FPGAを用いた高速 1bit信号処理

2-D-9
スペシャル・セッション〔音の教育あるいは研究における先進的デモンストレーション〕
FPGA を用いた高速 1bit 信号処理 ∗
☆久世大, 今井亮太, 井上貴之, 小谷野雄史, 大内康裕,
池田雄介, 及川靖広, 山崎芳男 (早大理工)
1
デジタル信号
アナログ信号
まえがき
バランス入力
バランス出力
FPGA
Field Programmable Gate Array(以下 FPGA)は,
ハードウェア記述言語によって内部の回路を書き換
SATA 転送
えることができ,また並列処理が可能な高い演算性
能を持つ集積回路である.我々は,これらの特徴を活
ディザ
かし,高速 1bit 信号処理に FPGA を導入することで
SSD
様々なシステムを実現してきた.具体的には 1024 ch
のマイクロホンアレイ [1] や,パラメトリックスピー
カの駆動 [2],また帽子型補聴システム [3] などが挙げ
図–2 高速 1bit 直接量子化信号録音再生システムの構成
0
ステムで実現できる上,プログラムを書き換えるこ
−10
とで回路を自由に変更できるので実験条件や信号処
−20
理の変更なども容易に行うことができる.本稿では,
近年我々が高速 1bit 信号処理の研究開発に FPGA を
level [dB]
られる.FPGA を用いることで,これらを小型なシ
−30
−40
−50
用いた例として,ディザを用いた 1bit 直接量子化信
−60
号の録音再生システム [4] を紹介する.また,そのシ
−70
ステムを拡張して実現した多チャンネル 1bit 信号再
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0 1.2 1.4
Frequency [Hz]
1.6
1.8
2.0
2.2
4
x 10
図–3 標本化周波数を 200 MHz としたときのスペクトル
生システムの提案を行う.
2
0
ディザを用いた高速 1bit 直接量子化信
号の録音・再生
及び標本化される.標本化された 1bit 量子化信号は,
FPGA 基板に接続された SSD に SATA1.0 で高速に
書き込まれる.SATA の高い転送速度と FPGA の演
FPGA と SATA を用いた 1bit 直接量子化信号の記
算性能により,構築したシステムで標本化周波数最大
録再生システムを紹介する.図–1,図–2 にそれぞれ
500 MHz の標本化を実現した.また SSD での 1bit
構築したシステム,システムの構成図を示す.図–2
量子化信号の長時間録音・再生を可能にした.再生に
から,1bit ADC が FPGA を用いることで非常にシ
関しても SSD から SATA を用いて高速に読み出すこ
ンプルになっていることが分かる.
とが可能であり,1bit 信号を FPGA のデジタル出力
入力信号にディザを加算した合成信号は,FPGA
端子からそのまま出力することができる.
のデジタル入力端子に入力された後,FPGA 内の 1
実際に構築したシステムを用いて,標本化周波数
段フリップフロップ回路によって 1bit 信号に量子化
200 MHz で量子化された 1bit 信号のスペクトルを
図–3 に示す.入力信号には 1.6 kHz,33 mVp-p の正
弦波,加算したディザには 29.975 MHz,10 Vp-p の
正弦波を用いた.標本化周波数を高くすることで量
子化雑音が白色化され,可聴帯域内で雑音電力が小
さくなっている.
多チャンネル高速 1bit 信号再生への応用
3
2 章で紹介した大容量の高速 1bit 信号の記録再生
システムでは,1 ch で標本化周波数を最大 500 MHz
図–1 高速 1bit 直接量子化信号録音再生システム
∗
での信号の記録再生を行っていたが,本章で新たに提
High Speed Single-Bit Signal Processing with FPGA. By Dai KUZE, Ryota IMAI, Takayuki INOUE,
Yûji KOYANO, Yasuhiro ÔUCHI, Yusuke IKEDA, Yasuhiro OIKAWA and Yoshio YAMASAKI(Waseda
University).
日本音響学会講演論文集
- 1631 -
2016年3月
案するシステムでは,それを多チャンネル再生シス
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SSD
テムへ拡張する.多チャンネル再生システムは近年,
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臨場感やリアリティを高める目的で音場を制御する
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際に盛んに用いられている.高速 1bit 信号はデジタ
ル信号ながら原信号のスペクトルを含有し再生にあ
たり DAC を必要としない [5] ので,システムが煩雑
になりがちな多チャンネル再生を小規模なシステム
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で実現することが可能である.
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提案する多チャンネル再生システムと構築したシス
テムの一部を,それぞれ図–4 に示す.信号のハブシ
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ステムとして Complex Programmable Logic Device
(以下 CPLD)はプログラマブル集積回路の一つで,
FPGA 同様に回路の書き換えが容易である.CPLD
に FPGA ほどの複雑な回路を構築することはできな
図–4 多チャンネル再生システムの概要
Speakers
いが,提案システムのハブシステムのような単純な回
路を安価かつ小型な CPLD に実装させることで,シ
ステムの簡素化を図ることができる.
今回使用する CPLD(Xilinx XC9572XL) の最大ク
ロック数が 100 MHz であることから,本システムで
FPGA
CMOS
は駆動クロックを 96 MHz,信号の標本化周波数を
4 MHz,1 台の出力チャンネル数を 24 とした.また
本システムに CPLD を 8 台使用し,マスタシステム
SSD
CPLD
1 台で 192ch での再生を想定している.本システムの
信号処理の流れを以下に示す.
STEP 1
SSD から SATA を用いて 192 ch の 1bit データをマ
スタシステム(FPGA)に読み出す.
STEP 2
192 ch の 1bit データを 24 ch 毎に分配し,24 ch データ
をマスタシステムから 8 台のハブシステム (Complex
Programmable Logic Device:以下 CPLD) にそれぞ
れ LAN ケーブルを通じて伝送する.
図–5 多チャンネル再生システム
ケーブルを長距離伝送に使用する.再生するチャンネ
ル数は計 192 ch,1 チャンネルから再生する信号を標
本化周波数 4 MHz で再生するので,SSD からの読み
出しの転送速度は 768 Mbps で行う.図–5 に構築し
た多チャンネル再生システムを示す。
むすび
4
STEP 3
各ハブシステムは受け取った 24 ch の 1bit データを
各チャンネルに分配し,出力する.
号の応用や新しいシステムの提案を行ってきた.本稿
STEP 4
では多チャンネルシステムへの応用を提案し構築を
高速 1bit 信号処理に FPGA を導入し,高速 1bit 信
ハブシステムから出力された 1bit データを,接続さ
行った. 今後は提案した多チャンネルシステムの評価
れた CMOS バッファで各スピーカを駆動する.
や,3 次元音場再現への応用を行う.
参考文献
マスタシステムとハブシステム間の通信に関して,
マスタシステムとの同期を考慮し,24 ch データの他,
CPLD を駆動するクロック信号と 24ch データのイン
デックスを示すフレーム信号を同時に伝送している.
3 つの高周波数のデジタルデータを並行して通信する
ことから,マスタシステムとハブシステム間の通信
にはシールド付の LAN ケーブル(Cat.5e)を用いた.
また 3 信号を差動で伝送し.CPLD の直前にレシー
バで受けることによりノイズ耐性を高めた.システム
全体の小型化を図るため CPLD-スピーカ間(24 ch)
[ 1 ] 武岡成人,小榑亮太,山崎芳男,
“高速 1bit 信号処理を用いた
超多チャンネルマイクロホンアレイ,”音講論 (秋),pp765-766,
2010.
[ 2 ] 石井紀義,武岡成人,及川靖広,山崎芳男,
“ 高速 1bit 信
号によるパラメトリックスピーカの直接駆動,” 音講論(秋),
pp.631-632,2009.
[ 3 ] 井上貴之,今井亮太,池田雄介,及川靖広,
“ MEMS マイ
クロホンアレイを用いた帽子型補聴システム,” 音講論(秋),
pp.1257-1258,2015.
[ 4 ] 小谷野雄史,今井亮太,池田雄介,及川靖広,山崎芳男,
“ディ
ザを用いた高速 1bit 直接量子化信号の記録と再生,”音講論 (秋),
pp545-546,2015.
[ 5 ] 大賀寿郎,山崎芳男,金田豊,音響システムとデジタル処理,
1995.
の信号線ではなく,FPGA-CPLD 間(6 ch) の LAN
日本音響学会講演論文集
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2016年3月