銅イオン水に関する試験

安治川技報
Vol.9(2003)
研究報告
銅イオン水に関する試験
森下
The
博昭*・上久保
Examination
of
通夫*・永泉
a
Copper
忠**
Ion
Water
Hiroaki MORISHITA,Michio UEKUBO,Tadashi EIZUMI
Abstract: The chemical agents which descaled the re-crystallized scale in cooling tower were high-cost and didn’t have
sterilization.
So a copper ion water was developed instead of the chemical agents.
In this examination, the properties of a copper ion water which is effective for removing the re-crystallizing
scale, sterilizing bacteria and algae was researched.
The results were as following.
(1) A copper ion water is effective for removing the scales in the cooling tower.
(2) A copper ion water represents sterilization for bacteria and algae.
Key
words: a copper ion water ; cooling tower ; scales ; sterilization for bacteria and algae
1.緒言
缶石除去の現象を目視で確認するため,缶石の付着した
試験片を銅イオン水に浸漬し,変化の観察を行った。
クーリングタワーでは,冷却水を循環し,その循環中に
蒸発潜熱が奪われ,冷却が行われる。この蒸発潜熱が奪わ
2.2
れる際に,循環水が蒸発し,水中に含まれるカルシウム,
(1)缶石付着試験片
試験材
缶石の付着したアルミニウム製ヤカン(容量10L)から
マグネシウムイオンが濃縮され,難溶性の炭酸塩として析
出し,缶石として付着する。また,温かい循環水では,細
20×20mm の切片を切り出した。
菌が繁殖し易く,藻や苔が繁茂する。この結果,熱交換効
(2)浸漬液
イオン交換水,銅合金の電極を用いての水の電気分解で
率の低下,鋼管の腐食,細菌の影響等,様々な問題が発生
している。
得られる銅イオン水および比較用に2ppm-Cuの硫酸銅
この対策として,薬剤処理等が行われているが,薬剤に
よる除去効果,メンテナンスコストなどの問題がある。
水溶液を用いた。なお,銅イオン水の分析結果を Table 1 に
示す。
本報告は,缶石,細菌,藻等の障害を除去する目的で開
発され,コスト的にも優れた銅イオン水の性能確認試験を
元素
行ったので報告する。
濃度(ppm)
Table 1. 銅イオンの成分およびpH
Cu
Ca
Mg Fe Zn Cd
2.3
14.0
2.9
1.6
0.4
0.1
Al
pH
<0.01
7.5
・銅イオン水の分析は硝酸を加えて煮沸して混合物を溶
2.浸漬試験
解した。
2.1
*
安治川鉄工(株)技術研究所(Engineering Research Laboratory,AG AJIKAWA corp.,4-11-88 Takeshima
Nishiyodogawa-ku
**
・その他 Pb,Cr,Ni,Sn は検出限界以下であった。
目的
OSAKA JAPAN)
安治川鉄工(株)エンジニアリング部省エネシステム室(Engineering Division, Energy-saving system Section,
AG AJIKAWA corp.,4-11-88 Takeshima Nishiyodogawa-ku
OSAKA JAPAN)
安治川技報 Vol.9(2003)
初期の銅イオン水に含まれていた Ca が14.0ppm か
(3)試験方法
150ml マヨネーズ瓶中にイオン交換水,銅イオン水,硫
ら9日後に8.9ppm に減少している以外,Ca,Mg とも
酸銅水溶液を満たし,缶石付着試験片を浸漬した。なお,
に溶出量が増加し,逆に銅イオンの濃度は減少していた。
試験期間中,マヨネーズ瓶はパラフィルムで密閉した。浸
溶出したカルシウムおよびマグネシウムはヤカン内面に
付着している缶石の成分と考えられる。アルミニウムは缶
漬試験は次の2種類とした。
外観観察は浸漬した試験片を瓶の外側より観察した。
石が付着していないヤカン外側からの溶出と考えられる。
溶出成分分析は,試験片を浸漬後,9,24,50日後
に各々の液の浮遊物を含めた溶出液を一定量取り出し,成
2.4
試験の結果,以下のことが認められた。
分分析を行った。
①
2.3
まとめ
銅イオン水に缶石付着試験片を浸漬すると,約90
時間後,白い浮遊物が生成された。
試験結果
②
(1)外観観察結果
この生成物はカルシウムとマグネシウムを主成分と
する缶石が溶出したものと考えられる。
約90時間後,銅イオン水に浸漬した試験片より,白色
の浮遊物が生成されて試験片に付着していた。この白色生
成物はその後も経時的に増加し,試験片から剥落した。
3.銅イオン水循環試験
硫酸銅水溶液では約15日後,イオン交換水も約25日
後にごく僅かな白色生成物が認められたが,銅イオン水と
3.1
目的
クーリングタワー中に銅イオンを抽入して缶石が除去さ
比較して,はるかに少なかった。
Fig.1 に浸漬50日後の状態を示す。
れる現象を再現するため,循環するイオン交換水中に銅イ
オン水を滴下し,試験片にその槽液を打ち付け,試験片の
外観観察を行った。
3.2
試験方法
(1)缶石付着試験片
缶石の付着したアルミニウム製ヤカン(容量10L)から
20×20mm の切片を切り出した。
(2)試験液
循環させるイオン交換水に滴下する液として次の2種類
Fig.1. 50日後の状態
を使用した。
(2)溶出成分分析結果
①
銅イオン水(2ppm)
②
硫酸銅液(2ppmCu2+)
経時変化を Fig.2 に示す。
(3)試験方法
20
①
Cu
内寸560×260×180mm のコンテナ内にイ
オン交換水10L を入れる。
Ca
Mg
15
②
Al
約850ml/min に流量を調整したベビーポンプで
濃度(ppm)
槽液を循環させる。
③
銅イオン水および硫酸銅水溶液は約8ml/min に液
10
量調整したチュ−ブポンプで1日あたり1.5時間(約
720ml)滴下する。
④
5
試験片は塩ビの角パイプで治具を作成し,ベビーポ
ンプの吐出口から槽液をあてる。
0
0
10
Fig.2.
20
30
浸漬時間(日)
40
溶出成分の経時変化
50
⑤
試験片は定期的に外観観察を行った。
⑥
循環させた液は定期的に採取し,成分分析を行った。
試験装置の全体写真を Fig.3 に示す。
Vol.9(2003)
安治川技報
Fig.4,5 より約90時間経過後,銅イオン水を滴下した
循環水中のカルシウム,マグネシウム濃度の増加が認めら
れた。特にカルシウムは約7ppm まで増加していた。しか
し,硫酸銅およびイオン交換水を循環させた槽液ではカル
シウムおよびマグネシウムの溶解はほとんど認められなか
った。
Fig.6 に銅濃度の変化を示すが,銅イオン水では,一部
に異常値も認められるが,経時的に増加が認められた。一
方,硫酸銅水溶液では100時間後をピークに,経時的に
減少した。
Fig.3.
3.3
0.5
試験装置の全体
0.4
試験結果
Cu濃度(ppm)
(1)循環水
500時間試験を行い,循環させた水中に含まれるカル
シウムおよびマグネシウムの濃度変化を Fig.4,5 に示す。
15
Ca濃度(ppm)
銅イオン水
硫酸銅
イオン交換水
0.3
0.2
0.1
銅イオン水
硫酸銅
イオン交換水
10
0
0
100
200
300
試験時間(h)
400
500
Fig.6. 循環水中の銅濃度
5
(2)試験片外観
Table 2 に外観の変化,Fig.7 に試験片外観を示す。
0
0
100
200
300
試験時間(h)
400
500
Table 2. 試験片の外観変化
Fig.4. 循環水中のカルシウム濃度
Mg濃度(ppm)
5
銅イオン水
硫酸銅
イオン交換水
滴下液
100 時間
250 時間
500 時間
銅イオン
水
黄土色の
缶石減少
打刻部,端部
に黒色部あり
打刻部,端部
の黒色部拡大
硫酸銅
水溶液
変化なし
変化なし
僅かに点状の
黒色部あり
イオン
交換水
黄土色の
缶石減少
端面一部が
黒くなる
端面僅かに
黒色化
2.5
0
0
100
200
300
試験時間(h)
400
Fig.5. 循環水中のマグネシウム濃度
500
Fig.7. 試験片の外観
安治川技報 Vol.9(2003)
銅イオン水を滴下した水を当て続けた試験片の外観には
4.1
銅イオン水の殺藻性試験
変化が認められたが,他の硫酸銅を滴下したものとイオン
汲み置きの水でメダカの飼育を行い,一定量の銅イオン
交換水のみをあてたものではほとんど変化が認められなか
水を定期的に添加し,プラスチックケース中の藻の発生状
った。
況の調査を行った。比較用に汲み置き水のみのものも行っ
銅イオン水を滴下した水を当てた試験片の特徴は次のと
た。
おりであった。
①
黄土色の缶石が白っぽくなり,缶石の表面が除去さ
プラスチックケース2つに汲み置きの水900ml を入
れたように見えた。
②
(1)試験方法
れ,それぞれメダカ1匹と水草をいれ,日中は屋外,夜間
一部に黒色生成物が認められた。
は室内で飼育を行った。一方には1日あたり5ml の銅イオ
(3)試験片に生成された物質
ン水を添加し,2つの藻の発生状況,飼育水の成分分析を
500時間経過後,循環水を試験片にあてる試験を終了
行った。なお,蒸発分の水は汲み置き水を追加して900
し,試験片の重量変化と黒色生成物の成分分析を行った。
ml を維持し,給餌は朝夕2回とした。Fig.8 に飼育時の状
試験片の重量変化を Table 3 に示す。
態を示す。
Table 3. 試験片の重量変化
銅イオン水
硫酸銅
イオン交換水
試験前(g)
5.2923
5.2878
5.4114
500 時間後(g)
5.3131
5.2604
5.3670
増減(g)
+0.0208
-0.0274
-0.0441
銅イオン水では重量の増加が認められたが,硫酸銅とイ
オン交換水では減少していた。
この銅イオン水をあてた試験片の重量増加は黒色生成物
が原因と考えられ,これらの成分を分析した。分析結果を
Table 4 に示す。
Fig.8. 飼育時の状態
Table 4. 生成物の分析
種類
Cu
Ca
Mg
Fe
Al
他
黒色(%)
26.0
0.4
0.8
1.3
6.3
65.2
(2)試験結果
Table 5 にプラスチックケースの外観経時変化,Fig.9
に27日後のプラスチックケースの外観を示す。
分析の結果,黒色生成物は銅を主成分とする化合物であ
Table 5. プラスチックケースの外観
ることがわかった。
3.4
まとめ
試験の結果,以下のことが認められた。
①
循環試験90時間後,銅イオン水滴下でカルシウム,
マグネシウムの溶出量の増加が拡大した。
②
銅イオン水滴下で,循環試験250時間後に黒色生
成物の析出が認められた。
③
銅イオン水滴下のものでのみ,試験片の重量増加が
認められた。
④
黒色生成物は銅を主成分とすることが認められた。
4.銅イオン水の殺菌性
槽
19 日後
22 日後
27 日後
30 日後
銅イオン
水
変化なし
壁面多少
白く曇る
壁面多少
緑色化
壁面全体
緑色化
汲み置き
水
水際に
白い曇り
白い曇り
が緑色化
壁面緑色
銅イオン水
より多い
壁面全体
緑色化
安治川技報
Vol.9(2003)
生菌数(×10E3 colonyforming unit/ml)
10
8
6
銅イオン水0ppm
銅イオン水1ppm
銅イオン水2ppm
4
2
0
0
Fig.9. プラスチックケースの外観(27日後)
試験の結果,汲み置き水と比較して銅イオン水を添加し
2
4
6
経過時間(H)
Fig.10 レジオネラ菌による銅イオン水の殺菌試験 1,2,3)
(H15.5.12 マルゴー検査センター)
たものは,藻の発生を抑制する効果が27日目までは認め
られた。ただし,30日後には藻が壁面を覆ってしまった
ため,銅イオン水に藻の繁茂を完全に抑える効果は認めら
3
銅イオン水0ppm
れなかった。
銅イオン水0.5ppm
銅イオン水1ppm
Table 6. 30日後の飼育水の成分分析結果
銅イオン水
(ppm)
汲み置き水
(ppm)
Cu
Mg
Ca
Fe
0.03
5.18
18.89
0.08
0.01
5.36
19.10
0.10
生菌数(×10E5/ml)
Table 6 に30日後の飼育水の成分分析結果を示す。
2
1
0
0
成分分析の結果,銅イオン水,汲み置き水の成分に大き
2
4
6
経過時間(H)
な差は認められなかった。
試験の結果,銅イオン水に完全な殺藻性は認められなか
ったが,藻の繁茂を抑制する効果は認められた。この結果
Fig.11 大腸菌による銅イオン水の殺菌試験 4)
は,飼育水の成分分析で銅イオン水と汲み置き水の成分に
(H12.10.22 (財)日本食品分析センター)
大きな差がなかったことから,銅イオン水の濃度が薄かっ
4
た事も考えられる。
銅イオン水0ppm
(3)まとめ
試験の結果,銅イオン水には藻の繁茂を抑制する効果が
認められた。
4.2
銅イオン水の殺菌性
銅イオン水の殺菌性を確認するため,公的に認定された
生菌数(×10E5 /ml)
銅イオン水0.5ppm
銅イオン水1ppm
3
2
1
機関に試験を依頼した。
Fig.10 にレジオネラ菌,Fig.11 に大腸菌,Fig.12 に黄
色ブドウ球菌に対する銅イオン水の殺菌性試験結果を示す。
0
0
2
4
6
経過時間(H)
Fig.12 黄色ブドウ球菌による銅イオン水の殺菌試験 4)
(H12.10.22 (財)日本食品分析センター)
安治川技報
Vol.9(2003)
イオンのもつ作用により,殺菌,殺藻の効果を示す。
1) 添加菌液の生菌数を測定し,開始時の生菌数に換算
2) 試験菌:レジオネラ pneumophyla gifv(岐阜大医学部細菌学科より分離)
3) 検査方法はレジオネラ菌防止指針(厚生省生活衛生局 1994)に準拠
浸漬試験では約90時間後に白い浮遊物が認められ,カ
4) 添加菌数の生菌数を測定し,開始時の生菌数に換算
ルシウムおよびマグネシウムの溶出量増加,銅イオンの溶
Escherichia coli 3301 (大腸菌)
試験菌
これが銅イオン水の缶石除去,殺菌,殺藻のシステムと
考えられる。
Staphylococcus aureus (MRSA:京都微生物研究所分離株)
出量の減少が認められた。同様に循環試験でも100時間
でカルシウム,マグネシウムの濃度増加が拡大し,250
殺菌性試験の結果,レジオネラ菌,大腸菌,黄色ブドウ
球菌(MRSA)に対する殺菌性が確認された。
時間後から黒色の銅系化合物の析出も認められた。この結
果はともに銅イオンによってカルシウム,マグネシウムの
溶出,銅原子の析出による缶石除去が行われていると考え
5.考察
られる。
殺菌試験では,その殺菌効果が確認されたが,殺藻性試
銅イオン水は銅合金の電極を用いて水を電気分解して得
られる。その際,銅原子の最外殻から電子2個が飛び出し,
銅イオンとなり,銅イオン水が形成される。
Cu
→
Cu2+
+
2e−
銅イオンは不安定であり,イオン化傾向から銅に変わり易
験では,穏やかな殺藻効果が認められた。
3つの試験結果,銅イオン水の缶石除去,殺菌効果は認
められた。
6.まとめ
各種試験の結果,銅イオン水には以下の効果が認められ
く,缶石を形成しているカルシウム,マグネシウム化合物
た。
を攻撃して,置換反応を引き起こし,カルシウムイオンと
①
銅イオン水の浸漬試験,循環試験の結果,缶石成分
②
銅イオン水の殺藻性試験では,藻の抑制効果が多少
(Ca,Mg)の溶解作用が認められた。
マグネシウムイオンを生成し,銅イオンは電子を得ると銅
原子にもどり,析出するものと考えられる。カルシウムイ
オン,マグネシウムイオンは銅イオン水の供給および弱ア
認められた程度であったが,殺菌性試験では,銅イオ
ルカリ性が確保されるため,析出することなくイオンのま
ン水の殺菌性が認められた。
ま存在すると考えられる。また,析出した銅成分または銅