お年玉の経済学

平 成 18 年 度 卒 業 論 文
お年玉の経済学
所属ゼミ
村 澤 ゼ ミ
学籍番号
1013020542
氏
中原雄一郎
名
大阪府立大学経済学部
要約
贈 り 物 は 品 物 で 贈 る こ と が 多 い 。も ら う 側 に と っ て は 現 金 が 効 率 的 で あ る が 、
贈る側にとっては品物で相手への理解を伝えたい。したがって、親しい関係で
は特に品物を贈る。しかし例外的に、親しい関係でもお年玉は現金で贈る。
実は、かつてはお年玉を品物で贈っていた。本論文ではお年玉を現金で贈る
ようになったのは、クリスマス・プレゼントの普及が原因であることを指摘す
る。短期間に 2 度も品物を贈るのは非効率なので、クリスマス・プレゼントに
は品物を、お年玉には現金を贈るようになったのである。
既存のアンケート調査によって、①親が高い割合でクリスマス・プレゼント
を贈っていること、②子供はクリスマス・プレゼントで欲しいものをもらうの
でお年玉には欲しいものがなくなっていることが確認できた。
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目次
第 1章
は じ め に ........................................................................................... 4
第 2章
贈 り 物 の 経 済 学 ................................................................................ 5
1.
な ぜ 贈 り 物 を す る の か ......................................................................... 5
2.
な ぜ 品 物 で 贈 る の か ............................................................................ 5
3.
シ グ ナ リ ン グ ・ モ デ ル に よ る 説 明 ....................................................... 6
第 3章
贈 り 物 と 人 間 関 係 ........................................................................... 10
1.
ア メ リ カ の デ ー タ .............................................................................. 10
2.
日 本 の デ ー タ ..................................................................................... 11
第 4章
お 年 玉 の 経 済 学 .............................................................................. 13
1.
お 年 玉 と 人 間 関 係 .............................................................................. 13
2.
お 年 玉 と ク リ ス マ ス ・ プ レ ゼ ン ト ..................................................... 14
第 5章
お わ り に ......................................................................................... 17
参 考 文 献 ........................................................................................................ 18
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第 1章 は じ め に
贈 り 物 は 品 物 で 贈 る こ と が 多 い 。も ら う 側 に と っ て は 現 金 が 効 率 的 で あ る が 、
贈る側にとっては品物で相手への理解を伝えたい。したがって、親しい関係で
は特に品物を贈る。しかし例外的に、親しい関係でもお年玉は現金で贈る。
実は、かつてはお年玉を品物で贈っていた。本論文ではお年玉を現金で贈る
ようになったのは、クリスマス・プレゼントの普及が原因であることを指摘す
る。短期間に 2 度も品物を贈るのは非効率なので、クリスマス・プレゼントに
は品物を、お年玉には現金を贈るようになったのである。
既存のアンケート調査によって、①親が高い割合でクリスマス・プレゼント
を贈っていること、②子供はクリスマス・プレゼントで欲しいものをもらうの
でお年玉には欲しいものがなくなっていることが確認できた。
本論文の構成は次の通りである。第 2 章で贈り物を品物で贈る理由をシグナ
リング・モデルによって説明し、第 3 章でシグナリング・モデルの根拠となる
データを明示する。そして第 4 章でクリスマス・プレゼントの影響を示すこと
によってお年玉を現金で贈る理由を明らかにする。第 5 章では今後の課題につ
いて述べる。
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第 2章 贈 り 物 の 経 済 学
1.
なぜ贈り物をするのか
van de Ven (2000) は 贈 り 物 を す る 理 由 を 挙 げ て 、 ① お 互 い に 贈 り 合 う こ と や
一方的に贈ること、②現金を贈ることや品物を贈ること、を説明できるかどう
かを検討している。
(1)
物々交換
原始的な社会では品物を贈り合うことによって、欲しいものを手に入れてい
た。しかし、貨幣が普及した現在では現金を贈ることによって、欲しいものを
手に入れる。欲しいものを手に入れるために品物を贈り合うことは非効率的で
ある。
(2)
利他心
もし利他心を持っているのであれば、贈り物をすることによって幸せになる
ことができる。しかし、利他心を根拠に、品物を贈ることは説明できない。も
らう側にとっては欲しかったものと異なるなど、品物は非効率的である。もら
う側にとっては現金が効率的である。現金であれば、自分で欲しいものを手に
入れることができる。したがって、利他心を持っているのであれば、現金を贈
るはずである。
(3)
公平化
もし裕福な人が、貧しい人との格差を減らしたいのであれば、貧しい人に贈
り 物 を す る こ と に よ っ て 格 差 を 減 ら す こ と が で き る 。し か し 、公 平 化 を 根 拠 に 、
お互いに贈り合うことや品物を贈ることは説明できない。格差を効率的に減ら
したいのであれば、一方的に、もらう側にとって効率的な現金を贈るはずであ
る。
2.
なぜ品物で贈るのか
Landsburg (1993, p. 19) に よ れ ば 、贈 り 物 を 品 物 で 贈 る の は 相 手 を 理 解 し て い
ることを伝えたいからである。人間関係において、相手を理解していることが
伝われば相手は心を開く。ただし、いくら相手を理解している気になっていて
も、相手に知られていなければ意味がない。そこで、どうにかして相手を理解
5
していることを伝えようとする。
贈り物を品物で贈ることによって、相手を理解していることを伝えることが
できるかもしれない。もし相手の欲しいものが、相手を理解していなければ選
ぶことができない特殊なものであれば、それを贈ることによって相手を理解し
ていることを伝えることができる。欲しかったものをもらった相手は、自分を
理解してくれていることを実感するので心を開く。こうして、相手を理解して
いる人は相手から心を開いてもらうことになる。このように、相手にシグナル
(合 図 ) を 送 る こ と に よ っ て 、自 分 の 立 場 を よ り 好 ま し い も の に し よ う と す る 行
動をシグナリングという。
3.
シグナリング・モデルによる説明
シ グ ナ リ ン グ ・ モ デ ル に よ っ て 教 育 を 分 析 す る 伊 藤 (2003) の 論 文 を 用 い 、
前節の内容を分析する。相手を理解している人をタイプ 1 とし、相手を理解し
ていない人をタイプ 2 と仮定する。説明を簡略化するためにタイプは 2 種類の
み と す る 。 図 2-1 の よ う に 、 [0, 1] の 間 に 一 様 に 分 布 し て い る と し 、 タ イ プ 1
の シ ェ ア を α 、 タ イ プ 2 の シ ェ ア を 残 り の (1 − α ) と す る 。
図 2-1
タイプの分布
タ イ プ 1 に 対 し て 相 手 が 示 す 態 度 を w1 と し 、タ イ プ 2 に 対 し て 相 手 が 示 す 態
度 を w2 と す る 。自 分 を 理 解 し て く れ て い る 人 に は 心 を 開 く の で 、 w1 と w2 は 、 w1
> w2 と い う 関 係 に あ る 。
人間関係において、相手を理解していることをシグナルすることができれば
相手は心を開く。ただし、タイプ 1 がいくら相手を理解している気になってい
ても、相手に知られていなければ意味がない。タイプに関する情報が知られて
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い な い 状 況 で は 、相 手 は 平 均 的 な 態 度 を 示 す 。平 均 的 な 態 度 w
pool
は 、次 の 通 り
である。
w pool = α w1 + (1 − α ) w2
w1 と w2 と w pool は 、 w1 > w pool > w2 と い う 関 係 に あ る 。
タ イ プ 1 は 、ど う に か し て 相 手 を 理 解 し て い る こ と を シ グ ナ ル し よ う と す る 。
贈り物を品物で贈ることによって、相手を理解していることをシグナルするこ
とができるかもしれない。もし相手の欲しいものが、相手を理解していなけれ
ば選ぶことができない特殊なものであれば、それを贈ることによって相手を理
解していることをシグナルすることができる。
品物を選ぶのにかかる費用は、相手の欲しいものが特殊であればあるほど上
昇する。相手の欲しいものが、誰でも欲しがるような一般的なものであれば品
物を選ぶのは簡単であるが、特殊なものであれば品物を選ぶのには苦労する。
その特殊さの程度を a と表す。タイプ 1 が特殊さ a の品物を選ぶのにかかる費
用 は c1a で あ り 、タ イ プ 2 が 特 殊 さ a の 品 物 を 選 ぶ の に か か る 費 用 は c2 a で あ る 。
こ こ で c1a < c2 a と い う 関 係 が 重 要 で あ る 。 つ ま り 、 タ イ プ 1 ほ ど 品 物 を 選 ぶ の
にかかる費用は低く、タイプ 2 ほど品物を選ぶのにかかる費用は高いという関
係である。
タイプ 1 は、品物を選ぶ費用をかけてでも、相手に心を開いてもらうほうが
い い と 判 断 す る な ら ば 、 品 物 で 贈 る こ と を 選 択 す る 。 つ ま り 、 w1 か ら c1a を 引
いた利潤が、 w
pool
よ り 高 い な ら ば 、品 物 で 贈 る こ と を 選 択 す る 。タ イ プ 1 が 品
物で贈ることを選択する条件は次の通りである。
w1 − c1a > w pool
(1) 式 の 条 件 が 等 式 で 成 立 す る 状 況 に お け る 、 a を a
a max =
(1)
max
とする。
w1 − w pool
c1
こ の よ う な 状 況 を 図 に 表 す と 、図 2-2 の よ う に な る 。図 2-2 に お い て 、 (1) 式
の条件は、 a が a
max
よりも低いことを意味している。 a が a
タイプ 1 は品物で贈る。 a が a
max
max
よりも低ければ、
よりも高ければ、タイプ 1 は現金で贈る。
ただし、 a が低ければ、タイプ 2 も品物で贈ることができる。タイプ 2 も品
物で贈れば、タイプを識別することができなくなる。タイプ 2 は、品物を選ぶ
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費用をかけてでも、タイプを識別できなくするほうがいいと判断するならば、
品物で贈ることを選択する。つまり、 w
pool
か ら c2 a を 引 い た 利 潤 が 、 w2 よ り 高
いならば、品物で贈ることを選択する。タイプ 2 が品物で贈る条件は次の通り
である。
w pool − c2 a > w2
(2) 式 の 条 件 が 等 式 で 成 立 す る 状 況 に お け る 、 a を a
a min =
(2)
min
とする。
w pool − w2
c2
図 2-2 に お い て 、 (2) 式 の 条 件 は 、a が a
min
よりも低いことを意味している。
a が a min よ り も 低 け れ ば 、タ イ プ 2 も 品 物 で 贈 る 。 a が a min よ り も 高 け れ ば 、タ
イプ 2 は現金で贈る。つまり、 a が a
min
よりも低ければ、タイプ 1 もタイプ 2
も品物で贈る。したがって、贈り物からはタイプを識別することができない。
また、 a が a
max
よりも高ければ、タイプ 1 もタイプ 2 も現金で贈るので、贈り
物からはタイプを識別することができない。このように、タイプ 1 もタイプ 2
も同じシグナルを送るためにタイプを識別することができない状況を、混在型
均衡という。
もし、 a が a
min
とa
き る 。な ぜ な ら 、 a
min
max
の間にあれば、贈り物からタイプを識別することがで
とa
max
の 間 に お い て は 、タ イ プ 1 は 品 物 で 贈 り 、タ イ プ 2
は現金で贈るからである。このように、タイプ 1 とタイプ 2 が異なるシグナル
を送るためにタイプを識別できる状況を、分離型均衡という。分離型均衡が成
立する条件は次の通りである。
w pool − w2
w1 − w pool
< a<
c2
c1
このように、シグナリング・モデルによって、贈り物を品物で贈る理由を説
明することできる。
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図 2-2
シグナル均衡
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第 3章 贈 り 物 と 人 間 関 係
1.
アメリカのデータ
Waldfogel (2002) の 調 査 に よ っ て 、 シ グ ナ リ ン グ ・ モ デ ル の 根 拠 と な る デ ー
タが明らかになっている。品物で贈ることと相手を理解していることとの間に
は 相 関 関 係 が あ る こ と を 観 察 で き る 。表 3-1 は 、1993 年 に も ら っ た ク リ ス マ ス・
プレゼントについて、アメリカの大学生を対象にした調査結果である。人間関
係別に、もらった贈り物に占める品物の割合、およびもらった品物の適切さを
示している。
表 3-1
人間関係別
贈り物に占める品物の割合および品物の適切さ
すべての贈り物
品物による贈り物
人間関係
品 物 の 割 合 (%)
総 数 (人 )
適 切 さ (%)
総 数 (人 )
大切な人
98.1
210
101.9
206
友人
98.0
342
90.6
335
兄弟姉妹
94.8
384
98.8
364
親
92.2
1,011
96.6
932
親戚
64.3
235
80.4
151
祖父母
40.8
218
74.5
89
合計
86.5
2,400
94.4
2,077
出 所 : Waldfogel (2002)
適切さとは、もらった品物の市場価格と、もらった品物に対する支払意思と
の比率である。
適切さ =
支払意思
市場価格
も ら っ た 品 物 の 適 切 さ が 100%を 超 え て い れ ば 欲 し か っ た 品 物 で あ り 、 100%
を下回っていれば欲しかったものとは異なる品物である。つまり、適切さは、
相手を理解していることの指標となる。
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品物の割合と適切さを比較すると、品物の割合と適切さとの間には相関関係
があることがわかる。大切な人から祖父母にかけて、品物の割合が低くなるに
つれて適切さも低くなっている。言い換えれば、品物で贈る割合が低くなるに
つれて、相手への理解が低くなっている。つまり、品物で贈ることと相手を理
解していることとの間には相関関係がある。この相関関係は、シグナリング・
モデルの根拠となる。
人間関係によって品物の割合を比較すると、差が大きいことがわかる。大切
な 人 は 98.1%、友 人 は 98.0%、兄 弟 姉 妹 は 94.8%、親 は 92.2%と 高 い の に 対 し て 、
親 戚 は 64.3%、 祖 父 母 は 40.8%と 低 く な っ て い る 。 大 切 な 人 や 友 人 や 兄 弟 姉 妹
や親は品物で贈る人の割合が高く、親戚や祖父母は品物で贈る人の割合が低い
ことがわかる。品物で贈ることと相手を理解していることとの間には相関関係
があるが確認できたので、以下のことを導くことができる。つまり、大切な人
や友人や兄弟姉妹や親は相手を理解している人の割合が高く、親戚や祖父母は
相手を理解している人の割合が低い。
2.
日本のデータ
日本においても、人間関係によって贈り物を品物で贈る割合には差がある。
表 3-2 は 、1980 年 に も ら っ た 誕 生 日 プ レ ゼ ン ト に つ い て 、小 学 6 年 生 を 対 象 に
した調査結果である。人間関係別に、もらった贈り物に占める品物の割合を示
している。
表 3-2
人間関係別
贈り物に占める品物の割合
人間関係
品 物 の 割 合 (%)
総 数 (人 )
友人
100.0
103
親
88.0
117
祖父母
53.1
32
出 所 : 子 ど も 調 査 研 究 所 (1987, pp. 418-423)
人間関係によって品物の割合を比較すると、差が大きいことがわかる。友人
11
は 100.0%、 親 は 88.0%と 高 い の に 対 し て 、 祖 父 母 は 53.1%と 低 く な っ て い る 。
友人や親は品物で贈る人の割合が高く、祖父母は品物で贈る人の割合が低いこ
とがわかる。つまり、友人や親は相手を理解している人の割合が高く、祖父母
は相手を理解している人の割合が低い。
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第 4章 お 年 玉 の 経 済 学
1.
お年玉と人間関係
本章ではお年玉を分析する。贈り物は品物で贈ることが多い。相手を理解し
ていることをシグナルしたいからである。しかし、例外的に、お年玉は現金で
贈る。お年玉を現金で贈る原因を探るため、どのような人がお年玉を贈ってい
る の か を 調 べ る 。 表 4-1 は 、 2006 年 に も ら っ た お 年 玉 に つ い て 、 小 学 5・ 6 年
生を対象にした調査結果である。人間関係別に、お年玉をもらった割合を示し
ている。
表 4-1
人間関係別
お 年 玉 を も ら っ た 割 合 (回 答 者 数 9146)
人間関係
も ら っ た 割 合 (%)
祖父母
96.2
親戚
81.1
親
66.1
その他
42.0
もらわない
0.7
出 所 : 金 融 広 報 中 央 委 員 会 (2006)
も ら っ た 割 合 を 比 較 す る と 、 祖 父 母 96.2%、 親 戚 81.1% 、 親 66.1%、 そ の 他
42.0%と 、 祖 父 母 や 親 戚 か ら 高 い 割 合 で お 年 玉 を も ら っ て い る こ と が わ か る 。
前章で確認したように、祖父母や親戚は相手を理解している人の割合が低い。
したがって、お年玉に占める現金の割合は高くなると考えられる。
しかし、親は相手を理解している人の割合が高いので、贈り物を品物で贈る
はずである。お年玉には子供の欲しいものの特殊さが高くなり過ぎる要因があ
って、子供の欲しいものを選ぶことができないのであろうか。第 2 章で説明し
たように、子供の欲しいものの特殊さ
a が a max よ り も 高 け れ ば 、 親 も 贈 り 物 を
現金で贈る。
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2.
お年玉とクリスマス・プレゼント
(1)
なぜ親がお年玉を現金で贈るのか
親がお年玉を現金で贈るのは、クリスマス・プレゼントが原因である。親が
お年玉を現金で贈るのは、すでにクリスマス・プレゼントでシグナルしている
からである。短期間に 2 度も品物を贈るのは非効率なので、クリスマス・プレ
ゼントには品物を、お年玉には現金を贈るのである。
(2)
お年玉とクリスマス・プレゼントの歴史
この仮説は歴史的に適合している。実は、かつてはお年玉を品物で贈ってい
た 。 江 馬 (1931) に よ れ ば 、 江 戸 時 代 に は お 年 玉 と し て 凧 や 羽 子 板 や 手 鞠 な ど
を 贈 っ て い た 。三 好 (2005) に よ れ ば 、ク リ ス マ ス が 普 及 し た の は 明 治 10 年 代
から大正期にかけてである。つまり、クリスマスが普及する以前は、お年玉を
品 物 で 贈 っ て い た の で あ る 。 明 治 10 年 は 西 暦 1877 年 で あ り 、 大 正 元 年 は 西 暦
1912 年 で あ る 。
1901 年 に 出 版 さ れ た 今 村 敬 天 (1975, p. 32 ) の 「 お 正 月 」 と い う 詩 に は 、 ク
リスマス・プレゼントに凧や羽子板や手鞠をもらって喜ぶ姉弟の様子が歌われ
ている。前述したように、凧や羽子板や手鞠といえば、お年玉に贈っていたも
のである。つまり、お年玉に贈っていたものをクリスマス・プレゼントに贈っ
ていることになる。詩の性質上、一般的な事実ということはできないが、クリ
スマスが普及した時代にこのような発想があったことは確認できる。
(3)
クリスマス・プレゼントと人間関係
親がクリスマス・プレゼントを贈っていることを確かめるため、親がどれく
ら い の 割 合 で ク リ ス マ ス・プ レ ゼ ン ト を 贈 っ て い る か を 調 べ る 。表 4-2 は 、1966
年にもらったクリスマス・プレゼントについて、小学 5 年生を対象にした調査
結果である。子供との関係別に、クリスマス・プレゼントをもらった割合を示
している。
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表 4-2
人間関係別
ク リ ス マ ス ・ プ レ ゼ ン ト を も ら っ た 割 合 (回 答 者 数 321)
人間関係
も ら っ た 割 合 (%)
父
42.4
母
52.3
祖父
3.1
祖母
5.6
親戚
20.2
兄
2.2
姉
5.6
弟
1.2
妹
2.2
友人
3.4
その他
5.3
もらわない
24.9
出 所 : 子 ど も 調 査 研 究 所 (1974, p. 320)
父 42.4%に 母 52.3%と 、 親 か ら は 少 な く 見 積 も っ て 52.3%、 多 く 見 積 も っ て
75.1%の 割 合 で ク リ ス マ ス ・ プ レ ゼ ン ト を も ら っ て い る こ と が わ か る 。75.1%と
い う 数 値 は 、 100%か ら 24.9% (も ら わ な い ) を 引 き 算 し た も の で あ る 。 親 が 高
い割合でクリスマス・プレゼントを贈っていることが確認できる。
(4)
お年玉とクリスマス・プレゼント
クリスマス・プレゼントでシグナルしていることを確かめるため、欲しいも
のについて、クリスマス・プレゼントとお年玉とを比較する。クリスマス・プ
レゼントで子供の欲しいものを贈っていれば、お年玉には子供の欲しいものが
な く な っ て い る は ず で あ る 。 表 4-3 の 上 は 、 ク リ ス マ ス ・ プ レ ゼ ン ト に 欲 し い
も の に つ い て 、 小 学 6 年 生 を 対 象 に 1977 年 11 月 に 実 施 し た 調 査 結 果 で あ る 。
クリスマス・プレゼントに欲しいものにおける、なし・無回答の割合を示して
い る 。 表 4-3 の 下 は 、 お 年 玉 を も ら っ た ら 買 お う と 思 っ て い た も の に つ い て 、
小 学 6 年 生 を 対 象 に 1981 年 5 月 に 実 施 し た 調 査 結 果 で あ る 。お 年 玉 を も ら っ た
15
ら買おうと思っていたものにおける、なし・無回答の割合を示している。
表 4-3
クリスマス・プレゼントおよびお年玉に欲しいもの
な し ・ 無 回 答 (%)
回 答 者 (人 )
クリスマス
12.0
200
お年玉
54.7
404
出 所:子 ど も 調 査 研 究 所 (1987, pp. 416-417) , 福 武 書 店 教 育 研 究 所 (1981, p. 19)
ク リ ス マ ス 12.0%に 対 し て 、 お 年 玉 に は 54.7%の 子 供 が 特 に 欲 し い も の が な
い状態である。このデータから、子供はクリスマス・プレゼントで欲しいもの
を も ら っ た の で お 年 玉 に は 欲 し い も の が な く な っ て い る こ と が わ か る 。つ ま り 、
クリスマス・プレゼントでシグナルしていることが確認できる。
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第 5章 お わ り に
本論文では、お年玉とクリスマス・プレゼントの分析に扱ったデータは、小
学 5・6 年 生 を 対 象 に し た も の だ け に 絞 っ た 。自 分 で 買 い 物 が で き な い 幼 児 に も 、
お年玉を現金で贈っているかどうかなど、年齢の幅を広げた研究は今後の課題
である。
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参考文献
伊 藤 隆 敏 (2003) 「 日 本 の 高 等 教 育 改 革 」
『 教 育 改 革 の 経 済 学 』日 本 経 済 新 聞 社 ,
pp. 67-122
今 村 敬 天 (1975) 「 短 笛 長 鞭 (抄 ) 」
『 明 治 文 学 全 集 61
明 治 詩 人 集 (2) 』筑 摩
書 房 , pp. 24-46
江 馬 務 (1931) 「 正 月 祝 儀 風 俗 の 変 遷 」『 風 俗 研 究 』 風 俗 研 究 所 , 第 128 号 , pp.
3-10
金 融 広 報 中 央 委 員 会 (2006) 「 子 ど も の く ら し と お 金 に 関 す る 調 査 」 (平 成 17
年 度 ) (http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/kodomo2005/index.html)
子 ど も 調 査 研 究 所 (1974) 『 子 ど も 調 査 資 料 集 成
第Ⅰ集』子ども調査研究所
子 ど も 調 査 研 究 所 (1987) 『 子 ど も 調 査 資 料 集 成
第Ⅱ集』子ども調査研究所
福 武 書 店 教 育 研 究 所 (1981) 『 モ ノ グ ラ フ ・ 小 学 生 ナ ウ 』 福 武 書 店 , vol. 1-6
三 好 洋 子 (2005) 「 ク リ ス マ ス 」
『 世 界 大 百 科 事 典 』平 凡 社 , 第 8 巻 , pp. 250-252
Jeroen van de Ven (2000) “The Economics of the Gift,” Discussion Paper 68, Tilburg
University, Center for Economic Research
Joel Waldfogel (2002) “Gifts, Cash, and Stigma,” Economic Inquiry, vol. 40 (3), pp.
415-427.
Steven E. Landsburg (1993) The Armchair Economist, The Free Press
18