ロンドンのロードプライシング

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ロンドンのロードプライシング
堀内重人
ロードプライシング実現までの経緯
ロンドンは、2003 年2月 17 日からロードプライシングが実施されたが、それ
以前は慢性的な道路交通渋滞に悩んでいた。1997∼2000 年のピーク時における平
均速度は 13km/h しかなく、東京都区部の 17.5km/h(1997 年)を下回り、バンコク
と同レベルであった。ロンドンでは、1991 年 11 月に混雑料金調査計画として、
M25環状高速道路内における交通混雑への課金の是非と実現可能性について検
討を開始する。それを踏まえ英国下院の交通委員会は、ロードプライシング実施
の可能性とその効果及び問題点について審問を実施した。1995 年に『都市のロー
ドプライシング』と題して報告書が公表された。報告書では、
「最終的な結論を出
すには、より多くの実験や調査が必要である」とされたが、ロードプライシング
に対する関心と理解が深まる。その当時の世論調査では、ロンドン市民の7割が
「公共交通問題の改善」を挙げ、在ロンドン企業経営者の5割が、ロンドンでビ
ジネスを行う場合、道路交通渋滞が問題であると回答している。
1997 年に道路交通削減法の成立により、従来の交通需要予測に見合うだけの道
路を供給する政策から、交通需要を予測し、需要と供給を調整して交通混雑やそ
れに伴う汚染を防止する政策へ変わる。そして同年に発足したブレアー首相率い
る労働党政権により、ロードプライシング導入に向けた更なる前進が図られた。
1998 年に「交通新政策」と題する交通新書で道路利用者課金の試行が決定され、
翌年には大ロンドン法が成立する。この法律では、特定地域における自動車に対
する課金の権限が、ロンドン市長に与えられる。
「ロンドンにおける道路利用者課
金政策」をまとめた ROCOL Report が、2000 年3月に発表される。2000 年5月の
ロンドン市長選挙において、ロードプライシング推進派のケン・リビングストン
氏が初代の公選のロンドン市長に当選すると、ROCOL Report で検討されている課
金システムの中で、2002 年2月にデジタルカメラを用いた監視によるALSを、
2003 年2月 17 日から実施することを決めた。
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ロードフライシングの詳細
ロンドンでは、シンガポールと同様にALSが導入された。課金区域は、セン
トラルロンドンと呼ばれる半径4∼5km のエリアであり、インナー環状道路を境
界線としている。境界線上にビデオカメラが設置され、通過する自動車のナンバ
ープレートを識別するシステムが採用された。
環状道路内のエリ*********アの面
積は、東京都港区とほぼ同じ約21*****あり、官庁街や金融街、バッキンガム宮
等が点在するロンドンの中心地であると同時に、ロードプライシングを実施して
いる区域としては世界最大である。
課金時間は、
平日の AM7:00∼PM6:30 まで実施され、
土日・祝日は実施されない。
対象車種及び料金は、このエリアに侵入するタクシーや二輪車及び緊急自動車を
除く自動車であり、全車種一律に 1 日5ポンド(約 1,000 円)の通行料が徴収さ
れる。
当初 2000 年7月に公表された市長案では、
貨物車は 15 ポンドであったが、
意見を募集した後、貨物車への割増しはなくなり、乗用車と同額となる。
例外として、課金区域内の居住者は9割引となり、定員9名以上のバスや警察・
消防・救急車及び軍用車両等は申請すれば免除となる。
LPG車及び電気自動車、
故障車修復車両は免除されるが、年間10ポンドの登録手数料が必要である。
課金方式であるが、
課金区域内で車両を運転するドライバーは、
課金を支払い、
車両ナンバーをロンドン交通庁のデータベースに登録した後、電話、郵送、イン
ターネット、小売店、ガソリンスタンドのカウンター等で支払うことが可能であ
る。また1週(5課金日)25 ポンド、1月(20課金日)100 ポンド、1年(2
52課金日)1,260 ポンドという支払い方法もあり、3ヶ月前から当日の午後 10
時までの事前支払いが原則である。当日の PM10:00∼12:00 までに支払う場合、課
金額は 10 ポンドに割増される。
ロードプライシングの影響と市民の反応
ロードプライシング導入による影響であるが、実施前から課金地域の交通量が
10∼15%減少することが予想されていた。
日本経済新聞 2003 年6月 13 日の夕刊に
よると、実施後は交通量が16%減少し、中央部を走行する車の平均時速は、実
施前より約3割向上して 17km/h となったと報告している。
道路交通渋滞の減少に
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対し、行政サイドは効果に満足している。料金を支払う市民にも、目的地までの
時間の予測が可能となり、
概ね好評であるが批判もある。
ロンドンは物価が高く、
代替手段となる地下鉄初乗り運賃 1.6 ポンド(約 320 円)は、東京の営団地下鉄
の 160 円と比べ倍という状況である。それにも拘わらず、1 日5ポンドは高すぎ
るという声が多い。そして違反に対するペナルティーも高い。各所に設置された
固定式デジタルカメラ及び移動式デジタルカメラが、課金区域内を走行する車両
のナンバープレートを読み取り、支払・登録がなされていない車両をチェックし
て、取り締まる仕組みになっている。違反者には 80 ポンド(約 16,000 円)の罰
金が科される。但し、2週間以内に支払えば、罰金は40ポンドに軽減され、反
対に4週間を超えても支払わなければ、罰金は 120 ポンドに割増される仕組みで
ある。更に3回以上の未支払いがある車両が発見された場合は、輪留又は撤去の
措置が採られる。
ビデオカメラでナンバープレートを読み取る仕組みであるが、ビデオカメラの
性能が悪く解像度が低いために、ナンバープレート上の「B」と「8」の誤認が
後を絶たない。1 度もロンドンの課金エリアに入ったことが無い車に課金される
トラブルが多発して、不評のようである。ETCのような技術を使わなかったこ
とが、裏目に出てしまう結果となった。
自家用車の使用の減少から、地下鉄が混雑するようになったが、タクシー利用
者は増加するという予想に反して殆ど増えていない。課金エリアからすぐ外れた
駐車場が常に満杯になり、料金支払の期限である PM10:00 前になると、電話で支
払いを済まそうとする人で回線が繋がり難くなる現象が生じている。
ロンドンのロードプライシングは、5ポンドという高めの料金設定とビデオカ
メラによるナンバープレートの読み取りを実施したことから、目覚しい成果を上
げている。だが徴収されたお金が政府の金庫に入ることから、公共交通のサービ
スの充実を図るなど、ロンドン市民に対する還元も実施する必要がある。
参考文献
1)山田浩之「ロード・プライシングの適用性・受容性」
『高速道路と自動車』
2000 年 11 月号
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2)「ロンドン通行料導入4ヶ月」
『日本経済新聞』2003 年月6月 13 日夕刊
3)海外事例(ロンドン)
「ロンドンの混雑課金制度」
http://w w w.kankyo.m etro.tokyo.jp/jidousya/roadpricing/london1.htm
4)シンガポールとロンドン
http://w w w.kankyo.m etro.tokyo.jp/jidousya/roadpricing/syoko-kaigai1.htm
5)業務内容紹介「地下鉄PPPとロードプライシングの導入−都市交通問題の
解決を目指すロンドンの取り組み−」
http://w w w.dbj.go.jp/japanese/business/japan/report/london/037.htm l
6)auto-ASCⅡ「
『ロンドン渋滞料金』博物館のクルマにも課金!?」
http://w w w 3.autoascii.jp/issue/2003/0319/article23484_1.h tm l
7)auto-ASCⅡ「
『ロンドン混雑料金』市長退陣要求サイトまで出現」
http://w w w 3.autoascii.jp/issue/2003/0319/article23501_1.htm l
8)auto-ASC「
『ロンドン渋滞料金』地元の声、渋滞は半分に減った。しかし」
http://w w w 3.autoascii.jp/issue/2003/0318/article23425_1.htm l
9)auto-ASCⅡ「
『ロンドン渋滞料金』地元の声、1 日 1000 円では…」
http://w w w 3.autoascii.jp/issue/2003/0318/article23451_1.htm l
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