目の疾患に対する視覚補助機器の試作 長野県工科短期大学校 制御技術科 13A206 柄澤一輝 1.はじめに 目の疾患は加齢とともに増加する傾向があり,高齢化 社会の日本においては今後ますます患者が増えると予想 される.緑内障では 40 歳以上の 20 人に 1 人の割合で患者 がおり,黄斑変性症は過去 9 年間で患者数が約 2 倍に増え ている.これら 2 つの疾患は,視野の欠損や視界の歪みを 生じ,日常生活に支障を生じさせる.また,これらの疾患は 現在治療による完治が不可能となっている. 本研究ではこれらの疾患に対し,視覚の補助を目的と した機器の試作とその有効性を確認する実験を行う. 2.研究内容 目に疾患を持った人の見え方は,症状や人によって異 なる.そこで本研究では,カメラ映像に処理を加え,モニタ ーで見てもらう事で視覚を補助する事とした.その際,使 用者毎に映像が見易いようにパラメータで調整できる仕 様を検討した.また,今回の作業対象として,手元といった 比較的小スペースで行う日常作業(読書,文字を書く等)に 注目し,機器の試作と調節に必要なパラメータ探索を行 った. 3.製作 3-1 ハードウェア 処理した映像を映すモニターとしてはヘッドマウント ディスプレイ(以後 HMD)を用いることとした.HMD の条件 として高画素,高視野角であり,また処理した映像のみを 使用者に見せることができ,外からの光が入らない没入 型であることとした.以上のことから市販されているも のの中から上記の性能を満たし,比較的安価な SONY 製 HMZ−T3W を選定した. カメラについては,PC と接続することでリアルタイム の映像を表示でき, 頭部に装着し易くするため比較的小 さく軽い web カメラである ELECOM 製 UCAM-DLE300T を採 用した. また,今回選定した HMD は,眼鏡装着者は眼鏡をかけた 状態で装着する仕様になっている.しかし,それでは着脱 やピント合わせが困難であったり,使用中に眼鏡がずれ て画面が見えづらくなる場合がある.この問題に対し,眼 鏡の着用を不要にするため HMD に眼鏡と同様の働きをす るものを組み込む仕様を考えた.そこで今回は複数の人 にもテストしてもらうため,自分で度数を変更でき,近 視・遠視に対応可能なアドレンズ製のスペアペアを採用 し,HMD と組み合わせた. 3-2 ソフトウェアによる映像処理 映像処理ソフトウェアを制作するにあたり,パラメー タを使用者の状況に合わせて変更できる仕様とした.変 更できるパラメータは彩度・明度・コントラスト・シャ ープネスを準備した.彩度は色の鮮やかさ,明度は色の明 るさ,コントラストは画像の明るい部分と暗い部分の輝 度の差,シャープネスはエッジの強弱を示すものである. 図1 パラメータ変更画面 図2 装着した様子 4.実験 用意した各パラメータを変更させて対象を見て,その 状態を比較する事で各パラメータの有用性を確認するの 実験を行った. 視認対象として,疾患者が文字を読む場面を想定し,健 常者でも視認しづらい以下の2つを用意した. ①白い背景に薄い文字を書いたもの ②濃い灰色の背景に黒い文字を書いたもの 実験に伴い疾患の症状を,疑似的に再現することとし た.これまでに緑内障疾患者からの情報で,見るものにハ レーションがかかって見づらくなり,それが目の前に常 に薄い布があるような状況だということが分かった.ま た,中心視野に欠損がある場合,ピントが合わせられず常 に視界がぼやけてしまう状態である事も分かった.これ らの事から,以下の症状の再現方法を用いて実験を行っ た. 表1 症状 ハレーション 視野欠損 症状の再現 再現方法 目にガーゼをまく 見せる映像にぼかしを加える これらの状態でパラメータを変更させる前と後で文字 を認識できる距離の範囲を測定し比較する実験を行った. 認識できる距離の範囲は,対象とカメラの前後させ視認 できる距離を測定した.実験結果の一部を以下グラフに 示す.この結果から,シャープネスの効果は小さいが,彩 度とコントラストでは大きな効果が得られることが確認 できた. シャープネス コントラスト 明度 彩度 組み合わせ 0 2 4 6 8 パラメータ変更によって増加した視認距離[cm] 図3 5 実験結果(ハレーション再現で薄文字を見た場合) まとめ 今回,視覚補助機器の試作と視認性向上のためのパラ メータ探索を行い,その有効性を確認することができた.
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