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21 世紀は感動を与えるアート的なものが究極の差異を生む
第 21 回ブロードバンド特別講演会で猪子寿之氏が講演
NPO 法人ブロードバンド・アソシエーション主催により東京都港区・明治記念館で 5 月
20 日に開催された第 21 回ブロードバンド特別講演会で、チームラボ代表の猪子寿之(いの
こ・としゆき)氏が「ビジネスはすべてがテクノロジーとなり、すべてはアートであった
ときにのみ生き残っていく」とのテーマで講演しました。情報社会化が急激に進む 21 世紀
のケーブルビジネスにも多くの示唆を与える内容でしたので、概要を紹介します。
チームラボ*は、東大発のベンチャー。情報社会の手を動かす専門職集団(ウルトラテク
ノロジスト集団)でできている会社で、東京に約 300 人、台北と上海にも少しスタッフが
います。
専門職はプログラマー、データベースやネットワークのエンジニア、3D コンピュータグ
ラフィクスのアニメーター、建築家、数学者、グラフィックデザイナーで、ディレクター
や営業職はいない会社です。スタッフは、それぞれ違う分野のメンバーとチームを作って、
実際手を動かして創りながら考えて行き、考えた結果をまた創るものに反映していくとい
うように、何かを創ることでいろんなものをソリューションしている会社です。
一般的な企業のウェブやシステムも作りますが、デジタルという領域をいろいろなもの
に応用して、非常に珍しいところではアート作品も作っています。
アート作品をスペースの関係でごく一部紹介します。(タイトル下の URL は動画です)
①「秩序がなくともピースは成り立つ」
(URL http://www.team-lab.net/all/art/peace_sg.html)
アジア最大規模のアートの祭典シンガポールビエンナーレ 2013(開催期間 2013 年 10 月
―2014 年 2 月)にシンガポールの招きで作った作品。
等身大のホログラムが無数にあって、観客はその空間の中を歩いていける。ホログラム
のキャラクターに近づくと、キャラクターが反応して歌いだしたり、喜んで跳び上がった
り、お辞儀をしたりしてくれる。それぞれが楽器を持って皆自由に踊ったり楽器を奏でた
りするが、自然界で蛍が同じ木に止まると点滅が一致するという「引き込み現象」が起こ
るように設計されているので、しばらくすると全体で完全に音楽が一致して、あたかもオ
ーケストラのような一曲になる。
*チームラボ(URL http://www.team-lab.net)
ケーブルテレビ業界との接点はこれまでありませんが、オファーに対してソリューションを提供する会
社ですので、ケーブル事業者からのオファーがあれば、ソリューションを検討するのが基本的スタンスで、
今後協働も期待されそうです。
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②「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」
(URL http://www.team-lab.net/all/art/whatloving.html)
2012 年の作品。
書が空間から降っていて、例えば人が「鳥」という書に触れると鳥が出たり、「月」とい
う書に触れると月が出る。それらは互いに影響し合っている。例えば蛍が飛んでいると、
蛍は水辺があると水辺に寄っていったり、「風」という書に触れて風が吹くと、風の影響を
全体が受けたり、何かを感じて選ぶことによって世界がどんどんできていって、選んだも
の同士が相互に作用し合って風景ができていくが、二度と同じ風景は再現されない。これ
はリアルタイムに現象されているので、今この瞬間に見ているものは、二度と見えない。
③博多クリスマスイルミネーション 2013
「願いのクリスタルツリー」
(URL http://www.team-lab.net/all/products/crystaltree.html)
ディスプレーは普通平面だが、これは LED を 3 次元状に全部埋めて堆積させて、ある部
分の LED が消えると、LED が点いた部分が丸太を削って残った彫刻のように、LED で立
体的な彫刻ができる。LED を点滅させることで動かせるので、実際に立体物が映像のよう
に動くことができる。観客がスマホのアプリで飾り物を投げ込むと、投げたものが立体物
に出現して飾りつけられていく。
福岡の人はほぼすべて知っているというほど話題になった。Canal City Hakata(キャナ
ルシティー博多)の商業施設に昨年 11 月から 12 月に展示し、その間の売上が前年比 2 桁
増したといわれているほど、人が集まった。
④子供のための「チームラボ 学ぶ!未来の遊園地」
(URL http://kids.team-lab.com/)
去年から始めているプロジェクトで、デジタルで作ったアトラクションが今 5~6 種類あ
って、いろいろなところのイベントに貸し出している。
例えば「お絵かき水族館」
。これは、子供が自由に描いた魚の絵を自分でスキャンすると、
今描いた魚が水族館で泳ぎ出す。自分たちが描いた魚に触れたりすると、逃げていったり、
。
餌をあげると寄ってきたりする(写真)
また「光のボールでオーケストラ」は、ボールに触ると色が変わって音が鳴ってみんな
で楽しめるオーケストラをやろうというアトラクションだが、実際は子供たちが狂喜乱舞
して、オーケストラにならないという。
世界で一番大きなデザインの祭典といわれる「ミラノサローネ」に「お絵かき水族館」
を出品し、ヨーロッパのファッションカルチャー誌“i-D”が選ぶ今年のミラノサローネ全
体のベスト 5 に選ばれた。シンガポールビエンナーレの出品作品は、シンガポールの新聞
「ストレレイト・タイムズ」1 面に載った。アートが 1 面に載ったのは初めてらしいが、日
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本のことが 1 面に載るのも 4、5 年ぶりで、前回は日本の首相の謝罪だった。
21 世紀はデジタルの領域がすべての領域を革新していく時代
猪子氏は次のように説明しています。
「僕らは、デジタルがウェブだけではなく、すべての領域にすごい効果があると思って
います。クリスマスツリーも、遊園地もデジタルで作ることで、全然違う価値になる。ア
ートすらも、デジタルというものが美の表現を変えると思って、いろいろとやっているの
です。
もうちょっと言うと、日本の年配の方はなかなか認められないのですが、21 世紀は情報
社会になっていて、これまでの時代とは、何もかもが変わって違うわけです。
農業革命の前と後、産業革命の前と後では全然違うように、21 世紀は情報社会という新
しい時代に突入していて、それは世界がネットワークに覆われていて、デジタルの領域が
すべての領域を革新していく時代だと思っているのです」。
すべてがデジタルテクノロジーの塊りになると、一瞬で共有され差がなくなる
「アナログというのは、人間にとって所詮情報でしかないのに、情報は媒介物がないと
存在できなかった、すごく美しくない状態です。だから、絵は所詮情報でしかないのに、
油絵の具やキャンバスに載せないと、存在できなかった。
デジタルというのは、情報が媒介物なしに存在できるようになった。それが基本的に本
質だと思っています。音楽が分かりやすいが、レコード盤みたいなものに刻まないといけ
なかったものが、デジタルで物理的媒体なしに音楽として存在できるようになった。
デジタル領域が中心になるというのは、すべての領域が、絵や音楽がただの情報の塊り
になるように、ビジネスの領域も基本的に情報の塊りになっていく。本屋という物理的な
塊りが、アマゾンみたいな情報の塊りが本屋の代わりになるみたいなものです。
すべてが情報の塊りになると、ジャンルという境界もなくなっていく。
単なるデザインもテクノロジーも情報の塊りなので、切り分けられなくなるのです。車
などではデザインは外側のボディーというように切り分けられていたが、例えばiPho
neのインタフェースは、デザインとテクノロジーの境界線がなくなるわけです。そうな
ると、すべては情報の塊り、デジタルテクノロジーの塊りみたいなものになるわけです。
今なっていない分野も、いずれはそうなっていく」
。
「一方で、情報社会は、ネットワークに覆われているので、情報の共有が異常なくらい
なスピードで行われていて、一瞬に何でも共有されてしまう。特に言語化できる領域とか、
論理化できる領域、言語や論理で再現できる領域は、一瞬で共有されるのです。テクノロ
ジーも、論理的なものなので、すごい勢いで共有される。デジタルの分野になると、途上
国も先進国もあまり差が生まれないので、すごい勢いで差がなくなっていく」。
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言語で説明できない価値こそが究極の差異を生む
「じゃどうすればよいかというと、例えば言語や論理で再現しにくい領域、もう少し人
間の側から直感的に言うと、テンションが上がったり、すごく感動したり、何か非常にイ
ンパクトを受けるが、その感動を言葉で説明したり、論理的に説明できなかったりするよ
うな領域、もしくは言葉や論理で説明したところで何の意味ももたないような領域こそが、
実は説明しにくい故に再現しにくくて、再現方法が共有されにくい。そういう領域こそが、
これからの時代の唯一の差を生んでいくのではないかと思っています。
直感的に言うと、マイクロソフトのエクセルのよさは言語もしくは論理で説明できます
が、もう誰もマイクロソフトに未来を感じていない。その後アップルみたいなものにみな
未来を感じているわけです。アップルの iPhone が出た瞬間は、使えるまでは誰もそのよさ
が論理的に説明できなくて、評判は散々だったわけですが、触るとなぜか感動する。そう
いう言語で説明できない価値に価値がシフトしていっている。それが究極の差異を生むと
思うのです。
言語や論理で感動を説明しにくいような領域を人は昔から『アート』と呼んでいたと思
うが、アートを創れというのではなく、アートのように人を感動させたり、体験させるよ
うなものこそが、グローバル社会で差異を生んでいくのではないかと思っています」
。
「まとめると
第 1 ステップとして、情報社会は、すべての産業区分がなくなり、すべてのビジネス領
域はデジタルテクノロジーの塊りになっていく。今すごい勢いでそうなっている。
第 2 ステップとして、テクノロジーの塊りになっていくにもかかわらず、テクノロジー
というのは、競争の差異を生まなくなっていく。
そうなったとき
第 3 ステップとして、究極的にすべてのビジネス、企業の存在そのものや、プロダクト
やサービス、つまりビジネスのアウトプットが、論理や言語で説明できないアート的な、
感動を与えるようなものがより生き残っていくのではないか
と思っています」
。
以上
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