- 1 - 不動産登記法Ⅰ 【総論】 《登記簿》 登記の効力を有する書類 ①

不動産登記法Ⅰ
【総論】
《登記簿》
◇ 登記の効力を有する書類
①:登記簿
※共同人名票は当然に登記簿の一部である
②:登記簿には編綴されていないが法律によって登記簿の一部とみなされるもの
※共同担保目録、信託原簿、工場財団目録、機械器具目録
③:①と②以外
※登記簿の全部又は一部が滅失した場合の申請書編綴簿
◇
閉鎖した登記用紙は閉鎖の日より、土地については50年間、建物については30年間閉鎖
登記簿に編綴して保存する(24の2ⅠⅡ)
《登記の形式》
◇ 附記登記でなされるもの
①権利の変更・更正登記(56・66) ※1
権 利 一 般 ②登記名義人表示変更・更正の登記(58)
③買戻特約の登記(59の2Ⅰ)
④権利消滅の定めの登記(59の2Ⅲ)
①移転の登記(134)
所有権以外の権利 ②当該権利を目的とする権利の登記(細55)
③処分の制限の登記(細56) ※2
①処分の登記(民375)
抵
当
権 ②共同抵当の次順位者の代位の登記(119の4、民393)
③抵当証券の作成・交付の登記(129・130)
④債権分割による変更の登記(細63の3) ※3
根 抵 当 権 設定・順位変更・分割譲渡・抹消以外の全て
※1:利害関係人の承諾ない場合は主登記
※2:差押、仮差押、破産、更正手続開始の登記等
※3:抵当権の被担保債権の分割による登記とは、抵当権の債権を債権者と債務者の契約に
より分割し、その分割された抵当権の債権額に応じ、抵当証券の発行を申請し、証券の活
用を図るものである(細63の3)
◇
共有物不分割の特約の登記は、利害関係人がいるときは、その承諾書又はこれに対抗する
ことができる裁判の謄本を申請書に添付することができるときは附記登記で、添付することがで
きないときには主登記で実行される(56Ⅰ)。
◇
根抵当権の極度額の変更登記は、増額・減額とも附記登記として実行され、主登記でされる
ことはない(昭46.10.4民甲3230号)。
-1-
◇
根抵当権の分割譲渡による移転登記は主登記によりなされ、順位番号は、原根抵当権と同
じ順位番号が用いられる(119の6ⅡⅢ)。
◇
不動産が工場財団に属した場合には主登記で実行され、地上権・賃借権の場合には附記
登記によって実行される(昭54.3.31民三2112号)。
◇
権利の消滅事項の定めを所有権その他の権利の移転又は設定の登記と同時に申請する場
合は、その権利の移転又は設定の登記の申請書に『権利の消滅事項』として記載されるが、そ
の登記は、当該権利の移転又は設定の登記に附記する附記登記による(59の2Ⅲ)。
※別途登録免許税は不要
◇
所有権の持分についての差押・仮差押の登記は主登記による(昭55.8.28民三5267号)。
◇
所有権移転請求権を目的として差押えがなされた場合、所有権移転請求権の移転の登記
が附記登記によりなされるため、当該差押の登記も附記登記による(昭33.2.14民甲369号)。
◇
破産法による否認の登記は、所有権の否認の登記であると所有権以外の権利の否認の登
記であるとを問わず、ともに主登記で実行される。
※破産法の否認権とは、債務者が責任財産の不足することを知りつつ財産減少行為をした場
合に、その効力を否認して責任財産の維持を図ることを目的とするものであり、詐害行為取
消権と同様の目的を持つ制度である。
◇
敷地権たる旨の登記 は、所有権、地上権、賃借権を問わず主登記 でなされる(93の4)。
《登記申請の当事者》
◇ 登記申請人の特定
混同による抹消登記申請
権利者:現在の登記名義人
義務者:抹消する権利の登記名義人
所有権に関する仮登記の 権利者:仮登記権利者
本登記申請
義務者:仮登記義務者(現在の所有権登記名義人不可)
所有権以外の権利に関す 権利者:仮登記権利者
る仮登記の本登記申請
義務者:仮登記義務者又は現在の登記名義人
仮登記の抹消登記申請
権利者:仮登記義務者又は現在の登記名義人
義務者:仮登記権利者
買戻権の行使
権利者:買戻権者
義務者:現在の登記名義人(買戻権設定者不可)
買戻権の登記の期間満了 権利者:現在の登記名義人
による抹消
義務者:買戻権者
抹消回復
権利者:抹消された権利の登記名義人
義務者:現在の登記名義人
-2-
◇
◇
設定後に取扱店を追加する場合、登記名義人の表示変更登記に準じ、抵当権の登記名義
人の単独申請によるとされている(昭36.9.14民甲2277号)。
破産の登記の抹消は、裁判所の嘱託によってなされる(昭32.3.20民甲542号)。
《代位申請》
◇ 不動産の売主が買主に対し売買代金債権とは別に債権を有する場合、買主が所有権移転
登記に協力しないときは、売主は債権者として買主に代位してその登記を申請することができ
る(昭24.2.25民甲389号)。
◇
短期賃貸借解除訴訟により賃貸借登記抹消の勝訴判決(調停・和解を含む)を得た抵当権
者は、その確定判決を原因証書及び代位原因証書として、当該不動産の所有権登記名義人
に代位して、単独で当該賃借権抹消登記を申請することができる(登記研究462-115)。
◇
根抵当権の担保すべき元本が確定した後に、代位弁済を原因として根抵当権移転登記を
申請する場合において、物上保証人たる根抵当権設定者がその前提たる元本の確定の登記
に協力しないときは、代位弁済者は、根抵当権者に代位して根抵当権設定者に対して確定の
登記手続きを命じる判決を得て、代位登記により、単独で元本確定の登記を申請することがで
きる(昭55.3.4民甲1196号)。
※代位弁済者が根抵当権者に代位して、根抵当権設定者との共同申請不可。
※根抵当権の元本確定の登記は、根抵当権設定者を登記権利者、根抵当権者を登記義務者
として申請する(27Ⅰ)が、根抵当権者は設定者に対して登記引取請求権を有しているので、
設定者に対して元本の確定登記手続きを命ずる判決を得れば、単独でかかる登記を申請
することができる(昭54.11.8民三5731号)。
◇
代位弁済者は、物上保証人たる根抵当権設定者に対しては何らの請求権も有していないた
め、設定者に代位することはできないが、債務者兼設定者の場合には、代位弁済者は求償権
に基づいて設定者に代位し根抵当権者と共に元本確定の登記を申請することができる。
◇
抵当権設定の仮登記仮処分命令を得て、抵当権設定仮登記を申請する前提として、債権
者代位により、仮処分債務者名義の所有権移転登記を申請する場合、保全すべき請求権はあ
くまでも登記請求権であるので、代位原因は『年月日設定契約の抵当権設定登記請求権』で
あって、仮登記仮処分命令は被保全債権とはならず、『年月日仮登記仮処分命令による抵当
権設定仮登記請求権』ではない(昭33.5.23民甲1049)。
◇
債権者代位により所有権移転登記をした場合、登記済証は代位債権者に還付され、登記権
利者には登記済の旨の通知のみがされ(60の2)、この場合に登記権利者が複数存在すると
きは、全員に通知すべきである(登記研究512号)。
⇔保証書申請の事後通知は登記義務者の一人になされれば足りる。
-3-
◇
抵当権の実行による競売開始決定に基づく差押えの登記がされている不動産について、抵
当権者から所有権登記名義人に代位し、買戻権者と共同で買戻特約の登記の抹消の申請が
あった場合には、これを受理して差し支えない(平8.7.29民三1368号)。
《一括申請》
◇ 甲乙共有の不動産を丙が単独で買受けた場合、『共有者全員持分全部移転』を登記の目
的として一括申請可(昭35.5.18民甲1186号)。
※共有者の持分につき第三者の権利の登記等がある場合には、公示技術上、別個の申請書
により格別に登記しなければならない(昭37.1.23民甲112号)。
◇
権利の一部移転の登記を申請する場合、登記原因に共有物不分割の特約があるときは、そ
の旨も当該申請書に記載することができるが、相続を原因とする所有権移転登記は権利の一
部移転の登記には該当せず、相続人間でなされた共有物不分割特約を当該相続による所有
権移転登記申請書に記載してその登記を申請することはできない(昭49.12.27民6686号)。
◇
契約解除を原因とする仮登記及びその仮登記に基づく本登記の抹消は、『何番所有権本登
記及び仮登記抹消』を登記の目的として一括申請可(昭36.5.8民甲1053号)。
※登録免許税は不動産1個分1,000円である。
◇
同一の債務を担保するため、所有者を同じくし又はことにする2個以上の不動産について、
抵当権設定契約の日が異なる場合でも、当該抵当権の設定は、便宜、同一の申請書で申請し
ても差し支えない(昭39.3.7民甲588号)。
※この場合、当該申請書の登記原因及びその日付は、各不動産ごとに特定する必要がある。
◇
土地及びその土地上の地上権を共同担保とする抵当権の設定は、同一の申請書によりする
ことができる(登記研究177-73)。
◇
順位変更の登記の申請は、不動産ごとに各別の申請書によるべきであるが、共同担保であ
る場合において各不動産についての順位変更に係る抵当権の順位番号及び変更後の順位が
全く同一であるときは、同一の申請書ですることができる(昭46.12.27民甲960号)。
◇
共同根抵当権の譲渡の登記申請は、各不動産について登記原因の日付が異なる場合であ
っても、これを同一の申請書ですることができる(昭46.12.27民三第960号)。
◇
極度額の増額及び根抵当権の債務者を交替的に変更する旨の根抵当権変更の登記は、
同一の書面で申請することができる(登記研究451-126)。
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《登録免許税》
◇ 登録免許税の一覧
1000分の50 所有権の移転(売買・交換・共有物分割等)
1000分の25 所有権の移転(遺贈・贈与・真名回復等)
用益権の設定・移転(相続・合併以外)・転貸
所有権の保存
1000分の6 所有権の移転(相続・合併)
所有権移転・移転請求権の仮登記
定率課税
所有権の信託・分離の登記
1000分の4 担保権の設定
差押・仮差押、仮処分又は処分の制限の登記
1000分の3 用益権の移転(相続・合併)
所有権以外の権利の信託・分離の登記
1000分の2 担保権の移転(相続・合併以外)
1000分の1 担保権の移転(相続・合併)
抵当権等の順位変更
所有権以外の権利の仮登記
定額課税 1000円
附記登記
抹消・抹消回復
登記の変更・更正
1500円
(根)抵当権の追加設定
地役権の設定
◇
国又は地方公共団体等が権利者として登記を申請する場合には登録免許税は課されない
が、義務者となる場合や抵当権の順位変更の申請人となる場合には課される(登免法4Ⅰ)。
◇
共有持分を数回にわたって取得した者が登記名義人の表示変更登記を申請する場合の登
録免許税は、不動産1個につき金1,000円である(昭42.7.26民三794号)。
◇
同一申請書で住所移転及び住居表示の実施による登記名義人表示変更登記を申請する
場合に、最終の登記原因が住居表示の実施の時は非課税(昭40.10.11民甲2915号)。
⇔行政区画又はその名称の変更があったときは、登記簿に記載した行政区画又はその名称は
当然にこれを変更したものとみなされ、住所移転後に行政区画又はその名称の変更があっ
た場合、住所移転による変更登記のみを申請すれば足り、登録免許税は、不動産1個につ
き金1,000円である(登記研究252)。
◇
仮登記を本登記にする場合、仮登記に後れる登記は登記官の職権で抹消されるため、登録
免許税は不要である(105Ⅱ)
-5-
◇
同一の申請書で20個を超える不動産について登記の抹消を申請する場合には、申請件数
1件につき2万円である。
⇔同一の申請書で20個を超える不動産について登記名義人表示変更登記を申請する場合
には、このような規定はなく、不動産個数×金1000円である。
◇
所有権に関する処分の制限の登記は主登記、所有権以外の権利に関する処分の制限の登
記は附記登記で実行されるが、その登録免許税は、処分の制限の登記が主登記で実行される
か附記登記で実行されるかを問わず、債権金額等の1000分の4である。
◇
包括遺贈も登記原因は単なる『遺贈』であり、当該『遺贈』を原因とする地上権移転登記を申
請する場合に納付すべき登録免許税の額は、課税価額に1000分の25を乗じた額である。
※相続に準じて1000分の3とはならない。
◇
転貸の登記は附記登記で実行されるにもかかわらず、その登記の登録免許税の課税標準
及び税率は、賃借権の設定登記と同じく、不動産価格の1000分の25である。
◇
抵当権設定の登録免許税は、不動産については債権額の1000分の4、工場財団について
は1000分の2.5と税率が異なり、不動産と工場財団を共同担保とする共同抵当権を設定する
場合、低い税率である1000分の2.5が税率となる(登免法13Ⅰ)
◇
一部譲渡による根抵当権移転登記においては、原則として、一部譲渡後の準共有者の数で
極度額を除して計算した金額を課税標準とし、これに税率1000分の2を乗じた金額が税額と
なる(登録税別表1.1.(6の2))。
※譲受人が複数人いる場合の根抵当権の一部譲渡による移転の登記の課税標準は、一部譲
渡後の準共有者の数で極度額を除した金額に譲受人の数を乗じた額である
(登記研究533-157、先例解説376-34)。
◇
元本確定後の代位弁済による根抵当権の一部移転登記の登録免許税は、代位弁済の目的
たる債権額が、根抵当権の極度額を下回る場合には、代位弁済額の1000分の2となり、根抵
当権の極度額を上回る場合には、極度額の1000分の2となる(登記研究349-87)。
◇
元本確定後の代位弁済による根抵当権の一部移転における、代位弁済の目的たる債権額
が根抵当権の極度額を上回る場合において、その後、残債権の全部の代位弁済による移転
登記を申請するときは、登録免許税法13条2項の類推適用により不動産等に関する権利の件
数1件につき金1500円を納付する(458-98)。
※代位弁済の目的たる債権額が根抵当権の極度額を下回る場合において、その後、残債権
の全部の代位弁済による移転登記を申請する場合、先にされた一部代位弁済額との合計
額が極度額を超えるときは、極度額と先にされた一部代位弁済額との差額を課税標準とする。
-6-
◇
極度額増額の登記は、実質的には増額部分について設定登記と同様であり、極度額増額
による変更登記が最初の申請以外のものであるときは、その旨を証する書面を添付して申請す
る場合に限り、不動産1個に付金1,500円である(登記研究367)。
◇
競売開始決定にかかる差押の登記がされた場合、納税義務を負うのは、差押を受けた者で
あり、登録免許税が過大に納付された場合に、還付請求をなし得る者も、納付義務者である差
押の登記を受けた者であり、登記を嘱託した裁判所書記官が還付請求をするのではない。
◇
二重登記された建物の後の登記を職権で抹消して登記用紙を閉鎖した場合、閉鎖に係る登
記用紙にされた所有権保存登記の登録免許税は還付される(昭43.3.13民甲398号)。
◇
抵当権の債権額を減額する更正登記をした場合に、債権額の差額分に課税された登録免
許税は、過誤納として還付することはできない(登記研究585-181)。
◇
再使用証明を受けた登録免許税の領収書等は、他の登記所において使用することはできな
いが、不動産登記の申請を取り下げる際に再使用証明を受けた登録免許税の領収書等を、同
一の登記所における商業登記の申請に使用することができる(登記研究321、393)。
◇
登録免許税の還付請求権は、その請求をすることができる日から 5年間 行使しないときは、
時効により消滅する(国税通則74Ⅰ)。
※再使用証明自体の有効期限は、その取り下げの日から1年(登免税31Ⅴ)
《登記申請の取下・却下》
◇ 一括申請をした場合でも、申請の一部を取り下げることができる(準69Ⅴ)。
◇
同一不動産について同時に所有権移転請求権の仮登記が申請された場合、矛盾する権利
の登記として、同一番号により受付けられ同時に却下される(49②、昭30.4.11民甲69号)。
◇
保証書による所有権移転登記申請がなされ、登記義務者より登記申請が真意でない旨の申
出があった場合でも、直ちに当該登記申請却下の手続きをがとられるのではなく、期間満了を
待ってその処分がなされる(昭35.5.28民三351号)。
◇
申請書に記載した登録免許税に不足があるとして登記官から通知を受けた場合、その通知
に不服があり、不服申立をする場合でも、不足額を供託して登記を受けることはできず、遅滞な
くその不足額を納付しなければ、申請は却下される(登免税26ⅡⅢ、国税通則75Ⅰ②)。
◇
登記申請が却下された場合には、申請書以外の書類は申請人に返還される(準則68Ⅱ)。
⇔商業登記申請が却下された場合、書類は還付されない。
◇
登記申請が却下された場合には、再使用証明の申出はできない。
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《登記官の処分に対する不服申立》
◇ 審査請求の流れ
審査請求書を登記所に提出
登記官が審査請求について判断
理由なし
理由あり
登記上の利害関係人に通知し、相当の処分をする。
30日以内に意見を付して、監督法務局又は地方法務局の長に送付する。
回復せざる損害が生ずる恐れがある時は、法務局又は地方法務局の長は、処分をなす
前に登記官に仮登記を命ずることができる(156)。
※審査請求人による仮登記の申立ては不可。
法務局又は地方法務局を長は審査請求につき理由があると判断したときは、登記官に相
当の処分を命じ、さらに審査請求人及び登記上の利害関係人にその旨を通知する。
◇
審査請求は、登記官の処分の是正が法律上可能であり、かつ、その利益がある限りいつで
もすることができる(昭37.12.18民甲3604号)。
◇
登記の実行に対する審査請求は、登記官が職権で抹消登記のできる場合にのみ可能であ
り、実体法上瑕疵があっても、登記自体が当然無効とされる法49条1号又は2号に該当しない
限り、登記官が職権で抹消することはできず、審査請求の方法によりこれを是正することはでき
ない(大判大5.12.26、最判昭38.2.19)。
◇
登記官の処分に対する審査請求については、一般の行政処分に対する審査請求と異なり、
審査請求の目的である処分に係る権利を譲り受けた者に対し、審査請求人の地位の承継を認
めておらず、又、利害関係人の審査請求手続への参加不可(157の2、行服37Ⅵ・24)。
◇
法44条の2の保証通知に対する申出書が、天災(地震・台風等)により申出期間内に到着し
なかったため登記申請が却下された場合であっても、当該却下処分につき審査請求すること
はできない(昭35.6.21民甲1469号)。
◇
登記官の不当な処分によって不利益を受けた者は、審査請求の申立てをすると否とにかか
わらず、その処分をした登記官を被告として処分の取消を求める行政訴訟を提起することがで
きる(行訴8Ⅰ)。
◇
登記官が課税標準の金額を不相当と認定したことに対し、不服のある申請人は、国税不服
審判所長に対して審査請求をする(国税通則75⑤)。
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《申請書》
◇ 申請書への引き直し記載の可否
引き直し記載可
①利息制限法所定の利率を超える場合
②買戻特約における買戻期間が10年を超える場合
③不動産質権の存続期間が10年を超える場合
④民法上の賃借権(借地借家法の適用外)が20年を超える場合
⑤永小作権の存続期間が50年を超える場合
引き直し記載不可 ①共有物不分割期間が5年を超える場合
②根抵当権の確定期日が5年を超える場合
③永小作権の存続期間が20年未満の場合
◇
申請書が数葉にわたる場合、申請人は毎葉の綴り目に契印をしなければならないが、登記
権利者又は登記義務者が多数であるときは、そのうちの一人の契印で足りる(準則39但書)。
◇
原因証書に取扱支店の記載がない場合であっても、委任状に記載がある場合には、(根)抵
当権設定登記の申請書に取扱支店を表示することができる(登記研究535-177)。
◇
申請書に記載する法人の住所は、本店の所在地のほか、便宜日本における営業所(支店)
の所在地を併記しても差し支えない(昭41.5.13民三191号)。
◇
区分建物の所有権移転登記申請書には、不動産の表示として、一棟の建物の所在及び地
番並びに構造及び床面積を記載しなければならないが、当該区分建物の一棟の建物の番号
を記載する場合には、一棟の建物の構造及び床面積の記載を省略することができる(36Ⅴ)。
《原因証書》
◇ 売買による所有権移転時期を売買代金完済日とする旨の特約がある場合において、当該売
買契約書中に売主から売買代金が完済された旨の奥書がある場合、当該契約書は売買代金
完済日を登記原因日付とする所有権移転登記の申請書に添付する原因証書として適格性を
有することになる(登記研究517-195)。
◇
死因贈与契約は不確定期限付贈与契約であり、従って、当該契約書は所有権移転登記の
登記原因証書とはならないが、始期付所有権移転仮登記の登記原因証書とはなりうる。
◇
農地法の許可があり次第、所有権移転登記をすべき旨の記載のある調停調書正本を原因
証書とする場合、当該調停調書には原因日付たる農地法の許可書の到達した日付が記載さ
れておらず、また、執行文を付与する際に裁判所書記官が農地法の許可書の到達日を付記
するのは相当ではないと解されているので、登記官が申請書に記載されている登記原因及び
その日付を信用して当該調書に記載する(昭36.10.12民甲2546号)。
-9-
◇
登記申請書に添付された印鑑証明書によって証明された印影と印影が異なる抵当権設定
者の押印のある抵当権設定契約書を登記原因証書としてする抵当権設定登記の申請は認め
られる(大9.3.18民事931号)。
※当事者の押印を欠く契約書でも原因証書としての適格性を有する(大決大9.11.24)。
◇
将来建築される建物を目的とした抵当権設定契約は、債権的な効力しかなく、当該契約書
には抵当権設定の原因日付が記載されていないことになり、たとえ建築後の建物の表示を追
加記載したとしても、当該書面は抵当権設定登記申請における原因証書としての適格性を有
しない(昭37.12.28民甲3727号)。
※抵当権設定契約の日付が登記簿に記載された建物の建築年月日前の日付であっても、当
該抵当権設定登記の申請は受理される(昭39.4.6民甲1291号)。
◇
抵当権設定契約後、その登記前に債権の一部が弁済された場合、申請書には、抵当権設
定誓約書に一部弁済証書を合綴したもの、又は抵当権設定契約書に『年月日金何円弁済が
あったので、現存債務は金何円である。』旨の奥書をして、債権者が署名捺印したものを原因
証書として添付するれば足り、申請書に、一部弁済の旨の記載不要(昭34.5.6民甲900号)。
◇
抵当権付債権について転付命令が確定した場合において、転付命令正本に抵当権の表示
があり、転付命令が確定した旨及び確定の日が記載されていれば、当該転付命令正本を原因
証書として取り扱って差し支えない(昭55.8.28民三5627号)。
※転付命令による抵当権の移転登記は、裁判所書記官の嘱託による(民執164Ⅰ)。
◇
抵当証券交付の附記登記のある抵当権につき、移転その他の登記を申請する場合におい
ては、抵当証券を原因証書とすることができる(細44の17)。
※抵当証券が発行されている抵当権は、抵当証券への裏書によって移転するので、抵当証券
の裏書欄により当該抵当権の移転を証明することができるからである。また、この場合には、
抵当証券そのものに登記済の処理をすると抵当証券を汚すことになるため、 申請書副本 を
添付し、登記済の処理はこの申請書副本になされる(細63の4)。
◇
抵当権の順位変更においては、利害関係人の承諾が実体上の効力要件とされており、順位
変更の合意の日よりも後に利害関係人の承諾があった場合には、当該合意証書は原因証書と
はならず、申請書副本を添付する(昭46.12.24民三3630号)。
◇
順位を譲渡する抵当権の登記がされている限り、順位譲渡を受けるべき抵当権が未登記で
あっても、両者間における順位譲渡契約は有効であるから、後日当該抵当権の設定登記がさ
れたときは、当該順位譲渡契約証書を登記原因証書として順位譲渡の登記を申請することが
できる(昭36.12.23民甲3184号)。
◇
支配人登記のされていない銀行支店長が作成した弁済証書又は解除証書を登記原因証書
とする銀行代表者からの抵当権抹消登記申請は受理される(昭58.3.24民三2205号)。
- 10 -
◇
不登法142条3項後段の規定による担保権の抹消を申請する場合、供託書正本に抹消す
る担保権の登記の表示(不動産、債権及び抵当権者の各表示)がされているものは、登記原
因証書として使用することができる(昭63.7.1民三3499号)。
◇
共同根抵当権設定契約書は、当該共同根抵当権設定に係る個々の不動産についての根
抵当権設定仮登記申請の登記原因証書とすることができる(登記研究411-83)。
※共同根抵当権の仮登記をすることはできない(昭47.11.25民甲4945号)。
《登記済証》
◇ 官公所が30条の規定により登記権利者のために登記を嘱託した場合、登記所から還付を
受けた登記済証は登記権利者に交付され、この登記済証は、当該登記権利者が将来登記義
務者として登記申請する際の登記済証となる(61)。
⇔代位登記の場合(昭39.8.31民甲2892号)
⇔法104条による保存登記
◇
分筆の登記済証は不動産登記法35条1項3号のいわゆる登記義務者の権利に関する登記
済証とはならない(昭3.11.8民事11455号)。
⇔合筆の登記済証
◇
登記済保証書は、以後所有権に関する登記以外の権利に関する登記済証として使用する
ことができる(昭39.5.13民甲1717号)。
◇
破産の登記は、裁判所の嘱託によりなされるため、登記済証の添付は不要。
◇
破産管財人が、裁判所の許可書、監査委員の同意書又は債権者集会の決議書を添付して、
破産者の所有する不動産を任意売却する場合、破産者の権利に関する登記済証の添付は不
要である(昭34.5.12民甲929号)。
※印鑑証明書は破産管財人のものを添付する。
◇
不在者の財産管理人が裁判所の許可を得て、不在者の不動産を売却する場合、所有権移
転登記の申請書には、不在者の所有権に関する登記済証を添付する(登記研究366-85)。
※印鑑証明書は不在者の財産管理人のものを添付する。
◇
相続財産法人が登記義務者となり、相続財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可書を
添付して登記を申請する場合には、登記義務者の権利に関する登記済証の添付を要しない
(登記研究606-199)。
◇
仮登記された所有権移転請求権の移転の登記の申請書には、登記義務者の仮登記に関す
る登記済証を添付することを要する(昭39.8.7民甲2736号)。
※2号仮登記の移転は、仮登記の附記登記(本登記)により実行されるため。
- 11 -
◇
契約解除を登記原因とする仮登記に基づく本登記の抹消及び当該仮登記の抹消登記を同
一申請書で申請する場合に添付する登記義務者の権利に関する登記済証は、本登記を受け
た時の登記済証を添付すれば足りる(登記研究391-109)。
※本登記の登記済証を添付すれば、登記義務者の申請意思は担保される。
◇
仮登記の変更又は更正登記を申請する場合、登記義務者の権利に関する登記済証の添付
は不要である(登記研究454-132)。
◇
地役権の抹消登記を申請する場合、原則として地役権設定登記の登記済証を添付するが、
地役権設定後、要役地につき所有権移転登記がなされている場合には、現在の要役地の所
有権の登記名義人の所有権取得の際の登記済証を添付する(新訂精義(中)P327)。
◇
共有持分上の(根)抵当権を所有権全部の上に及ぼす旨の(根)抵当権の変更の登記の申
請書に添付すべき登記済証は、その新たに(根)抵当権が及ぼされる持分部分の権利に関す
るもののみで足りる(登記研究411-84)。
◇
順位譲渡の抹消の登記は、原則として、順位譲渡の登記済証を添付するが、これに代えて
順位譲渡を受けた後順位抵当権者の抵当権取得の登記済証を添付することも可。
◇
(根)抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更の附記登記がされている(根)抵当権の登
記の抹消登記を申請するときは、(根)抵当権設定登記の登記済証と当該及ぼす変更登記の
登記済証の双方を添付する(登記研究474-141)。
◇
混同を原因として抵当権を抹消する場合において、登記権利者及び登記義務者が同一人
であるときでも、登記済証を添付する(平2.4.18民三1494号)。
《保証書》
◇ 表題部に所有者と記載されている成年者も、保証人となりうる(昭36.4.3民甲692号)。
◇
破産者や成年被後見人、被保佐人も要件を満たしていれば保証人となることができる。
◇
婚姻により成年擬制を受けた者が保証人となる場合には、成年擬制を受けた者であることを
証する書面を添付する(登記研究424-220)。
◇
登記権利者たる法人の代表者は、保証人となることができない(昭34.1.19民甲71号)。
◇
保証書は一登記申請ごと、一登記義務者ごとに作成するのが原則であるが、登記義務者が
数名であっても、共有者が登記義務者となる場合には、共有者につき1通の書面によって保証
することができる(昭33.12.4民甲2396号)。
- 12 -
◇
同一登記義務者が登記の目的及び登記原因を異にする数個の登記を同時に申請する場
合、登記の目的を連記した1通の保証書によることができる(昭40.10.2民甲2852号)。
◇
遺贈を原因とする所有権移転登記を申請する場合において、登記義務者の権利に関する
登記済証を添付することができないときは、遺贈者ではなく、 相続人 又は 遺言執行者 につき人
違いなきことを保証した保証書を添付する(登記研究112-42)。
◇
保証書については有効期間の制限はなく、保証書の作成年月日は原因日付より前であって
もよい(登記研究450-126)。
※保証書に添付する保証人の印鑑証明書については、申請時において作成後3カ月以内で
あることを要する(昭35.5.2民甲1049号)。
◇
保証人が他の登記所において登記を受けた者であるときは、登記簿の謄本等を添付するこ
とを要するが、当該登記簿謄本等は、保証書に添付されるものではなく、原本還付をすること
ができる(平5.7.30民三5320号)。
⇒添付書類欄には、『保証書(登記簿謄本付)』ではなく、『保証書 登記簿謄本』と記載する。
⇔保証書に添付する保証人の印鑑証明書は、原本還付請求不可(昭41.2.4民三65号)。
◇
事前通知を要する登記(44条の2)
①所有権の全部又は一部の移転
②所有権移転登記又は保存登記の抹消
③抹消された所有権の登記の回復登記
④仮登記又は買戻登記の抹消
◇
保証書の通知は、必ず郵便をもってしなければならないが、これに対して、申出は必ずしも
郵便によることを要せず、登記義務者又はその代理人が登記所に持参しても差し支えない
(44の2Ⅰ、昭35.3.31民甲712号)。
◇
法人の場合、原則として通知書は当該法人の主たる事務所に宛てて送付されるが、通知書
を法人の代表者個人の住所に宛てて送付されたい旨を申し出ることもできる(準則60)。
◇
未成年者自身が登記を申請した場合、未成年者から申出をすることを要し、法定代理人か
ら申出をすることはできない(昭36.1.14民甲110号)。
◇
通知書を発送した後、法定期間内に登記義務者から回答があり、回答欄に記載した登記義
務者の住所が申請書と附合しないときでも、申請は受理される(昭35.5.26民甲1277号)。
⇔申出書の氏名又は印鑑が相違する場合には適式な申出があったとはみなされない。
◇
申出の回答欄の登記義務者の押印が申請書の押印と異なる場合でも、登記申請後の改印
の事実が市区町村長の証明により確認でき得る限り、受理される(昭35.5.28民三351)。
- 13 -
◇
保証書を添付して所有権に関する登記以外の登記を完了したときは、その旨を登記義務者
に通知することを要し、登記義務者が複数の場合であっても、その内の 1人 に対して通知すれ
ば足りる(細69の4)。
⇔代位登記における登記済の通知(60の2)。
《印鑑証明書》
〈登記義務者の印鑑証明書〉
◇ 登記義務者たる所有権の登記名義人が所有権移転登記の申請を委任した後死亡した場合
において、相続人が死亡した登記名義人の委任状を添付して登記申請するときには、相続を
証する書面及び登記名義人たる被相続人の印鑑証明書を添付する(平6.1.14民三366号)。
⇔相続人が自己の委任状を添付して登記申請するときは、相続証明書及び相続人全員の印
鑑証明書を添付する(新訂精義(下)P1575)。
◇
遺言執行者が登記義務者たる相続人の法定代理人として登記を申請する場合には、遺言
執行者の印鑑証明書を添付しなければならない(昭30.8.16民甲1734号)。
◇
混同を原因として所有権移転請求権仮登記の抹消登記を申請する場合であっても、仮登記
義務者(仮登記名義人)の印鑑証明書を添付する(登記研究529-126)。
◇
買戻権の移転又は抹消(買戻期間満了の場合を含む)の登記の申請書には、買戻登記名
義人の印鑑証明書の添付を要する(昭34.6.20民甲1131号)。
⇔買戻特約の登記の場合、登記義務者たる所有権登記名義人の印鑑証明書の添付不要。
◇
普通抵当権の債務者の変更登記の申請書には、登記義務者たる所有権登記名義人の印
鑑証明書の添付は不要(昭30.5.30民甲1123号)。
⇔根抵当権の債務者の変更登記を申請する場合には、元本確定後において債務者を変更す
るときであっても、その登記の申請書には登記義務者たる所有権登記名義人の印鑑証明書
の添付を要する(昭46.10.4民甲3230号)。
◇
所有権登記名義人が法人又は外国会社であるときは、法人等が登記を受けた登記所の作
成に係る代表者の印鑑証明書の添付を要し、これに代えて市区町村長の作成に係る代表者
個人の印鑑証明書を添付することはできない(細42Ⅲ)。
⇔株式会社の支配人が会社に代わって所有権移転登記を申請する場合、支配人の印鑑提出
は任意であるため、支配人の登記所又は市区町村長の作成に係る印鑑証明書を添付する。
◇
所有権移転登記義務を残したまま清算結了の登記をした場合でも、便宜、清算登記を抹消
せずに、市区町村長作成に係る前清算人個人の印鑑証明書を添付して、前清算人は会社を
代表して所有権移転登記の申請可(昭28.3.16民甲383号、昭30.4.14民甲708号)。
※通常、清算人が会社の不動産につき、所有権移転登記を申請する場合には、登記所作成
に係る印鑑証明書に限られる。
- 14 -
◇
破産管財人が破産財団に属する不動産を任意売却した場合、移転登記の申請書には、破
産管財人個人の市区町村長作成に係る印鑑証明書を添付する(昭34.4.30民甲859号)。
※破産裁判所への届出印を使用することはできない(昭60.11.1民甲6994号)。
⇔会社更生法による管財人が、所有権登記名義人に代わり登記義務者として登記申請する場
合には、管財人の 登記所 又は 市区町村長 の作成に係る印鑑証明書を添付する(細42Ⅳ)。
◇
主たる建物を新築する場合、不動産工事の先取特権の保存登記の申請書には登記義務者
の権利に関する登記済証及び印鑑証明書の添付は不要。
⇔附属建物新築工事の先取特権保存登記の申請書には、登記義務者の印鑑証明書を添付
する(新訂精義(中)P443)。
〈その他の印鑑証明書〉
◇ 仮登記義務者の仮登記申請に関する認諾条項のある公正証書を承諾書として添付するとき
は、その申請が担保されているので、仮登記義務者の印鑑証明書の添付は不要。
◇
遺産分割協議書を添付して、相続による所有権移転の登記を申請する場合、申請者を除く
遺産分割協議者の協議書に押印した印鑑の証明書を添付することを要する。
※作成後3カ月以内のものであることを要しない(昭30.4.23民甲742号)
⇔遺産分割協議書が公正証書の場合には、印鑑証明書の添付不要
◇
商法265条の規定の適用のある登記申請をする場合、申請書に取締役会議事録に押印し
た印鑑の証明書、すなわち代表取締役については登記所、その他の取締役については市区
町村長の作成に係る印鑑証明書をそれぞれ添付する(昭39.4.6民甲1287号)。
〈印鑑証明書等の有効期間〉
◇ 印鑑証明書の作成期限(3カ月以内)の有無
印鑑証明書の分類
具
体
例
作成期限
所有権の登記名義人が登記義務者として申請する場合に
独立の添付書類と 添付する印鑑証明書
なるもの
所有権以外の権利の登記名義人が登記義務者として保証
有
書を添付して申請する場合に添付する印鑑証明書
法令上 保証書に添付する保証人の印鑑証明書
①仮登記義務者の承諾書に添付する印鑑証明書
書類の真
②仮登記名義人の承諾書に添付する印鑑証明書
正を担保
③登記原因についての第三者の承諾書等に添付する印鑑
無
するもの
実務上
証明書
④登記上の利害関係人の承諾書に添付する印鑑証明書
⑤戸籍謄抄本及び遺言書以外の相続証明書に添付する
印鑑証明書
- 15 -
◇
保証書に添付する保証人の印鑑証明書は、 申請時 に作成後3カ月以内であれば、申出時
において作成後3カ月を経過していてもかまわない(昭35.5.2民甲1049号)。
◇
在外日本人が印鑑証明書に代えて日本国領事又は外国公証人の作成に係る署名証明書
添付する場合、当該署名証明書については、細則44条の規定の適用がなく、作成後3カ月以
内であることを要しない。
〈印鑑証明書の援用〉
◇ 同時に数個の登記を申請する場合に、各申請書に添付する登記上の利害関係人の承諾書
が同一人の作成に係るときは、そのうちの1通に添付した印鑑証明書を他に援用することがで
きる(昭47.4.13民甲1439号)。
◇
同一登記義務者が同一保証人の保証書を添付して同時に数個の申請をする場合に、各申
請書ごとに保証書を添付したときは、そのうちの1通に添付した保証人の印鑑証明書を他に援
用することができる(昭32.5.6民甲879号)。
※上記の場合、登記の目的を連記した1通の保証書を添付して登記申請することもできる
(昭33.12.4民甲2396号)。
◇
所有権保存登記の申請書に住所証明書として添付した印鑑証明書を、同時申請の抵当権
設定登記申請書に添付すべき登記義務者の印鑑証明書として援用することはできない(昭32.
6.27民甲1220号)。
⇒印鑑証明書の写しを作成し、原本還付の手続をして印鑑証明書として使用可。
◇
相続登記の申請書の添付書類である遺産分割協議書に添付した印鑑証明書を、同時に申
請した同一不動産に対する抵当権設定の登記の申請書に添付する印鑑証明書として援用す
ることはできない(昭32.6.27民甲1220号参照)。
※前者の印鑑証明書…実務上の添付書類⇒文書成立の真正を担保
後者の印鑑証明書…細42Ⅰに基づく添付書類⇒申請意思の担保
《住所証明書》
◇ 共有物分割を原因とする持分の移転の登記を申請する場合でも、登記権利者たる他の共有
者の住所証明書を添付する(昭32.5.10民甲917号)。
◇
買戻権の行使による所有権移転登記において、登記権利者が従前の所有権登記名義人で
あっても、住所証明書を省略することはできない。
◇
判決により所有権移転登記を申請する場合でも申請人たる登記権利者の住所証明書の添
付を省略できない(昭37.7.28民甲2116号)
- 16 -
◇
官公署が登記義務者として所有権移転登記を嘱託する場合の嘱託書には、登記義務者の
権利に関する登記済証又は保証書及び印鑑証明書の添付を要しないが、登記権利者の住所
を証する書面の添付を要する(昭32.5.6民甲879号)。
⇔官公署が登記権利者である場合には、住所を証する書面不要(昭36.4.19民甲895号)。
◇
未登記不動産について所有権に関する処分の制限の登記の嘱託があった場合、登記官の
職権により所有権保存登記がなされるが、当該嘱託書には所有権保存登記名義人の住所証
明書を添付する必要はない(昭32.7.27民甲1430号)。
《代理権限証書》
◇ 所有権の登記名義人が登記義務者としてする登記の申請を代理人によってする場合には、
登記義務者から委任を受けた代理人の代理権限証書には、申請書に添付した登記義務者の
印鑑証明書によって証明された印鑑と同一の印鑑で委任者が押印をしなければならない。
◇
遺言執行者の資格証明書
遺言で指定された場合
①遺言書
②遺言者の死亡を証する書面
遺 言 で 第 三 者 に 指 定 を 委 託 ①遺言書
した場合
②遺言者の死亡を証する書面
③指定書
家庭裁判所が選任した場合 ①遺言書
②審判書
◇
遺言執行者の資格証明書として添付すべき検認済遺言証書の代わりに、家庭裁判所の遺
言検認調書の謄本でもよい(平7.6.1民三3102)。
◇
子の特別代理人が登記申請をする場合、その権限を証する書面として、家庭裁判所の選任
審判書を添付する。
◇
主務官庁の許可を受けたまま、その設立登記を経由していない民法法人にあっては、その
設立を許可した主務官庁が発行した証明書をもって代表者の代理権限証書とすることができる
(昭37.10.23民甲3025号)。
◇
破産管財人が登記手続を行う場合、破産管財人の資格を証する書面として破産管財人証
明書を添付すれば足り、破産決定の正本又は謄本の添付不要(昭60.11.1民三6994号)。
◇
官公署作成に係る代理権限証書は、作成後3カ月以内のものであることを要する(細44)。
※代理権限証書については、原則として有効期間はない。
- 17 -
《許可書・承諾書》
〈登記原因について第三者の許可・同意又は承諾を証する書面(35Ⅰ④)〉
◇ 原因日付への影響の有無
①農地法所定の許可書
②区分地上権設定に対する土地使用収益者の承諾
③抵当権の順位変更や根抵当権の極度額変更・分割譲渡に対する利害関係
人の承諾
原因日付に ④根抵当権の全部譲渡等に対する根抵当権設定者の承諾
影 響 を 与え ⑤根抵当権共有者の権利移転に対する他の共有者の同意
るもの
⑥不在者財産管理人の権限外行為に対する家裁の許可
⑦相続財産管理人の処分行為に対する家裁の許可
⑧破産管財人の任意処分に対する裁判所の許可、監査委員の同意書又は債
権者集会の決議書
⑨工場財団目録の記載事項の変更登記に対する抵当権者の同意書
①未成年者の法律行為に対する法定代理人の同意
原因日付に ②準禁治産者の法律行為に対する保佐人の同意
影 響 を 与え ③商法上の利益相反取引に関する取締役会(株式会社)もしくは社員総会(有
ないもの
限会社)の承認又は社員の過半数の決議(合名・合資会社)
④転貸特約のない賃借権を転貸する場合における賃貸人の承諾書
⑤法100条2項保存登記における敷地権の登記名義人の承諾書
(農地法所定の許可書)
◇ 農地法所定の許可書の添付の要否
不
要
①相続、遺産分割
②包括遺贈
③遺留分減殺
④特別縁故者への財産分与
⑤裁判・調停による財産分与
⑥共有者の持分放棄
⑦従前の名義人への真名回復
⑧法定解除
⑨判決による所有権移転
⑩権利能力なき社団の代表者の交替
⑪時効
⑫信託
⑬収用
⑭仮登記
⑮使用収益権のない不動産質権・抵当権の
設定
要
⇔相続分の譲渡、共有物分割
⇔特定遺贈、死因贈与
⇔協議による財産分与
⇔共有物分割
⇔従前の名義人以外の者への真名回復
⇔合意解除
⇔買戻権行使
⇔競売
⇔仮登記の本登記
⇔地上権・永小作権・賃借権・不動産質権の
設定
- 18 -
◇
所有権保存登記には登記原因が存在せず、所有権保存登記を申請する場合、原則として、
農地法所定の許可書の添付の問題は生じないが、敷地権付区分建物についての法100条2
項による保存登記の場合には添付を要する。
※区分建物が敷地権の表示の登記をしたものでない場合でも、冒頭省略登記をすることは可
能であるが、この場合、申請書に登記原因及びその日付の記載を要せず、通常の所有権保
存登記と同様、農地法の許可書の添付は不要。
◇
甲から乙への所有権移転登記がされている農地につき、『真正な登記名義の回復』を登記
原因として第三者丙への所有権移転登記を申請する場合には、従前の所有者甲と丙との間の
権利移転について、農地法所定の許可書を添付すべきである(昭40.12.9民甲3435号)。
◇
共同相続人の1人が、遺産中の特定の不動産を単独で相続する代わりに、同人が所有する
農地を他の相続人に贈与する旨の遺産分割協議が成立した場合、当該所有権移転登記の登
記原因は『遺産分割による贈与』であり、その登記の申請書には農地法3条の許可書の添付を
要する(登記研究528-184、登記研究592「カウンター相談」)。
※『遺産分割による贈与』を原因とする所有権移転登記の登録免許税の税率は1000分の6。
◇
移転の事由が『売買』と記載されている農地法所定の許可書を添付して、『贈与』を原因とす
る所有権移転の登記申請は受理されない(昭40.12.17民甲3433号)。
◇
譲受人として数名が記載されている農地法所定の許可書を添付して、その譲受人の1人の
単有名義とする所有権移転の登記申請は受理されない(登記研究448号)。
(取締役会議事録等)
◇ 甲株式会社(代表者:A・B)と乙株式会社(代表者:A・C)間の取引(商265Ⅰ)
甲株式会社の代表者 乙株式会社の代表者 取締役会の承認を要する会社
A
A
甲及び乙株式会社
A
C
乙 株 式 会 社
B
A
甲 株 式 会 社
B
C
不 要
◇
敷地権の表示のある区分建物 について表題部所有者たる株式会社からその所有権(区分
建物及び敷地権)を買い受けた当該代表取締役が法100条2項により所有権保存登記を申請
する場合、登記原因を記載する関係上、取締役会議事録の添付を要する(101Ⅴ)。
⇔ 敷地権の表示のない区分建物 について表題部所有者たる株式会社からその所有権(区分
建物及び敷地権)を買い受けた当該代表取締役が法100条2項により所有権保存登記を申
請する場合、登記原因を記載しない以上、取締役会議事録の添付を要しない(101Ⅵ)。
◇
代表取締役所有の不動産を当該会社に『贈与』を原因として所有権移転登記を申請する場
合は、取締役会議事録の添付は要しない(登記研究362-83)。
- 19 -
◇
株式会社が抵当権の債務者兼設定者として抵当権設定登記を申請する場合において、そ
の債務につき、代表取締役が保証人又は物上保証人となる場合であっても、取締役会議事録
の添付は不要(昭41.6.8民三397号)。
◇
株式会社が債務者兼設定者である根抵当権の債務者を、当該会社の代表取締役に変更す
る登記を申請する場合、取締役会議事録の添付を要する。
◇
代表取締役所有の土地に設定されている株式会社名義の地上権を、『放棄』を原因として
抹消申請する場合、それが単独行為とはいえ、会社の利益が失われる一方、代表取締役の利
益となるので取締役会議事録の添付を要する(登記研究534-129)。
⇔『錯誤』を原因として抹消する場合、取締役の承認を要する取締役・会社間の取引行為は存
在せず、取締役会議事録の添付を要しない(登記研究349-85)。
◇
有限会社がその清算人に会社所有の不動産を売却する場合、当該所有権移転登記の申請
書には、社員総会議事録(特別決議)を添付することを要する(35Ⅰ④、有75Ⅱ・30)。
※清算人会議事録ではない。
◇
合資会社の無限責任社員が自己の債務を担保するために会社の不動産に抵当権を設定
する場合、当該抵当権設定登記の申請書には、当該無限責任社員を除く他の社員(無限責任
社員及び有限責任社員)の 過半数の決議 があったことを証する書面の添付を要する(35Ⅰ④、
商147・75Ⅰ)。
(その他)
◇ 申請書に第三者の許可書、同意書又は承諾書を添付すべき場合において、申請書にその
第三者が署名、捺印したときは当該許可書等を省略することができる(45)。
※原因証書では不可
◇
営業の許可を受けた未成年者が、営業上、自己の不動産に抵当権を設定した場合、当該
抵当権設定登記の申請書にその設定に関する法定代理人の承諾書の添付は要しないが、法
定代理人の営業に関する同意書又は許可書の添付を要する(明33.4.17民刑398号)。
◇
財団法人の不動産売却に関して、監督官庁の承認を要するが、これは、財団法人の不動産
売却に関する効力要件ではなく、法上、承認を証する書面の添付は不要
◇
被相続人が 生前 に売り渡した農地法所定の許可未了の農地につき、相続財産管理人が当
該許可を得て売買を原因とする所有権移転登記を申請する場合においては、当該申請書に
は家庭裁判所の許可書を添付することを要しない(平3.10.29民三5569号)。
◇ 相続財産管理人が登記義務者として『時効取得』を原因とする所有権移転登記を申請する
場合でも、当該申請書には家庭裁判所の許可書の添付を要する(登記研究492-119)。
- 20 -
◇
不在者の財産管理人が、不在者所有の不動産について登記義務者として『時効取得』を原
因とする所有権移転登記を申請する場合でも、申請書に家庭裁判所の許可書を添付すること
を要する(登記研究449-87・548-165、民28)。
◇
会社更生法による更正会社の管財人が会社財産を処分する場合、裁判所は、必要があると
認めるときは、裁判所の許可を得なければならないものとすることができるが、この許可は裁判
所の任意であり、登記原因についての許可ではなく、更正会社名義の不動産を処分する場合
に、裁判所の許可書又は許可を要しない旨の証明書の添付不要(昭36.5.12民甲1152号)。
〈登記上の利害関係人の承諾書(56、146)〉
◇ 抹消登記の場合の登記上の利害関係人に対して、抹消登記を命ずる判決を得た場合でも、
当該判決の謄本は、146条にいう『対抗できる裁判の謄本』には該当しない。
⇒この場合、抹消登記を命ずる判決正本を原因証書として、代位により単独抹消する。
◇
判決による登記申請の場合、登記原因についての許可等の添付は不要であるが、利害関
係人の承諾書又はこれに対抗することができる判決の謄本を省略することはできない。
◇
債権者の代位申請によりなされた登記の更正・抹消については、たとえ代位債権者に利益と
なる場合でも、当該代位者は登記上の利害関係人にあたる(昭39.4.14民甲1498号)
◇
所有権に関する仮登記後に登記された短期賃借権の登記名義人は、当該仮登記の本登記
に際して利害関係人に該当するので、承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本の
添付を要する(昭47.2.23民甲987号)。
⇔所有権以外の仮登記の場合、本登記と抵触する権利の登記名義人のみ利害関係人に該当。
◇
所有権の登記名義人を甲の単独名義から甲及び乙の共有名義に更正する場合、当該所有
権を目的とする賃借権は甲持分上には存在することができず、職権で抹消されることになり、
賃借人は当該所有権更正登記につき登記上の利害関係人となる(147Ⅱ)。
◇
買戻特約の登記に差押えの登記をなした差押債権者は、買戻期間満了による買戻特約の
登記の抹消につき登記上の利害関係人に該当する(146Ⅰ)。
◇
後順位に抵当権設定登記がある地上権の存続期間を延長する変更登記を附記登記で受け
るときは、申請書に当該抵当権の登記名義人の承諾書又はこれに対抗することができる裁判
の謄本の添付を要する(56、新訂精義(中)P100)。
◇
順位変更の場合と異なり、2番抵当権のために順位譲渡の登記がされた後、1番抵当権を抹
消する場合、2番抵当権者は利害関係人に該当する(昭37.8.1民甲2206号)。
※1番抵当権が抹消されると、2番抵当権者はそれまで順位譲渡の効果により優先弁済権を主
張し得た国税債権に劣後する事態が生じる可能性があるため。
- 21 -
◇
先順位抵当権の抹消回復登記を申請する場合、抹消当時に設定されている後順位抵当権
の登記名義人は、登記上の利害関係人に当たる(昭52.6.16民三2932号)。
⇔後順位抵当権が設定されているにもかかわらず誤って『混同』を原因とする抹消登記がなさ
れた場合において、当事者が回復登記を申請する場合、後順位抵当権者は利害関係人に
該当しない(昭41.10.6民甲2898号)。
《登記名義人の表示の変更・更正登記》
◇ 遺贈者の登記簿上の住所と遺贈者の死亡時の住所とが一致しない場合、遺贈による所有
権移転登記の前提として、登記名義人の表示の変更登記を要する(昭43.5.7民甲1260号)。
◇
甲・乙共有の不動産につき、乙の持分放棄を原因として甲のために持分移転の登記を申請
する場合において、登記名義人甲の現在の住所と登記簿上の住所が異なるときは、共有者以
外の者への持分放棄による移転登記の申請と判断され却下されるため、前提として甲の表示
変更登記を申請する必要がある(昭60.12.2民三5441号)。
◇
売買契約証書作成後、登記申請前に登記義務者が住所又は氏名を変更したときは、売買
による所有権移転登記の前提として、登記義務者の登記名義人表示変更登記を省略すること
はできない(昭43.5.7民甲1260号)。
⇒売買契約証書作成後、当事者である会社の商号又は代表者に変更があった場合、商号又
は代表者の変更事項の記載のある商業登記簿の謄抄本の編綴又は添付して、当該証書を
原因証書とすることができる(登記研究1-11)。
◇
抵当権設定者の住所に変更が生じているため、登記簿上の所有権登記名義人の表示と異
なるときは、抵当権の債務者の変更登記の前提として、所有権登記名義人の表示変更の登記
を申請する必要がある(登記研究425-126)。
◇
判決に基づき登記権利者が単独で所有権移転登記申請をする場合でも、登記簿上におけ
る登記義務者の表示が判決のそれと相違するときは、その前提として登記名義人表示変更登
記を申請することを要する(登記研究276-69)。
※判決に登記義務者の登記簿上の住所とこれと異なる現在の住所が併記されている場合でも
省略不可(登記研究429-120、同476-140参照)。
◇
破産管財人が、破産者所有の不動産を任意売却してその所有権移転の登記を申請する場
合において、破産者の現在の住所と登記簿上の住所が異なるときは、その前提として、登記名
義人表示変更登記を申請することを要する(登記研究454-133、破7)。
※破産管財人から申請することができる。
◇
仮登記名義人の表示に変更又は更正があった場合には、仮登記に基づく本登記の前提と
して、仮登記名義人の表示変更登記を申請しなければならない(昭38.12.27民甲3315号)。
- 22 -
◇
所有権 以外 の権利( 買戻特約 及び 仮登記 を含む)の抹消登記を申請する場合には、その同
一性を明らかにする変更(更正)証明書を添付して、表示変更(更正)の登記を省略することが
できる(昭31.9.20民甲2202号)。
⇔条件附所有権移転の仮登記の抹消の申請を当該仮登記名義人より単独で申請する際に、
その不動産の 所有権登記名義人 の表示が変更している場合には、当該抹消登記の申請書
に記載する登記権利者の表示と所有権登記名義人の表示とを附合させる必要があり、予め
所有権登記名義人につき表示変更の登記を申請する必要がある(登記研究471-135)。
◇
所有権移転の登記を、所有権一部移転の登記に更正する際に、登記権利者たる前所有権
登記名義人の現住所が登記簿上の住所と異なる場合でも、その変更(更正)を証する書面を
添付すれば足りる(登記研究463-83)。
※登記名義人の表示変更(更正)登記を申請することができるのは、現に効力を有する登記名
義人の表示に変更(更正)がある場合に限られる(登記研究346-91・388-79)。
◇
担保仮登記の本登記後に担保仮登記の登記義務者甲が受戻権を行使し、甲名義に所有
権移転登記を申請する際に、甲の現在の住所と登記簿上の住所とが一致しない場合でも、そ
の変更(更正)を証する書面を添付すれば足りる(昭54.4.21民三2592号)。
※甲は従前の所有権登記名義人であり、現に効力を有する登記名義人ではない。
◇
胎児を相続人とする所有権移転登記がなされた後、胎児が出生した場合は、『出生』を原因
として登記名義人表示変更登記を申請する。
⇒目的 所有権登記名義人表示変更
原因 年月日出生
変更後の事項 共有者亡甲妻乙胎児の氏名住所
何市何町何丁目何番地 丙
◇
登記簿上の住所がA及びBである共有者甲と乙が、同一日付でCへ住所移転をしたときは、
同一の申請書で登記名義人表示変更登記の申請をすることができる(登記研究575-122)。
⇒変更後の事項 共有者甲、乙の住所
住所 C
◇
組織変更を登記原因とする登記名義人の表示変更登記の原因日付は、組織変更決議の日
又は資本減少を伴い債権者保護手続を要する場合にはその手続の終了日である。
⇔合併による移転登記の原因日付は、本店管轄登記所で合併の商業登記を申請した日。
◇
行政区画又はその名称の変更があったときは、登記簿に記載された行政区画又はその名称
は当然に変更されたものとみなされるが、地番は当然には変更されたものとはみなされない
(昭31.12.14民三1421号、昭43.4.11民甲887号)。
- 23 -
《回復登記》
〈滅失回復登記〉
◇ 共有不動産についての滅失回復登記の申請は、保存行為として、共有者の一人から共有
者全員の持分について行うことができる(昭21.4.24民甲243号)。
◇
登記名義人が死亡している場合には、その者の相続人が滅失回復登記を申請することにな
るが、直接相続人名義での回復登記を申請することはできず、滅失前の登記簿どおり被相続
人名義での滅失回復登記を申請しなければならない(昭31.11.2民甲243号)。
◇
滅失回復登記の登記原因は『登記簿滅失』で、原因日付は不要(新訂精義(中)P2208)。
◇
滅失回復登記の申請書に添付する前登記の登記済証が紛失している場合、これに代えて
登記簿謄抄本等を添付するときは、登記済証作成のために 申請書副本 を添付する。
◇
滅失回復登記の申請書に添付する前登記の登記済証が紛失している場合、これに代えて
保証書を添付することはできないが、登記済保証書で代用することはできる。
◇
滅失回復期間中に新たな登記申請があった場合、申請書は申請書編綴簿に編綴され、申
請人には編綴済証が交付される(72Ⅰ・73Ⅰ)。
※当該編綴があったときに登記があったと同一の効力を生じ、編綴済証は、後に正規の登記
済証が交付されるまでの間、登記済証に代えることができる(72Ⅱ・73Ⅱ)。
◇
滅失回復登記の期間中でも、所有権の登記が回復されない限り、新たに所有権移転登記を
申請することはできない(昭23.11.12民甲3516号)。
◇
滅失回復登記の対象となる登記は、原則として権利に関する登記であり、現に効力を有する
ものが滅失した場合に限られるが、甲区用紙が備えられている場合において、表題部用紙の
みが滅失したときでも、滅失回復登記手続がされる(昭30.6.7民甲1189号参照)。
◇
共同担保目録、工場抵当法第3条の機械器具目録又は信託原簿のみが滅失した場合、登
記官は、職権で監督法務局又は地方法務局の長の許可を得て適宜の方法により回復(準43)。
⇔共同人名票のみが滅失したときは、滅失回復の手続きによる(昭30.6.7民甲1189)。
〈抹消回復登記〉
◇ 抹消された抵当権設定登記の回復登記の申請における登記義務者は、当該抵当権の目的
たる不動産の現在の所有権登記名義人である(昭57.5.7民三3291号)。
◇
抹消回復登記を申請する場合、登記義務者の権利に関する登記済証を添付し、登記済証
が存在しない場合は保証書を添付する。
⇔滅失回復登記においては、登記済証に代えて保証書を添付することはできない。
- 24 -
◇
登記官の過誤により抹消された登記の回復は、法64条の規定による職権更正の手続に準
じ、登記官が法務局又は地方法務局長の許可を得てすることができるが、その他、当事者が任
意に共同申請により登記申請することも可能である(昭36.5.29民甲1256号)。
※単独申請によることはできない。
◇
民法179条1項但書により混同の例外に当たり、法49条2号に該当し却下されるべき抵当権
抹消登記の申請が誤って受理された場合でも、法149条に基づき職権で当該抵当権の回復
登記をすることができず、その必要性があれば当事者の申請により回復すべきとしている。
※この場合、後順位抵当権者等の承諾書等の添付不要(昭41.10.6民甲2898号)。
《仮登記》
〈仮登記の申請〉
◇ 公正証書の正本又は謄本が、原因証書としての要件を充たし、且つ、当該物件変動に伴う
登記手続上、仮登記義務者が仮登記の申請手続きを行う旨を認諾している旨の記載がある場
合には、当該公正証書が仮登記義務者の承諾書を兼ね、仮登記権利者は、その公正証書を
原因証書として、単独で当該仮登記の申請可(昭54.7.19民三4170号)。
※当該公正証書の正本又は謄本を登記原因証書とするときは、その写しを添付するものとし、
申請書に記載すべき添付書類承諾書の表示は『承諾書(公正証書)』とする。
◇
所有権移転の仮登記名義人甲から乙、更に乙から丙へ仮登記所有権移転の仮登記が順次
なされている場合、甲又は乙は更に第三者に対して所有権移転の仮登記又は抵当権設定の
仮登記を申請することはできない(大13.6.13民事局長回答)。
◇
所有権の登記のない不動産について、承継取得人(表題部所有者又はその相続人でない
者)が仮登記仮処分命令の正本を添付して所有権保存仮登記を申請することができる。
※上記以外の所有権保存仮登記は認められない。
◇
1筆の土地の一部について、仮登記仮処分命令を発することができるが、当該仮登記仮処
分命令に基づく仮登記を申請するためには、その前提として、代位により分筆登記を要する。
◇
認知の裁判の確定前において、認知請求者を含む相続による所有権移転請求権保全の仮
登記仮処分命令に基づく仮登記の申請は、不動産登記法2条各号のいずれにも該当せず、
却下される(昭32.3.27民甲596号)。
◇
財産分与の予約は、法的には何ら効力を有せず、財産分与の予約を登記原因とする所有
権移転登記請求権仮登記はなし得ない(昭57.1.16民三251号)。
◇
『譲渡担保』を原因とする2号仮登記の申請をすることはできないが、『譲渡担保』を原因とす
る1号仮登記は申請することができる(昭32.1.14民甲76号、最判昭47.11.24)。
⇔『譲渡担保予約』を原因とする所有権移転請求権の仮登記は可。
- 25 -
◇
買戻特約の仮登記は可能であり、その仮登記は所有権移転の仮登記と同時に申請すること
を要しない(昭36.5.30民甲1257号)。
※所有権移転仮登記に附記する仮登記による(昭36.5.30民甲1257号)
◇
仮登記された 停止条件付所有権 を目的として、その条件の成就を条件とする条件付(根)抵
当権設定の仮登記を申請することができる(昭39.2.27民甲204号)。
⇒登記の目的は『何番条件付所有権の(根)抵当権設定仮登記』
⇔債権を(根)抵当権の目的とすることはできないので、仮登記された所有権移転請求権を目
的とする(根)抵当権設定請求権を保全するための仮登記は不可。
◇
数個の不動産を目的とする抵当権設定又は設定請求権保全の仮登記を申請する場合でも、
申請書には 共同担保目録 を添付することを要する。
◇
抵当権の順位変更は、登記がその効力要件であるので、仮登記をすることはできない。
◇
1号仮登記、2号仮登記を問わず、抹消の仮登記申請可。
◇
根抵当権の極度額増額予約に基づく根抵当権の変更請求権保全の仮登記(2号仮登記)
の申請書には、登記上の利害関係人の承諾書 を添付する(登記先例解説集329号)。
※極度額変更の1号仮登記も可
〈仮登記の移転〉
〈仮登記の変更・更正〉
◇ 甲・乙共有名義の仮登記を、甲単有に更正する場合、甲を登記権利者、乙及び仮登記義務
者を登記義務者とする共同申請により、乙及び仮登記義務者の承諾書を添付して甲が単独で
申請することはできない。
⇔原則として、仮登記の登記事項に関する更正登記の場合、その申請書に仮登記義務者の
承諾書を添付して、仮登記権利者が単独申請することができる。
◇
1号・2号仮登記間の更正
登記権利者:仮登記権利者
2号仮登記を1号 登記義務者:仮登記義務者
仮登記に更正
※所有権に関する仮登記の場合、所有権登記名義人たる仮登記
義務者の印鑑証明書を添付する
登記権利者:仮登記義務者
1号仮登記を2号 登記義務者:仮登記権利者
仮登記に更正
※所有権に関する仮登記の場合、所有権の登記名義人に準じて仮
登記名義人の印鑑証明書を添付する
- 26 -
◇
仮登記に基づく本登記を申請する場合に、本登記原因と仮登記原因とが同一性を有しない
ときは、仮登記に基づく本登記の前提として仮登記原因の更正登記を申請しなければならず、
判決に基づいて仮登記の本登記を申請する場合でも同様(昭34.11.13民甲2438号)。
◇
農地法3条の許可を条件とする停止条件付所有権移転仮登記をした後、仮登記以前の原
因日付をもって地目を農地から宅地へ変更する表示変更登記がされている場合、当該仮登記
を1号仮登記に更正しない限り、当該仮登記の本登記不可(昭40.12.7民甲3409号)。
〈仮登記の本登記〉
◇ 本登記申請人
権利者:仮登記権利者
所有権に関する仮登記 義務者:仮登記義務者
※現在の所有権登記名義人は登記上の利害関係人となる
(昭37.7.30民甲2117号)。
権利者:仮登記権利者
所有権以外の権利に関 義務者:仮登記義務者又は現在の登記名義人
する仮登記
※仮登記義務者を本登記義務者として申請する場合でも、
現在の登記名義人は登記上の利害関係人とはならない。
◇
仮登記された所有権移転請求権の一部の移転の登記がされている場合、当該仮登記の本
登記は、仮登記権利者全員 が同時に申請することを要する(昭35.5.10民三328号)。
◇
根抵当権の確定債務の不履行を条件とする賃借権設定の仮登記がされている場合、根抵
当権につき元本確定の登記未了の場合でも、条件成就による賃借権設定の本登記の申請可。
◇
農地法所定の許可を条件とする条件付所有権移転仮登記をした後、農地法所定の許可の
ある前に所有者(仮登記義務者)が死亡した場合でも、相続登記を経ることなく当該仮登記に
基づく本登記を申請することができる(昭35.5.10民三328号)。
※既に相続登記を経ていた場合、当該相続登記は、仮登記の本登記の際に、法105条2項の
規定により職権抹消される(昭38.9.28民甲2660号、登記研究576-144)。
〈仮登記担保〉
◇ 金銭債権担保を目的でなされた所有権移転登記請求権の仮登記(仮登記担保)に基づく本
登記を申請する場合、本登記原因の日付が仮登記原因の日付から 2カ月 を経過していなけれ
ばならない(昭54.4.21民三2592号)。
※仮登記担保契約に基づく所有権移転の効力は、債権者による 清算金見積額の通知 が債務
者又は物上保証人に到達した日から2カ月(清算期間)が経過しなければ生じない(仮担2)。
⇔代物弁済予約に基づく仮登記であっても、非金銭債権を担保するためになされたものである
ことを証する書面を本登記の際に提出した場合は、担保仮登記として取り扱うことを要しない
(昭54.4.21民三2592号)。
- 27 -
◇
担保仮登記の権利者は、清算金を供託した日から1カ月を経過した後に、その担保仮登記
に基づく本登記を申請する場合には、担保仮登記後に登記された抵当権者等又は後順位担
保仮登記の権利者が 差押をしたことを証する書面 (清算金に対する差押を命ずる裁判の謄本)
及び不動産登記法105条1項の承諾書に代えて、 清算金を供託したことを証する供託書正本
を添付して本登記を申請することができる(仮担18Ⅰ、昭54.4.21民三2592号)。
⇒担保仮登記であることが登記簿上明らかでない担保仮登記(売買予約を原因とするもの)に
基づく本登記の申請については、担保仮登記でない一般の仮登記の取扱をすることができ
るが、差押をしたことを証する書面及び清算金を供託したことを証する供託書正本を承諾書
として添付した場合には、担保仮登記に基づく本登記として取り扱われる(同先例)。
◇
『 受戻し 』を原因とする所有権移転登記の原因日付は、本登記日付から5年以内の日でなけ
ればならない(昭54.4.21民三2592号)。
※仮登記担保権の設定者は、清算金の支払いを受けるまでは、債権額に相当する金銭を仮
登記担保権利者に提供して、その受戻しを請求することができる(仮担11)。
◇
担保仮登記に基づく本登記未了の場合において、受戻権が行使されたときは、『 受戻しによ
る失効 』を登記原因として当該担保仮登記の抹消申請可(昭54.4.21民三2592号)。
※清算期間の経過により所有権は既に債権者に移転しており、物権の権利変動を如実に登記
簿に反映させるなら、担保仮登記に基づく本登記をし、ついで『受戻し』を原因とする所有権
移転登記を申請すべきであるところ、便宜上認められる。
〈仮登記の抹消〉
◇ 甲への所有権移転請求権仮登記に附記して、乙への当該移転請求権の移転請求権仮登
記が存する場合でも、前提として乙名義の所有権移転請求権仮登記を抹消することなく、乙の
承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本を添付して、甲名義の所有権移転請求権
仮登記を抹消することができる。
◇
仮登記仮処分命令に基づく所有権移転の仮登記についても、申請書にその仮登記名義人
の承諾書を添付して、登記上の利害関係人が単独で抹消することができる。
※仮登記仮処分命令による所有権移転仮登記の嘱託抹消不可(明34.1.17民刑局長回答)。
◇
仮登記の抹消登記を申請する場合、登記義務者たる仮登記名義人の表示に変更が生じて
いる場合でも、抹消登記の前提として仮登記名義人の表示変更登記を申請することを要しな
い(昭31.10.17民甲2370号)。
⇔登記権利者たる現に効力を有する所有権登記名義人の表示に変更が生じている場合には、
抹消登記の前提として所有権登記名義人表示変更登記を申請することを要する。
◇
仮登記とこれに基づく本登記の抹消を同一の申請書で申請する際に納付すべき登録免許
税は、不動産一個につき金1,000円である(昭36.5.8民甲1053号)。
- 28 -
《権利の処分の制限の登記》
◇ 処分禁止の仮処分の執行方法
保全すべき権利
所
有
権
移転又は消滅
所有権以
外の権利 保存、設定又は変更
手
続
処分禁止の仮処分の登記(甲区)のみ(民保53Ⅰ)
処分禁止の仮処分の登記(乙区)のみ(民保53Ⅰ)
処分禁止の仮処分の登記(甲区)
及び
保全仮登記(乙区)(民保53Ⅱ)
◇
所有権の一部を取得した者がその登記請求権を保全するために、所有権の一部に対する
処分禁止の仮処分の登記をすることができ、この場合の登記の目的は『所有権の一部何分の
何処分禁止仮処分』となる(平2.11.8民三5000号)。
◇
相続登記未了の不動産について、相続人の共有持分に対する処分禁止の仮処分の登記を
嘱託する場合には、その前提として仮処分権利者の代位による相続登記を要する(昭49.2.
12民三1018号)。
◇
不動産の所有権移転登記をする前に売主が死亡した場合において、買主が売主の相続人
に対し上記所有権の移転登記手続を求めるとともに、『債務者被相続人甲の相続人乙につい
て一切の処分を禁止する』旨の仮処分命令を得た場合には、仮処分の登記の前提としての相
続登記を要しない(昭62.6.30民三3412号)。
◇
処分禁止の仮処分の登記がされた後に、仮処分債権者の表示に変更が生じた場合には、
仮処分債権者はその表示の変更の登記を申請することができる(昭42.6.19民甲1787号)。
◇
保全仮登記 に係る権利の表示がその保全仮登記に基づく本登記をすべき旨の本案の債務
名義における表示と附合しないときでも、当事者の共同申請による保全仮登記の更正不可。
⇒仮処分命令を発した裁判所は、仮処分債権者の申立てによりその命令を更正し、更正決定
が確定したときは、書記官は保全仮登記の更正を嘱託しなければならない(民保60ⅠⅢ、
平2.11.8民三5000号)。
◇
仮処分の登記の抹消(平2.11.8民三5000号)
原告に不利益な場合(ex:本案訴訟で敗訴、仮処分の取消、取下げ)
原告が保全仮登記の本登記をした場合(146の5)
原告に利益な場合
処分禁止の仮処分の 仮処分に後れる登記を同時抹消し
(ex:本案訴訟で勝訴) 登記のみがある場合 た場合(146の2Ⅲ・146の3Ⅱ)
上記以外
- 29 -
嘱託
職権
職権
嘱託
◇
仮処分に基づく所有権の登記を申請する場合、原則として、仮処分に後れる登記の全てに
ついて抹消の申請をなすことを要し、例外として、仮処分に後れる登記であっても、仮処分債
権者がする所有権の登記の妨げとならない登記についてはその抹消の申請がなくても、所有
権の登記を申請することができる(平2.11.8民三5000号)。
※仮処分債務者が設定した抵当権や仮処分債務者を義務者とする差押の登記は、仮処分債
権者が引き受けることもできるが、仮処分債務者から第三者への所有権移転登記や、その
承継人が設定した抵当権等は、これを抹消しなければ、仮処分債権者がする所有権の登記
申請は、登記義務者の表示が登記簿と附合しないため、法49条6号により却下される。
◇
仮処分債務者を設定者とする抵当権、仮処分債務者を義務者とする差押の登記等は、仮処
分に後れる登記であっても、仮処分債権者がする所有権の登記の妨げとならず、仮処分に基
づく所有権移転登記と同時に抹消する必要はないが、仮処分債務者の承継人が設定した抵
当権設定登記は同時に抹消することを要する。
◇
仮処分権利者が処分禁止の仮処分の登記に後れる登記を単独で抹消する場合、予め抹消
される登記名義人に対してその旨を通知することを要し、抹消登記の申請書には通知したこと
を証する書面の添付を要する(民保58ⅡⅣ、民保59Ⅰ・146の2、平2.11.8民三5000号)。
◇
仮処分権利者が、処分禁止の仮処分の登記に後れる登記を単独で抹消する場合、登記原
因は『仮処分による失効』であり、原因日付の記載は不要(平2.11.8民三5000号)。
◇
Aの所有する不動産に対して、仮処分債権者甲が所有権の一部(4分の1)につき処分禁止
の仮処分の登記をした後、乙に対して所有権一部(持分2分の1)移転の登記がなされ、続い
て、丙に対してA持分全部移転の登記がなされた場合、甲の処分禁止の仮処分の登記と抵触
する登記は、丙に対するA持分全部移転のうち4分の1の部分のみであり、甲は当該A持分移
転登記を抹消することはできず、持分4分の1に更正することになる(昭30.4.20民甲695号)。
⇒目的 何番所有権更正
原因 仮処分による一部失効
更正後の事項
目的 甲持分一部移転
共有者 持分四分の壱 丙
◇
仮処分債権者が、保全仮登記に基づく本登記を申請する場合には、本案の債務名義に基
づき仮処分債権者が単独で申請することができるし、仮処分債権者及び仮処分債務者の共同
申請によることもできる(平2.11.8民三5000号)。
◇
地上権の設定登記請求権を保全するために処分禁止の仮処分の登記とともに保全仮登記
がなされている土地について、区分地上権を設定する場合には、民法269の2の規定により当
該仮処分債権者の承諾を要するため、当該保全仮登記の本登記を申請する場合であっても、
区分地上権の登記を抹消することはできない。
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◇
保全仮登記の本登記を申請する場合において、その仮処分により保全すべき登記請求権
に係る権利が不動産の使用又は収益を目的とするものであるときは、これに抵触する登記で、
仮処分に後れるものを抹消することができる(民保58Ⅳ、平2.11.8民三5000号)。
⇔仮処分に後れる登記が不動産質権である場合には、抵触するのは非本質部分である収益
的権利のみであって、本質的部分である担保的権利については抵触せず、従って、その登
記を抹消することはできない(平2.11.8民三5000号)。
《予告登記》
◇ 予告登記の可否
予告登記が嘱託される場合
①意思無能力による無効
②強行規定・公序良俗違反による無効(民90)
③錯誤無効(民95)
④法律行為の不成立・不存在
⑤行為無能力者による意思表示の取消
⑥強迫による取消(民96Ⅰ)
予告登記が嘱託されない場合
①心裡留保による無効(民93)
②通謀虚偽表示による無効(民94)
③詐欺による取消(民96Ⅲ)
④詐害行為による取消(民424)
◇
簡易裁判所に対する調停の申立ては訴えの提起に当たらず、予告登記の嘱託はされない。
◇
抹消に係る登記が仮登記の場合であっても、予告登記の嘱託可(新訂精義(下)P74)。
◇
1筆の土地の一部について予告登記の嘱託不可(昭58.5.18民三3073号)。
◇
◇
抹消登記の訴求に代えて『真正な登記名義の回復』を登記原因として所有権移転登記手続
を訴求する場合には、第三者の権利を害するおそれがないので、予告登記の嘱託はなされな
い(昭35.9.12民甲2247号、昭47.9.14民甲3736号)。
予告登記の抹消
原告に不利益な形で終結した場合
第一審裁判所の書記官の嘱託
によって抹消される(145Ⅰ)
原 告 に 利 益 原告が勝訴判決等に基づき予告登記の目 登記官の職権で抹消される
な 形 で 終 結 的たる抹消又は回復の登記がなされた場合 (145Ⅲ)
した場合
原告が判決等によって確定した抹消又は回 第一審裁判所の書記官の嘱託
復の登記請求権を放棄した場合
によって抹消される(145Ⅱ)
◇
訴訟が終了した場合は、訴訟記録が第一審裁判所へ送付される関係上、予告登記の抹消
の嘱託は第一審裁判所の書記官からなされる。
◇
予告登記がされている登記が当事者の共同申請によって抹消された場合には、登記官が職
権で予告登記を抹消する(昭34.8.5民甲1651号、145Ⅲ)
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《判決による登記》
◇ 不登法27条の判決
判決と同一の効力を有するもの
①和解調書
②認諾調書
③家事審判法による審判
④仲裁判決(執行判決付き)
⑤外国判決(執行判決付き)
判決に準じないもの
①公正証書
②添付命令
③仮処分決定・判決
④仮執行宣言付判決
◇
法27条にいう判決とは、被告に対し登記申請義務の履行を命じた給付判決をさし、従って、
所有権の確認判決をもって、単独申請することはできない。
◇
離婚による財産分与を命ずる審判における調停調書は、判決と同一の効力を有するので、
登記権利者は、確定証明書付調停調書正本をもって、単独で所有権移転の登記申請可。
◇
仮処分命令において登記手続を命ずる条項が記載されていても、かかる条項は仮処分によ
り命ずることはできないので、登記権利者は、これに基づいて単独で登記申請することはでき
ない(昭47.12.8民三996号)。
◇
所有権の登記名義人が全て入れ替わる場合には、判決による場合でも、登記の前後を通じ
て同一性がなく、更正の登記をすることはできない(昭53.3.15民三1524号)。
◇
農地について農地法所定の許可を条件として所有権移転登記を命ずる判決においては、
執行文の付与された判決正本を登記原因証書として添付する必要があるが、判決理由中に農
地法所定の許可がされている旨の認定がされているときは、執行文付与の手続きを経ることな
く、当該判決正本を登記原因証書として登記申請することができる(平6.1.17民三373号)。
◇
判決による登記申請の場合においては、申請書に登記原因に関する第三者の承諾書等を
添付する必要はないが、登記上の利害関係人の承諾書等についてはそのような規定はなく、
判決による登記申請の場合でもその添付を省略することはできない(35Ⅱ参照)。
◇
登記名義人の相続人を被告とする登記手続を命じる確定判決を添付して登記の申請をする
場合において、判決理由中で被告が登記名義人の相続人である旨の判断がされていても、当
該判決のみでは他の相続人の存在が明らかではないから、42条の相続証明書の添付を要す
る(登記研究382-80、497-141)。
⇔判決理由中から登記名義人の相続人の 全員 が被告となっていることが明らかであるときは、
当該判決正本を、42条の相続証明書を兼ねるものとすることができる(登研548-166)。
◇
債権者が債務者に代位して原告となり、第三者を被告として第三者から債務者への所有権
移転登記手続を命ずる判決を得た場合、債務者がその判決により単独でその登記を申請可。
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◇
詐害行為取消訴訟による取消は、原告たる取消債権者と訴訟の相手方たる受益者又は転
得者との間では無効となるが、訴訟に関与しなかった債務者、受益者、転得者に対しては依然
として有効であり、既判力は債務者に及ばず、債務者は当該判決に基づいて単独でその抹消
を申請することはできない(大連判明44.3.24参照、相対的取消)。
◇
登記権利者・登記義務者の特定承継
口頭弁論終結前 登記権利者 訴訟承継(参加承継・引受承継)の問題
登記義務者
承継執行文の付与を受けても、被告人たる登記義務者から
登記権利者 特定承継人への所有権移転登記を申請することはできな
口頭弁論終結後
い(昭44.5.1民甲895号)
登記義務者 二重譲渡の問題であり、承継執行文の付与を受けても、登
( 対 抗 要 件 記を備えた特定承継人から原告たる登記権利者へ直接所
を具備)
有権移転登記を申請すること不可(最判昭41.6.2)
◇
『甲から乙への売買による所有権移転登記を抹消せよ』との判決を得た甲は、当該抹消登記
の前提として、甲の本訴提起後第一審の口頭弁論終結 前 になされた乙から丁への相続登記を
単独で抹消することができる(昭38.12.28民甲3380号)。
◇
『甲から乙への売買による所有権移転登記を抹消せよ』との判決を得た甲は、当該抹消登記
の前提として、その訴訟の口頭弁論終結 後 になされた乙から丁への相続登記を、丁に対する
承継執行文の付与を受けて、債権者代位により、乙を登記権利者、丁を登記義務者として、単
独で承継人乙名義の所有権移転登記の抹消申請可(昭32.5.6民甲738号)。
※原告の承継人は、自己のための承継執行文を受けなくても、一般承継人である場合には、
一般承継を証する書面を添付し、特定承継人である場合には、債権者代位により、単独で、
被告及び承継人の所有権取得の登記を抹消することができる(同先例)。
◇
判決に基づいて登記申請する場合、原則として判決正本には執行文の付与を要しないが、
口頭弁論終結後に登記義務者について包括承継があった場合には、執行文の付与を要する
ものとされているが、その場合でも、相続登記が未了の場合には、形式的には登記簿上の名
義人と判決正本に記載された被告の表示に不一致はなく、承継執行文を得ずに、判決による
登記申請をすることができる(改訂判決による登記の実務と理論P103)。
◇
所有権不存在 を理由として乙名義の所有権移転登記の抹消登記手続を命ずる確定判決を
得た場合において、所有権が乙から第三者丙に移転していたとしても、原告甲は丙に対する
承継執行文の付与を受けて、債権者代位により単独で丙名義の所有権移転登記の抹消可。
※登記原因の不存在を理由とするときは、新たに権利を取得し、登記を備えた第三者にも対
抗することができるので、承継執行文の付与を得て、債権者代位により単独で第三者名義の
所有権移転登記の抹消を申請することができる(昭32.5.6民甲738号)。
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◇
判決による中間省略登記
判決主文どおり所有権移転登記申請が可能
判決主文中に登記原因及びそ (昭35.7.12民甲1580号)
の日付が明示されている場合 ※中間及び最終の原因が相続、遺贈又は死因
贈与の場合でも中間省略登記 可
理由中にある最終の移転原因を登記原因及び
判決主文中に登記原因が明示 その日付として所有権移転登記申請が可能
されていない場合
(昭39.8.27民甲2885号)
※中間及び最終の原因が相続、遺贈又は死因
贈与の場合は中間省略登記不可
◇
被相続人が買い受けた不動産につき、『売主は買主の相続人に対し、年月日売買を原因と
する所有権移転登記手続をせよ』との判決があったときは、相続人は判決正本を添付して直接
自己名義に所有権移転登記をすることができる(昭35.2.3民甲292号)。
◇
判決に違算、書損等の明らかな誤りがあるときは、その更正決定をすることができ、申請書に
更正決定のされている判決正本を添付して登記を申請するときは、更正決定につき確定証明
書を添付することを要する(民訴257Ⅰ、昭53.6.21法曹会決議)。
※更正決定に不服のある者は即時抗告をすることができるため(民訴257Ⅱ)。
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