILC: International Linear Collider) は 10km+ 10km の 電 子 陽 電 子 主 線 形 加 速 器 が 使 用 さ れ る 。そ の ILCに 用 い ら れ る 超 伝 導 加 速 空 胴 は TESLA ( Tera electron volt Energy Superconducting Linear Accelerator) デ ザ イ ン が 長 年 の 研 究 開 発 と 性 能 実 証 が な さ れ て い る た め ベ ー ス ラ イ ン デ ザ イ ン と な っ て い る 。 ILCの メ イ ン ラ イ ナ ッ ク で は 合 計 17,000台 の 加 速 空 胴 を 必 要 と し 、こ の 製 作 に お い て は 多 く の 技 術 的 チ ャレンジを含んでいる。その問題の一つとして、空胴アライメントの取り扱いがある。ビ ームのエミッタンス増大を抑えるための空胴アライメント許容量(空胴設置誤差)は RMS=0.3 mm以 内 で あ れ ば 短 距 離 、 長 距 離 の 両 ウ ェ ー ク 場 に 対 し て 問 題 な い こ と が 、 TESLA空 胴 の 横 方 向 の ウ ェ ー ク 関 数 お よ び 高 次 モ ー ド( HOM: Higher Order Mode)の ダ ンピング能力などのパラメーターを元に計算されている。 超伝導空胴はその製作方法や各種カプラの配置の非対称性などから機械的中心と加速モ ードおよび高次モードの電気的中心が一致しているとは限らない。また、モード間および セル間にも電気的中心および偏極方向に差があることが予想されている。しかし、それに 関する詳細な精密測定はされていない。クライオモジュール内に設置された空胴の機械的 中 心 を ±0.3 mm以 内 に あ わ せ る の は 難 し く 、ま た 、観 測 す る こ と も 難 し い 。ク ラ イ オ モ ジ ュールに組み込まれた空胴アライメントを観測する手段として、空胴内を通過するビーム に よ り 励 起 さ れ る 高 次 モ ー ド( ダ イ ポ ー ル モ ー ド:TE 111 ,TM 110 モ ー ド な ど )を 用 い た 方 法 がある。空胴に励起されるダイポールモードはビームの通過位置がモードの電気的中心か ら X-Y( ビ ー ム 軸 を Zと す る )の 変 位 に 対 し て 比 例 し た 電 圧 が 空 胴 内 に 発 生 す る 。こ の 発 生 電 圧 は HOMカ プ ラ で 空 胴 の 外 へ 取 り 出 さ れ 、空 胴 ア ラ イ メ ン ト に 使 用 で き る ダ イ ポ ー ル モ ードを選択的に観測すれば、空胴アライメントや空胴自身の変形に関する情報を得ること ができる。これにより、空胴とビームの相対位置つまり空胴のビーム軸回りのずれが検出 できる。この方法を用いるに当たって、予め使用するモードの素性(電磁界分布、偏極方 向、電気的中心と機械的中心の差など)を知らなければいけない。 本 研 究 で は 、 ILCの ベ ー ス デ ザ イ ン で あ る TESLA空 胴 お よ び KEK(高 エ ネ ル ギ ー 加 速 器 研 究 機 構 ) STF( Superconducting rf Test Facility)に て ILCの た め に 研 究 開 発 が な さ れ て い る STF Baseline空 胴 の 両 空 胴 を 用 い て 、 超 伝 導 9セ ル 加 速 空 胴 の 高 次 モ ー ド を 用 い た 空 胴 ア ラ イ メ ン ト の 研 究 を 行 っ た 。 主 な 実 施 内 容 は 次 の 3つ で あ る 。 [1] STF Baseline空 胴 の た め の 新 し い HOMカ プ ラ の 開 発 STF Baseline空 胴 に TESLA型 HOMカ プ ラ を 使 用 し た 場 合 、ビ ー ム 軸 か ら の HOMカ プ ラ の 高 さ が Heジ ャ ケ ッ ト 径 を 超 え て し ま う た め 、Heジ ャ ケ ッ ト 径 の 最 小 化( コ ス ト ダ ウ ン ) の た め に は 、 TESLA型 HOMカ プ ラ よ り 6mm以 上 背 の 低 い HOMカ プ ラ が 必 要 と な っ た 。 開 発 方 針 と し て 、ノ ッ チ フ ィ ル タ ー の 短 縮 お よ び HOMカ プ ラ 内 導 体 と 外 導 体 の 一 体 化 を 行 い 、 HOMカ プ ラ の コ ン パ ク ト 化 を 試 み た 。 ノ ッ チ フ ィ ル タ ー の 開 発 で は 、 STF I-type、 STF L-typeの 設 計 を 行 っ た 。STF L-typeで は ス タ ブ 形 状 を ク ラ ン ク 化 す る こ と で 、禁 止 帯 の な い 良 い 透 過 特 性 を 持 つ フ ィ ル タ ー が 設 計 で き た 。ノ ッ チ フ ィ ル タ ー と HOMカ ッ プ リ ン グ ア ン テ ナ と 一 体 化 し た モ デ ル で は 、 HFSSに よ る 計 算 と 銅 製 カ プ ラ の 実 測 で 良 い 一 致 を 得 た 。 し か し 、 STF L-typeカ プ ラ で は 4.5GHzに 禁 止 帯 が 現 れ た が 、 ス タ ブ と カ ッ プ リ ン グ ア ン テ ナ の 切 り 離 し を 行 っ た 結 果 ( STF L-type-II)、 禁 止 帯 の 緩 和 が で き た 。 STF Baseline空 胴 に 装 着 し た HOMカ プ ラ は STF L-type、 STF I-typeの 2機 で あ る 。 9セ ル 空 胴 に お け る 高 電 界 試 験 を 縦 測 定 お よ び 横 測 定 に て 行 っ た 。 結 果 、 CW運 転 で は エ ン ド セ ル の 加 速 電 界 で 32MV/mま で 、 パ ル ス 運 転 で は 1.5ms、 5Hz で 19.3MV/m、 0.6ms、 5Hz で 23.4MV/mま で 問 題 な く 動 作 す る こ と を 確 認 し た 。 観 測 さ れ た プ ロ セ シ ン グ レ ベ ル の 多 く は 10MV/m以 下 と 16MV/m、 20MV/m周 辺 に も 観 測 さ れ た 。 [2] 空 胴 ア ラ イ メ ン ト の た め の 9セ ル 空 胴 HOM解 析 HOMを 用 い て 空 胴 ミ ス ア ラ イ メ ン ト 検 出 を 行 う に 当 た っ て 、 STF Baseline空 胴 4台 と TESLA空 胴( シ リ ア ル 番 号:Z84)の HOMの 素 性 を 調 べ た 。測 定 モ ー ド は TE 111 ,TM 110 ,TM 011 で あ る 。測 定 は パ ス バ ン ド 周 波 数 の 測 定 と 電 磁 界 分 布 の 測 定 に よ る モ ー ド の 同 定 、HOMの ダンピング能力の測定、メインダイポールモードのモード間およびセル間における偏極方 向 の 分 布( ビ ー ズ 測 定 )、ダ イ ポ ー ル モ ー ド の 電 気 的 中 心 と 機 械 的 中 心 の 差 の 測 定( ア ン テ ナ測定)を行った。 HOMダ ン ピ ン グ 測 定 で は 、TE 111 ,TM 110 の ダ イ ポ ー ル モ ー ド の Q ext は STF Baseline空 胴 、 TESLA空 胴 と も に 1×10 5 以 下 で あ っ た 。 TM 011 モ ー ド に 関 し て は TESLA空 胴 で は 1×10 5 を 下 回 っ た が 、STF Baseline空 胴 で は 2~4×10 5 で あ っ た 。こ れ は STF Baseline空 胴 の HOM カ プ ラ の 向 き は 加 速 モ ー ド と の カ ッ プ リ ン グ を 避 け る た め 、TESLA空 胴 と 異 な る 回 転 方 向 に 配 置 し た た め で あ る 。HOMカ プ ラ の 回 転 方 向 を 変 え る こ と で 、こ れ は 改 善 で き る と 考 え られる。次期モデルで実証する。 偏 極 方 向 の セ ル 間 お よ び モ ー ド 間 の 分 布 を 調 べ た 。セ ル 間 の 分 布 で は 、TE 111 ,TM 110 の パ スバンド全てで、測定エラーの範囲内で差は見られなかった。また、ダイポールモードの ダ ブ レ ッ ト 間 で は 、ダ ブ レ ッ ト 間 の 周 波 数 差 が 100kHz以 上 の モ ー ド で は X-Yダ イ ポ ー ル の 角 度 差 が 90±10°に 収 ま っ て い た 。 STF Baseline空 胴 4台 の 測 定 結 果 か ら 、 ダ イ ポ ー ル モ ー ド の 偏 極 方 向 は HOMカ プ ラ で ほ ぼ 決 定 す る こ と が 分 か っ た 。 アンテナ測定にて電気的中心位置と機械的中心位置の偏差の測定を行った。本測定では HOMカ プ ラ 近 傍 の セ ル に お け る 電 気 的 中 心 の 測 定 を 意 味 す る 。測 定 で き た ダ イ ポ ー ル モ ー ド の 電 気 的 中 心 位 置 は HOMカ プ ラ 側 に ~ 2.6mmシ フ ト し て い た 。 [3] HOMを 用 い た 空 胴 ア ラ イ メ ン ト の ビ ー ム 実 験 ( FLASHに お け る ビ ー ム 実 験 ) DESY 研 究 所 に あ る FLASH(Freie-elektronen LASer in Hambrug)に て 、 TESLA 空 胴 を 用 い た ビ ー ム 応 答 試 験 を 行 っ た 。 測 定 に 使 用 し た 空 胴 は ACC6 module に イ ン ス ト ー ル さ れ た 8 空 胴 で あ る 。 TESLA 空 胴 実 機 ( Z84) の 測 定 よ り 、 メ イ ン ダ イ ポ ー ル モ ー ド の 電 磁 界 分 布 の 測 定 を 行 い 、TE111-1,2,3 と い っ た 局 所 的 な 電 磁 界 分 布 を 持 つ モ ー ド に 着 目 し 、こ れらのモードを使用することで、空胴の歪みを検出する可能性があると考え、その検証を 試 み た 。ま た 、TE111-6、TM110-5 と い っ た 高 イ ン ピ ー ダ ン ス モ ー ド を 用 い た 空 胴 ミ ス ア ラ イ メ ン ト 測 定 も 行 っ た 。空 胴 ア ラ イ メ ン ト の 目 標 値 は ビ ー ム 軸 か ら の 距 離 で ±300μ m で あ る 。 測 定 の 結 果 、 ACC6 module 8 空 胴 の ビ ー ム 軸 か ら の ず れ は 、 ±300μ m ( エ ラ ー バ ー の 範 囲 を 加 え る と ±500μ m)以 内 に 収 ま っ て い る 空 胴 は 2 台( #6,#7)、 ±1mm( エ ラ ー バ ー の 範 囲 を 含 む ) 以 内 に 収 ま っ て い る 空 胴 は 5 台 ( #3,#5,#6,#7,#8)、 1mm以 上 の 空 胴 は 3台 ( #1,#2,#4) 、 で あ っ た 。 TE111-6、 TM110-5の 電 気 的 中 心 位 置 は 測 定 エ ラ ー の 範 囲 内 で 一 致 し て お り 、両 モ ー ド と も に 空 胴 ミ ス ア ラ イ メ ン ト 検 出 に 使 用 で き る こ と が 分 か っ た 。ダ イ ポ ー ル モ ー ド 間 に お け る 電 気 的 中 心 位 置 の ず れ を 調 べ た 結 果 、 TE111-1,-3と い っ た 局 所 的 電 磁 界 分 布 を 持 つ モ ー ド の 電 気 的 中 心 位 置 が そ の 他 の モ ードと比較して大きくずれていた空胴があった。これは空胴の曲がりを示唆するのか、 空胴の端と真ん中のセルで電気的中心位置が異なることを示唆していることが考えら れ る 。 TESLA銅 製 9セ ル 空 胴 を 用 い て 、 セ ル 間 の 電 気 的 中 心 位 置 の 測 定 を 試 み た が 精 密 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た 。 今 後 、 9セ ル 空 胴 の セ ル 間 に お け る 電 気 的 中 心 位 置 の 分 布 を 調べる必要がある。
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