No. 056 大西卓哉宇宙飛行士インタビュー

長期滞在クルーのケル・リングリン(左)
、オレッグ・コノネンコ(中央)宇宙飛行士とともに冬季サバイバル訓練開始
Interview
「人類にとって宇宙開発は必要だということを
長期滞在を通じて子供たちに伝えたい」
大西卓哉宇宙飛行士
若田宇宙飛行士が帰還し、NASA ヒューストンでの会見を行ってから2日後――。
2015 年の油井宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在に続き、2016 年に自身の搭乗を控える
大西宇宙飛行士が日本に一時帰国し、
「宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会」
を傍聴しました。
日本をとりまく宇宙環境への感想や、先輩宇宙飛行士の活躍、自身の訓練状況、そして長期滞在に向けた意
気込みなど、インタビューを通じて大西宇宙飛行士の等身大の姿に迫りました。
1
̶̶ISS・国際宇宙探査小委員会に臨まれたとのことですが?
大西 NASA は今年1月に ISS の 2024 年までの継続的な運用を表明しました。つまり科学実験など ISS で行
われた数々の成果は、将来の宇宙探査を見据えて利用価値があると判断されたのです。これを受けて、日本で
も将来探査の活動指針の整理・準備などが行われつつあり、小委員会はその一環で開かれました。会では若田
宇宙飛行士のビデオメッセージが披露されたほか、
「きぼう」利用の在り方や「宇宙探査の取り組み」に関す
る今後の方針について議論が行われました。私も日本の探査計画に対する今後の推進要望を述べました。
̶̶未知のことを知るという探査活動は人類の発展につながり、その前提には国際協力・競争が欠かせないと
思います。この活動と関連し、宇宙飛行士としてどういった寄与ができるとお考えですか?
大西 チームで行動するのが宇宙飛行士だと思っています。また、ミッションを安全・確実に遂行するためには、
コマンダーがチームメイトを統率し、チーム内の役割分担をしっかり行うことが大切です。私は、立場に応じ
た柔軟性で将来の探査計画に携わりたいと思います。まずは 2016 年の初飛行でしっかりミッションを遂行し、
そこで得た知識や経験をその先の探査活動に生かしたいと思っています。
̶̶なるほど。
5 月 14 日に ISS から帰還した若田宇宙飛行士は、
2 度の船外活動でロボットアームの操作を担
当しました。
大西宇宙飛行士もロボットアームのスペシャリスト訓練を経験されたと
『JAXA’
s 52 号』
でおっ
しゃっていますが、
若田宇宙飛行士をはじめとした日本人宇宙飛行士の、
今までの活躍ぶりをどうご覧になって
いますか?
大西 日本人宇宙飛行士の諸先輩の皆さんは NASA でも人望があります。そのような偉大な先輩の実績にプ
レッシャーを感じつつも、少しでも近づけるように自分を鼓舞しています。
特に若田宇宙飛行士の場合は、私が日本人だと分かるや否や、
「コウイチを知ってるか? 彼は凄い!」を皮切
りに会話が始まるぐらい、NASA で大変人望があります。そういった、日本人宇宙飛行士が築いてきた財産を
しっかり引き継いで、次世代へ伝えていきたいと思います。
̶̶日本のプレゼンスにつながる非常に大事なことですね。
「きぼう」を使った小型衛星の放出活動は海外か
らも非常に高いニーズを寄せられていると伺っていますが、その点についてはどうお考えでしょうか?
大西 小型衛星放出は、まさに「きぼう」のロボットアームの特性を生かした利用形態です。世界がその必要性、
重要性を理解してくれた結果だと思います。今後、
「きぼう」も含めてわが国のプレゼンスをさらに高める機
会だと思っています。
2
̶̶話題は変わりますが、2013 年 11 月に ISS の第 48/49 次長期滞在搭乗員に選ばれました。新たに加わった
訓練内容などあれば教えてください。
大西 今年に入ってソユーズの乗組員としての訓練が始まりました。今回の日本滞在後すぐに、6週間のロシ
アでの訓練が控えています。内容はソユーズのシステム訓練になります。米国の訓練とロシアの訓練はコンセ
プトが大きく違っていて興味深いです。電子レンジを例に用いると、米国式の訓練は「ここに電子レンジがあ
ります。使い方を説明します。このボタンが電源です。このつまみで時間をセットして、スタートボタンを押
せば温められます。もし上手く作動しなければ、地上に問い合わせてください」といった、実際に運用する上
で必要な事項だけをレクチャーされます。
それに比べてロシア式では、
「ここに電子レンジがあります。まずは電子レンジの原理から理解しましょう。
さあ、その次は電子レンジの構造を覗いてみましょう」から始まるので、勉強自体はとても大変ですが、シス
テムについてより深く知る面白味も同時に感じます。
ソユーズは地上と交信できる時間が限られているので、不具合が発生した際には宇宙飛行士が自分たちだけで
初動対応を取らなければならず、そういったバックグラウンドの違いも関係しているのかもしれません。
それだけに、ロシア語という語学の難解さも含めて勉強量は膨大で、ロシアにいる間は毎晩深夜 1 時、2 時ま
で勉強しています。
̶̶大変ですね。でも、宇宙に行けるというモチベーションがあればその過程を楽しめるのではないでしょう
か?そういえば、大西宇宙飛行士や同期の油井宇宙飛行士、金井宇宙飛行士が連載していた「新米飛行士のブ
ログ」を毎回楽しく読ませていただきました。
(http://iss.jaxa.jp/astro/report/column/)
特に大西宇宙飛行士が書かれていた「ある宇宙飛行士はお米が炊けなかった」というくだりなどはその方も想
像できて、大笑いしてしまいました。
あのブログは、訪れた国の文化やそれに伴う感想などが 3 人 3 様で面白く書かれているので、惜しまれながら
の最終回だったと思います。ブログを書くことで得られたもの、気づきなどあれば教えてください。
大西 あのブログは、私たち宇宙飛行士の世界を一般の方々に分かりやすくお伝えしたいという目標を掲げて
スタートしました。ある程度時間を割いて書いてきましたが、一体どれくらいの方が読んでくださっているの
かがはっきりせず、もっと工夫していろんな人に読んでいただかないといけないと思い、2年という節目で掲
載をいったん終了しました。読者の方から寄せられたご意見を見る限り、私たち自身の口で語る宇宙飛行士の
世界について、興味深く読んでいただけているようですので、何らかの形で情報発信は継続していきたいです。
少しでも多くの方に読んでいただけるよう、SNS の活用を考えています。
̶̶そうですか。ブログの再開、あるいは違った形での情報発信を楽しみにしています。
それでは最後に。
3
ISS 搭乗が決まった時に、
「子供たちに宇宙を身近に感じてもらえるよう、さまざまな形で伝えていきたい」と
抱負を語られましたが、現在の目標、チャレンジしたいミッションなどをご紹介ください。
大西 日本の有人宇宙活動に対する理解は人に
よって大きく異なっています。応援してくださ
る方もいらっしゃいますが、多くの予算を使っ
ていることに対する否定的な意見もあります。
もし将来有人火星探査を行っていくのであれば、
そのころの日本を背負って立つ子供たちからの
支持が欠かせません。私たち宇宙飛行士がどん
な仕事をしていて、軌道上でどんな生活をして
いるかを子供たちに伝えていければと思ってい
ます。
そうして科学に興味を持った子供たちが大人になったとき、宇宙開発は人類にとって必要なものなのだと思っ
てもらえるよう、長期的な視点を持ち 2016 年のミッションに向けて準備していきたいと思います。
(聞き手:JAXA’
s 編集部)
★夏ごろ「ファン!ファン! JAXA」でそのほかのエピソードも交えた『特集』を公開予定です。お楽しみに!
http://fanfun.jaxa.jp/feature/interview/
4