業界トピックス (Vol.12) - 富士ゼロックス情報システム株式会社

C-CAST
CORPORATION
業界トピックス
(Vol.12)
株式会社 シ-・キャスト
代表
荻原
健一
既存システムのバリデーション要求が高まる!
-回顧的 CSV への対応は?-
1.概要
平成22年10月に発出された厚労省の「コンピュータ化システム適正管理ガイドライン」は、お
よそ1年半の経過処置期間も終わり昨年4月1日から施行されている。
これに伴って、各都道府県のGMP適合性調査等でコンピュータ化システムのバリデーション
(CSV)の調査が強化されている。北陸のある製薬企業では、従来はCSVに関する調査はほとんど
行われなかったが、昨年行われた県による査察では、丸1日におよぶCSV調査が行われたという。
また、この中で特に注目すべき点は、回顧的CSVの取り組みに対する指導が厳しくなっている点
である。上記の製薬企業では県の指摘により予め計画していた作業予定を数回にわたって前倒し
するよう指導されている。
これらの背景には厚労省のPIC/S加盟に向けた取組みが大きく影響していると考えられる。
2. PIC/S ガイダンスにおける「回顧的 CSV」
一般的にコンピュータ化システムやそれらが内蔵されている設備・機器のCSVは、システムの導
入時に行う。これを通常は「予測的バリデーション」と呼んでいる。 しかし、何らかの理由で
CSVがなされていないままシステムを稼働させている場合が問題となっている。
PIC/Sのコンピュータ管理指針である「GOOD PRACTICES FOR COMPUTERISED SYSTEMS IN
REGULATED“GXP” ENVIRONMENTS」では、システムの稼動後に行うCSVの取り組みを「Retrospective
validation(回顧的バリデーション)」と定義している。この第16章において下記のように警告
している。(図.1)
16.製薬企業は,不十分にしか文書化されていない既存のコンピュータ化システムを継続的に
使用する場合には、正当なものと証明することが必要である。
16.1 現在稼働中のシステムは,満足かつ信頼性高く動作しているかもしれない。
しかしながら,それらをバリデーション要件から除外するものではない.
システムの回顧的バリデーション行うことで、バリデーションの確証を提供することである.
GxPs は,もう何年もの間,コンピュータ化システムのバリデーションを要求してきた.
それゆえ,予測的バリデーションの確証が不足していることは、多くの規制当局によって
1/3
C-CAST
CORPORATION
GxPsからの深刻な逸脱と見られることに注意しな
ければならない。
また、厚労省の新ガイドラインではPIC/Sガイダンス
との整合性のため、
「総則」の「1.2 コンピュータ化シス
テムの取扱い」に下記の要件が記載されている。
「なお、このガイドラインの適用日以前に開発又は運
用が開始されているシステムであって、
「コンピュータ使用医薬品等製造所適正管理ガイド
ライン」に示された方法又はそれに代わる
適切な方法で開発、検証及び運用等が行われていないシ
ステムについては、当該システムの適格性を確認する必
要がある。 」
図.1
PIC/Sガイダンスの表紙
3. GAMP GPG における「既存システムのバリデーション」
一方、コンピュータバリデーションに取り組む国際的な団体である「GAMPフォーラム」からは
GAMP4やGAMP5の他に多くのコンピュータバリデーションに関連するGPG(Good Practice Guide:
実践規範ガイド)が発行されているが、この中の一つである「The Validation of Legacy System」
では、バリデーションが求められる稼働中のシステムを「Legacy System」と定義している。
「The Validation of Legacy Systems(既存システムのバリデーション)」では次のように述
べている。
「レガシーシステム」に関する正式な定義はないが、本GAMP Good Practics Guideの主旨に従え
ば、レガシーシステムとは設置されて使用されている全てのGxP関連システムで、かつ最新の規制
要件を満足していないと見なされるものである。
どのような状況でも、バリデートされていない新規システムを導入することは許されない。レガ
シーシステムのバリデーションは「予測的バリデーションとは異なり、また新システムに対する
オプションでもない」
4.既存システムの回顧的バリデーションの取り組み
既存システムにおける回顧的バリデーションのポイントをまとめると以下の通りとなる。
・ 既に稼働中のシステム
・ バリデーション証拠としてのドキュメントが不十分、あるいは存在しない
・ 最新の規制要件などを満足していない
バリデーション証拠としてのドキュメントに問題があれば、稼動上では問題のない既存システ
ムであっても、規制上の不適合としてその使用が禁止される可能性もある。そのようなシステム
2/3
C-CAST
CORPORATION
は下記のような問題が考えられるため、それを使用し続けることは潜在的リスクを抱えることに
なり危険である。
・ システムの適正稼動をドキュメントで証明できないため、製品品質が適正であることを保証
できない
・ トラブル発生時にシステムの正しい内容がドキュメントで確認できないため、修復すること
が困難であったり、過大な時間を要することになる
・ ドキュメントが最新でないため、増改造時に旧い情報をもとに不適切な作業を行なう可能性
がある
既存システムに対するバリデーションアプローチは、システムが適正な状態にあることを保証
するための活動となるだけではなく、下記のようなメリットが考えられる。
・ システムが使用目的に合致しており、規制面とビジネス面の両面から見て適切であることの
実証
・ システムのオペレーションが適正であり、手順通りに操作されていることの実証
・ システム増改造を含む変更管理のための最新状態ドキュメントの整備
・ 保守契約条件を見直すことによるメンテナンスコストの削減
5. 終わりに
既存システムの回顧的バリデーション活動で作成される成果物ドキュメントは、新規システム
開発時のバリデーション活動で作成されるドキュメントと基本的には変わりはない。異なるとこ
ろは既に稼動しているシステムに関するドキュメントを後から作成するプロセスが含まれること
である。GAMPではGood Practice Guideにてそのアプローチが解説されている。
また、厚労省の新ガイドラインにおいて「システム台帳」の作成が求められている。多くの製
薬企業ではシステム台帳の作成でCSVの取組みが終わったと考えている向きもあるが、システム台
帳の作成は新たな取組みのスタートである。
システム台帳の中で自社にとって重要なシステムやカテゴリ5のシステムから、CSVで求められ
ている活動やそのエビデンスが十分であるかを見直す取組みが不可欠である。
これが「回顧的バリデーション」の第一歩である。
以上
3/3