「オーロラの世界」の演出手法−パーティクル、文字回転

大阪市立科学館研究報告 23, 77 - 84 (2013)
プラネタリウム番組「オーロラの世界」の演出手法
-パーティクル、文字回転、サウンドシンク-
義弥 *
渡部
概 要
「オーロラの世 界 」は、2011年12月 から翌年2月に公開したオリジナルのプラネタリウム番組である。こ
れは、2004 年に制作 した同名 の番組 (以下、2004 年版)をベースに、構成・演出の大幅な改良を加えた
ものである(以下 、2011 年 版 )。そのさい、いくつかの理由から全天周動画を大幅に増やすことにした。そ
のさいに使ったテクニックが「パーティクル」の利用、「文字を回転させる」演出、「サウンドシンク」である。こ
れらは、全天 周 動 画 の演 出 としては比 較 的簡 単にでき、さしたるセンスも必 要ない。そのわりに、全 天周
動 画 の魅力 を十分 引き出 すことができ、この公開時期としては記録的な来場者を呼ぶことができた。
本 報 告 では、これら「オーロラの世 界 」でとりいれた演出とその作成法を紹介する。また、演出のねらい
もあわせて紹介 する。
1.はじめに
これは、トライアル&エラーが容易である反面、技 術的
「オーロラの世界」は、2004年に制作し、2011年に
には、スライドベースの旧来のプラネタリウムでも可能な
大幅 改 訂 したオリジナルのプラネタリウム番 組 である。
演出しかとれなかった。また、これらスクリプトベースの
いずれも筆者が制 作を行った。
作品は、動作の安定性にかけ、しばしば画面が乱れた
大阪市立科学館のプラネタリウム番組は、解説者が
り、コマ飛びを起こしたりすることがあり、大きな問題に
ライブでしゃべり、同 時 に映 像 演 出 をコントロールする
はならなかったが公開に支障を来していた。
ものである。パッケージではなく公演のセットリストといっ
一方、2011 年版では、制作環境が格段に向上して
たものである。このやり方 をはじめた最 初 の番 組が、こ
いた。2006 年度に導入した「プロデューサー」でスクリ
の「オーロラの世界」の 2004 年版であった。
プトならびに全天周動画を、プラネタリウム公開現 場の
また、2004 年版は、大阪 市立 科学 館が全 天周動画
外、すなわちオフサイトでテストできるようになっていた。
システムを導 入して初めてのオリジナル番 組であった。
これにより、プラネタリウム公開時間中も制作作業が行
当 時、全 天周動画システムを導 入は冒 険であり、大阪
えるようになり、作業効率が大幅に向上した。
市 立 科 学 館 は全 国 でも極 めて早 い時 期 に導 入した。
また、2006 年の北米での研修で学んだ先進的な現
そのため、国 内 を見 ても、制 作 ノウハウ・先 例 がないな
場での知見により(渡部(2007)参照)全天周動画のレ
かで制作 を行った。また、当 時の番 組 制 作は、来観者
ンダリングの専用コンピュータであるレンダーファーム、
公開用のプラネタリウムホールを使う以 外に方法がなく、
ならびに全天周動画制作用のプラグインを導入するな
閉 館 後 、あるいは休 館 日 に 厳 しい時 間 的 な制 約のな
ど、全天周動画制作機器の強化をはかってきた。
かで制作を行わざるをえなかった。
そして、2011 年には、公開用機器である、全天 周動
そのため、2004 年版では全天周 動 画は、外部に制
画システムのバージョンアップが 行われ、 動 作の 安 定
作を依頼した CG の1シーンだけであり、残りは、静止
性と映像の鮮明度のアップが期待されることとなった。
画の写 真 数 枚 をディゾルブ風 にめくったり、マルチスラ
「オーロラの世界」の 2011 年版は、この全天周 動画
イドショー的 に配 置 したりする「スクリプト」で制 作した。
システムバージョンアップ後の 第 一 作 品 目 として制 作
することとなった。 上 記 の 通 り、 公 開 機 器 の 性 能 は 向
*
上するが、同時に、バージョンアップ作業と並行して制
大阪市立科学館
e-mail:[email protected]
作を行わなければならず、公 開現 場での動 作確 認 作
-1-
渡部 義弥
業 が事 前 にほとんど行えない。特 にスクリプトについて
人かのオーロラ写真家が行っているが、2011 年版では
は、大きな不安要素であった。
株式会社イーハトーブの西谷氏が撮影したものを使用
そこで 2011 年版では、公開現 場での作業を最小限
とする必要があった。こうした、環 境 下 で制 作 したのが、
させていただいた。
2については、静止画フリップを出して、それを解 説
2011 年版「オーロラの世 界」であり、そのためにオフサ
するという形式にした。説明やクイズなどが中心となり、
イトでテストをすれば、公 開 現 場でも確 実に作 動する、
全 天 周 動 画 は 使わなか った。ま た、 当 初は 全 天 周 動
全天周動画をできるだけ多く制作することとした。
画にいれこむ形で制作したが、ポーズなどのさい画像
しかし、全天 周 動 画 の制 作 には多 大 なコストと時間
がかかる。それを捻出するのは、困難であった。
が乱れることが頻発したため、スクリプトベースで作り直
した。フリップの例を図1に示す。
そこで、考え 出 したのが、作 業 が簡 素 なわりに 効果
が高 い全 天 周 動 画 の 制 作 ・演 出 のテク ニックで ある。
本 稿では、2011 年 版で使 ったこれらテクニックについ
ての全 天周 動 画 制 作 で使 ったテクニックである。本稿
では、「オーロラの世 界」2011 年 版で使ったこれらテク
ニックの位置づけと実際の使用 法について紹介する。
2.「オーロラの世界」の概要
「オーロラの世界」は、大 阪 市 立 科 学 館 のプラネタリ
ウムでの公開を前 提とした番 組である。番組は、およそ
15分間であり、映 像 演 出 をしながら、解 説 者 がライブ
で話すというスタイルをとる。これは、2004 年版 も 2011
図 1. フリ ップの一 例 これをドーム上 の適 当 な位 置
年版も同様である。
(たとえば正面中央)において使う。
番 組 は6~ 8のシーンごとにメカニカルボ タンを割り
当 て、解説 者 が任 意 のタイミングでシーンをスタートで
2004 年版と 2011 年版で大きく変わったのが、3であ
きるようにした。また、一 つのシーンの途 中 で適宜ポー
る。2004 年版では、SD 画質(アナログ時代のテレビ放
ズ(一時 停 止)をいれ、キューボタンで解 除 ・進 行する
送程 度)の 電気 発 光の実 験 映像や、NASA などが制
しかけも使 用 した。これは、たとえばクイズなどを出して、
作したやはり SD 画質の説明動画などを使って紹介し
観 覧 者 の反 応をみながら答 えをいうといったインタラク
ていた。
ティブな演出をするときに有効である。
次 にプラネ タリウム 番 組 「オーロラの 世 界 」のねらい
は、2004 年版でも 2011 年版でも次の通りである。
一方、2011 年版では、全天周動画を使い、太 陽か
ら粒子がやってきて、地球に到達し、地球の大気の原
子や分子が発光していることを体感できるようにと考え
た。ここで用いたテクニックが「パーティクル」である。
1.オーロラ観察の疑 似体 験をしてもらう。
また、上 記 の3 要 素のほか、 雰 囲 気を盛り 上げる た
2.オーロラの見える場 所、発 光 高 度などいくつかの特
めにオープニングやエンドクレジットなどに工夫をこらし
性 を知 ってもらう。特 に 寒 さとは無 関 係 であることを
た。これも、2004 年版では、静止画スライドを使用した
知ってもらう。
が、2011 年版では全天周動画を使った演出を行うこと
3.オーロラ発光が、太陽によりもたらされる荷電粒子
によるものであることを知ってもらう。
とした。そのさい用いたのが「文字回転」である。
また、印 象 度を高めるために音 楽を使 用したが、そ
のさい、 映 像と音 楽がう まくからむように 「サウンドシン
このうち、1.のために、魚 眼 レンズで撮 影 した実際
のオーロラの連続 写真を、全 天 周 動画システムで映写
すること。また、動きが速く、肉 眼で見 たように再現でき
ないオーロラのブレークアップについては、全天周 CG
ク」のテクニックを使用した。これは、映像演出のきっか
けを、BGM の変化にあわせて行うものである。
以降、本稿では 2011 年版における演出手法につ
いて述べることとする。
で再現して映写することとした。
2004 年版では、実際の映像はフィルムカメラの20コ
マ程度の連 射 でしかかなわなかったが、2011年 版で
3.「パーティクル」による演出
3-1.パーティクルとは
はデジタルカメラで数千コマを撮影されたものを動画に
オーロラ発光が、太陽よりもたらされる荷電粒 子 によ
再 構 成することが可 能 となった。このような撮 影は、何
る。それを示すために「パーティクル」というテクニックを
プラネタリウム番組「オーロラの世界」の演出手法
使 用 した。パーティクルは、PC の動 画 編 集 ソフトでは
これを、まるく切れば(図3)そのままドームマスターとし
一 般 的 になっているエフ ェクトで ある。その 名 の 通 り、
て使っても違和感がない。
多 数の 粒 が 湧 き 出 すよう に 発 生 し、それをいくつか の
パラメータでコントロールするものである。
この世界には、多 数 の粒 が現 れるできごとがたくさん
ある。雨 、雪などの気 象 現 象 、噴 水 や噴 火 、紙ふぶき、
花火など、枚挙にいとまがない。
これら多数の粒を、一 つ一つ描 いてアニメーションを
作 るとなると、 気 が 遠 くなる 作 業 が 必 要 である。これを
自動 的に行うのが「パーティクル」エフェクトである。
大阪市立科学 館では、3D 演出ソフトオートデスク社
の 3 d s MAX と 、 映 像 効 果 ソ フ ト で ア ド ビ 社 の
AfterEffect をよく使 用 している。ここでは、AfterEffect
の「パーティクル」機 能 を使い、太 陽から吹き出す荷電
粒 子、地 球 にふりそそぐ荷 電 粒 子 (電 子 )、電 子により
図3.図2の放射心を中心に、丸く切ったもの
励起され、発光する大気の分 子・原 子を表現した。
図2、 図 3の 矢 印 に 相 当 するものを、パーティク ルを
3-2.全天周動画への適用
AfterEffect は、本 来、全 天 周 動 画 を作 成するように
つかって粒子の流れとすれば、全天周動画として十分
に見ることができる。
作られていない。大 阪 市 立 科 学 館の全天 周 動 画制作
での本来の役 割は、全 天 周 動 画 用に作 成された静止
3-3.実際の制作
画のドームマスター(円 形・魚眼 レンズ視 点で作 成され
ここまで 見 当 をつけ ておけば、 実 際 の 制 作 はごく 簡
た画 像 )をならべ、 それら 全 体 に 色 や 明 る さの 調 整 を
単である。手順を示す。なお、AfterEffect の一般 的な
行 うために 使われる。また、プロジェクターで 上映する
使い方は、適当な入門書を参照していただきたい。
のにあわせて、画 像 を分 割 する用 途 にも使 用 できる。
それには専用のプラグインを使用する。
そのほかは、図1で示したようなフリップに動画のエフ
ェクトをかける程 度 である。もちろん、パーティクルにつ
3-3-1.AfterEffect を起動し、ドームマスターに外
接するサイズの「コンポジション」(必ず四角形)を作 成
し、さらに同サイズの平面を作成する。(図4)
いても、全天周動 画用ではない。全天 周動 画を作るに
は、3D で情景を配置し、それをある視点から魚眼レン
ズで見るようにしなければならない。それは3D ソフトで
の仕事である。
しかし、ある視点から見る景色は、遠近 法での情景を
広 い範 囲 で描けば、ほぼ同 じものになる。図 2は、ある
点からの 放 射 線 を、 適 当 な視 点 から 見 たものである。
図4.コンポジションに平面を追加する
3-3-2.平面に、「エフェクト」の「パーティクル」を設
定する。(図5)。
パーティクルは、エフェクトのなかの「シミュレーション」
あるいは「Simulation」グループのなかにある。両方ある
図2.ある点から放射する線。
場合もあり、さらに「パーティクルプレイグラウンド」「CC
渡部 義弥
Particle Wolrd」「CC Particle Systems II」などである。
何が入っているかは、AfterEffect のバージョンにもよる
が 、 こ こ で は 設 定 が シ ン プ ル な 「 CC Partigle
SystemsII」を使用する。
図5.「平面」にエフェクト「CC Particle SystemsII」を
適用する。
3-3- 3.「 CC Particle SystemsII 」のパ ラメ ータ を
設定する(図6)。
図6.「CC Particle SystemsII」のパラメータを設定
様々なパ ラメータ があ り、 目移 り する が、 ここで
は、放射状に粒が ひろ が るよ うに した いの で・・・
①放射中心 Producer の座 標を 平 面の 中心 とする
②粒 の動きは 、放 射状 (Explosive)とす る
③重力(Gravity)や抵 抗(Resistance)はなし
④方向(Direction)は 自分 の方 なの で 0 度
⑤粒の形(Particle Type)は面 積 をも たせ たいの
で、Bubble とする
⑥しだい に大きく なる( 近づ いて みえ る )よ うに、
Birth(生成)と Death(消 滅)の サイ ズを 適当に
いじる
といったところが 重要 であ る。
あとは、好み にあ あわ せて 、色 や スピ ード、粒
図7.パーティクルエフェクト を使って出 力された粒 子
放射の画像の一コマ
の大きさ のバリエ ーシ ョン など を いじ れば よい。
このようにし て設 定し たあ とは 、 動画 の長さを
決め、多 数のコマ の静 止画 ファ イ ルと して 出力さ
せるだけ で、粒子 がと んで くる イ メー ジの 全天周
動画が制作できる(図 7 )。アニ メ ーシ ョン を設定
したり、 3Dの設 計を した りす る 必要 はま ったく
ない。非 常に手軽 にや れる のが 特 徴で ある 。
そして、その 結果 をプ ラネ タリ ウ ムの ドームス
クリーン で見ると 、ま さし く、 自 分が 粒子 の流れ
の中にいるような 圧倒 的な 迫力 で 見え た。
ま た、パラ メー タを 適当 に選 択 する と、 放射状
ではなく、大 気粒 子の よう にあ る 場所 をう ろうろ
図 8. 粒 子 の動 きと 大きさ などのパラメ ータをち ょっと
する 多数の粒子を 表現 する こと も でき る( 図8)。
変えてみた。相互の衝突で反発させることもできる。
プラネタリウム番組「オーロラの世界」の演出手法
図8を生 成した。パーティクルのパラメーターは図9の
通りである。粒 子 の生 成 を点でなくエリアにした
4.「文字回転」による演出
(RadiusX と RadiusY)のが最大のポイントである。
4-1.ドームにおいて効果的な文字の提示方法
3.で述べた「パーティクル」は、手軽な全 天周 動画
の制作法として極めて効果 的ではある。しかし、あくま
でランダムに流れや雰囲気を表すエフェクトであり、指
向性をもって何かを提示するには向かない。
一 方、 指 向 性 をもって何かを提 示する 方 法 の 最 右
翼は、 文 字である。 文 字を読むことで、 人 間は 極 めて
明確なイメージを持つことができる。
文 字 の 提 示 法 として一 番 シンプルなのは、フ リップ
である。また、このフリップに、ズームやフェード、バラバ
ラになったものを合体するといったエフェクトを使 うこと
もできる。これは AfterEffect やパワーポイント得意とす
るところで、様々なエフェクトの使い方が、多くの人によ
って提案されている。また、日常的にもテレビや映 画の
タイトル、パワーポイントのプレゼンなどで見ることがで
きる。
しかし、ドームスク リーンでそれを見ても、 意 外 性は
ない。テレビやパソコンプロジェクターで見る日常の風
景となんら変わりがない。
そうした文字を、ドームスクリーンという環境を使 って
効 果 的に 提 示するにはどうすればよいだろうか? 筆
者はいままでスクリプトベースでいくつかの提示のしか
たを実験してきた。
その一つは、スクロールアップである。圧倒的に大き
図 9. 大 気 粒 子 のよ うな表 現 をさせた パーティクルの
な画面を利用し、したから上に、延々とスクロールをす
パラメータ
る。上の方ではフェードして次第に消えていくようにす
るのである。映画「STARWARS」のオープニングで使
3-4.手軽で様々な可能 性があるパーティクル
パーティクルのエフェクトは、複 数 を重ねることも可能
である。また、複数の粒 子の流 れが出 会うような表現も
でき、そ れに よって、 電 子 の 流 れに より 励 起 す る 大 気
粒子といった表現も可能である。
われ、宇宙の時と空間のスケールの大きさを示すのに
使われた手法である。
しかし、これでもまだ大スクリーンで目にするやり方 で
しかない。
そこで思いついたのが、ドームスクリーン全体を使っ
また、途中で、あるいは頻 繁 にパラメーターを変える
た「文字回転」である。これもまた、パーティクル同 様手
こともできる。それによって、たとえば、粒子の生成率を
軽に 行えて効 果 が 大きい。自 分 の 目の 前に 見えてい
変 化 させて、息 をするように粒 子 が 吹 いてきたりといっ
る文字が、ぐるっと、自分の後ろまで回り込むのはドー
たことも可 能 になる。あとにのべる、サウンドシンクをつ
ムや円周状のスクリーンでなければできない体験であり、
かってみるのも効果 的と思われる。
そういう場はめったにないからである。
パーティクルはこのように、使い勝 手がよく、手軽で、
なお、ドームスク リーン 全 体を使 う 方 法としては、 全
効 果 が高 くしかも非 常 に多 様 に使 える便 利 なエフェク
方向に文字(「ようこそ」「Welcome」など多国語でのあ
トである。流れや粒 子を表 現したい場 面で積極 的に使
いさつ)があり、それがズームしながらフェードインする
うと印 象 的 で教 育 的 な全 天 周 動 画 がどんどん制 作で
という演出がある。これは、全天周動画システムのスクリ
きる。そうでなくとも「ワープ」であるとかそういった雰囲
プトのサンプルとしてついてきており、平素の客入れの
気の演出にも有効であろう。
さいに使用している。このエフェクトは、来館者に驚きと
また、パーティクルは一 般 的 な映 像 制 作にも非常に
興奮を引き起こし、さらに、ドームのあちこちを見 るとい
多 用 されており、ノウハウもインターネットなどで盛んに
う行 動を起こさせ、プラネタリウム 鑑 賞の 準 備にもなっ
交換されている。こうしたものも参考になるだろう。
ている。少しの動きだがそれが効果的である。
渡部 義弥
4-1.「文字 回 転」の実際の制 作
「文 字 回 転 」は、事 実 上 「パノラマ回 転 」と変 わらない
4-3-1.文字列への適用
文字列への適用も、これとまったく同じであ る 。
エフェクトで、つまりはパノラマと同 じである。文 字が入
ただ、より細長い画像でないと、縦に延びたおか
った細長い画 像をつくっておいて(図10)、スクリプトで
しな文字画像になってしまう。
パノラマとして表現すれば、実装できる。
DomeXF の 変 形の パ ラ メー タ は 図1 3 の通 り で
ある。
図10.パノラマと同じように文 字が入った細長い画像
これは、いままでも盛 んに行 っているのでミスがない
方 法 ではある。ただ、オフサイトで制 作 をしたかったの
と、文 字 を何 回 も交 換 しながら提 示 したい、さらに、他
の 画 像 も一 緒 に 見 せ たいし、 ある いは 文 字 の 回 転 速
度を細かくコントロールしたいといったこともあり、ドーム
マスターでこれを作りこむことにした。
これ を 実 現 する ため に は 、 ス ラ イ ド ショ ー の 演 出 を
AfterEffect 上 でドームマスターにするプラグインソフト
の、E&S社の Digistar Virtual Projectors Plug-in あ
るいはSKYSKAN社のDomeXFなどが必 要である。
今 回 は 、 64 ビ ッ ト 版 の Digistar Virtual Projectors
Plug-in が入 手できなかったので、DomeXFを使用し
た。
4-3.DomeXFを使ってのプロダクション
元図を用意し 、そ れを ドー ムマ ス ター にあわせ
図13.パノラマ様に文字列を変形させるため の
パラメータ
て変形す るという 形を とる 。図1 1な らび に12。
ここでは、Width を 180.0 度としているが、本来は 360
度である。
ここでは、2枚の同じ図の配置場所を 180 度変えて
使ったためである。これによる図10の文字の変形 結 果
は、図14.の通りである。
図11.パノラマの元図を読み込んだところ
図14.ドームマスター化した文 字 列。同じ 文 字 列 を2
図12.DomeXF でドームマスター用に変形
回使っている。
プラネタリウム番組「オーロラの世界」の演出手法
4-3-2.文字列の回 転
5-1-1.作業の実際
さて、この文字 列をさらに回転をさせたい。それにもD
まず、AfterEffect でコンポジションを設定し、映 像関
omeXFなどのプラグインは便 利である。パラメーターに
係と音 声のファイルを読み込み、両 方ともタイムライン
Rotation というのがあり、これで任意の角 度に回すこと
にのせる。
ができる。現に図14でも、2つの文 字 列のうちひとつは
180度回転させた位 置に配置している。
5-1-2.タイミングマークをいれる
ただ、そのままでは動かない。そこは AfterEffect のタ
音声トラックをフォーカスし、 そのうえで、音楽のみを
イムラインを使い、最 初 は Rotation=0 度 、15秒後に
再生(プレビュー)する。音楽のみの再生は、テンキー
Rotation=180 度というふうにセットしておけばよい。
の.をおすとできる。もちろん映像ごと再生してテストを
間の値は AfterEffect がかってに計算して、動画ファ
イル(連番の静止 画ファイル)を生 成してくれる。このよ
うに、ずいぶんと手 軽 に 「 文 字 回 転 」をドームマスター
にすることができるのである。
してもよいが、そうすると非常に動作が重くなるので、こ
の段階では、この方法がおすすめである。
最 初から 聴きたいときは Alt+. 気になるところを聞
きたいときは Ctrl キーと Alt キーを同時を押しながらト
ラックを動かす(スクラブ)ことで可能である。
4-4.問題点
さて、DomeXFを使 っていて、ひとつ困 ったことがあ
る。どういうわけか、文 字の解 像 度が悪くなってしまうの
である。画面で見 たときはあまり問 題を感 じないのだが、
そうやって音楽を聴きながら「ここぞ」というときにマー
クを入れていく。マークは、テンキーの*を押すことで追
加される(図15)
また、再生するさいに、音楽の波形を表示させておく
これをドームマスターにしてドームに映 すと、一 昔 前の
と、音 楽のもりあがりが、視覚 的に予 想しやすい。これ
プリンター出力のようなギザギザの文字になる。
は L キーを二回打つことで表示される。
アンチエリアシングを文 字にかけることで、なんとなく
ごまかすことはできるのだが、しっかりした解 決 策は な
い。もしかしたら、画 像 圧 縮 などのアルゴリズムの問題
かもしれないが、 追 い込 みができていない。 今 後の 課
題である。
ただ、それを差し引いても、このエフェクトの効 果は高
いものがあった。
図 15. 音 楽を再 生しながら(現 在の再 生 位 置は、 赤
のタテ線)。マークを打っていった様子。
5. サ ウンドシンク
最後の演 出 は全天 周 画 像 に限らないものである。つ
まり、音 楽のきっかけにあわせて、映 像が変 化するとい
う演出で、ここでは「サウンドシンク」という名 称で呼ぶこ
とにする。
5-1-3.タイミングマークにあわせて、AfterEffect 上
で演出を行う。
あとは、トラックの映像 演 出をタイミングマークにあわ
せて行う。たとえば、静止画をディゾルブするタイミング
従来、サウンドシンクを行うためには、耳で音を聞きな
や、パーティクル発生させはじめるタイミングなどを、マ
がら、時 間 をはかり、それにあわせてエイヤと映 像の尺
ークにあわせておこない、ドームマスターなり、ムービー
をいじらなければならなかった。
なりを生成する。
これに対し、アドビ社の Premier のような映像編集ソ
フトは、音楽のきっかけにあわせて、映像シーンが自動
的に切り替わるようなしくみが入っている。
ところが、ドームマスターを作れる AfterEffect には、
そのような仕組みが弱くなっている。
5-1-4.公演環境でタイミングをあわせる。
実際のプラネタリウム番組で全天周動画を使用 する
場合、音声と映像は別々のファイル、別々の PC で再
生される。それらのスタートタイミングは、スクリプトで
また、全天周動画システムでは、音 響と映 像は独立
指定しなければならない。また、厳密にいうと、再 生の
したファイルであり、一 体 のものとして作 ることができな
レートは必ずしも保存されないが、おおむね元のレート
い。そこでちょっとした工 夫 をして、オフサイトで音楽に
のまま だと すると、 スタ ート タ イミン グさ えあ わせれば
映像 をあわせる下準 備 をしておき、現 場 ではわずかな
(それは、スクリプト上で同 時の時 刻にスタートさせれ
調整ですむようにしたので報告する。
ばよいとは限らない、わずかながら前後させて調 整す
作業は次の通りである。
る必要があるかもしれない)。ねらい通りの演出ができ
るはずである。
渡部 義弥
6.まとめ
本 稿 では、全天 周 動 画 システムを使 い、その特徴を
活かして、演出するさいに、
1.オフサイトでほとんどの作業が行える
2.高度なスキルは不要
3.制作に比較的 時間がかからない
4.効果が大きく、よい反応が得られる
演出方法を、3つ「パーティクル」「文 字 回 転」「サウン
ドシンク」紹介した。いずれも2011年 版 の「オーロラの
世界」で使用し、多くの来観 者から好評を博したもので
ある。
全 天 周 動 画 システムは、スクリプトで 画 像 ファ イルを
表示させることもできるので、ともすると「操作しにくいパ
ワーポイント」で、旧 来 のスライドショー、それも手 動で
おこなえていたような演出をすることもできる。
それでも、解説は行えるわけだが、それではドームス
クリーンを使い、全 天 周で映 像を包み込み、疑 似体験
ができる設 備の使 い方としてはもったいない限りである。
本 稿などをヒントにして、全 天 周 を活 かす 様 々な手 法
が試され、より印 象 的 で効 果 的 な投 影 解 説 がなされる
ことを望むものである。
参考 文 献
渡部義弥、北 米 研 修 報 告 2-プラネタリウム用 全天デ
ジタル投 影 コンテンツ制 作 -、2006 年 、大 阪 市立 科
学館研究報告誌 16 号
渡 部 義 弥 、 北 米 研 修 報 告3- 全 天 デジタル投 影コン
テンツ制 作 システムの構 成 提 案 -、2006 年 、大阪 市
立科学館研究報告 誌 16 号
渡 部 義 弥、DSVバーチャリウム2のスクリプトの基 本、
2005 年、大阪市 立科 学館 研 究報 告誌 15 号
渡部 義 弥、『オーロラの世 界 』の映 像 および音 響 の編
集、2005 年、大阪市 立科 学館 研究 報告 誌 15 号