キヤノンアネルバL-250S-FH RFマグネトロンスパッタ装置 操作マニュアル 第5版 2016年4月 東京工業大学 メカノマイクロプロセス室 担当:技術部 マイクロプロセス部門 佐藤 内線5074,[email protected] 1 はじめに スパッタリングとは加速された高エネルギーの原子やイオンをターゲット表面に衝突させ,そのターゲッ トの構成原子を飛び出させて,基板上に成膜する技術である.スパッタ法を用いる利点は,母ターゲットと 作成した薄膜の組成が比較的変わらないことや,高融点の物質の薄膜を作成することができること等が上げ られる. R.F.マグネトロンスパッタ(Radio Frequency Magnetron Sputter)は, 安定したスパッタ出力が得られ ることから広く用いられている.本マニュアルは,キヤノンアネルバ(株)製のL-250S-FH の基本的な取り扱 いを記す.本装置の特徴は,強磁性ターゲットの成膜を行うことができる(ターゲット1の下に強力な磁石が 取り付けられている).またチャンバーのベイキングが可能であり,より高い真空度を実現することが可能で ある.本装置の外観は写真1 に示す. 写真1 L-250S-FH 外観 装置の主な仕様 形式 電極構造 スパッタリングカソード RF電源 排気系 :L-250S-FH(キヤノンアネルバ社製) :2 極対向 平行平板型 :水冷式マグネトロン 3 基 (内1基は強磁性ターゲット専用) :最大出力 300W (ただし,251W 以上は要相談) 手動マッチングボックス :ロータリーポンプ, ターボ分子ポンプ ベイキングヒーター 2 装置の立ち上げ すべてのバルブが Close であることを確認後、以下の手順で装置の立ち上げを行う. 1. 主電源200V 及び100V ブレーカー(写真3)ONにする. 2. メカニカルポンプ(RP)電源スイッチ(写真3)をON にし,RP内の排気を行う. 3. フォアラインバルブ(写真4)を開け,ターボ分子ポンプ(TMP)内の排気を20Pa以下になるまで行う. 4. TMPスイッチをONにする(写真3). 5. TMPコントローラの表示切替“▸ ”3回程押し項目を【309:ActualSpd】にする。回転数が0 Hzから徐々に 上昇し定常状態となると1000Hzと表示される(約5分) 90°OPEN 簡易蒸着 スパッタ用 研磨機 写真2 冷却水バルブ(成膜作業直前にOPEN) シャッター切替 フォアラインバルブ ターゲット切替 スパッタマッチング ボックス 写真3 前面パネル 写真4 チャンバー下部外観 3 ターゲット及び基板の取り付け チャンバー内で作業する際には,必ず手袋を使用すること. ●チャンバーを開ける 1. 2. チャンバーベントバルブ(写真5)をリーク音がするところまで開け,チャンバーをAir でVENT する. チャンバーの蓋を開ける. ●ターゲットの交換 1. 2枚のシャッターとターゲットカバー(写真6,7)を取り外す.シャッターの上段は引き抜き、下段のシャッ ターはねじを3本外す.ターゲット押さえ(写真9)のねじを均等に緩めた後,ターゲット押さえをはずし, ターゲットを交換する.冷却効率を高めるため,カソードとターゲットの間にアルミホイルを敷く. 2. ターゲット押さえを取付け,均等にネジを締める.ターゲットカバー及びシャッターを取付ける. <注意>・強磁性材料はターゲット1にセットすること. 手を挟まないように注意すること. (ターゲット2及び3ではスパッタできない.) ・チャンバー内にネジを落とすと,短絡の原因になりスパッタができなくなる.もしも, ネジなど を落とした場合,すみやかに装置の責任者に連絡すること. ・カソードとチャンバー部分の短絡を,テスター等で調べる.数M Ωの抵抗値ならばOK! 逆スパッタ切替 逆スパッタ マッチングボックス 基板位置切替 チャンバーベントバルブ (リークバルブ) シャッター 2段構造 粗引きバルブ 写真5 チャンバー部分 写真6 チャンバー内部(上部シャッター) ターゲットおさえ ① ③ ターゲットカバー ⑥ ターゲット2 ⑤ ④ ターゲット1 (強磁性体用) ② ターゲット3 写真7 ターゲットカバー ねじを緩めるときは応力 がかたよらない様注意!! 写真8 ターゲット押え 4 ●基板の取付け(写真9, 10) 1. 2. 3. 4. 基板ホルダーに基板を置き,専用のジグを用いて固定する. アノード側に,基板ホルダーを固定する 基板ホルダーとチャンバー蓋が短絡していないことをテスターで確認. ターゲットの位置や番号,シャッターの位置関係を確認. (ターゲットと基板両方位置を変えることができるためしっかり確認する事!!) ●チャンバーを閉じる Oリング及びその周辺をエタノールで拭き,ゴミが付着していない事を確認しチャンバーを閉める. 真空引き 真空引きの手順は次の通り.各バルブの位置は写真4, 5, 10を参照. 1. チャンバーベントバルブをしっかり閉める. 2. フォアラインバルブを閉める. 3. チャンバーの蓋を押さえながら粗挽きバルブを開け,チャンバー内の粗引きを行う.チャンバー内の 圧力がピラニー真空計(TMPの排気圧)で20 Pa以下まで行う. 4. 粗引きバルブを閉じる. 5. フォアラインバルブを開ける. 6. メインバルブ(写真10) をゆっくり開け(途中で一度止まる所あり), チャンバー内をTMP で本引きする. 7. 電離真空計(写真10) をON にし,FILをON. 8. 所定のbase pressure まで真空引きを行う. ※ベイキングヒーターの使用上の注意 1. チャンバー用の冷却水バルブ(写真13) を閉じてからヒーターのスイッチを入れる.チャンバーの周り に可燃物を置かないこと.使用後は,冷却水バルブを必ず開けておくこと. 2. 夜中にベイキングヒーターを使用したままにしておかないこと. 基板ホルダー メインバルブ 一回り小さい治具 電離真空計 基板を固定するには二枚の治具を重ね、基板ホ ルダーに固定することで基板を固定する ※両面テープで基板を固定する際は、基板ホルダーを アルミホイルで覆いその上に基板を貼り付けること!! 写真9 基板固定用ジグ 写真10メインバルブと電離真空計 5 スパッタ スパッタは以下の手順で行う.Ar ボンベの元栓を開け,レギュレーターの出口を開ける(写真11). 冷却水を流すため,装置の左奥下(写真2)の冷却水バルブの全開にし、冷却水が流れていることを確認. ●逆スパッタ 1. シャッター下段はスパッタするターゲット番号に合わせ、シャッター上段は180°反対に回転させる. 2. ガスコントローラー(写真12) をON にし,つまみをSET にする. 3. Ar ガスのバルブ1,バルブ2をゆっくりと開ける.(写真13, 14)バルブ2を開けるとピラニー真空計 の針が触れるが,ゆっくりと開けると徐々に針が戻る. 4. ガスコントローラー(写真12) のボリュームを回してAr 流量を調整する. (目安は10sccm 程度,最大20sccm) 5. 逆スパッタ切替(写真5)をON.(無理な力を加えない) 6. RF 出力切換(写真3)をSUBSTRATE にする(つまみは引っ張り上げながら動かす). 7. RF のボリュームつまみが0 であることを確認し,RF電源をON(写真15). 8. RFスイッチをON にし,ボリュームつまみを回し30W 程度にする. 9. メインバルブで Ar 圧を調整し着火.(5~8Pa程度,10 Pa以上になると電離真空計が故障するので注意!!) 10. すぐにメインバルブ で圧力を調整する.(0.5~1.0Pa程度) 11. RF 出力を50W 程度まで上げながら,逆スパッタのマッチングボックスのMatching,Tuning つまみ で反射波を調整する. 12. 逆スパッタ(5~10分). サンユースパッタ用 Arボンベ ガスコントローラー アネルバスパッタ用 Arボンベ RFコントローラー RFボリュームつまみ RFスイッチ 写真11 Arボンベ RF電源 写真12 ガスコントローラーとRF コントローラー Arバルブ1 Arバルブ2 チャンバー冷却水バルブ (ベイキング時 CLOSE) Arバルブ2を開けた状態でガスコン トローラーの電源を切らないように 写真13 Ar バルブ1 写真14 Arバルブ2 6 13. RF のボリュームつまみを0 にし,RFスイッチをOFF . 14. RF 電源をOFF にする. 15. 逆スパッタ切替をOFF. ●スパッタ 1. RF出力切換をTARGET にする(つまみは引っ張り上げながら動かす). 2. ターゲット切替を使用するターゲットに合わせる(写真4). 3. RFのボリュームつまみが0,上部シャッターが閉まっていることを確認し,RF電源をON. 4. RFスイッチをON にし,ボリュームつまみを回し30 W程度にする. 5. メインバルブを調節し,着火圧までAr 圧を上げる.(5 Pa以上) 着火後,メインバルブで所定のAr 圧 に調整する. ※10 Pa以上になると電離真空計が故障するので注意!! 6. RF 出力を所定の出力まで徐々に上げながら,スパッタのマッチングボックスのMatching,Tuning つま みで反射波を調整する.覗き窓はCLOSE. 最大出力は250 Wまで. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. プリスパッタ(3~5min). シャッターを開け,本スパッタ開始. 所定の時間を行う.(適宜反射波を調整する) 本スパッタ終了後,RFのボリュームつまみを0 にし,RFスイッチをOFF にする. RF 電源をOFF にする ガスコントローラーのボリュームを0 にし、Ar ガスのバルブ1,バルブ2をCLOSE. つまみをCLOSE にして,OFF にする. 基板冷却のため、10 min以上置く. 取り出しと装置停止 1. 電離真空計のFIL を切った後,電源をOFF にする. 2. メインバルブをしっかり閉める. 3. チャンバーベントバルブを開け,チャンバー内をVENT する. 4. チャンバーを開け,基板を取り出す. 5. O リング及びその周辺をエタノールで拭き,チャンバーを閉める. 6. 真空引きの1~6 の作業を行い,チャンバー内の真空引きをする. 7. チャンバー内を30sec程度真空引きした後、メインバルブをCLOSE. 9. TMPスイッチをOFFにする. (回転数が減少し、約20分で1000 Hzから700 Hz になる) 700 Hz以下である ことを確認し、フォアラインバルブを閉める. 10. RP を止める. 11. メイン電源200 V と100 V を切る. 12. Ar ボンベのレギュレーター出口及び元栓を閉める. 13. 冷却水を止める. 14. 最後に使用記録簿を記入する. ※電源を切った後、しばらくTMPコントローラの表示板はついたままであるが100 Hz程度となると 自動で電源が落ちる 7 清掃 ターゲットの汚染や試料への不純物の混入の原因になるので,チャンバー内が汚れてきたら,装置担当者 に連絡し,担当者の指導の元で清掃をすること. スパッタ装置のメンテナンス会社連絡先 キャノンアネルバ株式会社 神奈川県川崎市麻生区栗木 2-5-1, TEL: 044-980-3460 (部品発注:ヤマト科学株式会社 神奈川支店 TEL:045-440-5031 8 FAX:045-440-5032)
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