ERM Japan Newsletter 2016 年 10 月 27 日 発行 Headline 土壌汚染対策法の改正について 米国 TSCA 改正 現在、環境省では土壌汚染対策法(以下、土対法)の改正に向けた検 土壌汚染対策法の改正について 海外展開のための日本政府の支援事業 討が進められています。平成 28 年 10 月、中央環境審議会土壌農薬部会 アメリカ合衆国における大統領選と今後の環境政策 土壌制度小委員会は、取りまとめた「今後の土壌汚染対策の在り方について (答申案)」を公表し、現在(11 月 18 日締め切り)この答申案について 米国 TSCA 改正 のパブリックコメントが募集されています。答申案の中で事業者への影響が大き 米国では化学物質管理の主要な法律である TSCA(Toxic Substances いと考えられる項目について以下に説明します。 Control Act)の改正が数年来議論されていましたが、2016 年 6 月に改 正が成立しました。 1.有害物質使用特定施設における土壌汚染状況調査 有害物質使用特定施設が廃止された場合であっても、所轄行政から土地 この改正では既存化学物質の規制の強化や機密に関する運用の厳格化など の利用方法からみて人の健康被害が生ずるおそれがない旨の確認を受けた場 が盛り込まれ、今までの TSCA で課題と考えられていた点の解決が図られてい 合、土壌汚染状況調査が一時的に免除されます。しかし、有害物質使用特 ます。 定施設廃止時の調査では、約5割の土地で土壌汚染が見つかっており、一 事業者への影響が大きいと考えられる改正内容の一つに化学物質インベントリ 時免除中や操業中の事業場において土地の形質の変更や土壌の搬出などが ーへの active/inactive 分類の導入があります。従来はインベントリーに含ま 行われた場合、地下水汚染の発生や汚染土壌の拡散の懸念があります。この れていない新規化学物質の製造輸入について届出が求められていましたが、 ため、土対法第 4 条の調査契機とはならない 3,000 ㎡未満の土地の形質 今後はインベントリーに含まれていても、inactive という分類となっている場合 の変更の場合であっても、一定規模以上の土地の形質の変更を行う場合に は、この化学物質の製造輸入についても届出が求められるようになります。 は、法第4条のように都道府県等に届出を行い、地歴調査により当該土地に Active/inactive 化学物質のリストは米国 EPA(環境保護庁)が、暫定リス おいて使用等 が確認された物質に対し、土壌汚染状況調査を行うべきである トを作成した後、事業者から過去 10 年間に取り扱った化学物質に関する届 とされています。 出を求め、その情報に基づいて正式なリストを作成する予定です。届出内容な どの詳細は今後下位規則により定められます。 2.臨海部の工業専用地域における新たな特例区域 臨海部の工業専用地域であって、地下水の飲用利用等、一般の人の健 また、既存化学物質の禁止や制限などの規制についても、従来の TSCA では 康リスクが低い土地であり、専ら埋立材由来又は自然由来による基準不適合 あまり実施されていませんでしたが、改正された TSCA では規制に向け、明確 土壌が広がっており、かつ、特定有害物質による人為由来の汚染のおそれがな な手順が規定されました。この手順では化学物質を優先付けし、優先順位の いか、少ない土地については、特例を設けることとし、新たな区域(以下「新区 高い化学物質についてリスク評価を実施し、リスク評価の結果でリスクが高い判 域」)への指定を可能とすべきであるとされています。新区域については、土地 断されたものについては規制を課すこととなっています。リスク評価を実施する化 の形質変更などの自主管理方法をあらかじめ都道府県等と合意して実施する 学物質の数についても定められておりますので、今後既存化学物質への規制 代わりに、都度の事前届出(法第4条、第 12 条)を不要とし、土壌汚染 は従来よりも強化されるものと考えられます。 の状況を適切に管理する上で最低限必要な情報を年1回程度の頻度でまと めて事後に届出を行うこととされています。 日本企業への影響 3.自然由来、埋立材料由来基準不適合土壌の取り扱い 日本企業で米国への化学物質の輸出や、米国拠点での化学物質の製造を 現行の土対法では、自然由来又は埋立材料由来の基準不適合土壌にお 実施している場合は、今後製造輸入物質に inactive 物質が含まれていない いても、人為由来と同様に汚染土壌処理施設での処理が求められています。 か確認を実施することが必要となります。特にサプライヤーから提供された化学 また、自然由来土壌は、地質的に同質な地域では面的な広がりがありますが、 品を米国へ輸出している場合は、サプライヤーに対して inactive 物質が入って 近隣の同様の自然由来特例区域への搬出も制限されており、仮置きも活用 いないことの確認を実施することが必要になるかも知れません。このほか、今後 もできないという課題がありました。これについて、自然由来特例区域間及び埋 下位規則が定められる過去 10 年に取り扱った化学物質の届出についても抜 立地特例区域間の土壌の搬出等を可能とすることや、一定の条件を満たした け漏れなく対応するため、下位規則の制定動向等を注視することが推奨され 工事での活用及び水面埋立利用を可能とすることが提案されています。 ます。また、既存化学物質の規制についても今後進捗が見込まれます。米国 で化学物質を取り扱っている場合には、規制に対して戦略的に対応出来るよ う、どのような物質について規制が検討されているのか、定期的に確認すること が推奨されます。 日本企業への影響 現段階では「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申案)」が公表 されたのみであり、省令や施行規則の改正案はまだ固まっておりませんが、答申 (高村 比呂典) 案から判断すると、事業者側への影響として以下が考えられます。 ERM 日本株式会社 〒220-8119 横浜市西区みなとみらい 2-2-1 横浜ランドマークタワー 19 階 Tel: 045-640-3780 Fax: 045-640-3781 e-mail: [email protected] URL: www.erm.co.jp ERM Japan Newsletter 2016 年 10 月 27 日 発行 1.一時免除中や操業中であっても、新たに土壌汚染調査の契機が発生 する可能性が考えられます。 海外展開のための日本政府の支援事業 平成 28 年 5 月に安倍首相より発表された、”質の高いインフラ輸出拡大イニ 2.低リスクの臨海部の工業専用地域では、土地の形質の変更における規 制が緩和される可能性が考えられます。 シアティブ”(5 年間でインフラ分野へ約 2000 億ドル資金供給)、同月環 太平洋パートナーシップ(TPP)協定署名・「和食」のユネスコ無形文化遺産 3.自然由来、埋立材料由来の基準不適合土壌について、仮置きや有効 活用に対する規制が緩和される可能性が考えられます。 登録等を契機として農林水産省が発表した”農林水産業の輸出力強化戦 略”(平成 31 年までに農林水産物・食品の輸出額目標 1 兆円(平成 27 この他、答申案には、法第4条の届出及び調査に係る手続の迅速化、要措 年は 7451 億円))、平成 27 年 11 月に閣議決定された”気候変動の影 置区域等における土地の形質の変更の施行方法の緩和、認定調査の合理 響への適応計画” に基づく途上国支援、 現在環境省及び経済産業省で討 化などが含まれており、将来の土地利用を考える上で、改正案の詳細やその 議中の 2050 年に向けた気候変動に係る長期戦略策定に向けた議論等、 施行時期を今後注視していくことが推奨されます。 政府の戦略に基づいた支援事業が強化されています。日本政府や関連団体 (熊本 将志) は、こうした政府戦略への貢献が期待される国内の大企業・中小企業の優れ た製品・技術力を途上国の開発に活用することで、開発のみならず、企業振 興や地方及び国内経済の活性化につなげることを重要施策の一つとして位置 アメリカ合衆国における大統領選と今後の環境政策 づけ、様々な環境ビジネスについて基礎調査や実現可能性調査、補助事業 現在、全米が注目する次期大統領選においては、各候補者から数多くのさ 等の支援事業を行っています。優れた技術やサービスノウハウを持ち、海外展 まざまな政策が掲げられており、その中には環境政策も含まれます。環境政策 開に活かしたい企業には、これら支援事業を用いることを考慮されることをお勧 は、アメリカ国民にとって検討すべき多くの事項の一つにすぎませんが、2 大政 めします。 党の候補者であるヒラリー・クリントン前国務長官とドナルド・トランプ氏は、アメリ カ合衆国における気候変動とエネルギー問題に関して、全く異なるアプローチを 民間企業が、政府支援を活用して海外展開される際に、ERM は下図の支 示しています。 援を行っています。政府支援金は、ERM 等コンサルタント活用の費用負担へ クリントン前国務長官が選出された場合、アメリカで現在実施されている政 ERM 日本による支援例 適用でき、人的支援への活用も可能です。 策は、「パリ協定」への貢献支持を念頭に、継続、または拡大されることになりま す。これは、クリーンエネルギー技術のための財源拡大を含みます。加えて、クリ ントン氏は、アメリカが石炭エネルギーから脱却できるよう、これまで鉱山を主な 産業としていた町に投資を行うためのイニシアティブを提案しています。 一方、ドナルド・トランプ氏が選出された場合、クリントン氏の環境政策とは 対照的に、アメリカは現在の環境政策からの劇的な変化に直面することになり ます。トランプ氏は、「パリ協定」への批准からの脱却を検討しており、アメリカに おけるエネルギー源として引き続き石炭を活用し、環境保護庁 (USEPA: US Environmental Protection Agency)を解体する計画を提案しています。 クリントン氏及びトランプ氏の環境政策の詳細については、両候補者のウェブ サイトにて閲覧することが可能です。(www.hillaryclinton.com 及び 日本企業への影響 www.donaldtrump.com) 政府支援事業を活用することで日本国企業が得られるメリットは、①ビジネス 日本企業への影響 開拓費用(情報収集、ネットワーク構築、事業化計画策定に係る必要等) アメリカの政策は国際的な環境政策のトレンドに与える影響が大きいため大 の援助、②相手国とのネットワーク構築の援助(日本政府や関係団体からの 統領選の結果及びその後の環境政策の動向に留意する必要がありますが、 紹介、日本政府事業による現地国パートナーとの関係構築の築きやすさ等) 1997 年に採択された京都議定書は発効までに 7 年程度かかったものが、昨 が考えられます。資金・人的支援を受けることができる政府支援スキームは、自 年度発行されたパリ協定は採択から 11 ヶ月で発効に至ったように、世界の動 社の製品・技術を活用して海外展開しようとする日本国企業にとって、利用価 向はより“グリーン”な方向へと軸足が移行してきているように思われます。また、 値の高いものといえます。具体的には、JICA、環境省、経済産業省、農林水 その変化のスピードは今後も加速する可能性があるため、大統領選や COP な 産省等多様な政府支援事業がございます。詳細は、お問い合わせ下さいませ。 どの各イベントの成果・結果による影響を注視すると共に、中・長期的なビジネ (高橋奈央子) ス戦略を適宜見直すことを検討することが求められます。 (レベッカ・グリーン) ERM では、弊社ホームページに人材の募集情報を掲載しています。 URL: www.erm.co.jp Newsletter 全般に関するお問い合わせ [email protected] 次回の Newsletter は、2017 年 1 月 26 日頃発行予定となります。
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